説明

セメント硬化体の製造方法

【課題】機械的強度に優れるセメント硬化体の製造方法を提供する。
【解決手段】セメント硬化体の製造方法は、セメントと砂利等の粗骨材や砂等の細骨材とカルシウムイオン水とを混練して硬化させる方法である。セメント1,000重量部に対して1.71〜7.14重量部のカルシウムがイオン化したカルシウムイオン水を配合する。セメントとカルシウムイオン水とを上記の配合比で製造することにより、曲げ強度・圧縮強度に優れるセメント硬化体を得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木、建築業界等を中心に種々の産業において、モルタルやコンクリート等のセメント硬化体が広く用いられている。セメント硬化体はセメントの性質を有する無機粉末と骨材とに溶解水を添加して混練し、所定の型枠に流し込み、硬化させることで得られる。セメント硬化体は建築物等に用いられるものゆえ、曲げ強度や圧縮強度等、機械的強度が高いことが望まれる。
【0003】
特許文献1には、溶解水としてカルシウムイオン水を用いたセメント硬化体の製造方法が開示されている。硬化の過程でカルシウムイオンがセメントを構成する粒子と結合してカルシウム化合物が生成し、セメント硬化体内の空隙が縮小することで、機械的強度の高いセメント硬化体が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−222458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示のセメント硬化体は、溶解水として通常用いられる水で製造される場合に比べ、機械的強度が上がるものの、未だ改良の余地があった。
【0006】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、機械的強度に優れるセメント硬化体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセメント硬化体の製造方法は、
セメントと骨材と溶解水とを混練して硬化させるセメント硬化体の製造方法において、
前記セメント1,000重量部に対し、前記溶解水として1.71〜7.14重量部のカルシウムがイオン化したカルシウムイオン水を配合する、
ことを特徴とする。
【0008】
また、前記セメント1,000重量部に対し、前記溶解水として2.86〜3.43重量部のカルシウムがイオン化したカルシウムイオン水を配合することが好ましい。
【0009】
また、貝殻を酸性水溶液に溶解して得られた前記カルシウムイオン水を用いてもよい。
【0010】
また、貝殻を焼成して酸性水溶液に溶解して得られた前記カルシウムイオン水を用いてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るセメント硬化体の製造方法では、セメント1,000重量部に対しカルシウム1.71〜7.14重量部のカルシウムイオン水を配合してセメント硬化体を得る。上記の配合比で得られたセメント硬化体は、優れた機械的強度を有する。更に、セメント1,000重量部に対しカルシウム2.86〜3.43重量部のカルシウムイオン水を配合することで、長期間経過しても靭性や圧縮強度等の機械的強度が安定し、且つ、その特性を維持可能なセメント硬化体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例における試験体のCa/Wと強度比率との関係を示すグラフである。
【図2】実施例における試験体の経過日数と中性化面積率との関係を示すグラフである。
【図3】実施例における材齢28日の試験体の付着強度比率を示すグラフである。
【図4】実施例における材齢3ヶ月の試験体の付着強度比率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、セメント硬化体の製造方法について詳細に説明する。セメント硬化体の製造方法は、セメントと骨材と溶解水とを混練し、硬化させることにより、モルタルやコンクリート等のセメント硬化体を得る方法である。
【0014】
セメントとは水や薬剤と混練した際に、水和或いは重合により硬化する性質を示す無機粉末を意味し、一例としてポルトランドセメントや混合セメント等の水硬性材料が挙げられる。
【0015】
骨材として、砂等の細骨材、砕石や砂利等の粗骨材が挙げられる。例えば、細骨材を用いた場合、セメント硬化体として所謂モルタルが得られる。また、細骨材及び粗骨材を用いた場合、セメント硬化体として所謂コンクリートが得られる。
【0016】
溶解水として所定量のカルシウムイオンを含有するカルシウムイオン水を用いる。カルシウムイオン水中において、カルシウムイオンは解離した状態にある。
【0017】
溶解水とセメントとの配合比である水セメント比は40〜60%とすることが好ましい。水セメント比40%では、粘性が高いため、壁に塗る材料として適しており、主としてモルタルに適用される。水セメント比50〜60%では、流動性が高いため、セメントの流し込み(打ち込み)に適しており、主としてコンクリート打ち込みに適用される。この水セメント比40〜60%の範囲が一般的に広く使われる範囲である。水セメント比は、セメント1,000gに添加する溶解水の重量比である。溶解水としてカルシウムイオン水を用いるので、セメント1,000gに対してカルシウムイオン水を400g〜600g添加する。
【0018】
セメントとカルシウムイオン水との配合割合について、セメント1,000重量部に対して、カルシウムが1.71〜7.14重量部イオン化したカルシウムイオン水を添加するとよい。上記のセメントとカルシウムイオン水との配合割合で製造されるセメント硬化体は、カルシウムイオンを含有しない溶解水を用いて製造したセメント硬化体に比べて圧縮強度・曲げ強度が高いという特性を備える。
【0019】
更に、セメントとカルシウムイオン水との配合割合が、セメント1,000重量部に対してカルシウムが2.86〜3.43重量部イオン化したカルシウムイオン水を添加することがより好ましい。上記のセメントとカルシウムイオン水との配合割合で製造されるセメント硬化体は、カルシウムイオンを含有しない溶解水を用いて製造したセメント硬化体に比べて、強度比率が4以上となる。強度比率が4以上であると、セメント硬化体は長期間経過しても靭性や圧縮強度等の機械的強度が安定し、且つ、その特性を維持し得る。他方、強度比率が3より小さいと、経時的に不安定であり、長期間経過すると機械的強度が低下するおそれがある。
【0020】
なお、ここでいう強度比率とは、カルシウムイオンを含有しない溶解水を用いて製造したセメント硬化体の曲げ強度と圧縮とを乗算した値を1とした場合において、カルシウムイオン水を用いて製造したセメント硬化体の曲げ強度と圧縮とを乗算した値の相対値である。
【0021】
溶解水としてカルシウムイオン水を用いると、硬化の過程でカルシウムイオンはセメント粒子を構成するイオンと結合し、カルシウム化合物が生成する。カルシウム化合物として、主にセメント粒子のシリカ成分とカルシウムイオンが結合し、カルシウムシリケート化合物が生成しているものと考えられる。カルシウムイオンとセメント粒子を構成するイオン間の結合力により、セメント硬化体が優れた靭性を有することになり、曲げ応力に対しても強度が高いとともに、曲げひずみ度が高く、引っ張り応力に対しても破断しにくくなり、ひび割れが生じにくくなると考えられる。
【0022】
更には、セメント硬化体の製造過程において、混練時や硬化時のブリージングで空隙が生じるが、この空隙内にカルシウムイオン水が入り込み、上述のように、空隙表面のセメント粒子を構成するイオン間をカルシウムイオンの結合手が架橋して結合し、カルシウム化合物を形成する。空隙内にカルシウム化合物が介在することとなり、セメント硬化体の空隙率が小さくなる。外部応力によってひび割れの基点となりやすい空隙が、小さくなること、また、減少することで、セメント硬化体は、更に、曲げ強度及び曲げひずみ度が高くなると考えられる。
【0023】
また、セメント硬化体の製造過程において、カルシウムイオンは二酸化炭素等の炭酸ガスと反応し、炭酸カルシウム(CaCO)となり、セメントの中性化が進む。中性化はセメント硬化体の外表面から内部に向けて進行するので、外側が硬度の高い炭酸カルシウムで覆われた形態のセメント硬化体が得られる。このセメント硬化体は、外側に硬度の高い炭酸カルシウムが位置するので、圧縮荷重が加わった場合でも外側から炭酸カルシウムが支えることになり、破壊されにくいという特性を備える。
【0024】
上記のカルシウムイオン水は所定量のカルシウムイオンを含有する水溶液であれば特に制限されることはない。例えば、カルシウムを含有する貝殻や鉱物等を溶解させて得られた水溶液を用いてもよい。
【0025】
牡蠣殻等の貝殻にはカルシウムが多量に含まれており、これらの貝殻から調製されたカルシウムイオン水を用いてもよい。牡蠣殻等の貝殻は産業廃棄物として処理に苦慮しているものであるところ、廃棄物の削減にも繋がり有効活用できる。
【0026】
例えば、貝殻を酸性水溶液に溶解することでカルシウムイオン水を調製することができる。酸性水溶液として、酢酸水溶液、クエン酸水溶液、ギ酸水溶液、酒石酸水溶液等、種々の水溶液を用いることができる。なかでも酢酸水溶液を用いると、貝殻の溶解が促進され、高濃度のカルシウムイオン水を得ることができる。なお、塩酸水溶液や硫酸水溶液等を用いてカルシウムイオン水を調製した場合、これを用いて鉄筋コンクリートを製造すると、内部の鉄筋を腐食させてしまうため、好ましくない。
【0027】
また、貝類を焼成して得られる粉末を用いてカルシウムイオン水を調製してもよい。貝殻を1,000〜1,200℃で焼成し、得られた貝殻粉末を酸性水溶液に溶解し、沈殿物を分離させて上澄み液を濾過することで、不純物が除去されたカルシウムイオン水を得ることができる。貝殻に含まれる重金属等の不純物が取り除かれるので、セメント硬化体を製造した場合にセメント硬化体の分解反応に伴う重金属の流出がなく好適である。
【実施例】
【0028】
種々のカルシウムイオン濃度のカルシウムイオン水を用いてセメント硬化体を製造し、機械的強度の検証を行った。
【0029】
(カルシウムイオン水の調製)
貝殻として牡蠣殻を用意して粉砕し、牡蠣殻粉末を得た。この牡蠣殻粉末を1,200℃で焼成し、焼成牡蠣殻粉末を得た。なお、この焼成牡蠣殻粉末の主成分は酸化カルシウム(CaO)である。焼成牡蠣殻粉末を用いたのは以下の理由による。牡蠣殻には不純物が含まれているので、牡蠣殻をそのまま定量して溶解水を調製しても、溶解水中のカルシウムの含有量は一定ではなく、溶解水中のカルシウムイオン含有量を定量することができないためである。またカルシウムは石灰岩から得ることもできる。
【0030】
濃度99.9重量mol%の酢酸に純水を加え、酢酸水溶液を調製した。なお、酢酸と純水との割合は体積比で1:9である。
【0031】
牡蠣殻粉末20gを酢酸水溶液1Lに溶解させた。なお、牡蠣殻粉末の溶解状態を確認しながら、炭酸水素ナトリウムを適量(2g程度)添加しながら行った。牡蠣殻粉末を溶解させた後、重金属等不純物が沈降するまで静置した。不純物を沈降させた後、沈降した不純物を除去し、残った上澄み液を濾過してカルシウムイオン水を得た。
【0032】
(試験体の製造)
セメントと砂と溶解水とを混練して種々の型枠に流し込み、硬化させて種々の形状の試験体を製造した。
【0033】
セメントとして普通ポルとランドセメントを用いた。砂とセメントの配合比は重量比で2:1とした。
【0034】
溶解水として、上記のように調整したカルシウムイオン水及び純水を用い、カルシウムイオン濃度を種々の濃度に調整して用いた。
【0035】
試験体の製造においては、水セメント比(セメントに対する溶解水の重量比)を50%、60%としてそれぞれ行うとともに、それぞれの水セメント比についてカルシウムイオン水比(溶解水に対するカルシウムイオン水の体積比)を0%〜100%に変えて種々の試験体を製造した。
【0036】
ここで、水セメント比(以下、W/Cと記す)は、セメントに対する溶解水の重量比((溶解水の重量/セメントの重量)×100[%])である。また、カルシウムイオン水比(以下、Ca/Wと記す)は、添加した溶解水中のカルシウムイオン水の割合((カルシウムイオン水の体積/(カルシウムイオン水の体積+純水の体積))×100[%])である。
【0037】
曲げ試験においては、試験体として40×40×160mmの角柱体を製造して用いた。また、圧縮試験においては、試験体としてφ50×100mmの円柱体を製造して用いた。
【0038】
上記のように、各試験に応じて製造した試験体のW/C、Ca/W、個数等を表1に示す。
【表1】


【0039】
(曲げ試験)
万能試験機に設定された載荷板上の中央に試験体を設置し、試験体の上面から徐々に曲げ荷重をかけた。試験体下面にはデジタルひずみ計と接続した測定用ゲージを貼り、試験体が破壊するまで荷重を100Nステップで増加させてゆき、曲げ歪み量を測定した。そして、曲げ荷重を試験体の断面積で割ることにより、各試験体の曲げ強度を求めた。
【0040】
(圧縮試験)
試験体を圧縮試験用器具に載せ、万能試験機に設定された載荷板上の中央に設置し、試験体が圧縮破壊されるまで徐々に荷重をかけた。圧縮強度(N/mm)は、最大圧縮荷重(N)を試験体の断面積(mm)で割ることにより求めた。
【0041】
(強度比率)
強度比率は、上記のように測定した曲げ強度の平均値と圧縮強度の平均値を乗算し、Ca/Wが0%である試験体の値を1として、各試験体の相対値を算出することで求めた。
【0042】
その結果を図1に示す。横軸がCa/W、縦軸が強度比率である。また、それぞれの試験体の製造の際に用いた溶解水について、セメント1,000gに対して添加した溶解水中のCaO含有量並びにカルシウム含有量を算出し、表2に示している。
【表2】


【0043】
なお、表2におけるCaO[g]は式1により算出した。また、Ca[g]は式2により算出した。
【数1】



【数2】


【0044】
W/Cが50%で製造した試験体においては、Ca/Wが10%〜100%の場合に強度比率が1より大きくなっており、カルシウムイオンを含有していない溶解水を用いて製造した試験体よりも機械的強度が高くなることがわかる。この場合のセメント1,000gに対して添加したカルシウムイオン水中のカルシウム含有量は0.71g〜7.14gである。そして、Ca/Wが40%及び50%の場合に強度比率が4を超えており、この場合のセメント1,000gに対して添加した溶解水中のカルシウム含有量はそれぞれ2.86g、3.57gである。
【0045】
W/Cが60%で製造した試験体においては、Ca/Wが20%〜100%の場合に強度比率が1より大きくなっており、カルシウムイオンを含有していない溶解水を用いて製造した試験体よりも機械的強度が高くなることがわかる。この場合のセメント1,000gに対して添加した溶解水中のカルシウム含有量は1.71g〜8.57gである。そして、Ca/Wが20%、30%、40%の場合に強度比率が4を超えており、この場合のセメント1,000gに対して添加した溶解水中のカルシウム含有量はそれぞれ1.71g、2.57g、3.43gである。
【0046】
上記の結果から、W/Cによらず、セメント1,000gに対して添加する溶解水中のカルシウム含有量が凡そ1.71g〜7.14gであれば、相対比率が1を超え、機械的強度の優れたセメント硬化体を得られることがわかった。
【0047】
更に、W/Cによらず、セメント1,000gに対して添加する溶解水中のカルシウム含有量が凡そ2.86g〜3.43gであれば、相対比率が4を超え、長期間経過しても安定した靭性や圧縮強度等の機械的強度を有し、且つ、その特性も維持可能なセメント硬化体を得られることがわかった。
【0048】
(中性化試験)
曲げ試験を行った試験体の破断面をフェノールフタレイン1%アルコール溶液に浸し、変色していない部分を測長した。そして、中性化している面積を算出し、試験体の断面積に対する中性化面積の割合(中性化面積率)を算出した。なお、中性化面積率が大きいほど、炭酸化、即ち機械的強度の高い炭酸カルシウム(CaCO)が生成していることを意味する。
【0049】
中性化試験は、Ca/Wが0%、30%、60%、100%の試験体について行い、測定は経時的に測定した。
【0050】
その結果を図2に示す。Ca/Wが高い溶解水を用いるにつれ、中性化面積率が大きくなる傾向にある。また、中性化はセメント硬化体の外表面から内部に向けて進行していた。したがって、溶解水としてカルシウムイオン水を用いてセメント硬化体を製造すれば、セメント硬化体の外表面から内部に向けて、炭酸カルシウムが生成していくことがわかる。なお、図2の結果から、中性化はCa/Wの値に応じてある一定の範囲まで進むと停滞することがわかる。
【0051】
上記の曲げ試験、圧縮試験、及び、中性化試験の結果から、以下のことが考察される。中性化試験ではCa/Wが高いほど、硬度の高い炭酸カルシウムがより生成されているが、図1及び表1に示した強度比率においては、Ca/Wが100%では、さほど高い値にはなっていない。セメント硬化体の外側から内側に向けて炭酸カルシウムが多く生成すると、それだけ、カルシウムシリケート等のカルシウム化合物は少なくなる。このカルシウム化合物の減少によって、靭性が損なわれてゆき、その結果、相対的に強度比率が低くなるものと考えられる。したがって、カルシウムシリケート等のカルシウム化合物の生成と、セメント硬化体外側における炭酸カルシウムの生成とのバランスが適度に取れていることが、セメント硬化体の機械的強度をより向上させるものと考えられる。
【0052】
製造時に用いるカルシウムイオン水中のカルシウム含有量が上述した範囲であれば、カルシウムシリケート等のカルシウム化合物が十分に生成されて曲げ強度に優れるとともに、外側にも適度に硬度の高い炭酸カルシウムが生成するので、より機械的強度が向上したセメント硬化体を得られるものと考えられる。
【0053】
(付着試験)
付着試験は鉄筋の引き抜き試験を行い、その際の引抜荷重を測定することにより行った。
【0054】
まず、前述の強度試験と同様にして試験体を製造した。なお、製造の際に型枠に鉄筋を設置して、鉄筋が埋め込まれた試験体を製造した。試験体は、φ100×200mmの円柱体である。
【0055】
試験体は、W/Cが60%で、Ca/Wがそれぞれ0%、30%、60%、100%の溶解水を用いて製造した。
【0056】
上記のように準備した試験体について、鉄筋の軸方向に徐々に荷重を加え、鉄筋が試験体から抜け落ちた際の最大荷重を測定した。付着強度は、最大荷重を鉄筋と試験体との付着表面積で割った値として求めた。そして、この鉄筋の引き抜き試験は、試験体の材齢28日、及び、材齢3ヶ月について行った。
【0057】
各試験体の付着強度比率は、Ca/Wが0%の試験体の付着強度を1とし、それぞれの試験体の付着強度の相対比率を算出することで求めた。
【0058】
材齢28日の付着強度比率を図3に、材齢3ヶ月の付着強度比率を図4にそれぞれ示す。
【0059】
いずれも、カルシウムイオンを含有する溶解水を用いて得られた試験体では、Ca/Wが0%の試験体に比べ、付着強度が上がっていることがわかる。
【0060】
溶解水として、純水を用いた場合(Ca/W:0%)、試験体と鉄筋との接合面に水膜が生じ、空隙が生じやすい。このため、試験体と鉄筋との密着性が損なわれ、付着強度が低下しやすい。
【0061】
一方、溶解水としてカルシウムイオン水を用いた場合、試験体と鉄筋との接合面において、セメント粒子とカルシウムイオンとの反応によりカルシウム化合物が生成し、その結果、試験体と鉄筋との接合面に生じる空隙が減少・縮小することで試験体と鉄筋との密着性が高まり、付着強度が向上したものと考えられる。このように、本実施の形態に係るセメント硬化体の製造方法では、機械的強度の向上だけでなく、付着強度をも向上したセメント硬化体を得られるので、鉄筋コンクリートに応用する場合にも有効である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
セメントとカルシウムイオン水とを上述した配合比にすることで機械的強度に優れるセメント硬化体を得られる。セメント硬化体としてモルタル、コンクリート等を使用する土木・建築分野での利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと骨材と溶解水とを混練して硬化させるセメント硬化体の製造方法において、
前記セメント1,000重量部に対し、前記溶解水として1.71〜7.14重量部のカルシウムがイオン化したカルシウムイオン水を配合する、
ことを特徴とするセメント硬化体の製造方法。
【請求項2】
前記セメント1,000重量部に対し、前記溶解水として2.86〜3.43重量部のカルシウムがイオン化したカルシウムイオン水を配合する、
ことを特徴とする請求項1に記載のセメント硬化体の製造方法。
【請求項3】
貝殻を酸性水溶液に溶解して得られた前記カルシウムイオン水を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント硬化体の製造方法。
【請求項4】
貝殻を焼成して酸性水溶液に溶解して得られた前記カルシウムイオン水を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のセメント硬化体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−12276(P2012−12276A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153227(P2010−153227)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】