説明

セメント製造装置の排ガスの処理方法

【課題】クリンカ原料の一部に、石炭灰等の未燃カーボン含有物質を用いる場合において、セメント製造装置の排ガスから捕集される集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を、簡易にかつ低コストで低減させることができ、その結果、クリンカに添加する集塵ダストの量を増大させ、セメント製造装置に返送される集塵ダストの量を減少させて、外部に放出される排ガス中の水銀の濃度を低減させることのできる、セメント製造装置の排ガスの処理方法を提供する。
【解決手段】集塵機8にて排ガスから捕集した集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を測定し、該含有率に基づき、集塵ダストの一部を、プレヒータの700℃以上の高温領域(例えば、サイクロン3c、3dの間の管路)に供給するか否かを決定する工程と、前記高温領域に供給されるダスト以外の集塵ダストの少なくとも一部を、仕上げミル7に導き、クリンカに添加する工程を含む排ガスの処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント製造装置の排ガスの処理方法に関し、より詳しくは、クリンカ原料の一部に石炭灰等の未燃カーボン含有物質を用いてクリンカを焼成するセメント製造装置で発生する排ガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリンカ原料として、焼却灰、汚泥、石炭灰、高炉二次灰等の廃棄物を用いることが多くなっている。そして、これらの廃棄物を用いるセメント製造装置の排ガスには、未燃カーボン、重金属等が含まれている。このうち、重金属(例えば、水銀)については、排ガスから除去するための種々の技術が開発されている。
例えば、セメント製造工程の排ガスからダストを捕集し、この捕集した集塵ダストを、セメント焼成後のクリンカ粉砕工程に投入し、またはクリンカ粉砕物に投入することにより、外部に放出される排ガス中の揮発性金属成分(例えば、水銀)の濃度を低減することを特徴とするセメント製造排ガスの処理方法が、提案されている(特許文献1)。
今回、本発明者がこの処理方法を検討したところ、次のことがわかった。この処理方法を未燃カーボン量の多いクリンカ原料を用いて実施した場合、集塵ダストに未燃カーボンが含まれているため、クリンカへの集塵ダストの添加量を増大させると、セメントに含まれる未燃カーボンの量が多くなる。未燃カーボンを多く含むセメントを用いて、コンクリートを調製すると、その配合によっては、コンクリートの中で未燃カーボンが浮き上がる現象が生じることがある。このコンクリートを大量に打設すると、未燃カーボンを多く含む層によって、コンクリート躯体の上面が形成されて、コンクリート躯体の美観が損なわれたり、あるいは、未燃カーボンを多く含む層によって、打ち継ぎ面(接合面)が形成されて、該打ち継ぎ面における強度の低下や耐久性の低下などを生じる可能性がある。
【0003】
この問題を改善するためには、集塵ダストをクリンカに添加する前に、集塵ダストから未燃カーボンを除去することが必要である。
未燃カーボンを除去する技術としては、例えば、石炭灰の水スラリに捕集剤を添加して未燃炭分(未燃カーボン)を疎水化させる疎水化工程と、該水スラリに起泡剤を添加して気泡を発生させ、その気泡に前記未燃炭分を付着させ浮上させる浮選工程とを備えた石炭灰の処理方法において、捕集剤として陰イオン捕集剤を使用することを特徴とする石炭灰の処理方法が、提案されている(特許文献2)。
この捕集剤を用いた方法は、未燃カーボンを精度良く分離可能な点で優れているものの、処理工程が煩雑であり、排水処理が必要であり、高コストであるなどの問題があり、現実的には、セメント製造装置の排ガスから捕集した集塵ダストに適用することが困難である。
一方、廃棄物を用いるセメント製造装置の排ガスには、ダイオキシン類が含まれることがある。このダイオキシン類を分解して無害化するための技術として、例えば、集塵機を用いて排ガスからダストを捕集し、得られた集塵ダストをセメント製造装置の高温領域(例えば、ロータリーキルン等の800℃以上の高温領域)に投入することが知られている(特許文献3〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−284550号公報
【特許文献2】特開2003−266057号公報
【特許文献3】特開2004−244308号公報
【特許文献4】特開2008−174446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、セメント製造装置の排ガスから捕集した集塵ダストから、未燃カーボンを分離することは、処理工程が煩雑であるなどの理由によって、実用化が困難である。そして、集塵ダストから未燃カーボンを分離しない場合には、上述の特許文献1に記載されているような、外部に放出される排ガス中の水銀の濃度の低減を目的とした、クリンカへの集塵ダストの投入を行なったとしても、セメントに未燃カーボンが含まれることによって、コンクリート躯体の美観が損なわれるなどの上述の問題が生じる可能性がある。
そこで、本発明は、クリンカ原料の一部に、石炭灰等の未燃カーボン含有物質を用いる場合において、セメント製造装置の排ガスから捕集される集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を、簡易にかつ低コストで低減させることができ、その結果、クリンカに添加する集塵ダストの量を増大させ、セメント製造装置に返送する集塵ダストの量を減少させて、外部に放出される排ガス中の水銀の濃度を低減させることのできる、セメント製造装置の排ガスの処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、セメント製造装置の排ガスから捕集した集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を測定し、その測定結果に基づいて、プレヒータの700℃以上の高温領域への集塵ダストの投入の要否を定めれば、集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を常に低く保つことができ、その結果、クリンカに添加する集塵ダストの量を増大させ、セメント製造装置に返送する集塵ダストの量を減少させて、外部に放出される排ガス中の水銀の濃度を低減させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[4]を提供するものである。
[1] 未燃カーボン含有物質を含むクリンカ原料を用いるセメント製造装置の排ガスの処理方法であって、上記排ガスから捕集した集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を測定し、該含有率に基づき、上記集塵ダストの一部を、上記セメント製造装置の構成部分であるプレヒータの700℃以上の高温領域に、高温領域返送用ダストとして供給するか否かを決定する未燃カーボン量測定工程と、上記高温領域返送用ダスト以外の集塵ダストの少なくとも一部を、クリンカ添加用ダストとして、クリンカに添加するクリンカ添加工程と、を含むことを特徴とするセメント製造装置の排ガスの処理方法。
[2] 上記未燃カーボン量測定工程における決定に基づき、上記700℃以上の高温領域に、上記高温領域返送用ダストを供給する高温領域供給工程、を含む上記[1]に記載のセメント製造装置の排ガスの処理方法。
[3] 上記高温領域返送用ダスト及びクリンカ添加用ダスト以外の集塵ダストを、上記プレヒータの700℃未満の低温領域、または、上記プレヒータに対して原料供給側の地点に供給する低温領域供給工程を含む、上記[1]又は[2]に記載のセメント製造装置の排ガスの処理方法。
[4] 上記未燃カーボン含有物質が、石炭灰、高炉二次灰、及び、流動床ボイラー灰からなる群より選ばれる一種以上を含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のセメント製造装置の排ガスの処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の排ガスの処理方法によれば、集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を、簡易にかつ低コストで低減させることができる。その結果、クリンカに添加する集塵ダストの量を増大させ、セメント製造装置に返送する集塵ダストの量を減少させることができるため、セメント製造装置中で循環する水銀の量が減少し、外部に放出される排ガス中の水銀の濃度を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のセメント製造装置の排ガスの処理方法を実施するための処理システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のセメント製造装置の排ガスの処理方法の一例は、(A)セメント製造装置の排ガスから捕集した集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を測定し、該含有率に基づき、上記集塵ダストの一部を、上記セメント製造装置の構成部分であるプレヒータの700℃以上の高温領域に、高温領域返送用ダストとして供給するか否かを決定する未燃カーボン量測定工程と、(B)上記未燃カーボン量測定工程における決定に基づき、上記700℃以上の高温領域に、上記高温領域返送用ダストを供給する高温領域供給工程と、(C)高温領域返送用ダスト以外の集塵ダストの少なくとも一部を、クリンカ添加用ダストとして、クリンカに添加するクリンカ添加工程と、(D)高温領域返送用ダスト及びクリンカ添加用ダスト以外の集塵ダストを、プレヒータの700℃未満の領域、または、プレヒータに対して原料供給側の地点に供給する低温領域供給工程、を含む。
このうち、工程(A)及び工程(C)は、本発明で必須の工程である。工程(B)及び工程(D)は、必要に応じて含めることのできる任意の工程である。
以下、工程毎に詳しく説明する。
【0011】
[工程(A);未燃カーボン量測定工程]
工程(A)は、セメント製造装置の排ガスから捕集した集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を測定し、該含有率に基づき、上記集塵ダストの一部を、上記セメント製造装置の構成部分であるプレヒータの700℃以上の高温領域に、高温領域返送用ダストとして供給するか否かを決定する工程である。
本発明では、クリンカ原料として、通常のクリンカ原料(例えば、普通ポルトランドセメント用クリンカの原料)と共に、石炭灰、高炉二次灰、流動床ボイラー灰等の未燃カーボン含有物質が用いられる。また、クリンカ原料の一部に、焼却灰、汚泥等の他の廃棄物(通常、水銀等の重金属類を含む。)を用いてもよい。
排ガスからダストを捕集して、集塵ダストを得るための集塵手段としては、例えば、電気集塵機、バグフィルター等が挙げられる。集塵手段は、2種以上を併用することもできる。例えば、電気集塵機とバグフィルターを直列に設けて、電気集塵機で処理した後の排ガスを、さらにバグフィルターで処理するように構成してもよい。
集塵ダスト中の未燃カーボン量は、例えば、次の1)〜3)の手順によって得ることができる。
1)集塵ダストと塩酸を混合して、100℃で1時間加熱し、無機炭素分を除去した後、不溶残分中の全炭素量(油分を含む全未燃カーボン量)を高周波加熱赤外吸収法によって測定する。
2)前記1)で分析した試料(集塵ダスト)と同一の試料を別途、105℃で20時間乾燥させたものを、250℃の温度及び50mtorrの圧力下で加熱減圧処理して、重量減少率を測定し、この重量減少率に相当する量を、油分の量とする。
3)前記1)で得られた全炭素量(油分を含む全未燃カーボン量)から、前記2)で得られた油分の量を差し引いたものを、未燃カーボン量とする。
なお、クリンカ原料としての石炭灰等の未燃カーボン含有物質の使用量等の諸条件と、本発明を過去に実施した際に得た未燃カーボン量の測定データとを考慮することによって、集塵ダスト中の未燃カーボン量をほぼ正確に予測することができる場合には、実測ではなく、予測値として、未燃カーボン量の値を得ることができる。この場合も、工程(A)に該当するものとする。
集塵ダストの一部をプレヒータの700℃以上の高温領域に供給するか否かの決定の基準値である集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率は、特に限定されず、任意に定めることができ、例えば、0.8〜1.5質量%の間で定めた値を採用することができる。例えば、基準値を1.0質量%に定めた場合、未燃カーボンの含有率が1.0質量%以上であれば、集塵ダストの一部をプレヒータの700℃以上の高温領域に供給し、未燃カーボンの含有率が1.0質量%未満であれば、集塵ダストをプレヒータの700℃以上の高温領域に供給しないように定めることができる。
【0012】
[工程(B);高温領域供給工程]
工程(B)は、工程(A)(未燃カーボン量測定工程)における決定に基づき、プレヒータの700℃以上の高温領域に、上記高温領域返送用ダストを供給する工程である。
本明細書において、プレヒータは、ロータリーキルンに供給するクリンカ原料を予熱する設備であって、複数段のサイクロン、窯尻部、必要に応じて設けられる仮焼炉、及び、これら構成部分(サイクロン、窯尻部、仮焼炉)を接続するための管路等を含むものと定義される。なお、窯尻部は、プレヒータの、ロータリーキルンに最も近い部分である。
投入場所は、プレヒータの中でも高温の領域が好ましい。投入場所の温度は、700℃以上、好ましくは750℃以上、より好ましくは800℃以上である。
投入場所とすべきプレヒータの構成部分は、窯尻部、最下段のサイクロン、下から2番目のサイクロン、下から3番目のサイクロン、仮焼炉、及び、これらを接続するための管路であり、好ましくは、窯尻部、最下段のサイクロン、下から2番目のサイクロン、仮焼炉、及び、これらを接続するための管路である。
なお、投入場所である仮焼炉とは、仮焼炉本体の他、仮焼炉に接続されるクーラー抽気ダクト等を含むものとする。
集塵ダストをプレヒータの700℃以上の高温領域に投入せずに、該高温領域よりも原料供給側(換言すると上方)の地点に投入した場合には、集塵ダスト中の未燃カーボンが燃焼せずに再び排ガス中のダストに含まれてしまうので、集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を十分に低減させることが困難となる。また、集塵ダストをプレヒータの700℃以上の高温領域に投入せずに、ロータリーキルンに直接投入しても良いが、窯前に近い場所(クリンカ排出口に近い場所)に投入すると、クリンカ鉱物の生成が不十分となり、クリンカの品質が低下する可能性があるので、本発明では、ロータリーキルンを投入場所から外している。
【0013】
[工程(C);クリンカ添加工程]
工程(C)は、工程(B)でプレヒータの高温領域に投入される集塵ダスト(高温領域返送用ダスト)以外の集塵ダストの少なくとも一部を、クリンカ添加用ダストとして、クリンカに添加する工程である。
工程(C)における集塵ダスト(クリンカ添加用ダスト)の使用形態としては、(a)クリンカと石膏と集塵ダストを混合して粉砕し、セメントを得る使用形態、(b)クリンカと石膏を混合して粉砕した後、得られた粉砕物と集塵ダストを混合して、セメントを得る使用形態、(c)クリンカと石膏を混合して粉砕した後、得られた粉砕物(セメント)と、集塵ダストと、水等を混合して、セメント硬化体(ペースト、モルタルまたはコンクリート)を得る使用形態、等が挙げられる。なお、前記の(b)及び(c)の使用形態も、本発明における「クリンカ添加用ダストとしてのクリンカへの添加」に該当するものとする。
中でも、前記の(a)の使用形態は、クリンカ添加用ダストの使用量の管理、及び、セメントの品質の観点から、好ましい。
前記の(a)〜(c)等の使用形態において用いられるクリンカは、本発明で用いるセメント製造装置(工程(A)、(B)参照)で得られるクリンカでもよいし、あるいは、本発明で用いるセメント製造装置以外のセメント製造装置で得られるクリンカでもよい。
工程(C)で用いられる集塵ダスト(クリンカ添加用ダスト)の量は、集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率によっても異なるが、クリンカ100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、特に好ましくは2質量部以下である。該量が5質量部を超えると、集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率が比較的少ない場合であっても、コンクリート等のセメント組成物中の未燃カーボンの濃度が大きくなり、コンクリート等の外観の劣化などの問題が生じるおそれがある。
工程(C)で用いられる集塵ダスト(クリンカ添加用ダスト)の量の下限値は、特に限定されないが、クリンカ添加用ダストの量が多いほど、セメント製造装置に返送される集塵ダストの量が少なくなり、外部に放出される排ガス中の水銀濃度が小さくなることを考慮すると、クリンカ100質量部に対して、好ましくは0.3質量部、より好ましくは0.5質量部、特に好ましくは0.8質量部である。
なお、工程(C)において、プレヒータの高温領域に供給される集塵ダスト以外の集塵ダストの全部を、クリンカ添加用ダストとして利用する場合、後述の工程(D)(低温領域供給工程)は、不要となる。
【0014】
[工程(D);低温領域供給工程]
工程(D)は、高温領域返送用ダスト及びクリンカ添加用ダスト以外の集塵ダストを、プレヒータの700℃未満の低温領域、または、プレヒータに対して原料供給側の地点に供給する工程である。
プレヒータの700℃未満の領域としては、例えば、最上段のサイクロンが挙げられる。
プレヒータに対して原料供給側の地点としては、例えば、クリンカ原料(具体的には、石灰石、粘土、珪石、鉄滓等)の原料乾燥・粉砕機や、該原料乾燥・粉砕機とプレヒータの間の原料供給路(貯留用のサイロを含む。)等が挙げられる。
工程(D)は、例えば、集塵手段で捕集される集塵ダストの量が多いために、集塵ダストの全量をプレヒータの700℃以上の高温領域に投入することが困難な場合に、本発明の処理方法に含めることができる。
工程(D)でプレヒータの低温領域等に供給する集塵ダストの量は、例えば、工程(A)で得られた未燃カーボンの含有率に基づいて定めることができる。例えば、工程(A)で得られた未燃カーボンの含有率が比較的大きい場合には、工程(D)で供給する集塵ダストの量を少なくすることが望ましい。逆に、工程(A)で得られた未燃カーボンの含有率が比較的小さい場合には、工程(D)で供給する集塵ダストの量を増やすことができる。
【0015】
次に、本発明のセメント製造装置の排ガスの処理方法を実施するための処理システムの一例を説明する。
図1中、まず、クリンカ原料(例えば、石灰石、粘土、珪石、鉄滓等の通常のクリンカ原料と、石炭灰等の未燃カーボン含有物質)を原料乾燥・粉砕機1で乾燥及び粉砕した後、原料供給路2を経由してサスペンションプレヒータ3に供給する。原料乾燥・粉砕機1は、原料乾燥機と粉砕機に分けてもよい。
なお、図1中、クリンカ原料、集塵ダスト等の物質の流れを実線で示し、排ガスの流れを点線で示している。また、本明細書中、プレヒータは、サスペンションプレヒータ3を構成するサイクロン3a〜3dと、仮焼炉4と、窯尻6と、これら各構成部分(サイクロン、仮焼炉、窯尻)を接続する管路を含むものとする。
サスペンションプレヒータ3は、クリンカ原料の予熱及び脱炭酸のためのものであり、複数のサイクロン3a〜3d及びこれらのサイクロンを接続する管路から構成されている。
最下段のサイクロン3d内の温度は、通常、800〜900℃である。下から2番目のサイクロン3c内の温度は、通常、700〜850℃である。下から3番目のサイクロン3b内の温度は、通常、600〜750℃である。仮焼炉4内の温度は、通常、800〜1000℃である。
【0016】
クリンカ原料は、サスペンションプレヒータ3内において、上段のサイクロン3aから下方のサイクロン3b、サイクロン3cへと順次移動しながら予熱され、最下段のサイクロン3dに達した後、窯尻6を介してロータリーキルン5へと供給される。
サスペンションプレヒータ3と窯尻6の間には、図1に示すように、仮焼炉4を配設してもよい。仮焼炉4は、クリンカ原料の脱炭酸を促進させるために設けられる。なお、仮焼炉4は、必要に応じて設けられるものであり、必須の装置ではない。
仮焼炉4としては、特に種類が限定されることはなく、例えば、SF仮焼炉、MFC仮焼炉、RSP仮焼炉、KSV仮焼炉、DD仮焼炉、SLC仮焼炉等を用いることができる。
ロータリーキルン5内に導かれたクリンカ原料は、900〜1500℃程度の温度下で焼成されてクリンカとなる。ロータリーキルン5から排出されたクリンカは、仕上げミル7内で、石膏、及び、電気集塵機8で捕集された集塵ダストの一部と混合及び微粉砕され、セメントとなる。
【0017】
ロータリーキルン5等においてクリンカ原料が加熱される際に発生する排ガスは、サスペンションプレヒータ3内を上方に移動し、排ガス路内に流入する。その後、排ガスは、熱源として利用するために原料乾燥・粉砕機1に導かれ、次いで、排ガス路を介して電気集塵機8に導かれる。排ガスは、電気集塵機8にてダストを除去された後、排ガス路を経由し、煙突9から大気中に排出される。
電気集塵機8で捕集された集塵ダストは、例えば図1に示すように、原料供給路2(例えば、貯留用のサイロ)と、最下段のサイクロン3dと下から2番目のサイクロン3cを接続する排ガス流通用の管路と、仕上げミル7とに、所定の割合で供給される。
【0018】
電気集塵機8で捕集された集塵ダストを原料供給路2に供給するための手段は、例えば、集塵ダストを電気集塵機8から貯留タンク(図示せず)まで輸送するための輸送装置(図示せず)と、集塵ダストを貯留するための貯留タンクと、貯留タンク内の集塵ダストを所定の供給速度で原料供給路2に投入するための投入装置(図示せず)とによって構成される。
ここで、輸送装置としては、例えば、スクリューコンベア、バケットエレベータ、トラフチェーンコンベア、エアレーショントラフコンベア等が挙げられる。これらは、単独で使用してもよいし、あるいは2つ以上を組み合わせて使用してもよい。なお、輸送装置は、集塵ダストを輸送する際に集塵ダストが拡散して作業環境を悪化させることのないような、密閉性の高いものが好ましい。
また、投入装置としては、集塵ダストの投入量を調節できるものが好ましく、具体的には、スクリューフィーダ、ベルトフィーダ、ロータリーフィーダ、ウイングオートフィーダ、サークルフィーダ、コンスタントフィードウエア等が挙げられる。
集塵ダストを排ガス流通用の管路に供給するための手段、及び、集塵ダストを仕上げミル7に供給するための手段としては、原料供給路2に供給するための上述の手段と同様のものを使用することができる
なお、本明細書中において、セメント製造装置とは、例えば、原料乾燥・粉砕機1、原料供給路2、サスペンションプレヒータ3、仮焼炉4、ロータリーキルン5、窯尻6、仕上げミル7、電気集塵機8を含むものを意味する。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
普通ポルトランドセメント用クリンカの原料100質量部と石炭灰6.3質量部とからなるクリンカ原料を、図1に示すセメント製造装置に供給して、クリンカを焼成するとともに、発生した排ガスを電気集塵機8で処理し、集塵ダストと、処理後の排ガスを得た。初期時においては、集塵ダストの全量を原料供給路2に導くようにした。石炭灰を含むクリンカ原料の供給を始めた時から7日後に、集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を測定したところ、2.3質量%であった。なお、この値は、油分を含む全未燃カーボン量の測定値から、油分の測定値を差し引いた値(換言すると、油分を含まない固体炭素分としての未燃カーボンの量)である。
次に、クリンカ100質量部と、石膏3質量部と、集塵ダスト0.8質量部を混合して粉砕し、セメントを得た。このセメント100質量部と、水40質量部と、高性能AE減水剤0.7質量部と、砂250質量部を混練して、モルタルを調製した後、このモルタルを用いて、モルタル成形体を作製した。このモルタル成形体の上面を観察したところ、未燃カーボンを多く含む層によって上面が形成されており、上面の外観が劣っていた。
次に、集塵ダストの全量を、原料供給路2に代えて、図1に示すサイクロン3c、3dの間の管路(温度:800〜850℃)に導くようにした。このように変更した時から7日後に、集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を測定したところ、1.2質量%であった。この集塵ダストを用い、前記と同様(クリンカ100質量部当りの集塵ダストの量:0.8質量部)にしてモルタル成形体を作製し、その上面を観察したところ、上面の外観は良好であった。
【0020】
[実施例2]
石炭灰の配合量を3.2質量部に変えた以外は実施例1と同様にしてクリンカを焼成し、初期時においては、集塵ダストの全量を原料供給路2に導くようにした。このクリンカ原料の供給を始めた時から7日後に、集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を測定したところ、1.0質量%であった。クリンカ100質量部当りの集塵ダストの量を1.5質量部に変えた以外は実施例1と同様にしてモルタル成形体を作製し、その上面を観察したところ、上面の外観が劣っていた。
次に、集塵ダストの50質量%を原料供給路2に導き、かつ、集塵ダストの残り50質量%を、図1に示すサイクロン3c、3dの間の管路に導くようにした。このように変更した時から7日後に、集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を測定したところ、0.7質量%であった。この集塵ダストを用い、前記と同様(クリンカ100質量部当りの集塵ダストの量:1.5質量部)にしてモルタル成形体を作製し、その上面を観察したところ、上面の外観は良好であった。
次に、集塵ダストの全量を、図1に示すサイクロン3c、3dの間の管路に導くようにした。このように変更した時から7日後に、集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を測定したところ、0.5質量%であった。この集塵ダストを用い、前記と同様(クリンカ100質量部当りの集塵ダストの量:1.5質量部)にしてモルタル成形体を作製し、その上面を観察したところ、上面の外観は、非常に良好であった。そこで、クリンカ100質量部当りの集塵ダストの量を2.0質量部に変えた以外は前記と同様にしてモルタル成形体を作製し、その上面を観察したところ、上面の外観は良好であった。
【符号の説明】
【0021】
1 原料乾燥・粉砕機
2 原料供給路
3 サスペンションプレヒータ
3a〜3d サイクロン
4 仮焼炉
5 ロータリーキルン
6 窯尻
7 仕上げミル
8 電気集塵機
9 煙突

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未燃カーボン含有物質を含むクリンカ原料を用いるセメント製造装置の排ガスの処理方法であって、
上記排ガスから捕集した集塵ダスト中の未燃カーボンの含有率を測定し、該含有率に基づき、上記集塵ダストの一部を、上記セメント製造装置の構成部分であるプレヒータの700℃以上の高温領域に、高温領域返送用ダストとして供給するか否かを決定する未燃カーボン量測定工程と、
上記高温領域返送用ダスト以外の集塵ダストの少なくとも一部を、クリンカ添加用ダストとして、クリンカに添加するクリンカ添加工程と、
を含むことを特徴とするセメント製造装置の排ガスの処理方法。
【請求項2】
上記未燃カーボン量測定工程における決定に基づき、上記700℃以上の高温領域に、上記高温領域返送用ダストを供給する高温領域供給工程、を含む請求項1に記載のセメント製造装置の排ガスの処理方法。
【請求項3】
上記高温領域返送用ダスト及びクリンカ添加用ダスト以外の集塵ダストを、上記プレヒータの700℃未満の低温領域、または、上記プレヒータに対して原料供給側の地点に供給する低温領域供給工程を含む、請求項1又は2に記載のセメント製造装置の排ガスの処理方法。
【請求項4】
上記未燃カーボン含有物質が、石炭灰、高炉二次灰、及び、流動床ボイラー灰からなる群より選ばれる一種以上を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のセメント製造装置の排ガスの処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−62208(P2012−62208A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206284(P2010−206284)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】