説明

セメント組成物及びその製造方法

【課題】好適な強度発現性を維持しつつ、断熱温度上昇量が小さいセメント組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】セメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを含み、セメント組成物中のCo含有量が7.1〜9.8mg/kg、Be含有量が5〜10mg/kg、SO含有量が1.9〜3質量%かつ高炉スラグ含有量が20〜60質量%であるセメント組成物である。石灰石、硅石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥、銅からみ及び焼却灰からなる群より選ばれる原料を混合し、焼成してセメントクリンカーを製造する工程(A)と、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを混合する工程(B)とを含み、Co含有量が7.1〜9.8mg/kg、Be含有量が5〜10mg/kg、SO含有量が1.9〜3質量%かつ高炉スラグ含有量が20〜60質量%であるセメント組成物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱温度上昇量を小さくすることができるセメント組成物及びその製造方法に関する。特に多種類の重金属成分を含む産業廃棄物及び/又は副産物をセメントクリンカーの原料として使用した場合であっても、断熱温度上昇量を小さくすることができるセメント組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント産業において多種の産業廃棄物及び/又は副産物が使用されている。産業廃棄物や副産物等を資源として有効利用することにより、近年、各種産業に求められている二酸化炭素(CO)排出量を低減することが可能となる。
【0003】
しかしながら、原料として利用される産業廃棄物及び/又は副産物は比較的Al成分を多く含み、セメントクリンカーの原料として使用する産業廃棄物及び/又は副産物の原料原単位の増加とともにセメントクリンカーのアルミネート相(CA)含有量が増加し、セメント組成物の水和反応性が変化する可能性がある。また、セメントクリンカーの原料として使用する産業廃棄物及び/又は副産物に含まれる重金属成分の種類や含有量によってもセメント組成物の水和反応性が変化する可能性もある。このような場合、セメント組成物の水和発熱量が増加し、モルタルやコンクリートを断熱状態(外部への熱の逸散がない状態)で養生した場合に、モルタルやコンクリート内部と外部との温度差が大きくなり、モルタルやコンクリートの温度ひび割れの誘因となる場合がある。この温度ひび割れの危険性を評価するため、土木学会の定めるコンクリート標準示方書[施工編](2002年)では、施工段階におけるひび割れ照査において、温度解析を行うことを規定している。その解析には、断熱温度上昇量が必要とされており、温度ひび割れを発生させないためには、断熱温度上昇量を小さくすることが望ましい。
【0004】
モルタルやコンクリートの断熱温度上昇量を小さくするために、特定のブレーン値(ブレーン比表面積)及び粉末度を有する高炉スラグ粉を混合材としてポルトランドセメントに混合したセメント組成物(例えば特許文献1)や、特定の粒度分布を有する石灰石微粉末を混合材として高ビーライト系ポルトランドセメントに混合したセメント組成物(例えば特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−189202号公報
【特許文献2】特許3267091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、コンクリート等の断熱温度上昇量の評価は、多大な労力を要することもあり、セメント組成物の各成分と断熱温度上昇特性との関係は十分に解明されていない。断熱温度上昇特性に影響を及ぼす要因として、具体的にはセメント組成物の鉱物組成(エーライト(CS)、ビーライト(CS)、アルミネート相(CA)、フェライト相(CAF))、石膏量、混合材(高炉スラグ、フライアッシュ、石灰石微粉末)量の影響が検討されている程度であり、セメント組成物の鉱物組成を変えたり、特定の混合材を使用したりすることなく、断熱温度上昇量を小さくする技術は確立されていない。
【0007】
本発明は、セメント組成物に含まれる特定の金属成分や重金属成分等を制御することにより、多種類の重金属成分を含む産業廃棄物及び/又は副産物をセメントクリンカーの原料として使用し、混合材として高炉スラグを多く含む場合であっても、好適な強度発現性を維持しつつ、断熱温度上昇量を小さくすることができるセメント組成物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために、セメント組成物に含まれる各成分と断熱温度上昇特性との関係について検討した結果、特定の重金属成分の含有量等が、セメント組成物を用いてなるコンクリート等の硬化体の断熱温度上昇量に影響を及ぼすことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを含み、セメント組成物1kgあたりCo含有量が7.1〜9.8mgかつBe含有量が5〜10mgであり、セメント組成物中のSO含有量が1.9〜3質量%かつ高炉スラグ含有量が20〜60質量%である、セメント組成物に関する。
【0010】
本発明は、石灰石、硅石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥、銅からみ及び焼却灰からなる群より選ばれる原料を混合し、焼成してセメントクリンカーを製造する工程(A)と、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを混合する工程(B)とを含み、セメント組成物1kgあたりのCo含有量が7.1〜9.8mgかつBe含有量が5〜10mgであり、セメント組成物中のSO含有量が1.9〜3質量%かつ高炉スラグ含有量が20〜60質量%であるセメント組成物を製造する、セメント組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、セメント組成物を用いてなる硬化体の好適な強度発現性を維持しつつ、セメント組成物を用いてなるコンクリート等の硬化体の断熱温度上昇量を小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明を詳しく説明する。
【0013】
本発明のセメント組成物は、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを含み、セメント組成物1kgあたりCo含有量が7.1〜9.8mgかつBe含有量が5〜10mgであり、セメント組成物(100質量%)中のSO含有量が1.9〜3質量%かつ高炉スラグ含有量が20〜60質量%である。以下、セメント組成物1kgあたりのCo含有量及びBe含有量を質量(mg/kg)で表す。
【0014】
ここで、セメント組成物中のCo含有量及びBe含有量は、CAJS I−51:1981「セメント及びセメント原料中の微量成分の定量方法」及びJCAS I−52:2000「ICP発光分光分析及び電気加熱式原子吸光分析によるセメント中の微量成分の定量方法」に準じて測定することができる。なお、Be含有量は、JCAS I−52:2000「ICP発光分光分析及び電機加熱式原子吸光分析によるセメント中の微量成分の定量方法」を適用する。
【0015】
セメント組成物中のSO含有量は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準じて測定することができる。
【0016】
セメント組成物中の高炉スラグ含有量は、以下の測定条件で、リートベルト解析法により測定することができる。リートベルト解析法は、セメント組成物に標準物質(アルミナ)を添加し、その試料について粉末X線回折測定を行うことにより、セメント組成物中の高炉スラグ含有量を求めることができる。粉末X線回折測定は、例えば粉末X線回折装置RINT−2500(リガク社製)を用い、X線源をCuKαとして、管電圧:35kV、管電流:110mA、測定範囲:2θ=10〜60°、ステップ幅:0.02°、計数時間:2秒間、発散スリット:1°及び受光スリット:0.15mmの測定条件で試料を測定し、得られたX線回折プロファイルを、リートベルト解析ソフト(JADE 6、リガク社製)にて解析し、試料中の高炉スラグ含有量を測定する。
【0017】
セメント組成物中のCo含有量が7.1〜9.8mg/kg、SO含有量が1.9〜3質量%かつ高炉スラグ含有量20〜60質量%を満たす場合には、Be含有量が多いほど、セメント組成物を用いてなる硬化体の断熱温度上昇量は小さくなるが、ベリリウム(Be)は毒性を有する成分であることから、セメント組成物中のBe含有量が10mg/kg以下であることが好ましい。Be含有量が5mg/kg未満であると、セメント組成物を用いてなる硬化体の断熱温度上昇量が大きくなるため好ましくない。セメント組成物中のBe含有量は、5〜10mg/kg、好ましくは5.1〜8mg/kg、より好ましくは5.2〜7mg/kg、更に好ましくは5.3〜6.5kg/mg、特に好ましくは5.4〜6.4mg/kgである。
【0018】
セメント組成物中のBe含有量が5〜10mg/kg、SO含有量が1.9〜3質量%かつ高炉スラグ含有量が20〜60質量%の場合に、Co含有量が7.1mg/kg未満又は9.8mg/kgを超えると、Be含有量によるセメント組成物を用いてなる硬化体の断熱温度上昇量の抑制が困難になる。セメント組成物中のCo含有量は、7.1〜9.8mg/kg、好ましくは7.1〜9.5mg/kg、より好ましくは7.2〜9mg/kg、更に好ましくは7.2〜8.5mg/kg、特に好ましくは7.2〜7.8mg/kgである。
【0019】
セメント組成物中のCo含有量が7.1〜9.8mg/kg、Be含有量が5〜10mg/kgかつ高炉スラグ含有量が20〜60質量%の場合に、SO含有量が1.9質量%未満又は3質量%を超えると、Be含有量によるセメント組成物を用いてなる硬化体の断熱温度上昇量の抑制が困難になる。セメント組成物中のSO含有量は、1.9〜3質量%、好ましくは1.92〜2.9質量%、より好ましくは1.93〜2.8質量%、更に好ましくは1.95〜2.6質量%、特に好ましくは2〜2.4質量%である。
【0020】
セメント組成物中のCo含有量が7.1〜9.8mg/kg、Be含有量が5〜10mg/kgかつSO含有量が1.9〜3質量%の場合に、高炉スラグ含有量が20質量%未満又は60質量%を超えると、Be含有量によるセメント組成物を用いてなる硬化体の断熱温度上昇量の抑制が困難になる。セメント組成物中の高炉スラグ含有量は、20〜60質量%、好ましくは25〜55質量%、より好ましくは27〜53質量%、更に好ましくは30〜50質量%、特に好ましくは31〜47質量%である。
【0021】
本発明のセメント組成物に用いる石膏は、JIS R 9151「セメント用天然せっこう」に規定される品質を満足することが望ましい。セメント組成物には、具体的に二水石膏、半水石膏、不溶性無水石膏が好適に用いられる。
【0022】
本発明のセメント組成物に用いる高炉スラグは、JIS R 5211「高炉セメント」で規定される品質を満足する高炉スラグを用いることが望ましい。
【0023】
本発明のセメント組成物は、Co含有量が7.1〜9.8mg/kg、Be含有量が5〜10mg/kg、SO含有量が1.9〜3質量%かつ高炉スラグ含有量20〜60質量%を満たす範囲内であれば、産業廃棄物及び/又は副産物(ダストや汚泥、石炭灰、鋳物砂、鉄源系廃棄物等の一部)をセメントクリンカーの原料として使用することができる。その他にも、通常のセメントクリンカーと同様に、石灰石や硅石等の天然原料と、粘土代替廃棄物等を使用できる。高炉スラグや石炭灰等の産業廃棄物及び/又は副産物等を比較的多く使用することにより、天然資源である石灰石や硅石の使用量を低減しかつエネルギー消費量等を低減することができるため、石灰石の熱分解や燃料の燃焼に起因するCO排出量を低減することができる。
【0024】
次に、本発明のセメント組成物の製造方法について説明する。本発明のセメント組成物の製造方法は、石灰石、硅石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥、銅からみ及び焼却灰からなる群より選ばれる原料を混合し、焼成してセメントクリンカーを製造する工程(A)と、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを混合する工程(B)とを含み、Co含有量が7.1〜9.8mg/kgかつBe含有量が5〜10mg/kgであり、セメント組成物中のSO含有量が1.9〜3質量%かつ高炉スラグ含有量が20〜60質量%であるセメント組成物を製造する。
【0025】
多種類の重金属成分を含む産業廃棄物及び/又は副産物を用いた場合であっても、Co含有量が7.1〜9.8mg/kgかつBe含有量が5〜10mg/kgであり、セメント組成物中のSO含有量が1.9〜3質量%かつ高炉スラグ含有量が20〜60質量%であるセメント組成物を製造することによって、セメント組成物を用いてなる硬化体の強度発現性を維持しつつ、断熱温度上昇量を小さくすることができ、好ましくは断熱温度上昇量を52℃以下にすることができる。セメントクリンカー原料の中でも、下水汚泥、石炭灰、鋳物砂、鉄精鉱等は他の原料と比較して、Co等の重金属成分及びBe等の金属成分の含有量が多いと推測される。例えば石炭灰、下水汚泥等のCo等の重金属成分及びBe等の金属成分の含有量が多い原料の使用量を変更することによって、Co含有量が7.1〜9.8mg/kgかつBe含有量が5〜10mg/kgであるセメント組成物を製造することができる。また、高炉スラグ含有量が20〜60質量%と比較的多いセメント組成物を製造することによって、エネルギー消費量等を低減することができるため、CO排出量を低減することができる。
【0026】
セメントクリンカーは、SP方式(多段サイクロン予熱方式)又はNSP方式(仮焼炉を併設した多段サイクロン予熱方式)等の既存のセメント製造設備を用いて、石灰石、硅石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥、銅からみ及び焼却灰からなる群より選ばれる原料を混合し、焼成して製造することができる。
【0027】
本発明の(B)工程において、セメント組成物は、工程(A)で得られたセメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを混合することによって製造することができる。
【0028】
本発明のセメント組成物は、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグを含むが、さらに少量の混合材を添加してもよい。混合材は、JIS R 5211「高炉セメント」に規定される高炉スラグ、JIS R 5212「シリカセメント」に規定されるシリカ質混合材、JIS A 6201「コンクリート用フライアッシュ」に規定されるフライアッシュ、石灰石微粉末を利用することができる。
【0029】
本発明の(B)工程において、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグと少量混合物を混合する方法としては、特に制限されるものではなく、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを同時に粉砕して混合する方法や、セメントクリンカーを粉砕後、粉砕したセメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを混合する方法等が挙げられる。
【0030】
本発明のセメント組成物のブレーン比表面積は、好ましくは2800〜4000cm/gである。ブレーン比表面積がこの範囲内であると、断熱温度上昇量が小さく、優れた強度発現性を有するモルタルやコンクリートの製造が可能となる。セメント組成物のブレーン比表面積は、より好ましくは3000〜3800cm/gであり、更に好ましくは3000〜3500cm/gである。
【0031】
本発明の製造方法によって得られるセメント組成物は、強度発現性を維持しつつ、断熱温度上昇量が小さいことから、温度ひび割れ対策が求められるマスコンクリートや高強度コンクリートの用途に好適に使用できる。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容を詳細に説明する。なお、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0033】
[セメント組成物の製造]
セメントクリンカー原料として、石灰石、硅石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥、銅からみ及び焼却灰からなる群より選ばれる原料を使用し、これらの原料を混合し、ロータリーキルンで焼成し、セメントクリンカーを得た。得られたセメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを、実機ミルでブレーン比表面積が3100〜3400cm/gになるように粉砕し、セメント組成物を製造した。
【0034】
セメント組成物中のCo含有量及びBe含有量は、予めセメントクリンカー原料のCo含有量及びBe含有量を測定し、得られるセメントクリンカーと、このセメントクリンカーに混合する高炉スラグ中のCo含有量及びBe含有量との合計量を考慮して、セメント組成物中のCo含有量が7.1〜9.8mg/kg、Be含有量が5〜10mg/kgとなるように、セメントクリンカー原料の原料原単位を調整してセメントクリンカーを製造し、このセメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを混合した。
【0035】
セメント組成物は、上記セメントクリンカーを用いて、SO含有量が所定の数値となるように石膏量を調整して混合し、高炉スラグ含有量が所定の数値となるように高炉スラグ量を調整して混合した。石膏は、JIS R 9151「セメント用天然せっこう」に規定される品質を満たす石膏を用いた。また、高炉スラグは、JIS R 5211「高炉セメント」に規定される品質を満たす高炉スラグを用いた。
【0036】
また、得られたセメント組成物のCo含有量及びBe含有量をCAJS I−51:1981「セメント及びセメント原料中の微量成分の定量方法」、JCAS I−52:2000「ICP発光分光分析及び電気加熱式原子吸光分析によるセメント中の微量成分の定量方法」に準じて測定した。更にセメント組成物中のSO含有量、高炉スラグ含有量、セメントクリンカーと石膏の合計量を測定した。セメント組成中のSO含有量は、JIS R 5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準じて測定した。セメント組成物中の高炉スラグ含有量は、リートベルト解析法により求めた。具体的には、各セメント組成物に標準物質(アルミナ)を添加して試料を作製し、粉末X線回折装置RINT−2500(リガク社製)を用い、X線源をCuKαとして、管電圧:35kV、管電流:110mA、測定範囲:2θ=10〜60°、ステップ幅:0.02°、計数時間:2秒間、発散スリット:1°及び受光スリット:0.15mmの測定条件で、各試料について粉末X線回折測定を行い、得られたX線回折プロファイルを、リートベルト解析ソフト(JADE 6、リガク社製)にて解析し、試料中の高炉スラグ含有量を求めた。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すセメント組成物No.1は、SO含有量が1.9質量%未満かつBe含有量が5mg/kg未満であり、比較例である。また、表1に示すセメント組成物No.2はCo含有量が6.4mg/kgであり、比較例である。セメント組成物No.3〜7は、Co含有量が7.1〜9.8mg/kg、Be含有量が5〜10mg/kg、SO含有量が1.9〜3質量%かつ高炉スラグ含有量が20〜60質量%であり、本発明の実施例である
【0039】
[モルタルの調製]
表1に示すセメント組成物に、JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に規定される標準砂及びイオン交換水を混合してモルタルを調製した。モルタルの砂セメント比は2.65、水セメント比は0.55とした。調製は手練りで行い、所定量のイオン交換水及びセメント組成物を2分間練り混ぜた後、標準砂を加えて3分間練り混ぜた。
【0040】
[断熱温度上昇特性の評価]
得られたモルタル試料について、少量の試料で測定が可能な断熱熱量計(特開2008−241520号公報参照)を用いてモルタル試料の断熱温度上昇特性を評価した。試料容器であるフィルムケースにモルタル試料を投入し、20℃に調節した断熱熱量計内に設置し測定を開始した。測定は3日間以上行い、得られた断熱温度上昇曲線より終局の断熱温度上昇量(Q)を求めた。また、JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に準じてモルタルの圧縮強さを求めた。結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
以上の結果より、本発明の実施例のセメント組成物(No.3〜7)を用いてなる硬化体は、終局断熱温度上昇量(Q)が51.5℃以下と小さくなることが確認できた。また、本発明の実施例のセメント組成物(No.3〜7)を用いてなる硬化体は、材齢28日のモルタル圧縮強さがいずれも60N/mm以上であり、強度発現性も良好であることが確認できた。一方、SO含有量が1.9質量%未満でありかつBe含有量が5mg/kg未満である比較例のセメント組成物(No.1)を用いてなる硬化体は、材齢28日のモルタル圧縮強さが60N/mmと強度発現性は維持しているものの、終局断熱温度上昇量(Q)が53.1℃と大きくなった。また、Co含有量が6.4mg/kgである比較例のセメント組成物(No.2)を用いてなる硬化体も材齢28日のモルタル圧縮強さは60N/mmと強度発現性は維持しているものの、終局断熱温度上昇量(Q)が52.2℃と大きくなった。
【0043】
本発明のセメント組成物によれば、産業廃棄物及び/又は副産物をセメントクリンカーの原料として使用した場合であっても、セメント組成物を用いてなる硬化体の強度発現性を維持しつつ、断熱温度上昇量を小さくすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントクリンカーと石膏と高炉スラグを含み、セメント組成物1kgあたりCo含有量が7.1〜9.8mgかつBe含有量が5〜10mgであり、セメント組成物中のSO含有量が1.9〜3質量%かつ高炉スラグ含有量が20〜60質量%であることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
石灰石、硅石、石炭灰、粘土、高炉スラグ、建設発生土、下水汚泥、銅からみ及び焼却灰からなる群より選ばれる原料を混合し、焼成してセメントクリンカーを製造する工程(A)と、セメントクリンカーと石膏と高炉スラグとを混合する工程(B)とを含み、セメント組成物1kgあたりのCo含有量が7.1〜9.8mgかつBe含有量が5〜10mgであり、セメント組成物中のSO含有量が1.9〜3質量%かつ高炉スラグ含有量が20〜60質量%であるセメント組成物を製造することを特徴とするセメント組成物の製造方法。