説明

セルロースシート

【課題】高い耐熱性、耐薬品性及び優れた吸着性能を保有するとともに、優れた力学物性と均一な微細孔を有する微細セルロース繊維から構成されるセルロースシートの提供。
【解決手段】最大繊維径2500nm以下のセルロース繊維から構成され、下記(1)〜(7)の要件:
(1)セルロース繊維の重合度(DP)は500以上である、(2)セルロースシートにおけるセルロース繊維の重量比率は50重量%以上である、(3)目付は6g/m以上150g/m以下である、(4)透気抵抗度は10s/100ml以上2000s/100ml以下である、(5)目付10g/m相当の引張強度は6N/15mm以上である、(6)バブルポイントは1.0μm以下である、(7)式(1):X=(バブルポイント(μm)−最小孔径(μm))/最頻孔径(μm)で表される孔径不均一性(X)は10以下である、
の全てを満足するセルロースシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾材や蓄電デバイス用シートとして好適に利用できるセルロースシートに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維径が1μm以下のいわゆるナノファイバーから構成される不織布は、ナノファイバーが形成する網目構造によって微細な空隙が多数形成されるため、気体中又は液体中に含まれる微粒子を低い圧力損失で濾別できるシートとして、或いは蓄電デバイス用セパレータとしての利用が期待されている。特にバクテリアセルロース(以下、BCと略す。)やパルプ等の天然セルロースを原料として得られる微小繊維状セルロース(マイクロフィブリレーテッドセルロース、以下、MFCと略す。)等のいわゆるセルロースミクロフィブリルからなる不織布は、耐熱性、耐薬品性、さらには表面活性の高さに由来した高吸着性等の優れた特性を有しており、高温環境下や有機溶剤環境下で利用される上記濾材やセパレータとして好適な素材である。
【0003】
本発明者らは、最大繊維径1500nm以下の繊維径を有するセルロース繊維から構成され、高空孔率で微細なネットワーク構造を有する不織布を提案している(以下、特許文献1、2参照)。特許文献1に記載されたセルロース不織布は、膜質均一性に優れたものである。しかしながら、特許文献1に記載されたセルロース不織布は、濾材やセパレータとして利用する場合、取扱性や実用性に課題がある。例えば、一般的に不織布やシートを濾材として利用する場合、濾過面積を大きくするため(濾過効率を高めるため)、プリーツ加工(ひだ折加工)が施されるが、特許文献1に記載されたセルロース不織布はプリーツ加工中に破れたり、プリーツ加工できたとしても濾過中に濾過抵抗で破れたり、取扱性や実用性に問題があった。また、特許文献2に記載されたセルロースシートも膜質均一性に優れ、微細孔径の空隙を多数形成し、濾材やセパレータとして優れた特性を有しているものの、はやり強度の低さから取り扱い性に問題があった。
【0004】
一方、本発明者らは、上記強度に係る問題を解決すべく特定の水溶性高分子と油性化合物からなるスラリーを抄紙することによってセルロースシートの強度を向上させる方法を提案している(以下、特許文献3参照)。しかしながら、このシートは濾材として使用する場合、高い濾過効率が確保できない場合がある。これは局在する粗大ピンホールの影響によるものと思われる。このような粗大ピンホールが存在するシートは、例えば、粒径の小さい(3〜5μm)活性炭を電極として用いる電気二重層キャパシタ用のセパレータとして使用する場合、ショートを引き起こすおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006−004012号公報
【特許文献2】特開2006−193858号公報
【特許文献3】特開2010−053461号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A.F. Turbak, F.W. Snyder and K.R. Sandberg, ”Microfibrilated Cellulose, A New Cellulose Product: Properties, Uses, and Commercial Potential” J. Appl. Polym. Sci.: Appl. Polym. Symp., 37, 815 (1983)
【非特許文献2】木材化学, ユニ出版, p. 40, (1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高い空孔率と優れた力学物性を有し、均一な微細孔を有する微細セルロース繊維から構成されるセルロースシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討し、実験を重ねた結果、取扱性や捕集効率等に関わる問題は、セルロースシートを構成する微細セルロース繊維の重合度と繊維径、目付けと透気抵抗度、更には最大孔径や孔径の均一性に強く影響されることを見出した。また、本発明のセルロースシートは、原料となるセルロース繊維と分散媒との分散体(スラリー)の組成及び抄紙条件を制御することで得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりのものである。
[1]最大繊維径2500nm以下のセルロース繊維から構成されるセルロースシートであって、下記(1)〜(7)の要件:
(1)上記セルロース繊維の重合度(DP)は500以上である、
(2)上記セルロースシートにおける上記セルロース繊維の重量比率は50重量%以上である、
(3)上記セルロースシートの目付は6g/m以上150g/m以下である、
(4)上記セルロースシートの透気抵抗度は10s/100ml以上2000s/100ml以下である、
(5)上記セルロースシートの、目付10g/m相当の引張強度は6N/15mm以上である、
(6)上記セルロースシートのバブルポイントは1.0μm以下である、
(7)下記式(1):
X=(バブルポイント(μm)−最小孔径(μm))/最頻孔径(μm) 式(1)
で表される孔径不均一性(X)は10以下である、
の全てを満足する前記セルロースシート。
【0010】
[2]前記セルロース繊維の数平均繊維径が500nm以下である、前記[1]に記載のセルロースシート。
【0011】
[3]糖、多価アルコール、アルコール誘導体、及び水溶性高分子からなる群から選択される少なくとも1種の水溶性化合物を0.01重量%以上20重量%以下含有する、前記[1]又は[2]のいずれかに記載のセルロースシート。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセルロースシートは、高い空孔率と優れた力学物性を有し、均一な微細孔を有する微細セルロース繊維から構成されるセルロースシートである。したがって、本発明のセルロースシートは、濾材や蓄電デバイス用セパレータとして好適に利用できることはもちろんのこと、透明フィルムや透明樹脂の基材として有効に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のセルロースシートは、最大繊維径2500nm以下の微細セルロース繊維から構成される。本明細書中、微細セルロース繊維の最大繊維径とは、セルロースシートの表面に関して、無作為に3箇所、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を10000倍相当の倍率で行った時に得られる全てのSEM画像中に繊維径が2500nmを超える繊維が平均2本未満であることをいう。セルロース繊維の最大繊維径が2500nm以下であることで、測定部位による強度バラツキがなく、孔径均一性に優れたセルロースシートが得られる。セルロース繊維の最大繊維径は好ましくは1800nm以下、より好ましくは1500nm以下である。
【0014】
また、本発明のセルロースシートを構成するセルロース繊維の数平均繊維径は500nm以下であることが好ましい。セルロース繊維の数平均繊維径が500nm以下であると、微細かつ均一なネットワーク構造を有するシートを形成できる。数平均繊維径が500nmよりも大きな場合には、微細なネットワーク構造に基づく微小かつ均一な孔径の不織布となり難く、本発明のセルロースシートで期待できる効果(濾材として利用する場合の捕集効率、及びセパレータとして利用する場合の耐ショート性)が現れ難くなるため、好ましくない。微小かつ均一な孔径形成の観点からセルロース繊維の数平均繊維径はより好ましくは10nm以上350nm以下、さらに好ましくは30nm以上300nm以下である。尚、本発明のセルロースシートを構成する微細セルロース繊維は、短繊維状(ステープル状)の微細繊維であって、エンドレスの長繊維状(フィラメント状)のものは含まない。
【0015】
本発明のセルロースシートは、重合度(DP)500以上の微細セルロース繊維から構成される。重合度はセルロース分子鎖を形成するグルコース環の繰返し数である。セルロース繊維の重合度が500以上であることで、繊維自体の引張強度や弾性率が向上し、その結果、シートとしての強度が向上する。またセルロース繊維の重合度が500以上であることで、シートとしての耐熱性や耐溶剤性を発揮できる。セルロース繊維の重合度に特に上限はないが、実質的に12,000を超える重合度のセルロースは入手が困難であり、工業的に利用できない。取扱性及び工業的実施の観点からセルロース繊維の重合度は、600〜8,000が好ましく、より好ましくは800〜6,000である。
【0016】
本発明のセルロースシートにおける微細セルロース繊維の重量比率は、シートとしての捕集効率やセパレータとしての耐ショート性、耐熱性、耐溶剤性の観点から50重量%以上である。微細セルロース繊維の重量比率が50重量%未満であると均一な微細孔径の形成が困難であるので、粗大ピンホールが多数形成される。また、微細セルロース繊維の重量分率が50重量%未満のセルロースシートは、比表面積が低下し、セルロース繊維特有の高い吸着性能を十分に発揮できなかったり、またセパレータとして利用する際に求められる電解質への濡れ性が低下したりする。更に微細セルロース繊維の重量比率が50重量%未満であるとセルロース本来の耐熱性や耐溶剤性が発揮できない。一方、本発明における微細セルロース繊維の重量比率の上限値を特に設定する必要はないが、取扱性の観点から99%以下であることが好ましい。本発明のシートにおける好ましい微細セルロース繊維の重量分率は、上記観点から60重量%以上99重量%以下であり、より好ましくは70重量%以上90重量%以下である。
【0017】
本発明のセルロースシートを構成する微細セルロース繊維は、化学修飾されていてもよい。例えば、微細セルロース繊維(セルロースミクロフィブリル)の表面に存在する一部又は大部分の水酸基が酢酸エステル、硝酸エステル、硫酸エステルを含むエステル化されたもの、メチルエーテルを代表とするアルキルエーテル、カルボキシメチルエーテルを代表とするカルボキシエーテル、シアノエチルエーテルを含むエーテル化されたもの、又はTEMPO酸化触媒によって6位の水酸基が酸化され、カルボキシル基(酸型、塩型を含む)となったものを含むことができる。また、タンパク除去フィルターとして利用する場合は、これらの化学修飾されたセルロース繊維に抗体を固定化してもよいし、あるいはセルロース表面にポリエチレングリコール等のアルキルエーテル類をグラフトさせてもよく、期待する特性によって適宜選択することができる。
【0018】
また、本発明のセルロースシートを構成する微細セルロース繊維は、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ブロック型ポリイソシアネート等のジイソシアネート類やエピクロルヒドリン等のエポキシ類等で架橋されていてもよい。セルロースは多くの水酸基を有し親水性であるために、水で膨潤するという性質を有する。そのため、本発明のシートを水系の液体濾過フィルターとして利用するためには耐水性の改善が必須であり、上記架橋を施すことで耐水性を改善することができる。
【0019】
本発明のセルロースシートが濾材又はセパレータとして好適に機能するためには、セルロース不織布が微細な網目構造を有し、かつ一定の通気性を有することが重要であって、目付が6g/m以上150g/m以下、かつ透気抵抗度が10s/100ml以上2000s/100ml以下のバランスで制御されていることが必要である。目付が6g/m未満のシートでは、薄過ぎて取扱性が著しく悪くなり、一方、目付が150g/mを超えると、空孔率が小さくなる。
【0020】
透気抵抗度とは、気体や液体等流体の流れやすさの指標であって、透気抵抗度の数値が低い程、流体が流れやすく、逆に数値が大きいと流体の流れ難さを表す。本発明における透気抵抗度は、25cm角のシートを10等分にエリア分けし、当該10区画についてガーレー式デンソメーター((株)東洋精機製、型式G−B2C)を用いて、100mlの空気の透過時間を測定した値の平均値であるが、1箇所でも10s/100mlを下回る部分、又は2000s/100mlを超える部分がある場合、本発明に規定する透気抵抗度の範囲外のものとする。なぜなら、これは、膜質均一性の悪さを示唆するものであるからである。本発明の定義による方法にて評価された透気抵抗度が10s/100ml未満であると濾材として使用する場合、捕集効率が著しく低下し、セパレータとして要求される微細孔径を発揮しえない。一方、透気抵抗度は2000s/100mlを超えると、濾材の場合濾過速度が著しく低下するとともに濾過工程において圧力損失が大きく、濾過膜の破裂を引き起こすし、蓄電デバイス用セパレータの場合、内部抵抗が大きく、使用に耐えない。本発明のセルロースシートの目付は、8g/m以上120g/m以下であることが好ましく、より好ましくは10g/m以上100g/m以下である。また透気抵抗度は好ましくは20s/100ml以上1000s/100ml以下の範囲である。
【0021】
本発明のセルロースシートの目付10g/m相当の引張強度は6N/15mm以上である。セルロースシートの引張強度はその目付に影響されるが、目付10g/m相当の引張強度が6N/15mm未満であるとシートの耐久性が著しく低下する。目付10g/m相当の引張強度は、好ましくは、7N/15mm以上、より好ましくは8N/15mm以上である。また、本発明のセルロースシートの引張伸度は、3%以上であることがシートのタフネス観点から好ましい。すなわち、セルロースシートの引張伸度が3%以上であることによってシートの耐久性が増し、破損や破裂等使用上の問題が発生しにくい。尚、本発明のセルロースシートの引張伸度の上限値は特にないが、伸度(ひずみ)が大き過ぎると濾材の場合の捕集効率やセパレータの場合の耐ショート性等の実用性能が低下するので、20%以下が好ましい。耐久性や実用性能の観点からセルロースシートの引張伸度は5〜15%がより好ましい。
【0022】
本発明のセルロースシートのバブルポイントは、1.0μm以下であることが必要である。バブルポイント(最大細孔径)とは、パームポロメータを用いた細孔径分布測定試験において、エタノールに完全に濡らしたサンプルに対して空気圧を増大させていった時、最初のバブルが観測されたポイントをいう。バブルポイントは、下記式(2):
d=Cγ/P 式(2)
{式中、d=バブルポイント(μm)、γ=エタノールの表面張力(dynes/cm)、P=差圧、そしてC=圧力定数(PがPaの場合、C=2860、PがcmHgの場合、C=2.15、PがPSIの場合、0.415である)。}により計算される。
【0023】
本発明のセルロースシートは、バブルポイントが1.0μm以下であることで、粒径の小さい(平均粒径:2〜3μm)活性炭を電極として用いる電気二重層キャパシタ用のセパレータとして使用する場合、活性炭が孔径を通過できないので短絡(ショート)を防止することができる。粒径分布の広い活性炭を電極として利用する場合や、活性炭の欠片が混入する場合が想定されるので、本発明のセルロースシートの好ましいバブルポイントは、0.8μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。
【0024】
また、本発明のセルロースシートは、下記式(1):
X=((バブルポイント(μm)−最小孔径(μm))/最頻孔径(μm) 式(1)
{式中、最小孔径は、前記パームポロメータを用いた細孔径分布測定試験において、細孔を透過するエア流量の97.7%時点の孔径をいい、そして最頻孔径は、当該流量の最も頻度の高い孔径をいう。}で表される孔径不均一性(X)が10以下である必要がある。尚、本発明のセルロースシートの最小孔径は0.01μm未満でないことが好ましい。シートの最小孔径が0.01μm未満であると、セパレータとして利用する場合、イオン透過性が低下して内部抵抗の上昇に繋がる。
【0025】
本発明のセルロースシートは、孔径不均一性が10以下であるので、孔径均一性に優れ(孔径分布が狭い)、濾材として使用する場合、特定サイズの物質を効率よく濾別することができ、またセパレータとして利用する場合、耐ショート性に優れることはもちろんのこと、極微細な孔径形成が抑制されているので、内部抵抗上昇を抑制することができる。本発明のセルロースシートの孔径不均一性は7以下が好ましく、より好ましくは5以下である。
【0026】
本発明のセルロースシートの比表面積は、10m/g以上200m/g以下であることが好ましい。シートの比表面積が1m/g以上であるとセルロース繊維の吸着性能がより一層発揮され、濾材として有効に作用する。一方、セルロースシートの比表面積が200m/gを超えると、引張強度が著しく低下し、シートとしての使用に耐えない。より好ましいセルロースシートの比表面積は30m/g以上180m/g以下、さらに好ましくは50m/g以上150m/g以下である。
【0027】
本発明のセルロースシートは、糖、多価アルコール、アルコール誘導体、及び水溶性高分子からなる群から選択される少なくとも1種の水溶性化合物を含有していることが好ましい。
ここで、糖としては、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、トレハロース、セロビオース、マルトース、多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、アルコール誘導体としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、そして水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、水溶性多糖、水溶性多糖誘導体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
ここで、水溶性多糖は、水溶性の多糖を意味し、天然物としても多種の化合物が存在する。例えば、でんぷんや可溶化でんぷん、アミロース、プルランに代表されるα−1,4−グルカン、デキストランに代表されるα−1,6−グルカン、カードラン、レンチナンに代表されるβ−1,3−グルカン、アミロペクチン、グリコーゲンに代表される分岐糖、キシラン、ガラクタン、マンナン、グルコマンナン、グルコマンノグリカン、ガラクトグルコマンノグリカン、グアランに代表されるヘテログリカンを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
また、水溶性多糖誘導体は、上述した水溶性多糖の誘導体、例えば、アルキル化物、ヒドロキシアルキル化物、アセチル化物であって、水溶性のものが含まれる。あるいは、誘導体化する前の多糖がセルロース、スターチなどのように水に不溶性のもの、誘導体化、例えば、ヒドロキシアルキル化やアルキル化、カルボキシアルキル化によって、水溶性化されたものも、該水溶性多糖誘導体に含まれる。具体的には、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチなどのヒドロキシアルキルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、さらには、ヒドロキシエチルメチルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロースのように、2種類以上の官能基で誘導体化された水溶性多糖誘導体も含まれるが、これらに限定されるものではない。
上述した水溶性化合物のうち、水溶性高分子である水溶性多糖や水溶性多糖誘導体は、耐熱性の高いものが多く、セルロースシートの強度を向上させる効果も大きいので、そのような性質の水溶性多糖や水溶性多糖誘導体を使用すれば、得られるセルロースシートは、セルロースが元来有する耐熱性を損なわない高強度のものとなるので、特に好ましい。
【0030】
シートに上記水溶性化合物が含まれることによって、当該水溶性化合物が微細なセルロー繊維間の接触点強度を補強するバインダーとして機能し、シートの取扱性や使用耐久性を向上させる。水溶性化合物の含有量としては、シート重量に対して0.01重量%以上20重量%以下が好ましい。水溶性化合物の含有量がシート重量に対して0.01重量%未満では、バインダーとしての機能を発揮できず、20重量%を超えると空孔を塞ぎ、空孔率が低下(濾過効率が低下)する。水溶性化合物の含有量は、より好ましくは0.05重量%以上15重量%以下、さらに好ましくは0.01重量%以上10重量%以下である。
【0031】
尚、上述した水溶性化合物は、2%水溶液の溶液粘度(B型粘度計)が、500〜6,000mPa・sであることが、上記バインダー効果発現のためには好ましく、また後述するシートの製造工程におけるエマルジョン系の抄紙用分散液の分散安定性のためにも水溶性化合物の溶液粘度がこの範囲にあることが好ましい。
【0032】
また、本発明のセルロースシートは、シート重量に対して10重量%未満、かつ上記バインダーの効果を阻害しない範囲内で、ポリプロピレンの短繊維、ポリプロピレン(芯)とポリエチレン(鞘)の複合繊維、ポリプロピレン(芯)とエチレンビニルアルコール(鞘)の複合繊維、高融点ポリエステル(芯)と低融点ポリエステル(鞘)の複合繊維等のバインダー繊維を含有することができる。
【0033】
本発明のセルロースシートは、上述したセルロースシートを、一層として含む多層化シートとしてもよい。該多層化シートは、通気性のある別種の不織布や紙(一般に使用される繊維径の繊維からなる不織布や紙)等の支持体上に上述した微細セルロース繊維からなるセルロースシートが積層化された2層構造でも、表裏の両側から該セルロースシートによって通気性のある別種の不織布等が挟まれた3層構造、逆にセルロースシートを別種の不織布等に挟んだ3層構造をもつものでも、あるいはさらに異種の層をもつものでも、多層化シートとして上述した微細セルロース繊維の重量分率、目付と透気抵抗度、及び孔径に関わる要件(バブルポイント、孔径不均一性)の範囲が保たれていれば、好適に本発明のセルロースシートの機能を発現することができる。
【0034】
本発明のセルロースシートは、請求項に規定する要件を全て満足することによって、濾材や蓄電用デバイス用セパレータに好適に利用できることはもちろんのこと、透明フィルムや透明樹脂の基材として有効に利用できる。
【0035】
以下、本発明のセルロースシートの製造方法について説明する。
本発明のセルロースシートは、まず、微細セルロース繊維(セルロースミクロフィブリル)の水分散液を調製し、該分散液を用いて以下に記載する方法により製膜して得ることができる。
セルロースミクロフィブリルは、ミクロフィブリルと呼ばれる2nm〜200nmの繊維径のセルロース繊維又はその集束体を意味する。より具体的には、バクテリアセルロースと呼ばれる、酢酸菌やバクテリア類の産生するセルロース、あるいはミクロフィブリル化セルロースと呼ばれるパルプ等の植物由来又はホヤセルロースのような動物由来のセルロースを、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、グラインダー等の高度にせん断力の加わる装置で微細化処理することにより得られる、繊維表面から引き剥がれた独立したミクロフィブリル又はそれらが収束した微細繊維(非特許文献1参照)を意味する。このうち、本発明では、コストや品質管理の面からミクロフィブリル化セルロースを原料として使用することがより好ましい。
【0036】
ミクロフィブリル化セルロースを使用する際の原料としては、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等のいわゆる木材パルプと非木材パルプを使用することができる。非木材パルプとしては、コットンリンターパルプを含むコットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、ワラ由来パルプを挙げることができる。コットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、ワラ由来パルプは、各々、コットンリントやコットンリンター、麻系のアバカ(例えば、エクアドル産やフィリピン産のものが多い)、ザイサルや、バガス、ケナフ、竹、ワラ等の原料を蒸解処理による脱リグニン等の精製工程や漂白工程を経て得られる精製パルプを意味する。また、海藻由来のセルロースやホヤセルロースの精製物もミクロフィブリル化セルロースの原料として使用することができる。更に、ビスコースレーヨンや銅アンモニアレーヨン等の再生セルロース繊維及びリヨセルやテンセル等の精製セルロース繊維も、本発明で特定する重合度に係わる要件を満たす限りにおいて利用することができる。コストや強度発現の観点からは、木材パルプやコットンリンターパルプを含むコットン由来パルプ、麻由来パルプを用いることが好ましい。
【0037】
次に、セルロース繊維のミクロフィブリル化の方法について記載する。セルロース繊維のミクロフィブリル化は、前処理工程、叩解処理工程、及び微細化工程を経ることが好ましい。
前処理工程においては、100〜150℃の温度での水中含浸下でのオートクレーブ処理、酵素処理等、又はこれらの組み合わせによって、原料パルプを微細化し易い状態にしておくことは有効である。これらの前処理は、微細化処理の負荷を軽減するだけでなく、セルロース繊維を構成するミクロフィブリルの表面や間隙に存在するリグニンやヘミセルロースなどの不純物成分を水相へ排出し、その結果、微細化された繊維のα−セルロース純度を高める効果もあるため、セルロースシートの耐熱性の向上に大変有効でありうる。
【0038】
叩解処理工程においては、原料パルプを0.5重量%以上4重量%以下、好ましくは0.8重量%以上3重量%以下、より好ましくは1.0重量%以上2.5重量%以下の固形分濃度となるように水に分散させ、ビーターやディスクレファイナー(ダブルディスクレファイナー)のような叩解装置でフィブリル化を高度に促進させる。ディスクレファイナーを用いる場合には、ディスク間のクリアランスを極力狭く(例えば、0.1mm以下)設定して、処理を行うと、極めて高度な叩解(フィブリル化)が進行するので、高圧ホモジナイザー等による微細化処理の条件を緩和でき、有効な場合がある。
【0039】
好ましい叩解処理の程度は以下のように定められる。
我々の検討において、叩解処理を行うにつれCSF値(セルロースの叩解の程度を示す。JIS P 8121で定義されるパルプのカナダ標準ろ水度試験方法で評価)が経時的に減少していき、一旦、ゼロ近くとなった後、さらに叩解処理を続けると再び増大していく傾向が確認され、水系分散液を調製整するに際して使用するミクロフィブリル化セルロースは、CSF値が一旦、ゼロ近くとなった後、さらに叩解処理を続けCSF値が増加している状態まで叩解することが好ましいことが判明した。本発明では、未叩解からCSF値が減少する過程でのCSF値を***↓、ゼロとなった後に増大する傾向におけるCSF値を***↑と表現する。該叩解処理においては、CSF値は少なくともゼロが好ましく、より好ましくはCSF30↑である。このような叩解度に調製した水分散体(以下「スラリー」ともいう。)ではフィブリル化が高度に進行し、最大繊維径2500nmを越える粗大セルロース繊維を含まないシートを提供できると同時に、当該スラリーから得られたセルロースシートからなるシートは、セルロースミクロフィブリル同士の接着点の増加からか、引張強度が向上する傾向がある。また、CSF値が少なくともゼロ又はその後増大する***↑の値をもつ高度に叩解されたスラリーは、均一性が増大し、その後の高圧ホモジナイザー等による微細化処理での詰まりを軽減できるという製造効率上の利点がある。尚、過度に叩解を進めると強度低下の傾向が現れる。したがって、CNF値の上限はCNF700↓であり、好ましくはCNF500↓である。
【0040】
微細化工程には、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、グラインダー等を用いることができる。この際の水分散体中の固形分濃度は、上述した叩解処理に準じ、0.5重量%以上4重量%以下、好ましくは0.8重量%以上3重量%以下、より好ましくは1.0重量%以上2.5重量%以下の固形分濃度とすると詰まりが発生せず、しかも効率的な微細化処理が達成される。
【0041】
使用する高圧ホモジナイザーとしては、例えば、ニロ・ソアビ社(伊)のNS型高圧ホモジナイザー、(株)エスエムテーのラニエタイプ(Rモデル)圧力式ホモジナイザー、三和機械(株)の高圧式ホモゲナイザーなどを挙げることができ、これらの装置とほぼ同様の機構で微細化を実施する装置であれば、他の装置であっても構わない。超高圧ホモジナイザーとしては、みづほ工業(株)のマイクロフルイダイザー、吉田機械興業(株)ナノマイザー、(株)スギノマシーンのアルティマイザーなどの高圧衝突型の微細化処理機を意味し、これらの装置とほぼ同様の機構で微細化を実施する装置であれば、他の装置であっても構わない。グラインダー型微細化装置としては、(株)栗田機械製作所のピュアファインミル、増幸産業(株)のスーパーマスコロイダーに代表される石臼式摩砕型を挙げることができるが、これらの装置とほぼ同様の機構で微細化を実施する装置であれば、他の装置であっても構わない。最大繊維径が2500nm以下になるように、より好ましくは数平均繊維径が500nm以下になるように、機種の選定やこれらの装置の条件(操作圧力やパス回数)を絞り込み選択すればよい。
【0042】
次に、本発明のセルロースシートの製造方法について記載する。製膜方法としては、
以下に記載する抄紙方法によって、本発明で使用するセルロースシートを製造することが好ましい。
すなわち、(1)セルロースミクロフィブリル0.05重量%以上0.5重量%以下、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下の油性化合物0.5重量%以上10重量%以下、及び水85重量%以上99.5重量%以下を含む水系分散液であって、該油性化合物が水相に分散したエマルジョンである水系分散液を調製する水系分散液調製工程、(2)セルロースミクロフィブリルの濃度(固形分濃度)及び油性化合物の濃度を特定範囲に濃縮制御し、濃縮組成物を得る抄紙工程、(3)濃縮組成物を加熱することによって、該濃縮組成物から油性化合物及び水を蒸発させて除去する乾燥工程、の3つの工程を含むセルロースシートの製造方法である。
【0043】
以下(1)〜(3)の工程を、順番に説明する。
(1)水系分散液調製工程
水系分散液調製工程で使用する水系分散液は、セルロースミクロフィブリル0.05重量%以上0.5重量%以下、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下の油性化合物0.5重量%以上10重量%以下、及び水85重量%以上99.5重量%以下を含む水系分散液であることが好ましい。
エマルジョン抄紙法用の水系分散液中のセルロースミクロフィブリルの濃度は、0.05重量%以上0.5重量%以下、より好ましくは0.08重量%以上0.35重量%以下であると好適に安定な抄紙を実施することができる。該水系分散液中のセルロースミクロフィブリル濃度が0.05重量%よりも低いと濾水時間が非常に長くなり生産性が著しく低くなると同時に膜質均一性も著しく悪くなるため好ましくない。また、セルロースミクロフィブリル濃度が0.5重量%よりも高いと、分散液の粘度が上がり過ぎてしまうため、均一に製膜することが困難になり、やはり好ましくない。
【0044】
調製工程で調製する水系分散液中には、0.15重量%以上10重量%以下の、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下である油性化合物がエマルジョンとして、85重量%以上99.5重量%以下の水から成る水相に分散していることが好ましい。
油性化合物の抄紙用水系分散液中の濃度は0.15重量%以上10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3重量%以上5重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以上3重量%以下である。油性化合物の濃度が10重量%を超えても本発明のセルロースシートを得ることはできるが、製造プロセスとして使用する油性化合物の量が多くなり、それに伴う、安全上の対策の必要性やコスト上の制約が発生するため好ましくない。また、油性化合物の濃度が0.15重量%よりも小さくなると所定の透気抵抗度範囲よりも高い透気抵抗度のシートしか得られなくなるため、やはり好ましくない。エマルジョン抄紙法においては、上述した条件下で形成されるエマルジョンにおいて、水と比較して油性化合物が、抄紙機における濾過を意味する抄紙工程により濾液側に移動せずに、セルロースミクロフィブリルの近傍に効率的に残存し、実質的に油性化合物の濃縮化が進行することを特徴とする。すなわち、乾燥工程に到る際に、セルロースミクロフィブリルが水に比べ表面張力の低い油性化合物に取り囲まれることは、乾燥時にミクロフィブリル間の膠着を防御し、通気性を有するセルロースシートを形成する原動力となる。これは、先述した有機溶剤による置換法と原理的には同じである。
【0045】
乾燥時に上記油性化合物が除去されないと、通気性を有するシートとなり得ないため、用いる油性化合物は、乾燥工程で除去可能なことが必要である。したがって、本発明において、水系分散液にエマルジョンとして含まれる油性化合物は、一定の沸点範囲にあることが必要であり、具体的には大気圧下での沸点が50℃以上200℃以下であることが好ましい。より好ましくは、60℃以上190℃以下であれば、工業的生産プロセスとして水系分散液を操作し易く、また、比較的効率的に加熱除去することが可能となる。油性化合物の大気圧下での沸点が50℃未満であると水系分散液を安定に扱うために低温制御下で扱うことが必要となり、効率上好ましくなく、一方、油性化合物の大気圧下での沸点が200℃を超えると、乾燥工程で油性化合物を加熱除去するのに多大なエネルギーが必要となるため、やはり好ましくない。
【0046】
さらに、上記油性化合物の25℃での水への溶解度は5重量%以下、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1重量%以下であることが、油性化合物の必要な構造の形成への効率的な寄与という観点で望ましい。以下に油性化合物の具体例を示す。
例えば、炭素数6〜炭素数14の範囲の炭化水素、具体的には、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−デカン、n−ウンデカンやそれらの異性体(例えば、イソヘキサン、イソオクタン、イソデカン)に代表される鎖状飽和炭化水素類、シクロヘキサン、シクロヘキセンのような環状炭化水素類、ジイソブチレンやシクロヘキセンのような鎖状又は環状の不飽和炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類、次に、炭素数5〜炭素数9の範囲であり一価かつ一級のアルコール、具体的には、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、イソヘキサノール、イソヘプタノール、(Z)−3−ヘキセン−1−オール、2−メチル−1−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、4−メチル−1−ペンタノール、3,3−ジメチル−1−ブタノール、(2E,4E)−2,4−ヘキサジエン−1−オール、2−メチル−2−ヘキサノール、イソヘプタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、イソオクタノール、1,3−ベンゾジオキソール−5−メタノール等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。一級のアルコールではないが、4−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、2−メチル−2−ヘキサノール、2−ヘプタノール、シクロヘプタノール、4−ヘプタノール、1−メチルシクロヘキサノール、1−エチニルシクロペンタノール、2−オクタノール、(S)−2−オクタノール、シクロオクタノール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサノール、1−オクチン−3−オール等の炭素数5〜炭素数9の範囲である一価のアルコールも油性化合物として好適に使用できる。
【0047】
上述した油性化合物のうち、特に、油性化合物が炭素数5〜炭素数9の範囲であり一価かつ一級のアルコールの中から選ばれる少なくとも一つの化合物、より好ましくは、該アルコールの中の、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノールの中から選ばれる少なくとも一つの化合物を用いると特に好適に本発明のセルロースシートを製造することができる。これらの油性化合物を用いることで、油滴径を2μm以下、好適には1.5μm以下、より好適には1μm以下の微小なエマルジョンを形成することができる。その結果、高空孔率かつ微細な多孔質構造を有するシートを製造することができる。ここで、油滴径は、光散乱法の粒度分布測定装置にて測定される最頻値の粒径をいう。
【0048】
これらの油性化合物は単体として配合してもよいし、複数の混合物を配合してもよい。
上述した油性化合物は、調製工程における水系分散液中にエマルジョンとして分散していることが重要である。この場合、油滴が水相に分散しているO/W型のエマルジョンである。油滴サイズに該当した網目構造が乾燥後の構造体に反映されるため、油滴は小さく(油滴径として2.0μm以下)安定に分散していることが好ましいので、エマルジョン抄紙用の水系分散液中には、前述した特定の水溶性化合物が水相中に溶解していることが好ましい。これらの水溶性高分子は、油滴粒子の表面近傍に局在し、スラリーの安定化に寄与するとともにエマルジョン抄紙の機構、すなわち、セルロースミクロフィブリルの作る緩やかな会合体中に油滴ごと取り込まれ、抄紙の過程で湿紙中に残存するため、高い残存率で湿紙中に残存することになるので、均一で微細な孔を高い比率で形成させることができる。但し、この際の特定の水溶性化合物の混合量は、油性化合物に対し25重量%以下であることが好ましい。これ以上の添加量とすると油性化合物のエマルジョンの形成能が低下するため、好ましくない。
【0049】
エマルジョン抄紙用の水系分散液中には、前述した特定の水溶性化合物が水相中に溶解していることが好ましい。該特定の水溶性高分子の濃度は、0.003重量%以上0.3重量%以下、より好ましくは、0.005重量%以上0.08重量%以下、さらに好ましくは、0.006重量%以上0.07重量%以下の量であり、この範囲であると、本発明で使用するセルロースシートが得られ易いと同時に、水系分散液の状態が安定化するため好ましい。該濃度が0.003重量%よりも小さいと、上記特定の水溶性化合物の添加効果が現れ難いので好ましくなく、また、該濃度が0.3重量%を超えると泡立ち等の添加量増大に伴う負の効果が現れ易くなるため好ましくない。エマルジョンを安定化させる目的で、水系分散液中に上記特定の水溶性化合物以外に界面活性剤が、上記特定の水溶性高分子との合計量が上記濃度範囲で含まれていても構わない。
【0050】
この場合の界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩などのアニオン界面活性剤、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウムなどのカチオン界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタインなどの両性界面活性剤、アルキルポリオキシエチレンエーテルや脂肪酸グリセロールエステル等のノニオン性界面活性剤を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
この他、水系分散液中には、目的に応じて種々の添加物が添加されていても構わない。例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子、炭酸カルシウム粒子のような無機系粒子状化合物、樹脂微粒子、各種塩類、エマルジョンの安定性を阻害しない程度の有機溶剤等、本発明の高空孔率構造体の製造に悪影響を及ぼさない範囲(種類の選択や組成の選択)で添加することができる。
【0052】
水系分散液中では水以外の成分は、85重量%以上99.5重量%以下、好ましくは90重量%以上99.4重量%以下、より好ましくは92重量%以上99.2%以下の組成の水中に分散又は溶解していることが好ましい。水系分散液中の水の組成が85重量%より低くなると、粘度が増大するケースが多く、エマルジョンを分散液中に均一に分散し難くなり、均一な構造の通気性を有するセルロースシートが得られ難くなるため好ましくない。一方、水系分散液中の水の組成が99.5重量%を超えると、配合組成としてエマルジョンの含有量が低減され、濃縮組成物中の油性化合物濃度が低くなってしまい、通気性の構造体が得られ難くなるため、やはり好ましくない。
【0053】
エマルジョンを含む抄紙用水系分散液(スラリー)中の微細セルロース繊維の分散平均径は、1μm以上300μm以下であることが好ましい。
抄紙用水系分散液中の微細セルロース繊維の分散平均径(以下、Rとする。)は、水の透過性、抄紙の効率の点から1μm以上、シートの均一性の点から300μm以下が好ましい。ここで言う分散平均径(R)とは、抄紙用分散液をレーザ散乱式粒度分布測定装置((株)堀場製作所製、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920、下限検出値は0.02μm)を用い、室温で測定して求められる体積平均の算術平均径のことを意味する。また、本測定ではMieの散乱理論(M.Kerker,“The Scattering of Light”,U.S.A.,Academic Press,New York,N.Y.,1969,Cap.5.)により体積分布に関する算術平均径を使用するが、その際に使用するセルロースの水の屈折率に対する相対屈折率は1.20とする。
水系分散液(スラリー)のRは、より好ましくは3μm以上200μm以下、さらに好ましくは5μm以上100μm以下の範囲にあると、より均一性に優れたシートを提供することができる。尚、本発明者らによる特許文献1においても、抄紙用分散液中(完全水系:エマルジョンなし)の微細セルロース繊維の分散平均径を1μm以上300μm以下にすることが膜質均一性を向上させるために有効である旨記載されているが、上述した化合物群からなるエマルジョン組成物である本発明の水系分散液(スラリー)は、理由は明らかではないが、完全水系の特許文献1に記載された抄紙用分散液と比較して、分散平均径分布が狭い(均一性が高い)ので、膜質均一性がより向上するとともに、分散安定性が高い(経時的な分散径の変化が起こりにくい)ので、シートの生産性向上にも寄与する。
【0054】
調製工程で調製する水系分散液は、上述した化合物群から成るエマルジョン組成物であるが、エマルジョンの形成においてはあらゆる乳化方法を採用することができる。すなわち、機械的乳化、転相乳化、液晶乳化、転相温度乳化、D相乳化、可溶化領域を利用した超微細乳化(マイクロエマルジョン乳化)等の方法によりO/W型エマルジョンを調製する。
水系分散液の調製は、一切の添加物を水中へ混入し、適当な乳化方法により水系エマルジョン分散液とするか、又は油性化合物と乳化剤からなる水系エマルジョンを上述したような適当な乳化方法で予め調製しておき、別途調製したセルロースミクロフィブリルその他の添加物からなる水系分散液と混合して水系分散液とすればよいが、その際分散平均径が1μm以上300μm以下になるように、またエマルジョンの油滴径が2μm以下になるように、ブレンダーのようなカッティング機能をもつ羽根を高速回転させるタイプの分散機や高圧ホモジナイザーで制御することが、粗大ピンホールをなくし、孔径の均一なシートを製造する上で好ましい。
【0055】
(2)抄紙工程
エマルジョン抄紙法の第二の工程は、(1)の工程で調製した水系分散液を抄紙し、抄紙機上での減圧(サクション)及びプレス機によりセルロースミクロフィブリルの濃度(固形分濃度)及び油性化合物の濃度を特定範囲に濃縮制御し、濃縮組成物を得る抄紙工程である。
抄紙機としては、傾斜ワイヤー式抄紙機、長網式抄紙機、円網式抄紙機のような装置を用いると好適に欠陥の少ないシート状のセルロースシートを得ることができる。抄紙機は連続式であってもバッチ式であっても目的に応じて使い分ければよい。
セルロースミクロフィブリルを使用して調製した水系分散液を抄紙する方法は、基本的には、本発明者らによる特許文献1に記載されている技術に準じる。特許文献1と本発明におけるエマルジョン抄紙法との差異は、抄紙用の水系分散液中に油性化合物と水から成るエマルジョンが含まれている点であるが、水系分散液中においてセルロースミクロフィブリルの会合体(軟凝集体)の分散平均径が1〜300μmになるように調製されていること、また特許文献1に開示されている要件を満足する濾布は、後述する固形分濃度及び油性化合物濃度を特定範囲に脱水・濃縮するに適していることにより、特許文献1で開示されている抄紙の条件、特に濾布の条件(セルロースミクロフィブリルの歩留まり割合、水の透過量)により良好に抄紙を実施できる。
【0056】
抄紙工程では、油性化合物の濃縮化と同時に高固形分化を進行させ、固形分濃度を6重量%以上25重量%以下、油性化合物濃度を7重量%以上35重量%以下の範囲に制御した湿紙を調製することが必要である。湿紙の固形分率が6重量%よりも低いと湿紙としての自立性がなく、工程上問題が生じ易くなる。一方、湿紙の固形分率が25重量%を超える濃度まで脱水すると水相だけでなく、濃縮したエマルジョンが系外に排出されてしまい、セルロースミクロフィブリル近傍の水層の存在によって、却って油性化合物の濃度が低下してしまうため、有効に通気性のあるセルロースシートを形成できなくなり、相応しくない。また、油性化合物濃度が7重量%未満であるとセルロースフィブリル間に十分な油滴が存在できなくなり、乾燥時に水の表面張力でフィブリル間の膠着が生じ、シートの緻密化や膜質の不均一化を引き起こす。一方、油性化合物濃度が35重量%を超えると表面に油が浮いた状態になり、深さ方向で構造変化が起こる(膜質の不均一化に繋がる)。湿紙の固形分濃度のより好ましい範囲としては、8重量%以上20重量%以下である。また湿紙の油性化合物濃度のさらに好ましい範囲としては、10重量%以上32重量%以下であり、特に好ましくは12重量%以上30重量%以下である。
【0057】
湿紙の固形分濃度及び油性化合物濃度を上記範囲に制御するために、抄紙機上におけるサクション圧及びプレス圧と時間を調整することができる。この場合、抄紙上におけるサクション圧(減圧度)は、大気圧に対して1kPa以上15kPa以下の範囲で減圧することが好ましい。大気圧に対する減圧度が1kPa以下であると、濾水に長時間要し生産性が低下する。一方、大気圧に対する減圧度が15kPaを超えると、脱水と同時に油性化合物の逸脱が起こり、湿紙への油性化合物の残存率が低下し(水溶性高分子を添加する場合は湿紙への水溶性高分子の残存率も低下する)、シートの緻密化や膜質の不均一化に繋がる。また抄紙機上におけるサクション圧を上記範囲で制御し、かつ0.01MPa以上0.3MPa以下の圧力で湿紙をプレスすることが好ましい。プレス圧が0.01MPa未満であると、シート表面から裏面(濾布側)にかけて油性化合物の残存率の分布が生じ、粗大ピンホールの形成や孔径の不均一化に繋がる。一方、プレス圧が0.3MPaを超えると湿紙の油性化合物の残存率が6重量%を下回り、シートの緻密化や膜質の不均一化に繋がり、ひどい場合は粗大ピンホールが形成される。
【0058】
尚、有機繊維層である支持体を用いる場合、ワイヤー又は濾布をセットした抄紙機に当該支持体をのせて、水系分散液を構成する水の一部を該支持体上で脱水(抄紙)を行い、該支持体上にセルロースミクロフィブリルからなるセルロースシートの湿紙を積層化させ、一体化させることにより、少なくとも2層以上の多層構造体からなる多層化シートを製造することができる。3層以上の多層化シートを製造するためには、2層以上の多層構造を有する支持体を使用すればよい。また支持体上で2層以上の本発明のセルロースシートの多段抄紙を行って3層以上の多層シートとしてもよい。
【0059】
(3)乾燥工程
抄紙工程で得た湿紙は、加熱による乾燥工程で油性化合物及び水の一部を蒸発させることによって、セルロースシートとなる。乾燥工程は、ドラムドライヤーのような幅を定長とした状態で、水と油性化合物(以下、水と油性化合物を合わせて「分散媒」という。)を乾燥し得るタイプの定長乾燥型の乾燥機を使用すると、より透気抵抗度の低いセルロースシートを安定に得ることができるため、好ましい。乾燥温度は、条件に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは45℃以上180℃以下、より好ましくは60℃以上150℃以下の範囲とすれば、好適に通気性のあるセルロースシートを製造することができる。乾燥温度が45℃未満では、多くの場合に分散媒の揮発速度が遅いため、生産性が確保できないため好ましくなく、一方、180℃より高い乾燥温度とすると、構造体を構成する親水性高分子が熱変性を起こしてしまうケースがあり、また、コストに影響するエネルギー効率も低減するため、やはり好ましくない。場合によっては、100℃以下の低温乾燥で組成調製を行い、次段で100℃以上の温度で乾燥する多段乾燥を実施することも、均一性の高いセルロースシートを得る上うえでは有効であることができる。
【0060】
上述した乾燥工程で得られたセルロースシートにカレンダー装置によって平滑化処理を施す平滑化工程を設けてもよい。該平滑化工程を経ることにより表面が平滑化され、薄膜化された本発明のセルロースシートを得ることもできる。すなわち、乾燥後のセルロースシートに対し、さらにカレンダー装置による平滑化処理を施す工程を含むことにより、薄膜化が可能となり、広範囲の、膜厚/通気度/強度の組み合わせの本発明のセルロースシートを提供することができる。例えば、10g/m以下の目付の設定下で20μm以下(下限は3μm程度)の膜厚のセルロースシートを容易に製造することが可能である。カレンダー装置としては単一プレスロールによる通常のカレンダー装置の他に、これらが多段式に設置された構造をもつスーパーカレンダー装置を用いてもよい。これらの装置、カレンダー処理時におけるロール両側それぞれの材質(材質硬度)や線圧を、目的に応じて選定することにより、多種の物性バランスをもつセルロースシートを得ることができる。
以上の条件を満たすことにより、高い空孔率と優れた力学物性を有し、均一な微細孔を有する微細セルロース繊維から構成されるセルロースシートを提供することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、以下の方法で諸物性を測定した。
(1)微細セルロース繊維の最大繊維径(nm)
微細セルロース繊維の最大繊維径が2500nm以下であることは、SEM画像によって確認する。
微細セルロース繊維からなる不織布シートの表面に関して、無作為に3箇所、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を10000倍相当の倍率で行った時に、得られたSEM画像中の繊維径2500nmを超える全ての繊維の数をカウントし、その平均値をとる。但し、画像において、数本の微細繊維が多束化して2500nm以上の繊維径となっていることが明確に確認できる場合には、2500nm以上の最大繊維径の繊維とは見なさないものとする。
【0062】
(2)微細セルロース繊維の数平均繊維径(nm)
微細セルロース繊維からなる不織布シートの表面に関して、無作為に3箇所、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を10000倍相当の倍率で行う。得られたSEM画像に対し、画面に対し水平方向と垂直方向にラインを引き、ラインに交差する繊維の繊維径を拡大画像から実測し、交差する繊維の個数と各繊維の繊維径を数える。こうして一つの画像につき縦横2系列の測定結果を用いて数平均繊維径を算出する。さらに抽出した他の2つのSEM画像についても同じように数平均繊維径を算出し、合計3画像分の結果を平均化し、対象とする試料の数平均繊維径(nm)とする。
【0063】
(3)重合度(DP)の測定
微細セルロース繊維の重合度(DP)は下記手順にそって銅エチレンジアミン法で測定する。
(分析試料の調製)
セルロース1gに純水20mlを加え30分間攪拌した後、銅エチレンジアミン溶液(1M銅、2Mエチレンジアミン)20ml加え、30分間攪拌して、分析試料とした(非特許文献2参照)。
(液の流下速度の測定及び重合度の算出)
LAUDA社製の動粘度測定装置(PROLINE PVL24)を用いて液の流下速度を測定した。
セルロースを溶解させた銅エチレンジアミン溶液の流下時間(t(秒))と無添加同溶液の流下時間(t0(秒))から、以下の式(3):
ηr = t/t0 式(3)
により相対粘度ηrを求める。
次に、それぞれの濃度における比粘度ηspを以下の式(4):
ηspr−1 式(4)
により求める。
求めた比粘度ηspを次式(5):
[η]=ηsp/100×c×(1+0.28×ηsp) (c:試料濃度) 式(5)
に挿入して固有粘度[η]を求める。
以下の式(6):
DP = 175×[η] 式(6)
により粘度平均重合度DPを求める。
尚、微細セルロース繊維と有機繊維層からなるシートの場合、下記(4)に記載する方法で採取された微細セルロース繊維の重合度DPを測定する。
【0064】
(4)シートにおける微細セルロース繊維の重量比率(P,wt%)
予めシートを105℃の電気乾燥機内で6時間乾燥し、デシケータ中で30分間冷却した後シート重量を求める(W)。
シートをシート重量に対して10倍量の水で攪拌(30分間)し、濾過(孔径2mmの篩)し、洗浄し、その後20倍量の水で同様の操作を2回繰返し、微細セルロース繊維が混入した洗浄液をナスフラスコ(容器重量:W)に移し、エバポレータ(70℃)で乾固させる。見かけ上水分がなくなった後、105℃の電気乾燥機内で6時間乾燥し、デシケータ中で30分間冷却した後重量を求める(容器と微細セルロース繊維の総量;W)。微細セルロース繊維の重量比率(P,wt%)は、下記式(7)::
微細セルロース繊維の重量比率(P)=(W−W)/W×100 式(7)
により求める。
【0065】
(5)目付(g/m
シートの目付は、JIS P−8124に準じて、算出した。
【0066】
(6)透気抵抗度(sec/100ml)
25cm角のシートを10等分にエリア分けし、当該10区画についてガーレー式デンソメーター((株)東洋精機製、型式G−B2C)を用いて、100mlの空気の透過時間を測定し、10点の平均値をとる。ここで、1箇所でも10s/100mlを下回る部分、又は2000s/100mlを超える部分がある場合、本発明で規定する透気抵抗度範囲外とした。
【0067】
(7)引張強度(N/15mm)及び引張伸度(%)
JIS P 8113にて定義される方法に従い、熊谷理機工業(株)の卓上型横型引張試験機(No.2000)を用い、幅15mmのサンプル10点について測定し、その平均値を引張強度及び引張伸度(%)とした。目付けの違いを考慮して、引張強度は10g/m目付け当りの値とした。
【0068】
(8)バブルポイント(BP)及び孔径不均一性(X)
バブルポイント(最大細孔径)は、パームポロメータ(西華産業製 CFE−1200AEX)を用いた細孔径分布測定試験において、エタノールに完全に濡らしたサンプルに対して空気圧を5cc/minで増大させていった時、最初のバブルが観測されたポイントをいい、下記式(2):
d=Cγ/P 式(2)
{式中、d=バブルポイント(μm)、γ=エタノールの表面張力(dynes/cm)、P=差圧、そしてC=圧力定数(PがPaの場合、C=2860、PがcmHgの場合、C=2.15、PがPSIの場合、0.415である)。}により計算した。
孔径不均一性(X)は、下記式(1):
X=((バブルポイント(μm)−最小孔径(μm))/最頻孔径(μm) 式(1)
{式中、最小孔径は、前記パームポロメータを用いた細孔径分布測定試験において、細孔を透過するエア流量の97.7%時点の孔径をいい、そして最頻孔径は、当該流量の最も頻度の高い孔径をいう。}により求めた。
【0069】
(9)水溶性高分子付着量(wt%)
不織布1gを、500gの冷水(5℃以下のイオン交換水を使用)に分散させ、家庭用ミキサーで5分間分散させる。次に分散液の温度を5℃以下に保持しながら、30分間放置し、繊維に付着している水溶性高分子を完全に水相へ溶解させる(この間、10分間に1回の割合で手で軽くゆする)。この後、得られた繊維の分散液をガラスフィルター等で濾過・洗浄し、濾液を回収し、さらにエバポレーターにて該濾液の濃縮を行い、得られた濃縮液を、内部標準を加えた重水中に適量溶かし、H−NMRのピーク強度により溶解している各成分の濃度を評価する。
重水へ濃縮液の溶解量、先に行った濃縮工程の濃縮度等を考慮し、H−NMRによる溶解成分の濃度から、セルロースシート中の溶解成分の含有率を算出する。仮に、水溶性多糖でもなく水溶性多糖誘導体でもない水溶性成分が該濃縮液中に含有され、しかも該水溶性成分のH−NMRにおけるピーク位置が水溶性多糖又は水溶性多糖誘導体のピーク位置と重なる場合には、適当な濃度条件で、液体クロマトグラフ又はゲルパーミエーションクロマトグラフの手法により各成分を分離した上でH−NMRによる分析を行う。
【0070】
(10)湿紙の固形分濃度(Q,wt%)
約10cm角にカットした湿紙を秤量瓶(W)に投入し重量の重量(秤量瓶+水+微細セルロース繊維+水溶性高分子+油性化合物:W)を測定し、105℃の電気乾燥機内で6時間乾燥し、デシケータ中で30分間冷却した後重量を求める(秤量瓶+微細セルロース繊維+水溶性高分子;W)。尚、水溶性高分子重量(W)は、(9)に前記した方法で別途測定する。湿紙の固形分濃度(Q,wt%)は、下記式(8):
湿紙の固形分濃度(Q)=(W−W−W)/(W−W)×100 式(8)
により求める。
【0071】
(11)湿紙の油性化合物濃度(wt%)
5mlアセトンを入れたサンプル管中に金属製スパチュラにて2cm角にカットした湿紙を投入し、セルロースが均一に崩壊、分散するまで手で強く振とうする。前記サンプル管を1時間静置し、上澄み液からマイクロシリンジで評価液を採取し、ガスクロにて分析を行う。ガスクロチャートに現れる水のピークと油性化合物のピーク面積比と、(10)に前記した湿紙の固形分濃度(Q)から湿紙中に含まれる油性化合物濃度を算出する。
【0072】
[実施例1]
重合度(DP)1750のコットンリンター原綿を10重量%となるように水に浸液させ、オートクレーブ内で130℃、4時間の熱処理を行い、得られた膨潤パルプを複数回水洗し、水を含浸した状態の膨潤パルプを得た。
該膨潤パルプを固形分1.5重量%となるように水中に分散させて水分散体(400L)とし、ディスクレファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmとして400Lの該水分散体に対して、20分間叩解処理を進めた後、引き続いてクリアランスをほとんどゼロに近いレベルにまで低減させた条件下で、叩解処理を続けた。経時的にサンプリングを行い、サンプリングスラリーに対して、JIS P 8121で定義されるパルプのカナダ標準ろ水度試験方法(以下、CSF法)のCSF値を評価したところ、CSF値は経時的に減少していき、一旦、ゼロ近くとなった後、さらに叩解処理を続けると、増大していく傾向が確認された。クリアランスをゼロ近くとしてから10分間、上記条件で叩解処理を続け、CSF値で73ml↑の叩解スラリーを得た。得られた叩解スラリーを、そのまま高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製NS015H)を用いて操作圧力100MPa下で5回の微細化処理を実施し、ミクロフィブリル化セルロースの水系分散液M1(固形分濃度:1.5重量%)を得た。
【0073】
次に、このM1、及び油性化合物を表1に示すとおり添加し、家庭用ミキサーで4分間乳化・分散を行った後、200rpmで10分間攪拌し。この水系分散液の軟凝集体の分散平均径Rvは168μmであり、油滴の平均径は1.59μmであった。
PET/ナイロン混紡製の平織物(敷島カンバス社製、NT20・・・大気下25℃での水透過量:0.03ml/cm・s、ミクロフィブリル化セルロースを大気圧下25℃における濾過で99%以上濾別する能力あり)をセットしたバッチ式抄紙機(熊谷理機工業社製、自動角型シートマシーン 25cm×25cm、80メッシュ)に目付10g/mのセルロースシートを目安に、上記調製した水系分散液312.5gを投入し、その後大気圧に対する減圧度を7KPaとして抄紙(脱水)し、湿潤状態の濃縮組成物からなる湿紙を得た。当該湿紙を濾布上から剥がし、1kg/cmの圧力で1分間プレスした。湿紙面をドラム面に接触させるようにして、湿紙/濾布の2層の状態で表面温度が130℃に設定されたドラムドライヤーにやはり湿紙がドラム面に接触するようにして約120秒間乾燥させ、得られた乾燥した2層体からセルロースのシート状構造物から濾布を剥離させて、白色の均一な微細セルロース繊維から構成されるシートS1を得た。尚、上記同様の方法で分散液を調製し、抄紙、プレスした湿紙の固形分濃度は20.6%、油性化合物(1−ヘキサノール)濃度は17.1%であった。
S1の表面を10000倍の倍率でSEM画像解析を行ったところ、S1の表面における微細セルロース繊維で2500nmを超えるものは認められず、数平均繊維径は153nmであった。またS1はバブルポイント、孔径不均一性、透気抵抗度及び強度は以下の表2に示すとおり、本発明に規定する範囲にあり、シートに適する物性をもつものであった。
【0074】
[実施例2]
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学工業(株)製 60SH−4000)を表1に示す組成で水系分散液に添加する以外は、実施例1と同様に微細化、スラリー調製、抄紙及び乾燥を行い、シートS2を得た。シートS2は表2に示すとおり、本発明に規定する物性範囲にあり、シートとして適性に使用できるものであった。
【0075】
[実施例3及び実施例4]
表1に示す原料セルロースを用いる以外は、実施例2と同様にシートS3及びS4を得た。シートS3及びS4は表2に示すとおり、本発明に規定する物性範囲にあり、シートとして適性に使用できるものであった。
【0076】
[実施例5〜実施例8]
表1に示す組成で水系分散液を調製した以外は、実施例2と同様にシートS5〜S8を得た。シートS5〜S8はいずれも表2に示すとおり、本発明に規定する物性範囲にあり、シートとして適性に使用できるものであった。
【0077】
[実施例9及び実施例10]
実施例9と実施例10において、それぞれ、目付7g/mと30g/mのセルロースシートを得ることを目安に、水系分散液を、それぞれ、218.8gと937.5gを投入する以外は、実施例2と同様にシートS9及びS10を得た。シートS9及びS10はいずれも表2に示すとおり、本発明に規定する物性範囲にあり、シートとして適性に使用できるものであった。
【0078】
[比較例1及び比較例2]
油性化合物及び水溶性高分子を加えない以外は、実施例2と同様に微細化、スラリー調製、抄紙及び乾燥を行って、シートC1を得た(比較例1)。
また、比較例1と同様に微細化、スラリー調製、抄紙を行った後、シート中の水分をイソブタノールで置換し、130℃に設定されたドラムドライヤーにやはり湿紙がドラム面に接触するようにして約120秒間乾燥させ、シートC2を得た(比較例2)。
シートC1は、表2に示すとおり強度は高いものの、乾燥時の緻密化のためか、バブルポイント、孔径不均一性、透気抵抗度いずれも評価できなかった。
一方、シートC2は、表2に示すとおり強度が劣るものであった。
【0079】
[比較例3]
重合度(DP)460のケナフを原料セルロースに用いる以外は、実施例2と同様にシートC3を得た。シートC3は表2に示すとおり、強度が劣るものであった。更に最小孔径検出不可により孔径不均一性が算出できなかった。
【0080】
[比較例4]
叩解処理工程において、CSF値で50ml↓の叩解スラリーを調製し、当該スラリーを高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製NS015H)を用いて操作圧力100MPa下で2回の微細化処理を実施した以外は、実施例2と同様にしてシートC4を得た。シートC4は表2に示すとおり、最大繊維径が2500nmを超えるものであった。透気抵抗度がn=10の測定のうち、1点が10s/100ml以下であり、粗大ピンホールの存在を示唆していた。また強度も6N/15mm(目付10g/mあたり)を下回るサンプルがあり、膜質均一性に劣るものであった。
【0081】
[比較例5]
目付5g/mのセルロースシートを目安にした以外は、実施例2と同様にシートC5を得た。シートC5は表2に示すとおり、透気抵抗度、強度ともに本発明の範囲から外れるものであった。
【0082】
[比較例6]
水系分散液の分散平均径が300μmを超え、更にエマルジョンの平均油滴径が2μmを超えるように乳化、分散処理を行った以外は、実施例2と同様にシートC6を得た。シートC6は表2に示すとおり、透気抵抗度及び強度ともに本発明に規定する範囲を外れるサンプルがあった。
【0083】
[比較例7]
抄紙後の湿紙のプレスを5kg/cmで1分間実施した以外は、実施例2と同様にシートC5を得た。プレス後の固形分濃度は、36.8重量%、油性化合物濃度は5.3重量%であり、油性化合物濃度が低かったために、乾燥時に緻密化が起こり、シートC7は孔径不均一性、透気抵抗度いずれも評価できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明のセルロースシートは、フィルター濾材や蓄電デバイス用セパレータとして有効に利用できることはもちろんのこと、生活製品用高機能紙さらには各種樹脂と複合化させるとことにより低線膨張性の光学材料や電子材料基板として用いることができる。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
最大繊維径2500nm以下のセルロース繊維から構成されるセルロースシートであって、下記(1)〜(7)の要件:
(1)上記セルロース繊維の重合度(DP)は500以上である、
(2)上記セルロースシートにおける上記セルロース繊維の重量比率は50重量%以上である、
(3)上記セルロースシートの目付は6g/m以上150g/m以下である、
(4)上記セルロースシートの透気抵抗度は10s/100ml以上2000s/100ml以下である、
(5)上記セルロースシートの、目付10g/m相当の引張強度は6N/15mm以上である、
(6)上記セルロースシートのバブルポイントは1.0μm以下である、
(7)下記式(1):
X=(バブルポイント(μm)−最小孔径(μm))/最頻孔径(μm) 式(1)
で表される孔径不均一性(X)は10以下である、
の全てを満足する前記セルロースシート。
【請求項2】
前記セルロース繊維の数平均繊維径が500nm以下である、請求項1に記載のセルロースシート。
【請求項3】
糖、多価アルコール、アルコール誘導体、及び水溶性高分子からなる群から選択される少なくとも1種の水溶性化合物を0.01重量%以上20重量%以下含有する、請求項1又は2のいずれか1項に記載のセルロースシート。

【公開番号】特開2012−36529(P2012−36529A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177392(P2010−177392)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】