説明

セルロース及びセルロース誘導体の改質方法とその装置

【課題】セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の改質を室温で簡便な装置を用いて安全に行う方法を提供する。
【解決手段】セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品を、光照射によりラジカルを発生する化合物と電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物の存在下で光照射する。または、セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品を、光照射によりラジカルを発生する化合物の存在下で光照射した後電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物で処理する。光照射によりラジカルを発生する化合物としては、好ましくは、過酸化物が用いられる。また、光照射後にセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品を還元剤で処理する態様も包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の改質方法とこれを実施するための装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースまたはセルロース誘導体は現在様々な野で広く用いられているが、セルロースの化学修飾は殆どの場合、水酸基に対するものである(非特許文献1、2、3)。化学修飾方法としては、エステル化、エーテル化、ハロゲン化、酸化反応、及びグラフト化が用いられている。エステル化には無機酸エステルと有機酸エステルを得る場合が有り、典型的な無機酸エステルとしては硝酸セルロースが挙げられ、典型的な有機酸エステルとしてはセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレート等の酢酸有機酸混合セルロース、トリフルオロ酢酸セルロース、ギ酸セルロース、セルロースカルバニレート等が挙げられる。エーテル化ではカルボキシメチルセルロース、メチルセルロースやエチルセルロース等のアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースやヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース、シアノエチルセルロース等が挙げられる。ハロゲン化では、塩素化、臭素化、ヨウ素化、フッ素化が挙げられる。しかしながらこれらの反応はセルロースの水酸基を官能基化する為にセルロースの特徴である、分子内に多くの水酸基を有するという性質を失うという問題がある。
【0003】
そこで、セルロースの水酸基を失うことなくセルロースまたはセルロース誘導体のグラフト化による化学修飾も試みられており、過硫酸塩、過酸化水素−金属塩レドックス系、キサントゲンサン塩−過酸化物、ベンゾフェノン等の光増感剤、セリウム塩を用いたレドックス系等を用いてセルロース鎖にラジカルを発生させてオレフィン類とグラフトを行うことが行われているが、グラフト化率は低く、また、これらの薬剤には環境負荷をもたらすものが多いという問題もある(非特許文献3)。
【0004】
また、グラフト化のためにセルロースまたはセルロース誘導体にγ線照射等の物理的手段が用いられる場合もあるが、これらの処理では大型の装置や高真空等の特殊な条件を必要とする問題がある。
【非特許文献1】石川欣造監修、繊維、東京電機大学出版局、1986年発行、第3章
【非特許文献2】繊維学会編著、やさしい繊維の基礎知識、日刊工業新聞社、2004年発行、第1章
【非特許文献3】セルロース学会編集、セルロースの事典、朝倉書店、2000年発行、第4、7章
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題点を克服するためになされたものであって、セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の改質を室温で簡便な装置を用いて安全に行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、かかる従来技術の難点を解消するために鋭意検討した結果、セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品を光照射によりラジカルを発生する化合物と電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物の存在下で光照射することにより、その目的が達成しうることを見い出し、この知見に基づき本発明をなすに至った。
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉光照射によりラジカルを発生する化合物と電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物の存在下、アスペクト比が300以下で、その存在比が全体の60%以上のセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品に対し、光照射することを特徴とするセルロースまたはセルロース誘導体の改質方法。
〈2〉光照射によりラジカルを発生する化合物の存在下、アスペクト比が300以下で、その存在比が全体の60%以上のセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品に対し、光照射した後に、前記炭素−炭素二重結合を有する化合物と処理することを特徴とするセルロースまたはセルロース誘導体の改質方法。
〈3〉光照射によりラジカルを発生する化合物が過酸化物であることを特徴とする〈1〉又は〈2〉のセルロースまたはセルロース誘導体の改質方法。
〈4〉前記<1>から<3>のいずれかの方法での光照射後にセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及びそれらからなる製品を還元剤で処理することを特徴とするセルロースまたはセルロース誘導体の改質方法。
〈5〉前記<1>、<3>又は<4>の方法を行うための装置であって、光源とともに、光照射によりラジカルを発生する化合物と前記炭素−炭素二重結合を有する化合物の存在下でセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品に光照射する手段を備えていることを特徴とするセルロースまたはセルロース誘導体の改質装置。
〈6〉前記<2>から<4>のいずれかの方法を行うための装置であって、光源とともに、光照射によりラジカルを発生する化合物の存在下でセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品に光照射する手段と、光照射した後に、前記炭素−炭素二重結合を有する化合物と処理する手段を備えていることを特徴とするセルロースまたはセルロース誘導体の改質装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法と装置によれば、セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の改質を室温で簡便な装置を用いて安全に行うことを可能とし、上記素材及び製品の改質範囲を拡大して新たな機能を発現させると共に、持続的な社会の発展に必要な、省資源、省エネルギー、環境負荷低減技術として多いに寄与するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において用いるセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末の形態としては、粉末の他に、顆粒、フレーク等の形態も含まれ、アスペクト比が300以下で、その存在比が全体の60%以上のものであればよい。また、本発明におけるセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品とは、上記セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末を用いて成形したものであればよい。
【0009】
本発明でいう、セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の改質とは、該粉末及びそれらからなる製品が本来有する機能、性能、性質等とは異なる新たな機能、性能、性質等を付与することを意味し、新たな機能、性能、性質等が付与されていれば、本来有する機能、性能、性質等を併せ持っていてもよい。粉末及びそれらからなる製品の具体的な改質特性としては、新たな物理的特性の付与、他材料との親和性の改変、染色性、濃色性、深色性、親水性、撥水性、防水性、親油性、導電性、難燃性、防虫性、妨カビ性、消臭性、加工性、メッキ性、芳香性、芳香徐放性等が挙げられるが、これらの機能、性質等に限定されるものではなく、該粉末及びそれらからなる製品が本来有する機能、性能、性質等とは異なる新たな機能、性能、性質等を付与するものであればよい。
本発明において用いる照射光としては、目的とする付与する機能、性能、性質や、付与のための効率等を考慮して選択してよいが、一般的には、120〜800nmの、好ましくは190〜600nmの紫外可視光を用いることが望ましい。紫外可視光源としては特に制限はなく、連続光でもパルス光でもよく、低圧水銀灯、高圧水銀灯、キセノン灯、ブラックライト、各種LED、各種エキシマランプ等の通常の光源を用いることができるが、これらに限定されるものではなく従来公知の光源を適宜に用いることができる。照射光強度にも特に制限は無いが、紫外可視光の連続光源としては0.1mW〜10kWの光源が適している。
また光源として各種レーザーを用いることが出来、レーザー光はパルス光でも連続照射光でもよいが、エキシマレーザー(ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー、XeClエキシマレーザー、XeFエキシマレーザー等)、アルゴンイオンレーザー、クリプトンイオンレーザー、YAGレーザーの第2、及び第3高調波等を用いることができるが、これらに限定されるものではなく従来公知のレーザーを適宜に用いることができる。紫外可視レーザー光としては、特別な制約はないが、波長が140〜800nm、好ましくは190〜600nm程度のものを用いることが望ましい。レーザー照射光強度にも特に制限は無いが、パルス光では0.1mJ/パルス〜1kJ/パルス、連続光は0.1mW〜10kWの光源が適している。
光ビームとしては各種レーザーの使用が適しているが、通常の光源を用いて各種レンズやミラー類等の光学系を用いて光を特定の方向に照射できるものであればビームが平行光線でなくても用いることが出来る。これらの光ビームを各種ミラー類等の光学系を用いることにより移動しながら対象となるセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品に照射することができる。
マスクを用いて光照射を行う場合には、マスクは光源と対象となるセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の間の何れの位置に置いても良く、光源としては上記の光源の何れをも用いることが出来る。また、光源とマスクの間、及び/又はマスクと対象となるセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の間に各種レンズやミラー類等の光学系を設置して、マスクのパターンを縮小、拡大、変形することもできる。
また、通常の光照射、光ビームによる光照射、及びマスクを用いる光照射において、光源の特性、及び/又は各種レンズやミラー類等の光学系を用いることにより光照射面内の光強度に強弱を付けることによりセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の改質の度合いにグラデーションを付けることもできる。
【0010】
光照射時間は、セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の種類、粒径、厚さ、形態、溶液の種類と濃度、更には、照射紫外可視光の種類や光強度等を考慮することにより適宜定められるが、定常光源の場合は通常1秒〜120分、各種レーザーを用いた場合には連続レーザーでは通常1μ秒〜30分、パルスレーザーでは通常1〜1000パルスもあれば充分であるが、これらの照射時間に関わらず必要な改質が起こるのに必要な時間光照射を行えばよい。
【0011】
本発明において用いる光照射によりラジカルを発生する化合物としては、好ましくは各種過酸化物、各種光重合開始剤、等が挙げられ、特に過酸化水素や過酸類が好ましいが、これらに限定されるものではなく、該化合物が光照射により単独、或いは他の化合物との相互作用により、ラジカル、ラジカルカチオン、或いはラジカルアニオンを発生するものであればよい。
【0012】
本発明において用いる電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物は芳香族化合物も含み、光照射によるセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の改質を著しく阻害するものでなければ従来公知の電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物の任意のものが使用できる。また、該炭素−炭素二重結合が分子内に複数有る化合物、該炭素−炭素二重結合を有する化合物が高分子化合物である化合物、該炭素−炭素二重結合を有する部位が高分子化合物にグラフトされた化合物等も該炭素−炭素二重結合を有する化合物として用いることができる。また、これらの該炭素−炭素二重結合を有する化合物のいずれかを単独で用いてもよいが、複数の該炭素−炭素二重結合を有する化合物からなる混合系を用いることもできる。
ここで用いる電子吸引性基が直接結合した炭素−炭素二重結合の置換基数や置換基の種類にも制限は無く、他の置換基として水素、電子供与性基、電子吸引性基のいずれの特性を有する炭化水素基、各種官能基を有する炭化水素基、各種官能基等、適宜に用いることができる。
電子吸引性基としては、たとえば、NR、SR、NH、NO、SOR、CN、SOAr、COOH、F、Cl、Br、I、OAr、COOR、OR、COR、SH、SR、OH、Ar、アルキン、アルケン(ここでArは芳香族基を表す)等が挙げられる(非特許文献4参照)が、これらに限定されるものではない。
【非特許文献4】J. March著、Advanced Organic Chemistry, 4th Ed, John Wiley & Sons, New York, 1992, pp. 17-19 電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物としては、アクリル酸やメタクリル酸等の炭素−炭素二重結合と共役したカルボン酸類、およびこれらのカルボン酸の各種エステルやアミド、アクリロニトリル、フマロニトリル等の炭素−炭素二重結合と共役したニトリル類、ビニルヘキシルエーテル等の各種アルキルエノールエーテル類、メチルビニルケトン、ビタミンK、ビタミンC等の炭素−炭素二重結合と共役したカルボニル化合物類、ニトロエチレン等の炭素−炭素二重結合と共役したニトロオレフィン類、ビニルスルホン酸等の炭素−炭素二重結合と共役したスルホン酸、及びそれらの各種エステル、テストステロン等のステロイド類、スチレン、シクロヘキサジエン、ブタジエン、ヘキサトリエン、各種カロテン、ビタミンA等の共役した炭素−炭素二重結合を有する化合物、フラーレン、アントラセン、等の多核芳香族化合物類、ヒノキチオール等の複数の電子吸引性基が炭素−炭素二重結合と共役したもの、等が挙げられるがこれらに限定されるものではなく、炭素−炭素二重結合に直接電子吸引性基が結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物であればよい。
【0013】
また、該炭素−炭素二重結合が分子内に複数有る化合物としては、先に挙げたアラキドン酸等、が挙げられ、該炭素−炭素二重結合を有する化合物が高分子化合物である化合物、該炭素−炭素二重結合を有する部位が高分子化合物にグラフトされた化合物としてはポリビニルアルコールのポリアクリル酸エステルやポリメタクリル酸エステル等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、該炭素−炭素二重結合が分子内に複数有る化合物、該炭素−炭素二重結合を有する化合物が高分子化合物である化合物、該炭素−炭素二重結合を有する部位が高分子化合物にグラフトされた化合物等であればよい。
【0014】
また、本発明においては、改質により付与された新たな機能、性能、性質等の安定化等や、該機能、性能、性質等の更なる改質のために、光照射後に該粉末及びそれらよりなる製品を還元剤で処理する方法も採ることもできる。
【0015】
還元剤としては、特に制約はなく従来公知の還元剤の任意のものを使用できる。このような還元剤としては、たとえば、チオ硫酸ナトリウム、ハイドロサルファイト、水素化ホウ素ナトリウム、ロンガリット、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ヒドラジン等、或いは還元性を有するビタミンC、各種アルデヒド類、ギ酸等の有機化合物を挙げることができるが、これらに限定されるものではなく還元性を有するものであればよい。また、これらの還元剤のいずれかを単独で用いてもよいが、複数の還元剤からなる混合物を用いることもできる
本発明の光照射によりラジカルを発生する化合物と電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物の、繊維又は繊維製品に対する作用については、光照射により発生したラジカル(ラジカル、ラジカルカチオン、ラジカルアニオン)種により上記セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の表面上にラジカルが発生し、この様に発生したラジカル種が該炭素−炭素二重結合と反応して結合を形成することにより改質が起こるものと考えられる。あるいは、光照射により発生したラジカル種により、該炭素−炭素二重結合を有する化合物の重合が上記セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品上で起こり、その結果生じた高分子化合物が上記セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品に物理的に付着することにより改質が起こることも考えられる。さらには、に光照射により発生したラジカル種により上記セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品にラジカルが発生し、このラジカルと上記セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品で起こった該炭素−炭素二重結合を有する化合物の重合物中の炭素−炭素二重結合との反応により、該炭素−炭素二重結合を有する化合物の重合体を上記セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品にラジカル反応により結合することによる改質も起こるものと考えられる。このようなラジカルの炭素−炭素二重結合への付加反応は、電子吸引性基を有する炭素−炭素二重結合について広く起こることが有機化学的に知られている(例えば、非特許文献5参照)。また、このような炭素−炭素二重結合を分子内に一つ有する化合物ばかりではなく、分子内に複数有する化合物においても同様のラジカル反応が起こると考えることは合理的である。
しかし、本発明方法では、上記の推定反応機構に関わらず、光照射によりラジカルを発生する化合物の存在下で、セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品が光照射を受けることにより改質が起こればよいことは勿論である。
【非特許文献5】東郷秀雄著、有機フリーラジカルの化学、講談社サイエンティフィック、2001年発行 本発明の実施の態様に特別な制限はないが、好ましい実施の態様としては、セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品を、光照射によりラジカルを発生する化合物と電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物を含む薬液に浸漬或いは懸濁させて光照射する方法、或いは該薬液に浸して引き上げた所に光照射する方法、或いは該薬液を上記粉末またはそれらよりなる製品に塗布、吹きつけ等を行い光照射する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
特に該薬液を上記粉末またはそれらよりなる製品に塗布、吹きつけ等を行う際にはエアーブラシやブラシ類等を用いて上記粉末またはそれらよりなる製品全体に該薬液を付与するばかりではなく、対象物の一部に付与することにより部分的な改質を起こすことも可能で、この部分的な改質により文字、図表等の形態を有する改質や、粒子の一部だけに改質を起こすことができる。また、これらの光照射は上記粉末またはそれらよりなる製品が静置している状態、或いは移動している状態で行うことができる。
光照射によりラジカルを発生する化合物と電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物を含む薬液で同時に処理する代わりに、光照射によりラジカルを発生する化合物で処理した繊維又は繊維製品に光照射を行う操作と、この様に処理した繊維又は繊維製品を該炭素−炭素二重結合を有する化合物と処理する操作を分けて行うこともでき、それぞれの操作において上記同時処理で用いる手法を使用することができる。
【0017】
光照射によりラジカルを発生する化合物と電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物はそれらの溶液であってもよく、その場合の溶媒としては、照射光を殆ど吸収しないで光照射による粉末またはそれらよりなる製品の改質を著しく阻害するものでなければ特に制約はなく従来公知の溶媒を適宜に使用することができる。
【0018】
このような溶媒をとしては、たとえば、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの極性溶媒の他に、デカン、ドデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素や、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素(分子内に脂肪族基を有する芳香族炭化水素も含む)等の無極性溶媒、プロピルアミン、エチレンジアミン、各種カルボン酸、各種ポリカルボン酸、水などのプロトン性溶媒等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
また、これらの溶媒のいずれかを単独で用いても良いが、複数の溶媒からなる混合溶媒を用いることもできる。
【0020】
また、光照射によりラジカルを発生する化合物と電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物、あるいはその溶液のセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品への浸透性を高める為に界面活性剤を共存させることもできる。
【0021】
界面活性剤としては、光照射によるセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の改質を著しく阻害するものでなければ従来公知の界面活性剤の任意のものを使用できる。このような界面活性剤としては、たとえば、高級脂肪酸アルカリ塩、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、スルホコハク酸エステル塩などの陰イオン界面活性剤、高級アミンハロゲン酸塩、ハロゲン化アルキルピリジニウム、第四アンモニウム塩などの陽イオン界面活性剤、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリドなどの非イオン界面活性剤、アミノ酸などの両性表面活性剤などが例示される。
【0022】
また、これらの界面活性剤のいずれかを単独で用いてもよいが、複数の界面活性剤からなる混合物を用いることもできる。
【0023】
また、それらの界面活性剤の溶液を用いることもできるが、このような溶媒としては、水、アルコール類、鎖状または環状の炭化水素類、エーテル類等の単独溶媒あるいはこれらの混合溶媒が挙げられる。界面活性剤の含有量は溶媒に対する界面活性剤の飽和濃度以下であれば特に制限はないが、好ましくは溶媒に対して、0.0001〜50重量%、より好ましくは0.01〜10重量%とするのが適当である。
【0024】
つぎに、本発明方法を実施するための代表的なセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の改質装置の幾つかを以下に例示するが、本装置はこれらに限定されるものではない。
【0025】
図1の装置は、シート状のセルロースまたはセルロース誘導体、及びセルロースまたはセルロース誘導体からなる製品を改質する手段を備えた代表的なものである。この装置によれば、上記素材または製品を光照射によりラジカルを発生する化合物と電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物を含む薬液に浸漬し、引き上げた所に光照射することができる。
図2の装置は、シート状のセルロースまたはセルロース誘導体、及びセルロースまたはセルロース誘導体からなる製品の改質する手段を備えた他の代表的なものである。この装置によれば、上記素材または製品を光照射によりラジカルを発生する化合物を含む薬液に浸漬し、引き上げた所に光学系を用いて光ビームを動かす光照射を行い、次いで電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物を含む薬液に浸漬することにより必要な箇所に任意のパターンを伴う改質が可能になるといった機能が期待される。
【0026】
図3の装置は、粉末状または小片状のセルロースまたはセルロース誘導体、及びセルロースまたはセルロース誘導体からなる製品の改質する手段を備えた他の代表的なものである。この装置によれば、上記素材または製品を薬液に浸漬し、必要に応じ薬液を注入しながら撹拌中で光照射を行うことにより、粉末や小片状の上記素材または製品の改質を容易にする機能が期待される。
【0027】
図4の装置は、粉末やフレーク状のセルロースまたはセルロース誘導体の改質する手段を備えた代表的なものである。この装置によれば、光照射によりラジカルを発生する化合物と電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物を含む薬液にセルロースまたはセルロース誘導体の粉末をスラリー状にしたものに光照射を行うことにより連続的な改質が可能になるといった機能が期待される。
【0028】
図5の装置は、粉末やフレーク状のセルロースまたはセルロース誘導体の改質する手段を備えた代表的なものである。この装置によれば、光照射によりラジカルを発生する化合物と電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物を含む薬液にセルロースまたはセルロース誘導体の粉末をスラリー状にしたものに長時間の光照射を行うことにより連続的に高度の改質が可能になるといった機能が期待される。
【実施例】
【0029】
次に実施例に基づき、本発明を更に詳細に説明する。もちろん、以下の例によって本発明が限定されることはない。
実施例1
セルロース粉末(アスペクト比が300以下で、その存在比が全体の60%以上)500mgを0.9mol/Lのアクリル酸と5%の過酸化水素を含む水溶液6mLに懸濁させ、15Wの低圧水銀灯照射を60分行い、過酸化水素の光分解によりOHラジカルを発生させこれとセルロース粉末とアクリル酸との反応を行い、十分水で洗浄した後、一晩減圧乾燥した。得られた粉末を鑑別染料(カヤスティン)により染色したところ、未処理のセルロース粉末と比べて淡色化し、やや青みがかった灰色を示したことより、セルロース粉末の表面構造が変化しセルロース粉末の改質が起きたことが判明した。
実施例2
セルロース粉末(アスペクト比が300以下で、その存在比が全体の60%以上)500mgを0.9mol/Lのメタクリル酸と5%の過酸化水素を含む水溶液6mLに懸濁させ、15Wの低圧水銀灯照射を60分行い、過酸化水素の光分解によりOHラジカルを発生させこれとセルロース粉末とメタクリル酸との反応を行い、十分水で洗浄した後、一晩減圧乾燥した。得られた粉末を鑑別染料(カヤスティン)により染色したところ、未処理のセルロース粉末と比べてやや淡色化し、青みがかった灰色を示したことより、セルロース粉末の表面構造が変化しセルロース粉末の改質が起きたことが判明した。
比較例1
セルロース粉末(アスペクト比が300以下で、その存在比が全体の60%以上)500mgを鑑別染料(カヤスティン)により染色したところ、緑がかった青色を示した。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明方法を実施するために使用される代表的なセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の改質装置の説明図。
【図2】本発明方法を実施するために使用される他の代表的なセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の改質装置の説明図。
【図3】本発明方法を実施するために使用される更に他の代表的なセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品の改質装置の説明図。
【図4】本発明方法を実施するために使用される更に他の代表的なセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末の改質装置の説明図。
【図5】本発明方法を実施するために使用される更に他の代表的なセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末の改質装置の説明図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射によりラジカルを発生する化合物と電子吸引性基が直接炭素−炭素二重結合を形成する炭素原子に結合した炭素−炭素二重結合を有する化合物の存在下、アスペクト比が300以下で、その存在比が全体の60%以上のセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品に対し、光照射することを特徴とするセルロースまたはセルロース誘導体の改質方法。
【請求項2】
光照射によりラジカルを発生する化合物の存在下、アスペクト比が300以下で、その存在比が全体の60%以上のセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品に対し、光照射した後に、前記炭素−炭素二重結合を有する化合物と処理することを特徴とするセルロースまたはセルロース誘導体の改質方法。
【請求項3】
光照射によりラジカルを発生する化合物が過酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースまたはセルロース誘導体の改質方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかの方法での光照射後にセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及びそれらからなる製品を還元剤で処理することを特徴とするセルロースまたはセルロース誘導体の改質方法。
【請求項5】
請求項1、3又は4に記載の改質方法を行うための装置であって、光源とともに、光照射によりラジカルを発生する化合物と前記炭素−炭素二重結合を有する化合物の存在下でセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品に光照射する手段を備えていることを特徴とするセルロースまたはセルロース誘導体の改質装置。
【請求項6】
請求項2から4のいずれかに記載の改質方法を行うための装置であって、光源とともに、光照射によりラジカルを発生する化合物の存在下でセルロース粉末またはセルロース誘導体粉末、及び該セルロース粉末またはセルロース誘導体粉末からなる製品に光照射する手段と、光照射した後に前記炭素−炭素二重結合を有する化合物と処理する手段を備えた、請求項2〜4のいずれかに記載の方法を実施するためのセルロースまたはセルロース誘導体の改質装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−67906(P2009−67906A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238543(P2007−238543)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】