説明

セメント製品用撥水剤及びその製造方法並びに使用方法

【課題】油脂精製時に生じる処理コストを低減できると同時に、セメント製品に対して高い撥水性を簡易な方法で均一に備えさせることができるセメント製品用撥水剤及びその製造方法並びに使用方法を提供する。
【解決手段】フーツに対して水酸化ナトリウムを添加することにより、完全にケン化を行なった後、そのまま撥水剤としてセメント製造時に他の材料と共に添加して混合する。このとき、ケン化されたフーツは、アルカリ石鹸の状態にあるフーツは親水性を有するため、主に水分で構成される混練中のセメント内に均一に混合することができる。その後、ケン化されたフーツは、セメント中に均一に混合された状態で、他のセメント材料に含有される金属塩と反応して複分解を起こすため、疎水性を有する金属石鹸に変化して硬化したセメント製品に対して撥水性を均一に備えさせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメント製品用撥水剤及びその製造方法並びに使用方法に係り、特にセメント製品を製造する際に、セメントに加えることによりセメント製品の撥水性を高めるためのセメント製品用撥水剤及びその製造方法並びに使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食用油脂は、植物由来とする場合には、脱ガム→脱酸→脱色→脱臭の工程を経て精製され、動物由来とする場合には、脱酸→脱色→脱臭の工程を経て精製される。この油脂の精製時において、脱酸工程では、未脱酸の原料油脂中に含まれる遊離脂肪酸を中和して除去するために水酸化ナトリウム水溶液が添加され、遊離脂肪酸がナトリウム石鹸として油脂から分離される。この分離したナトリウム石鹸を含む油脂分離液は、一般にフーツと呼ばれている。
【0003】
このフーツは、産業廃棄物として廃棄処分されるのが一般的であるが、硫酸処理を行なって石鹸分を分解することにより、いわゆるダーク油を生成させて工業原料として利用する方法も採用されているが、多くの処理コストが生じるという欠点があった。
【0004】
そこで、本願発明者が提案した特許文献1では、このフーツに対して水酸化ナトリウム水溶液を添加して含有されるグリセリドを鹸化した後に、金属塩水溶液を加えて複分解させて金属石鹸を製造する方法が開示されている。これにより、金属石鹸を工業用原料や飼料用原料として有効利用できるので、フーツの処理に要するコストを低減することができる。
【0005】
又、油脂の精製時に発生する廃棄物の有効利用に関して、従来から建築用素材として利用する方法が多く検討されている。特許文献2では、脱色工程で生じる廃白土をセメントと混合することにより、建築用外壁として利用されるボードに高い撥水性を備えさせる方法が開示されている。又、特許文献3では、廃白土を窯業系サイディング材用又はパルプセメント板用撥水剤として利用する方法が開示されている。
【0006】
ところで、特許文献2及び3のように、建築用素材に用いられるセメント製品用の撥水剤は、製造後に水分を吸収することによる寸法変化や重量変化等を防止するために、セメント製品の撥水性を高める役割を有する。このセメント製品用撥水剤としては、高級脂肪酸の軽金属塩や、パラフィンワックス、シリコーン化合物が使用される他に、特許文献4に記載される脂肪酸エステル化合物なども採用されている。
【特許文献1】特開平11−349989号公報
【特許文献2】特開平6−191911号公報
【特許文献3】特開2000−139489号公報
【特許文献4】特開平7−69696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献4などの撥水剤は、脂肪酸エステル化合物等の比較的単価が高い物質であるため、セメント製品に要する材料コストが増大するという欠点がある。又、特許文献2及び3の廃白土を撥水剤として用いる場合、廃白土に含まれる金属石鹸が疎水性を有するため、セメント製作時に水との混練を妨げることにもなりかねず、必ずしも好ましいことではない。
【0008】
一方、特許文献1のようにフーツを金属石鹸として利用する場合には、上述した問題を解消することができる。しかしながら、金属石鹸をそのまま飼料用原料として家畜や家禽に給餌する場合に、家畜や家禽に対して肉質の変化や生理障害を起こすことが懸念される。加えて、フーツから金属石鹸を精製する際に、処理工程で塩を多量に含有する排水が発生するという問題もあった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、油脂精製時に生じる処理コストを低減できると同時に、セメント製品に対して簡易な方法で均一に高い撥水性を備えさせることができるセメント製品用撥水剤及びその製造方法並びに使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、前記目的を達成するために、セメント類に添加することにより、該セメント類の撥水性を高めるセメント製品用撥水剤において、前記セメント製品用撥水剤は、複数種の脂肪酸で構成されるアルカリ石鹸分を20〜30重量%の範囲で、前記複数種の脂肪酸で構成されるグリセライドから成る油分を5〜10重量%の範囲で、水分を残り60〜75%の範囲で含有することを特徴とする。
【0011】
尚、ここで述べる「セメント類」とは、ポルトランドセメント、マグネシウムセメント、シリカセメント、フライアッシュセメントの他に、石膏スラッグ、珪酸カルシウム等の無機質の材質が水和して凝固する物質のことである。
【0012】
本発明によれば、セメント製品を製造する際に撥水性を備えさせるために添加される撥水剤として、上述した構成の物質を用いるようにした。これにより、セメント製造時にセメントが凝固する際において、撥水剤に含有される複数種の脂肪酸で構成されるアルカリ石鹸やグリセライドがセメント中の複数の金属類と複分解反応して、複数種の金属石鹸が生成される。この複数種の金属石鹸は、各々の撥水性の相乗効果によってセメントに高い撥水性を備えさせることができる。又、セメントに添加される時点では水溶性のアルカリ石鹸が20〜30%と多く、疎水性の油分が5〜10%と少ないので、セメント製作時に水と混練され易く、撥水剤や他の材料を均一に混合することができるので、高品質のセメントを提供することができる。
【0013】
かかる組成を有する撥水剤は、アルカリ石鹸分や油分を上記組成比率で水に混合して製造してもよく、あるいは動植物性の油脂原油を原料として製造してもよく、原料の由来は問わない。
【0014】
請求項2に記載の発明は、前記目的を達成するために、セメント類に添加することにより、該セメント類の撥水性を高めるセメント製品用撥水剤において、前記セメント製品用撥水剤は、動植物性の油脂原油を脱酸精製する際に生じるフーツをアルカリ処理したものであることを特徴とする。
【0015】
請求項2の発明は、撥水剤の原料由来を、動植物性の油脂原油を脱酸精製する際に生じるフーツとし、該フーツをアルカリ処理して得られたアルカリ石鹸を主成分とするものであり、これをセメントに混練することでセメント中の複数の金属類と複分解反応して、複数種の金属石鹸が生成される。しかもアルカリ石鹸分を主成分とするので、親水性に優れており、セメント製作時に混練され易い。
【0016】
このように、油脂の精製時に生じるフーツを原料として利用すれば、従来は産業廃棄物であったフーツをセメント製品の撥水剤として再利用することができるので、油脂の精製に要する処理コストを大幅に低減することができる。しかも、従来ではセメント製品の製造時に必要とされた、撥水剤に要する材料コストをセメントの品質を低下させることなく削減することができるので、セメント製品の製造に要するコストをも低減することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、前記目的を達成するために、請求項1又は2のセメント製品用撥水剤をセメント類の調合時に混練することを特徴とする。
【0018】
これは、本発明の撥水剤の使用方法を特徴としたものであり、従来の撥水剤のように金属石鹸をセメントに添加するのではなく、アルカリ石鹸やグリセライドとセメント中の金属とを反応させることで、撥水性を有する金属石鹸を形成するようにしたものである。これにより、従来のように金属石鹸が水に溶けにくいことによりセメントの撥水性が均一化しないという欠点を解消できる。
【0019】
又、撥水剤をセメントの調合時に混練することにより、該セメントに付与されることにより、簡易且つ効果的にセメント製品に対して撥水性を付与させることができる上、その撥水性を長期にわたって持続させることができる。
【0020】
請求項4に記載の発明は、前記目的を達成するために、セメント類に加えることにより、該セメント類の撥水性を高めるセメント製品用撥水剤の製造方法において、植物由来の油脂原油に水蒸気を吹き込んで脱ガム工程を行ない、次いで脱ガム油に水酸化ナトリウムを添加して水可溶性にした油脂分離液に炭酸ナトリウム及び/又は水酸化ナトリウムを添加して中性乃至弱アルカリ性に調整することにより製造されることを特徴とする。
【0021】
請求項4によれば、先ず植物由来の油脂原油に水蒸気を吹き込むことにより油脂原油中から脱ガムを行ない、脱ガム化された脱ガム油に対して水酸化ナトリウムを添加することにより油脂中の遊離脂肪酸を水に可溶化して油脂分離液を生成する。こうして生成された油脂分離液は、炭酸ナトリウム及び/又は水酸化ナトリウムを添加することにより油脂分離液を中性乃至アルカリ性に調整されて、撥水剤が製造される。この撥水剤は、アルカリ石鹸であるため親水性を有するので、セメント製品を製造する際に、各材料と混合するときにこの撥水剤を均一に拡散させることができる。こうして混合され拡散した撥水剤は、他のセメント材料に含有される金属類と反応して、アルカリ石鹸から高い疎水性を備えた金属石鹸に変化するため、製造されたセメント製品に対して高い撥水性を備えさせることができる。
【0022】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の油脂分離液は、前記油脂原油の精製時における脱酸工程で生じたフーツであることを特徴とする。
【0023】
請求項5によれば、従来の油脂の精製時において、産業廃棄物として処理する必要があったフーツをそのままセメント製品のための撥水剤として転用することができるので、フーツの処理に要するコストを大幅に削減できると共に、セメント製品の製造コストをも低減することができる。
【0024】
請求項6に記載の発明は、前記目的を達成するために、請求項4又は5の製造方法で製造されたセメント製品用撥水剤をセメントの調合時に混練することを特徴とする。
【0025】
これは、本発明の請求項4又は5で製造された撥水剤の使用方法を特徴としたものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下添付図面に従って本発明に係るセメント製品用撥水剤及びその製造方法並びに使用方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0027】
図1は、本発明の実施の形態であるセメント製品用撥水剤製造ライン10の流れを示した説明図である。
【0028】
同図の如く、油脂精製ライン50は、油脂原油製造工程12→脱ガム工程14→脱酸工程16→アルカリ処理工程18の順で構成される。
【0029】
油脂原油製造工程12では、植物原料より搾油或いは抽出することにより不純物が未だ精製されない前の油脂原油が製造される。この油脂原油の種類としては、例えば、大豆油、菜種油、胡麻油、紅花油、コーン油、カポック油、パーム油、ヤシ油等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
脱ガム工程14では、油脂原油製造工程12で得られた油脂原油に対して脱ガム処理を行なう。脱ガムの方法としては、油脂原油に対して水蒸気の水を加えると共に、脱ガムを促進するための薬剤、例えばリン酸、シュウ酸、クエン酸等の有機酸水溶液を添加する。これにより、油脂原油中に含有されるリン脂質等のガム質が油脂原油から分離され、脱ガム油が得られる。脱ガム油は次工程である脱酸工程16へ送られる一方で、副生成物であるガム質は食用及び飼料用のレシチンとして有効利用される。
【0031】
脱酸工程16では、上述した脱ガム油中に含有される遊離脂肪酸を鹸化してアルカリ石鹸にする脱酸処理が行なわれる。即ち、先ず脱ガム油を60〜70°Cの範囲に保持し、脱ガム油の酸化より求めた遊離脂肪酸量の全量を中和するのに必要な水酸化ナトリウム量の110〜130%を10〜48%の水溶液として添加して、攪拌後に静置分離又は遠心分離する。これにより、脱酸油と油脂分離液とに分離され、油脂分離液は次工程であるアルカリ処理工程18へ送られる。
【0032】
アルカリ処理工程18では、油脂分離液に炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、又は炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムの混合液を添加して、油脂分離液をアルカリ石鹸化することにより、本発明のセメント製品用撥水剤が製造される。尚、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、又は混合液の添加量は、油脂分離液のケン化率を測定し、その測定結果に基づいて調整することが好ましい。
【0033】
こうして製造されたセメント製品用撥水剤は、水分を60〜75%の範囲で、複数種の脂肪酸で構成されるアルカリ石鹸分を20〜30%の範囲で、及び複数種の脂肪酸で構成されるグリセライドから成る油分を5〜10%の範囲で含有して構成される。このセメント製品用撥水剤は、セメント製品を製造する際に他のセメント材料と一緒に添加して混練することによって使用される。
【0034】
次に、上記の如く構成されたセメント製品用撥水剤製造ライン10を用いて、本発明に係るセメント製品用撥水剤及びその製造方法並びに使用方法の作用について説明する。
【0035】
図2は、従来の油脂精製を行なう一例である油脂精製ライン50の流れを示した説明図である。尚、図1のセメント製品用撥水剤製造ライン10で記載された同じ工程については、同符号を付すと共にその説明を省略する。
【0036】
同図の如く、油脂精製ライン50は、油脂原油製造工程12→脱ガム工程14→脱酸工程16→脱色工程20→脱臭工程22の順で構成される。
【0037】
油脂原油製造工程12で製造された油脂原油は、脱ガム工程14で脱ガム処理が行なわれることにより、ガム質と脱ガム油とに分離される。このうち、脱ガム油に対して脱酸工程16で脱酸処理が行なわれ、脱酸油脂とフーツとに分離される。脱酸油脂は次工程である脱色工程20へ送られる。
【0038】
脱色工程20では、珪藻土や白土等の色素吸着剤を脱酸油に添加することにより、脱酸油脂中に含有される色素を吸着剤に吸着させて脱色し、副生成物である廃白土と、脱色油とに分離され、脱色油脂は次工程である脱臭工程22に送られる。
【0039】
脱臭工程22では、脱色工程20で得られた脱色油を脱臭塔で水蒸気蒸留することにより、脱色油中の臭い成分を水蒸気とともに蒸留して除去する。こうして脱臭された油脂は、精製された油脂として製品化される一方、副生成物である脱臭スカムが生じる。脱臭スカムは、モノ、ジ、トリグリセライドの混合油の他、トコフェロール等の不鹸化物が含有されており、不鹸化物は健康食品や医薬用、飼料用に有効利用される。
【0040】
油脂精製ラインの脱酸工程における副生成物であるフーツは、その中に多く含まれている脂肪酸とグリセリンを抽出して再利用するのが一般的であり、従来は再利用の一つとして、フーツを処理することにより得られた脂肪酸に金属水溶液を加えて複分解させることで、金属石鹸を製造し、その一部はセメント類の撥水剤として利用されていた。
【0041】
図3は、上述したフーツを行なう一例であるフーツ処理工程70の流れを示した説明図である。
【0042】
同図の如く、フーツの処理としては、先ず硫酸分解処理24において、フーツを80〜90°Cに加熱すると共に硫酸を添加して攪拌する。これにより、含有される脂肪酸石鹸が分解されて脂肪酸に変化すると共に乳酸物が破壊される。次に、水洗処理26で水洗してから脱水処理28で脱水することにより、脂肪酸とグリセリドからなる油成分、いわゆるダーク油と硫酸廃液とに分離される。こうして得られたダーク油は、加水分解処理30において高温高圧の下で加水分解されることにより、含有されるグリセリドが分解されて、脂肪酸とグリセリン廃液とに分離される。こうして得られた脂肪酸は、水洗後に真空蒸留処理32において真空下で蒸留されるので、着色物が除去された脂肪酸原料が得ることができる。一方、副生成物である硫酸廃液は、中和して廃水処理されてから排出される。又、同じく副生成物であるグリセリン廃液は、そのまま廃棄されるか、又は、廃液中のグリセリンを回収し、その残液を廃水処理してから排出される。
【0043】
しかしながら、フーツ処理工程70から得られた脂肪酸は、精製油脂を分解して得ることができる脂肪酸と比較して品質的にも劣るため、処理に要する手間やコストの割には市場価値が低い。又、副生成物として硫酸廃液やピッチが多量に生じるため、その中和に多量のアルカリが必要とされる上、中和処理後の廃液に対して更に多くの複雑な処理を要してしまう。更に、同じく副生成物であるグリセリン廃液から回収されたグリセリンも又、夾雑物が多いため品質的には高いものではない上に、回収のための処理に多くの手間を要する。従って、従来の一般的なフーツの処理方法としては、そのまま廃棄物として処理されるのがコストの面から多く用いられるが、資源の有効利用や環境面からも必ずしも好ましいとはいえない。
【0044】
そこで、本発明では、上述した図1のセメント製品用撥水剤製造ライン10を例に挙げて、油脂の精製時に生じたフーツからセメント製品を製造する材料の一つとして用いられる撥水剤として利用する方法を提案した。
【0045】
即ち、上述したフーツに対して水酸化ナトリウムを添加することにより、ケン化を行なう。尚、このとき添加する水酸化ナトリウム量は、油脂分離液のケン化を測定し、その必要量を計算して行なうことが好ましい。又、フーツの75%はアルカリ石鹸の状態であるため、水酸化ナトリウムはどのような方法で添加されても特に問題はない。
【0046】
次に、ケン化されたフーツは、そのまま撥水剤としてセメント製造時に他の材料と共に添加して混合する。これにより、固化したセメント製品に対して簡易且つ均等に撥水性を備えさせることができる。
【0047】
本発明の着目すべき点は、フーツをアルカリ石鹸の状態でセメント製造時に添加し、セメント中の金属塩と反応させて金属石鹸を形成し、これによりセメントに撥水性を発揮させる点にある。即ち、アルカリ石鹸の状態にあるフーツは、親水性を有するため、主に水分で構成される混練中のセメント内に均一に混合することができる。その後、ケン化されたフーツ(即ち、図1で示したセメント製品用撥水剤と同一のもの)は、セメント中に均一に混合された状態で、他のセメント材料に含有される金属塩と反応して複分解を起こすことにより、疎水性を有する金属石鹸に変化する。このとき生じた金属石鹸は、固化したセメント製品中に均一な状態で存在しているため、セメント製品に対して撥水性を均一に備えさせることができる。また、撥水剤に含有される複数種の脂肪酸で構成されるアルカリ石鹸やグリセライドがセメント中の複数の金属類と複分解反応して、複数種の金属石鹸が生成される。この複数種の金属石鹸は、各々の撥水性の相乗効果によってセメントに高い撥水性を備えさせることができる。
【0048】
この場合、ケン化したフーツよりも親水性は多少劣るものの、フーツそのものを撥水剤として利用することも可能である。フーツには、水分を60〜75%の範囲で、複数種の脂肪酸で構成されるアルカリ石鹸分を20〜30%の範囲で、及び前記複数種の脂肪酸で構成されるグリセライドから成る油分を5〜10%の範囲で含有しており、フーツそのものをセメント製作時に混練しても撥水性を発揮させることができる。また、フーツそのものでなくても、このような組成比率になるように各成分を混合して撥水剤を製造してもよい。
【0049】
ところで、セメント製品の撥水性は、成形後に吸水や浸水した水分が温度変化により体積膨張して破損することを防止すると共に、成形時間の短縮化を促進できるため、品質上重要な項目の一つである。セメント製品に使用される撥水剤は、金属石鹸が多く採用される。しかしながら、金属石鹸は、その高い疎水性のためにセメント材料と混練する際に分離し易く、硬化するまでにセメント製品として撥水性に偏りが生じ易いという問題があった。従って、従来では、金属石鹸と共に界面活性剤を添加したり、金属石鹸を微細な状態に粉砕したりして対処していたが、撥水性に関する均一性や強さの面で必ずしも好ましいとはいえなかった。
【0050】
それに対し、本発明のセメント製品用撥水剤であるケン化したフーツは、親水性であるアルカリ石鹸の状態で水と混合された他のセメント材料に添加されるため、混練したセメント中に短時間で簡易且つ均一に拡散させることができる。そして、混練されたフーツは、拡散した状態で複分解して金属石鹸へ自然に変化するので、セメント製品全体に対して均一に疎水性を備えさせることができる。しかも、複分解によるセメント製品の撥水性や他の品質にも影響することがない。その上、上述したように、本発明で使用される撥水剤は、油脂の精製工程で生じたフーツに水酸化ナトリウムを添加したものであるため、撥水剤に要する材料コストを低減できると同時に、フーツの処理コストをも低減することができる。
【0051】
逆にいえば、図1のセメント製品用撥水剤製造ライン10において生じた副生成物である脱酸油に対して、図2に示した脱色工程20及び脱臭工程22で脱色処理及び脱臭処理を行なえば、精製油脂を製造することができる。
【0052】
尚、上述した油脂精製ライン50では、植物原料を用いた天然油脂で例を挙げたが、特に限定するものではない。牛脂、豚脂、魚油等の動物原料を用いた天然油脂でもよいし、合成油脂を用いてもよい。その場合、油脂精製時の脱ガム工程14を省略することができる。
【0053】
又、油脂精製ライン50で生じたフーツからコンクリート製品用撥水剤を製造する方法を例に挙げて本発明について説明したが、特に限定するものではない。油脂原油からコンクリート製品用撥水剤を製造する方法を用いても、フーツを用いて製造した撥水剤と同等の効果を得ることができる。例えば、植物原料由来の油脂原油を用いる場合では、この油脂原油に対して水蒸気を吹き込むことにより脱ガム処理を行なった後、水酸化ナトリウム溶液を添加して脱酸処理を行なうことにより得られた油脂分離液に、炭酸ナトリウム及び/又は水酸化ナトリウムを添加して中性乃至弱アルカリ性に調整することにより、水溶液の状態の撥水剤を生成する。これにより、従来の撥水剤として用いられる金属石鹸等よりも、撥水剤の生成に要する手間を低減できる上、セメントの混練時に短時間で均一に拡散することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態である撥水剤製造ラインの流れを示した説明図
【図2】従来の油脂精製を行なう一例である油脂精製ラインの流れを示した説明図
【図3】従来のフーツ処理を行なう一例であるフーツ処理工程の流れを示した説明図
【符号の説明】
【0055】
10…セメント製品用撥水剤製造ライン、12…油脂原油製造工程、14…脱ガム工程、16…脱酸工程、18…アルカリ処理工程、20…脱色工程、22…脱臭工程、24…硫酸分解処理、26…水洗処理、28…脱水処理、30…加水分解処理、32…真空蒸留処理、50…油脂精製ライン、70…フーツ処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント類に添加することにより、該セメント類の撥水性を高めるセメント製品用撥水剤において、
前記セメント製品用撥水剤は、複数種の脂肪酸で構成されるアルカリ石鹸分を20〜30重量%の範囲で、前記複数種の脂肪酸で構成されるグリセライドから成る油分を5〜10重量%の範囲で、水分を残り60〜75%の範囲で含有することを特徴とするセメント製品用撥水剤。
【請求項2】
セメント類に添加することにより、該セメント類の撥水性を高めるセメント製品用撥水剤において、
前記セメント製品用撥水剤は、動植物性の油脂原油を脱酸精製する際に生じるフーツをアルカリ処理したものであることを特徴とするセメント製品用撥水剤。
【請求項3】
請求項1又は2のセメント製品用撥水剤をセメント類の調合時に混練することを特徴とするセメント製品用撥水剤の使用方法。
【請求項4】
セメント類に加えることにより、該セメント類の撥水性を高めるセメント製品用撥水剤の製造方法において、
植物由来の油脂原油に水蒸気を吹き込んで脱ガム工程を行ない、次いで脱ガム油に水酸化ナトリウムを添加して水可溶性にした油脂分離液に炭酸ナトリウム及び/又は水酸化ナトリウムを添加して中性乃至弱アルカリ性に調整することにより製造されることを特徴とするセメント製品用撥水剤の製造方法。
【請求項5】
前記油脂分離液は、前記油脂原油の精製時における脱酸工程で生じたフーツであることを特徴とする請求項4に記載のセメント製品用撥水剤の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5の製造方法で製造されたセメント製品用撥水剤をセメントの調合時に混練することを特徴とするセメント製品用撥水剤の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−103989(P2006−103989A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−289832(P2004−289832)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(501357599)有限会社ケイ・ラボラトリー (2)
【Fターム(参考)】