説明

セルロース樹脂組成物、成形体および電気電子機器用筐体

【課題】良好な熱可塑性を有し、かつ機械強度に優れたセルロース樹脂組成物、これを用いた成形体および電気電子機器筐体を提供すること。
【解決手段】炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基:−OR(Rは、無置換の又は置換基を有する脂肪族基を表す。)を有するセルロース誘導体を含有する溶融成形用セルロース樹脂組成物であって、炭素数が最も大きい脂肪族オキシ基と、炭素数が最も小さい脂肪族オキシ基との炭素数差が1〜18である、溶融成形用セルロース樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なセルロース系樹脂組成物、成形体および電気電子機器用筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機、プリンター等の電気電子機器を構成する部材には、その部材に求められる特性、機能等を考慮して、各種の素材が使用されている。例えば、電気電子機器の駆動機等を収納し、当該駆動機を保護する役割を果たす部材(筐体)にはPC(Polycarbonate)、ABS(Acrylonitrile−butadiene−styrene)樹脂、PC/ABS等が一般的に多量に使用されている(特許文献1)。これらの樹脂は、石油を原料として得られる化合物を反応させて製造されている。
【0003】
ところで、石油、石炭、天然ガス等の化石資源は、長年月の間、地中に固定されてきた炭素を主成分とするものである。このような化石資源、または化石資源を原料とする製品を燃焼させて、二酸化炭素が大気中に放出された場合には、本来、大気中に存在せずに地中深くに固定されていた炭素を二酸化炭素として急激に放出することになり、大気中の二酸化炭素が大きく増加し、これが地球温暖化の原因となっている。したがって、化石資源である石油を原料とするABS、PC等のポリマーは、電気電子機器用部材の素材としては、優れた特性を有するものであるものの、化石資源である石油を原料とするものであるため、地球温暖化の防止の観点からは、その使用量の低減が望ましい。
【0004】
一方、植物由来の樹脂は、元々、植物が大気中の二酸化炭素と水とを原料として光合成反応によって生成したものである。そのため、植物由来の樹脂を焼却して二酸化炭素が発生しても、その二酸化炭素は元々、大気中にあった二酸化炭素に相当するものであるから、大気中の二酸化炭素の収支はプラスマイナスゼロとなり、結局、大気中のCOの総量を増加させない、という考え方がある。このような考えから、植物由来の樹脂は、いわゆる「カーボンニュートラル」な材料と称されている。石油由来の樹脂に代わって、カーボンニュートラルな材料を用いることは、近年の地球温暖化を防止する上で急務となっている。
【0005】
このため、PCポリマーにおいて、石油由来の原料の一部としてデンプン等の植物由来資源を使用することにより石油由来資源を低減する方法が提案されている(特許文献2)。
【0006】
特許文献3には、メチル基による平均置換度が1.5〜2.9であり、及びヒドロキシプロピル基によるモル置換度MSが1.4〜1.9である熱可塑性メチルヒドロキシプロピルセルロースエーテルが開示されている。
特許文献4には、熱可塑かつ生分解性を有するセルロースベンジルエーテルが記載されている。
特許文献3,4には、セルロース誘導体を用いて熱成形を行い成形体を得ることについては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−55425号公報
【特許文献2】特開2008−24919号公報
【特許文献3】特開平4−227701号公報
【特許文献4】特開2000−119302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、カーボンニュートラルな樹脂として、セルロースを使用することに初めて着目した。しかし、セルロースは一般的に熱可塑性を持たないため、加熱等により溶融成形することが困難であり、溶融成形加工に適さない。また、たとえ熱可塑性を付与できたとしても機械強度(特に靭性及び剛性)が不十分であった。
そこで、本発明の目的は、良好な熱可塑性を有し、かつ機械強度に優れたセルロース樹脂組成物、これを用いた成形体および電気電子機器筐体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、セルロースの分子構造に着目し、当該セルロースを特定構造のセルロース誘導体にすることにより、良好な熱可塑性及び機械強度を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題は以下の手段により達成することができる。
(1)炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基:−OR(Rは、無置換の又は置換基を有する脂肪族基を表す。)を有するセルロース誘導体を含有する溶融成形用セルロース樹脂組成物であって、炭素数が最も大きい脂肪族オキシ基と、炭素数が最も小さい脂肪族オキシ基との炭素数差が1〜18である、溶融成形用セルロース樹脂組成物。
(2)前記セルロース誘導体が、炭素数が異なる2種の脂肪族オキシ基:−OR1及び−OR2(R1及びR2は、無置換の又は置換基を有する脂肪族基を表す。ただし、R1とR2との炭素数差が1〜18である。)を有するセルロース誘導体である、上記(1)に記載のセルロース樹脂組成物。
(3)前記炭素数差が1〜10である、上記(1)又は(2)に記載のセルロース樹脂組成物。
(4)前記炭素数差が5〜7である、上記(1)又は(2)に記載のセルロース樹脂組成物。
(5)前記R、R1及びR2が水素結合性基及び芳香族基を含まない、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のセルロース樹脂組成物。
(6)前記R1の炭素数が1〜6であり、R2の炭素数が1〜18の範囲である、上記(2)〜(5)のいずれかに記載のセルロース樹脂組成物。
(7)前記R1がエチル基である、上記(2)〜(6)のいずれかに記載のセルロース樹脂組成物。
(8)前記R1がエチル基であり、前記R2がオクチル基である、上記(2)〜(6)のいずれかに記載のセルロース樹脂組成物。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のセルロース樹脂組成物を溶融成形して得られる成形体。
(10)上記(9)に記載の成形体から構成される電気電子機器用筐体。
(11)エトキシ基(−OC)とオクチルオキシ基(−OC17)とを有する、セルロース誘導体。
(12)炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基:−OR(Rは、無置換の又は置換基を有する脂肪族基を表す。)を有し、炭素数が最も大きい脂肪族オキシ基と、炭素数が最も小さい脂肪族オキシ基との炭素数差が1〜18であるセルロース誘導体の製造方法であって、セルロースに炭素数が異なる2種以上のハロゲン化脂肪族化合物を塩基存在下反応させる工程を含む、セルロース誘導体の製造方法。
(13)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のセルロース樹脂組成物又は上記(11)に記載のセルロース誘導体を加熱及び成形する工程を備えた、成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の溶融成形用セルロース樹脂組成物によれば、良好な熱可塑性を維持したまま、靭性(衝撃強度)及び剛性(曲げ弾性率、曲げ強度)に優れた成形体が得られる。また、本発明におけるセルロース誘導体はセルロースから1potで合成可能であるため、このように優れた性能をもつ溶融成形用材料を安価に提供できる。さらに、植物由来の樹脂であるため、温暖化防止に貢献できる素材として、従来の石油由来の樹脂に代替できる。従って、本発明の溶融成形用セルロース樹脂組成物は、例えば電気電子機器用筐体等として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の溶融成形用セルロース樹脂組成物は、炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基:−OR(Rは、無置換の又は置換基を有する脂肪族基を表す。)を有するセルロース誘導体を含有し、炭素数が最も大きい脂肪族オキシ基と、炭素数が最も小さい脂肪族オキシ基との炭素数差が1〜18である。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
1.セルロース誘導体
本発明におけるセルロース誘導体は、炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基:−OR(Rは、無置換の又は置換基を有する脂肪族基を表す。)を有している。
すなわち、本発明におけるセルロース誘導体は、セルロース{(C10}に含まれる水酸基の少なくとも一部が、炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基(−OR)に置換されたものである。
ここで「セルロース」とは、多数のグルコースがβ−1,4−グリコシド結合によって重合した高分子化合物であって、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基が無置換であるものを意味する。また、「セルロースに含まれる水酸基」とは、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基を指す。
より詳細には、本発明におけるセルロース誘導体は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する。
一般式(1)
【0013】
【化1】

【0014】
上記一般式(1)において、X、X及びXは、それぞれ独立に、水酸基またはその他の置換基を表す。但し、X、X、及びXの少なくとも一部が、炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基(−OR)に置換されている。
セルロース誘導体に含まれる複数の繰り返し単位において、複数あるX、X、及びXは各々同一でも異なっていてもよい。
また、脂肪族オキシ基(−OR)による置換は、X、X及びXの一部でよいため、脂肪族オキシ基でないX、X及びXは水酸基またはその他の置換基であってよい。
【0015】
本発明におけるセルロース誘導体は、上記のようにβ−グルコース環の水酸基の少なくとも一部が、炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基(−OR)によって置換されていることにより、熱可塑性を発現することができ、溶融成形加工に適しており、容易に成形体が得られる。しかも、このセルロース誘導体を用いて形成された成形体は、靭性(衝撃強度)及び剛性(曲げ弾性率、曲げ強度)を両立することができ、優れた機械強度を有する。また、このセルロース誘導体は、脂肪族オキシ基という同種の官能基を有するためセルロースから1potで合成可能であり、優れた性能をもつ溶融成形材料を安価に提供できる。さらには、セルロースは完全な植物由来成分であるため、カーボンニュートラルであり、環境に対する負荷を大幅に低減することができる。
【0016】
本発明のセルロース誘導体は、セルロースに含まれる水酸基のいずれかの部分に炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基を含んでいればよく、同一の繰り返し単位からなるものであってもよいし、複数の種類の繰り返し単位からなるものであってもよい。また、本発明のセルロース誘導体は、ひとつの繰り返し単位において前記2種以上の脂肪族オキシ基をすべて含有する必要はない。
より具体的な態様としては、例えばセルロース誘導体が有する脂肪族オキシ基が2種である場合、以下の態様が挙げられる。
(1)X、X及びXの一部が、ある炭素数の脂肪族オキシ基(−ORa)で置換されている繰り返し単位と、X、X及びXの一部が、前記−ORaとは異なる炭素数の脂肪族オキシ基(−ORb)で置換されている繰り返し単位とから構成されるセルロース誘導体。
(2)ひとつの繰り返し単位のX、X及びXのいずれかが−ORa及び−ORbの両方で置換されている(すなわち、ひとつの繰り返し単位中に−ORa及び−ORbの両方有する)同種の繰り返し単位から構成されるセルロース誘導体。
(3)置換位置や置換基の種類が異なる繰り返し単位が、ランダムに結合しているセルロース誘導体。
また、セルロース誘導体の一部には、無置換の繰り返し単位(すなわち、前記一般式(1)において、X、X及びXすべてが水酸基である繰り返し単位)を含んでいてもよい。
【0017】
炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基(−OR)において、脂肪族基Rとしては、特に限定されず、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。また、脂肪族基は、直鎖、分岐及び環状のいずれでもよく、不飽和結合を持っていてもよい。
脂肪族基Rの炭素数は、特に限定されないが、例えば1〜30であり、好ましくは1〜20である。
【0018】
炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基(−OR)において、炭素数が最も大きい脂肪族オキシ基と、炭素数が最も小さい脂肪族オキシ基との炭素数差が1〜18である。前記炭素数差は、好ましくは1〜10であり、より好ましくは5〜7であり、最も好ましくは6である。炭素数差が1〜18の範囲であることにより、熱可塑性及び機械強度を溶融成形材料として優れたものとすることができる。
【0019】
炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基は、好ましくは2種の脂肪族オキシ基である。すなわち、本発明におけるセルロース誘導体は、炭素数が異なる2種の脂肪族オキシ基:−OR1及び−OR2(R1及びR2は、無置換の又は置換基を有する脂肪族基を表す。但し、R1とR2との炭素数差が1〜18)を有することが好ましい。
好ましい炭素数差は前記2種以上の脂肪族オキシ基を有する場合と同様である。すなわち、R1及びR2の炭素数差は、好ましくは1〜10であり、より好ましくは5〜7であり、最も好ましくは6である。
R1及びR2の炭素数は、好ましくは1〜30であり、より好ましくは1〜20である。
さらに、一方の脂肪族基R1の炭素数は、好ましくは1〜6であり、より好ましくは1〜4であり、さらに好ましくは1又は2である。また、他方の脂肪族基R2の炭素数は、好ましくは1〜18であり、より好ましくは4〜12であり、さらに好ましくは、6〜9である。R1の炭素数が1〜6であり、R2の炭素数が1〜18の範囲であることにより、低温で成形可能でありかつ機械強度が高いセルロース誘導体が得られる。
【0020】
R1及びR2は、好ましくは直鎖状又は分岐をもつアルキル基であり、より好ましくは直鎖状のアルキル基である。R1及びR2が直鎖状のアルキル基であることにより、より機械強度(特に剛性)を優れたものとすることができる。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ドデシル基、オクタデシル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert−ブチル基、イソヘプチル基等が挙げられる。
より好ましくは、R1はメチル基又はエチル基であり、さらに好ましくは、R1はエチル基である。R1がメチル基又はエチル基であることにより、機械強度がより優れたものとなる。
【0021】
さらに、R1がエチル基である場合、R2が炭素数7〜9のアルキル基であることが好ましく、炭素数8のアルキル基(例えば、2−エチルヘキシル基又はオクチル基等)であることがより好ましく、R1がエチル基であり、かつ、R2がオクチル基であることがさらに好ましい。
このR1がエチル基であり、R2がオクチル基であるセルロース誘導体、すなわち、エトキシ基:−OCと、オクチルオキシ基:−OC17を有するセルロース誘導体は、新規化合物であって、熱可塑性と機械強度(特に靭性)が非常に優れており、溶融成形材料として特に有用である。
【0022】
R、R1、R2が表す脂肪族基は、無置換でもよいし置換基を有していてもよいが、無置換であることが好ましい。
R、R1、R2が表す脂肪族基が置換基を有する場合、この置換基は、水素結合性基(水酸基、アミド基等)及び芳香族基を含まないことが好ましい。R、R1、R2が水素結合性基を含まないことにより、熱成形性に優れたセルロース誘導体が得られるためである。また、R、R1、R2に芳香族基を含まないことにより、靭性(衝撃強度)を優れたものとすることができる。
R、R1、R2が表す脂肪族基が置換基を有する場合、その置換基としては、具体的にはハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルコキシ基(アルキル基部分の炭素数は好ましくは1〜5)、アルケニル基等が挙げられる。なお、R、R1、R2が表す脂肪族基がアルキル基以外である場合は、アルキル基(好ましくは炭素数1〜5)を置換基として有することもできる。
【0023】
セルロース誘導体中の2種の脂肪族オキシ基(−OR1及び−OR2)の置換位置、並びにβ−グルコース環単位当たりの脂肪族オキシ基(−OR1及び−OR2)の数(置換度)は特に限定されない。
例えば、脂肪族オキシ基(−OR1)の置換度DS(繰り返し単位中、β−グルコース環の2位、3位及び6位の水酸基に対する脂肪族オキシ基(−OR1)の数)は、通常1.0以上、好ましくは1.5〜2.8とすることができる。DSをこのような範囲とすることにより、熱成形性を優れたものとすることができる。
また、脂肪族オキシ基(−OR2)の置換度DS(繰り返し単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対する脂肪族オキシ基(−OR2)の数)は通常0.1以上、好ましくは0.1〜0.8とすることができる。
DSをこのような範囲とすることにより、機械強度を優れたものとすることができる。
【0024】
また、セルロース誘導体中に存在する無置換の水酸基の数も特に限定されない。
水酸基の置換度DS(繰り返し単位中、2位、3位及び6位の水酸基が無置換である割合)は通常0.01〜1.5、好ましくは0.2〜1.2とすることができる。DSを0.01以上とすることにより、樹脂組成物の流動性を向上させることができる。また、DSを1.5以下とすることにより、樹脂組成物の流動性を向上させたり、熱分解の加速・成形時の樹脂組成物の吸水による発泡等を抑制させることができる。
なお、各置換度の総和(DS+DS+DS)は3である。
【0025】
セルロース誘導体の分子量は、数平均分子量(Mn)が5000〜500000の範囲が好ましく、10000〜300000の範囲がさらに好ましく、20000〜200000の範囲が最も好ましい。また、重量平均分子量(Mw)は、10000〜3000000の範囲が好ましく、50000〜2000000の範囲がさらに好ましく、100000〜1500000の範囲が最も好ましい。分子量分布(MWD)は1.1〜5.0の範囲が好ましく、1.5〜3.5の範囲がさらに好ましい。この範囲の平均分子量とすることにより、成形体の成形性、力学強度等を向上させることができる。また、この範囲の分子量分布とすることにより、成形性等を向上させることができる。
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(MWD)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行うことができる。具体的には、テトラヒドロフランを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めることができる。
【0026】
なお、本発明におけるセルロース誘導体は、上記で言及していない他の置換基を有していても良い。
【0027】
2.セルロース誘導体の製造方法
本発明のセルロース誘導体の製造方法は特に限定されず、セルロースを原料とし、セルロースに含まれる水酸基の少なくとも一部を、炭素数が異なる2種以上のハロゲン化脂肪族化合物によって置換する(すなわち、エーテル化する)ことにより製造することができる。
【0028】
セルロースのエーテル化は、ハロゲン化脂肪族化合物をセルロースに反応させることにより行うのが好ましい。
セルロースの原料としては特に制限はなく、例えば、綿、リンター、パルプ等を用いることができる。
ハロゲン化脂肪族化合物は特に限定されず、ハロゲン化脂肪族化合物のハロゲン原子の部分は、塩素、臭素、ヨウ素等が用いられる。また、ハロゲン化脂肪族化合物の脂肪族基の部分は、R1及びR2と同様のものを用いることができる。すなわち、例えばR1及びR2がアルキル基である場合はハロゲン化アルキルを反応させる。
【0029】
セルロースへ2種の脂肪族オキシ基を導入する方法は、特に限定されず、例えばセルロースに少なくとも2種のハロゲン化脂肪族化合物を反応させる方法や、メチルセルロースやエチルセルロース等の公知のセルロースエーテルにハロゲン化脂肪族化合物を反応させる方法が挙げられ、いずれを用いてもよい。前者の場合はセルロースから1ポットでセルロース誘導体を合成することができるため、安価に製造できるという利点がある。
また、セルロース又はセルロースエーテルとハロゲン化脂肪族化合物との反応においては塩基存在下に行ってもよい。塩基としては、水酸化ナトリウム等の強アルカリを用いることができる。
【0030】
そのほかの具体的な製造条件等は、常法に従うことができる。例えば、「セルロースの事典」131頁〜164頁(朝倉書店、2000年)等に記載の方法を参考にすることができる。
【0031】
3.セルロース誘導体を含む樹脂組成物及び成形体
本発明の溶融成形用セルロース樹脂組成物は、炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基を有するセルロース誘導体を含有しており、必要に応じてその他の添加剤を含有することができる。
樹脂組成物に含まれる成分の含有割合は、特に限定されない。好ましくはセルロース誘導体を75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは80〜100質量%含有する。
本発明の樹脂組成物は、本発明のセルロース誘導体のほか、必要に応じて、フィラー、難燃剤等の種々の添加剤を含有していてもよい。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、フィラー(強化材)を含有してもよい。フィラーを含有することにより、樹脂組成物によって形成される成形体の機械的特性を強化することができる。
【0033】
フィラーとしては、公知のものを使用できる。フィラーの形状は、繊維状、板状、粒状、粉末状等いずれでもよい。また、無機物でも有機物でもよい。
具体的には、無機フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維および硼素繊維等の繊維状の無機フィラーや;ガラスフレーク、非膨潤性雲母、カーボンブラック、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト、白土等の板状や粒状の無機フィラーが挙げられる。
【0034】
有機フィラーとしては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、再生セルロース繊維、アセテート繊維等の合成繊維、ケナフ、ラミー、木綿、ジュート、麻、サイザル、マニラ麻、亜麻、リネン、絹、ウール等の天然繊維、微結晶セルロース、さとうきび、木材パルプ、紙屑、古紙等から得られる繊維状の有機フィラーや、有機顔料等の粒状の有機フィラーが挙げられる。
【0035】
樹脂組成物がフィラーを含有する場合、その含有量は限定的でないが、セルロース誘導体100質量部に対して、通常30質量部以下、好ましくは5〜10質量部とすればよい。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、難燃剤を含有してもよい。これによって、その燃焼速度の低下または抑制といった難燃効果を向上させることができる。
難燃剤は、特に限定されず、常用のものを用いることができる。例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。これらの中でも、樹脂との複合時や成形加工時に熱分解してハロゲン化水素が発生して加工機械や金型を腐食させたり、作業環境を悪化させたりすることがなく、また、焼却廃棄時にハロゲンが気散したり、分解してダイオキシン類等の有害物質の発生等によって環境に悪影響を与える可能性が少ないことから、リン含有難燃剤およびケイ素含有難燃剤が好ましい。
【0037】
リン含有難燃剤としては、特に限定されることはなく、常用のものを用いることができる。例えば、リン酸エステル、リン酸縮合エステル、ポリリン酸塩などの有機リン系化合物が挙げられる。
【0038】
リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどを挙げることができる。
【0039】
リン酸縮合エステルとしては、例えば、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェートならびにこれらの縮合物などの芳香族リン酸縮合エステル等を挙げることができる。
【0040】
また、リン酸、ポリリン酸と周期律表1族〜14族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンとの塩からなるポリリン酸塩を挙げることもできる。ポリリン酸塩の代表的な塩として、金属塩としてリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、アルミニウム塩など、脂肪族アミン塩としてメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ピペラジン塩などがあり、芳香族アミン塩としてはピリジン塩、トリアジン等が挙げられる。
【0041】
また、前記以外にも、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート)などの含ハロゲンリン酸エステル、また、リン原子と窒素原子が二重結合で結ばれた構造を有するホスファゼン化合物、リン酸エステルアミドを挙げることができる。
これらのリン含有難燃剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
ケイ素含有難燃剤としては、二次元または三次元構造の有機ケイ素化合物、ポリジメチルシロキサン、またはポリジメチルシロキサンの側鎖または末端のメチル基が、水素原子、置換または非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基で置換または修飾されたもの、いわゆるシリコーンオイル、または変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0043】
置換または非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、メルカプト基、クロロアルキル基、アルキル高級アルコールエステル基、アルコール基、アラルキル基、ビニル基、またはトリフロロメチル基等が挙げられる。
これらのケイ素含有難燃剤は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
また、前記リン含有難燃剤またはケイ素含有難燃剤以外の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、酸化スズ塩、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化第一錫、酸化第二スズ、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸の金属塩、タングステンとメタロイドとの複合酸化物、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、ジルコニウム系化合物、グアニジン系化合物、フッ素系化合物、黒鉛、膨潤性黒鉛等の無機系難燃剤を用いることができる。これらの他の難燃剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0045】
本発明の樹脂組成物が難燃剤を含有する場合、その含有量は限定的でないが、セルロース誘導体100質量部に対して、通常30質量部以下、好ましくは2〜10質量部とすればよい。この範囲とすることにより、耐衝撃性・脆性等を改良させたり、ペレットブロッキングの発生を抑制できる。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、前記のセルロース誘導体、フィラー及び難燃剤以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲で、成形性・難燃性等の各種特性をより一層改善する目的で他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、前記セルロース誘導体以外のポリマー、可塑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、離型剤(脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、変成シリコーン)、帯電防止剤、難燃助剤、加工助剤、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。さらに、染料や顔料を含む着色剤などを添加することもできる。
【0047】
前記セルロース誘導体以外のポリマーとしては、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーのいずれも用い得るが、成形性の点から熱可塑性ポリマーが好ましい。セルロース誘導体以外のポリマーの具体例としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー(エチレン−プロピレンブロックコポリマーなど)、ポリブテン−1およびポリ−4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートおよびその他の芳香族ポリエステル等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン12等のポリアミド、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ポリアセタール(ホモポリマーおよび共重合体を含む)、ポリウレタン、芳香族および脂肪族ポリケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性澱粉樹脂、ポリメタクリル酸メチルやメタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS樹脂、AES樹脂(エチレン系ゴム強化AS樹脂)、ACS樹脂(塩素化ポリエチレン強化AS樹脂)、ASA樹脂(アクリル系ゴム強化AS樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、無水マレイン酸−スチレン共重合体、MS樹脂(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素系ポリマー、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリイミドなどを挙げることができる。
また、各種アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体およびそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、ジエン系ゴム(例えば、1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(例えば、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合させたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエンまたはイソプレンとの共重合体、ブチルゴム、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、その他ポリウレタン系やポリエステル系、ポリアミド系などの熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0048】
更に、各種の架橋度を有するものや、各種のミクロ構造、例えばシス構造、トランス構造等を有するもの、ビニル基などを有するもの、あるいは各種の平均粒径(樹脂組成物中における)を有するものや、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成されるいわゆるコアシェルゴムと呼ばれる多層構造重合体なども使用することができ、さらにシリコーン化合物を含有したコアシェルゴムも使用することができる。
これらのポリマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本発明の樹脂組成物がセルロース誘導体以外のポリマーを含有する場合、その含有量は、セルロース誘導体100質量部に対して30質量部以下が好ましく、2〜10質量部がより好ましい。
【0050】
本発明の樹脂組成物は、可塑剤を含有してもよい。これにより、難燃性及び成形性をより一層向上させることができる。可塑剤としては、ポリマーの成形に常用されるものを用いることができる。例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤およびエポキシ系可塑剤等が挙げられる。
【0051】
ポリエステル系可塑剤の具体例としては、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ロジンなどの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル等が挙げられる。これらのポリエステルは単官能カルボン酸もしくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
【0052】
グリセリン系可塑剤の具体例としては、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレートおよびグリセリンモノアセトモノモンタネート等が挙げられる。
【0053】
多価カルボン酸系可塑剤の具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシルなどのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチル−n−デシル、アジピン酸メチルジグリコールブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコールなどのアジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、およびセバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0054】
ポリアルキレングリコール系可塑剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロックおよび/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのポリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、および末端エーテル変性化合物等が挙げられる。
【0055】
エポキシ系可塑剤とは、一般にはエポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリドなどを指すが、その他にも、主にビスフェノールAとエピクロロヒドリンを原料とするような、いわゆるエポキシ樹脂も使用することができる。
【0056】
その他の可塑剤の具体例としては、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレートなどの脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、オレイン酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチルなどのオキシ酸エステル、ペンタエリスリトール、各種ソルビトール等が挙げられる。
【0057】
本発明の樹脂組成物が可塑剤を含有する場合、その含有量は、セルロース誘導体100質量部に対して通常5質量部以下であり、0.005〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.01〜1質量部である。
【0058】
本発明の成形体は、前記セルロース誘導体を含む樹脂組成物を成形することにより得られる。より具体的には、前記セルロース誘導体、及び必要に応じて各種添加剤等を含む樹脂組成物を加熱及び成形する工程を含む製造方法によって得られる。
成形方法としては、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形等が挙げられる。
加熱温度は、160〜300℃の範囲とすることが好ましく、180〜260℃とすることがより好ましい。
【0059】
本発明の成形体の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、電気電子機器(家電、OA・メディア関連機器、光学用機器及び通信機器等)の内装または外装部品、自動車、機械部品、住宅・建築用材料等が挙げられる。これらの中でも、優れた耐熱性及び耐衝撃性を有しており、環境への負荷が小さい観点から、例えば、コピー機、プリンター、パソコン、テレビ等といった電気電子機器用の外装部品(特に筐体)として好適に使用することができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0061】
<合成例1:P−1の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコにエチルセルロース(ダウケミカル社製、商品名:エトセル、エトキシ置換度2.6)150g、50%水酸化ナトリウム水溶液450mLを量り取り、45℃で1時間攪拌した。さらに、ヨードメタン120mL(グルコピラノースユニットに対して3モル当量)、トルエン150mLを加えて、外温75℃で5時間攪拌した。室温に戻した後、水4Lへ激しく攪拌しながら投入することで黄白色固体を得た。得られた黄白色固体をメタノール2Lへ再分散し、さらに水6Lを加えて激しく攪拌する操作を3回繰り返すことで白色固体を得た。得られた白色固体を吸引濾過によりろ別し、100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(P−1、置換度、分子量、ガラス転移温度は表1に記載)を白色粉体として得た(112g)。
【0062】
<合成例2:P−2の合成>
合成例1においてヨードメタンを臭化ブチルに変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−2、置換度、分子量、ガラス転移温度は表1に記載)を白色粉体として得た(100g)。
【0063】
<合成例3:P−3の合成>
合成例1においてヨードメタンを臭化ヘプチルに変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−3、置換度、分子量、ガラス転移温度は表1に記載)を白色粉体として得た(88g)。
【0064】
<合成例4:P−4の合成>
合成例1においてヨードメタンを臭化オクチルに変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−4、置換度、分子量、ガラス転移温度は表1に記載)を白色粉体として得た(115g)。
【0065】
<合成例5:P−5の合成>
3Lの簡易型オートクレーブ(耐圧硝子工業製)にセルロース(パルプ)100g、水酸化ナトリウム222g、水150mLを量り取り、窒素パージした後、45℃で1時間攪拌した。続いて、トルエン150mLを添加し、ゆっくりと攪拌しながらドライアイス/メタノールバスで−20℃まで冷却し、塩化エチル358g、臭化オクチル53mLを添加し、密閉した後、120℃で12時間攪拌した。室温にもどした後、水4Lへ激しく攪拌しながら投入し、中和・濾過することで灰白色固体を得た。得られた灰白色固体を熱水2Lへ再分散・洗浄する操作を3回繰り返すことで白色固体を得た。得られた白色固体を吸引濾過によりろ別し、100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(P−5、置換度、分子量、ガラス転移温度は表1に記載)を白色粉体として得た(113g)。
【0066】
<合成例6:P−6の合成>
合成例1においてヨードメタンを臭化2−エチルヘキシルに変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−6、置換度、分子量、ガラス転移温度は表1に記載)を白色粉体として得た(101g)。
【0067】
<合成例7:P−7の合成>
合成例1においてエチルセルロースをメチルセルロース(信越化学工業社製、商品名SM−15、メトキシ置換度1.8)に変更し、ヨードメタンを臭化2−エチルヘキシルに変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−7、置換度、分子量、ガラス転移温度は表1に記載)を白色粉体として得た(80g)。
【0068】
<合成例8:P−8の合成>
合成例7において臭化2−エチルヘキシルの添加量を3モル当量から6モル当量に変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−8、置換度、分子量、ガラス転移温度は表1に記載)を黄白色固体として得た(92g)。
【0069】
<合成例9:P−9の合成>
合成例1においてヨードメタンを臭化ドデシルに変更し、添加量を3モル当量から1モル当量に変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−9、置換度、分子量、ガラス転移温度は表1に記載)を白色粉体として得た(130g)。
【0070】
<合成例10:P−10の合成>
合成例1においてヨードメタンを臭化オクタデシルに変更し、添加量を3モル当量から1モル当量に変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−10、置換度、分子量、ガラス転移温度は表1に記載)を白色粉体として得た(132g)。
【0071】
<比較化合物の合成例:H−3の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコに粉末セルロース(日本製紙ケミカル製、商品名:KCフロックW−50)50g、50%水酸化ナトリウム水溶液150mLを量り取り、45℃で1時間攪拌した。さらに、ヨードエタン446mL(グルコピラノースユニットに対して18モル当量)、塩化ベンジル638mL(グルコピラノースユニットに対して18モル当量)を加えて、外温110℃で5時間攪拌した。室温に戻した後、メタノール4Lへ激しく攪拌しながら投入することで黄白色固体を得た。得られた黄白色固体をメタノール2Lで再分散・洗浄する操作を3回繰り返すことで白色固体を得た。得られた白色固体を吸引濾過によりろ別し、100℃で6時間真空乾燥することにより目的の比較化合物(H−3、置換度、分子量、ガラス転移温度は表1に記載)を白色粉体として得た(98g)。
【0072】
なお、以上で得られた化合物について、セルロースに含まれる水酸基(X、X及びXの位置にある水酸基)に置換された官能基の種類、並びにDS、DS及びDSは、Cellulose Communication 6,73−79(1999)に記載の方法を利用して、H−NMRにより、観測及び決定した。
【0073】
<セルロース誘導体の物性測定>
得られたセルロース誘導体について、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(MWD)、ガラス転移温度(Tg)を表1に示す。なお、これらの測定方法は以下の通りである。
[分子量及び分子量分布]
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(MWD)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いた。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めた。GPC装置は、HLC−8220GPC(東ソー社製)を使用した。
[ガラス転移温度]
示差走査熱量計(品番:DSC6200、セイコー電子社製)を用いて10℃/分で昇温して測定した。
【0074】
<実施例1:セルロース誘導体からなる成形体の作製>
[試験片作製]
上記で得られたセルロース誘導体(P−1)を射出成形機((株)井元製作所製、半自動射出成形機)に供給して表1に記載の成形温度(シリンダー温度)、金型温度40℃、射出圧力1.5kgf/cmにて4×10×80mmの多目的試験片(衝撃試験片および曲げ試験片)を成形した。
【0075】
<実施例2〜10、比較例1〜4>
実施例1と同様にして、セルロース誘導体(P−2)〜(P−10)、(H−3)、比較化合物としてセルロース誘導体(H−1)(和光純薬製:メチルセルロース、メチル置換度1.8)、(H−2)(ダウケミカル製:エチルセルロース、エチル置換度2.6)、(H−4)(アルドリッチ製:ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチル置換度2.1、ヒドロキシプロピル置換度0.8)を用いて、表1の成形条件に従って成形し試験片を作製した。
【0076】
<試験片の物性測定>
得られた試験片について、下記の方法にしたがってシャルピー衝撃強度、曲げ弾性率および曲げ強度を測定した。結果を表1に示す。
[シャルピー衝撃強度]
ISO179に準拠して、射出成形にて成形した試験片に入射角45±0.5°、先端0.25±0.05mmのノッチを形成し、30℃±2℃、50%±5%RHで48時間以上調整した後、シャルピー衝撃試験機によってエッジワイズにて衝撃強度を測定した。
[曲げ弾性率・曲げ強度]
ISO178に準拠して、射出成形にて成形した試験片を23℃±2℃、50%±5%RHで48時間以上調整した後、インストロン(東洋精機製、ストログラフV50)によって支点間距離64mm、試験速度2mm/minで曲げ試験を行い、曲げ弾性率を測定した。また、試験中の最大応力を曲げ強度とした。
【0077】
【表1】

【0078】
表1の結果から明らかなように、メチルセルロース(比較例1)が熱可塑性を発現しないのに対して、メチル基以外の脂肪族基を有する脂肪族オキシ基(−OR2)をさらに導入することにより、熱可塑性が付与され成形可能になった上に、高い衝撃強度を発現していることがわかる(実施例7、8)。また、エチルセルロース(比較例2)が低い曲げ弾性率および曲げ強度であるのに対して、エチル基以外の脂肪族基を有する脂肪族オキシ基(−OR2)をさらに導入することにより、曲げ弾性率および曲げ強度が向上することがわかる(実施例1〜6、9、10)。さらに、成形温度を低減することもできることから、易成形性が付与されているといえる。脂肪族オキシ基が芳香族基を含む場合(比較例3)、曲げ弾性率および強度は向上するものの、衝撃強度が著しく低下することから、脂肪族オキシ基が芳香族基を含まないことが好ましいことが明らかである。また、脂肪族オキシ基がヒドロキシプロピル基のような水素結合性の置換基を有するものは、成形温度が非常に高く、熱成形性に乏しい(比較例4)。
以上のことから、本発明のセルロース誘導体を用いた成形体では、いずれも高い靭性(衝撃強度)と剛性(曲げ弾性率、曲げ強度)を示すことがわかる。即ち、本発明のセルロース誘導体によれば、熱可塑性の発現に加えて、靭性および剛性の両立という予期せぬ効果が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基:−OR(Rは、無置換の又は置換基を有する脂肪族基を表す。)を有するセルロース誘導体を含有する溶融成形用セルロース樹脂組成物であって、炭素数が最も大きい脂肪族オキシ基と、炭素数が最も小さい脂肪族オキシ基との炭素数差が1〜18である、溶融成形用セルロース樹脂組成物。
【請求項2】
前記セルロース誘導体が、炭素数が異なる2種の脂肪族オキシ基:−OR1及び−OR2(R1及びR2は、無置換の又は置換基を有する脂肪族基を表す。ただし、R1とR2との炭素数差が1〜18である。)を有するセルロース誘導体である、請求項1に記載のセルロース樹脂組成物。
【請求項3】
前記炭素数差が1〜10である、請求項1又は2に記載のセルロース樹脂組成物。
【請求項4】
前記炭素数差が5〜7である、請求項1又は2に記載のセルロース樹脂組成物。
【請求項5】
前記R、R1及びR2が水素結合性基及び芳香族基を含まない、請求項1〜3のいずれかに記載のセルロース樹脂組成物。
【請求項6】
前記R1の炭素数が1〜6であり、R2の炭素数が1〜18の範囲である、請求項2〜5のいずれかに記載のセルロース樹脂組成物。
【請求項7】
前記R1がエチル基である、請求項2〜6のいずれかに記載のセルロース樹脂組成物。
【請求項8】
前記R1がエチル基であり、前記R2がオクチル基である、請求項2〜6のいずれかに記載のセルロース樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のセルロース樹脂組成物を溶融成形して得られる成形体。
【請求項10】
請求項9に記載の成形体から構成される電気電子機器用筐体。
【請求項11】
エトキシ基(−OC)とオクチルオキシ基(−OC17)とを有する、セルロース誘導体。
【請求項12】
炭素数が異なる2種以上の脂肪族オキシ基:−OR(Rは、無置換の又は置換基を有する脂肪族基を表す。)を有し、炭素数が最も大きい脂肪族オキシ基と、炭素数が最も小さい脂肪族オキシ基との炭素数差が1〜18であるセルロース誘導体の製造方法であって、
セルロースに炭素数が異なる2種以上のハロゲン化脂肪族化合物を塩基存在下反応させる工程を含む、セルロース誘導体の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれかに記載のセルロース樹脂組成物又は請求項11に記載のセルロース誘導体を加熱及び成形する工程を備えた、成形体の製造方法。

【公開番号】特開2011−6643(P2011−6643A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154076(P2009−154076)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】