説明

セメント組成物の製造方法

【課題】セメント組成物は、乾燥収縮等により表面にひび割れが発生することが多い。ひび割れを自己修復することが可能なセメント組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】セメントに練り混ぜ水を投入して練り混ぜたセメント混合物を用いてセメント組成物を製造するセメント組成物の製造方法であって、前記練り混ぜ水は、亜鉛又は亜鉛化合物が強アルカリ水溶液にて溶解されている。練り混ぜ水は、PH12以上であり、セメント混合物は骨材を加えて練り混ぜられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントと、骨材と、に練り混ぜ水を投入して練り混ぜたセメント混合物を用いてセメント組成物を製造するセメント組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントと、骨材と、に練り混ぜ水を投入して練り混ぜたセメント混合物を用いてセメント組成物を製造するセメント組成物の製造方法としては、一般的に、練り混ぜ水として、水道水などのほぼ中性の水を、セメント及び骨材に投入して練り混ぜたセメント混合物を用いることが知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のようなセメント組成物の製造方法にて製造されたセメント組成物は、乾燥収縮等により表面にひび割れが発生することが多い。このような、ひび割れが生じたコンクリート組成物は、外部の水がひび割れから内部に浸入するため、発生したひび割れは補修して埋めることが望ましい。しかしながら、ひび割れた部分の補修は、煩雑であり手間と費用を費やさなければならないという課題がある。
【0004】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ひび割れを自己修復することが可能なセメント組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するために本発明のセメント組成物の製造方法は、セメントに練り混ぜ水を投入して練り混ぜたセメント混合物を用いてセメント組成物を製造するセメント組成物の製造方法であって、前記練り混ぜ水は、亜鉛又は亜鉛化合物が強アルカリ水溶液にて溶解されていることを特徴とするセメント組成物の製造方法である。
【0006】
亜鉛は、水溶液のpHにより形態が変化する。具体的には、酸性及び中性の場合には亜鉛イオンとして、また、強アルカリ性の場合にはテトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンとして水中に溶解し、その他の場合、即ち強アルカリ性より弱いアルカリ性の場合には、水酸化亜鉛となり水中に白色の沈殿物として析出される性質を有している。一方、健全なセメント組成物は強アルカリ性であり、セメント組成物内に残存する水分も強アルカリ性である。そして、上記セメント組成物の製造方法にて練り混ぜ水として、亜鉛又は亜鉛化合物が強アルカリ水溶液にて溶解されている練り混ぜ水を用いることにより、製造されたセメント組成物内の自由水に、より多くのテトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンを含有させることが可能である。このため、セメント組成物にひび割れが発生し、ひび割れから水が浸入すると、浸入した水にひび割れ部からアルカリ成分が溶け出すことにより、ひび割れ周辺の水分のpHが、強アルカリ性から弱アルカリ性側に低下する。このとき、ひび割れの表面では、テトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンが水酸化亜鉛となり白色の粒が析出されるので、水酸化亜鉛によりひび割れを埋めることが可能である。よって、練り混ぜ水として、亜鉛又は亜鉛化合物が強アルカリ水溶液にて溶解されている練り混ぜ水を用いることにより、ひび割れを自己修復することが可能なセメント組成物を製造することが可能である。
【0007】
かかるセメント組成物の製造方法であって、前記練り混ぜ水は、pH12以上であることが望ましい。
pH12以上の場合には、亜鉛が水溶液中に溶解されるので、pH12以上の練り混ぜ水とセメントとを練り混ぜることにより、練り混ぜ水中に含まれるテトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンを分散させてセメント組成物内の自由水中に存在させることが可能である。
【0008】
かかるセメント組成物の製造方法であって、前記セメント混合物は、骨材を加えて練り混ぜられることが望ましい。
このようなセメント組成物の製造方法によれば、練り混ぜられたセメント混合物には骨材が含まれているので、より高い強度を備えたセメント組成物を製造することが可能である。
【0009】
かかるセメント組成物の製造方法であって、前記骨材は、細骨材であることが望ましい。
このようなセメント組成物の製造方法によれば、ひび割れを自己修復することが可能なモルタル組成物を製造することが可能である。
【0010】
かかるセメント組成物の製造方法であって、前記骨材は、細骨材と粗骨材とであることとしてもよい。
このようなセメント組成物の製造方法によれば、ひび割れを自己修復することが可能なコンクリート組成物を製造することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ひび割れを自己修復することが可能なセメント組成物の製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】亜鉛を用いたコンクリート壁の自己修復機能を説明するための図である。
【図2】ひび割れ修復に適した亜鉛混入量を検討するためのモデルを示す図である。
【図3】本実施形態のコンクリート壁の製造方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
本実施形態では、本発明のセメント組成物の製造方法として、セメント組成物としてのコンクリート壁を施工する例について説明する。
【0014】
本発明のセメント組成物の製造方法にて製造されるコンクリート壁は、鉄筋が適宜配設された型枠内に打設されたコンクリートに含有される自由水がテトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオン([Zn(OH)42−)を含んでいる。
【0015】
ところで、水溶液中の亜鉛は、水溶液のpHの違いによって様態が変化する。例えば、亜鉛イオン(Zn2+)を含む水溶液にアルカリ性物質を加えると、水にほとんど溶解しない水酸化亜鉛(Zn(OH))の白色の沈殿物が生成される。この沈殿物は、酸を加えると亜鉛イオン(Zn2+)を生じて溶け、強アルカリを加えると水溶性のテトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオン([Zn(OH)42−)に変化する。
【0016】
本発明の発明者は、pHの違いによる亜鉛の形態変化を実験により確認した。具体的には、水溶性の亜鉛化合物である塩化亜鉛ZnClを水に溶解させ、さらにpH調整用に水酸化ナトリウムを加えることで、溶液のpHを7〜13にそれぞれ調整した0.01mol/Lの塩化亜鉛水溶液500mL(亜鉛濃度:1360mg/L)を作製し亜鉛の形態変化を確認した。
【0017】
その結果、亜鉛は、水溶液がpH7以下の酸性・中性の場合には亜鉛イオンとして水に溶解し、pH8〜11程度のアルカリ性の場合には水酸化亜鉛となって白色の沈殿物となり、pH13以上の強アルカリ性の場合には、テトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンとなって水に溶解する性質が確認された。また、pH12の場合には、pH8〜11の場合より少ない量の白色の沈殿物が確認された。
【0018】
pHの違いによる亜鉛の形態変化の概要はつぎのように示される。

【0019】
上記亜鉛の性質に基づいて、本発明の発明者は、コンクリート中のカルシウム水和物が周囲の水に溶解する溶脱や二酸化炭素等により中性化が生じ変質を生じたコンクリートのひび割れ部に存在する水のpHは、強アルカリ性を示す健全なコンクリートに接した水のpHに比べ低下していることが想定されることから、ひび割れ部に存在する亜鉛の状態は、水酸化亜鉛Zn(OH)の白色の沈殿物が生成される状態である考えた。そして、この水酸化亜鉛Zn(OH)の析出を利用し、ひび割れたコンクリートを自己修復させることを考えた。
【0020】
ここで、ひび割れたコンクリートの自己修復機能を、本セメント組成物の製造方法にて製造されたコンクリート壁10が地中壁として使用される場合を例に上げて具体的に説明する。
【0021】
図1は、亜鉛を用いたコンクリート壁の自己修復機能を説明するための図である。
図1に示すように、コンクリート壁10は、掘削された地盤20の土を遮るように設けられているため、コンクリート壁10の外面は地盤20の土と接触している。コンクリート壁10は、亜鉛化合物としての酸化亜鉛を混和剤として配合されたコンクリートにて形成されており、健全なコンクリートの空隙内にはpH12〜13の自由水10aが存在する。すなわち、健全なコンクリート中の自由水は強アルカリ性であるため、亜鉛はテトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンとして自由水10a内に存在する。
【0022】
コンクリート壁10にひび割れ11が発生すると、地盤20に含まれている水分がひび割れ11に浸入する。このとき、ひび割れ11内に浸入した水15にアルカリ成分が溶け出すことにより自由水10aのpHが低下する。そして、自由水10a中に存在していた亜鉛、即ちテトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンがひび割れ11の表面に晒され、pHの低下により亜鉛の形態が変化する。即ち、テトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンから水酸化亜鉛12となって白色の沈殿物が析出される。析出される水酸化亜鉛12はひび割れ11の表面に付着しているので、ひび割れ11の表面が水酸化亜鉛12により覆われて止水効果を発揮する。
【0023】
上記のようにひび割れを自己修復するためのコンクリートの配合を検討する。図2は、ひび割れ修復に適した亜鉛混入量を検討するためのモデルを示す図である。ここでは、図2に示すような、一辺が20mmの立方体のコンクリートブロック30に幅0.2mmのひび割れ32が発生し、このひび割れ32を修復するために、コンクリートブロック30中に存在する亜鉛のうち、ひび割れ32から10mm以内に存在する亜鉛が動くと仮定して検討する。
【0024】
図2に示すように、20mmの立方体分において、ひび割れ32を埋めるために必要な水酸化亜鉛Zn(OH)の体積は、(式1)にて求められる。
0.2mm×20mm×20mm=80mm (式1)
また、水酸化亜鉛の密度は3.053g/cmであるため、水酸化亜鉛80mmは0.244gとなる。
一方、一辺が20mmの立方体のコンクリートブロック30の体積は、(式2)にて求められる。
20mm×20mm×20mm=8000mm (式2)
このため、幅0.2mmのひび割れを埋めるために必要な、コンクリート1mあたりの水酸化亜鉛の質量は、(式3)にて求められる。
(0.244×10-3)kg×10mm/8000mm=30.5kg(307mol) (式3)
【0025】
すなわち、亜鉛Zn換算で20.1kg、酸化亜鉛ZnO換算で24.5kgとなる。ここで、コンクリートの調合を一般的なコンクリートに基づき表1のように仮定すると、コンクリート1m中のセメント重量は295kgであり、セメント重量に対する亜鉛類の必要混合量は、以下の通りとなる。
亜鉛 20.1kg/295kg=0.068(6.8%)
酸化亜鉛 24.5kg/295kg=0.083(8.3%)
水酸化亜鉛 30.5kg/ 295kg=0.103(10.3%)

【0026】
上記のセメント重量に対する亜鉛類の必要混合量は、最低限必要な量であると考えられ、実際に混合する場合には、ロス分を見込んで、算出された値の2倍程度混合することが好ましい。
【0027】
以上の考えに基づく本実施形態のコンクリート壁10に使用するコンクリートは、セメントと、細骨材及び粗骨材などの骨材と練り混ぜる練り混ぜ水として強アルカリ性の水溶液に亜鉛化合物を溶解させた、例えば水酸化カルシウム水溶液を用いている。
【0028】
このコンクリートは、1m中のセメント重量が295kgに対する亜鉛類の必要混合量は、亜鉛の場合には6〜12重量%である。このとき、亜鉛化合物として酸化亜鉛を用いる場合には、セメント重量に対する酸化亜鉛の必要混合量は、8〜16重量%とし、水酸化亜鉛を用いる場合には、セメント重量に対する水酸化亜鉛の必要混合量は、10〜20重量%とすることが望ましい。
【0029】
図3は、本実施形態のコンクリート壁の製造方法を説明するための図である。
本実施形態のコンクリート壁を製造する場合には、図3に示すように、まず、pH12以上の強アルカリ性の水溶液に例えば水酸化カルシウム水溶液に酸化亜鉛を溶解させて、水溶液中に亜鉛がテトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンとして存在する練り混ぜ水を生成する(S1)。
次に、セメント、細骨材、粗骨材に練り混ぜ水を加えて練り混ぜて生コンクリートを生成する(S2)。
生成された生コンクリートを、コンクリート壁を形成するための型枠内に打設する(S3)。そして、生コンクリートが硬化した後に型を外して、コンクリート壁が生成される(S4)。このとき、生成されたコンクリート壁10の内の空隙に存在する自由水10aは強アルカリ性であり、亜鉛がテトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンの状態で存在している。
【0030】
本実施形態のセメント組成物の製造方法によれば、練り混ぜ水として、酸化亜鉛が強アルカリ水溶液にて溶解されている練り混ぜ水を用いるので、製造されたコンクリート壁10内に、より多くの亜鉛をテトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンとして含有させることが可能である。このため、コンクリート壁10にひび割れ11が発生し、ひび割れ11から水15が浸入すると、浸入した水にひび割れ11からアルカリ成分が溶け出すことにより、ひび割れ11周辺の水分のpHが、強アルカリ性から弱アルカリ性側に低下する。このとき、ひび割れ11の表面では、テトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンが水酸化亜鉛12となり白色の沈殿物が析出されるので、水酸化亜鉛12によりひび割れを埋めることが可能である。よって、練り混ぜ水として、酸化亜鉛が強アルカリ水溶液にて溶解されている練り混ぜ水を用いることにより、ひび割れ11を自己修復することが可能なコンクリート壁10を製造することが可能である。
【0031】
また、pH12以上の練り混ぜ水とセメント及び骨材とを練り混ぜることにより、練り混ぜ水中に含まれるテトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオンを分散させてコンクリート壁10内の自由水中に存在させることが可能である。
【0032】
上記実施形態では、骨材として細骨材と粗骨材とを混合した生コンクリートを生成する例について説明したが、粗骨材を用いることなくモルタルを生成しても良い。また、細骨材及び粗骨材をいずれも用いることなく、セメントペーストを生成しても良い。
【0033】
また、上記実施形態においては、コンクリート製の地中壁を例に挙げて説明したが、これに限るものではなく、その他のコンクリート構造物やモルタル壁など、セメント組成物であれば構わない。
【0034】
また、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0035】
10 コンクリート壁、10a 自由水、11 ひび割れ、
12 水酸化亜鉛、15 水、20 地盤、
30 コンクリートブロック、32 ひび割れ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントに練り混ぜ水を投入して練り混ぜたセメント混合物を用いてセメント組成物を製造するセメント組成物の製造方法であって、
前記練り混ぜ水は、亜鉛又は亜鉛化合物が強アルカリ水溶液にて溶解されていることを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のセメント組成物の製造方法であって、
前記練り混ぜ水は、pH12以上であることを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のセメント組成物の製造方法であって、
前記セメント混合物は、骨材を加えて練り混ぜられることを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のセメント組成物の製造方法であって、
前記骨材は、細骨材であることを特徴とするセメント組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載のセメント組成物の製造方法であって、
前記骨材は、細骨材と粗骨材とであることを特徴とするセメント組成物の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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