説明

セラミック多孔体及びその製造方法

【課題】真空チャックなどの吸引チャックによって保持することが可能なセラミック多孔体と、このセラミック多孔体の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミック多孔体1は、方形の平板状であり、4つの側端面のうちの1面にセラミックスラリーの浸漬により形成された低通気性部分1aが設けられている。この低通気性部分1aに真空チャックを当ててセラミック多孔体1をしっかりと保持し、運搬ないし移動させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶湯や空気等の流体を濾過して除塵するためのフィルタ等に好適なセラミック多孔体と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内部連通空間を有する3次元網状骨格構造の合成樹脂発泡体、例えばセル膜のない軟質ポリウレタンフォームをセラミックスラリーに浸漬し、セラミックをポリウレタンフォームの骨格に付着させ、これを乾燥、焼成することによって得られた3次元網状骨格を有するセラミック多孔体が知られている(例えば、特開平7−149581号、特開2004−330023号)。
【0003】
このセラミック多孔体は、かさ比重が小さく、耐熱性が高く、不活性で、通気抵抗、即ち圧力損失が低い等の特徴を有するため、厨房用グリスフィルター、触媒担体、通気性断熱材、溶融金属濾過材等に用いられている。
【0004】
セラミック多孔体をこれらの用途に使用するにあたっては、セラミック多孔体を機枠などにセットする必要がある。
【特許文献1】特開平7−149581号
【特許文献2】特開2004−330023号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セラミック多孔体よりなるフィルタを機枠にセットする場合、セラミック多孔体を保持して運搬ないし移動させることが必要になるが、セラミック多孔体は通気性を有するため、作業効率の良い真空チャックを用いることができなかった。
【0006】
本発明は、真空チャックなどの吸引チャックによって保持することが可能なセラミック多孔体と、このセラミック多孔体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のセラミック多孔体は、外面の一部に、吸引チャック用の低通気性部分が設けられていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2のセラミック多孔体は、請求項1において、該セラミック多孔体は平板状であり、側端面の一部が前記低通気性部分となっていることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3のセラミック多孔体の製造方法は、請求項1又は2のセラミック多孔体を製造する方法であって、前記低通気性部分を形成していない且つ、未焼成のセラミック多孔体素体の一部にセラミックスラリーを付着させ、乾燥し、焼成することを特徴とするものである。
【0010】
請求項4のセラミック多孔体の製造方法は、請求項3において、セラミック多孔体素体の前記一部をセラミックスラリーに浸漬することによりセラミックスラリーを付着させることを特徴とするものである。
【0011】
請求項5のセラミック多孔体の製造方法は、請求項3又は4において、内部連通空間を有する3次元網状骨格構造の合成樹脂発泡体をセラミックスラリーに浸漬して前記セラミック多孔体素体を製造することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセラミック多孔体は、外面の一部が低通気性部分となっているので、この低通気性部分に真空チャックなどの吸引チャックを当て、セラミック多孔体を保持することができる。従って、セラミック多孔体を効率よく運搬ないし移動させることができる。
【0013】
このセラミック多孔体の低通気性部分は、低通気性部分を形成していない且つ未焼成のセラミック多孔体素体の一部にセラミックスラリーを付着させ、乾燥後、焼成することにより容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明のセラミック多孔体及びその製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
本発明のセラミック多孔体は、好ましくは、内部連通空間を有する3次元網状骨格構造の合成樹脂発泡体を基材として作られるものである。即ち、セラミック多孔体は、好ましくは、合成樹脂発泡体をセラミックスラリーに浸漬し、合成樹脂発泡体にセラミックスラリーを付着せしめた後、その一部に低通気性部分形成用セラミックスラリーをさらに付着させ、乾燥、焼成し、該合成樹脂発泡体を熱分解又は焼却して得られる。
【0016】
このような合成樹脂発泡体としては、内部連通空間を有する3次元網状骨格構造を有すればいずれのものも使用できるが、軟質ポリウレタンフォーム、特にセル膜のない軟質ポリウレタンフォームが好適に使用できる。このセル膜のないポリウレタンフォームとしては、発泡時のコントロールによりセル膜をなくしたもの、あるいはアルカリ処理、熱処理、水圧処理等によりセル膜を除去したものが使用でき、セル数、空孔率その他の物性は用途に応じて選択することができる。
【0017】
セラミックとしては、アルミナ、シリカ、コーディエライト等の酸化物セラミックのほか、炭化珪素、窒化珪素などの非酸化物セラミック、あるいはサイアロン等が挙げられる。セラミックスラリーは、このセラミックの微粒子を水などの液体に分散させたものである。微粒子の平均粒径は0.5〜200μm程度が好ましい。スラリー濃度は65〜85wt%程度が好ましい。
【0018】
なお、セラミックスラリーの安定性を増加させるため粘土を配合することができる。この粘土としては、例えば木節粘土、蛙目粘土などが使用できる。また、配合量は全セラミック成分に対し0〜15%とすることが好ましい。15%より多く配合するとチクソトロピー指数が変化して目づまりの原因となる。
【0019】
そのほかセラミックスラリーには必要に応じポリビニルアルコール、カルボキシルメチルセルロース等の結合剤を配合することによりチクソトロピー性を調整することもできる。
【0020】
なお、セラミックスラリーの粘度は目的とするセラミック多孔体のセルの大きさなどに応じ、水の添加量を加減して調節することができる。
【0021】
このセラミックスラリーに、上記3次元網状骨格構造の合成樹脂発泡体を浸漬し、余剰泥漿を除去し、セラミック多孔体素体とする。次いで、このセラミック多孔体素体の一部に上記のセラミックスラリー又はそれよりも濃厚なセラミックスラリーを付着させる。好ましくは、セラミック多孔体素体の一部をセラミックスラリーに浸漬することにより、セラミックスラリーを付着させる。その後、好ましくは、このセラミックスラリーを付着させた面を平坦な板に当てたりすることにより平坦とする。次いで、乾燥し、焼成炉で1000〜1500℃程度の温度で焼成することにより、合成樹脂発泡体に対応したセル構造の内部連通空間を有し、かつ一部が低通気性部分となっている3次元網状骨格構造のセラミック多孔体を得ることができる。
【0022】
なお、第1図はこのようにして得られたセラミック多孔体の斜視図である。このセラミック多孔体1は、方形の平板状であり、4つの側端面のうちの1面にセラミックスラリーの浸漬により形成された低通気性部分1aが設けられている。この低通気性部分1aに真空チャックを当ててセラミック多孔体1をしっかりと保持し、運搬ないし移動させることができる。
【0023】
なお、セラミックスラリーを浸漬することにより形成される低通気性部分1aの厚さは1〜5mm特に2〜3mm程度が好ましい。低通気性部分1aの通気度は、セラミック多孔体1を真空チャックによって脱落することなく保持できる程度であればよい。低通気性部分1aの嵩密度は、セラミック多孔体を構成するセラミックの真比重の50〜100%特に70〜100%程度であることが好ましい。このように嵩密度が真比重に近い低通気性部分は、実質的には非通気層といいうるものである。
【0024】
第1図のセラミック多孔体1は方形の平板状であるが、多角形の平板状であってもよく、円板状、楕円板状であってもよい。ただし、真空チャックで吸引保持するためには、側端面が平面であることが好ましい。
【0025】
方形板状のセラミック多孔体を金属溶湯のフィルタとして用いる場合、一辺の長さは30〜1000mm厚さは5〜50mm程度が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0026】
なお、セラミック多孔体をガスフィルタなどに用いる場合には、第2図に示すような円筒状のセラミック多孔体2としてもよい。この場合、円筒の一方の端面に低通気性部分2aを設けるのが好ましいが、双方の端面に低通気性部分を設けてもよい。
【実施例】
【0027】
第1図に示すセラミック多孔体を次のようにして製造した。
【0028】
平均粒径40μmの炭化珪素70重量部と、木節粘土10重量部と、ポリビニルアルコール1重量部と、水19重量部とを混合してセラミックスラリーを調製した。
【0029】
1インチ(25mm)当たりセル数が10個のセル膜のない3次元網状骨格構造の軟質ポリウレタンフォーム(大きさ15×50×50mm)を上記スラリーに浸漬した後、引き上げ、余分なスラリーを滴下させて除去し、セラミック多孔体素体とした。次いで、このセラミック多孔体素体の一端を深さ2mmまで上記スラリーに浸漬し、次いでスラリーから引き上げ、平板に当てて端面を平坦とした。その後、十分に乾燥し、次いで1300℃で6時間焼成を行ってセラミック多孔体を得た。
【0030】
このセラミックス多孔体は、正方形板状であり、一端面が低通気性部分となっているものである。この低通気性部分に真空チャックを当てたところ、セラミック多孔体をしっかりと保持することができ、金属溶湯を用いた鋳造装置のフィルタ設置部に容易に出し入れすることができた。
【0031】
比較のために、セラミック多孔体のその他の面に真空チャックを当てたが、保持することは全くできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施の形態に係るセラミック多孔体の斜視図である。
【図2】別の実施の形態に係るセラミック多孔体の斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
1,2 セラミック多孔体
1a,2a 低通気性部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面の一部に、吸引チャック用の低通気性部分が設けられていることを特徴とするセラミック多孔体。
【請求項2】
請求項1において、該セラミック多孔体は平板状であり、側端面の一部が前記低通気性部分となっていることを特徴とするセラミック多孔体。
【請求項3】
請求項1又は2のセラミック多孔体を製造する方法であって、前記低通気性部分を形成していない且つ、未焼成のセラミック多孔体素体の一部にセラミックスラリーを付着させ、乾燥し、焼成することを特徴とするセラミック多孔体の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、セラミック多孔体素体の前記一部をセラミックスラリーに浸漬することによりセラミックスラリーを付着させることを特徴とするセラミック多孔体の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4において、内部連通空間を有する3次元網状骨格構造の合成樹脂発泡体をセラミックスラリーに浸漬して前記セラミック多孔体素体を製造することを特徴とするセラミック多孔体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−303118(P2008−303118A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−152980(P2007−152980)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】