説明

セルロースアセテートフィルム

本発明は、光学補償用として使用されるセルロースアセテートフィルムに関するものであって、厚さ方向(Rth)のレターデーションが低いセルロースアセテートフィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学補償用として使用されるセルロースアセテートフィルムに関するものであって、厚さ方向(Rth)のレターデーション(retardation)が低いセルロースアセテートフィルム(cellulose acetate film)に関する。
【0002】
さらに、本発明は、上記セルロースアセテートフィルムを用いた光学補償シート、偏光板、および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0003】
セルロースアセテートフィルムは強度が強く、難燃性であるため、各種写真または光学材料に使用される。セルロースアセテートフィルムは、その他の重合体フィルムと比較して光学異方性が低いため、相対的に低いレターデーションを提供する。したがって、偏光板などに使用される。
【0004】
最近、液晶表示装置に対して、画質改善などの高機能化が強く要求されており、この材料である偏光板用セルロースアセテートフィルムに対しても高機能化を満足させる特性が求められている。特に、IPS(In Plain Switching)モードの液晶表示装置では、色度変移問題およびコントラスト比などを改善させるために、セルロースアセテートフィルムの光学的異方性(R:フィルム面内におけるレターデーション値、Rth:フィルム厚さ方向におけるレターデーション値)を低くするように要求されている。したがって、これを満足するセルロースアセテートフィルムの開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、光学フィルムとして厚さ方向のレターデーション値が低いセルロースアセテートフィルムを提供することをその目的とする。より具体的に、本発明は、IPSモードの液晶表示装置において、色度変移およびコントラスト比を改善した光学補償フィルムを提供することをその目的とする。
【0006】
また、本発明は、これら光学特性を満足するためのレターデーション低下剤(inhibitor(s)reducing retardation)を提供することをその目的とする。
【0007】
さらに、本発明は、上記セルロースアセテートフィルムを用いた光学補償シート、偏光板、および液晶表示装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、光学的特性に優れたセルロースアセテートフィルムに関するものであって、面内のレターデーション値が0〜10nmであり、厚さ方向のレターデーション値が−12〜25nmの優れた光学的特性を示すセルロースアセテートフィルムに関する。
【0009】
より具体的に本発明は、R(λ)およびRth(λ)が下記式(I)、(II)を満足するセルロースアセテートフィルムに関する。
【0010】
[数1]
0≦R(588.9)≦10、かつ、|Rth(588.9)|≦25 (I)
[数2]
|R(400)−R(700)|≦10、かつ、|Rth(400)−Rth(700)|≦35 (II)
(式中、R(λ)は波長λnmにおける面内のレターデーション値(単位:nm)であり、Rth(λ)は波長λnmにおける膜厚方向のレターデーション値(単位:nm)である。)
【0011】
これら条件を満足するために、本発明によるセルロースアセテートフィルムは、添加剤として下記一般式(1)の化合物を1種以上含むことを特徴とする。
【0012】
【化1】

(式中、XはOまたはSであり、R、R、R、Rは各々独立して水素、(C1−C7)アルキル、(C6−C20)アリール、(C3−C20)シクロアルキル、(C2−C7)アルケニル、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む5員〜7員のヘテロシクロアルキル、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む(C4−C20)のヘテロアリールから選択され、
上記R、R、R、Rのアルキル、アリール、シクロアルキル、アルケニル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリールは(C1−C7)アルキル、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、(C6−C20)アリール、(C2−C7)アルケニル、(C3−C20)シクロアルキル、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む5員〜7員のヘテロシクロアルキルまたはN、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む(C4−C20)のヘテロアリールから選択される1つ以上にさらに置換でき、
上記R、R、R、Rから選択される2つの置換基が独立して(C2−C5)アルキレンにより連結されて指環族環を形成でき、但し、上記R、R、R、Rが同時に水素である場合は除く。)
【0013】
より具体的に上記一般式(1)において、上記R、R、R、Rは各々独立して水素、(C1−C5)アルキル、(C6−C12)アリール、(C2−C5)アルケニルから選択され、上記アルキル、アリール、アルケニルは水素、(C1−C7)アルキル、アミノ、(C6−C20)アリール、(C2−C7)アルケニル、(C3−C20)シクロアルキルから選択される1つ以上にさらに置換でき、
上記R、R、R、Rから選択される2つの置換基が独立して(C2−C3)アルキレンにより連結されて指環族環を形成でき、但し、上記R、R、R、Rが同時に水素である場合は除く。
【0014】
以下、本発明の各構成について具体的に説明する。
先ず、セルロースアセテートフィルムについて説明する。本発明では上記セルロースアセテートフィルムの密度が制限されることはないが、約1.2〜1.35である。
【0015】
セルロースアセテートフィルムの厚さ方向のレターデーション値は−12〜25nmである。厚さ方向のレターデーション値は−5〜25nmであることが好ましく、0〜25nmであることがさらに好ましく、0〜15nmであることが最も好ましい。
【0016】
セルロースアセテートは、セルロースとアセト酸のエステルであって、セルロースを構成するグルコース単位の2位、3位、および6位に存在するヒドロキシル基の水素原子の全部または一部がアセチル基で置換されている。セルロースアセテートの置換度は制限されることはないが、好ましくは2.7以上、さらに好ましくは2.7〜3.0である。上記置換度はASTMのD−817−91に準じて測定することができる。
【0017】
本発明でセルロースアセテートの分子量の範囲は制限されることはないが、重量平均分子量の範囲が200,000〜350,000であることが好ましい。また、セルロースアセテートの分子量分布度Mw/Mn(Mwは重量平均分子量、Mnは水平均分子量)が1.4〜1.8であることが好ましく、1.5〜1.7であることがさらに好ましい。
【0018】
セルロースアセテートフィルムは、セルロースアセテートドープ溶液を使用する溶媒キャスト法により製造することが好ましい。溶媒キャスト法は、セルロースアセテートを溶媒中に溶解した溶液(ドープ)を支持体上にキャスティングし、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。
【0019】
セルロースアセテートドープ溶液の原料は、セルロースアセテート粒子を用いることが好ましい。この時、上記セルロースアセテート粒子の90重量%以上は、その平均粒径が0.5〜5mmであるものを用いることが好ましい。また、セルロースアセテート粒子の50重量%以上は、その平均粒径が1〜4mmであるものが好ましい。
【0020】
セルロースアセテート粒子は、可能であれば、球状のものが好ましく、その含水率が2重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下となるように乾燥させてドープ溶液に製造することが好ましい。
【0021】
次に、セルロースアセテートフィルムに使用する添加剤について説明する。
溶媒キャスト法に使用するセルロースアセテート溶液(ドープ)としては、各調製工程の用途に応じる各種添加剤、例えば、可塑剤、紫外線防止剤、劣化防止剤、微粒子、剥離剤、赤外線吸収剤、光学異方性調整剤などの添加剤を添加することができる。このような添加剤の具体的な例は、当該分野で通常使用するものであれば制限されずに使用でき、その含量はフィルムの物性を低下させない範囲内で使用することが好ましい。添加剤を添加する時期は添加剤の種類により決定する。ドープ調製工程の最後に添加剤を添加してもよい。
【0022】
上記可塑剤はフィルムの機械的強度を向上させるためのものであって、可塑剤を使用する場合、フィルム乾燥工程の時間を短縮することができる。可塑剤としては、通常使用するものであれば制限されずに使用でき、例えば、リン酸エステルおよびフタル酸エステルまたはクエン酸エステルから選択されるカルボン酸エステルなどがある。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)、ビフェニルジフェニルホスフェート、およびトリクレジルホスフェート(TCP)などが挙げられる。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)、およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)などが挙げられる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)などが挙げられる。他のカルボン酸エステルの例には、ブチルオレート、メチルアセチルリジンオレート、ジブチルセバケート、および各種トリメリット酸エステルが挙げられる。好ましくは、フタル酸エステル(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)の可塑剤を用いることがよい。可塑剤の含量は、セルロースアセテート100重量部に対して2〜20重量部、さらに好ましくは5〜15重量部を用いる。
【0023】
上記紫外線防止剤としては、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾル系化合物、サリチル酸エステル系化合物、シアノアクリレート系化合物などを用いることができる。紫外線防止剤の量は、セルロースアセテート100重量部に対して0.1〜3重量部、さらに好ましくは0.5〜2重量部を用いる。
【0024】
劣化防止剤としては、例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル抑制剤、金属非活性化剤、脱酸素剤、光安定化剤(ヒンダードアミンなど)などが使用可能である。特に好ましい劣化防止剤の例には、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)およびトリベンジルアミン(TBA)が挙げられる。劣化防止剤の量は、セルロースアセテート100重量部に対して0.01〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜1重量部を用いる。
【0025】
上記微粒子は、フィルムのカール抑制、搬送性、ロール形態での接着防止または耐傷性を良好に維持するために添加されるものであって、無機化合物、有機化合物から選択される何れかを用いてもよい。例えば、無機化合物としては、ケイ素を含有する化合物、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化バリウム、酸化ジルコニウム、酸化ストロンチウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化スズ・アンチモン、炭酸カルシウム、タルク、クレー、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、ケイ酸カルシウム水和物、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、およびリン酸カルシウムなどが好ましく、さらに好ましくはケイ素を含有する無機化合物や酸化ジルコニウムなどが使用可能である。上記微粒子は、平均1次粒径が80nm以下であり、好ましくは5〜80nmであり、さらに好ましくは5〜60nm、最も好ましくは8〜50nmである。平均1次粒径が80nmを超えると、フィルムの表面平滑性が劣る。
【0026】
次に、本発明に使用されるレターデーション低下剤について説明する。
レターデーション低下剤は、フィルム厚さ方向のレターデーション値(Rth)を0に近くするために用いられるもので、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0027】
【化2】

(式中、XはOまたはSであり、R、R、R、Rは各々独立して水素、(C1−C7)アルキル、(C6−C20)アリール、(C3−C20)シクロアルキル、(C2−C7)アルケニル、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む5員〜7員のヘテロシクロアルキル、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む(C4−C20)のヘテロアリールから選択され、
上記R、R、R、Rのアルキル、アリール、シクロアルキル、アルケニル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリールは(C1−C7)アルキル、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、(C6−C20)アリール、(C2−C7)アルケニル、(C3−C20)シクロアルキル、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む5員〜7員のヘテロシクロアルキルまたはN、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む(C4−C20)のヘテロアリールから選択される1つ以上にさらに置換でき、
上記R、R、R、Rから選択される2つの置換基が独立して(C2−C5)アルキレンにより連結されて指環族環を形成でき、但し、上記R、R、R、Rが同時に水素である場合は除く。)
【0028】
より具体的に、上記一般式(1)において、上記R、R、R、Rは各々独立して水素、(C1−C5)アルキル、(C6−C12)アリール、(C2−C5)アルケニルから選択され、上記アルキル、アリール、アルケニルは水素、(C1−C7)アルキル、アミノ、(C6−C20)アリール、(C2−C7)アルケニル、(C3−C20)シクロアルキルから選択される1つ以上にさらに置換でき、
上記R、R、R、Rから選択される2つの置換基が独立して(C2−C3)アルキレンにより連結されて指環族環を形成でき、但し、上記R、R、R、Rが同時に水素である場合は除く。
【0029】
本発明に記載した「アルキル」およびその他の「アルキル」部分を含む置換体は、直鎖または分枝鎖状を両方とも含む。
【0030】
本発明に記載した「アリール」は、1つの水素を除去することにより、芳香族炭化水素から誘導された有機ラジカルであって、各環に適切に4〜7個、好ましくは5または6個の環原子を含む単一または融合環系を含む。具体的には、フェニル、ナフチル、ビフェニル、トリルなどを含むが、これに限定されることはない。
【0031】
本発明に記載した「ヘテロアリール」は、芳香族環骨格の原子であって、N、O、Sから選択される1〜3個のヘテロ原子を含み、残り芳香族環骨格の原子は炭素であるアリール基を意味するものであって、上記ヘテロアリール基は、環内のヘテロ原子が酸化されるか、四級化され、例えばN−オキシドまたは第4級塩を形成する2価アリール基を含む。具体的には、フリル、チオフェニル、ピロリル、ピラニル、イミダゾリル、ピラゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、オキサゾリル、オキサジアゾリル、トリアジニル、テトラジニル、トリアゾリル、テトラゾリル、フラザニル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニルなどが含まれ、これに制限されることはない。
【0032】
上記一般式(1)において、XはOまたはSであり、R、R、R、Rは各々独立して水素、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、i−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、2−エチルヘキシル、n−ノニル、デシル、ドデシル、ヘキサデシル、ビニル、アリル、ブテニル、ベンジル、フェニルであり、上記R、R、R、Rから選択される2つの置換基が独立して(C2−C3)アルキレンにより連結されて指環族環を形成でき、例えばRおよびRが(C2−C3)アルキレンにより連結され、イミダゾリジン(imidazolidine)環、テトラハイドロピリミジン(tetrahydro pyrimidine)環を形成でき、但し、上記R、R、R、Rは同時に水素である場合は除くことを特徴とする。
【0033】
より詳しくは、上記一般式(1)の化合物として、下記一般式(2)または一般式(3)に示す化合物から選択される1種以上を用いてもよいが、これらに制限されることはない。
【0034】
【化3】

【0035】
【化4】

【0036】
さらに好ましくは上記一般式(1)の化合物は、上記一般式(2)2−1の1−アリル−2−チオ尿素、一般式(2)2−2の1,3−ジメチル−2−チオ尿素、一般式(2)2−3の1,1,3,3−テトラメチル−2−チオ尿素、および一般式(3)3−1の1,3−ジアリル尿素、またはこれらの混合物から選択されるが、これらに制限されることはない。
【0037】
その他、必要に応じて光学異方性調整剤、波長分散調整剤などをさらに添加してもよい。これら添加剤は、当該分野で通常使用するものであれば制限されずに使用できる。
【0038】
次に、本発明のセルロースアセテートフィルムの製造方法について説明する。
本発明でセルロースアセテートフィルムを製造するためには、次のようなセルロースアセテート組成物、すなわちドープ溶液を製造する。
【0039】
セルロースアセテート組成物は、セルロースアセテート100重量部に対して下記一般式(1)のレターデーション低下剤を1〜20重量部含む。
【0040】
【化5】

(式中、XはOまたはSであり、R、R、R、Rは各々独立して水素、(C1−C7)アルキル、(C6−C20)アリール、(C3−C20)シクロアルキル、(C2−C7)アルケニル、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む5員〜7員のヘテロシクロアルキル、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む(C4−C20)のヘテロアリールから選択され、
上記R、R、R、Rのアルキル、アリール、シクロアルキル、アルケニル、ヘテロシクロアルキル、ヘテロアリールは(C1−C7)アルキル、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、(C6−C20)アリール、(C2−C7)アルケニル、(C3−C20)シクロアルキル、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む5員〜7員のヘテロシクロアルキルまたはN、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む(C4−C20)のヘテロアリールから選択される1つ以上にさらに置換でき、
上記R、R、R、Rから選択される2つの置換基が独立して(C2−C5)アルキレンにより連結されて指環族環を形成でき、但し、上記R、R、R、Rが同時に水素である場合は除く。)
【0041】
本発明でドープの固形分濃度は15〜25重量%、さらに好ましくは16〜23重量%である。ドープの固形分濃度が15重量%未満である場合は流動性が非常に高くてフィルムを形成しにくく、25重量%を超える場合は完全に溶解しにくくなる。
【0042】
本発明でセルロースアセテートの含量は全体固形分含量の70重量%以上、好ましくは70〜90重量%、さらに好ましくは80〜85重量%を用いる。また、上記セルロースアセテートは置換度、重合度、または分子量分布が異なる2種以上のセルロースアセテートを混合して使用してもよい。
【0043】
レターデーション低下剤は、セルロースアセテート100重量部に対して1〜20重量部の範囲で用いることが好ましい。
【0044】
溶媒キャスト方法でフィルムを製造する場合、セルロースアセテート組成物(ドープ)を製造するための溶媒は有機溶媒が好ましい。有機溶媒としてはハロゲン化炭化水素を用いることが好ましく、ハロゲン化炭化水素としては塩素化炭化水素、メチレンクロライドおよびクロロホルムがあり、この中、メチレンクロライドを用いることが最も好ましい。
【0045】
また、必要に応じてハロゲン化炭化水素以外の有機溶媒を混合して用いてもよい。ハロゲン化炭化水素以外の有機溶媒としてはエステル、ケトン、エーテル、アルコール、および炭化水素を含む。エステルとしてはメチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテートなどが使用可能であり、ケトンとしてはアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが使用可能であり、エーテルとしてはジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどが使用可能であり、アルコールとしてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなどを用いる。
【0046】
さらに好ましくはメチレンクロライドを主溶媒として使用し、アルコールを副溶媒として使用してもよい。具体的にはメチレンクロライドとアルコールを80:20〜95:5重量比で混合して使用してもよい。
【0047】
セルロースアセテート組成物は、常温、高温、または低温溶解法により製造してもよい。
【0048】
セルロースアセテート組成物の粘度は、40℃で1〜400Pa・sであることが好ましく、10〜200Pa・sであることがさらに好ましい。
【0049】
セルロースアセテートフィルムは、通常の溶媒キャスト方法により製造してもよい。より具体的に説明すると、製造されたドープ(セルロースアセテート組成物)は、先ず、貯蔵槽に貯蔵し、ドープに含まれているバブルを脱泡する。脱泡したドープは、ドープ排出口から回転数により高精度に定量送液できる加圧型定量ギアポンプを通して加圧型ダイに送くられ、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している金属支持体上に均一にキャスティングし、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、あまり乾かなかったドープ膜(ウェブという)を金属支持体から剥離する。製造されたウェブの両端をクリップに挟んで幅を維持しながらテンターに搬送して乾燥させ、その後、乾燥装置のローラに搬送して乾燥し、巻取機で所定長さに巻き取る。
【0050】
溶液の塗布時、空間温度は、−50℃〜50℃が好ましく、−30℃〜40℃がさらに好ましく、−20℃〜30℃が最も好ましい。低い空間温度でキャスティングされたセルロースアセテート溶液は、支持体上で瞬間的に冷却されてゲル強度が向上するため、有機溶媒が多量残存するフィルムが得られる。したがって、セルロースアセテートから有機溶媒を蒸発させることなく、支持体からフィルムを短時間で剥離することができる。空間を冷却する気体は、通常の空気、窒素、アルゴン、またはヘリウムを用いることができる。相対湿度は、0〜70%が好ましく、0〜50%がさらに好ましい。
【0051】
セルロースアセテート溶液をキャスティングする支持体(キャスティング部)の温度は、−50〜130℃が好ましく、−30℃〜25℃がさらに好ましく、−20℃〜15℃が最も好ましい。キャスティング部を冷却するために、キャスティング部に冷却した気体を導入してもよい。冷却装置をキャスティング部に配置して空間を冷却してもよい。冷却時、キャスティング部に水が当たらないように注意しなければならない。気体で冷却する場合は、気体を乾燥させておくことが好ましい。
【0052】
また、必要に応じてセルロースアセテートフィルムに表面処理を実施してもよい。表面処理は、通常、セルロースアセテートフィルムの接着性を改善するために実施する。表面処理方法としては、グロー放電処理、紫外線照査処理、コロナ処理、火炎処理、石鹸化処理などがある。
【0053】
また、セルロースアセテートフィルムは、遅延度を調節するように延伸してもよい。延伸度は−10〜100%範囲であることが好ましく、さらに好ましくは−10〜50%範囲であり、最も好ましくは−5〜30%範囲である。
【0054】
セルロースアセテートフィルムの厚さは、20〜140μm範囲であることが好ましく、40〜100μm範囲であることがさらに好ましい。
【0055】
本発明によるセルロースアセテートフィルムは、偏光板、光学補償シート、および液晶表示装置に使用でき、1枚または2枚以上積層して使用してもよい。
【発明の効果】
【0056】
本発明の一実施例によれば、厚さ方向のレターデーション値が低いセルロースアセテートフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明を一例を挙げて具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されることはない。
フィルムの物性は次の測定方法により測定した。
【0058】
1)光学異方性
は、複屈折測定器(商品名:KOBRA−WPR、王子計測機器(株)製)から波長589nmの光をフィルムの垂直方向に入射させて測定した。Rthは、上記R面内の遅軸(Slow Axis)(KOBRA−WPRにより測定)を傾斜軸にし、フィルムの垂直方向に対して40°傾斜した方向に波長589nmの光を入射させて測定したレターデーション値を測定した。
【0059】
(比較例1)
(セルロースアセテート組成物(ドープ)の製造)
下記の組成物を攪拌器に入れて30℃温度で溶解した。
下記組成において、紫外線防止剤としては、2-(2H-Benzotriazol-2-yl)-6-(1-methyl-1-phenylethyl)-4-(1,1,3,3-tetramethylbutyl)phenolを用いた。
【0060】
置換度2.87のセルロースアセテート粉体 100重量部
トリフェニルホスフェート 12重量部
紫外線防止剤 2重量部
二酸化ケイ素、平均粒径16nm 0.5重量部
塩化メチレン 440重量部
メタノール 50重量部
【0061】
得られたドープを30℃に加温した後、ギアポンプで送液し、絶対濾過精密度0.01mmの濾過紙で濾過し、再び絶対濾過精密度5μmのカートリッジ濾過装置で濾過した。
【0062】
(セルロースアセテートフィルムの製造)
濾過工程から得られたドープをキャスティングダイを用いて鏡面ステンレス支持体上にキャスティングして剥離した。剥離時の残留溶媒量は20〜40wt%になるように調節した。テンターに供給した後、フィルムの幅方向に105%延伸し、テンターからフィルムが出た後、フィルムの左右側端を150mmずつ除去した。両端が除去されたフィルムを乾燥器を用いて乾燥させ、乾燥器から出たフィルムの両端を3cm裁断し、先端から2〜10mm部分に高さ100μmのナーリング加工を施してロール状に巻き取った。得られた試料は上述した方法により、セルロースアセテートフィルムの厚さ方向のレターデーション(Rth)値を測定した。
【0063】
(実施例1〜7)
(セルロースアセテートフィルムの製造)
比較例1の組成物中、トリフェニルホスフェートの代わりに、表1に記載したレターデーション低下剤を添加したことを除いては比較例1と同様に製造した。セルロースアセテート粉体100重量部に対して、下記表1に示した化合物をそれぞれ量を異なるようにして混合タンクに投入、加熱、攪拌することにより、セルロースアセテート組成物(ドープ)を製造した。
【0064】
【表1】

製造したドープを用いて上記比較例と同様の方法でフィルムを製造し、その結果を下記表2に示した。
【0065】
【表2】

【0066】
上記表に示すように、従来の可塑剤とは異なり、実施例に記載した光学異方性調整剤を投入する場合、低いR、Rthが得られることを確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、IPSモードの液晶表示装置において、色度変移およびコントラスト比を改善した光学補償シートを工業用に提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される、厚さ方向(Rth)についてのレターデーション低下剤を1種以上含むことを特徴とするセルロースアセテートフィルム。
【化1】

(式中、XはOまたはSであり、R、R、R、Rは各々独立して水素、(C1−C7)アルキル、(C6−C20)アリール、(C3−C20)シクロアルキル、(C2−C7)アルケニル、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む5員〜7員のヘテロシクロアルキル、及び、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む(C4−C20)のヘテロアリールから選択され、
前記R、R、R、Rのアルキル、アリール、シクロアルキル、アルケニル、ヘテロシクロアルキル又はヘテロアリールは、(C1−C7)アルキル、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、(C6−C20)アリール、(C2−C7)アルケニル、(C3−C20)シクロアルキル、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む5員〜7員のヘテロシクロアルキル、及び、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む(C4−C20)のヘテロアリールから選択される1つ以上の置換基に置換することができ、
前記R、R、R、Rが同時に水素とならず、前記R、R、R、Rから選択される2つの置換基が独立して(C2−C5)アルキレンにより連結されて指環族環を形成できる)
【請求項2】
前記R、R、R、Rは各々独立して水素、(C1−C5)アルキル、(C6−C12)アリール及び(C2−C5)アルケニルから選択され、前記アルキル、アリール又はアルケニルは、水素、(C1−C7)アルキル、アミノ、(C6−C20)アリール、(C2−C7)アルケニル及び(C3−C20)シクロアルキルから選択される1つ以上の置換基にさらに置換でき、
前記R、R、R、Rが同時に水素とならず、前記R、R、R、Rから選択される2つの置換基が独立して(C2−C3)アルキレンにより連結されて指環族環を形成できることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアセテートフィルム。
【請求項3】
前記一般式(1)の化合物は下記一般式(4)から選択されることを特徴とする請求項2に記載のセルロースアセテートフィルム。
【化6】

【請求項4】
前記フィルムのR(λ)およびRth(λ)が下記式(I)及び式(II)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のセルロースアセテートフィルム。
[数1]
0≦R(588.9)≦10、かつ、|Rth(588.9)|≦25 (I)
[数2]
|R(400)−R(700)|≦10、かつ、|Rth(400)−Rth(700)|≦35 (II)
(式中、R(λ)は波長λnmにおける面内のレターデーション値(単位:nm)であり、Rth(λ)は波長λnmにおける膜厚方向のレターデーション値(単位:nm)である。)
【請求項5】
セルロースアセテート100重量部に対して、下記一般式(1)から選択される1種以上のレターデーション低下剤を1〜20重量部含むことを特徴とするセルロースアセテート組成物。
[化1]

(式中、XはOまたはSであり、R、R、R、Rは各々独立して水素、(C1−C7)アルキル、(C6−C20)アリール、(C3−C20)シクロアルキル、(C2−C7)アルケニル、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む5員〜7員のヘテロシクロアルキル、及び、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む(C4−C20)のヘテロアリールから選択され、
前記R、R、R、Rのアルキル、アリール、シクロアルキル、アルケニル、ヘテロシクロアルキル又はヘテロアリールは、(C1−C7)アルキル、ハロゲン、ニトロ、シアノ、ヒドロキシ、アミノ、(C6−C20)アリール、(C2−C7)アルケニル、(C3−C20)シクロアルキル、N、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む5員〜7員のヘテロシクロアルキルまたはN、O、Sから選択される1つ以上の元素を含む(C4−C20)のヘテロアリールから選択される1つ以上の置換基に置換することができ、
前記R、R、R、Rが同時に水素とならず、前記R、R、R、Rから選択される2つの置換基が独立して(C2−C5)アルキレンにより連結されて指環族環を形成できる)
【請求項6】
紫外線防止剤、微粒子、可塑剤、劣化防止剤、剥離剤、赤外線吸収剤、光学異方性調整剤から選択される何れか1つまたは2つ以上の添加剤がさらに添加されたものであることを特徴とする請求項5に記載のセルロースアセテート組成物。
【請求項7】
請求項5または6に記載のセルロースアセテート組成物で製造されたことを特徴とするセルロースアセテートフィルム。
【請求項8】
請求項1から4の何れか1項に記載のセルロースアセテートフィルムを含むことを特徴とする光学補償シート。
【請求項9】
請求項1から4の何れか1項に記載のセルロースアセテートフィルムを含むことを特徴とする偏光板。
【請求項10】
請求項1から4の何れか1項に記載のセルロースアセテートフィルムを含むことを特徴とする液晶表示装置。
【請求項11】
前記液晶表示装置はIPSモードであることを特徴とする請求項10に記載の液晶表示装置。

【公表番号】特表2011−527761(P2011−527761A)
【公表日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517349(P2011−517349)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【国際出願番号】PCT/KR2009/003743
【国際公開番号】WO2010/005242
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(308007044)エスケー エナジー カンパニー リミテッド (53)
【Fターム(参考)】