説明

セルロースエステルフィルム、及びその製造方法、並びにその製造装置

【課題】 液晶表示装置の偏光板の保護フィルム及び位相差フィルムとして好適なセルロースエステルフィルムの製造方法において、セルロースエステル樹脂溶液(ドープ)に含有される微粒子の添加起因による異物を、ドープの溶解混合工程において、異物発生率を抑えることで、その後の濾過工程でのフィルターへの負担を軽減し、異物の発生がなく、生産性にも優れたセルロースエステルフィルムを製造する方法を提供する。
【解決手段】 セルロースエステルフィルムの製造方法は、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で、微粒子分散液を噴霧して添加し、添加後、主溶媒の沸点以上の温度で溶解混合する。噴霧して添加する微粒子分散液は、主溶媒の沸点以上、同沸点+50℃以下の温度に保たれるのが、好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に液晶表示装置の偏光板の保護フィルム及び位相差フィルムとして好適なセルロースエステルフィルム、及びその製造方法、並びにその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)は種々のところに使用されるに伴って、画像を見たときの高い視認性が要望され、特にLCDに使用される偏光板や位相差板もガラスのような平面性、異物などのスポット欠陥が無い高画質化が要望されている。またカーナビやPDAのような屋外で使用されるLCDにおいては、偏光子の劣化を防ぐために紫外線吸収剤を偏光板保護フィルムに含有させる必要がある。
【0003】
ところで、現在、LCDに用いられている偏光板用の保護フィルムとしては主にセルローストリアセテート(TAC)フィルムが用いられているが、特にテレビやモニターの普及、大画面化により最表面に使用されるフィルムにおいては、高い平面性及び高画質化が求められ、スポット欠陥に至っては、欠陥が画像欠陥となり、LCDの品質低下につながる。
【0004】
また、LCDに用いられる樹脂フィルムは、その透明性や平滑性からフィルム同士がくっつきやすく、これら樹脂フィルムの製膜時や、それらへの表面加工時のハンドリング性として、フィルムに微粒子を添加し、フィルムの透明性を損なうことなく、滑り性を持たせて、ハンドリング性の向上や、巻き性の安定化を図っている。
【0005】
セルロースエステルフィルムは、通常、溶液流延製膜法によって製造される。すなわち、セルロースエステルのドープ(濃厚溶液)を流延ダイから無端支持体の上に流延し、このドープに自己支持性が出た後に、無端支持体から剥ぎ取ることによって、フィルムが製造される。このフィルムには、セルロースエステルの他に、マット剤、可塑剤、及び紫外線吸収剤等の添加剤が含有されることが多い。マット剤は、製膜したフィルムの易滑性や耐接着性の改良のために使用され、紫外線吸収剤は、例えば偏光板に使用した際などに、その偏光板の劣化防止のために使用される。これらの成分は、通常、ドープを調製する際に一緒に混合される。
【0006】
特に、セルロースエステルフィルムの薄膜化に伴い、例えばフィルム同士がくっついてフィルムが変形してしまうハリツキ故障や、異物がフィルムの間に挟まったように凸状の変形になってしまう凸状故障などが発生しやすくなる。
【0007】
近年の高画質化に伴ってフィルムの異物要求レベルも厳しくなり、今までは問題にされなかった小さい異物も問題視されるようになった。例えば、目視で50μm程度に見える異物も電子顕微鏡などを使って解析すると、異物の核となっているものは、数μm程の大きさで、異物の周辺が盛り上がっているため、目視では大きく見えていることが分った。また核となっている異物のほとんどが、微粒子の凝集物であることも分った。そのため、微粒子の添加量を増加させて滑り性を向上し、かつ数μm以上の微粒子の凝集物だけを除去し、異物故障を低減するという両方の特性を満足することは困難であった。
【0008】
例えば、巻き取り工程でのフィルムの変形や、フィルムが長尺で巻かれた状態で長時間経過すると、フィルム同士のくっつきが発生したり、ひどい場合にはブロッキングが発生することがある。
【0009】
特に、セルロースエステルフィルムの原反を広幅化して、1.4m以上になると、フィルムの両サイドに設けたナーリングの効果が小さくなり、原反保存性が悪化しやすくなるという問題があった。
【0010】
そして、このようなフィルムを偏光板の製造工程で使用すると、フィルム同士がくっついた部分が変形し、偏光子との貼り合わせムラや、塗布加工する場合には塗布ムラが生じる原因となるという問題があった。
【0011】
ここで、従来の偏光板用保護フィルムに用いられるセルロースエステルフィルムに関わる先行特許文献には、つぎのようなものがある。
【特許文献1】特開2001−114907号公報 特許文献1には、フィルム同士がくっついてフィルムが変形してしまうハリツキ故障を捕集しするために、マット剤を溶剤中で分散し、この分散液を紫外線吸収剤を含んだ溶液中に添加して微粒子添加液を作製し、これをインラインでセルロースエステル樹脂の主ドープに添加する方法が開示されている。
【特許文献2】特開平7−11055号公報 また、特許文献2には、セルローストリアセテートを溶剤に溶解することにより予め調製されたドープと、表面にメチル基を有する微粒子を溶剤又は溶剤とセルローストリアセテートとの混合溶液に分散することにより予め調製された分散液とを混合した後、該混合液を支持体上に流延し、次いで乾燥することからなるセルローストリアセテートフィルムの製造方法が開示されている。
【特許文献3】特開2003−291161号公報 特許文献3には、ポリマーを溶解したドープにマット剤を混合させて、そのドープを流延してフイルムを製膜する溶液製膜方法において、製膜されたフイルム中のマット剤量を検出する第1の工程と、前記第1の工程で検出されたマット剤量に基づいて、前記ドープに混合させるマット剤量を調整する第2の工程とを有する、溶液製膜方法が開示されている。
【特許文献4】特開2005−178239号公報 特許文献4には、微粒子を含有するセルロースエステルフィルムの製造方法において、微粒子を含有する添加液を主ドープに添加し、その後、捕集粒子径0.5〜5μmでかつ濾水時間が10〜25sec/100mlの濾材で濾過し、該ドープを流延してフィルムを製造する、セルロースエステルフィルムの製造方法が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記の特許文献1の方法によれば、異物を減らそうとして微粒子添加液を細かいフィルターで濾過すると、フィルターで微粒子の凝集物同士がくっついてさらに凝集し、フィルターに詰まって濾過圧が急激に上昇したりすることが多いという問題があった。また、この特許文献1の方法では、主ドープに微粒子添加液をインラインで添加する時に発生するショックで、さらに微粒子凝集が発生し、これを除去することはできなかった。
【0013】
また、上記の特許文献2の方法では、微粒子として、メチル基を有する微粒子に限定しているものの、圧力損失が一定値に達するまでのドープ濾過量が少なく、セルロースエステルフィルムの生産量の急激な拡大が続いている昨今では、生産性に見合っておらず、充分とは言えない状況であるという問題があった。
【0014】
また、上記特許文献3の方法は、微粒子を含有するフィルムでは、光学特性に影響を及ぼす微粒子の量がばらつくことを防止するために、製膜したフィルム中の微粒子の量を検出して、微粒子の添加量の設定にフィードバックするものであるが、製膜後のフィルムでの微粒子量の検出では、インラインとは言え、約数時間のタイムラグが生じるため、フィルム材料の仕込み段階でのバラツキが完全には抑えられないという問題があった。
【0015】
最後に、特許文献4では、捕集粒子径と濾水時間を規定した濾材(濾紙)で、ドープの濾過を行なっているが、濾材(濾紙)で微粒子の凝集物を除去することだけでは、根本的な解決には至らず、近年の高品質、かつ高生産性が求められている光学フィルムとしてのセルロースエステルフィルムの製造の現状では、充分でないという問題があった。
【0016】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、セルロースエステル樹脂溶液(ドープ)に含有される微粒子の添加起因による異物を、ドープの溶解混合工程において、異物発生率を抑えることで、その後の濾過工程でのフィルターへの負担を軽減し、異物の発生がなく、生産性にも優れたセルロースエステルフィルムを製造する方法、及びその方法で製造されたセルロースエステルフィルム、並びにセルロースエステルフィルムの製造装置を提供しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、微粒子を含有するセルロースエステル系樹脂溶液を用いて溶液流延製膜方法により製膜するセルロースエステルフィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で、微粒子分散液を噴霧して添加し、添加後、主溶媒の沸点以上の温度で溶解混合することを特徴としている。
【0018】
なお、微粒子分散液を噴霧して添加するとは、微粒子分散液を放射状に憤出させて添加する場合を含むものとする。
【0019】
請求項2の発明は、請求項1に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂溶解工程において噴霧して添加する微粒子分散液が、主溶媒の沸点以上、同沸点+50℃以下の温度に保たれていることを特徴としている。
【0020】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂の溶解工程で噴霧して添加する微粒子分散液は、セルロースエステル系樹脂の溶解釜への添加中か、または添加後、セルロースエステル系樹脂が溶解釜で完全溶解される前までに添加することを特徴としている。
【0021】
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、微粒子分散液に、下記一般式〔1〕で表される化合物を含有させ、ついでこの化合物を含む微粒子分散液を、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で噴霧して添加することを特徴としている。
【化1】

【0022】
〔式中、R、R、R、R及びRは、同一又は異ってもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、モノ又はジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、及び酸素又は窒素を含む5又は6員の複素環基よりなる群の中から選ばれた置換基をそれぞれ示し、RとRは閉環して炭素原子からなる5又は6員環を形成してもよい〕
請求項5の発明は、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、微粒子の分散液を予め調製し、この微粒子分散液に、セルロースエステル系樹脂と同じ樹脂が溶解混合されており、微粒子分散液の固形物比率が、溶解工程で溶解するセルロースエステル系樹脂溶液(ドープ)の固形物比率の0.1〜0.5倍であることを特徴としている。
【0023】
請求項6の発明は、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、微粒子が、二酸化ケイ素微粒子であることを特徴としている。
【0024】
請求項7の発明は、請求項6に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂の溶解工程で噴霧して添加された二酸化ケイ素微粒子を含むセルロースエステル系樹脂溶液(ドープ)を、捕集粒子径2.5μmの濾紙を通過させて得られた溶液を用いて製膜し、上記濾紙での二酸化ケイ素微粒子を含む2次微粒子の捕捉率が5%以内であることを特徴としている。
【0025】
請求項8の発明は、請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法により製造されたセルロースエステルフィルムであって、セルロースエステルフィルムの切断片の断面における微粒子の変動係数(平均粒径/標準偏差)が、透過型電子顕微鏡を用いる微粒子の粒径測定において、50%以下であることを特徴としている。
【0026】
請求項9の発明は、請求項8に記載のセルロースエステルフィルムであって、セルロースエステルフィルムの切断片の断面を透過型電子顕微鏡を用いる微粒子の粒径測定において、微粒子の変動係数(平均粒径/標準偏差)が、30%以下であることを特徴としている。
【0027】
請求項10の発明は、請求項8または9に記載のセルロースエステルフィルムであって、セルロースエステルフィルムの切断片の断面を透過型電子顕微鏡を用いる微粒子の粒径測定において、該粒径測定は2次微粒子の測定であり、1次粒子径が20nm以下であり、2次粒子径が150nm〜250nmであることを特徴としている。
【0028】
請求項11の発明は、請求項8〜10のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムであって、セルロースエステルフィルムのヘイズが、0〜0.5%であり、かつ表裏面の動摩擦係数が、0.5〜0.7であることを特徴としている。
【0029】
請求項12の発明は、微粒子を含有するセルロースエステル系樹脂溶液を用いて溶液流延製膜装置により製膜するセルロースエステルフィルムの製造装置であって、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる溶解釜に、微粒子分散液を噴霧して添加する噴霧ノズルが具備されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0030】
請求項1のセルロースエステルフィルムの製造方法の発明は、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で、微粒子分散液を噴霧して添加し、添加後、主溶媒の沸点以上の温度で溶解混合するもので、本発明によれば、セルロースエステル樹脂溶液(ドープ)に含有される微粒子の添加起因による異物発生率を、ドープの溶解混合工程において抑えることができて、その後の濾過工程でのフィルターへの負担を軽減し、異物の発生がなく、生産性にも優れているセルロースエステルフィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0031】
請求項2の発明は、請求項1に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂溶解工程において噴霧して添加する微粒子分散液が、主溶媒の沸点以上、同沸点+50℃以下の温度に保たれているもので、本発明によれば、セルロースエステル系樹脂溶解工程における微粒子の溶解混合の温度を、主溶媒の沸点+50℃以下の温度に規定することにより、異物発生率を、ドープの溶解混合工程において確実に抑えることができて、異物の発生がなく、光学特性に優れたセルロースエステルフィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0032】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂の溶解工程で噴霧して添加する微粒子分散液は、セルロースエステル系樹脂の溶解釜への添加中か、または添加後、セルロースエステル系樹脂が溶解釜で完全溶解される前までに添加するもので、本発明によれば、セルロースエステル系樹脂の溶解工程での微粒子の添加のタイミングを規定することにより、セルロースエステル樹脂溶液(ドープ)に含有される微粒子の添加起因による異物発生率を、ドープの溶解混合工程において確実に抑えることができて、その後の濾過工程でのフィルターへの負担を大幅に軽減し、異物の発生がなく、生産性にも優れているセルロースエステルフィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0033】
請求項4の発明は、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、微粒子分散液に、上記の一般式〔1〕で表される化合物を含有させ、ついでこの化合物を含む微粒子分散液を、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で噴霧して添加するもので、本発明によれば、微粒子分散液に、紫外線吸収剤としての機能を有する特定の化合物を含有させ、この化合物を含む微粒子分散液を、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で噴霧して添加することにより、微粒子の2次凝集の粒径の分布(変動係数)がより単分散化し、得られるセルロースエステルフィルムのヘイズ値も低下し、その後の濾過工程での濾紙フィルターにおいても捕捉すべき異物数が減少するために、フィルターライフの観点からも有効となり、生産性の向上にも寄与することが可能であるという効果を奏する。
【0034】
請求項5の発明は、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、微粒子分散液に、セルロースエステル系樹脂と同じ樹脂が溶解混合されており、微粒子分散液の固形物比率が、溶解工程で溶解するセルロースエステル系樹脂溶液(ドープ)の固形物比率の0.1〜0.5倍であるもので、本発明によれば、セルロースエステル系樹脂の溶解工程で噴霧して添加される微粒子分散液に予め溶解混合されるセルロースエステル系樹脂と同じ樹脂の固形物比率を規定することにより、微粒子の添加をスムーズに行なうことができて、微粒子の添加起因による異物発生率を、ドープの溶解混合工程において確実に抑えることができ、異物の発生がなく、生産性にも優れているセルロースエステルフィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0035】
請求項6の発明は、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、微粒子が、二酸化ケイ素微粒子であるもので、本発明によれば、一般的に温度により粘度に影響が与えやすいことが知られている二酸化ケイ素(シリカ)微粒子は、添加後に溶媒の沸点以上で攪拌混合されることは好ましくないとされるが、本発明では、セルロースエステル樹脂の溶解工程、好ましくは、主溶媒に対するセルロースエステル樹脂の添加溶解途中に、二酸化ケイ素(シリカ)微粒子を添加することによって、従来はドープに微粒子をインライン添加する時のショックで発生する凝集が起因と見られるセルロースエステル製造時の異物故障に対して、極端にその発生防止の効果があり、異物の発生がなく、生産性にも優れているセルロースエステルフィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0036】
請求項7の発明は、請求項6に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂の溶解工程で噴霧して添加された二酸化ケイ素微粒子を含むセルロースエステル系樹脂溶液(ドープ)を、捕集粒子径2.5μmの濾紙を通過させて得られた溶液を用いて製膜し、上記濾紙での二酸化ケイ素微粒子を含む2次微粒子の捕捉率が5%以内であるもので、本発明によれば、セルロースエステル系樹脂の溶解工程で噴霧して添加された二酸化ケイ素微粒子を含むドープを、その後の濾過工程において、特定の濾紙を用いるとともに、2次微粒子の捕捉率を規定することにより、異物数が大幅に減少して、光学特性に優れたセルロースエステルフィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0037】
請求項8の発明は、請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法により製造されたセルロースエステルフィルムであって、セルロースエステルフィルムの切断片の断面における微粒子の変動係数(平均粒径/標準偏差)が、透過型電子顕微鏡を用いる微粒子の粒径測定において、50%以下であるもので、本発明によれば、セルロースエステルフィルムに含まれる微粒子の分布が良く、しかも異物の発生がなく、光学特性に優れたセルロースエステルフィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0038】
請求項9の発明は、請求項8に記載のセルロースエステルフィルムであって、セルロースエステルフィルムの切断片の断面を透過型電子顕微鏡を用いる微粒子の粒径測定において、微粒子の変動係数(平均粒径/標準偏差)が、30%以下であるもので、本発明によれば、セルロースエステルフィルムに含まれる微粒子の変動係数(平均粒径/標準偏差)をさらに規定することにより、セルロースエステルフィルムに含まれる微粒子の分布が非常に良く、しかも異物の発生がなく、光学特性に優れたセルロースエステルフィルムを製造することができるという効果を奏する。
【0039】
請求項10の発明は、請求項8または9に記載のセルロースエステルフィルムであって、セルロースエステルフィルムの切断片の断面を透過型電子顕微鏡を用いる微粒子の粒径測定において、該粒径測定は2次微粒子の測定であり、1次粒子径が20nm以下であり、2次粒子径が150nm〜250nmであるもので、本発明によれば、セルロースエステルフィルムの1次粒子径と2次粒子径を特定のものに規定することにより、異物の発生がなく、セルロースエステルフィルムは光学特性に優れているという効果を奏する。
【0040】
請求項11の発明は、請求項8〜10のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムであって、セルロースエステルフィルムのヘイズが、0〜0.5%であり、かつ表裏面の動摩擦係数が、0.5〜0.7であるもので、本発明によれば、セルロースエステルフィルムのヘイズを特定のものに規定することにより、フィルムの透明性が良好であり、またフィルムの表裏面の動摩擦係数を特定のものに規定することにより、滑り性が良好で、フィルム同士がくっつき難く、これら樹脂フィルムへの表面加工時のハンドリング性の向上、及び巻き性の安定化を図ることができるという効果を奏する。
【0041】
請求項12の発明は、微粒子を含有するセルロースエステル系樹脂溶液を用いて溶液流延製膜装置により製膜するセルロースエステルフィルムの製造装置であって、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる溶解釜に、微粒子分散液を噴霧して添加する噴霧ノズルが具備されているもので、本発明によれば、セルロースエステル樹脂溶液(ドープ)に含有される微粒子の添加起因による異物発生率を、ドープの溶解混合工程において抑えることができて、その後の濾過工程でのフィルターへの負担を軽減し、異物の発生がなく、生産性にも優れているセルロースエステルフィルムを製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
つぎに、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0043】
本発明によるセルロースエステルフィルムの製造方法は、微粒子を含有するセルロースエステル系樹脂溶液を用いて溶液流延製膜方法により製膜するセルロースエステルフィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で、微粒子分散液を噴霧して添加し、添加後、主溶媒の沸点以上の温度で溶解混合するものである。
【0044】
以下に、本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法について、詳しく説明する。
【0045】
本発明の方法において使用するセルロースエステルは、綿花リンターから合成されたセルロースエステルと木材パルプから合成されたセルロースエステル、それ以外の原料から合成されたセルロースエステルを単独あるいは混合して用いることができる。
【0046】
本発明に用いられるセルロースエステルとしては、セルロースの低級脂肪酸エステルが好ましく用いられる。
【0047】
セルロースエステルの低級脂肪酸エステルにおける低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味し、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等、また特開平10−45804号公報、同8−231761号公報、米国特許第2,319,052号公報等に記載されているセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の混合脂肪酸エステルなどがセルロースの低級脂肪酸エステルの例として挙げられる。
【0048】
セルロースエステルのアシル基の置換度の測定方法としては、ASTM−D−817−96に準じて実施することができる。
【0049】
上記脂肪酸の中でも、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートが好ましく用いられるが、本発明のセルロースエステルフィルムの場合には、フィルム強度の観点から、特に重合度250〜400のものが好ましく用いられる。
【0050】
本発明のセルロースエステルフィルムは、総アシル基置換度が2.5〜3.0のセルロースエステルが好ましく用いられるが、特に、総アシル基置換度が2.55〜2.85のセルロースエステルが好ましく用いられる。総アシル基置換度が2.55以上になるとフィルムの機械強度が増加し、2.85以下になるとセルロースエステルの溶解性が向上したり、異物の発生が低減されるため、より好ましい。
【0051】
偏光板保護フィルムとして用いる場合は、セルロースアセテートがより好ましく、重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した分子量分布Mw/Mnが1.8〜3.0であることがさらに好ましい。
【0052】
セルロースエステルフィルムの主ドープを作製する際に使用される溶媒としては、セルロースエステルを溶解できる溶媒であれば特に限定はされないが、また単独で溶解できない溶媒であっても他の溶媒と混合することにより、溶解できるものであれば使用することができる。一般的には、良溶媒であるメチレンクロライドとセルロースエステルの貧溶媒からなる混合溶媒を用い、かつ混合溶媒中には貧溶媒を4〜30重量%含有するものが好ましく用いられる。
【0053】
この他、使用できる良溶媒としては、例えばメチレンクロライド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、アセトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、ニトロエタン等を挙げることができるが、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物、ジオキソラン誘導体、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン等が好ましい有機溶媒(すなわち、良溶媒)として挙げられる。酢酸メチルを用いると、得られるフィルムのカールが少なくなるため特に好ましい。
【0054】
セルロースエステルの貧溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等の炭素原子数1〜8のアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸プロピル、モノクロルベンゼン、ベンゼン、シクロヘキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテル等を挙げることができ、これらの貧溶媒は、単独もしくは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0055】
セルロースエステル系樹脂の溶解工程では、セルロースエステル系樹脂と共に、セルロースエステルフィルムの返材を用いても良い。返材の使用比率は、主ドープ等の処方値の固形分に対して0〜70重量%が好ましく、10〜50重量%がさらに好ましく、20〜40重量%が最も好ましい。返材使用量の多い方が、濾過性に優れ、返材使用量の少ない方が、滑り性に優れるため、上記範囲にすることが好ましい。
【0056】
返材とは、セルロースエステルフィルムを細かく粉砕した物で、セルロースエステルフィルムを製膜するときに発生する、フィルムの両サイド部分を切り落とした物や、擦り傷などでスペックアウトしたセルロースフィルム原反が使用される。
【0057】
返材を使用した場合は、その使用量に対応して、後述する紫外線吸収剤、可塑剤などセルロースエステルフィルムに含まれる添加剤は減量して、最終的なセルロースエステルフィルム組成が設計値になるように調整を行なう必要がある。
【0058】
本発明によるセルロースエステルフィルムの製造方法は、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で、微粒子を含む分散液を噴霧して添加し、添加後、主溶媒の沸点以上の温度で溶解混合するものである。
【0059】
ここで、微粒子分散液を噴霧して添加するとは、微粒子分散液を放射状に憤出させて添加する場合を含むものとする。
【0060】
本発明に使用される微粒子としては、無機化合物の例として、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は、ケイ素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化ケイ素が好ましい。二酸化ケイ素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見掛け比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmがより好ましく、5〜12nmがさらに好ましい。1次粒子の平均径が小さい方がヘイズが低く好ましい。見掛け比重は、90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見掛け比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0061】
微粒子の添加量は、1mあたり0.02〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gがさらに好ましく、0.08〜0.2gが最も好ましい。
【0062】
例えば、セルロースエステルに対する二酸化ケイ素微粒子の添加量は、セルロースエステルに対して、二酸化ケイ素微粒子は0.01〜5.0重量%が好ましく、0.05〜1.0重量%がさらに好ましく、0.1〜0.6重量%が最も好ましい。添加量は多い方が、動摩擦係数に優れ、添加量が少ない方が、凝集物が少なくなる。
【0063】
二酸化ケイ素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル株式会社製)の商品名で市販されており、使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上、日本アエロジル株式会社製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0064】
本発明によるセルロースエステルフィルムの製造方法では、微粒子が、二酸化ケイ素微粒子であるのが好ましい。というのは、一般的に温度により粘度に影響が与えやすいことが知られている二酸化ケイ素(シリカ)微粒子は、添加後に溶媒の沸点以上で攪拌混合されることは好ましくないとされるが、本発明では、セルロースエステル樹脂の溶解工程、好ましくは、主溶媒に対するセルロースエステル樹脂の添加溶解途中に、二酸化ケイ素(シリカ)微粒子を添加することによって、従来はドープに微粒子をインライン添加する時のショックで発生する凝集が起因と見られるセルロースエステル製造時の異物故障に対して、極端にその発生防止の効果があり、異物の発生がなく、生産性にも優れているセルロースエステルフィルムを製造することができる。
【0065】
ポリマー微粒子の例として、シリコーン樹脂、弗素樹脂及びアクリル樹脂を挙げることができる。シリコーン樹脂が好ましく、特に三次元の網状構造を有するものが好ましく、例えば、トスパール103、同105、同108、同120、同145、同3120及び同240(以上東芝シリコーン株式会社製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0066】
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見掛け比重が70g/リットル以上である二酸化ケイ素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0067】
ここで、セルロースエステル系樹脂溶解工程で微粒子分散液を噴霧して添加する場合、微粒子分散液が、主溶媒の沸点以上、同沸点+50℃以下の温度に保たれているのが、好ましい。このように、セルロースエステル系樹脂溶解工程で微粒子分散液を噴霧して添加する微粒子分散液の温度を、主溶媒の沸点+50℃以下の温度に規定することにより、異物発生率を、ドープの溶解混合工程において確実に抑えることができる。
【0068】
また、セルロースエステル系樹脂の溶解工程で噴霧して添加する微粒子分散液は、セルロースエステル系樹脂の溶解釜への添加中か、または添加後、セルロースエステル系樹脂が溶解釜で完全溶解される前までに添加されるのが、好ましい。このように、セルロースエステル系樹脂の溶解工程での微粒子の添加のタイミングを規定することにより、セルロースエステル樹脂溶液(ドープ)に含有される微粒子の添加起因による異物発生率を、ドープの溶解混合工程において確実に抑えることができて、その後の濾過工程でのフィルターへの負担を大幅に軽減し、異物の発生がなく、生産性にも優れている。
【0069】
本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法においては微粒子の分散液を予め調製し、この微粒子分散液を、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で噴霧して添加し、添加後、主溶媒の沸点以上の温度で溶解混合する。
【0070】
微粒子を含む分散液の作製方法は、以下ような方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
(作製方法A)
溶剤と微粒子を撹拌混合した後、分散機で分散を行なう。これを微粒子分散液とする。微粒子分散液を溶剤で希釈し、その後、少量のセルロースエステルまたは主ドープを加え、充分撹拌する。
【0072】
(作製方法B)
溶剤と微粒子を撹拌混合した後、分散機で分散を行なう。これを微粒子分散液とする。別に溶剤に少量のセルロースエステルまたは主ドープを加え、撹拌溶解する。これに前記微粒子分散液を加えて撹拌する。
【0073】
(作製方法C)
溶剤に少量のセルロースエステルまたは主ドープを加え、撹拌溶解する。これに微粒子を加えて分散機で分散を行なう。
【0074】
(作製方法D)
溶剤と微粒子を撹拌混合した後、分散機で分散を行なう。これを微粒子分散液とする。これに溶剤を加えて微粒子分散液とする。
【0075】
微粒子分散液は、少量のセルロースエステル系樹脂を含んでいる方が、主ドープ添加時に発生する凝集が少なく好ましい。さらに作製方法Aが、分散液作製時の凝集発生も少なく、特に好ましい。
【0076】
微粒子を分散するときに使用する溶剤は、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることができる。特にアルコールが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール等の炭素原子数1〜8の等が挙げられる。
【0077】
微粒子を溶剤と混合して分散するときの微粒子の濃度は、5〜30重量%が好ましく、8〜25重量%がさらに好ましく、10〜15重量%が最も好ましい。微粒子分散液中の微粒子濃度は、高い方が、添加量に対する液濁度は低くなる傾向があり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0078】
微粒子を溶剤と少量の樹脂とを混合して分散するときの微粒子の濃度は、0.5〜10重量%が好ましく、1〜5重量%がさらに好ましく、1〜3重量%が最も好ましい。樹脂の濃度は、2〜10重量%が好ましく、3〜7重量%がさらに好ましく、4〜6重量%が最も好ましい。この範囲が微粒子の分散性に優れるため好ましい。なお、微粒子の含有量の少ない方が、低粘度で取り扱いやすく、微粒子の含有量の多い方が、添加量が少なく、主ドープへの添加が容易になるため、上記の範囲が好ましい。
【0079】
微粒子を分散する分散機は、通常の分散機が使用できる。分散機は、大きく分けてメディア分散機とメディアレス分散機に分けられる。微粒子の分散には、メディアレス分散機がヘイズが低く好ましい。
【0080】
メディア分散機としては、ボールミル、サンドミル、ダイノミルなどが挙げられる。
【0081】
メディアレス分散機としては、超音波型、遠心型、高圧型などがあるが、本発明においては、高圧分散装置が好ましい。高圧分散装置は、微粒子と溶媒を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。高圧分散装置で処理することにより、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が100kgf/cm以上であることが好ましい。さらに好ましくは200kgf/cm以上である。またその際、最高到達速度が100m/sec以上に達するもの、伝熱速度が100kcal/hr以上に達するものが好ましい。
【0082】
上記のような高圧分散装置には、MicrofluidicsCorporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザー、あるいはウルトラタラックスがあり、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザー、三和機械株式会社社製、品番UHN−01等が挙げられる。
【0083】
セルロースエステルフィルムに含まれる微粒子中の、例えばシリカ(Si)分含量は、絶乾したセルロースエステルフィルムをマイクロダイジェスト湿式分解装置(硫硝酸分解)、アルカリ溶融で前処理を行なった後、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)を用いて分析を行なうことによって求めることができる。
【0084】
本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法では、セルロースエステル系樹脂の溶解工程で添加される微粒子分散液に、セルロースエステル系樹脂と同じ樹脂が溶解混合されており、微粒子分散液の固形物比率が、溶解工程で溶解するセルロースエステル系樹脂溶液(ドープ)の固形物比率の0.1〜0.5倍であることが好ましい。
【0085】
このように、微粒子分散液に、微粒子の他にセルロースエステルが含まれていることにより、分散液の粘度が調整され、停滞安定性に優れる点で好ましい。
【0086】
ここで、セルロースエステルは、主ドープと同じものが使用できる。また、主ドープと同様に返材を使用しても構わない。
【0087】
本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法において、セルロースエステル系樹脂のドープには、紫外線吸収剤が添加される。
【0088】
ここで、紫外線吸収剤は、400nm以下の紫外線を吸収することで、耐久性を向上させることを目的としており、特に波長380nmでの透過率が10%以下であることが好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下である。
【0089】
本発明に用いられる紫外線吸収剤は、20℃の温度下で液体である紫外線吸収剤が好ましい。20℃の温度下で液体の紫外線吸収剤を使用すると、フィルムを延伸したときに厚み方向リタデーション(Rt)値の変化が少なく好ましい。
【0090】
好ましく用いられる紫外線吸収剤は、透明性が高く、偏光板や液晶素子の劣化を防ぐ効果に優れたベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤やベンゾフェノン系紫外線吸収剤であり、不要な着色がより少ないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が特に好ましい。
【0091】
とくに、本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法においては、微粒子の分散液を予め調製し、この微粒子分散液に、下記一般式〔1〕で表される化合物を含有させ、ついでこの化合物を含む微粒子分散液を、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で噴霧して添加することが好ましい。
【化1】

【0092】
〔式中、R、R、R、R及びRは、同一又は異ってもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、モノ又はジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、及び酸素又は窒素を含む5又は6員の複素環基よりなる群の中から選ばれた置換基をそれぞれ示し、RとRは閉環して炭素原子からなる5又は6員環を形成してもよい〕
このように、微粒子の分散液を予め調製し、この微粒子分散液に、上記の一般式〔1〕で表される化合物を含有させ、ついでこの化合物を含む微粒子分散液を、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で添加するもので、本発明によれば、微粒子分散液に、紫外線吸収剤としての機能を有する特定の化合物を含有させ、この化合物を含む微粒子分散液を、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で噴霧して添加することにより、微粒子の2次凝集物の粒径の分布(変動係数)がより単分散化し、得られるセルロースエステルフィルムのヘイズ値も低下し、その後の濾過工程での濾紙フィルターにおいても捕捉すべき異物数が減少するために、フィルターライフの観点からも有効となり、生産性の向上にも寄与することが可能である。
【0093】
本発明に用いられる紫外線吸収剤の具体例として、例えば、5−クロロ−2−(3,5−ジ−sec−ブチル−2−ヒドロキシルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、(2−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−ベンジルオキシベンゾフェノン、2,4−ベンジルオキシベンゾフェノン等があり、また、チヌビン109、チヌビン171、チヌビン234、チヌビン326、チヌビン327、チヌビン328等のチヌビン類があり、これらはいずれもチバスペシャルティケミカルズ社製の市販品であり好ましく使用できる。これらの中で、チヌビン109、チヌビン171は、20℃の温度下で液体の紫外線吸収剤であり、さらに好ましく使用することができる。
【0094】
本発明によるセルロースエステルフィルムは、紫外線吸収剤を2種以上を含有することが好ましい。
【0095】
紫外線吸収剤の使用量は、紫外線吸収剤の種類、使用条件等により一様ではないが、セルロースエステルフィルムの乾燥膜厚が30〜200μmの場合は、セルロースエステルフィルムに対して0.5〜4.0重量%が好ましく、0.6〜2.0重量%がさらに好ましい。
【0096】
なお、本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法において、紫外線吸収剤を、微粒子分散液とは別に、セルロースエステル系樹脂の溶解工程で主ドープに添加する場合もある。この場合、紫外線吸収剤は添加液の形で添加するのが好ましく、ここで、紫外線吸収剤を含有した添加液とは、上記の紫外線吸収剤を含有し、主ドープへ添加される液のことであり、紫外線吸収剤を1〜30重量%含有していることが好ましく、5〜20重量%含有していることがさらに好ましく、10〜15重量%含有していることが最も好ましい。紫外線吸収剤の含有量の少ない方が、セルロースエステルの溶解性に優れ、紫外線吸収剤の含有量の多い方が、添加量が少なく、添加が容易になるため、上記の範囲が好ましい。
【0097】
紫外線吸収剤添加液には、紫外線吸収剤の他にセルロースエステルが含まれていることが、添加液の粘度を調整する点で好ましい。セルロースエステルは、主ドープと同じものが使用できる。また、主ドープと同様に返材を使用しても構わない。
【0098】
また、本発明の方法において、セルロースエステル系樹脂ドープ中には、可塑剤、酸化防止剤等が好ましく添加される。
【0099】
本発明で用いることのできる可塑剤としては、特に限定しないが、リン酸エステル系では、トリフェニルホスフェート(TPP)、ビフェニルジフェニルホスフェート(BDP)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート(EPEG)、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等を用いることができる。
【0100】
上記の可塑剤は必要に応じて、2種類以上を併用して用いてもよい。これらの可塑剤を含有することにより、寸法安定性、耐水性に優れたフィルムが得られるため、特に好ましい。
【0101】
本発明において、吸水率ならびに水分率を特定の範囲内にするために、好ましい可塑剤の添加量としては、セルロースエステルに対する重量%で、12重量%以下である。可塑剤を2種類以上併用する場合には、これらの可塑剤の合計量が12重量%以下であれば、良い。
【0102】
本発明の光学フィルムにおいては、上記可塑剤の他にも可塑剤と同様の作用を示す添加剤が含有させることができる。これらの添加剤としては、例えば、セルロースエステルフィルムを可塑化することのできる低分子有機化合物であれば、可塑剤と同様の効果を得ることができる。これらの成分は可塑剤に比べ直接フィルムを可塑化する目的で添加されるものではないが、量に応じて上記可塑剤と同様の作用を示す。
【0103】
本発明によるセルロースエステルフィルムには、脂肪族多価アルコールと1種以上のモノカルボン酸との多価アルコールエステルからなる化合物を含有することができる。セルロースエステルに対する多価アルコールエステルの含有量が4.5〜12.5重量%、好ましくは6〜12重量%、さらに好ましくは7〜11重量%である。
【0104】
本発明のセルロースエステルフィルムにおいて、上記モノカルボン酸は、分子内に芳香族環またはシクロアルキル環を有する化合物であるのが、好ましい。
【0105】
本発明のセルロースエステルフィルムにおいて、脂肪族多価アルコールは2〜20価であるのが、好ましい。
【0106】
このように、多価アルコールエステルを使用することにより、従来の可塑剤を減量できることの寄与が大きい。
【0107】
つぎに、本発明に用いられる脂肪族多価アルコールエステルについて説明すると、脂肪族多価アルコールエステルは、2価以上の脂肪族多価アルコールと1種以上のモノカルボン酸とのエステルである。
【0108】
(脂肪族多価アルコール)
本発明に用いられる脂肪族多価アルコールは、2価以上のアルコールで次の一般式(1)で表される。
【0109】
−(OH)n …(1)
ただし、式中、Rはn価の脂肪族有機基、nは2以上の正の整数、OH基はアルコール性及び/またはフェノール性水酸基を表す。
【0110】
ここで、n価の脂肪族有機基としては、アルキレン基(例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等)、アルケニレン基(例えばエテニレン基等)、アルキニレン基(例えばエチニレン基等)、シクロアルキレン基(例えば1,4−シクロヘキサンジイル基等)、アルカントリイル基(例えば1,2,3−プロパントリイル基等)が挙げられる。n価の脂肪族有機基は置換基(例えばヒドロキシ基、アルキル基、ハロゲン原子等)を有するものを含む。
【0111】
nは2〜20が好ましい。好ましい多価アルコールの例としては、例えばアドニトール、アラビトール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ガラクチトール、マンニトール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ピナコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、キシリトール等を挙げることができる。特に、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールが好ましい。
【0112】
(モノカルボン酸)
本発明において、多価アルコールエステルにおけるモノカルボン酸としては、特に制限はなく公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸等を用いることができる。脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸を用いると透湿性、保留性を向上させる点で好ましい。
【0113】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0114】
脂肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を有する脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数は1〜20であることがさらに好ましく、1〜10であることが特に好ましい。酢酸を含有するとセルロースエステルとの相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0115】
好ましい脂肪族モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。これらはさらに置換基を有しても良い。
【0116】
好ましい脂環族モノカルボン酸の例としては、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。
【0117】
好ましい芳香族モノカルボン酸の例としては、安息香酸、トルイル酸等の安息香酸のベンゼン環にアルキル基を導入したもの、ビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸等のベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸、またはそれらの誘導体を挙げることができる。特に安息香酸が好ましい。
【0118】
(多価アルコールエステル)
本発明に用いられる多価アルコールエステルの分子量は特に制限はないが、300〜1500であることが好ましく、350〜750であることがさらに好ましい。保留性の点では大きい方が好ましく、透湿性、セルロースエステルとの相溶性の点では小さい方が好ましい。
【0119】
本発明において、多価アルコールエステルにおけるカルボン酸は一種類でも、二種以上の混合でもよい。また、多価アルコール中のOH基は全てエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。好ましくは、分子内に芳香環もしくはシクロアルキル環を3つ以上有することが好ましい。
【0120】
本発明に用いられる多価アルコールエステルの例を以下に示す。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【0121】
上記多価アルコールエステルのうち、トリメチロールプロパントリベンゾエート(TMPTB)、トリメチロールプロパントリアセテート、トリメチロールプロパントリプロピオネート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリプロピレングリコールジベンゾエート、1,3−ジブチレングリコールジベンゾエート、テトラエチレングリコールジベンゾエート、トリメチロールプロパンと酢酸及び安息香酸との混合エステル、トリメチロールプロパンとシクロヘキサンカルボン酸とのエステル、トリメチロールプロパンと酢酸及びシクロヘキサンカルボン酸との混合エステル、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオールとシクロヘキサンカルボン酸とのエステル、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオールと安息香酸とのエステル、キシリトールと安息香酸とのエステル、キシリトールとシクロヘキサンカルボン酸とのエステルが好ましい。
【0122】
なお、多価アルコールエステルの使用量は、セルロースエステルに対して4.5〜12.5重量%が好ましく、6〜12重量%がさらに好ましく、特に好ましくは7〜11重量%である。
【0123】
本発明によるセルロースエステルフィルムは、セルロースエステルと溶剤、及び上記多価アルコールエステルからなる化合物のほかに、可塑剤、紫外線吸収剤等の添加剤を含有している。
【0124】
多価アルコールエステルからなる化合物、可塑剤、紫外線吸収剤等の添加剤は、予め溶剤と混合し、溶解または分散してからセルロースエステル溶解前の溶剤に投入しても、セルロースエステル溶解後のドープへ投入しても良い。
【0125】
上記の多価アルコールエステルは、可塑剤機能を有しており、このような多価アルコールエステルと、従来の可塑剤とを同時に使用することができる。その場合、多価アルコールエステルは、上記のように、セルロースエステルに対して4.5〜12.5重量%の範囲で使用することができるが、多価アルコールエステルと可塑剤との合計量が、セルロースエステルに対する重量%で12.5重量%以下であることが、好ましい。またこの場合には、可塑剤の使用量は、セルロースエステルに対して8.0重量%以下であるのが、好ましい。中でも、多価アルコールエステルの使用量が、セルロースエステルに対して7重量%以上であることが好ましく、さらには、可塑剤の使用量は、セルロースエステルに対して5.5重量%以下であることが好ましい。その理由は、多価アルコールエステルの使用により、従来の可塑剤の使用量を低減することが可能となるためである。
【0126】
本発明の好ましい態様であるセルロースエステルフィルムの製造方法について説明する。
【0127】
本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法に用いられる好ましい製膜工程は、下記に示す溶解工程、流延工程、溶媒蒸発工程、剥離工程、乾燥工程及び巻き取り工程からなる。以下に各々の工程を説明する。
【0128】
主ドープの溶解工程は、セルロースエステルのフレークに、前述の良溶媒を主とする有機溶媒に溶解釜中で該フレークを攪拌しながら溶解し、ドープを形成する工程である。
【0129】
本発明では、ドープ中の固形分濃度は、15重量%以上に調整することが好ましく、特に18〜35重量%のものが好ましく用いられる。
【0130】
ドープ中の固形分濃度が高過ぎるとドープの粘度が高くなり過ぎ、流延時にシャークスキンなどが生じてフィルム平面性が劣化する場合があるので、35重量%以下であることが望ましい。
【0131】
ドープ粘度は、10〜50Pa・sの範囲に調整されることが好ましい。
【0132】
溶解には、常圧で行なう方法、好ましい有機溶媒(すなわち、良溶媒)の沸点以下で行なう方法、上記の良溶媒の沸点以上で加圧して行なう方法、冷却溶解法で行なう方法、高圧で行なう方法等種々の溶解方法等がある。良溶媒の沸点以上の温度で、かつ沸騰しない圧力をかけて溶解する方法としては、40.4〜120℃で0.11〜1.50MPaに加圧することで発泡を抑え、かつ、短時間に溶解することができる。
【0133】
本発明の方法において、紫外線吸収剤、可塑剤、酸化防止剤等の添加物は、セルロースエステル系樹脂溶液の調製の際に、セルロースエステル系樹脂や溶媒と共に添加してもよいし、溶液調製中や調製後に添加してもよい。
【0134】
このようにして得られたドープを用い、以下に説明する流延工程を経てセルロースエステルフィルムを得ることができる。
【0135】
上記の異物の少ないセルロースエステル系樹脂フィルムを得るには、特に手段を選ばないが、セルロースエステル系樹脂を溶媒に溶解したドープ組成物を以下のような濾紙を用いて濾過することで達成できる。この場合、濾紙の種類としては、濾水時間が20sec以上の濾紙を用い、かつ、濾過圧力を16kg/cm以下で濾過して製膜することが好ましい。より好ましくは、濾水時間が30sec以上の濾紙を用いかつ濾過圧力を12kg/cm以下、さらに好ましくは、濾水時間が40sec以上の濾紙を用いかつ濾過圧力を10kg/cm以下で濾過することである。また、上記濾紙は、2枚以上重ねて用いるとより好ましい。また、濾過圧力は、濾過流量と濾過面積を適宜選択することで、コントロールできる。
【0136】
本発明の方法においては、セルロースエステル系樹脂の溶解工程で噴霧して添加された二酸化ケイ素微粒子を含むセルロースエステル系樹脂溶液(ドープ)を、捕集粒子径2.5μmの濾紙を通過させて得られた溶液を用いて製膜し、上記濾紙での二酸化ケイ素微粒子を含む2次微粒子の捕捉率が5%以内であるのが好ましい。というのは、セルロースエステル系樹脂の溶解工程で添加された二酸化ケイ素微粒子を含むドープを、その後の濾過工程において、特定の濾紙を用いるとともに、2次微粒子の捕捉率を規定することにより、異物数が大幅に減少して、光学特性に優れたセルロースエステルフィルムを製造することができる。
【0137】
つぎに、本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法を、図面を参照して説明する。
【0138】
図1は、本発明によるセルロースエステルフィルムの製造装置の概略を示すものである。
【0139】
本発明によるセルロースエステルフィルムの製造装置は、微粒子を含有するセルロースエステル系樹脂溶液を用いて溶液流延製膜装置により製膜するもので、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる溶解釜4に、微粒子分散液を噴霧して添加する噴霧ノズル3が具備されている。
【0140】
なお、微粒子分散液の噴霧ノズルとしては、例えば、圧搾空気などの高速気流で分散液を粉砕して微細粒子化し、低圧で微細な霧を噴霧する、2流体ノズルで、例えば1.4L/h以上の噴霧性能を有するものを使用するのが、好ましい。
【0141】
図1を参照すると、まず、微粒子分散液の調製釜1でドープに添加する微粒子の分散溶液(微粒子添加液)を調製し、この微粒子の分散溶液を送液ポンプ2aの作動により微粒子分散液噴霧ノズル3に導き、該噴霧ノズル3より微粒子分散液をドープ溶解釜4内に、噴霧してセルロースエステル系樹脂溶液(ドープ)に添加する。この場合、セルロースエステル系樹脂の溶解工程で噴霧して添加する微粒子分散液を、セルロースエステル系樹脂の溶解釜への添加中か、または添加後、セルロースエステル系樹脂が溶解釜で完全溶解される前までに添加するのが、好ましい。セルロースエステル系樹脂溶液(ドープ)には、その他、可塑剤、酸化防止剤等が含まれている。
【0142】
その後、微粒子含有ドープを送液ポンプ2bの作動により濾過器5に導いて濾過する。濾過器5では、微粒子含有ドープを、90%捕集粒子径が微粒子の平均粒子径の10倍〜100倍の濾材で、濾過する。
【0143】
濾過後の微粒子含有ドープは、流延ダイ102に導入し、溶液流延製膜法によりセルロースエステルフィルムを作製する。
【0144】
なお、濾過後の微粒子含有ドープは、一旦、ドープストック釜(図示略)に貯えるのが、好ましい。また、前述のように、本発明の方法においては、微粒子の分散液に、紫外線吸収剤を含有させておくのが、好ましいが、これに限らず、図示しない添加液溶解釜で紫外線吸収剤添加液を予め作成しておき、上記の微粒子含有ドープをスタティックミキサー(図示略)に導入するとともに、スタティックミキサーの手前において紫外線吸収剤添加液を導入して、微粒子含有ドープに紫外線吸収剤添加液をインライン添加しても良い。紫外線吸収剤添加液を添加後の微粒子含有ドープは、流延ダイ102に導入する。
【0145】
本発明においては、上記のようにして作製した流延用ドープを、流延ダイ102によって例えばステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる支持体101上に流延する。
【0146】
流延ダイ102としては、ダイの口金部分のスリット形状を調整でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。加圧ダイ102には、コートハンガーダイやTダイ等があり、いずれも好ましく用いられる。
【0147】
また、支持体101には、ステンレス鋼製の回転駆動エンドレスベルトもしくはステンレス鋼製の回転駆動ドラムを鏡面仕上げした支持体101が使用される。支持体101の温度は、一般的な温度範囲0℃〜溶剤の沸点未満の温度で、流延することができるが、5〜30℃の支持体101上に流延する方が、ドープをゲル化させ、剥離限界時間をあげられるため、好ましく、5〜15℃の支持体101上に流延することが、さらに好ましい。ここで、剥離限界時間とは、透明で平面性の良好なフィルムを連続的に得られる流延速度の限界において、流延されたドープが支持体101上にある時間をいう。剥離限界時間は、短い方が生産性に優れていて、好ましい。
【0148】
支持体101上の乾燥工程では、流延したドープを一旦ゲル化させた後、流延から剥離ロール103によって剥離するまでの時間を100%としたとき、流延から30%以内にドープ温度を40〜70℃にすることで、溶剤の蒸発を促進し、それだけ早く支持体101上から剥離することができ、さらに剥離強度が増すため好ましく、30%以内にドープ温度を55〜70℃にすることがより好ましい。その後、この温度を20%以上維持することが好ましく、さらにこの温度を40%以上維持することが好ましい。
【0149】
支持体101上での乾燥は、ウェブ104を、残留溶媒量60〜150%で支持体101から剥離ロール103によって剥離することが、支持体101からの剥離強度が小さくなるため好ましく、残留溶媒量80〜120%がより好ましい。剥離するときのドープの温度は0〜30℃にすることが剥離時のベース強度をあげることができ、剥離時のベース破断を防止できるため好ましく、5℃〜20℃がより好ましい。
【0150】
溶液流延製膜法によるセルロースエステルフィルムの製造において、残留溶媒量は、次式で表わされる。
【0151】
残留溶媒量(重量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブ(フィルム)の任意時点での重量、Nは重量Mのものを115℃で1時間加熱処理したときのフィルム重量である。
【0152】
フィルム乾燥工程においては、支持体101より剥離ロール103によって剥離したフィルムをさらに乾燥し、残留溶媒量を3重量%以下、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下であることが、寸法安定性が良好なフィルムを得る上で好ましい。
【0153】
剥離後、ウェブ104を、クリップ若しくはピンでウェブ104の両端を把持して搬送するテンター装置105、及び/または乾燥装置内に複数配置した搬送ロールに交互に通して搬送する乾燥装置106を用いて、ウェブ104を乾燥する。液晶表示用部材用としては、テンター方式で幅を保持しながら乾燥させることが、寸法安定性を向上させるために好ましい。特に、支持体101より剥離した直後の残留溶媒量の多いところで幅保持を行なうことが、寸法安定性向上効果をより発揮するため好ましい。
【0154】
特に、支持体101から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってウェブ104は幅手方向に収縮しようとする。高温度で乾燥するほど収縮が大きくなる。この収縮は可能な限り抑制しながら乾燥することが、出来上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているような乾燥全工程あるいは一部の工程を幅手方向にクリップでウェブ104の幅手方向両端を幅保持しつつ乾燥させる方法/テンター方式が好ましい。
【0155】
フィルムを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行なう。簡便さの点で熱風で行なうのが好ましい。乾燥温度は40〜150℃の範囲で3〜5段階の温度に分けて、段々高くしていくことが好ましく、80〜140℃の範囲で行なうことが、寸法安定性を良くするため、さらに好ましい。
【0156】
これら流延から後乾燥までの工程は、空気雰囲気下でもよいし、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下でもよい。乾燥雰囲気を溶媒の爆発限界濃度を考慮して実施することは勿論のことである。
【0157】
乾燥後のフィルム26中の残留溶媒量が2重量%以下となってから、セルロースエステル系樹脂フィルムとして巻取り機107によってロール状に巻き取り、残留溶媒量を0.4重量%以下にすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
【0158】
使用する巻取り機107は、一般的に使用されているものでよく、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。
【0159】
巻き取り性を安定させるために、セルロースエステル系樹脂フィルムの幅方向の両端に凹凸を付与して端部を嵩高くするいわゆるナーリング加工を施しても良い。
【0160】
ナーリング高さ(a:μm)のフィルム膜厚(d:μm)に対する比率X(%)=(a/d)を100としたとき、X=0〜25%の範囲が巻き取り性を安定させるために良い。
【0161】
好ましくは、0〜15%、より好ましくは、0〜10%である。この範囲より、ナーリング高さ比率が大きいと巻形状の変形が起こりやすく、また、同比率が小さいと巻き取り性が劣化するので好ましくない。
【0162】
本発明において、セルロースエステル系樹脂フィルムの厚さは、一般的には、20〜200μmの厚みで使用されるが、液晶表示装置(LCD)に使用される偏光板の薄肉化、軽量化が要望から、20〜65μmであることが好ましく、より好ましくは、30〜60μm、さらに好ましくは35〜50μmである。これ以上、薄い場合は、フィルムの腰の強さが低下するため、偏光板作製工程上でシワ等の発生によるトラブルが発生しやすく、また、これ以上厚い場合は、LCDの薄膜化に対する寄与が少ない。
【0163】
本発明の方法により製造されたセルロースエステルフィルムは、セルロースエステルフィルムの切断片の断面における微粒子の変動係数(平均粒径/標準偏差)が、透過型電子顕微鏡を用いる微粒子の粒径測定において、50%以下、好ましくは30%以下である。このように、セルロースエステルフィルムに含まれる微粒子の変動係数(平均粒径/標準偏差)をさらに規定することにより、セルロースエステルフィルムに含まれる微粒子の分布が非常に良く、しかも異物の発生がなく、光学特性に優れたセルロースエステルフィルムを製造することができる。
【0164】
また、本発明のセルロースエステルフィルムは、セルロースエステルフィルムの切断片の断面を透過型電子顕微鏡を用いる微粒子の粒径測定において、該粒径測定は2次微粒子の測定であり、1次粒子径が20nm以下であり、2次粒子径が150nm〜250nmである。このように、セルロースエステルフィルムの1次粒子径と2次粒子径を特定のものに規定することにより、異物の発生がなく、セルロースエステルフィルムは光学特性に優れている。
【0165】
さらに、本発明によるセルロースエステルフィルムのヘイズは、0〜0.5%であり、かつ表裏面の動摩擦係数が、0.5〜0.7であるのが好ましい。このように、本発明によるセルロースエステルフィルムのヘイズを特定のものに規定することにより、フィルムの透明性が良好であり、またフィルムの表裏面の動摩擦係数を特定のものに規定することにより、滑り性が良好で、フィルム同士がくっつき難く、これら樹脂フィルムへの表面加工時のハンドリング性の向上、及び巻き性の安定化を図ることができる。
【0166】
本発明のセルロースエステルフィルムは、良好な透湿性、寸法安定性等から液晶表示用部材、詳しくは偏光板用保護フィルムに用いられるのが好ましい。特に、透湿度と寸法安定性に対して共に厳しい要求のある偏光板用保護フィルムにおいて、本発明のセルロースエステルフィルムは好ましく用いられる。
【0167】
ところで、偏光板は、一般的な方法で作製することができる。例えば、光学フィルムあるいはセルロースエステルフィルムをアルカリケン化処理し、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬、延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリケン化処理とは、水系接着剤の濡れを良くし、接着性を向上させるために、セルロースエステルフィルムを高温の強アルカリ液中に漬ける処理のことをいう。
【0168】
本発明のセルロースエステルフィルムには、ハードコート層、防眩層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、導電層、光学異方層、液晶層、配向層、粘着層、接着層、下引き層等の各種機能層を付与することができる。これらの機能層は、塗布あるいは蒸着、スパッタ、プラズマCVD、大気圧プラズマ処理等の方法で設けることができる。
【0169】
このようにして得られた偏光板が、液晶セルの片面または両面に設けられ、これを用いて、液晶表示装置が得られる。
【0170】
本発明のセルロースエステルフィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。
【0171】
さらに、本発明のセルロースエステルフィルムからなる偏光板用保護フィルムあるいは位相差フィルムを用いた液晶表示装置は、長期間にわたって安定した表示性能を維持することができる。
【0172】
本発明のセルロースエステルフィルムは、反射防止用フィルムあるいは光学補償フィルムの基材としても使用できる。
【実施例】
【0173】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0174】
実施例1
本発明の方法によりセルローストリアセテートフィルムの製造にあたり、まず微粒子分散液をつぎのようにして作製した。
【0175】
(微粒子分散液の作製)
エタノール 27重量部
二酸化ケイ素微粒子 3重量部
(商品名:アエロジル200V、1次粒径:12nm;
日本アエロジル株式会社製)
上記の材料を容器に入れて混合し、回転数500rpmにて30分攪拌後、マントンゴーリン型高圧分散機(微粒子分散液調製釜)1(図1参照)にて、250kgf/cmの圧力で分散して、分散液を作製した。
【0176】
(ドープ組成物)
セルローストリアセテート(酢化度61.0%) 100重量部
エチルフタリルエチルグリコレート(可塑剤A) 2重量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤B) 8重量部
メチレンクロライド 475重量部
エタノール 50重量部
上記のドープ組成物の材料を溶解釜4に投入し、80℃まで加熱し、撹拌しながら、セルローストリアセテート(TAC)を溶解した。そして、この実施例1では、微粒子分散液の調製釜1で調製した微粒子分散溶液を、送液ポンプ2aの作動により微粒子分散液噴霧ノズル3に導き、該噴霧ノズル3より微粒子分散液をドープ溶解釜4内に、噴霧してセルロースエステル系樹脂溶液(ドープ)に添加した。ここで、微粒子分散液の噴霧ノズル3としては、圧搾空気よりなる高速気流で分散液を粉砕して微細粒子化し、低圧で微細な霧を噴霧する2流体ノズル(スプレーイングシステムジャパン株式会社製)を使用した。また、この実施例1では、微粒子分散液の温度を、主溶媒であるメチレンクロライドの沸点(38℃)よりも7℃高い、45℃の温度とした。
【0177】
(紫外線吸収剤添加液の作製)
つぎに、液状紫外線吸収剤とセルローストリアセテートフィルムと同じ樹脂を溶解混合して、紫外線吸収剤の添加液を作製した。
【0178】
セルローストリアセテート 12重量部
2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル
フェニル)ベゾトリアゾール(紫外線吸収剤) 26重量部
メチレンクロライド 268重量部
上記の材料を容器に入れて溶解混合し、紫外線吸収剤添加液を作製した。ついで、上記のセルローストリアセテートの溶解工程で噴霧して添加された二酸化ケイ素微粒子を含むセルローストリアセテート溶液(ドープ)に、紫外線吸収剤添加液をインライン添加した。このインライン添加では、図示しないインラインミキサー(東レ社製の静止型管内混合機Hi−Mixer、SWJ)で充分混合した。
【0179】
こうして得られたドープにおけるセルローストリアセテートに対する微粒子の添加量は、0.1重量%であった。
【0180】
さらに、上記の二酸化ケイ素微粒子及び紫外線吸収剤を含むセルローストリアセテート溶液(ドープ)を、捕集粒子径2.5μmの濾紙を通過させて得られた溶液を用いて製膜し、上記濾紙での二酸化ケイ素微粒子を含む2次微粒子の捕捉率を3.0%とした。
【0181】
ついで、上記のようにして作製した流延用ドープを、図1に示すベルト流延装置を用い、ドープ温度35℃で、30℃のステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる支持体101上に均一に流延した。剥離可能な範囲まで乾燥させた後、支持体101上からドープを剥離した。このときのドープの残留溶媒量は25重量%であった。
【0182】
剥離したセルローストリアセテートのウェブを35℃で溶媒を蒸発させ、1650mm幅にスリットし、その後、テンターで幅手方向に1.07倍に延伸しながら、135℃の乾燥温度で、乾燥させた。このときテンターで延伸を始めたときの残留溶剤量は、10重量%であった。その後、110℃、120℃の乾燥ゾーンを多数のロールで搬送させながら乾燥を終了させ、1430mm幅にスリットし、フィルム両端に幅10mm、高さ5μmのナーリング加工を施し、初期張力220N/m、終張力110N/mで内径6インチコアに巻き取り、セルローストリアセテートフィルムを得た。セルローストリアセテートフィルムの残留溶剤量は0.004重量%であり、膜厚は40μm、巻数は2600mであった。
【0183】
この実施例1で作製したセルローストリアセテートフィルムの試料について、使用した微粒子の種類、セルローストリアセテートに対する微粒子の添加量(重量%)、微粒子分散液の添加状態、微粒子分散液の温度(℃)、紫外線吸収剤添加液(UV液)の添加の方法を、下記の表1に示した。
【0184】
実施例2
上記実施例1の場合と同様に、本発明の方法によりセルローストリアセテートフィルムの製造するが、実施例1の微粒子分散液に、セルローストリアセテートフィルムと同じ樹脂を溶解混合するとともに、液状紫外線吸収剤を溶解混合して、添加液を作製した。
【0185】
(添加液の作製)
微粒子分散液 22重量部
セルローストリアセテート 12重量部
2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル
フェニル)ベゾトリアゾール(紫外線吸収剤) 26重量部
メチレンクロライド 290重量部
(ドープ組成物)
セルローストリアセテート(酢化度61.0%) 100重量部
エチルフタリルエチルグリコレート(可塑剤A) 2重量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤B) 8重量部
メチレンクロライド 475重量部
エタノール 50重量部
上記のドープ組成物の材料を溶解釜4に投入し、80℃まで加熱し、撹拌しながら、セルローストリアセテート(TAC)を溶解した。そして、この実施例2では、微粒子及び紫外線吸収剤を含む添加液を、送液ポンプ2aの作動により微粒子分散液噴霧ノズル3に導き、該噴霧ノズル3より微粒子分散液をドープ溶解釜4内に、噴霧して添加した。この実施例2では、微粒子分散液の温度を、主溶媒であるメチレンクロライドの沸点(38℃)よりも8℃低い、30℃の温度とした。
【0186】
微粒子及び紫外線吸収剤を含む添加液の添加後、主溶媒であるメチレンクロライドの沸点(38℃)よりも高い温度でセルローストリアセテートの溶解混合を行なった。
【0187】
こうして得られたドープにおけるセルローストリアセテートに対する微粒子の添加量は、0.1重量%であった。
【0188】
セルローストリアセテートの溶解工程で添加された二酸化ケイ素微粒子を含むセルローストリアセテート溶液(ドープ)を、捕集粒子径2.5μmの濾紙を通過させて得られた溶液を用いて製膜し、上記濾紙での二酸化ケイ素微粒子を含む2次微粒子の捕捉率を7.0%とした。
【0189】
ついで、上記のようにして作製した流延用ドープを、以下、実施例1の場合と同様にして、溶液流延製膜方法により膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルムを作製した。
【0190】
この実施例2で作製したセルローストリアセテートフィルムの試料について、使用した微粒子の種類、セルローストリアセテートに対する微粒子の添加量(重量%)、微粒子分散液の添加状態、微粒子分散液の温度(℃)、紫外線吸収剤添加液(UV液)の添加の方法を、下記の表1にあわせて示した。
【0191】
実施例3〜10
実施例2の場合と同様にセルローストリアセテートフィルムの製造を行なうが、使用する微粒子の種類、セルローストリアセテートに対する微粒子の添加量(重量%)、微粒子分散液の温度(℃)、紫外線吸収剤添加液(UV液)の添加の方法、2次微粒子の捕捉率(%)を、下記の表1に示すように変化させた以外は、実施例2の場合と同様にして、膜厚40μmを有するセルローストリアセテートフィルムを作製した。
【0192】
なお、実施例3と5では、微粒子分散液の温度を、主溶媒であるメチレンクロライドの沸点(38℃)よりも7℃高い、45℃の温度とし、また、実施例4,実施例6〜実施例10では、微粒子分散液の温度を、主溶媒であるメチレンクロライドの沸点(38℃)よりも37℃高い、75℃の温度とした。
【0193】
これらの実施例3〜10で作製したセルローストリアセテートフィルムの試料について、使用した微粒子の種類、セルローストリアセテートに対する微粒子の添加量(重量%)、微粒子分散液の添加状態、微粒子分散液の温度(℃)、紫外線吸収剤添加液(UV液)の添加の方法を、下記の表1にあわせて示した。
【0194】
比較例1
比較のために、この比較例1では、従来法により、二酸化ケイ素微粒子を溶剤中で分散し、この分散液を紫外線吸収剤を含んだ溶液中に添加して微粒子添加液を作製し、これをインラインでセルローストリアセテートの主ドープに添加した。
【0195】
ついで、このようにして作製した流延用ドープを、以下、実施例1の場合と同様にして、溶液流延製膜方法により膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルムを作製した。
【0196】
比較例2
比較のために、上記実施例2の場合と同様にして、セルローストリアセテートフィルムを作製するが、この比較例2では、セルローストリアセテートの溶解釜4への添加中に、微粒子及び紫外線吸収剤を含む添加液を、溶液の状態で添加した。この比較例2では、微粒子分散液の温度を、主溶媒であるメチレンクロライドの沸点(38℃)よりも8℃低い、30℃の温度とした。
【0197】
ついで、このようにして作製した流延用ドープを、以下、実施例1の場合と同様にして、溶液流延製膜方法により膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルムを作製した。
【0198】
上記比較例1と2で作製したセルローストリアセテートフィルムの試料について、使用した微粒子の種類、セルローストリアセテートに対する微粒子の添加量(重量%)、微粒子分散液の添加状態、微粒子分散液の温度(℃)、紫外線吸収剤添加液(UV液)の添加の方法を、下記の表1にあわせて示した。
【0199】
つぎに、上記実施例1〜10、及び比較例1〜2で作製したセルローストリアセテートフィルムの各試料について、2次微粒子の捕捉率、得られたセルローストリアセテートフィルムの2次粒子の平均粒径(nm)、フィルム断面における微粒子の変動係数(平均粒径/標準偏差)、フィルムのヘイズ(%)、フィルムの動摩擦係数を評価し、得られた結果を下記の表1にまとめて示した。各項目についての性能評価は、つぎのようにしてを行なった。
【0200】
(評価方法)
1.2次微粒子の捕捉率
セルローストリアセテートの溶解工程で添加された二酸化ケイ素微粒子を含むセルローストリアセテート溶液(ドープ)を、捕集粒子径2.5μmの濾紙を通過させて得られた溶液を用いて製膜し、上記濾紙での二酸化ケイ素微粒子を含む2次微粒子の捕捉率が1.0%とした。
【0201】
2.マット剤(Si量)の定量
2600m巻きの最終部分のフィルムをサンプリングし、試料0.5gをアルカリ溶融後50ml水溶液に調液し、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)によりSiの定量分析を行なった。使用した装置はセイコー電子工業製のSPS−4000である。
【0202】
マット剤(Si)の粒径
平均粒径走査型電子顕微鏡(倍率3000倍)で粒子を観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子100個を観察し、その平均値をもって、平均粒径とした。
【0203】
3.セルローストリアセテートフィルムの切断片の断面における微粒子の変動係数(平均粒径/標準偏差)を、透過型電子顕微鏡を用いる微粒子の粒径測定により、算出した。
【0204】
4.ヘイズ:ASTM−D1003−52に規定の方法に従って測定した。
【0205】
5.動摩擦係数:フィルム表面と裏面間の動摩擦係数は、JIS−K−7125(1987)に準じ、フィルムの表裏面が接触するように切り出し、200gのおもりを載せ、サンプル移動速度100mm/分、接触面積80mm×200mmの条件で重りを水平に引っ張り、重りが移動中の平均荷重(F)を測定し、下記式より動摩擦係数(μ)を求めた。
【0206】
動摩擦係数(μ)=F(gf)/おもりの重さ(gf)
【表1】

【0207】
表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜10によるセルローストリアセテートフィルムでは、フィルム巻き毎の微粒子含有量のばらつきが小さいものであり、セルローストリアセテートフィルム同士の滑り性が良く、異物の発生がなく、生産性にも優れていることが判る。なお、本発明の実施例2におけるように、セルローストリアセテートの溶解釜4に噴霧して添加する微粒子分散液の温度を低いと、微粒子を含む2次粒子径が大きくなり、二酸化ケイ素微粒子を含む2次微粒子の捕捉率が高くなる傾向にある。また、本発明の実施例9と10におけるように、流延用ドープにおけるセルローストリアセテートに対する微粒子の添加量が多いと、2次粒子径が大きくなり、二酸化ケイ素微粒子を含む2次微粒子の捕捉率が高くなる傾向にある。
【0208】
これに対し、比較例1〜2のセルローストリアセテートフィルムでは、いずれも2次微粒子の変動係数が高く、セルローストリアセテートフィルムの巻き毎の微粒子含有量のばらつきが大きいものであり、異物故障として凸状故障が生じやすいうえに、滑り性も低下するという欠点がある。
【図面の簡単な説明】
【0209】
【図1】本発明のセルロースエステルフィルムの製造方法を実施する装置のフローシートである。
【符号の説明】
【0210】
1:分散液調製釜
2a,2b:送液ポンプ
3:微粒子分散液の噴霧ノズル
4:セルローストリアセテート溶解釜
5:濾過器
101:ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる支持体
102:流延ダイ
103:剥離ロール
104:ウェブ
105:テンター・乾燥装置
106:ロール搬送・乾燥装置
107:巻取り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子を含有するセルロースエステル系樹脂溶液を用いて溶液流延製膜方法により製膜するセルロースエステルフィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で、微粒子分散液を噴霧して添加し、添加後、主溶媒の沸点以上の温度で溶解混合することを特徴とする、セルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】
セルロースエステル系樹脂溶解工程において噴霧して添加する微粒子分散液が、主溶媒の沸点以上、同沸点+50℃以下の温度に保たれていることを特徴とする、請求項1に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】
セルロースエステル系樹脂の溶解工程で噴霧して添加する微粒子分散液は、セルロースエステル系樹脂の溶解釜への添加中か、または添加後、セルロースエステル系樹脂が溶解釜で完全溶解される前までに添加することを特徴とする、請求項1または2に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項4】
微粒子分散液に、下記一般式〔1〕で表される化合物を含有させ、ついでこの化合物を含む微粒子分散液を、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる工程で噴霧して添加することを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【化1】

〔式中、R、R、R、R及びRは、同一又は異ってもよく、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、ヒドロキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、モノ又はジアルキルアミノ基、アシルアミノ基、及び酸素又は窒素を含む5又は6員の複素環基よりなる群の中から選ばれた置換基をそれぞれ示し、RとRは閉環して炭素原子からなる5又は6員環を形成してもよい〕
【請求項5】
微粒子の分散液を予め調製し、この微粒子分散液に、セルロースエステル系樹脂と同じ樹脂が溶解混合されており、微粒子分散液の固形物比率が、溶解工程で溶解するセルロースエステル系樹脂溶液(ドープ)の固形物比率の0.1〜0.5倍であることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項6】
微粒子が、二酸化ケイ素微粒子であることを特徴とする、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項7】
セルロースエステル系樹脂の溶解工程で添加された二酸化ケイ素微粒子を含むセルロースエステル系樹脂溶液(ドープ)を、捕集粒子径2.5μmの濾紙を通過させて得られた溶液を用いて製膜し、上記濾紙での二酸化ケイ素微粒子を含む2次微粒子の捕捉率が5%以内であることを特徴とする、請求項6に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルムの製造方法により製造されたセルロースエステルフィルムであって、セルロースエステルフィルムの切断片の断面における微粒子の変動係数(平均粒径/標準偏差)が、透過型電子顕微鏡を用いる微粒子の粒径測定において、50%以下であることを特徴とする、セルロースエステルフィルム。
【請求項9】
セルロースエステルフィルムの切断片の断面を透過型電子顕微鏡を用いる微粒子の粒径測定において、微粒子の変動係数(平均粒径/標準偏差)が、30%以下であることを特徴とする、請求項8に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項10】
セルロースエステルフィルムの切断片の断面を透過型電子顕微鏡を用いる微粒子の粒径測定において、該粒径測定は2次微粒子の測定であり、1次粒子径が20nm以下であり、2次粒子径が150nm〜250nmであることを特徴とする、請求項8または9に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項11】
セルロースエステルフィルムのヘイズが、0〜0.5%であり、かつ表裏面の動摩擦係数が、0.5〜0.7であることを特徴とする、請求項8〜10のうちのいずれか一項に記載のセルロースエステルフィルム。
【請求項12】
微粒子を含有するセルロースエステル系樹脂溶液を用いて溶液流延製膜装置により製膜するセルロースエステルフィルムの製造装置であって、セルロースエステル系樹脂を主溶媒に溶解させる溶解釜に、微粒子分散液を噴霧して添加する噴霧ノズルが具備されていることを特徴とする、セルロースエステルフィルムの製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−254554(P2007−254554A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79380(P2006−79380)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】