説明

セラミックス、その製造方法及び用途

【課題】加熱時のガス放出量を低減させたセラミックスとその製造方法、及びこのセラミックスで構成された長寿命のボートを提供する。
【解決手段】0.2〜7.5質量%の酸化ストロンチウムと0.8質量%以下(0は含まない)の酸化硼素とを含み、二硼化チタン及び窒化硼素を主成分とする相対密度が90%以上のセラミックス。二硼化チタンを40〜60質量%、窒化硼素を30〜60質量%、平均粒径が10μm以下の酸化ストロンチウムを0.5〜8.5質量%を含む混合原料粉末を成形した後、非酸化性雰囲気下、温度1700〜2200℃、圧力10MPa以上で焼結することを特徴とするセラミックスの製造方法。上記セラミックスで構成されてなる金属蒸発用容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス、その製造方法、及びこのセラミックスで構成された金属蒸発用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二硼化チタン及び窒化硼素を含む導電性セラミックスで構成された金属蒸発用容器(以下、「ボート」ともいう。)を真空下において通電加熱し、アルミニウム等の金属線材を不連続的又は連続的にボートに供給しながら蒸着させることが行われている。
【0003】
ボートには、二硼化チタンと窒化硼素を主成分とする2成分系ボート(特許文献1)と、この2成分ボートに更に窒化アルミニウムを含有させた3成分系ボートが知られている(特許文献2)。2成分系ボートは、3成分系ボートに比べて熱衝撃性と溶融金属に対する耐食性(以下、単に「耐食性」という。)に優れているが、加熱時に放出するガス量が多いので、このガスが被蒸着物に付着したり、真空度を低下させたりして蒸着物の生産性に悪影響を与えたり、またガス放出によってボートの相対密度が低下し、耐食性が低下することがあった。
【特許文献1】特開昭59−118828号公報
【特許文献2】特開平3−208865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、加熱時のガス放出量を低減させたセラミックスとその製造方法、及びこのセラミックスで構成されたボートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、0.2〜7.5質量%の酸化ストロンチウムと0.8質量%以下(0は含まない)の酸化硼素とを含み、二硼化チタン及び窒化硼素を主成分とする相対密度が90%以上のセラミックスである。
【0006】
また、本発明は、二硼化チタンを40〜60質量%、窒化硼素を30〜60質量%、平均粒径が10μm以下の酸化ストロンチウムを0.5〜8.5質量%を含む混合原料粉末を成形した後、非酸化性雰囲気下、温度1700〜2200℃、圧力10MPa以上で焼結することを特徴とするセラミックスの製造方法である。
【0007】
さらに、本発明は、上記セラミックスで構成されてなることを特徴とする金属蒸発用容器である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加熱時の放出ガス量が低減するセラミックスとその製造方法が提供される。また、本発明の金属蒸発用容器(ボート)は、加熱時の放出ガス量が少ないので長寿命となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
従来、2成分系ボートに用いられるセラミックスは、窒化ホウ素とホウ化チタン粉末の混合粉末をホットプレスすることによって製造されている。このセラミックスは熱衝撃性と耐食性に優れているが、真空加熱をしたときにガスが発生しやすいのものであった。本発明者は、この原因はセラミックスに含まれる硼酸カルシウムや酸化硼素等の低沸点酸化物にあることを究明し、これを極力少なくする方法について更に検討したところ、焼結助剤として、従来のカルシウム化合物のかわりに酸化ストロンチウムの特定量を用いればよいことを見いだし、本発明を完成させたものである。
【0010】
本発明のセラミックスは、二硼化チタン、窒化硼素を主成分とするセラミックスにおいて、上記硼酸カルシウムを酸化ストロンチウムに置き換え、わずかの酸化硼素を存在させることを基本構造としている。
【0011】
本発明のセラミックスは、酸化ストロンチウムを0.2〜7.5質量%を含有している。酸化ストロンチウムの含有率が著しく少ないと、加熱時における質量減少を抑制することができなくなり、また多いと熱衝撃性に優れた窒化硼素の含有量が少なくなるため、セラミックスの熱衝撃性が損なわれ、寿命が短くなる。特に好ましい酸化ストロンチウムの含有率は、0.5〜5.0質量%である。また、本発明のセラミックスには0.8質量%以下(0は含まない)の酸化硼素を含有しており、これによって放出ガス量の抑制効果が助長される。
【0012】
本発明のセラミックスにあっては、酸化ストロンチウムと酸化硼素以外の成分は、二硼化チタンと窒化硼素であることが好ましいが、セラミックスを製造する際に窒化チタン等の成分が不可避的に生成する。これらの不可避成分は、それらの合計で10質量%以下、特に5質量%以下であることが好ましい。中でも、本発明のセラミックス中、二硼化チタンが40〜60質量%、窒化硼素が30〜60質量%含有していることが好ましい。二硼化チタンの含有率が40質量%よりも著しく小さいと比抵抗値が高くなり、また60質量%よりも著しく大きいと比抵抗値が低くなりすぎて、いずれの場合もボート寿命が延びない。また、窒化硼素の含有率が30質量%よりも著しく小さいとセラミックスの快削性が損なわれ、また60質量%よりも著しく大きいと比抵抗値が高くなりすぎる。
【0013】
本発明のセラミックスの相対密度は90%以上、好ましくは95%以下である。相対密度が90%よりも著しく小さいと耐食性が劣り、しかも密度分布が大きくなることにより比抵抗が不均一となる。そのため、このセラミックスで構成されたボートは、金属の蒸発速度に分布が生じる。
【0014】
本発明のセラミックスは、本発明のセラミックスの製造方法によって製造することができる。本発明のセラミックスの製造方法は、二硼化チタンと、窒化硼素と、酸化ストロンチウムの所定量を含む混合原料粉末を、成形後、焼結する工程からなっている。
【0015】
本発明の製造方法で重要なことは、従来のカルシウム化合物のかわりに、平均粒径が10μm以下の酸化ストロンチウムを0.5〜8.5質量%を用いたことである。酸化ストロンチウムの割合が0.5質量%よりも著しく少ないか、又は酸化ストロンチウムの平均粒径が10μmをこえると、相対密度が90%以上のセラミックスを製造することが困難となる。また、酸化ストロンチウムの割合が8.5質量%よりも著しく多いと、得られたセラミックスの熱衝撃性が低下する恐れがある。酸化ストロンチウムの好ましい平均粒径は5μm以下である。
【0016】
二硼化チタンと窒化硼素と酸化ストロンチウムを含む混合原料粉末中、二硼化チタン粉末は40〜60質量%、窒化硼素粉末は30〜60質量%を含有していることが好ましい。
【0017】
酸化ストロンチウム粉末は市販品で十分である。二硼化チタン粉末としては、例えば金属チタンとの直接反応や酸化チタン等の酸化物の還元反応を利用した方法等によって製造されたものが使用される。その平均粒子径は20μm以下、酸素量は1.5質量%以下であることが好ましい。
【0018】
窒化硼素粉末としては、例えば硼砂と尿素の混合物をアンモニア雰囲気中で800℃以上で加熱する方法、硼酸又は酸化ホウ素と燐酸カルシウムの混合物をアンモニウム、ジシアンジアミド等の含窒素化合物を1600℃以上に加熱する方法等によって製造したものが使用される。その平均粒子径は10μm以下、特に5μm以下で、酸素量は3%未満であることが好ましい。酸素量は、窒化硼素粉末を真空中又は非酸化性雰囲気中で熱処理する方法、メタノール洗浄して酸化硼素を除去する方法等によって減少させることができる。
【0019】
原料の混合は、ボールミル、振動ボールミル、ヘンシェルミキサー、ボールトンミル等の混合機で行われ、成形後焼結される。成形に先立ち、混合原料粉末は0.5〜2mmに造粒しておくことが好ましく、これによって相対密度90%以上の実現が容易となる。造粒方法としては、例えばスプレードライヤー法、転動造粒法等の湿式造粒法、混合原料粉末を圧縮成型後粗砕整粒する乾式造粒法等を用いることができるが、混合原料粉末の酸化を極力抑えるために乾式造粒が好ましい。
【0020】
成形は、例えば一軸加圧又は冷間等方圧加圧において、50MPa以下、好ましくは20MPa以下で実施される。焼結は、例えば窒素、ヘリウム、アルゴン、真空等の非酸化性雰囲気下で、温度1700〜2200℃、圧力10MPa以上で行われる。圧力が10MPa未満又は温度が1700℃未満では相対密度90%のセラミックスを製造することができない。温度が2200℃をこえると、窒化硼素の熱分解が起こる。
【実施例】
【0021】
実施例1〜4 比較例1〜8
二硼化チタン粉末(酸素量1.1質量%、平均粒子径14.2μm)、窒化硼素粉末(酸素量1.9質量%、平均粒子径5.0μm)、酸化ストロンチウム粉末(平均粒子径7.0μmおよび14.7μm)、酸化カルシウム粉末(平均粒子径8.1μm)を表1、2に示す割合でボールミルを用いて混合して混合原料粉末を調製した。これを平均粒径が1.5mm程度の大きさに造粒し、15MPaで冷間等方圧加圧成型(50mm×20mm×200mm)した後、カーボン製容器に収納し、表1、2に示す条件で焼結した。
【0022】
得られたセラミックスを粉砕し、(1)セラミックス組成と(2)粒界相を以下に従って測定した。また、セラミックスからボート(幅30mm×厚み10mm×長さ150mmの成形体の上面中央部に幅26mm×厚み2mm×長さ90mmのキャビティ設けたもの)を加工し、その(3)相対密度、(4)質量減少率、(5)ボート寿命を、以下に従って測定した。それらの結果を表1、2に示す。
【0023】
(1)セラミックス組成:メタノール抽出法による酸化硼素の定量。ICP発光分析装置(SII社製「SPS−1700R」)、および酸素窒素分析装置(HORIBA社製「EMGA−620W/C」)による元素定量分析。それらを重回帰計算法により解析し、組成を決定した。
(2)セラミックスの粒界相:X線回折法(日本電子株式会社製「JDX−3500」、ステップ角度:0.02度、計数時間:0.5秒、管電圧:40kV、管電流300mA、ターゲット:Cu、発散スリット:1度、受光スリット:0.2mm、散乱スリット:1度)により測定した。
(3)相対密度:実測密度と理論密度から算出した。
(4)質量減少量:ボートを通電加熱し、1600℃まで昇温、30分保持した後に質量を測定し、質量減少率(質量減少量/加熱前の質量)を算出した。
(5)ボート寿命:キャビティに金属アルミニウムを1.00gを投入し、真空中、ボート温度が1600℃になるように通電しながら金属アルミニウムを蒸発させた後、室内まで放冷する。この蒸発試験を繰り返し行い、ボートにクラックが発生するか、又はアルミニウムの蒸発ができなくなったときのボートの使用回数を測定した。耐久性ボートとしては、少なくとも180回以上であることが好ましい。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
表1と表2の対比から、本発明のセラミックスによって構成されたボートは、比較例に比べて、質量減少率が小さいことから放出ガス量が低減され、ボート寿命が向上していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のセラミックスは、ボートを初め、坩堝等として使用される。本発明のボートはプラスチック等に金属を蒸着するための金属蒸発用容器として使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.2〜7.5質量%の酸化ストロンチウムと0.8質量%以下(0は含まない)の酸化硼素とを含み、二硼化チタン及び窒化硼素を主成分とする相対密度が90%以上のセラミックス。
【請求項2】
二硼化チタンを40〜60質量%、窒化硼素を30〜60質量%、平均粒径が10μm以下の酸化ストロンチウムを0.5〜8.5質量%含む混合原料粉末を成形した後、非酸化性雰囲気下、温度1700〜2200℃、圧力10MPa以上で焼結することを特徴とするセラミックスの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載のセラミックスで構成されてなることを特徴とする金属蒸発用容器。

【公開番号】特開2007−254159(P2007−254159A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−152721(P2004−152721)
【出願日】平成16年5月24日(2004.5.24)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】