説明

セルロースエステルモノフィラメント、繊維構造物および人工毛髪

【課題】人工毛髪などの繊維構造物にした際に優れた柔軟性、吸放湿性、発色性などの風合いを有する、セルロースエステルモノフィラメントを提供する。
【解決手段】置換度が2.5〜3.0であるセルロースエステルを主体に構成されてなり、繊維内部に中空部を有さない中実構造であることを特徴とするモノフィラメント、上記モノフィラメントを少なくとも一部に用いてなることを特徴とする繊維構造物、および上記モノフィラメントを少なくとも一部に用いてなることを特徴とする人工毛髪。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステルモノフィラメントに関するものである。さらに詳しくは、優れた柔軟性、吸放湿性、発色性などの風合いを有し、人工毛髪や織編物などの繊維構造物として好適に採用できる、セルロースエステルモノフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系材料は、地球上で最も大量に生産されるバイオマスとして、また自然環境下にて生分解可能な材料として、昨今、非常に大きな注目を集めつつある。また、セルロース系材料は屈折率が低いため、それを繊維にした場合には鮮明発色性に優れるという長所を有している。さらには、セルロース系材料は親水性が高いため、それを繊維にした場合には吸放湿性に優れるという長所も併せ持っている。
【0003】
ビスコースレーヨンやキュプラなどのセルロース繊維や、アセテートやトリアセテートなどのセルロースエステル繊維は、鮮明発色性や吸放湿性などの優れた特徴を活かして衣料用途を中心に幅広く利用されている。
【0004】
一般に、セルロース繊維は、セルロースを例えば銅アンモニア溶液などの溶剤に溶解させた後、凝固浴と呼ばれる溶液中で溶剤を除去させながら紡糸を行う湿式紡糸法により製造される。また、セルロースエステル繊維は、セルロースアセテートのようなセルロースエステルを例えばアセトンや、塩化メチレン/アルコール混合液などの有機溶剤に溶解させた後、この溶剤を蒸発させながら紡糸を行う乾式紡糸法により製造される。これらの製法を用いた場合、繊維表面または繊維内部から溶剤を除去する必要があるために、単糸繊度の大きなセルロース繊維およびセルロースエステル繊維を得ることが困難であった。
【0005】
また、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリオレフィン等の合成繊維素材からなるモノフィラメントは、かつらやヘアーウィッグなどの人工毛髪、織編物などの衣料用資材、カーテンやレースなどのインテリア資材として、幅広く利用されている。上記用途において、例えばかつらやヘアーウィッグなどの人工毛髪として用いる場合には、柔軟性、吸放湿性、発色性などの風合いを兼ね備えている必要があるが、一般的な繊維特性として、弾性率が高いと柔軟性に欠ける、親水性が低いと吸放湿性に欠ける、屈折率が高いと発色性に欠けるという欠点を生じる。
【0006】
ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリオレフィン等の合成繊維素材は、上記いずれかの欠点を有しているため、例えば人工毛髪として人毛と一緒に用いた場合には、人毛との風合いの違いにより頭髪全体として違和感が生じるという問題があった。
【0007】
これらの欠点を改善する手段としては、例えば、ポリエステル系繊維に有機粒子や無機粒子を含有させることで、発色性を向上させる技術(例えば、特許文献1〜3参照)が提案されている。しかしながら、この提案では、ポリエステル系繊維が高弾性率かつ疎水性であるために、柔軟性および吸放湿性に欠けるという問題を解決することができなかった。
【0008】
このように、従来技術では単糸繊度が大きく、柔軟性、吸放湿性、発色性などの風合いを兼ね備えたセルロースエステルモノフィラメントを得ることができなかった。
【特許文献1】特開2005−42234号公報
【特許文献2】特開2007−217805号公報
【特許文献3】特開2007−297737号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、人工毛髪や織編物などの繊維構造物にした際に、優れた柔軟性、吸放湿性、発色性などの風合いを有する、セルロースエステルモノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の本発明の課題は、置換度が2.5〜3.0であるセルロースエステルを主体に構成されてなり、繊維内部に中空部を有さない中実構造であることを特徴とするモノフィラメントによって解決することができる。
【0011】
また、セルロースエステルの少なくとも一部のアシル基が、アシル基炭素数3〜18のものであることが好適に採用できる。
【0012】
さらには、セルロースエステルが、セルロースアセテートプロピオネートおよび/またはセルロースアセテートブチレートであることが好適に採用できる。
【0013】
さらには、モノフィラメントの繊度が10dtex〜1500dtexであることも好適に採用できる。
【0014】
また、JIS L1013:1999の8.10に準じて測定した初期引張抵抗度が20cN/dtex〜50cN/dtexであることも好適に採用できる。
【0015】
また、上記のモノフィラメントを少なくとも一部に用いてなることを特徴とする人工毛髪などの繊維構造物に好適に採用できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた柔軟性、吸放湿性、発色性などの風合いを有する、セルロースエステルモノフィラメントからなる繊維構造物を提供することができ、特に人工毛髪として好適に用いることができる。このセルロースエステルモノフィラメントは、衣料用織編物や、襟や袖の芯などのような衣料用副資材用に、さらにはカーテンやレースなどのような生活資材用に好適に採用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の優れた柔軟性、吸放湿性、発色性などの風合いを有するセルロースエステルモノフィラメントについて詳細に説明する。
【0018】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントは、置換度が2.5〜3.0であるセルロースエステルを主体に構成されていることが必要である。置換度が2.5以上3.0以下であるセルロースエステルであれば、繊維構造物としたときに十分な柔軟性、吸放湿性、発色性を有するセルロースエステルモノフィラメントが得られる。なお、置換度とは、セルロースのグルコース単位に存在する3つの水酸基へ化学的に結合した置換基の数である。セルロースエステルの置換度は、より好ましくは2.6以上2.9以下であり、更に好ましくは2.65以上2.85以下である。
【0019】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントの柔軟性、吸放湿性、発色性などの風合いの観点からは、本発明のセルロースエステルは、少なくとも一部のアシル基炭素数が3〜18のセルロースエステルであることが好ましく採用できる。少なくとも一部のアシル基炭素数を3〜18とすることにより、セルロースエステルを含むモノフィラメントの柔軟性が高く、風合いに優れた人工毛髪や織編物などの繊維構造物を得ることができるため好ましい。また、セルロースエステルは屈折率が低く、それを繊維にした場合には発色性に優れるため好適に用いることができる。
【0020】
少なくとも一部のアシル基炭素数が3〜18であるセルロースエステルの具体例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートブチレートおよびセルロースブチレートなどが挙げられるが、これらに限定されない。少なくとも一部のアシル基炭素数が3〜18であるセルロースエステルとして、セルロースにアシル基炭素数が2であるアセチル基とアシル基炭素数が3であるプロピオニル基が結合したセルロースアセテートプロピオネートからなる繊維、あるいはセルロースにアシル基炭素数が2であるアセチル基とアシル基炭素数が4であるブチリル基が結合したセルロースアセテートブチレートからなる繊維は、適度な柔軟性および吸放湿性を有するモノフィラメントが得られるため、本発明では特に好ましく用いられる。
【0021】
セルロースエステルとして、セルロースアセテートプロピオネートおよび/またはセルロースアセテートブチレートを用いる場合、セルロースエステルの全置換度(アセチル置換度+アシル置換度)は下記式(I)を満たすことが好ましい。アシル置換度とは、アシル基炭素数が2であるアセチル基以外のアシル基の置換度の合計である。セルロースエステルの全置換度(アセチル置換度+アシル置換度)が2.5以上3.0以下の範囲にあれば、適度な柔軟性および吸放湿性を有するモノフィラメントが得られるため好ましい。セルロースエステルの全置換度は、より好ましくは2.6以上2.9以下であり、更に好ましくは2.65以上2.85以下である。
【0022】
(I)2.5≦アセチル置換度+アシル置換度≦3.0
アセチル置換度とアシル置換度は、モノフィラメントおよび繊維構造物とした場合でも熱軟化温度が高く、適度な柔軟性および吸放湿性を有するために、下記式(II)、(III)を満たすことが好ましい。
【0023】
(II)1.5≦アセチル置換度≦2.5
【0024】
(III)0.5≦アシル置換度≦1.5
【0025】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントを構成する、少なくとも一部のアシル基炭素数が3〜18であるセルロースエステルの重量平均分子量(Mw)は5万〜25万であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)とは、GPC測定により算出した値をいい、実施例にて詳細に説明する。重量平均分子量(Mw)が5万以上であれば、モノフィラメントの繊維強度が高く、十分な耐久性を有する繊維構造物を得ることができるため好ましい。重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは6万以上であり、更に好ましくは8万以上である。一方、重量平均分子量(Mw)が25万以下であれば、モノフィラメントの柔軟性が高く、優れた手触りの繊維構造物を得ることができるため好ましい。重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは22万以下であり、更に好ましくは20万以下である。
【0026】
また、本発明のセルロースエステルモノフィラメントは、繊維内部に中空部を有さない中実構造であることが必要である。繊維内部に中空部を有さない中実構造であれば、人毛の感触に極めて近いハリやコシを有するモノフィラメントを得ることができ、また襟や袖の芯などの衣料用副資材として用いるために十分な繊維強伸度を有するモノフィラメントを得ることができる。
【0027】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントは、可塑剤を含有していても良く、可塑剤としては多価アルコール系化合物が好ましい。具体的には、セルロースエステルとの相溶性が良好であり、また溶融紡糸可能な熱可塑化効果が顕著に現れるポリアルキレングリコール、グリセリン系化合物、カプロラクトン系化合物などであり、なかでもポリアルキレングリコールが好ましい。ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、重量平均分子量が200〜4000であるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0028】
また、本発明のセルロースエステルモノフィラメントは、モノフィラメントがセルロースエステルとしての特性を維持するという観点から、可塑剤の配合量は、セルロースエステル組成物に対して5重量%〜25重量%であることが好ましい。可塑剤の配合量が5重量%以上であれば、セルロースエステル組成物が溶融紡糸可能な熱可塑化効果が得られるため好ましい。可塑剤の配合量は、8重量%以上であることがより好ましく、10重量%以上であることが更に好ましい。一方、可塑剤の配合量が25重量%以下であれば、モノフィラメントの繊維強度が高く、十分な耐久性を有する繊維構造物を得ることができるため好ましい。可塑剤の配合量は22重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることが更に好ましい。
【0029】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントは、リン系着色防止剤を含有していることが好ましい。リン系着色防止剤を含有している場合、熱分解によるセルロースエステル組成物の着色を防止する効果が非常に顕著であり、得られるモノフィラメントの色調が良好になるためである。
【0030】
リン系着色防止剤の具体例としては、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、テトラキス(2,6−ジ−t−ブチルフェニル−4−メチル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、ビス(2.6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2−t―ブチル−4−クミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(4−t−ブチル−2−クミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2.6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2.4−ジ−t−ブチル−6−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトであり、特にペンタエリスリトール系が好ましい。
【0031】
リン系着色防止剤の配合量は、セルロースエステル組成物に対して0.005重量%〜0.5重量%であることが好ましい。リン系着色防止剤の配合量が0.005重量%以上であれば、熱分解によるモノフィラメントの着色を防止することができるため好ましい。リン系着色防止剤の配合量は、より好ましくは0.01重量%以上であり、更に好ましくは0.05重量%以上である。一方、リン系着色防止剤の配合量が0.5重量%以下であれば、モノフィラメントの繊維特性への影響がなく、風合いに優れた繊維構造物が得られるため好ましい。リン系着色防止剤の配合量は、より好ましくは0.3重量%以下であり、更に好ましくは0.2重量%以下である。
【0032】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントは、各種の添加剤、例えば、可塑剤、酸化防止剤、艶消し剤、消臭剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、酸化防止剤、着色顔料、静電剤、抗菌剤等酸化防止剤、難燃剤および滑剤等の添加剤についても、これらを単独もしくは併用して含有していても構わない。
【0033】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントの繊度は、10dtex〜1500dtexであることが好ましい。繊度が10dtex以上であれば、人毛に近い外観や手触りを有する人工毛髪として用いることができるため好ましい。繊度は30dtex以上であることがより好ましく、50dtex以上であることが更に好ましい。一方、繊度が1500dtex以下であれば、織編物などの繊維構造物としたときに十分な柔軟性が得られるため好ましい。繊度は1000dtex以下であることがより好ましく、500dtex以下であることが更に好ましい。
【0034】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントの繊維横断面の直径は、25μm〜500μmであることが好ましい。繊維横断面の直径が25μm以上であれば、人毛に近い外観や手触りを有する人工毛髪として用いることができるため好ましい。繊維横断面の直径は50μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることが更に好ましい。一方、繊維横断面の直径が500μm以下であれば、織編物などの繊維構造物としたときに十分な柔軟性が得られるため好ましい。繊維横断面の直径は400μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることが更に好ましい。
【0035】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントの繊維特性は、特に限定されるものではないが、繊維構造物を作製するための工程通過性の観点から、強度が0.5cN/dtex〜2.0cN/dtex、伸度が8%〜30%であることが好ましい。強度が0.5cN/dtex以上であれば、繊維構造物の強力が不足することがなく、優れた耐久性を有するため好ましい。良好な強度特性の観点から、強度は高ければ高いほど好ましいが、具体的には0.7cN/dtex〜2.0cN/dtexであることがより好ましく、0.9cN/dtex〜2.0cN/dtexであることが更に好ましい。また、伸度が8%以上であれば、繊維構造物の耐摩耗性が良好となり、毛羽の発生が少なくなるため好ましい。伸度は10%以上であることがより好ましく、15%以上であることが更に好ましい。一方、伸度が30%以下であれば、繊維構造物の寸法安定性が良好となるため好ましい。伸度は28%以下であることがより好ましく、25%以下であることが更に好ましい。
【0036】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントは、JIS L1013:1999の8.10に準じて測定した初期引張抵抗度が20cN/dtex〜50cN/dtexであることが好ましい。初期引張抵抗度が20cN/dtex以上であれば、人毛の感触に極めて近いハリやコシを有する人工毛髪として用いることができるため好ましい。初期引張抵抗度は23cN/dtex以上であることがより好ましく、25cN/dtex以上であることが更に好ましい。一方、初期引張抵抗度が50cN/dtex以下であれば、織編物などの繊維構造物としたときに十分な柔軟性が得られるため好ましい。初期引張抵抗度は47cN/dtex以下であることがより好ましく、45cN/dtex以下であることが更に好ましい。
【0037】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントは、繊維の断面形状に関して特に制限がなく、真円状の円形断面であっても良いし、また、多葉形、扁平形、楕円形、W字形、S字形、X字形、H字形、C字形などの異形断面糸でもよい。
【0038】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントは、一般の繊維と同様に延伸などの加工が可能である。また、製織や製編についても、一般の繊維と同等に扱うことができる。
【0039】
次に、本発明のセルロースエステルモノフィラメントの製造方法について説明する。
【0040】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントは、少なくとも一部のアシル基炭素数が3〜18であるセルロースエステル70重量%〜99重量%を少なくとも含むセルロースエステル組成物が好適に用いられる。
【0041】
セルロースエステル組成物はこれら成分を、例えば、2軸混練機などを用いて、溶融紡糸を行う前に混練しても構わないし、溶融紡糸を行う際にスタティックミキサーなどを用いて混合しても構わない。
【0042】
本発明では、セルロースエステル組成物を溶融紡糸して、セルロースエステルモノフィラメントを得ることができる。湿式紡糸や乾式紡糸と異なり、溶融紡糸は溶剤を用いないため、繊維表面または繊維内部から溶剤を除去する必要がなく、単糸繊度の大きなセルロースエステルモノフィラメントを得ることができるため好ましく用いられる。また、溶融紡糸を行うことにより、セルロースエステル組成物の溶融状態から冷却固化に至るまでに十分に発達した繊維構造を形成させることが可能となるため好ましい。溶融紡糸の方法としては、例えば、エクストルーダーを用いた押出などを好適な手段として採用することができるが、これに限定されない。
【0043】
本発明では、溶融紡糸を行う前にセルロースエステル組成物を乾燥させ、組成物の含水分率を0.3重量%以下としておくことが好ましい。含水分率が0.3重量%以下であれば、溶融紡糸時に水分により発泡することがなく、安定して紡糸を行うことが可能となる。含水分率は、より好ましくは0.2重量%以下であり、更に好ましくは0.1重量%以下であり、最も好ましくは0.08重量%以下である。
【0044】
溶融紡糸における紡糸温度は、220℃〜280℃の範囲であることが好ましい。紡糸温度が220℃以上であれば、紡糸口金より吐出された繊維糸条の伸長粘度が十分に低下するため、メルトフラクチャー(紡糸口金孔通過時においてポリマーの剪断応力が高いと流線乱れが発生し、紡糸口金より吐出された繊維糸条の形状が不規則になる現象)起因の短ピッチの周期斑が現れず、断面形状が均一なモノフィラメントを得ることができるため好ましい。紡糸温度は230℃以上であることがより好ましく、240℃以上であることが更に好ましい。一方、紡糸温度が280℃以下であれば、セルロースエステル組成物の熱分解を抑制することができ、分子量低下による機械的特性不良や着色による品位悪化が発生しないため好ましい。紡糸温度は275℃以下であることがより好ましく、270℃以下であることが更に好ましい。
【0045】
紡糸口金より吐出された繊維糸条は、冷却浴に導かれて急冷されてもよい。冷却浴の温度は10℃〜90℃の範囲であることが好ましい。冷却浴の温度が10℃以上であれば、冷却浴中で繊維糸条が蛇行することなく、繊維断面形状および繊維直径が均一であるモノフィラメントを得ることができるため好ましい。冷却浴の温度は15℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることが更に好ましい。一方、冷却浴の温度が90℃以下であれば、繊維糸条の真円性が損なわれることなく、繊維断面形状および繊維直径が均一であるモノフィラメントを得ることができるため好ましい。冷却浴の温度は80℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることが更に好ましい。また、冷却時間は、吐出量や口金孔数などに応じて適宜調整することができる。
【0046】
冷却浴の冷媒としては、繊維糸条の表面から容易に除去でき、繊維糸条に対して物理的変化や化学的変化を与えない物質であり、上記の冷却浴の温度範囲において液体であれば特に制限なく用いることができる。具体的には、水、パラフィン、エチレングリコール、グリセリン、アミルアルコールおよびキシレンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
紡糸された繊維の引取方法は、回転するローラーを用いて引き取る方法が挙げられるが、これに限定されない。回転するローラーを用いて引き取る場合の紡糸速度は1500m/分以下であることが好ましい。紡糸速度を1500m/分以下とすることにより、繊維を十分に冷却できるため好ましい。紡糸速度は、より好ましくは1000m/分以下であり、更に好ましくは750m/分以下である。
【0048】
引き取られた繊維は、所望の繊維特性を有するモノフィラメントを得るために延伸されてもよい。延伸を行う場合には、一旦引き取った繊維を延伸する2工程法、もしくは引き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。
【0049】
延伸を行う場合には、1段延伸法または2段以上の多段延伸法のいずれの方法によってもよい。延伸における加熱手法としては、走行糸条を直接的あるいは間接的に加熱させうる装置であれば、特に限定されない。具体的な加熱手法としては、加熱ローラー、熱ピン、熱板、温水・熱水などの液体浴、熱空・スチームなどの気体浴、レーザーなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。加熱温度の制御、走行糸条への均一な加熱、装置が複雑にならない観点から、加熱ローラーとの接触、熱ピンとの接触、熱板との接触、液体浴への浸漬を加熱手法として用いることが好ましい。
【0050】
延伸を行う場合の延伸倍率は、1.02倍〜4.0倍であることが好ましい。延伸倍率が1.02倍以上であれば、延伸により繊維強伸度などの繊維特性が向上したモノフィラメントが得られるため好ましい。延伸倍率は1.05倍以上であることがより好ましく、1.08倍以上であることが更に好ましい。一方、延伸倍率が4.0倍以下であれば、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸により連続したモノフィラメントが得られるため好ましい。延伸倍率は3.7倍以下であることがより好ましく、3.5倍以下であることが更に好ましい。
【0051】
延伸を行う場合の延伸温度は、30℃〜200℃であることが好ましい。延伸温度が30℃以上であれば、供給糸の予熱が充分に行われ、延伸時の熱変形が均一となり、繊度斑の発生を抑制できるため好ましい。また、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸により連続したモノフィラメントが得られるため好ましい。延伸温度は35℃以上であることがより好ましく、40℃以上であることが更に好ましい。一方、延伸温度が200℃以下であれば、延伸ローラーに対する繊維の滑り性が良好であり、糸切れが抑制され、安定した延伸により連続したモノフィラメントが得られるため好ましい。延伸温度は185℃以下であることがより好ましく、170℃以下であることが更に好ましい。また、必要に応じて120℃〜180℃の熱セットを行ってもよい。
【0052】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントからなる繊維構造物の形態は、特に制限がなく、公知の方法に従い、織物、編物、パイル布帛や不織布などにすることができる。また、本発明のセルロースエステルモノフィラメントからなる繊維構造物は、いかなる織組織または編組織であってもよく、平織、綾織、朱子織あるいはこれらの変化織や、経編、緯編、丸編、レース編あるいはそれらの変化編などが好適に採用できる。
【0053】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントは、繊維構造物にする際にセルロースエステルモノフィラメントと他の繊維とを交織による方法や交編による方法などによって組み合わせてもよいし、セルロースエステルモノフィラメントと他の繊維とを混繊糸としてから繊維構造物を製造してもよい。
【0054】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントは、人毛に近い柔軟性、吸放湿性、発色性などの優れた風合いを有するため、人工毛髪として好適に採用できる。具体的には、ヘアーウィッグ、ツーペ、ウィービング、ヘアーエクステンション、ブレード、ヘアーアクセサリー、ドールヘアー等の頭飾製品として使用できるが、これらに限定されない。なお、ヘアーウィッグとは、頭部に面で取り付けられる装飾品であり、その装着面により部分ウィッグ、ハーフウィッグ、七分ウィッグ、フルウィッグに分類される。また、ツーペとは、部分または頭部全体につけるかつらの総称であり、擬似頭皮に人工毛髪を植毛して作製される頭飾製品である。
【0055】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントを用いて、公知の方法に従い、これらの頭飾製品を加工することができる。例えば、ヘアーウィッグを作製する場合には、該繊維束をウィッグ用ミシンで縫製して蓑毛を作り、これをパイプに巻いてスチームセットにてカールを付与し、カールの付いた蓑毛をヘアキャップに縫い付け、スタイルを整えることにより作製できる。
【0056】
また、これらの頭飾製品を作製する場合には、本発明のセルロースエステルモノフィラメントと、モダアクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ナイロン繊維など、他の人工毛髪用素材と併用してもよいし、人毛や獣毛等と併用してもよい。
【0057】
本発明のセルロースエステルモノフィラメント、またはセルロースエステルモノフィラメントからなる繊維構造物の染色方法は、特に制限がなく、公知の方法に従い、浸染あるいは捺染することができる。浸染の場合には、チーズ染色機、液流染色機などの公知の染色機を好適に採用することができる。染料は、アセテート用およびポリエステル用分散染料を好適に用いることができる。染色温度も特に限定されないが80℃〜130℃であれば、発色性に優れたモノフィラメント、または発色性に優れたモノフィラメントからなる繊維構造物を得ることができるため好ましい。
【0058】
本発明のセルロースエステルモノフィラメント、またはセルロースエステルモノフィラメントからなる繊維構造物は、セルロースエステルが適度な吸湿特性を有しているため、吸放湿性に優れたものとなる。吸湿特性を示す吸湿率差(ΔMR)は1.5%以上であることが好ましい。ΔMRとは、衣服着用時の衣服内の湿気を外気に放出することにより快適性を得るための指標であり、軽〜中作業あるいは軽〜中運動を行った際の温度30℃、湿度90%RHに代表される衣服内温度と、温度20℃、湿度65%RHに代表される外気温湿度との吸湿率の差である。ΔMRは大きければ大きいほど吸放湿能力が高く、着用時の快適性が良好であることに対応する。ΔMRは1.8%以上であることがより好ましく、2.0%以上であることが更に好ましい。
【0059】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントは、優れた柔軟性、吸放湿性、発色性などの風合いを有している。そのため、人工毛髪や衣料用織編物に、さらには襟や袖の芯などのような衣料用副資材用に用いることが可能である。また、カーテンやレースなどのような生活資材用にも好適に採用できる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。実施例中の各特性値は、次の方法で求めたものである。
【0061】
A.セルロースエステルの平均置換度
80℃で8時間乾燥したセルロースエステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加えて溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により平均置換度を算出した。
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[{1−(Mwace−(16.00+1.01))×TA}+{1−(Mwacy−(16.00+1.01))×TA}×(Acy/Ace)]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の平均置換度
DSacy:アシル基の平均置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
【0062】
B.重量平均分子量(Mw)
セルロースエステルの濃度が0.15重量%となるようにテトラヒドロフランに完全に溶解させ、GPC測定用試料とした。この試料を用い、以下の条件の下、Waters2690でGPC測定を行い、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)を算出した。 なお、測定は1試料につき3回行い、その平均値を重量平均分子量(Mw)とした。
カラム :東ソー製TSK gel GMHHR−Hを2本連結
検出器 :Waters2410 示差屈折計RI
移動層溶媒 :テトラヒドロフラン
流速 :1.0ml/分
注入量 :200μl
【0063】
C.単糸繊度
温度20℃、湿度65%RHの環境下において、INTEC社製の電動検尺機を用いて、モノフィラメント100mをかせ取りした。得られたかせの重量を測定し、下記式を用いて算出した。なお、測定は1試料につき5回行い、その平均値を単糸繊度とした。
単糸繊度(dtex)=100m長の重量(g)×100
【0064】
D.繊維横断面直径
20本のモノフィラメントを収束させ、白金−パラジウム合金を蒸着した後、走査型電子顕微鏡(SEM)で繊維横断面を観察した。20本のモノフィラメントの繊維横断面直径を計測し、その平均値を繊維横断面直径(μm)とした。
SEM装置:日立製S−4000型
【0065】
E.初期引張抵抗度
初期引張抵抗度は、JIS L1013:1999(化学繊維フィラメント糸試験方法)8.10に基づいて算出した。
【0066】
F.公定水分率
公定水分率は、JIS L0105:2006(繊維製品の物理試験方法通則)に基づいて算出した。
【0067】
G.吸湿率差(ΔMR)
モノフィラメントを用いて作製した丸編地を布帛サンプルとして約2g用い、110℃で2時間乾燥した後の重量(W0)を測定した。この布帛サンプルを温度20℃、湿度65%RHの状態に調湿された恒温恒湿槽(ナガノ科学機械製LH−20−11M)中に24時間放置し、平衡状態となった布帛サンプルの重量(W20)を測定した。その後、温度30℃、湿度90%RHの状態に変更して恒温恒湿槽中に24時間放置し、平衡状態となった布帛サンプルの重量(W30)を測定した。下記式を用いて、測定結果より吸湿率差を算出した。
吸湿率差(ΔMR)(%)={(W30−W20)/W0}×100
【0068】
H.L
モノフィラメントを用いて作製した丸編地を布帛サンプルとして、70℃×20分の温水精練を行った後、160℃×2分の乾熱セットを行い、常法に従って染色した。染色後の布帛サンプルを、ミノルタ社製分光測色計CM−3700d型を用いてD65光源、視野角度10°、光学条件SCEでL値を測定した。なお、測定は1試料につき3回行い、その平均値をL値とした。なお、具体的には以下の染色方法を用いた。
【0069】
セルロースエステル、ポリエチレンテレフタレート、塩化ビニル、ポリ乳酸、ポリプロピレンの場合は、染料に分散染料である日本化薬社製Kayalon Polyester Black EX−SF200を用いた。布帛サンプルに対して染料を3重量%加え、pHを5.0に調整した染色液で、浴比1:100、染色時間60分の条件で染色した。なお、染色温度を塩化ビニル、ポリプロピレンの場合は100℃、セルロースエステル、ポリ乳酸の場合は110℃、ポリエチレンテレフタレートの場合は130℃とした。
ナイロン6の場合は、染料に酸性染料である日本化薬社製Kayanol Milling Black TLBを用いた。布帛サンプルに対して染料を3重量%加え、pHを4.5に調整した染色液で、浴比1:100、染色温度100℃、染色時間60分の条件で染色した。
【0070】
アクリルの場合は、染料にカチオン染料である日本化薬社製Kayacryl Black YAを用いた。布帛サンプルに対して染料を3重量%加え、pHを4.0に調整した染色液で、浴比1:100、染色温度100℃、染色時間60分の条件で染色した。
【0071】
I.柔軟性
モノフィラメントを用いて丸編地を作製し、10人の被験者が触手により感じた柔軟性を官能評価した。官能評価により、「極めて優れた柔軟性があるもの」を◎、「優れた柔軟性があるもの」を○、「やや柔軟性があるもの」を△、「柔軟性がないもの」を×とし、「優れた柔軟性があるもの」の○以上を合格とした。
【0072】
J.吸放湿性
吸湿率差(ΔMR)が「2.0%以上」を◎、「1.8%以上2.0%未満」を○、「1.5%以上1.8%未満」を△、「1.5%未満」を×とし、「1.8%以上2.0%未満」の○以上を合格とした。
【0073】
K.接触冷感
モノフィラメントを用いて丸編地を作製し、温度20℃、湿度65%RHの環境下に5時間放置した。得られた丸編地を被験者の手の甲に接触させ、10人の被験者が感じた接触冷感を官能評価した。官能評価により、「非常に冷感を感じた」を◎、「冷感を感じた」を○、「やや冷感を感じた」を△、「全く冷感を感じなかった」を×とし、「冷感を感じた」の○以上を合格とした。
【0074】
L.発色性
値が「11未満」を◎、「11以上12未満」を○、「12以上14未満」を△、「14以上」を×とし、「11以上12未満」の○以上を合格とした。
【0075】
M.人毛との風合い比較
モノフィラメントを長さ40cmにカットし、総繊度が10万dtexの繊維束を作製した。得られた繊維束を前述の方法で温水精練、乾熱セット、染色した後、10人の被験者による官能評価を行った。いずれの項目についても、人毛との比較を行い、○以上を合格とした。
【0076】
−柔軟性−
「人毛と同等の柔軟性がある」を◎、「人毛に近い柔軟性がある」を○、「人毛と比べやや硬い」を△、「人毛と比べ非常に硬い」を×とし、「人毛に近い柔軟性がある」の○以上を合格とした。
【0077】
−発色性−
「人毛と同等の色の深みがある」を◎、「人毛に近い色の深みがある」を○、「人毛と比べやや色の深みがない」を△、「人毛と比べ色の深みがない」を×とし、「人毛に近い色の深みがある」の○以上を合格とした。
【0078】
−くし通り−
「全く抵抗がない」を◎、「ほとんど抵抗がない」を○、「やや抵抗がある」を△、「かなり抵抗がある」を×とし、「ほとんど抵抗がない」の○以上を合格とした。
【0079】
[合成例1]
セルロース(日本製紙(株)製溶解パルプ)100重量部に、酢酸240重量部とプロピオン酸67重量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172重量部と無水プロピオン酸168重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースアセテートプロピオネートを濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥した。得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル置換度は2.0、プロピオニル置換度は0.7(セルロースエステル全置換度2.7)であり、重量平均分子量(Mw)は17.8万であった。
【0080】
[合成例2]
合成例1において、無水酢酸を193重量部、無水プロピオン酸を111重量部に変更した以外は、同様の手法でセルロースアセテートプロピオネートを合成した。得られたセルロースアセテートプロピオネートのアセチル置換度は2.4、プロピオニル置換度は0.5(セルロースエステル全置換度2.9)であり、重量平均分子量(Mw)は17.5万であった。
【0081】
[実施例1〜4]
合成例1で製造したセルロースアセテートプロピオネート82.0重量%、平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)17.9重量%およびリン系着色防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーを用いて230℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロースエステル組成物ペレット(Mw16.6万)を得た。
【0082】
上記製法により得られたセルロースエステル組成物ペレットを、80℃、8時間真空乾燥し、紡糸温度260℃とした溶融紡糸パックへ導入して、吐出量30g/分の条件で、口金孔(直径0.80mm、孔長2.4mm)を20ホール有した紡糸口金より紡出した後、20℃の水で満たした冷却浴中で冷却し、第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻取機にて巻き取り、セルロースエステルモノフィラメントの未延伸糸を得た。第1ゴデットローラーの回転数を、実施例1は950m/分、実施例2は480m/分、実施例3は200m/分、実施例4は1900m/分とした。得られたモノフィラメントを用いて丸編機により丸編地を作製した後、前述の方法で温水精練、乾熱セット、染色を行った。
【0083】
得られたモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントからなる丸編地の布帛特性の評価結果を表1に示す。実施例1、2、4で得られたモノフィラメントはいずれも、極めて優れた繊維特性を有していた。また、得られた丸編地はいずれも、柔軟性、吸放湿性、接触冷感、発色性の全てにおいて極めて優れた布帛特性を有していた。実施例3で得られた丸編地は、極めて優れた吸放湿性、接触冷感、発色性を有していた。また、単糸繊度が大きいにも関わらず、繊維構造物としたときに十分な柔軟性を有していた。
【0084】
[実施例5]
吐出量を10gとした以外は、実施例1と同様にモノフィラメントおよび丸編地を作製した。
【0085】
得られたモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントからなる丸編地の布帛特性の評価結果を表1に示す。得られた丸編地は、柔軟性、吸放湿性、接触冷感、発色性の全てにおいて極めて優れた布帛特性を有していた。
【0086】
[実施例6]
紡糸口金を三葉形状の口金孔(スリット幅0.40mm、スリット長0.60mm、孔長2.0mm)を20ホール有した紡糸口金とした以外は、実施例1と同様にモノフィラメントおよび丸編地を作製した。
【0087】
得られたモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントからなる丸編地の布帛特性の評価結果を表1に示す。なお、モノフィラメントの繊維断面を観察し、三葉断面の外接円の直径を繊維断面直径とした。繊維断面形状を三葉断面とした場合も、得られたモノフィラメントは、極めて優れた繊維特性を有していた。また、得られた丸編地は、柔軟性、吸放湿性、接触冷感、発色性の全てにおいて極めて優れた布帛特性を有していた。
【0088】
[実施例7〜10]
実施例2で得られたセルロースエステルモノフィラメントの未延伸糸を用いて、延伸を行った。延伸条件を、実施例7は80℃の温水中で2.2倍、実施例8は140℃の熱風雰囲気下で2.0倍、実施例9は150℃の熱風雰囲気下で1.03倍、実施例10は160℃の熱風雰囲気下で3.0倍とした。なお、実施例10では延伸した後、160℃の熱風雰囲気下で1.0倍にて熱セットを行った。延伸により得られたモノフィラメントを用いて丸編機により丸編地を作製した後、前述の方法で温水精練、乾熱セット、染色を行った。
【0089】
得られたモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントからなる丸編地の布帛特性の評価結果を表2に示す。実施例7〜10で得られたモノフィラメントはいずれも、極めて優れた繊維特性を有していた。また、得られた丸編地はいずれも、柔軟性、吸放湿性、接触冷感、発色性の全てにおいて極めて優れた布帛特性を有していた。
【0090】
[実施例11]
実施例1で得られたセルロースエステルモノフィラメントの未延伸糸を用いて、100℃に加熱した加熱ローラーで1.05倍に延伸した後、120℃に加熱した加熱ローラーで1.0倍にて熱セットを行った。延伸により得られたモノフィラメントを用いて丸編機により丸編地を作製した後、前述の方法で温水精練、乾熱セット、染色を行った。
【0091】
得られたモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントからなる丸編地の布帛特性の評価結果を表2に示す。得られたモノフィラメントは、極めて優れた繊維特性を有していた。また、得られた丸編地は、柔軟性、吸放湿性、接触冷感、発色性の全てにおいて極めて優れた布帛特性を有していた。
【0092】
[実施例12]
実施例5で得られたセルロースエステルモノフィラメントの未延伸糸を用いて、延伸倍率を2.0倍とした以外は、実施例11と同様にモノフィラメントおよび丸編地を作製した。
【0093】
得られたモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントからなる丸編地の布帛特性の評価結果を表2に示す。得られたモノフィラメントは、極めて優れた繊維特性を有していた。また、得られた丸編地は、極めて優れた吸放湿性、接触冷感、発色性を有していた。また、単糸繊度が小さいにも関わらず、繊維構造物としたときに十分なハリやコシを有していた。
【0094】
[実施例13]
合成例2で製造したセルロースアセテートプロピオネート78.0重量%、平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)21.9重量%およびリン系着色防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーを用いて230℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロースエステル組成物ペレット(Mw16.4万)を得た。
【0095】
上記製法により得られたセルロースエステル組成物ペレットを、80℃、8時間真空乾燥し、紡糸温度260℃とした溶融紡糸パックへ導入して、吐出量30g/分の条件で、口金孔(直径0.80mm、孔長2.4mm)を20ホール有した紡糸口金より紡出した後、20℃の水で満たした冷却浴中で冷却し、480m/分で回転する第1ゴデットローラーにて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して、巻取機にて巻き取り、セルロースエステルモノフィラメントの未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を用いて、140℃の熱風雰囲気下で2.0倍に延伸した。延伸により得られたモノフィラメントを用いて丸編機により丸編地を作製した後、前述の方法で温水精練、乾熱セット、染色を行った。
【0096】
得られたモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントからなる丸編地の布帛特性の評価結果を表3に示す。得られたモノフィラメントは、極めて優れた繊維特性を有していた。また、得られた丸編地は、柔軟性、吸放湿性、接触冷感、発色性の全てにおいて極めて優れた布帛特性を有していた。
【0097】
[実施例14]
アセチル置換度が0.2、プロピオニル置換度が2.5(セルロースエステル全置換度2.7)であるイーストマンケミカル社製セルロースアセテートプロピオネート(CAP 482−20)92重量%、平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)7.9重量%およびリン系着色防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーを用いて230℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロースエステル組成物ペレット(Mw16.1万)を得た。
【0098】
上記製法により得られたセルロースエステル組成物ペレットを用い、紡糸温度を240℃とした以外は、実施例12と同様にモノフィラメントおよび丸編地を作製した。
【0099】
得られたモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントからなる丸編地の布帛特性の評価結果を表3に示す。得られた丸編地は、極めて優れた柔軟性、発色性を有していた。また、公定水分率が低いにも関わらず、繊維構造物として用いるために十分な吸放湿性および接触冷感を有していた。
【0100】
[実施例15]
アセチル置換度が1.0、ブチリル置換度が1.7(セルロースエステル全置換度2.7)であるイーストマンケミカル社製セルロースアセテートブチレート(CAB381−20)85重量%、平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)14.9重量%およびリン系着色防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.1重量%を二軸エクストルーダーを用いて230℃で混練し、5mm程度にカッティングしてセルロースエステル組成物ペレット(Mw18.1万)を得た。
【0101】
上記製法により得られたセルロースエステル組成物ペレットを用い、紡糸温度を250℃とした以外は、実施例12と同様にモノフィラメントおよび丸編地を作製した。
【0102】
得られたモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントからなる丸編地の布帛特性の評価結果を表3に示す。得られたモノフィラメントは、極めて優れた繊維特性を有していた。また、得られた丸編地は、柔軟性、吸放湿性、接触冷感、発色性の全てにおいて極めて優れた布帛特性を有していた。
【0103】
[比較例1〜12]
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン6(Ny)、アクリル(AN)、塩化ビニル(PVC)、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン(PP)を用いて紡糸を行い、モノフィラメントおよび丸編地を作製した。
【0104】
得られたモノフィラメントの繊維特性、およびモノフィラメントからなる丸編地の布帛特性の評価結果を表4に示す。比較例では、柔軟性、吸放湿性、接触冷感、発色性の全てにおいて、優れた布帛特性を有するモノフィラメント、およびモノフィラメントからなる丸編地は得られなかった。
【0105】
次に、実施例5、比較例1、3、5、7、9、11で得られたモノフィラメントを長さ40cmにカットし、総繊度が10万dtexの繊維束を作製した。得られた繊維束を前述の方法で温水精練、乾熱セット、染色した後、人毛との比較による官能評価を行った。柔軟性、発色性、くし通りの評価結果を表5に示す。実施例5により得られたセルロースエステルモノフィラメントを人工毛髪として用いた場合、柔軟性、発色性、くし通りを兼ね備えた風合いが得られた。しかしながら、比較例により得られたモノフィラメントを人工毛髪として用いた場合、柔軟性、発色性、くし通りを兼ね備えた風合いを得ることができなかった。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
【表3】

【0109】
【表4】

【0110】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のセルロースエステルモノフィラメントは、優れた柔軟性、吸放湿性、発色性、などの風合いを有している。そのため、人工毛髪や衣料用織編物に、さらには襟や袖の芯などのような衣料用副資材用に用いることが可能である。また、カーテンなどのような生活資材用にも好適に採用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換度が2.5〜3.0であるセルロースエステルを主体に構成されてなり、繊維内部に中空部を有さない中実構造であることを特徴とするモノフィラメント。
【請求項2】
セルロースエステルの少なくとも一部のアシル基が、アシル基炭素数3〜18のものであることを特徴とする請求項1記載のモノフィラメント。
【請求項3】
セルロースエステルが、セルロースアセテートプロピオネートおよび/またはセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする請求項1または2記載のモノフィラメント。
【請求項4】
モノフィラメントの繊度が10dtex〜1500dtexであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のモノフィラメント。
【請求項5】
JIS L1013:1999の8.10に準じて測定した初期引張抵抗度が20cN/dtex〜50cN/dtexであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のモノフィラメント。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のモノフィラメントを少なくとも一部に用いてなることを特徴とする繊維構造物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載のモノフィラメントを少なくとも一部に用いてなることを特徴とする人工毛髪。

【公開番号】特開2009−228159(P2009−228159A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75022(P2008−75022)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】