説明

セラミックフィルタの製造方法

少ない成膜回数で形成され、欠陥が少なく、膜厚が薄く均一なセラミックフィルタの製造方法を提供する。平均細孔径が0.5〜10nmのセラミック分離膜に、自身の膜化後の平均細孔径が前記セラミック分離膜より大きく、かつ10nm以下となるセラミックゾルを、セラミック分離膜面に接触させ、乾燥、焼成してセラミック分離膜の欠陥部を修復する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックフィルタの製造方法に係り、更に詳しくは、欠陥が少なく、膜厚が薄く均一なセラミックフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、多孔質基材上にセラミック多孔質膜を成膜する方法は種々のものが知られている。例えば、ホットコート法が知られている(非特許文献1を参照)。これは、加熱したチューブ基材の外表面に、シリカゾルを含む布を用いチューブ基材に擦りつけて塗布することにより多孔質膜を成膜する方法である。
【0003】
チューブ形状や円筒レンコン状のモノリス形状の多孔質基材の内表面にろ過成膜により多孔質膜を形成する方法も公知であり(特許文献1を参照)、多孔質基材のゾル液が接触する内表面側より外表面側を低圧に保持することにより多孔質基材の内表面に成膜するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−267129号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Journal of Membrane Science149(1988)127−135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ホットコート法は、基材表面全体を均一に成膜できないという問題があるほか、チューブ外表面しか成膜ができない。またモノリス型基材には、適用できない。一方、ろ過成膜法では、成膜後の乾燥時に基材細孔内に存在する溶媒が膜側に流れ出て膜剥がれが発生することがあり、その結果、焼成後基材表面に形成される多孔質膜に欠陥が生じるという問題がある。また、ディップコート法は、モノリス型基材への適用ができるが、成膜回数が多い。
【0007】
本発明の課題は、少ない成膜回数で形成され、欠陥が少なく、膜厚が薄く均一なセラミックフィルタの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、セラミック分離膜上に新たなセラミックゾルを送液して接触させた後に、乾燥、焼成を行うことにより、セラミック分離膜の欠陥部を修復する方法を採用することにより、上記課題を解決することができることを見出した。すなわち、本発明によれば、以下のセラミックフィルタの製造方法が提供される。
【0009】
[1]平均細孔径が0.5〜10nmのセラミック分離膜に、自身の膜化後の平均細孔径が前記セラミック分離膜より大きく、かつ10nm以下となるセラミックゾルを、前記セラミック分離膜面に接触させ、乾燥、焼成して前記セラミック分離膜の欠陥部を修復するセラミックフィルタの製造方法。
【0010】
[2]前記セラミックフィルタのセル内をセラミックゾルで満たし、前記セラミックフィルタを構成する基材側を低圧にして、前記セラミックゾルにより前記セラミック膜の欠陥部を修復する前記[1]に記載のセラミックフィルタの製造方法。
【0011】
[3]前記セラミックゾルの成分がシリカである前記[1]または[2]に記載のセラミックフィルタの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
セラミック分離膜上に新たなセラミックゾルを送液して接触させた後に、乾燥、焼成を行うことにより、セラミック分離膜の欠陥部を修復することができる。すなわち、欠陥部を選択的に埋めることにより、膜を厚く形成する必要がなく、高分離能、高透過速度、低コストの膜を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態であるセラミックフィルタの断面図である。
【図2】本発明の一実施形態であるセラミックフィルタを示す斜視図である。
【図3】図3(a)(b)は、セラミック分離膜の修復について説明する図である。
【図4】UF膜が形成される場合のセラミック分離膜を説明する図である。
【図5】細孔直径に対するNリーク割合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0015】
図1に本発明のセラミック分離膜1を示す。セラミック分離膜1は、精密濾過膜(MF膜)上に限外濾過膜であるUF膜14が形成され、そのUF膜14上にセラミック膜1が形成されている。セラミック分離膜1は、セラミックゾルを複数回積層した多層構造とされ、平均細孔径が0.5〜10nmである。セラミック分離膜1としては、例えば、チタニア、シリカ等を採用することができる。
【0016】
次に図2を用いて、本発明のセラミック分離膜1が形成されるセラミックフィルタ10の一実施形態を説明する。本発明のセラミックフィルタ1は、隔壁22により画成され軸方向の流体通路を形成する複数のセル23を有するモノリス形状を成している。本実施形態では、セル23は円形断面を有し、その内壁面に、図1に示されたようなセラミック分離膜1が形成されている。セル23は、六角断面や四角形断面を有するように形成してもよい。このような構造によれば、例えば、混合体(例えば、水と酢酸)を入口側端面25からセル23に導入すると、その混合体を構成する一方が、セル23内壁に形成されたセラミック分離膜1において分離され、多孔質の隔壁22を透過してセラミックフィルタ1の最外壁から排出されるため、混合体を分離することができる。つまり、セラミックフィルタ1に形成されたセラミック分離膜1は、分離膜として利用することができ、例えば、水と酢酸に対して高い分離特性を有する。
【0017】
次に、セラミック分離膜1の製造方法について、セラミック分離膜1は、図3(a)に示すように、欠陥部2が存在している。この欠陥部2を修復するために、セラミック分離膜1の形成された多孔質基材11を、その貫通孔が縦方向になるように成膜チャンバー内に設置する。セラミックゾル液をタンクに貯留し、送液ポンプを用い、バルブを介して、成膜チャンバー内に設置された多孔質基材11の内壁面に下側より送液する。これにより、多孔質基材11のセラミック分離膜1が形成された内壁面に対してセラミックゾル液が接触する。
【0018】
修復に使用するセラミックゾルとして、それ自身が膜になった時の細孔径がセラミック分離膜の細孔径より大きくなるものを使用するのは、分離膜の透過速度を低下させないためである。また、それ自身が膜になった時の細孔径がセラミック分離膜の細孔径を10nm以下と規定するのは、それ以上では修復操作を何回も行う必要があるからである。
【0019】
次いで、セラミックゾル液が多孔質基材10の上端部を越えた段階で送液を止めて、多孔質基材11の下側からセラミックゾル液を排出する。さらに好ましくは送液を止めた後、真空ポンプにより、多孔質基材11の二次側(膜を形成しない面側)から真空吸引する。その後、バルブの開閉を調節して、多孔質基材11の下側からセラミックゾル液を排出する。二次側を低圧にすることで、より選択的に欠陥部を埋めることができる。尚、例えば、セラミック分離膜の端部に欠陥が多く、その部分のみ修復する場合は、スラリーをその部分のみに浸漬すればよい。
【0020】
次に、セラミックゾル液を排出し終えた後、多孔質基材11を焼成することにより、図3(b)に示すように、多孔質基材11の内壁面に欠陥部2が修復されたセラミック分離膜1が形成される。すなわち、セラミック分離膜1の形成の最終工程において、ろ過成膜を行うことにより、欠陥部2を修復したセラミック分離膜1とすることができる。
【0021】
以上の工程により、セラミック分離膜1が形成される。すなわち、図4に示すように、セラミック分離膜1を薄膜としても欠陥が少なく形成することができる。つまり、高透過速度、低コスト、高分離能を有するシリカ膜1とすることができる。尚、スラリーの接触方法は、上述に限らず、基材の上部からスラリーを自然落下させてもよい。
【0022】
これに対し、本発明の修復を行わずに欠陥の少ない膜を形成しようとする場合、成膜の繰り返し回数が増加し、結果的に膜が厚くなり、低透過速度、高コストの膜となってしまう。
【0023】
以上のようにして得られた、内壁面にナノレベルの薄膜状のシリカ膜1が形成されたセラミックフィルタ1は、混合液体等を分離するフィルタとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の製造方法を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。まず、本実施例で使用した多孔質基材、セラミックゾル液及び、成膜方法等について説明する。
【0025】
(実施例)
表1に示す成膜条件で下記手順によりセラミック分離膜修復を実施した。
【0026】
(1)セラミック分離膜修復
試料(セラミック分離膜)を成膜チャンバー内に設置し、セラミックゾル液を多孔質基材11内に送液し、多孔質基材10の上端部を越えた段階で送液を止めた。その後、バルブの開閉を調節して、多孔質基材11の下側からセラミックゾル液を排出した。真空吸引する場合は、セラミックゾル液の排出前に真空ポンプにより、多孔質基材11の二次側(膜を形成しない面側)から真空吸引(ろ過吸引)した。
【0027】
(2)乾燥
セラミックゾルを流し込んだ多孔質基材11のセル23内を室温の風が通過するようにドライヤを用いて1時間乾燥させた。乾燥のための冷風がセル23内を通過する速度が、5m/秒となるようにした。
【0028】
(3)焼成
電気炉で100℃/hrにて昇温し、500℃で1時間保持した後、100℃/hrで降温した。
【0029】
(評価)
(1)Nリーク量
10nm以上の細孔を欠陥とみなし、Nリーク量を修復前後で測定した。Nリーク量は、非特許文献1で記載されている方法の中で被凝縮物質を飽和状態で流下させたときのガス流量を測定した。尚、Nリーク量は、被凝縮物質を流さない場合のN透過量に対する割合で表示した。ただし、非特許文献1では水蒸気と窒素を使用しているのに対し、n−ヘキサンと窒素を使用した。非凝縮物質を飽和状態で流下させたときの流下するガスは、細孔直径50nm以上の欠陥を透過する。
【0030】
(2)水/エタノール分離試験
水−エタノールの分離試験を行った。具体的には、送液速度12L/minの送液速度でφ30×65Lのシリカ膜モノリス(セル内径3mm、37セル)のセル内を温度70℃、エタノール濃度90%の水溶液を流通させ、基材側面から約2〜5Paの真空度で減圧し、基材側面からの透過液を液体窒素トラップで捕集した。トラップで捕集した透過液と透過前の原液のエタノール濃度から分離係数を算出した。
【0031】
(3)細孔径分布
細孔径分布の測定を行った。細孔径の測定原理は、非特許文献1で記載されている方法と同じであるが、文献では水蒸気と窒素を使用しているのに対し、本測定では、n−ヘキサンと窒素を使用した。
【0032】
(結果)
修復前後のNリーク量を表1に示す。なお、表1における修復ゾルの細孔径は、セラミック分離膜の欠陥部の修復を行ったセラミックゾルの膜化後の平均細孔径である。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、実施例1−1〜2−3において、修復後のNリーク割合が大幅に減少した。一方、比較例1−1〜2−1においては、ほとんど効果が得られなかった。
【0035】
また、実施例1−2,2−3および比較例2−1の水/エタノール分離試験の結果を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示すように、実施例1−2、2−3および比較例2−1は、修復条件が異なるものであるが、実施例1−2では、透過速度は修復前後で若干低下するが、分離係数は向上した。実施例2−3では、さらに真空吸引をすることで欠陥を選択的に修復することができたため、透過速度は変化せず、分離係数のみ大幅に向上できた。これらに対し、本発明範囲外の条件で修復処理を行った比較例2−1では、分離係数、透過速度ともに変化しなかった。
【0038】
さらに図5に実施例1−1及び比較例1−1の細孔直系に対するNリーク割合を示す。実施例1−1では、修復前や比較例1−1よりも、Nリーク割合が減少していることが分かる。なお図5のNリーク割合0.5のときの細孔直径が表1のセラミック分離膜の細孔径に対応する。
【0039】
以上のように、セラミック分離膜に対して、セラミックゾルをセラミック分離膜上に送液した後に、基材側を低圧にしてセラミック分離の欠陥部2をセラミックゾルで埋めて修復することにより、薄く欠陥の少ないセラミック分離膜1を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、少ない成膜回数で、粗大細孔や欠陥が少なく、膜厚が薄く均一な膜を得ることができるため、このようなセラミック分離膜が形成されたセラミックフィルタは、フィルタとして好適に用いることができる。また、内壁面にナノレベルの薄膜状のセラミック分離膜が形成されたセラミックフィルタは、酸性あるいはアルカリ性溶液、あるいは有機溶媒中での分離除去等、有機のフィルタが使用できない箇所にも用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均細孔径が0.5〜10nmのセラミック分離膜に、自身の膜化後の平均細孔径が前記セラミック分離膜より大きく、かつ10nm以下となるセラミックゾルを、前記セラミック分離膜面に接触させ、乾燥、焼成して前記セラミック分離膜の欠陥部を修復するセラミックフィルタの製造方法。
【請求項2】
前記セラミックフィルタのセル内をセラミックゾルで満たし、前記セラミックフィルタを構成する基材側を低圧にして、前記セラミックゾルにより前記セラミック膜の欠陥部を修復する請求項1に記載のセラミックフィルタの製造方法。
【請求項3】
前記セラミックゾルの成分がシリカである請求項1又は2に記載のセラミックフィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−506700(P2010−506700A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511296(P2009−511296)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際出願番号】PCT/JP2007/070767
【国際公開番号】WO2008/050818
【国際公開日】平成20年5月2日(2008.5.2)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】