説明

セルロース粒子の製造方法

【課題】粒径が均一で、強度が高く、1μm以下の孔サイズを有する多孔質セルロース粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】セルロース粒子の製造方法は、セルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物を粒子化する粒子化工程、得られたセルロース粒子を凍結する凍結工程及び凍結したセルロース粒子を自然乾燥させる乾燥工程とからなるか、又は、セルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物を粒子化する粒子化工程及び得られたセルロース粒子を凍結することなく自然乾燥させる乾燥工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロース粒子の製造法に関する。より詳細に述べると、触媒、酵素、医薬品の担体やイオン交換体、吸着体等のクロマトグラフィー充填剤に好適なセルロース粒子の製造方法に関する。
【0002】
セルロース粒子は多孔性の粒子であり、ゲルろ過クロマトグラフ(GPC)用の充填剤等として広く利用されている(例えば、非特許文献1参照)。加えて、各種官能基を容易に導入できるため多種多様なイオン交換体やアフィニティークロマトグラフの基材として広い応用範囲を持っている。特に近年、クロマトグラフ用の充填剤として、生化学や遺伝子工学の発展に伴い、抗体医薬の原料となる抗体等の生体内蛋白質の分離精製分野における需要が大幅に拡大しつつあり、この場合、抗体等の生体内蛋白質の大きさは数nm〜数十nmである事から、これらを効率良く充填剤に吸着させるために、クロマトグラフ用充填剤に用いる多孔質粒子の粒径として数十μm〜数百μm程度、孔サイズとして1μm以下のものが求められている。
【0003】
また、細菌の産生するセルロースとしてバクテリアセルロースが近年注目されている。一般に木材パルプ等の植物の産生するセルロースを構成する微小繊維の幅が30μm程度であるのに対して、バクテリアセルロースを構成する微小繊維の幅は100nm程度であり2桁程度も小さく、細菌が動き回りながら前記微小繊維を産生するため、前記微小繊維が100nm程度の間隔で3次元網目構造を形成する(例えば、非特許文献2参照)。従ってバクテリアセルロースは、乾燥すると前述した3次元網目構造の繊維間に多量の水素結合が形成され、結晶化度が高く、非常に強度が高い(特に引張弾性率はアルミと同等の33GPa程度と非常に高い)セルロースとなる(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
セルロースの粒子を生成する方法としては、従来からいくつかの方法が用いられてきた。例えば特許文献1に記載されている方法によれば、セルロースをアンモニア性水酸化銅溶液などのアルカリ性溶液で1〜12%の濃度で溶解し、乳化剤を含むベンゼン中にセルロース溶液を分散させ、これを酸性水溶液などの再生浴に投入してセルロース粒子を得る。この方法によって、粒径が50μm〜200μm、孔の大きさが2μm〜2000μmのセルロース粒子が得られている。
【0005】
また特許文献2に記載されている方法によれば、セルロース(植物の産生するセルロース、または細菌の産生するバクテリアセルロース)を例えば8%程度の水酸化ナトリウムのような所定の溶液に溶かしたセルロース溶液を、ヘキサン溶媒の中で液滴粒子にし、ヘキサン溶媒の中でその液滴粒子を溶液の固化温度以下(この場合、−16℃)に冷却して凍結させ、次いで50%硫酸などで中和することで溶液を抽出除去することにより、セルロース粒子を生成することが記載されている。この方法により、セルロースを溶かしている溶液を凍結により結晶化させた後除去することで、溶液が結晶化した部分が孔となり、セルロース粒子の強度を保ったまま、セルロース粒子に2μm以上の孔を有する比較的均一な粒径の粒子を生成することができ、非常に表面積の大きいセルロース粒子を得られる事が記載されている。
【0006】
また特許文献3には、多孔性セルロース粒子の製造方法として、バクテリアセルロース又は微小繊維状セルロースを含有する水性懸濁液をスプレイドライする方法が記載されている。しかしながら、セルロース粒子の有する孔サイズの制御方法やセルロース粒子の強度に関しては開示も示唆もない。
【0007】
従って、前述した抗体等の生体内蛋白質の分離精製分野においては、クロマトグラフ用充填剤に用いる多孔質粒子の孔サイズとして1μm以下のものが求められているが、セルロース粒子の孔サイズを1μm以下にする事が難しいという課題があった。
【0008】
また特許文献4には、セルロースの隔壁を介して多数の孔が集合し、隔壁表面に隔壁を貫通しない多数の凹部を有する多孔質セルロース粒子が記載されている。さらに、記載された多孔質セルロース粒子の粒径は小さいもので20μm〜500μm、孔径1μm〜250μm、凹部径0.01μm〜62.5μmの多孔質セルロース粒子が示されている。また、多孔質セルロース粒子の強度の評価は、攪拌による多孔質セルロース粒子の重量現象を機械的強度の指標としており、多孔質セルロース粒子の圧縮強度(例えば、1MPaの圧力における変位)を直接評価した結果は開示されていない。また一般に、植物の産生するセルロースからなる多孔質セルロース粒子は、クロマトグラフ用の充填剤として用いる粒子としては強度が弱いという課題があり、通常、架橋剤等によりセルロースの分子間を架橋することで強度を高めている(例えば、チッソ製のクロマトグラフ充填剤用の多孔質セルロース粒子であるセルファイン2000等)。しかしながら、架橋する工程が必要な上、架橋剤が不純物として残留する可能性があるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭52−11237号公報
【特許文献2】特開昭64−43530号公報
【特許文献3】特開平9−132601号公報
【特許文献4】特開平6−157772号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本化学会誌、1981年(12)、1883−1889頁、1981年発行
【非特許文献2】Yamanaka, S. et al, J. Mater. Sci, 25, pp.3141-3145, 1989年発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、かかる従来の実情に鑑みて提案されたものであり、粒径が均一で、強度が高く、1μm以下の孔サイズを有する多孔質セルロース粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、驚くべきことに、セルロースをセルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物を粒子化後、自然乾燥後、水に浸漬させることにより粒径が均一で、圧力1MPaに対する粒径変位が1%以下の強度を有し、1μm以下の孔サイズを有する多孔質セルロース粒子を得ることができることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
【0014】
(1) セルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物を粒子化する粒子化工程、得られたセルロース粒子を凍結する凍結工程及び凍結したセルロース粒子を自然乾燥させる乾燥工程とからなるか、又は、セルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物を粒子化する粒子化工程及び得られたセルロース粒子を凍結することなく自然乾燥させる乾燥工程とからなる、セルロース粒子の製造方法。
(2) 前記粒子化工程におけるセルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物の濃度が3.5%(w/v)以上4%(w/v)以下である(1)記載の方法。
(3) 前記粒子化工程は、セルロースが不溶な溶媒中、アルカリ条件下でセルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物を結合させ、粒子化させることにより行われる(1)又は(2)記載の方法。
(4)前記粒子化工程は、セルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物を含有する第1の溶液を送液する第1の微小流路、アルカリ物質を含有する第2の溶液を送液する第2の送液流路、第1の送液流路と第2の送液流路が合流して形成される第3の送液流路を有するY字型の微小流路で、第1の溶液と第2の溶液を合流させ停留させることによりなされうことを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 前記乾燥工程における自然乾燥は、セルロース粒子の水分の80%以上95%以下を蒸発させるものである(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 自然乾燥後、得られたセルロース粒子を水に分散させる工程をさらに含む(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) セルロースを化学修飾することをさらに含む(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8) セルロースがバクテリアセルロースを含む(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9) 前記乾燥工程により得られるセルロース粒子に1MPaの圧力をかけた際の粒径変位が1%以下である(1)の方法。
(10) 前記乾燥工程により得られるセルロース粒子が多孔性であり、その孔径が1μm以下である(1)の方法。
(11) クロマトグラフィー用充填剤の製造方法である(1)〜(10)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、粒径が均一で、強度が高く、1μm以下の孔サイズを有する多孔質セルロース粒子の新規な製造方法が提供された。本発明の製造方法によれば、下記実施例において具体的に記載されるように、1MPaの圧力をかけた際の粒径変位が1%以下であるという高い強度を有し、かつ、1μm以下の孔サイズを多数有する、特にクロマトグラフィー用充填剤として最適なセルロース粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】バクテリアセルロースのみから成る多孔質セルロース粒子(a)、バクテリアセルロースと植物セルロースの混合物から成る多孔質セルロース粒子(b)及び植物セルロースのみから成る多孔質セルロース粒子(c)の構成を模式的に示す図である。
【図2】本発明における液滴粒子生成装置を用いて、セルロース溶液の液滴粒子が形成される様子示す概念図である。
【図3】本発明における流路の交差部の角度と生成される液滴粒子の粒子径の関係の一例を示す図である。
【図4】本発明における第2の多孔質セルロース粒子生成装置の一例を示す概念図である。
【図5】本発明における液滴粒子生成装置と粒子回収装置からなる第3の多孔質セルロース粒子生成装置の一例を示す概念図及び、実施例2に用いた多孔質セルロース粒子生成装置の概念図である。
【図6】実施例3に用いた多孔質セルロース粒子生成装置の概念図である。
【図7】分散相導入流路と連続相導入流路の交差する角度の違いによる、液滴粒子の粒径の変化等を示す図である。
【図8】実施例2におけるエマルジョン形成の形成を説明するための概念図である。
【図9】本発明における液滴粒子生成装置と粒子回収装置からなる多孔質セルロース粒子生成装置の別の一例を示す概念図である。本例の多孔質セルロース粒子生成装置は、第4の微小流路が第3の微小流路と第2の交差部で交差している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の製造方法に供されるセルロースは、細菌が産生するバクテリアセルロース、植物が産生するセルロース等、いずれのセルロースであってもよいが、バクテリアセルロースを含むことが好ましい。セルロースは、全量がバクテリアセルロースであるか、又はバクテリアセルロースと植物セルロースの混合物であることが好ましい。
【0018】
本発明に用いることができる植物の産生するセルロースは、例えば、パルプ、コットンリンター、再生セルロースなどを原料とするものであり、特に制限されるものではない。また本発明に用いられるバクテリアセルロースを産生する細菌は、バクテリアセルロースを産生すれば特に制限はない。例えば、アセトバクター・キシリナム、アセトバクター・パスツリアヌス等の酢酸菌(アセトバクター属)などがある。前記細菌の培養方法なども特に制限されるものではなく、例えば特許文献3の実施例に記載されている方法等を用いて培養すればよい。
【0019】
バクテリアセルロースは、前述したように、植物の産生するセルロースに比べ、より細かな繊維により3次元網目構造を形成することから、粒子表面により微細な孔を有しているため吸着量が高く、また結晶化度が高いため強度が高く耐圧性に優れており、その純度も高いため、高吸着量、高耐圧のゲルろ過クロマトグラフ用の充填剤により適している。従って、本発明の多孔質セルロース粒子は、多孔質セルロース粒子の組成の全てが細菌の産生するバクテリアセルロースである事がより好ましい。なお、この態様の多孔質セルロース粒子(3)の概念図を図1(a)に示した。図1(a)に示すように、本発明の多孔質セルロース粒子は、細菌の産生するバクテリアセルロースの繊維(1)が絡み合った構造の粒子である。
【0020】
バクテリアセルロースと植物セルロースの混合物を用いる場合、重量比で、植物の産生するセルロース1に対して細菌の産生するバクテリアセルロース1以上である事がより好ましい。このような態様とする事で、多孔質セルロース粒子の組成が植物の産生するセルロースのみの場合に比べて、細菌の産生するバクテリアセルロースの性質がより大きく反映され、より微細な孔を粒子表面に有し吸着量が高く、高強度で耐圧性に優れたゲルろ過クロマトグラフ用の充填剤を得る事ができる。この態様の多孔質セルロース粒子の概念図を図1(b)に示した。図1(b)に示すように、この場合には、植物の産生するセルロース(2)の集合体に、細菌の産生するバクテリアセルロースの繊維(1)が絡み合った構造を有する多孔質セルロース粒子(3)が得られる。なお、図1(c)には、植物の産生するセルロース(2)のみで構成された従来の多孔質セルロース粒子(3)の態様を示した。
【0021】
本発明の製造方法の粒子化工程では、上記したセルロースの加水分解物及び/又はアルカリ溶解物を粒子化する。
【0022】
セルロースの加水分解物は周知であり、セルロースに塩酸や硫酸のような鉱酸のような酸触媒を作用させて加水分解したものが広く用いられており、本発明においても、このような周知のセルロース加水分解物を原料として用いることができる。なお、加水分解は、完全加水分解ではなく、部分加水分解であることが好ましく、セルロース原料が繊維状のセルロースにまで部分加水分解されたものを好ましく用いることができる。このような部分加水分解の条件も周知であり、例えば、3N〜5N、好ましくは約4N程度の濃度の塩酸中で、4時間〜5時間程度、セルロース原料を煮沸することによりセルロース原料から繊維状のセルロースを得ることができる。
【0023】
また、原料セルロースをアルカリ処理して溶解したアルカリ溶解物も本発明の製造方法に供することができる。ここで、アルカリとしては、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物が好ましい。また、水酸化ナトリウムを用いる場合のアルカリ処理の条件としては、水酸化ナトリウムの終濃度は、通常、7wt%〜10wt%、好ましくは8wt%〜9wt%、処理時間は、通常、8時間〜48時間、好ましくは、12時間〜24時間であり、処理温度は、通常、0℃〜4℃で可能であるが室温で簡便に行うことが可能である。これらの条件を採用することにより、最終的に所望の強度及び多孔性を有するセルロース粒子を与えることができる、繊維状のセルロースを効率良く得ることができる。
【0024】
セルロースの加水分解物とアルカリ溶解物を混合して用いることもできる。この場合、混合比率は何ら限定されない。
【0025】
セルロースの加水分解物及び/又はアルカリ溶解物の粒子化は、好ましくは、セルロースが不溶な溶媒中、アルカリ条件下でセルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物を結合させ、粒子化させることにより行うことができる。セルロースが不溶な溶媒の好ましい例としては、イソプロピルアルコール、シリコーンオイルのようなオイル等を挙げることができ、より好ましくはシリコーンオイルが挙げられる。
【0026】
アルカリ条件は、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物の水溶液で処理することにより作出することが好ましい。水酸化ナトリウムを用いる場合のアルカリ処理の条件としては、水酸化ナトリウムの終濃度は、通常、7wt%〜10wt%、好ましくは8wt%〜9wt%、処理時間は、通常、8時間〜48時間、好ましくは、12時間〜24時間であり、処理温度は、通常、0℃〜4℃で可能であるが室温で簡便に行うことが可能である。また、この際の液中のセルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物の濃度が3.5%(w/v)以上4%(w/v)以下であることが好ましい。これらの条件を採用することにより、最終的に所望の強度及び多孔性を有するセルロース粒子を効率良く作出することができる。
【0027】
この粒子化工程は、撹拌下で行うことが好ましく、撹拌速度を変えることにより得られる粒子の粒径を変えることができる。すなわち、撹拌速度が速いほど得られる粒子の粒径が小さくなる。この工程で得られる粒子の粒径(直径)は、特に限定されないが、クロマトグラフィー用充填剤として用いる場合、通常、5μm〜1000μm程度である。撹拌速度は、この範囲の粒径の粒子が得られるように調節することが好ましい。また、生成した多孔質セルロース粒子を適切なメッシュや重力等を利用して篩い分けを行うことにより、所定の範囲の粒径を有する多孔質セルロース粒子を得る事ができる。
【0028】
なお、酸触媒で加水分解したセルロース加水分解物を用いる場合には、この粒子化工程に先立ち、セルロース加水分解物を中和又は水洗して酸を除去することが好ましい。アルカリ溶解物の場合は、粒子化の処理条件がアルカリ条件であるので、中和や水洗は行ってもよいが不要であり、そのままセルロース不溶性の溶媒と混合することができる。また、アルカリ溶解物の場合であって、アルカリ溶解物がアルカリ水溶液中にセルロースが溶解された形態にある場合には、粒子化工程のアルカリ条件は、このアルカリ水溶液によって与えることが可能であり、別途アルカリを加える必要はなく、アルカリ水溶液中のセルロース溶解物をそのままセルロース不溶性溶媒と混合することが可能である。
【0029】
セルロース不溶性溶媒中でのアルカリ条件により、繊維状のセルロースが互いに結合して凝集し、粒子化される。理論に拘束されるものではないが、セルロース不溶性溶媒中におけるアルカリ条件下で繊維状セルロースが粒子化されるメカニズムは、セルロース分子中の水酸基が、アルカリ金属イオンと配位結合することによるものと考えられる。すなわち、図2に模式的に示すように、アルカリが水酸化ナトリウムである場合、アルカリのNaイオン(Na+、36)と繊維状のセルロース37の水酸基が配位結合を生じ凝集し、多数の孔を有する多孔質セルロース粒子35が形成されると考えられる。
【0030】
上記粒子化工程で形成されたセルロース粒子は、ろ過等により回収することができる。回収した粒子は、続く乾燥工程に先立ち、この段階でアルカリを中和しておくことが好ましい。中和は、好ましくは、アルカリを中和するのに十分な量の塩酸等の鉱酸で処理することにより行うことができる。中和後、余剰の酸をイオン交換水により洗浄して除去することが好ましい。
【0031】
続く乾燥工程において、得られた粒子を自然乾燥させる。なお、自然乾燥に先立ち、粒子を凍結してもよいし、凍結しなくてもよい。凍結する場合には、液体窒素に浸漬することにより、少なくとも粒子内部の水分を、瞬時に凍結することが好ましい。また、凍結させる場合、凍結に先立ち、粒子化工程後の液を液滴粒子化してもよい。液滴粒子化する方法としては、粒子化工程後のアルカリ性溶液を分散相とし、この分散相を連続相中で攪拌し懸濁する懸濁法や、前記分散相を連続相中に噴霧するスプレーノズル法等がある。この場合、前記液滴粒子が凍結しても連続相は凍結しない連続相を用いる事が好ましい。従って連続相としては、分散相である水性のセルロース溶液に対して非親和性を有する油性の液体であれば特に制限はないが、0℃近傍の温度でも凍結しない液体が好ましく、例えばヘキサン、シリコーンオイル等を用いればよい。
【0032】
粒子を自然乾燥させることは、本発明の重要な特徴の1つである。上記の通り、クロマトグラフィー用充填剤として用いる場合、粒径が均一で、圧力1MPaに対する粒径変位が1%以下の強度を有し、1μm以下の孔サイズを有する多孔質セルロース粒子が望まれるが、驚くべきことに、粒子化工程で得られた粒子を自然乾燥させ水に戻すことにより、粒子が膨潤し、孔径が拡大されて孔径が1μm以下になると共に、粒子が堅牢となり、圧力1MPaに対する粒径変位が1%以下となることを見出した。自然乾燥は、粒子の一定時間毎の重量の変化を測定し、粒子中の水分の80%〜95%が蒸発した段階、即ち測定開始後、重量が80%〜95%減少するように行うことが好ましい。蒸発させる水分がこの範囲内にあると、孔径が1μm以下で圧力1MPaに対する粒径変位が1%以下である粒子を効率良く得ることができる。蒸発させる水分量は、粒子の重量を測定しながら自然乾燥工程を行い、所望の時点で自然乾燥工程を終了することにより容易に調節することができる。
【0033】
得られた自然乾燥粒子は、気密容器に密閉してそれ以上の水分蒸発を防止した状態で輸送することが可能である。もっとも、クロマトグラフィー用充填剤として用いる前には、通常、再度、イオン交換水に分散させる。自然乾燥により収縮し、所望の孔径及び強度を一旦獲得した粒子は、その後、再度イオン交換水に分散させても、所望の孔径及び強度を維持しており、クロマトグラフィー用充填剤として好適に用いることができる。
【0034】
上記方法において、セルロースを官能基で修飾することも可能である。修飾する官能基の例としては、スルホプロピル基やジエチルアミノエチル基等のイオン交換基を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。セルロースの化学修飾は、この分野において周知であり、本発明においても、周知の方法を採用することができる。化学修飾は、上記乾燥工程よりも前の段階で行うことが好ましく、粒子化工程の前又は粒子化工程と同時に行うことが好ましい。化学修飾は、情報に従い、導入すべき官能基を持つ物質の溶液をセルロースと接触させることにより容易に行うことができる。
【0035】
上記した本発明のセルロース粒子の製造方法は、通常の反応容器を用いたバッチ式又は連続式の方法によって行うこともできるが、マイクロ流路チップを用いて粒子化工程を行うこともできる。マイクロ流路チップを用いる場合、高効率に反応を連続的に行うことができるので有利である。以下、マイクロ流路チップを用いて粒子化工程を行う好ましい態様について説明する。もっとも、マイクロ流路は、種々の設計が可能であり、以下に記載する態様に限定されるものではない。
【0036】
マイクロ流路チップを用いた本発明の多孔質セルロース粒子の製造方法の第1の態様として、セルロース加水分解物を含有する第1の溶液を送液する第1の微小流路と、アルカリ性溶液からなる第2の溶液を送液する第2の微小流路とを、第1の交差部で交差させて第1の溶液と第2の溶液を混合させた第3の溶液を排出する第3の微小流路が形成された微小流路構造体を用いた方法を挙げることができる。ここで、図3に、この態様に使用する微小流路構造体を用いた多孔質セルロース粒子生成装置の概念図を示した。多孔質セルロース粒子生成装置32は、流路基板1とカバー体2からなる微小流路構造体26で構成されている。流路基板には、前記第1の溶液38を送液する第1の微小流路39と、前記第2の溶液40を送液する第2の微小流路41からなり、第1の微小流路と第2の微小流路は第1の交差部42で交差し、第1の溶液と第2の溶液を混合させた第3の溶液43を排出する第3の微小流路44に連通している。またカバー体には、前記第1の溶液を導入する第1の導入口45、前記第2の溶液を導入する第2の導入口46、前記第3の溶液を排出する第1の排出口47のそれぞれに相当する箇所に適切な大きさの貫通孔を形成してある。流路基板とカバー体の材料に特に制限はなく、例えばナイロン、ポリアセタール、アクリルやシリコンゴムなどの樹脂やセラミック、またはガラスであってもよい。また流路基板とカバー体は材料に応じて既に公知の適切な方法で接合すればよく、例えば、流路基板とカバー体がセラミックのような材料であれば接着剤による接合、流路基板とカバー体が樹脂のような材料であれば圧着による接合、流路基板とカバー体がガラスのような材料であれば熱融着による接合などの方法を用いればよい。
【0037】
ここで、前記第1の微小流路、第2の微小流路、第3の微小流路の幅、深さ、長さに特に制限はなく、生成するセルロース溶液の液滴粒子の大きさによって適宜設定することができるが、数μm〜数百μmの粒径を有する多孔質セルロース粒子を生成するには、流路の幅と深さが数μm〜数百μm程度であることが好ましい。例えば、直径500μm程度のセルロース溶液の液滴粒子を生成するための流路のサイズは、幅500μm程度、深さ200μm程度である。すなわちこのような態様とすることで、多孔質セルロース粒子のサイズを微小流路の幅と深さで制御することができる。
【0038】
また、第1の溶液と第2の溶液を送液するには、例えば図3に示すように、第1の導入口45とチューブ24で接続した第1の送液ポンプ48と、第2の導入口46とチューブ24で接続した第2の送液ポンプ49を用いればよい。このような態様とする事で、多孔質セルロース粒子のサイズを送液ポンプの流速で制御する事が可能となる。すなわち、第1の溶液と第2の溶液を混合させた時に生じる繊維状セルロースの凝集は、流速が速ければ凝集量が少なく多孔質セルロース粒子のサイズは小さくなり、流速が遅ければ凝集量が多く多孔質セルロース粒子のサイズは大きくなる。また、第1の排出口47から排出される多孔質セルロース粒子を含む第3の溶液43は、第1の排出口と接続したチューブ24から回収容器31で回収すれば良い。なお、粒子化のためには、第1の溶液と第2の溶液を合流させた後、送液を停止して、10〜20分程度停留させることが特に好ましい。
【0039】
またマイクロ流路チップを用いたセルロース粒子の製造方法の1つの態様として、セルロース加水分解物をアルカリ性溶液と接触させる工程において、前記セルロースを官能基で修飾するための反応液を送液する第4の微小流路を有し、前記第4の微小流路が、前記第1の微小流路または前記第3の微小流路のいずれか一方と、第2の交差部で交差した微小流路構造体を用いる態様を挙げることができる。図4にこの態様の一例として、第4の微小流路が第1の微小流路と第2の交差部で交差した、セルロースの修飾機能を有する微小流路構造体を用いた多孔質セルロース粒子生成装置の概念図を示した。図4に示すように、修飾機能を有する微小流路構造体は、図3に示した微小流路構造体に、セルロースを官能基で修飾するための反応液50を送液する第4の微小流路27が第1の微小流路39と第2の交差部28で交差した態様を追加した微小流路構造体26である。また、第4の微小流路に反応液を導入するため、カバー体2に反応液導入口29として貫通孔が形成されている。また、反応液を送液するには、図4に示すように、反応液導入口とチューブ24で接続した第3の送液ポンプ30を用いればよい。このような態様とすることで、多孔質セルロース粒子を官能基で修飾することが可能となる。なお、修飾する官能基は、スルホプロピル基やジエチルアミノエチル基等のイオン交換基であれば特に制限はなく、反応液の成分も前記官能基を多孔質セルロース粒子の修飾することができる成分であれば特に制限はない。また図9には、この態様の別の例として、第4の微小流路が第3の微小流路と第2の交差部で交差した、セルロースの修飾機能を有する微小流路構造体を用いた多孔質セルロース粒子生成装置の概念図を示した。
【0040】
また、上記のとおり、粒子の粒径は、適切なメッシュや重力等を利用して篩い分けを行うことにより均一化することができるが、マイクロ流路チップを用いて均一粒径の多孔質セルロース粒子生成させることもできる。図5に均一粒径の多孔質セルロース粒子生成装置の概念図を示した。均一粒径の多孔質セルロース粒子生成装置16を構成する液滴粒子生成用微小流路構造体17は、流路基板1とカバー体2からなる。流路基板には、分散相としてのセルロース溶液を導入する分散相導入流路3と、連続相を導入する連続相導入流路4とを備え、さらに、前記分散相であるセルロース溶液を送液する分散相導入流路と前記連続相を送液する連続相導入流路を第3の交差部5において交差させ、前記第3の交差部から前記セルロース溶液からなる液滴粒子を含む連続相を排出する排出流路6が連通している。また、分散相導入流路と連続相導入流路は、交差部において任意の角度7で交差しており、流路設計の際に自由に角度を設定できる。なお、前記分散相導入流路、前記連続相導入流路、及び前記排出流路の幅、深さ、長さに特に制限はなく、生成するセルロース溶液の液滴粒子の大きさによって、適宜設定すればよいが、数μm〜数百μmの粒径を有するセルロース溶液の液滴粒子を生成するには、流路の幅と深さが数μm〜数百μm程度であることが好ましい。例えば、直径500μm程度のセルロース溶液の液滴粒子を生成するための流路のサイズは、幅500μm程度、深さ200μm程度である。またカバー体には、分散相としてのセルロース溶液を導入する分散相導入流路の端部と連通する分散相導入口8、連続相を導入する連続相導入流路の端部と連通する連続相導入口9、セルロース溶液の液滴粒子を含んだ連続相を排出する排出流路の端部と連通する第2の排出口10のそれぞれに相当する箇所に適切な大きさの貫通孔を形成してある。流路基板とカバー体の材料と接合方法は図3に示した微小流路構造体の場合と同様である。すなわち、流路基板とカバー体の材料に特に制限はなく、例えばナイロン、ポリアセタール、アクリルやシリコンゴムなどの樹脂やセラミック、またはガラスであってもよい。また流路基板とカバー体は材料に応じて既に公知の適切な方法で接合すればよく、例えば、流路基板とカバー体がセラミックのような材料であれば接着剤による接合、流路基板とカバー体が樹脂のような材料であれば圧着による接合、流路基板とカバー体がガラスのような材料であれば熱融着による接合などの方法を用いればよい。
【0041】
図5に示した液滴粒子生成装置を用いた場合、液滴粒子を形成する分散相と分散相をせん断する連続相は、流路の幅と深さ、及び送液速度によって単位時間当たりの体積が正確に決まる。また、分散相と連続相の合流する交差部分では、それぞれの送液速度と粘性によって、連続相が分散相をせん断するタイミングが正確に決まる。従って、このような液滴粒子生成方法を用いることによって、粒径の均一なセルロース溶液の液滴粒子を生成することができ、従って、その液滴粒子から得られる多孔質セルロース粒子も均一な粒径にすることができる。なお、図5に示した分散相導入流路3と連続相導入流路4の第3の交差部5において、セルロース溶液の液滴粒子が形成されている様子を図6示す。図6は、セルロース溶液である分散相11が連続相12によって第3の交差部5でせん断され、セルロース溶液の液滴粒子13が生成されている様子を示している。
【0042】
なお、図5に示した液滴粒子生成装置の流路の材質は、油性の連続相によって水性のセルロース溶液の液滴粒子を生成できる材質であれば特に制限はない。ただし、水性のセルロース溶液の液滴粒子を生成するには流路の内壁が非親水性であることが好ましく、例えばナイロン、ポリアセタール、アクリルやシリコンゴムなどの非親水性の樹脂などが好ましい。また、ガラスなどの親水性の材質で流路を構成する場合は、例えばシランカップリング剤などを流路に送液して、流路内壁を非親水性に処理すればよい。
【0043】
また、本発明の多孔質セルロース粒子の製造方法は、セルロースを溶解した溶液である分散相を送液する分散相流路と、セルロース溶液をせん断する溶液である連続相を送液する連続相流路とが交差する第3の交差部において連続相内にセルロース溶液の液滴粒子を生成させる際、分散相流路と連続相流路とが交差する角度を予め変えた微小流路構造体を選定することで所望の粒子径の液滴粒子を得る事ができる。
【0044】
図5に示す液滴粒子を構成する分散相導入流路と連続相導入流路の交差する角度7によって、図7に示すように液滴粒子の粒径を変えることが可能となり、従って、その液滴粒子から得られる多孔質セルロース粒子の粒径も変えることができる。この態様の利点は、図7に示す液滴粒子の粒径の変動が比較的少ない範囲15で液滴粒子を生成することにより、流路を流れる連続相や分散相の送液速度が多少変動したとしても、安定して均一な粒径を有する液滴粒子を生成することができる。この場合、逆に連続相や分散相の送液速度を変えても、液滴粒子の粒径を大きく変えることはできないが、分散相導入流路と連続相導入流路の交差する角度を変えることで液滴粒子の粒径を変えることができる。例えば、図7の液滴粒子の粒径の変動が比較的少ない範囲15に相当する連続相の送液速度が10μL/分〜20μL/分の領域で、角度が25°の時に粒径が約80μm、角度が45°の時に粒径が約60μm、の粒子を得ることができる。なお、図7に示す流路基板における分散相導入流路、連続相導入流路、排出流路のそれぞれの流路幅は例えば60μm程度、流路深さは例えば20μm程度である。
【0045】
上記した製造方法により得られるセルロース粒子は、粒径が均一で、圧力1MPaに対する粒径変位が1%以下の強度を有し、1μm以下の孔サイズを有する多孔質セルロース粒子であるので、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー用充填剤として好適である。また、クロマトグラフィー用充填剤に限らず、触媒、酵素、医薬品の担体としても利用可能である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。なお本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることは言うまでもない。
【0047】
実施例1
図4に実施例1に用いた多孔質セルロース粒子生成装置の概念図を示す。多孔質セルロース粒子生成装置32を構成する微小流路構造体26は流路基板1とカバー体2を積層一体化させて構成した。
【0048】
流路基板は、長さ70mm×幅40mm×厚さ1mmのガラス製の基板に一般的なフォトリソグラフィーとウエットエッチングにより微小流路を形成した。微小流路は、幅100μm、深さ40μmとした。
【0049】
またセルロースを含有する第1の溶液を送液する第1の微小流路39と第1の交差部42において、第2の微小流路41を交差させた。ここで第1の微小流路と第2の微小流路は約30°の角度で交差させた。また、第1の交差部からは第3の微小流路に連通し、第1の交差部からの第3の微小流路の長さは40mmとした。また第1の微小流路39と官能基を修飾するための反応液を送液する第4の微小流路27を約45°の角度で第2の交差部28において交差させた。なお、第1の微小流路上で、第1の交差部と第2の交差部の間の長さを10mmとした。
【0050】
カバー体には、第1の微小流路の端、第2の微小流路の端、第3の微小流路の端、第4の微小流路の端の位置に、直径約1mmの貫通孔を機械加工により形成してあり、それぞれ第1の導入口45、第2の導入口46、第1の排出口47、反応液導入口29とした。3つの各導入口には、外径約1mm×内径約0.5mmのテフロン(登録商標)製のチューブ24を接着剤で固定し、各々のチューブの反対側の端に第1の送液ポンプ48、第2の送液ポンプ49、第3の送液ポンプ30としてシリンジポンプを接続した。また、第1の排出口には、外径約1mm×内径約0.5mmのテフロン(登録商標)製のチューブ24を接着剤で固定した。
【0051】
次に、バクテリアセルロースを4Nの塩酸と混合後煮沸して加水分解し、遠心分離によりイオン交換水に置換することで洗浄をおこない、繊維状のバクテリアセルロースを得た。得られた繊維状のバクテリアセルロースをイソプロピルアルコールに分散させた第1の溶液38を第1の微小流路に送液した。またセルロースに官能基修飾を修飾する反応液50として、イソプロピルアルコールと混合したプロパンスルトンを第4の微小流路に送液した。また1Nの水酸化ナトリウムのイソプロピルアルコール溶液を第2の溶液40として第2の微小流路に送液した。このようにして、微小流路の第2の交差部において、バクテリアセルロースとプロパンスルトンを反応させスルホプロピル基で修飾した後、第1の交差部において水酸化ナトリウムと繊維状のバクテリアセルロースを混合することで繊維状のバクテリアセルロースを配位結合により凝集させ、第1の排出口から取り出し多孔質セルロース粒子を回収した。回収した多孔質セルロース粒子は濾過した。得られた粒子を3mLの塩酸(濃度20wt%)で処理して中和反応を行い、イオン交換水で洗浄した。次に、粒子を自然乾燥させた。自然乾燥は、粒子の水分の85%を蒸発させるまで行った。なお、乾燥の評価は、一定時間毎の重量変化により行った。自然乾燥後、再度イオン交換水に分散させた。
【0052】
各微小流路に溶液を送液した速度、得られた多孔質セルロース粒子の粒径、1MPaに対する粒径の変位を表1に示した。また、1MPaに対する粒径の変位は粒子強度計(FISCHER製、FISCHER SCOPE H100C)を用いて測定した値であり、1MPaに対する粒径の変位の絶対値を粒径で除算した値である。表1に示すように、多孔質セルロース粒子の粒径を送液速度で変える事ができた。また、得られた多孔質セルロース粒子の1MPaに対する粒径の変位は1%以下であった。ここで比較として、チッソ製のクロマトグラフ充填剤用の多孔質セルロース粒子であるセルファイン2000(粒径:51μm、多孔質セルロース粒子を架橋して強度を高めている)の1MPaに対する粒径の変位は、1.3%であった事から、本多孔質セルロース粒子は架橋剤を用いずにクロマトグラフ充填剤用の粒子として十分な強度を有している事がわかる。
【0053】
さらに、自然乾燥後の多孔質セルロース粒子を電子顕微鏡で観察したところ、直径1μm以下の多数の孔が形成されていた。なお、ESCA分析法(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)を用いる事で、得られた多孔質セルロース粒子がスルホプロピル基で修飾されている事を確認した。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例2
バクテリアセルロースと木材セルロースを表2、表3に示す組成にしたセルロース(セルロース濃度は終濃度)を濃度8wt%の水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、セルロースを含有した水酸化ナトリウム水溶液を調製した。次に図8に示すように、容器20を用いて、前述したセルロースを含有した水酸化ナトリウム水溶液22 7.35mLをシリコーンオイル21 100mLの中で攪拌翼23により懸濁し、セルロースを含有した水酸化ナトリウム水溶液のエマルジョン25を形成した。次に、セルロースの水酸化ナトリウム水溶液のエマルジョンの入ったシリコーンオイルごと、エマルジョン中のセルロース粒子内の水分を凍結するために液体窒素に浸し、セルロースの水酸化ナトリウム水溶液からなる凍結粒子を作製し濾過して回収した。回収した多孔質セルロース粒子を6mLの塩酸(濃度20wt%で処理して中和反応を行い、イオン交換水で洗浄した。次に、粒子を自然乾燥させた。自然乾燥は、粒子の水分の85を蒸発させるまで行った。自然乾燥後、再度イオン交換水に分散させた。
【0056】
多孔質セルロース粒子の組成をバクテリアセルロースのみの組成とした場合を表2に、多孔質セルロース粒子の組成をバクテリアセルロースと木材セルロースの混合した組成とした場合を表3に示した。また、1MPaに対する粒径の変位は粒子強度計(FISCHER製、FISCHER SCOPE H100C)を用いて測定した値であり、1MPaに対する粒径の変位の絶対値を粒径で除算した値である。
【0057】
表2に示すように、バクテリアセルロースの濃度が3.5%、4.0%の条件で作製した多孔質セルロース粒子は、チッソ製のクロマトグラフ充填剤用の多孔質セルロース粒子であるセルファイン2000(粒径:51μm、1MPaに対する粒径の変位は、1.3%、多孔質セルロース粒子を架橋して強度を高めている)と同等以上の強度を得ている事から、本多孔質セルロース粒子は架橋剤を用いずにクロマトグラフ充填剤用の粒子として十分な強度を有している事がわかる。さらに、バクテリアセルロースの濃度が3.5%の条件で作製した多孔質セルロース粒子を、自然乾燥後電子顕微鏡で観察したところ、直径1μm以下の多数の孔が形成されていた。
【0058】
また表3に示すように、バクテリアセルロースの濃度が3.0%、木材セルロースの濃度が3.0%(木材セルロース濃度に対するバクテリアセルロース濃度の比が1)の条件で作製した多孔質セルロース粒子、及び、バクテリアセルロースの濃度が3.5%、木材セルロースの濃度が2.5%(木材セルロース濃度に対するバクテリアセルロース濃度の比が1.4)の条件で作製した多孔質セルロース粒子は、チッソ製のクロマトグラフ充填剤用の多孔質セルロース粒子であるセルファイン2000(粒径:51μm、1MPaに対する粒径の変位は、1.3%、多孔質セルロース粒子を架橋して強度を高めている)と同等以上の強度を得ている事から、本多孔質セルロース粒子は架橋剤を用いずにクロマトグラフ充填剤用の粒子として十分な強度を有している事がわかる。さらに、バクテリアセルロースの濃度が3.5%、木材セルロースの濃度が2.5%(木材セルロース濃度に対するバクテリアセルロース濃度の比が1.4)の条件で作製した多孔質セルロース粒子を、自然乾燥後電子顕微鏡で観察したところ、直径1μm以下の多数の孔が形成されていた。
【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【符号の説明】
【0061】
1 流路基板
2 カバー体
3 分散相導入流路
4 連続相導入流路
5 第3の交差部
6 排出流路
7 角度
8 分散相導入口
9 連続相導入口
10 第2の排出口
11 分散相
12 連続相
13 セルロース溶液の液滴粒子
14 セルロース溶液の液滴粒子を含む連続相
15 液滴粒子の粒径の変動が比較的少ない範囲
16 均一粒径の多孔質セルロース粒子生成装置
17 滴粒子生成用微小流路構造体
18 分散相送液ポンプ
19 連続相送液ポンプ
20 容器
21 シリコーンオイル
22 セルロースを含有した水酸化ナトリウム水溶液
23 攪拌翼
24 チューブ
25 セルロースを含有した水酸化ナトリウム水溶液のエマルジョン
26 微小流路構造体
27 第4の微小流路
28 第2の交差部
29 反応液導入口
30 第3の送液ポンプ
31 回収容器
32 多孔質セルロース粒子生成装置
33 細菌の産生するバクテリアセルロースの繊維
34 植物の産生するセルロース
35 多孔質セルロース粒子
36 Naイオン
37 繊維状のセルロース
38 第1の溶液
39 第1の微小流路
40 第2の溶液
41 第2の微小流路
42 第1の交差部
43 第3の溶液
44 第3の微小流路
45 第1の導入口
46 第2の導入口
47 第1の排出口
48 第1の送液ポンプ
49 第2の送液ポンプ
50 反応液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物を粒子化する粒子化工程、得られたセルロース粒子を凍結する凍結工程及び凍結したセルロース粒子を自然乾燥させる乾燥工程とからなるか、又は、セルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物を粒子化する粒子化工程及び得られたセルロース粒子を凍結することなく自然乾燥させる乾燥工程とからなる、セルロース粒子の製造方法。
【請求項2】
前記粒子化工程におけるセルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物の濃度が3.5%(w/v)以上4%(w/v)以下である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記粒子化工程は、セルロースが不溶な溶媒中、アルカリ条件下でセルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物を結合させ、粒子化させることにより行われる請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記粒子化工程は、セルロース加水分解物及び/又はセルロースアルカリ溶解物を含有する第1の溶液を送液する第1の微小流路、アルカリ物質を含有する第2の溶液を送液する第2の送液流路、第1の送液流路と第2の送液流路が合流して形成される第3の送液流路を有するY字型の微小流路で、第1の溶液と第2の溶液を合流させ停留させることによりなされることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記乾燥工程における自然乾燥は、セルロース粒子の水分の80%以上95%以下を蒸発させるものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
自然乾燥後、得られたセルロース粒子を水に分散させる工程をさらに含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
セルロースを化学修飾することをさらに含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
セルロースがバクテリアセルロースを含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記乾燥工程により得られるセルロース粒子に1MPaの圧力をかけた際の粒径変位が1%以下である請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記乾燥工程により得られるセルロース粒子が多孔性であり、その孔径が1μm以下である請求項1記載の方法。
【請求項11】
クロマトグラフィー用充填剤の製造方法である請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−209221(P2011−209221A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79252(P2010−79252)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(300071579)学校法人立教学院 (42)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】