説明

セラミックス焼結体の製造方法

【課題】溶融アルミニウム等の溶融金属で浸食されるのを抑制された金属蒸発発熱体を製造するのに好適なセラミックス焼結体の製造方法を提供する。
【解決手段】二硼化チタン粉末と窒化硼素粉末を含有する原料粉末を成型後、非酸化性雰囲気下で焼結する方法において、二硼化チタン粉末が、レーザー回折散乱式粒度分布測定機にて測定された質量基準の粒度において、32〜64μmの領域の頻度が全領域の30%以上、4μm以上32μm未満の領域の頻度が全領域の45%以上、4μm未満の領域の頻度が全領域の10%未満であることを特徴とするセラミックス焼結体の製造方法。原料粉末が、二硼化チタン粉末45〜60質量%、窒化硼素粉末40〜55質量%、酸化ストロンチウム粉末及び炭酸ストロンチウム粉末の少なくとも一方が3質量%以下(0質量%を含まない)からなることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば金属蒸発発熱体(以下、「ボート」ともいう。)を製造するセラミックス焼結体は、二硼化チタン粉末と、窒化硼素粉末と、必要に応じて窒化アルミニウム粉末とを含む原料粉末に、ストロンチウム化合物を焼結助剤として配合し、成型後、非酸化性雰囲気下で焼結して製造されている(特許文献1)。ボートは、例えば10−2Pa以下の真空下で通電加熱され、ボートのキャビティに供給されたアルミニウム等の線材を蒸発させ、ボート上部に設置された被処理物(例えばポリマーフィルム等)の表面に金属を蒸着させた後、室温まで冷却するサイクルが繰り返されて使用されている。
【0003】
ボートの寿命は、被処理物に蒸着した金属の膜厚、膜厚分布、ピンホール数等によって総合的に判断される。通常のボートの寿命は、蒸着時間が2時間、冷却時間が20分を1サイクルとする場合、10サイクル程度であるが、特許文献1のセラミックス焼結体を用いれば更に寿命が延ばすことができる。しかし、いずれ、そのボートも寿命を迎えることになるが、その際の特有な現象として、キャビティ底面が著しく浸食されて寿命となることであった。
【特許文献1】特開2006−16279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、キャビティ底面が溶融アルミニウム等の溶融金属で浸食されるのを抑制されたボートを製造するのに好適なセラミックス焼結体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、二硼化チタン粉末と窒化硼素粉末を含有する原料粉末を成型後、非酸化性雰囲気下で焼結する方法において、二硼化チタン粉末が、レーザー回折散乱式粒度分布測定機にて測定された質量基準の粒度において、32〜64μmの領域の頻度が全領域の30%以上、4μm以上32μm未満の領域の頻度が全領域の45%以上、4μm未満の領域の頻度が全領域の10%未満であることを特徴とするセラミックス焼結体の製造方法である。本発明においては、原料粉末が、二硼化チタン粉末45〜60質量%、窒化硼素粉末40〜55質量%、酸化ストロンチウム粉末及び炭酸ストロンチウム粉末の少なくとも一方が3質量%以下(0質量%を含まない)からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ボートのキャビティ底面が、溶融金属で浸食されるのを抑制することのできるセラミックス焼結体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
ボートのキャビティ底面の浸食速度を決定する要素の一つに、ボート成分と溶融金属との反応に代表される化学的耐食性がある。化学的浸食のメカニズムの一例を示せば、溶融金属がアルミニウムである場合、ボートと接触する表面部において、アルミニウムがボート主成分である窒化硼素と反応して窒化アルミニウムを主成分とする反応層を形成する一方、他方の主成分である二硼化チタンは、アルミニウムと殆ど反応せずに大部分がボートから剥脱し、ボート表面の外周を伝って流れる。化学的耐食性に由来する浸食速度は、本来、温度と時間で決定されるため、同一温度であれば、浸食深さは蒸着時間に比例するため、浸食速度はほぼ一定となる。
【0008】
しかしながら、蒸着温度が高温であったり、蒸着が長時間であったりすると、ある時間から浸食速度が急激に増大し、短時間で寿命を迎える場合があった。ボートの浸食深さの変化について解析した結果、短寿命のボートでは、その浸食部の底面においてボート内部に向かうクラックが存在し、溶融金属がクラックを経由してボート内部まで浸食していることを見いだした。本発明者らは、クラックの発生および伝搬を抑制するため鋭意検討を行い、本発明の完成に至ったものである。
【0009】
本発明で用いる二硼化チタン粉末は、粒度分布(質量基準)において、32〜64μmの領域の頻度が全領域の30%以上、4μm以上32μm未満の領域の頻度が全領域の45%以上、4μm未満の領域の頻度が全領域の10%未満のものである。これ以外の頻度粒度分布を有するものであっては、クラックの発生および伝搬を抑制する効果が十分でなく、急激な浸食を回避することが困難となる。本発明のような粒度分布を有する二硼化チタン粉末は、粒度分布の異なる複数の二硼化チタン粉末を用意しておき、それらを適宜量混合することによって製造することができる。二硼化チタン粉末は、市販品、合成品(金属チタンの直接硼化反応、チタニアの還元硼化反応など)のいずれであってもよい。頻度粒度分布(質量基準)は、レーザー回折散乱式粒度分布測定機で測定される。本発明ではシーラス社製商品名「シーラスグラニュロメーター モデル920」を用いた。
【0010】
窒化硼素粉末としては、六方晶窒化硼素粉末、アモルファス窒化硼素粉末、又はこれらの混合物が使用される。窒化硼素粉末は市販品を用いることができる。また、硼砂と尿素の混合物をアンモニア雰囲気中、800℃以上で加熱する方法、硼酸又は酸化硼素と燐酸カルシウムの混合物をアンモニウム、ジシアンジアミド等の含窒素化合物を1300℃以上に加熱する方法などによって製造したものを使用することができる。窒化硼素粉末の平均粒子径は、12μm以下、特に10μm以下であることが好ましい。
【0011】
酸化ストロンチウム粉末、炭酸ストロンチウム粉末は市販品で十分である。平均粒子径は15μm以下、特に10μm以下であることが好ましい。
【0012】
原料粉末の割合は、二硼化チタン粉末が45〜60質量%、窒化硼素粉末が40〜55質量%、酸化ストロンチウム粉末及び炭酸ストロンチウム粉末の少なくとも一方が3質量%以下(0質量%を含まない)であることが好ましい。二硼化チタン粉末が45質量%よりも著しく少ないと比抵抗が高くなりすぎ、60質量%よりも著しく多いと逆に比抵抗が低くなりすぎて、いずれの場合もボートとして不適切となる。窒化硼素粉末が40質量%よりも著しく少ないと、比抵抗が低くなりすぎることに加えてセラミックス焼結体の機械加工性が低下し、また55質量%よりも著しく多いと比抵抗が高くなりすぎる。酸化ストロンチウム粉末及び炭酸ストロンチウム粉末の少なくとも一方が3質量%よりも著しく多いと、ボート中に非晶質成分が多くなり、ボートが脆化する恐れがある。
【0013】
原料粉末は成型後焼結される。その一例を示せば、0.5〜200MPaの一軸加圧又は冷間等方圧加圧した後、1700〜2200℃の温度下における常圧焼結又は1600〜2000℃、1〜100MPaのホットプレス又は熱間等方圧プレスである。焼結は、窒素、ヘリウム、アルゴン等の非酸化性雰囲気下で行われる。なお、焼結は、原料粉末の成型体を黒鉛製容器、又は窒化硼素製容器ないしは窒化硼素で内張した容器に収納して行うことが望ましい。ホットプレス法では、黒鉛又は窒化硼素製スリーブ、窒化硼素で内張したスリーブを用いて焼結することが好ましい。
【0014】
得られたセラミックス焼結体を適宜形状に機械加工等を行うことによってボートとなる。ボート形状の一例を示せば、全体寸法が縦60〜160mm×幅8〜50mm×厚み4〜12mmであり、キャビティ寸法が縦55mm〜155mm×幅6〜48mm×深さ0.5〜2.5mmである。
【実施例】
【0015】
実施例1〜6 比較例1〜6
表1に示す頻度粒度分布を有する二硼化チタン粉末を分級処理により製造した。一方、市販の窒化硼素粉末(平均粒子径8.5μm、純度99質量%以上)、酸化ストロンチウム粉末(平均粒子径7μm、純度99質量%以上)、炭酸ストロンチウム粉末(平均粒子径7μm、純度99質量%以上)を用意した。これらを表2に示す割合で配合し、窒素雰囲気下、ボールミルで1時間混合して原料粉末を調製した。これを黒鉛ダイスに充填し、温度1700℃でホットプレスを行ってセラミックス焼結体(直径180mm×高さ100mm)を製造した。このセラミックス焼結体から、長さ130mm×幅30mm×厚み9mmの直方角柱体を切り出し、その上面中央部に長さ120mm×幅26mm×厚み1mmのキャビティを形成させてボートとし、以下の評価を行った。なお、ボート加工にはダイヤモンドホイルを用いた。
【0016】
(1)二硼化チタン粉末の頻度粒度分布:レーザー回折散乱式粒度分布測定機(シーラス社製商品名「シーラスグラニュロメーター モデル920」)を用い、水と試料の混合物を超音波ホモジナイザーで200Wの出力で1分間分散処理してから測定した。粒子径チャンネルは、0.3、1、1.5、2、3、4、6、8、12、16、24、32、48、64、96、128、196μmである。
(2)セラミックス焼結体の相対密度:実測密度と理論密度から算出した。
(3)セラミックス焼結体の比抵抗:室温抵抗は、市販機(アドバンテスト社製マルチメーター「型式RS6552」)を用いて測定した。1500℃比抵抗は、ボート両端をクランプで電極につなぎ、キャビティ中央部の温度が1500℃になる電圧を測定し、そのときの電圧と電流から算出した。
(4)ボートの耐食性:キャビティ中央部の温度が1650℃に保持し、10−2Pa以下の真空下、アルミニウム線材(純度99.9質量%、直径2.0mm)を7.0g/分の速度で1時間供給する蒸着を行った後、室温まで冷却した。これを6サイクル行い、各蒸着サイクル毎に、キャビティの底面に発生した浸食深さを市販機(キーエンス社製レーザー変位計「LB−1000」)で測定した。浸食深さが600μm/hr以上となったボートについては「急激な浸食有り」と判定した。
(5)浸食部のクラックの有無:蒸着6サイクル後のボートを浸食部で切断し、浸食部の断面を走査型電子顕微鏡(日本電子社製「型式JSM6301F」)を用いて観察した。浸食部底面のクラックの有無およびクラックが存在する場合はその最大長さを測定し、「◎」クラック無し、「○」クラック長さが500μm未満、「△」クラック長さが500μm以上1000μm未満、「×」クラック長さが1000μm以上、として判定した。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
【表3】

【0020】
実施例と比較例の対比から、本発明で製造されたセラミックス焼結体で構成されたボートは、キャビティ底面の急激な浸食が著しく抑制されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明で製造されたセラミックス焼結体は、ボートの他に、例えばアンモニア等の黒鉛ヒーターを腐食させる雰囲気下で用いる加熱ヒーターとして使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二硼化チタン粉末と窒化硼素粉末を含有する原料粉末を成型後、非酸化性雰囲気下で焼結する方法において、二硼化チタン粉末が、レーザー回折散乱式粒度分布測定機にて測定された質量基準の粒度において、32〜64μmの領域の頻度が全領域の30%以上、4μm以上32μm未満の領域の頻度が全領域の45%以上、4μm未満の領域の頻度が全領域の10%未満であることを特徴とするセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項2】
原料粉末が、二硼化チタン粉末45〜60質量%、窒化硼素粉末40〜55質量%、酸化ストロンチウム粉末及び炭酸ストロンチウム粉末の少なくとも一方が3質量%以下(0質量%を含まない)からなることを特徴とする請求項1に記載のセラミックス焼結体の製造方法。

【公開番号】特開2008−63184(P2008−63184A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242601(P2006−242601)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】