説明

セルロースエステルとその製造方法

【課題】ゲル状異物の含有量が極めて少ないセルロースエステルの製造方法と当該製造方法によって製造されたセルロースエステルを提供する。
【解決手段】セルロースエステルを比表面積が30〜1000m/gの範囲内である二酸化ケイ素粒子で処理し、前記処理後のセルロースエステルから当該二酸化ケイ素粒子を除去する工程を有することを特徴とするセルロースエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル状異物の含有量が極めて少ないセルロースエステルの製造方法と当該製造方法によって製造されたセルロースエステルに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアセテートフィルムは、その強靭性と難燃性から各種の写真材料や光学材料にフィルムとして用いられている。例えば、セルロースアセテートフィルムは、代表的な写真感光材料の支持体である。また、セルロースアセテートフィルムは、その光学的等方性から、液晶表示装置にも用いられている。
【0003】
このようなセルロースアセテートの光学フィルムは、その用途が光学的ものであるため、光の透過に影響を与える光学的な欠点が少ないことが要求される。そして、従来のセルロースエステルフィルムの用途であれば、品質上問題のない微小な表面凹凸や異物、あるいは光学的欠陥でも光学フィルムでは問題となる。特に光学フィルムが液晶表示装置の構成体として用いられる場合には、透明であっても透過光を異常屈折するような、いわゆる輝点異物やゲル状異物のようなものも光学的な欠点となり品質上の問題となる。
【0004】
近年、これらの液晶表示装置がパソコンの表示装置として使用のみならず、テレビ受像機やDVD等の表示装置、あるいは携帯電話、PDA(携帯端末)の表示装置としての用途が広がりより一層光学的な欠点が少ないことが求められている。即ち、近年パソコン、テレビ受像機、コンピューターゲームの表示装置はますます大型化、大画面化され、かつフルハイビジョン液晶テレビに象徴されるように画像形成素子数(いわゆるドット数)は大きくなり、一画像形成素子当たりの領域面積は微小となってきている。
【0005】
このような技術動向に伴い液晶表示装置に用いられる偏光板保護フィルムや反射防止フィルムの光学フィルム、延伸された光学フィルムに求められる性能、性状も多様化してきている。一つには単位面積当たりより光学的な欠点の少ないフィルムを提供されることを求められている。
【0006】
これらの異物には、黒色異物、輝点異物、ゲル状異物がある。黒色異物は不純物等によるものであり、輝点異物は、主として未酢化に近いセルロースエステルなどが原因であり、屈折率が異なり透過光が異常屈折して生じるものである。一方ゲル状異物は、上記二つの異物と異なり、詳細な化学構造や発生機構が明らかにされておらずフィルム中に存在する量も多い異物となっている。
【0007】
黒色異物はセルロースアセテートなどのセルロースエステル製造中及び溶解工程での不純物の混入に起因しており、輝点異物の原因はエステル化の程度が異なるセルロースに起因している。
【0008】
上記のような黒色異物及び輝点異物は光学フィルムの製造時にセルロースアセテートを溶解した溶液(ドープ)を濾紙や金属フィルタ等でろ過することで取り除くことが可能である。しかしながら、ゲル異物に関しては、形状が不定形であるために目の細かい濾紙や金属フィルタを用いても取り除くことができていない。
【0009】
一方、特許文献1〜3にはセルロースエステルフィルムを製造する際に、二酸化ケイ素(珪藻土)をろ過助剤として用いることで異物を除去する方法が開示されている。しかしながら上記特許文献には二酸化ケイ素の比表面積や細孔容積などの吸着能力の指標、及びゲル状異物の除去能力に関する記載がなく、追試を行ってもゲル状異物を取り除く効果は十分ではなかった。一般的にろ過助剤として使用される珪藻土の比表面積は1〜5m/g程度のものであり、それ以上の比表面積を持つ二酸化ケイ素微粒子をろ過助剤として用いた時のゲル状異物の除去能力については何ら記載が無い。
【0010】
特許文献1では、嵩密度を規定することで濾過性を改善し、輝点異物が減少する記載がなされているが、ゲル状異物については何ら記載が無い。また、規定内の嵩密度の二酸化ケイ素微粒子を用いてもゲル状異物を取り除く効果は十分ではなかった。
【0011】
特許文献4では、スルホン基或いはカルボキシル基で置換されているろ過助剤を用いることが開示されている。しかし、これらの官能基ではアルカリ土類由来の不純物を取り除くことは可能であるが、ゲル状異物を取り除く効果は十分ではなかった。以上のように、セルロースエステル中に含まれるゲル状異物を除去することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−107629号公報
【特許文献2】特開2009−061618号公報
【特許文献3】特開2009−061619号公報
【特許文献4】特開2008−207366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題・状況にかんがみてなされたものであり、その解決課題は、ゲル状異物の含有量が極めて少ないセルロースエステルの製造方法と当該製造方法によって製造されたセルロースエステルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究の結果、セルロースエステルの製造方法において、セルロースエステルを溶解した溶液を比表面積が30〜1000m/gである二酸化ケイ素粒子で処理し、当該二酸化ケイ素粒子を取り除く工程を有することでゲル状異物が著しく低減されたセルロースエステルが得られることを見出し、本発明に至った。
【0015】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0016】
1.セルロースエステルを比表面積が30〜1000m/gの範囲内である二酸化ケイ素粒子で処理し、前記処理後のセルロースエステルから当該二酸化ケイ素粒子を除去する工程を有することを特徴とするセルロースエステルの製造方法。
【0017】
2.前記二酸化ケイ素粒子の細孔容積が、0.5〜2.0ml/gの範囲内であることを特徴とする前記第1項に記載のセルロースエステルの製造方法。
【0018】
3.前記二酸化ケイ素粒子を除去する工程において、ろ過助剤として二酸化ケイ素粒子を用いることを特徴とする前記第1項又は第2項に記載のセルロースエステルの製造方法。
【0019】
4.前記第1項から第3項までのいずれか一項に記載のセルロースエステルの製造方法によって製造されたことを特徴とするセルロースエステル。
【発明の効果】
【0020】
本発明の上記手段により、ゲル状異物の含有量が極めて少ないセルロースエステルの製造方法と当該製造方法によって製造されたセルロースエステルを提供することができる。
【0021】
したがって、コントラストが良好で光学欠点の少ない光学フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のセルロースエステルの製造方法は、セルロースエステルを比表面積が30〜1000m/gの範囲内である二酸化ケイ素粒子で処理し、前記処理後のセルロースエステルから当該二酸化ケイ素粒子を除去する工程を有することを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項4までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0023】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記二酸化ケイ素粒子の細孔容積が、0.5〜2.0ml/gの範囲内であることが好ましい。さらに、当該二酸化ケイ素粒子を除去する工程において、ろ過助剤として二酸化ケイ素粒子を用いることが好ましい。
【0024】
本発明の当該製造方法によれば、ゲル状異物の含有量が極めて少ないセルロースエステルを得ることができる。
【0025】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「〜」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0026】
<二酸化ケイ素微粒子>
本発明においては比表面積が30〜1000m/gである二酸化ケイ素微粒子が用いられるが、このような比表面積は粒子外側の表面だけでは達成できず、粒径を1μm程度に小さくしても達成することはできない。つまり粒子内部の多孔質空間内の表面が必要であるため、本発明で用いられる二酸化ケイ素微粒子は多孔質であることが好ましい。
【0027】
また、本発明に用いられる二酸化ケイ素微粒子は表面にシラノール基が無数に存在する二酸化ケイ素微粒子のことを言う。これにより極性の高い異物を補足することが可能になる。
【0028】
二酸化ケイ素は天然品と合成品に分類することができ、さらに結晶質、非晶質に分類することができる。
【0029】
天然品は珪藻土や活性白土に代表されるような天然に存在する二酸化ケイ素を微粒子として使用するものである。一方、合成品の二酸化ケイ素微粒子は乾式法、湿式法で合成され、湿式法の中ではさらに沈澱法、ゲル法、ゾルゲル法等に分類される。
【0030】
本発明における二酸化ケイ素微粒子は天然品でも合成品でも同等に使用可能であるが、非晶質の二酸化ケイ素微粒子が好適に使用でき、特に合成品の非晶質二酸化ケイ素微粒子が好ましい。
【0031】
本発明に用いられる二酸化ケイ素微粒子の合成方法としては湿式法で合成されていることが好ましく、中でもゾルゲル法で合成される二酸化ケイ素微粒子が好ましい。これらの方法で合成された二酸化ケイ素微粒子を用いることでろ過性が改良される。
【0032】
本発明における二酸化ケイ素微粒子は比表面積が30〜1000m/gであればゲル状異物を取り除くことができる。濾過性の観点から、比表面積は100〜900m/gが好ましく、300〜800m/gがさらに好ましい。
【0033】
本発明における二酸化ケイ素微粒子の粒径は特に制限は無いが濾過性と異物除去能力の観点から1〜100μmが好ましく、2〜50μmがさらに好ましく、5〜20μmが最も好ましい。粒子が粒子を大きくすることでろ過性が改良され、逆に粒子を小さくすることで異物の補足能力が向上するため上記範囲が好ましい。
【0034】
本発明における「細孔容積」とは、微粒子内に存在する空洞の体積のことをいい、本発明における二酸化ケイ素微粒子の細孔容積は0.5〜2.0ml/gであることが好ましい。異物の吸着性から0.8〜1.8ml/gが好ましく、1.0〜1.5ml/gがさらに好ましい。
【0035】
本発明における二酸化ケイ素微粒子の使用量は特に制限は無いが、生産性と吸着能力の観点から、セルロースエステルに対して0.1〜500質量%であることが好ましく、5〜200質量%がさらに好ましく、10〜100質量%が最も好ましい。
【0036】
本発明に用いられる二酸化ケイ素微粒子表面に存在するシラノール基は他の官能基と反応して表面処理されていてもよい。シラノール基と反応する官能基としては、例えば、ハロゲン、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基(水酸基)、アルコキシル基、酸クロライド基、アルデヒド基、エポキシ基、アルコキシシリル基、イソシアネート基などが挙げられる。
【0037】
本発明において、二酸化ケイ素微粒子を除去した後の溶液の二酸化ケイ素微粒子の含有量は、セルロースエステルに対して0.1質量%以下が好ましい。0.1質量%以下にすることで二酸化ケイ素微粒子の凝集による異物発生を抑制することができる。
【0038】
本発明において好適に使用できる二酸化ケイ素の表面にあるシラノールの濃度の指標としては、次のような赤外線吸収スペクトルを示すことが挙げられる。二酸化ケイ素の赤外線吸収スペクトルには、シロキサン(Si−O−Si)結合に由来する1800cm−1の吸収ピーク、シラノール基(Si−OH)に由来する吸収ピークなどが現れる。シラノール基に由来する吸収ピークは、隣接したシラノールが水素結合で会合した、会合性シラノール基に由来する3500cm−1付近の吸収ピークと、そのような水素結合を起こしていない孤立シラノール基に由来する3750cm−1付近の吸収ピークの二種類ある。
【0039】
シロキサン結合に由来する1860cm−1のピーク強度に対する、会合性シラノール基に対応する3500cm−1のピーク強度の比率をxとするとき、本発明において使用される二酸化ケイ素では、0.5<x<2.5の範囲であることが好ましい。xが0.5以上の場合は、ゲル状異物を除去しうるところのシラノール基の絶対量が十分であるのでゲル状異物除去に効果が高い。一方、xが2.5以上の場合は、シラノール基同士の会合性が極端に進み、ゲル状異物との親和性が減少するので、xが上記範囲にあるときには十分なゲル状異物の除去効果が発現する。より好ましい範囲は、1.0<x<1.5である。
【0040】
さらに、会合性シラノール基に由来する3500cm−1のピーク強度に対する、孤立シラノール基に由来する3750cm−1のピーク強度の比率をyとするとき、1.0<y<9の範囲であることが好ましい。yが1.0以上の場合は、シラノール基同士の会合性が少なく、ゲル状異物との親和性が高い。yが9以上の場合は、ゲル状異物を除去しうるところのシラノール基の絶対量が少ないため1.0<y<9にあるときに除去効果が高くなる。1.1<y<5の場合は、さらに好ましい。
【0041】
本発明において使用される二酸化ケイ素微粒子を合成する際の焼成温度としては、200〜350℃程度が好ましい。焼成温度が350℃を超える場合は、yの値が大きくなりすぎるおそれがあるので、好ましくない。また、焼成の時間が長すぎる場合は、xの値が0.5以下になってしまう恐れがある。例えば、焼成温度が200℃の場合は、焼成時間は、2〜36時間程度が適当であり、焼成温度が300℃の場合は、焼成時間は0.1〜24時間程度が適当である。
【0042】
本発明に使用される二酸化ケイ素微粒子としては比表面積が30〜1000m/gであればとくに制限は無いが、例えば、富士シリシア社製シリカゲルMB−300、MB−500、フジ・シリカゲルAB型、フジ・シリカゲルA型、フジ・シリカゲルRD型、Merck社のSilica Gel 40、Silica Gel 60、Silica Gel 100などが挙げられる。
【0043】
化学修飾を行ったシリカゲルとは、シリカゲル上にアルキル基を導入された吸着剤で、長鎖脂肪族鎖のオクタデシル基が導入されたODS(オタクデシル基結合シリカゲル)が、多く使用されている。化学修飾を行ったシリカゲルとして具体的には、YMC社製のODS−A、ODS−AQなどが挙げられる。が挙げられる。
【0044】
<処理方法>
本発明における処理方法は、セルロースエステルが溶解した溶液に比表面積が30〜1000m/gである二酸化ケイ素粒子を分散、懸濁して撹拌しても良いし、ろ過を行う場合には濾材の上にプレコートしてセルロースエステルが溶解した溶液をろ過してもよい。また、溶融したセルロースエステルに関しても同様の方法で処理することが可能である。
【0045】
本発明に用いられる比表面積が30〜1000m/gである二酸化ケイ素粒子の除去方法としては例えば、濾過、遠心分離、デカンテーション等の公知の方法を用いることができる。除去能力と生産適正から濾過及び遠心分離により比表面積が30〜1000m/gである二酸化ケイ素粒子を除去することが好ましい。
【0046】
本発明に係るセルロースエステル溶液のろ過については公知のさまざまなろ過装置を用いることができる。すなわち、濾過機としては大別すると連続濾過機と回分加圧濾過機に分けることができ、連続濾過機としてはベルト式、多重円板式、スクリュウ圧搾式、フィルタプレス式などに分けることができ、回分加圧濾過機としてはリーフ式、キャンドル式などが挙げることができる。
【0047】
フィルタプレス装置や、ペーパフィルタ装置、リーフフィルタ装置、ドラムフィルタ装置、プリコートフィルタ装置などを用いることができる。工業的に最も有利な物はフィルタプレス装置であり、このフィルタプレス装置にプリコートをして使用する形態でも良い。フィルタプレス装置の一例を挙げれば60センチ角程度のプレートを40から50枚用い其々のプレートには網が付けられており、網の間には濾紙や綿布が設置さえる形態のものである。これらのフィルタプレス装置を複数台用いて、多段に濾過をするものでも良い。
【0048】
本発明に用いるろ過材としては金属焼結フィルタ、金属不織布フィルタ、綿布フィルタ、紙フィルタなどを用いても良い。
【0049】
フィルタプレス式であれば、使用する濾材は天然繊維であっても、合成繊維であっても用いることができる。ろ過布に使用されている合成繊維の材質は、一般にポリプロピレン、ポリエステル(テトロン)、ナイロンを用いることができる。また、ビニロン、アクリル、サラン、なども溶媒によっては使用することができる。これら上記素材には、それぞれ材質上の特性を持っており、その特性に応じて使用することができる。天然繊維であれば綿が代表的な材質として挙げることができる。濾布に用いる原糸の種類としては、モノフィラメント、マルチフィラメント、スパン糸などが用いることができる。モノフィラメントを用いた場合にはケーキ剥離性が優れ、目詰まりも少ないが微小粒子の補足性が劣るという欠点がある。またマルチフィラメントを用いた場合には最も強いフィルタクロスが得られ、かつケーキ剥離性も良いという特徴がある。スパン糸の場合にはケーキ剥離が悪く、目詰まりがやや早くなる。またフィルタクロスの織組織としては、平織、綾織、朱子織があり、平織の場合には粒子の捕集性に優れるが目詰まりが早くなる。また綾織の場合には捕集性と目詰まりのバランスが取れたフィルタクロスが得られる。朱子織の場合には目詰まりが少ない物の、粒子の捕集性が悪くなる。本発明においては平織、又は綾織のフィルタクロスが適している。
【0050】
綿布フィルタでは綿ネル(10号B、平織径20番単糸63本、緯10番単糸46本)、金巾(11号、平織径40番単糸100本、緯40番単糸98本)、厚綾織(26号、綾織、12番3号、64本、12番4号32本)などを用いても良い。紙フィルタでは、濾紙(300g/m)などを用いても良い。これらの濾材は組み合わせ(例えば第1濾材は綿ネル1濾紙、第2濾材は綿ネル2枚、金巾1枚、第3濾材は綿ネル1枚濾紙1枚金巾1枚)使用してもよい。
【0051】
本発明に用いられる濾材の保留粒径としては1〜50μmが好ましく。2〜20μmがさらに好ましく、3〜15μmが最も好ましい。このような濾材を用いることでろ過性が改善され、生産性が向上する。
【0052】
本発明に係るろ過工程での圧力は、濾過効率を考慮した上で適宜設定できる。具体的には、濾材は5から18気圧(例えば8から18気圧、例えば10から18気圧)に加圧されていても良い。セルロースエステルを有機溶媒に溶解し、ろ過した上で乾燥させ得られたセルロース混合脂肪酸エステル組成物の形状は糸状体であっても良い。本発明に係るセルロース混合脂肪酸エステルを有機溶媒に溶解してろ過する工程ではろ過助剤として、カオリン、酸化チタン、クレイなどを用いても良い。ろ過液は40から50℃程度に保温されていても良い。濾材は5から18気圧(例えば8から18気圧、例えば10から18気圧)に加圧されていても良い。ろ過を一回ではなく複数回(例えば第1濾材は綿ネル1ち紙、第2濾材は綿ネル2枚、金巾1枚、第3濾材は綿ネル1枚濾紙1枚金巾1枚という濾材構成を用い、同一の構成で第1回のろ過は12から18気圧、第2回のろ過は8から14気圧、第3回のろ過は5から9気圧)で行っても良い。同一の濾材構成を用いた場合にはろ過圧力を第1回と第2回で変える(例えば第2回のろ過をより低圧のろ過圧力で行う)ものでもよい。
【0053】
本発明における比表面積が30〜1000m/gである二酸化ケイ素粒子を除去する工程において特にろ過を行う場合にはろ過助剤として濾材の上に二酸化ケイ素微粒子をプレコートすることが好ましい。ろ過助剤として用いられる二酸化ケイ素微粒子としては、特に制限は無く用いることができ、天然品の珪藻土や合成品のシリカゲル等を用いることができる。ろ過助剤として、セライト(例えばセライト類〔ジョーンズ−マンビル スケールス社(Johns−Manville Sales Corp.社)製のFilter−Cel,Celite 505,Standard Super−Cel,Celite 512,Hyflo Super−Cel,Celite 501,Celite 503,Celite 535,Celite 545,Celite 560等〕、ダイカライト類〔グレフコ インコ ユーエスエー社(Grefco,Inco,U.S.A.社)製のSuperaid,UF,Speedflow,Special Speedflow,Speedplus,Speedex等〕、ラジオライト類〔(昭和化学工業社製のRADIOLITE#100,RADIOLITE#200,RADIOLITE#500,RADIOLITE#600,RADIOLITE#700,RADIOLITE#900,RADIOLITE#1100,RADIOLITE#〕100等)、シリカゲル(富士シリシア社製シリカゲルMB−300、MB−500、フジ・シリカゲルAB型、フジ・シリカゲルA型、フジ・シリカゲルRD型、Merck社のSilica Gel 40、Silica Gel 60、Silica Gel 100等)が挙げられる。ろ過助剤を用いることでろ過性が飛躍的に改善され、ゲル状異物の除去能力も向上する。
【0054】
本発明における比表面積が30〜1000m/gである二酸化ケイ素粒子で処理し、処理後のセルロースエステルから二酸化ケイ素粒子を除去する工程はセルロース製造工程の一部に組み込むことも可能である。まず以下にセルロース製造工程を説明する。
【0055】
[活性化工程]
活性化工程では、セルロースを活性化剤で処理し、セルロースを活性化させる。本発明では、原料セルロースはスラリー状の湿潤状態で供給される。
【0056】
セルロースを活性化処理する活性化剤は、通常、アシル化反応の溶媒(アシル化溶媒)が使用され、アシル化溶媒としては、有機カルボン酸、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸等の脂肪族カルボン酸(直鎖状又は分岐鎖状C1−6アルカン酸)で構成できる。これらの活性化剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0057】
活性化処理において、活性化剤としては水を含む水系媒質が使用される。この水系媒質は有機カルボン酸を含む水系媒質であってもよく、活性化処理に続く反応に先立ち反応で使用するカルボン酸を用いてセルロース原料から水系媒質を置換することを考慮すると、経済的には多くの有機カルボン酸を用いることが好ましい。
【0058】
活性化工程は単一の活性化工程に限らず複数の活性化工程で構成してもよく、アシル化触媒の濃度の異なる活性化剤を用いて行うことができる。例えば、活性化剤でセルロースを活性化させる第1の活性化工程と、アシル化触媒を含む活性化剤でセルロースを活性化させる第2の活性化工程とで構成してもよく、アシル化触媒の濃度が低濃度の活性化剤でセルロースを処理する第1の工程と、アシル化触媒の濃度が高い活性化剤でセルロースを処理する第2の工程とで構成してもよい。
【0059】
活性化剤の使用量は、セルロース100質量部に対して、例えば、25〜150質量部、好ましくは30〜125質量部、さらに好ましくは50〜100質量部(例えば、70〜100質量部)程度であってもよい。
【0060】
活性化処理は、セルロースを活性化剤で処理すればよく、セルロースに活性化剤を噴霧してもよく、活性化剤中にセルロースを浸漬してもよい。通常、活性化剤中に原料セルロースを添加しスラリー状にする場合が多い。活性化処理温度は、0℃〜100℃の範囲から選択でき、工業的な負荷をかけずに活性化処理を行うためには、通常、10℃〜40℃、好ましくは15℃〜35℃程度である。また、活性化処理時間は、0.1時間〜72時間の範囲で選択でき、通常、0.1時間〜3時間、好ましくは0.2時間〜2時間程度である。
【0061】
本発明の場合、原料セルロースの粉砕に用いられた溶剤がカルボン酸の場合、微粉砕段階で活性化処理が進んでいるため、静置時間はわずかでよく、すぐにエステル化反応容器に投入することができる。
【0062】
原料セルロースの粉砕に水等カルボン酸以外の溶液を使用した場合、カルボン酸で数回洗浄することで、カルボン酸に置換し、静置することで活性化処理が完了する。
【0063】
[エステル化工程]
前記活性化処理により活性化されたセルロースを、酸触媒の存在下で少なくとも炭素数2以上のアシル基を有するカルボン酸(少なくとも一種以上含む)と無水カルボン酸(少なくとも一種以上含む)でエステル化する。酸触媒としてはルイス酸、強酸を使用することができるが、特に硫酸が一般的に使用される。
【0064】
通常、酸無水物[例えば、炭素数2以上のカルボン酸の酸無水物(カルボン酸無水物)]、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水吉草酸などのC2−6アルカン酸無水物が使用できる。少なくとも炭素数2以上のアシル基を有するカルボン酸(例えば、少なくともC2−6カルボン酸無水物)が使用される。これらは単独又は二種以上組み合わせて使用してもよい。アシル基を有し、アシル化しやすいものであれば、カルボン酸に限定されるものではなく、有機酸ハライド等も使用することができる。
【0065】
エステル化工程で酸触媒(特に、硫酸)の使用量は、例えばセルロース100質量部に対して3〜20質量部、好ましくは5〜18質量部、さらに好ましくは7〜15質量部程度の範囲から選択でき、通常、7〜15質量部程度である。
【0066】
エステル化溶剤としては、少なくとも炭素数2以上のアシル基に対応するエステル化溶剤、例えば、カルボン酸(酸無水物)を用いればよく、例えば、C2−6カルボン酸に対応する酸無水物から選択され、かつ炭素数の異なる複数の酸無水物を用いてもよい。例えば、無水プロピオン酸及び/又は無水酪酸と無水酢酸とを組み合わせて用いてもよい。
【0067】
好ましいエステル化溶剤は、C2−4アルカンカルボン酸無水物、例えば、C2−4カルボン酸無水物から選択された少なくとも一種(無水酢酸又は無水プロピオン酸等)、無水酢酸と無水プロピオン酸との組み合わせ、無水酢酸と無水酪酸との組み合わせ、無水酢酸と無水プロピオン酸と無水酪酸との組み合わせである。特に、無水酢酸と無水プロピオン酸との組み合わせ、無水酢酸と無水酪酸との組み合わせが好ましい。なお、無水酢酸は無水プロピオン酸などと比べて反応性が高く、アセチル基の置換度が小さいセルロース混合脂肪酸エステルを得る場合には、無水酢酸を用いないか、又は本発明の目的を損なわない範囲で少なくとも炭素数3以上にアシル基に対応するエステル化溶剤と少量の無水酢酸とを組み合わせてもよい。
【0068】
なお、炭素数3以上のアシル基を有するセルロースエステルを得る場合、酢酸の存在化でアシル化、又は熟成できれば、エステル化溶剤は炭素数3以上のアシル基に対応する、例えば、無水プロピオン酸、無水酪酸などで構成すればよく、必ずしもアセチル基に対応するエステル化溶剤(無水酢酸)を含んでいなくてもよい。アセチル基を導入するためには、必ずしも無水酢酸を使用する必要はなく、反応系に酢酸を存在させて反応させてもよい。
【0069】
このような酢酸は、エステル化工程及び熟成工程(特に、少なくとも熟成工程)において反応系に存在させればよく、前記活性化処理由来の酢酸のみで構成してもよく、エステル化工程及び熟成工程において新たに添加してもよく、通常エステル化工程でエステル化溶媒として使用してもよい。
【0070】
なお、複数のエステル化溶剤を用いてセルロースエステルを製造する場合、エステル化工程において、反応系には複数のエステル化溶剤を共存させてもよく、特定のエステル化溶剤でセルロースをエステル化した後、他のエステル化溶剤でセルロースをエステル化してもよい。エステル化工程でのエステル化溶剤の使用量は、例えば、セルロースのヒドロキシル基(水酸基)に対して1.1〜4当量、好ましくは1.1〜2当量、さらに好ましくは1.3〜1.8当量程度である。
【0071】
アセチル化の場合に限り、小さいアセチル置換度のセルロースエステルを得る場合には、エステル化工程で無水酢酸の使用量は、セルロースのヒドロキシル基(水酸基)に対して0.5当量以下(0〜0.3当量程度)、さらに0.2等量以下(0.01〜0.1当量)でもよく、実質的に使用しなくてもよい。
【0072】
エステル化工程において、通常、溶媒又は希釈剤としてエステル化溶媒(酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機カルボン酸)が使用される。エステル化溶媒(カルボン酸)の使用量は、セルロース100質量部に対して50〜700質量部、好ましくは150〜600質量部、さらに好ましくは200〜550質量部程度である。
【0073】
なお、エステル化反応は、0〜50℃、好ましくは5〜45℃、さらに好ましく10〜40℃程度の温度で行うことができる。なお、エステル化反応は、初期において、比較的低温、10℃以下(0〜10℃)]で行ってもよい。このような低温での反応時間は、例えば、エステル化反応開始から30分以上、40分〜2時間、好ましくは45〜100分程度)であってもよい。10〜50℃でのエステル化時間は、10分以上20〜90分、好ましくは30〜80分、40分〜75分である。
【0074】
均一な反応系が形成されると、エステル化反応が終了したと判断することができる。
【0075】
エステル化反応を終了後、加水分解反応を開始してもよいし、エステル化溶剤、エステル化溶媒、酸触媒をそのままに、熟成工程に移行してもよい。
【0076】
[エステル化反応停止工程]
エステル化反応後にエステル化溶剤を失活させるために加水分解反応を行う場合は、エステル化溶剤を失活可能であればよく、通常、少なくとも水を含んでいる場合が多い。加水分解を進める失活剤は、水と、エステル化溶媒、アルコール及び中和剤から選択された少なくとも一種で構成してもよい。より具体的には、失活剤としては、例えば、水単独、水とカルボン酸との混合物、水とアルコールとの混合物、水と中和剤との混合物、水と有機カルボン酸とアルコールと中和剤との混合物などが例示できる。
【0077】
中和剤としては、酸触媒又はエステル化溶剤の一部を中和可能な塩基、例えば、アルカリ金属化合物(水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの水酸化物、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムなどの炭酸塩、酢酸ナトリウムや酢酸カリウムなどの有機酸塩など)、アルカリ土類金属化合物(例えば、水酸化カルシウムなどの水酸化物、炭酸カルシウムなどの炭酸塩、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどの有機酸塩など)などが挙げられ、単独で又は二種類以上組み合わせて使用してもよい。アルコールとしては、直鎖アルコール(エタノール、メタノール、プロパノール等)が例示できる。これらのアルコールも単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0078】
水とエステル化溶媒又は、水とアルコールとの割合は、水100質量部に対してエステル化溶媒又はアルコール20〜140質量部程度の範囲から選択でき、通常、25〜120質量部、好ましくは50〜100質量部である。
【0079】
エステル化工程後、熟成工程前における加水分解の実施には、酸触媒を一部中和する割合で中和剤を含んでいてもよいし、中和剤を含まなくてもよい。好ましい失活剤は、水単独であってもよいが、セルロースエステルに対して水は貧溶媒なので、所望の置換度以外のセルロースエステルが析出してしまう可能性が高いため、水とエステル化溶媒との混合液が好ましい。
【0080】
原料セルロースに含まれる反応成分は100%ではないため、この段階で未反応成分が含まれるので、一度反応溶液濾過する過程を導入してもよい。
【0081】
この反応停止工程は必要に応じて省略することができる。
【0082】
[濾過工程]
前記エステル化工程と後述する熟成工程の間に濾過工程を設けることが好ましい。
【0083】
エステル化反応終了後の溶液中には、原料セルロースの反応しなかった未酢化、低酢化成分や不純物が混在しているので、熟成工程直前に濾過し、取り除くことで、熟成反応にかかる時間がより短縮され、反応溶液中で起こる分子鎖や、置換基等の特異的な切断がおこりにくくなり、得られたセルロースエステルを用いて製膜したフィルムの膜面品質は濾過を省いたセルロースエステルよりもさらに良好になる。
【0084】
濾過に使用する濾材は、絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さすぎると、濾材の目詰まりが発生しやすく、濾材の交換を頻繁に行なわなければならず、生産性を低下させるという問題点ある。
【0085】
濾材の材質には、特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、ポリエステル、PTFE等のプラスチック繊維製、ガラス繊維製の濾材やステンレス繊維等の金属製の濾材が繊維の脱落等がないため好ましい。
【0086】
上記セルロースエステルのスラリーは酸を含むため、金属製のフィルタは腐食しやすいので、ガラス繊維やプラスチック繊維製のフィルタであることがより好ましい。
【0087】
エステル化工程から熟成工程の間に金属フィルタを用いて濾過を行う際は硫酸や無水カルボン酸などを一度中和、失活させてから濾過する工程に移ることで、腐食を気にすることなく使用することができる。
【0088】
本発明においては、上記濾材を装着した加圧式濾過機を用いることが好ましい。
【0089】
[熟成工程]
熟成工程では、前記エステル化反応終了後ほぼトリエステル化している状態から、所望の置換度にするために脱アシル化を行い、脱アシル化終了後に中和剤を投入し一連の反応を終了する。
【0090】
エステル化に利用した酸触媒を中和した場合、再度酸触媒を必要量投入してもよいし、エステル化工程で使用していた酸触媒(特に硫酸)を中和することなく熟成工程で利用してもよい。エステル化で使用していた酸触媒以外の酸触媒を投入してもよい。
【0091】
硫酸は多いと分子量を小さくしてしまうことがあるため、熟成工程で酸触媒を追加せず、エステル化工程で使用していた酸触媒を、そのまま熟成工程でも使用することが好ましい。
【0092】
また、後に酸触媒を中和する段階で、酸触媒を追加した分、中和剤に含まれる、アルカリ金属又はアルカリ土類金属が、精製後のセルロースエステル中に残存し、輝点異物等の障害になりえるため、硫酸は熟成工程で追加しないことが好ましい。
【0093】
また、熟成に際し、必要に応じて新たに脱アシル化溶媒(水とカルボン酸混合溶液等)を添加してもよい。
【0094】
熟成工程中の反応温度は20〜90℃の温度がよく、好ましくは25〜80℃、さらに好ましくは30〜70℃である熟成反応は、窒素雰囲気下行ってもよく、空気雰囲気中で行ってもよい。
【0095】
熟成反応時間は20分以上、25分〜6時間の範囲から選択でき、好ましくは30分〜5時間、さらに好ましくは1〜3時間である。
【0096】
[中和工程]
所望のセルロースエステルが熟成工程にて得られた後、脱アシル化として使用していた酸触媒を中和させることが必要である。中和剤としては、前記エステル化反応停止工程に記載の塩基で構成された中和剤を添加するのが好ましい。
【0097】
反応生成物(セルロース混合脂肪酸エステルを含むドープ)を析出溶媒(水、酢酸水溶液など)に投入して生成したセルロース混合脂肪酸エステルを分離し、水洗などにより遊離の金属成分や硫酸成分などを除去してもよい。なお、水洗の際に中和剤を使用することもできる。
【0098】
[後処理工程(沈殿・濾過・洗浄・乾燥)]
中和工程で酸触媒を中和した後、生成物を沈殿させて析出させる。
【0099】
析出させるためには、水とカルボン酸の混合溶液が好ましく用いられる。これら沈殿溶剤に限られるわけではなく、ケトン類、アルコール類、エーテル類、エステル類等単独又は水混合溶媒であってもよい。
【0100】
沈殿した生成物を濾過して水洗する過程を繰り返し遊離酸濃度が500ppm以下、好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは150ppm以下になるまで水洗する。
【0101】
その後、ドライエアーで乾燥させ、所望のセルロースエステルを得る。
【0102】
本発明におけるセルロースエステルの処理工程は、前記セルロースエステル製造におけるろ過工程に組み込むことが好ましい。ろ過工程に組み込むことで生産性を落とすことなくゲル状異物を除去することが可能となる。
【0103】
<セルロースエステル>
本発明に用いられるセルロースエステルとしては、特に限定されないが、エステル基は炭素数2〜22程度の直鎖又は分岐のカルボン酸エステルであることが好ましく、これらのカルボン酸は環を形成してもよく、芳香族カルボン酸のエステルでもよい。なお、これらのカルボン酸は置換基を有してもよい。セルロースエステルとしては、特に炭素数が6以下の低級脂肪酸エステルであることが好ましい。
【0104】
好ましいセルロースエステルとして、具体的には、セルロースアセテートの他に、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートのようなアセチル基の他にプロピオネート基又はブチレート基が結合したセルロースの混合脂肪酸エステルを挙げることができる。この中で特にセルロースアセテートプロピオネートが好ましい。
【0105】
本発明に用いられるセルロースアセテートプロピオネートとしては、下記式(1)及び(2)の置換度を同時に満たすことが好ましい。
【0106】
式(1): 2.0≦X+Y≦2.9
式(2): 1.5≦Y≦2.7
(式中、Xはアセチル基の置換度を示す。Yはプロピオニル基の置換度を示す。)
これらアシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することができる。
【0107】
総アシル基置換度が大きい方が寸法変化、ヘイズ、吸水性が良化する。
【0108】
本発明に使用できるセルロースエステルは目的に叶う光学特性を得るために置換度の異なる樹脂を混合して用いても良い。混合比としては10:90〜90:10(質量比)が好ましい。
【0109】
本発明に使用できるセルロースエステルは樹脂単独で用いることができるが、他の二種類以上の樹脂と混合して用いることもできる。混合する樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル樹脂等が挙げられる。中でも、アクリル樹脂が好ましく使用される。
【0110】
本発明に用いられるセルロースに混合することのできる他の樹脂の混合比としては、10:90〜90:10(質量比)が好ましい。
【0111】
本発明に用いられるセルロースに混合することのできる他の樹脂の数平均分子量は2000〜150000の範囲が好ましい。
【0112】
本発明に用いられるセルロースエステルの数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。更に70000〜200000のものが好ましく用いられる。
【0113】
セルロースエステルや混合する樹脂の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。
【0114】
測定条件の一例は以下の通りであるが、これに限られることはなく、同等の測定方法を用いることも可能である。
【0115】
溶媒: メチレンクロライド
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3本接続して使用する)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1000000〜500の13サンプルによる校正曲線を使用する。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0116】
本発明に用いられるセルロースエステルの原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0117】
本発明に用いられるセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等のセルロースエステルは、公知の方法により製造することができる。具体的には特開平10−45804号公報に記載の方法を参考にして合成することができる。
【0118】
[セルロースエステル溶液]
本発明におけるセルロースエステル溶液は、セルロースエステルを溶媒に溶解して調製してもよいし、セルロースエステルを溶融することで液状に調整してもよい。
【0119】
セルロースエステルを溶解する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。前述したように、本発明に係るセルロースエーテルアセテート溶液は、様々な種類の有機溶媒を用いて調製できるという効果を有する。すなわち、メチレンクロリドのようなハロゲン原子を含む有機溶媒への溶解性に優れるのみならず、ハロゲン原子を含む有機溶媒を使用しなくても溶液の調製が可能である。しかしながら、無論メチレンクロリドを用いて溶液を調整しても良い。
【0120】
中でも、ハロゲン化溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒及びエーテル系溶媒が好ましい。ケトン類、エステル類及びエーテル類は環状構造を有していてもよい。有機溶媒の沸点は、140℃未満であることが好ましく、100℃未満であることがさらに好ましく、70℃未満であることが最も好ましい。
【0121】
有機溶媒の例としては、ジクロロメタン(沸点:40℃)、アセトン(沸点:56℃)、N−メチルピロリドン(沸点:202℃)、テトラヒドロフラン(沸点:65.4℃)、1,4−ジオキサン(沸点:101.1℃)、メチルアセテート(沸点:57.8℃)、エチルホルメート(沸点:54℃)、2−メトキシエタノール(沸点:124℃)、酢酸(沸点:118℃)を挙げることができる。中でもジクロロメタン、アセトン、酢酸、テトラヒドロフラン及びメチルアセテートが特に好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。しかしながらメチルアセテート単独溶媒でも溶解させることができる。二種類以上の有機溶媒を併用する場合、上記に例示した良溶媒とそれ以外の貧溶媒を併用してもよい。貧溶媒の例としては、炭素原子数が1乃至4の低級アルコール(例、メタノール、n−ブタノール)及びシクロヘキサンを挙げることができる。良溶媒と貧溶媒を併用する場合、良溶媒の割合は50質量%以上であることが好ましい。更に好ましくは、70質量%以上、特に好ましくは、90質量%以上である。
【0122】
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。調製する溶液中のセルロースエーテルアセテートの濃度は、溶液の用途に応じて決定する。溶液中の濃度は、一般に5乃至50質量%であり、好ましくは10乃至40質量%である。セルロースエーテルアセテート溶液をフィルムの製造に使用する場合、溶液の粘度は10000乃至1000000cPの範囲であることが好ましい。これらのセルロースエステルの溶液の調整については特開平08−231761号公報に記載されている。
【0123】
本発明におけるセルロースエステル溶液をセルロースエステルを溶融することで調整する場合、その溶融温度としては200〜300℃が好ましく、220〜290℃がさらに好ましく、230〜280℃が最も好ましい。この温度範囲にすることでセルロースエステルの分解を抑制することができる。
【0124】
本発明においてセルロースエステルを溶媒に溶解して比表面積が30〜1000m/gである二酸化ケイ素粒子を濾過した後に塗布して光学フィルムを製造することも可能であるが、ろ過後のセルロース溶液に貧溶媒を加えて固体として取り出すこともできる。
【0125】
<添加剤>
(可塑剤)
本発明において用いられるセルロースエステルは、可塑剤を含有させることができる。可塑剤としては特に限定されないが、好ましくは、多価カルボン酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、脂肪酸エステル系可塑剤及び多価アルコールエステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤、アクリル系可塑剤等から選択される。そのうち、可塑剤を二種以上用いる場合は、少なくとも一種は多価アルコールエステル系可塑剤であることが好ましい。
【0126】
多価アルコールエステル系可塑剤は2価以上の脂肪族多価アルコールとモノカルボン酸のエステルよりなる可塑剤であり、分子内に芳香環又はシクロアルキル環を有することが好ましい。好ましくは2〜20価の脂肪族多価アルコールエステルである。
【0127】
本発明に好ましく用いられる多価アルコールは次の一般式(a)で表される。
【0128】
一般式(a): Ra−(OH)
(但し、Raはn価の有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性、及び/又はフェノール性ヒドロキシル基(水酸基)を表す。)
好ましい多価アルコールの例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。アドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0129】
多価アルコールエステルに用いられるモノカルボン酸としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0130】
好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0131】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖又は側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることが更に好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有させるとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0132】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0133】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
【0134】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基、メトキシ基或いはエトキシ基などのアルコキシ基を1〜3個を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
【0135】
多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることが更に好ましい。分子量が大きい方が揮発し難くなるため好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0136】
多価アルコールエステルに用いられるカルボン酸は一種類でもよいし、二種以上の混合であってもよい。また、多価アルコール中のOH基は、全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0137】
グリコレート系可塑剤は特に限定されないが、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が好ましく用いることができる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0138】
フタル酸エステル系可塑剤としては、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が挙げられる。
【0139】
クエン酸エステル系可塑剤としては、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
【0140】
脂肪酸エステル系可塑剤として、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。
【0141】
リン酸エステル系可塑剤としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が挙げられる。
【0142】
多価カルボン酸エステル化合物としては、2価以上、好ましくは2価〜20価の多価カルボン酸とアルコールのエステルよりなる。また、脂肪族多価カルボン酸は2〜20価であることが好ましく、芳香族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸の場合は3価〜20価であることが好ましい。
【0143】
多価カルボン酸は次の一般式(b)で表される。
【0144】
一般式(b): Rb(COOH)(OH)
(但し、Rbは(m+n)価の有機基、mは2以上、6以下の正の整数、nは0以上、4以下の整数、COOH基はカルボキシル基、OH基はアルコール性又はフェノール性ヒドロキシル基(水酸基)を表す。)
好ましい多価カルボン酸の例としては、例えば以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸又はその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などを好ましく用いることができる。特にオキシ多価カルボン酸を用いることが、保留性向上などの点で好ましい。
【0145】
前記多価カルボン酸エステル化合物に用いられるアルコールとしては特に制限はなく公知のアルコール、フェノール類を用いることができる。例えば炭素数1〜32の直鎖又は側鎖を持った脂肪族飽和アルコール又は脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。また、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどの脂環式アルコール又はその誘導体、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどの芳香族アルコール又はその誘導体なども好ましく用いることができる。
【0146】
多価カルボン酸としてオキシ多価カルボン酸を用いる場合は、オキシ多価カルボン酸のアルコール性又はフェノール性のヒドロキシル基(水酸基)をモノカルボン酸を用いてエステル化しても良い。好ましいモノカルボン酸の例としては以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0147】
脂肪族モノカルボン酸としては炭素数1〜32の直鎖又は側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることが更に好ましく、炭素数1〜10であることが特に好ましい。
【0148】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などの飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸などの不飽和脂肪酸などを挙げることができる。
【0149】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
【0150】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸などの安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸などの2個以上の環をもつ芳香族モノカルボン酸、又はそれらの誘導体を挙げることができる。
【0151】
これらのモノカルボン酸のうち、特に酢酸、プロピオン酸、安息香酸であることが好ましい。
【0152】
多価カルボン酸エステル化合物の分子量は特に制限はないが、分子量300〜1000の範囲であることが好ましく、350〜750の範囲であることが更に好ましい。保留性向上の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0153】
前記多価カルボン酸エステルに用いられるアルコール類は一種類でも良いし、二種以上の混合であっても良い。
【0154】
前記多価カルボン酸エステル化合物の酸価は1mgKOH/g以下であることが好ましく、0.2mgKOH/g以下であることが更に好ましい。酸価を上記範囲にすることによってリターデーションの環境変動も抑制されるため好ましい。
【0155】
(酸価)
本発明における酸価とは、試料1g中に含まれる酸(試料中に存在するカルボキシル基)を中和するために必要な水酸化カリウムのミリグラム数をいう。酸価はJIS K0070に準拠して測定したものである。
【0156】
特に好ましい多価カルボン酸エステル化合物の例を以下に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が挙げられる。
【0157】
ポリエステル系可塑剤は特に限定されないが、分子内に芳香環又はシクロアルキル環を有するポリエステル系可塑剤を用いることができる。ポリエステル系可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、下記一般式(c)で表せる芳香族末端エステル系可塑剤を用いることができる。
【0158】
一般式(c):B−COO−((G−O−)−CO−A−COO−)G−O−CO−B
(式中、Bはベンゼン環を表し他に置換基を有しても良い。Gは炭素数2〜12のアルキレン基又は炭素数6〜12のアリーレン基又は炭素数が4〜12のオキシアルキレン基、Aは炭素数2〜10のアルキレン基又は炭素数4〜10のアリーレン基を表し、また、m、nは繰り返し単位を表す。)
一般式(c)の化合物は、BCOOHで表されるベンゼンモノカルボン酸基、HO−(G−O−)Hで表されるアルキレングリコール基又はオキシアルキレングリコール基又はアリールグリコール基、HOCO−A−COO−Hで表されるアルキレンジカルボン酸基又はアリールジカルボン酸基とから合成されるものであり、通常のポリエステル系可塑剤と同様の反応により得られる。
【0159】
前記ポリエステル系可塑剤の原料のベンゼンモノカルボン酸成分としては、例えば、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ一種又は二種以上の混合物として使用することができる。
【0160】
前記ポリエステル系可塑剤の原料のアルキレングリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロールペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル1,3−ヘキサンジオール、2−メチル1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、一種又は二種以上の混合物として使用される。特に炭素数2〜12のアルキレングリコールがセルロースエステルとの相溶性に優れているため、特に好ましい。
【0161】
また、上記芳香族末端エステルの原料の炭素数4〜12のオキシアルキレングリコール成分としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等があり、これらのグリコールは、一種又は二種以上の混合物として使用できる。
【0162】
芳香族末端エステルの原料の炭素数4〜12のアルキレンジカルボン酸成分としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマール酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸等があり、これらは、それぞれ一種又は二種以上の混合物として使用される。炭素数6〜12のアリーレンジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0163】
前記ポリエステル系可塑剤は、数平均分子量が、好ましくは300〜1500、より好ましくは400〜1000の範囲が好適である。また、その酸価は、0.5mgKOH/g以下、ヒドロキシル(水酸基)価は25mgKOH/g以下より好ましくは酸価は0.3mgKOH/g以下、ヒドロキシル(水酸基)価は15mgKOH/g以下のものである。
【0164】
(アクリル系重合体)
本発明におけるセルロースエステル溶液は可塑剤として(メタ)アクリル系重合体を含有することもできる。
【0165】
(メタ)アクリル系重合体は、芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下の重合体Yであることが好ましい。
【0166】
(メタ)アクリル系重合体としては、少なくとも分子内に芳香環とヒドロキシル基(水酸基)を有しないエチレン性不飽和モノマーXaと、分子内に芳香環を有さずヒドロキシル基(水酸基)を有するエチレン性不飽和モノマーXbとを共重合して得られた重量平均分子量3000以上30000以下の重合体X、及び芳香環を有さないエチレン性不飽和モノマーYaを重合して得られた重量平均分子量500以上3000以下の重合体Yの混合物であることがさらに好ましい。
【0167】
前記重合体Xは下記一般式(X)で示され、前記重合体Yは下記一般式(Y)で示されることがさらに好ましい。
【0168】
一般式(X):
−[CH−C(Rc)(CORd)−]−[CH−C(Re)(CORf−OH)−]−[Xc]
一般式(Y):
Ry−[CH−C(Rg)(CORh−OH)−]−[Yb]
(式中、Rc、Re、Rgは、H又はCHを表す。Rdは炭素数1〜12のアルキル基、シクロアルキル基を表す。Rf、Rhは−CH−、−C−又は−C−を表す。RyはOH、H又は炭素数3以内のアルキル基を表す。Xcは、Xa、Xbに重合可能なモノマー単位を表す。Ybは、Yaに共重合可能なモノマー単位を表す。m、n、k、p及びqは、モル組成比を表す。ただしm≠0、n≠0、k≠0である。)
これらの可塑剤の添加量としては、前記重合体(A)とセルロースエステルの総質量に対して、0.5〜30質量%含むことが好ましく、特には、5〜20質量%含むことが好ましい。
【0169】
(紫外線吸収剤)
本発明におけるセルロースエステル溶液は、紫外線吸収剤を含有することもできる。紫外線吸収剤は400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長370nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、更に好ましくは2%以下である。
【0170】
前記紫外線吸収剤は特に限定されないが、例えばオキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体等が挙げられる。
【0171】
例えば、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328、チヌビン928等のチヌビン類があり、これらはいずれもチバ・ジャパン社製の市販品であり好ましく使用できる。
【0172】
本発明で好ましく用いられる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤であり、特に好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、である。
【0173】
この他、1,3,5−トリアジン環を有する化合物等の円盤状化合物も紫外線吸収剤として好ましく用いられる。
【0174】
本発明におけるセルロースエステル溶液は紫外線吸収剤を二種以上含有することが好ましい。また、紫外線吸収剤としては高分子紫外線吸収剤も好ましく用いることができ、特に特開平6−148430号公報記載のポリマータイプの紫外線吸収剤が好ましく用いられる。
【0175】
紫外線吸収剤の添加方法は、メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコールやメチレンクロライド、酢酸メチル、アセトン、ジオキソラン等の有機溶媒あるいはこれらの混合溶媒に紫外線吸収剤を溶解してからドープに添加するか、又は直接ドープ組成中に添加してもよい。
【0176】
無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロースエステル中にディゾルバーやサンドミルを使用し、分散してからドープに添加する。
【0177】
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、光学フィルムの乾燥膜厚が30〜200μmの場合は、偏光板保護フィルムに対して0.5〜10質量%が好ましく、0.6〜4質量%が更に好ましい。
【0178】
(酸化防止剤)
酸化防止剤は劣化防止剤ともいわれる。高湿高温の状態に液晶画像表示装置などが置かれた場合には、光学フィルムの劣化が起こる場合がある。
【0179】
酸化防止剤は、例えば、光学フィルム中の残留溶媒量のハロゲンやリン酸系可塑剤のリン酸等により光学フィルムが分解するのを遅らせたり、防いだりする役割を有するので、前記光学フィルム中に含有させるのが好ましい。
【0180】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等を挙げることができる。
【0181】
特に、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また、例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0182】
これらの化合物の添加量は、前記重合体(A)とセルロースエステルの総質量に対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmが更に好ましい。
【0183】
(微粒子)
本発明におけるセルロースエステル溶液は、前記セルロースエステル溶液の処理工程後に、微粒子を添加することができる。
【0184】
該微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。また、有機化合物の微粒子も好ましく使用することができる。有機化合物の例としてはポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエチレンカーボネート、アクリルスチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、メラミン系樹脂、ポリオレフィン系粉末、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、あるいはポリ弗化エチレン系樹脂、澱粉等の有機高分子化合物の粉砕分級物もあげられる。あるいは又懸濁重合法で合成した高分子化合物、スプレードライ法あるいは分散法等により球型にした高分子化合物、又は無機化合物を用いることができる。
【0185】
微粒子は珪素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。
【0186】
微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜400nmが好ましく、更に好ましいのは10〜300nmである。
【0187】
これらは主に粒径0.05〜0.3μmの二次凝集体として含有されていてもよく、平均粒径100〜400nmの粒子であれば凝集せずに一次粒子として含まれていることも好ましい。
【0188】
セルロースエステル中のこれらの微粒子の含有量は0.01〜1質量%であることが好ましく、特に0.05〜0.5質量%が好ましい。
【0189】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0190】
酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0191】
ポリマーの例として、シリコーン樹脂、フッ素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0192】
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vが光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましく用いられる。前記光学フィルムにおいては、少なくとも一方の面の動摩擦係数が0.2〜1.0であることが好ましい。
【0193】
各種添加剤は製膜前の樹脂含有溶液であるドープにバッチ添加してもよいし、添加剤溶解液を別途用意してインライン添加してもよい。特に微粒子はろ過材への負荷を減らすために、一部又は全量をインライン添加することが好ましい。
【0194】
添加剤溶解液をインライン添加する場合は、ドープとの混合性をよくするため、少量の樹脂を溶解するのが好ましい。好ましい樹脂の量は、溶剤100質量部に対して1〜10質量部で、より好ましくは、3〜5質量部である。
【0195】
本発明においてインライン添加、混合を行うためには、例えば、スタチックミキサー(東レエンジニアリング製)、SWJ(東レ静止型管内混合器 Hi−Mixer)等のインラインミキサー等が好ましく用いられる。
【0196】
<光学フィルムの製造方法>
本発明におけるセルロースエステルは処理工程を経た後に、そのまま光学フィルムとして製膜することができる。
【0197】
以下、前記光学フィルムの製造方法について説明する。
【0198】
前記光学フィルムは、溶液流延法で製造されたフィルムであっても溶融流延法で製造されたフィルムであっても好ましく用いることができる。
【0199】
前記光学フィルムの製造は、樹脂及び添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープを無限に移行する無端の金属支持体上に流延する工程、流延したドープをウェブとして乾燥する工程、金属支持体から剥離する工程、延伸又は幅保持する工程、更に乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻取る工程により行われる。
【0200】
ドープを調製する工程について述べる。ドープ中の樹脂濃度は、濃い方が金属支持体に流延した後の乾燥負荷が低減できて好ましいが、樹脂の濃度が濃過ぎると濾過時の負荷が増えて、濾過精度が悪くなる。これらを両立する濃度としては、10〜35質量%が好ましく、更に好ましくは、15〜25質量%である。
【0201】
上記記載のドープを調製する時の、樹脂の溶解方法としては、一般的な方法を用いることができる。加熱と加圧を組み合わせると常圧における沸点以上に加熱できる。溶剤の常圧での沸点以上でかつ加圧下で溶剤が沸騰しない範囲の温度で加熱しながら攪拌溶解すると、ゲルやママコと呼ばれる塊状未溶解物の発生を防止するため好ましい。また、樹脂を貧溶剤と混合して湿潤或いは膨潤させた後、更に良溶剤を添加して溶解する方法も好ましく用いられる。
【0202】
加圧は窒素ガス等の不活性気体を圧入する方法や、加熱によって溶剤の蒸気圧を発現させる方法によって行ってもよい。加熱は外部から行うことが好ましく、例えばジャケットタイプのものは温度コントロールが容易で好ましい。
【0203】
溶剤を添加しての加熱温度は、高い方が樹脂の溶解性の観点から好ましいが、加熱温度が高過ぎると必要とされる圧力が大きくなり生産性が悪くなる。好ましい加熱温度は45〜120℃であり、60〜110℃がより好ましく、70〜105℃が更に好ましい。また、圧力は設定温度で溶剤が沸騰しないように調整される。
【0204】
もしくは冷却溶解法も好ましく用いられ、例えば、酢酸メチルなどの溶媒にセルロースエステル等を溶解させることができる。
【0205】
次に、この樹脂を溶解した溶液を濾紙等の適当な濾過材を用いて濾過する。濾過材としては、不溶物等を除去するために絶対濾過精度が小さい方が好ましいが、絶対濾過精度が小さ過ぎると濾過材の目詰まりが発生し易いという問題がある。このため絶対濾過精度0.008mm以下の濾材が好ましく、0.001〜0.008mmの濾材がより好ましく、0.003〜0.006mmの濾材が更に好ましい。
【0206】
濾材の材質は特に制限はなく、通常の濾材を使用することができるが、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)等のプラスチック製の濾材や、ステンレススティール等の金属製の濾材が繊維の脱落等がなく好ましい。濾過により、原料の樹脂に含まれていた不純物、特に輝点異物を除去、低減することが好ましい。
【0207】
「輝点異物」とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に光学フィルム等を置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光が漏れて見える点(異物)のことである。
【0208】
「ゲル状異物」とは、2枚の偏光板をクロスニコル状態にして配置し、その間に光学フィルム等を置き、一方の偏光板の側から光を当てて、他方の偏光板の側から観察した時に反対側からの光は漏れてこないが、フィルム表面に凹凸として観測されて、透過型の顕微鏡で見たときに不定形である異物のことを言う。
【実施例】
【0209】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって、何ら限定されるものではない。
【0210】
二酸化ケイ素微粒子の合成
3号ケイ酸ナトリウム水溶液を、SiO換算濃度が5.1質量%になるように希釈した。これを42℃に保ち、撹拌しながら、19質量%の硫酸水溶液をpH=10になるまで10分間かけて添加し、部分的に中和されたシリカスラリーを得た。このスラリーを撹拌しながら、70℃に昇温し、さらに21質量%の硫酸をpH=6になるまで60分の時間をかけて添加し、完全に中和したシリカスラリーを得た。このスラリーを水洗濾過し、シリカヒドロゲルとし、乾燥後焼成することにより、表1及び表2に示す種々の物性のシリカゲルを得た。比表面積、細孔容積、表面シラノール基はケイ酸ナトリウム水溶液と硫酸水溶液及び、濃度、混合比などの調整、又は、熟成処理により制御した。
【0211】
シリカゲルの細孔特性は、窒素吸脱着法で測定した。ここで、比表面積はBET法、細孔容積はBJH法によって求めた。赤外線吸収スペクトルは、試料をKBrで希釈し、拡散反射光により測定した。
【0212】
<フィルム1の作製>
ジクロロメタン100質量部に対してアセチル置換度0.19、プロピオニル置換度2.56、総置換度2.75のセルロースアセテートプロピオネート10質量部を溶解し、番号1の二酸化ケイ素微粒子10質量部を懸濁して撹拌した。2時間後に撹拌を止めて保留粒径が3〜5μmの濾紙を3枚重ねて密閉加圧ろ過機を用いて濾過した。ろ液を減圧濃縮した後にセルロースエステル10質量部に対してジクロロメタンが43質量部、エタノールが4質量部になるように溶液を調整した。この溶液を膜厚40μmに製膜することでフィルム1を得た。
【0213】
<フィルム2〜フィルム13の作製>
二酸化ケイ素微粒子を番号2〜13に変更した以外はフィルム1と同様の方法でフィルム2〜フィルム13を作製した。
【0214】
<フィルム14の作製>
酢酸100質量部に対してアセチル置換度0.78、プロピオニル置換度1.86、総置換度2.64のセルロースアセテートプロピオネート10質量部を溶解し、番号14の二酸化ケイ素微粒子10質量部を懸濁して撹拌した。2時間後に撹拌を止めて保留粒径が3〜5μmの濾紙を3枚重ねて密閉加圧ろ過機を用いて濾過した。ろ液を20℃に保ちながら酢酸/水=1/1の溶液を滴下していき、溶液内に粉末が析出したところからさらに酢酸/水=1/1の溶液を50質量部加えて撹拌した。1時間後に濾過し、純粋で洗浄してpH=7になったことを確認して乾燥した。
【0215】
乾燥減量が0.1質量%になるまで乾燥した後に、得られたセルロースエステル粉末を10質量部に対してジクロロメタンが43質量部、エタノールが4質量部になるように溶液を調整した。この溶液を膜厚40μmに製膜することでフィルム14を得た。
【0216】
<フィルム15の作製>
酢酸をアセトンに変更した以外はフィルム14の作製と同様の方法でフィルム15を作製した。
【0217】
<フィルム16の作製>
酢酸を酢酸メチルに変更した以外はフィルム14の作製と同様の方法でフィルム16を作製した。
【0218】
<フィルム17の作製>
酢酸をテトラヒドロフランに変更した以外はフィルム14の作製と同様の方法でフィルム17を作製した。
【0219】
<フィルム18の作製>
ジクロロメタン100質量部に対してアセチル置換度1.01、プロピオニル置換度1.53、総置換度2.54のセルロースアセテートプロピオネート10質量部を溶解し、番号18の二酸化ケイ素微粒子10質量部を懸濁して撹拌した。2時間後に撹拌を止めて保留粒径が3〜5μmの濾紙を三枚重ねて、密閉加圧ろ過機内の濾紙の上にメルク社のセライト505を10質量部充填して濾過した。ろ液を減圧濃縮した後にセルロースエステル10質量部に対してジクロロメタンが43質量部、エタノールが4質量部になるように溶液を調整した。この溶液を膜厚40μmに製膜することでフィルム14を得た。
【0220】
<フィルム19〜20の作製>
二酸化ケイ素微粒子を番号19〜20に変更した以外はフィルム18の作製と同様の方法でフィルム19及びフィルム20を作製した。
【0221】
<フィルム21の作製>
<セルロースエステルの製造>
原料パルプ(αセルロース93%以上)100質量部と氷酢酸を98質量部を混合機に入れ撹拌しスラリー状態にした後、石臼式粉砕機に投入し40℃、30分間粉砕した。粉砕後の原料パルプの平均粉砕粒径は顕微鏡観察により61μmであった。
【0222】
次いで、粉砕後の原料パルプに酢酸50質量部を加え、1.2時間活性化処理を行った。
【0223】
上記含酢酸パルプを反応器に入れ、さらに無水プロピオン酸250質量部、無水プロピオン酸420質量部、硫酸9質量部を投入し室温から徐々に40℃まで温度を上昇させ、40℃に保温しながら1時間保温し、エステル化反応を進行させた。
【0224】
次いで、1次中和工程で30%酢酸水溶液265部を加え中和した後、熟成工程にて残った無水カルボン酸類を加水分解するために、80質量%の酢酸水溶液を145質量部入れ、60℃に保持し、1時間撹拌させた。
【0225】
その後反応停止のために、硫酸を中和するため、30質量%の酢酸マグネシウム水溶液を16質量部加えた。
【0226】
次に番号21の二酸化ケイ素微粒子を40質量部加えて3時間撹拌した後に加圧ろ過機により二酸化ケイ素微粒子を保留粒径が約3μmの金属不織布フィルタを用いて濾過した。
【0227】
沈殿工程で析出したセルロースエステルを濾別し、50℃の温水で7回洗浄し、残っている酢酸水溶液を溶出させた後、70℃で3時間乾燥させ、アセチル置換度0.56、プロピオニル置換度2.09、総置換度2.65のセルロースアセテートプロピオネートであるセルロースエステルを得た。重量平均分子量(Mw)は下記測定法を用いて測定した結果20万であった。
【0228】
得られたセルロースエステル10質量部に対して、ジクロロメタンが43質量部、エタノールが4質量部になるように溶液を調整した。この溶液を膜厚40μmに製膜することでフィルム21を得た。
【0229】
<フィルム22〜25の作製>
二酸化ケイ素微粒子を番号22〜番号25に変更した以外はフィルム1の作製と同様の方法でフィルム22〜フィルム25を作製した。
【0230】
<フィルム26の作製>
ジクロロメタンが43質量部、エタノールが4質量部の溶液にアセチル置換度0.19、プロピオニル置換度2.56、総置換度2.75のセルロースアセテートプロピオネート10質量部を溶解した。この溶液を膜厚40μmに製膜することでフィルム25を得た。
【0231】
<フィルム27の作製>
二酸化ケイ素微粒子を比表面積が4m/gm、細孔容積0.4ml/g、二酸化ケイ素組成95%、平均粒径70μm、粒径標準偏差20μm、嵩密度0.45g/cmの粒子に変更した以外はフィルム1の作製と同様の方法でフィルム26を作製した。
【0232】
<フィルムIR−1の作製>
二酸化ケイ素微粒子を、表2で示したIR強度比(赤外吸収強度比)を有する二酸化ケイ素微粒子IR−1〜IR−7に変更した以外はフィルム1の作製と同様の方法でフィルムIR−1〜フィルムIR−7を作製した。
【0233】
<評価方法>
輝点異物量の測定
二枚の偏光板を直交状態(クロスニコル)に配置して透過光を遮断し、二枚の偏光板の間に作製した試料を置く。偏光板はガラス製保護板のものを使用した。片側から光を照射し、反対側から光学顕微鏡(50倍)で100cm当たりの直径0.01mm以上の輝点の数をカウントした。
【0234】
ゲル状異物量の測定
光学顕微鏡(50倍)で100cm当たりの直径0.02mm以上のゲル状異物をカウントした。ゲル状異物はクロスニコルの状態で輝点異物ではないことを確認してカウントした。
【0235】
濾過性の評価
濾過面積が64cmの密閉加圧濾過機に保留粒径が3〜5μmの濾紙を3枚重ねて濾過した時の濾過時間を測定した。濾過速度が50ml/分以上を◎、40〜50ml/分を○、20〜40ml/分を△、20ml/分以下を×とした。
【0236】
以上の評価結果を表1及び表2に示す。
【0237】
【表1】

【0238】
【表2】

【0239】
以上の結果より、本発明のセルロースエステルの製造方法に係る前記処理方法を用いることでゲル状異物を取り除くことが可能である。また、シラノール基のIR強度比(赤外吸収強度比)が本発明における好ましい範囲にある場合はさらにゲル状異物を取り除く能力に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステルを比表面積が30〜1000m/gの範囲内である二酸化ケイ素粒子で処理し、前記処理後のセルロースエステルから当該二酸化ケイ素粒子を除去する工程を有することを特徴とするセルロースエステルの製造方法。
【請求項2】
前記二酸化ケイ素粒子の細孔容積が、0.5〜2.0ml/gの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースエステルの製造方法。
【請求項3】
前記二酸化ケイ素粒子を除去する工程において、ろ過助剤として二酸化ケイ素粒子を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のセルロースエステルの製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のセルロースエステルの製造方法によって製造されたことを特徴とするセルロースエステル。

【公開番号】特開2012−25895(P2012−25895A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−167922(P2010−167922)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】