説明

セルロース組成物、光学フィルム、位相差板、偏光板、ならびに液晶表示装置

【課題】簡便な製造工程で作製可能な、逆波長分散性を有する位相差板を提供する。
【解決手段】セルロース化合物の少なくとも一種と、光学フィルム用のレターデーション制御剤としての役割を果たす特定の化合物の少なくとも一種とを含有するセルロース組成物からなる位相差板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムに添加するとフィルムに逆波長分散性を付与することができる新規化合物をセルロース化合物とともに含む組成物に関する。また、本発明は、当該化合物を含有するセルロースフィルムに関する。また、本発明は、広帯域λ/4板のような複屈折の逆波長分散性を有する位相差板に関する。さらに本発明は、当該位相差板を用いた偏光板および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置に用いられる位相差板は、各種表示モードのカラーTFT液晶表示装置等において広視野角での高コントラスト比と色シフトとを改善する目的で広く使用されている。この位相差板の種類には、直線偏光を円偏光に変換する1/4波長板(以下、「λ/4板」と略す)、および直線偏光の偏光振動面を90°変換する1/2波長板(以下、「λ/2板」と略す)等がある。しかし、従来の位相差板は、単色光に対しては、光線波長のλ/4またはλ/2の位相差に調整可能であるが、可視光域の光線が混在している合成波である白色光に対しては、各波長での偏光状態に分布が生じ、有色の偏光に変換されるという問題がある。これは、位相差板を構成する材料が、位相差について波長分散性を有することに起因する。
【0003】
この様な問題を解決するため、広い波長域の光に対して均一な位相差を与え得る広帯域位相差板が種々検討されている。例えば、複屈折光の位相差が1/4波長である1/4波長板と、複屈折光の位相差が1/2波長である1/2波長板とを、それぞれの光軸が交差した状態で貼り合わせた位相差板が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、光学的位相差値が160〜320nmである位相差板を少なくとも2枚、それぞれの遅相軸が互いに平行でも直交でもない角度で積層してなる位相差板が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、上記の位相差板を製造するには、二枚の高分子フィルムの光学的向き(光軸や遅相軸)を調節するという煩雑な工程が必要になる。高分子フィルムの光学的向きは、一般にシート状あるいはロール状フィルムの縦方向または横方向に相当する。シートあるいはロールの斜め方向に光軸や遅相軸を有する高分子フィルムは、大量に工業的に生産するのが困難である。さらに、二つの高分子フィルムの光学的向きを平行でも直交でもない角度に設定する必要がある。従って、これらの位相差板を製造するためには、二種類の高分子フィルムを所定の角度にカットしてチップを得、このチップを貼り合わせる工程を経て製造しなければならない。チップの貼り合わせ工程等は、操作が煩雑であり、軸ズレによる品質低下が起きやすく、歩留まりが低くなり、コストが増大する。また、汚染による劣化も起きやすい。また、高分子フィルムの光学的位相差値を厳密に調節することも困難であり、品質の低下等がより起きやすい。
【0005】
このような問題を解決するために、位相差板を積層しない、一枚の位相差板での広帯域λ/4板の作製方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
この方法は、正の屈折率異方性を有する高分子のモノマー単位と負の複屈折性を有するモノマー単位を共重合させた高分子フィルムを用い一軸延伸によって作製するものである。この延伸した高分子フィルムは逆波長分散性を有するために、一枚の位相差フィルムで広帯域λ/4板を作製することができ、上記のような問題点を解決できるが、得られる位相差値の範囲が狭いため何層もフィルムを積層しなければ十分な光学特性が得られない。その結果、偏光板が分厚く、重くなる。また、フィルムを積層する工程で光軸ズレの発生や異物混入等の発生を防止する必要があり、製造が煩雑であるという問題もある。
【0006】
また、セルロースアシレートフィルムの上層に重合性液晶化合物を塗布、乾燥、重合し、この硬化膜を剥離後セルロースアシレートフィルムのみを150℃にて20%延伸することで逆波長分散フィルムを作製する方法が提案されている(特許文献4参照)。この方法においても、製造が煩雑であるという問題を解消できない。
【0007】
これらの方法に比べて、逆波長分散性発現可能なある種の低分子化合物を添加したポリマーフィルムを延伸処理することで、逆波長分散フィルムを作製する方法は製造が簡便で好ましい(特許文献5参照)。しかしながら、前記文献で報告されている低分子化合物はフィルム作製時の溶媒への溶解性やポリマーとの相溶性が不十分なために、ポリマーフィルムへの添加量に制限があり、十分な光学的異方性を発現することができないという問題があることがわかった。また、液晶表示装置において位相差板として用いた際の色シフトのさらなる改善のためには、さらに高い逆波長分散性をもつ低分子化合物が望まれてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−68816号公報
【特許文献2】特開平10−90521号公報
【特許文献3】国際公開第00/2675号パンフレット
【特許文献4】特開2005−242293号公報
【特許文献5】特開2008−107767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記問題点に鑑み本発明は、新規な化合物を提供し、それにより簡便な製造工程で作製可能な、広帯域λ/4板のような複屈折の逆波長分散性を有する位相差板を提供することを目的とする。また本発明は、この新規な化合物を用いたセルロース組成物、フィルム、偏光板、液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の化合物をセルロース化合物とともに含有する組成物を用いてフィルムを作製し、延伸するだけで、該フィルムにおける波長分散を逆分散とすることが可能であることを見いだし、この知見に基づき本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち本発明の目的は、下記手段により達成された。
(1)セルロース化合物の少なくとも一種と、下記一般式(I)で表される化合物の少なくとも一種とを含有することを特徴とするセルロース組成物。
【0012】
一般式(I)
【化1】

【0013】
(式中、A1およびA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子または置換基を表す。)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表し、R1、R、Rはそれぞれ独立に置換基を表す。nは0から2までの整数を表す。L11、L12、L21、L22、L31およびL32は各々独立に単結合または二価の連結基を表す。Ra、Ra、Rb、およびRbは各々独立に二価の環状連結基を表し、R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基であり、m1およびm2はそれぞれ独立に0から2までの整数を表す。ただし、RaまたはRbのうち少なくとも一つはヘテロ環構造である。)
(2)前記一般式(I)においてL11、L12、L21、L22、L31およびL32が各々独立に単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)からなる群より選ばれる二価の連結基であることを特徴とする(1)に記載のセルロース組成物。
(3)前記一般式(I)においてRおよびRがハメットの置換基定数σp値が0以上の電子吸引性の置換基である化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする(1)または(2)に記載のセルロース組成物。
(4)前記一般式(I)においてRa、Ra、Rb、およびRbがそれぞれ独立に1,4−シクロへキシレン基、1,4−フェニレン基、またはヘテロ環連結基であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか一項に記載のセルロース組成物。
(5)前記セルロース化合物がセルロースエステルであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか一項に記載のセルロース組成物。
【0014】
(6)(1)〜(5)のいずれか一項に記載の組成物からなることを特徴とするセルロースフィルム。
(7)前記一般式(I)で表される化合物がフィルム質量に対して0.1〜50質量%含まれることを特徴とする、(6)に記載のセルロースフィルム。
(8)(6)または(7)に記載のセルロースフィルムからなる光学フィルム。
(9)配向方向に対して複屈折率Δn(550nm)が0より大きく、かつ下記数式(1)および(2)を満たすことを特徴とする(8)に記載の光学フィルム。
数式(1): 1>|Δn(450nm)/Δn(550nm)|、および
数式(2): 1<|Δn(630nm)/Δn(550nm)|
(10)(8)または(9)に記載の光学フィルムからなる位相差板。
(11)(10)に記載の位相差板を含んでなる偏光板。
(12)(10)に記載の位相差板または(11)に記載の偏光板を含んでなる液晶表示装置。
(13)VAモードであることを特徴とする(12)に記載の液晶表示装置。
(14)下記一般式(I)で表される化合物。
【0015】
一般式(I)
【化2】

【0016】
(式中、A1およびA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子または置換基を表す。)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表し、R1、R、Rはそれぞれ独立に置換基を表す。nは0から2までの整数を表す。L11、L12、L21、L22、L31およびL32は各々独立に単結合または二価の連結基を表す。Ra、Ra、Rb、およびRbは各々独立に二価の環状連結基を表し、R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基であり、m1およびm2はそれぞれ独立に0から2までの整数を表す。ただし、RaまたはRbのうち少なくとも一つはヘテロ環構造である。)
(15)前記一般式(I)においてL11、L12、L21、L22、L31およびL32が各々独立に単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)からなる群より選ばれる二価の連結基であることを特徴とする(14)に記載の化合物。
(16)前記一般式(I)においてRおよびRがハメットの置換基定数σp値が0以上の電子吸引性の置換基である化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする(14)または(15)に記載の化合物。
(17)前記一般式(I)においてRa、Ra、Rb、およびRbがそれぞれ独立に1,4−シクロへキシレン基、1,4−フェニレン基、またはヘテロ環連結基であることを特徴とする(14)〜(16)のいずれか一項に記載の化合物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の化合物は、セルロースフィルムに含有させるとフィルムに逆波長分散性を付与することができる。したがって、当該化合物を含有する本発明の光学フィルムは逆波長分散性を有する。当該光学フィルムからなる位相差板はλ/4板として有用であり、液晶表示装置に好ましく適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0019】
本発明のセルロース組成物(セルロース化合物溶液)は、セルロース化合物を必須成分として含有し、かつ、下記一般式(I)で表される化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする。
[低分子化合物(一般式(I)で表される化合物)]
まず、本発明一般式(I)で表わされる化合物について説明する。
【0020】
一般式(I)
【化3】

【0021】
(式中、A1およびA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子または置換基を表す。)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表し、R1、R、Rはそれぞれ独立に置換基を表す。nは0から2までの整数を表す。L11、L12、L21、L22、L31およびL32は各々独立に単結合または二価の連結基を表す。Ra、Ra、Rb、およびRbは各々独立に二価の環状連結基を表し、R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基であり、m1およびm2はそれぞれ独立に0から2までの整数を表す。ただし、RaまたはRbのうち少なくとも一つはヘテロ環構造である。)
【0022】
一般式(I)において、R1は置換基であり、複数存在する場合は同じでも異なっていてもよく、環を形成しても良い。置換基の例としては下記のものが適用できる。
【0023】
ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基(好ましくは炭素数1〜30のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4−n−ドデシルシクロヘキシル基)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5〜30の置換または無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5〜30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル基、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル基)、
【0024】
アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換のアルケニル基、例えば、ビニル基、アリル基)、シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3〜30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル基)、ビシクロアルケニル基(置換または無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5〜30の置換または無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル基、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル基)、アルキニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキニル基、例えば、エチニル基、プロパルギル基)、
【0025】
アリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリール基、例えばフェニル基、p−トリル基、ナフチル基)、ヘテロ環基(好ましくは5または6員の置換または無置換の、芳香族または非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、さらに好ましくは、炭素数3〜30の5または6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル基、2−チエニル基、2−ピリミジニル基、2−ベンゾチアゾリル基)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert−ブトキシ基、n−オクチルオキシ基、2−メトキシエトキシ基)、アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ基、2−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−ニトロフェノキシ基、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ基)、
【0026】
シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3〜20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジメチルシリルオキシ基)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のヘテロ環オキシ基、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ基、2−テトラヒドロピラニルオキシ基)、アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ基)、カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ基、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ基、モルホリノカルボニルオキシ基、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ基、N−n−オクチルカルバモイルオキシ基)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、tert−ブトキシカルボニルオキシ基、n−オクチルカルボニルオキシ基)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換または無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ基、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ基、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ基)、
【0027】
アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルアミノ基、炭素数6〜30の置換または無置換のアニリノ基、例えば、アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N−メチル−アニリノ基、ジフェニルアミノ基)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアミノカルボニルアミノ基、例えば、カルバモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ基、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ基、モルホリノカルボニルアミノ基)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、tert−ブトキシカルボニルアミノ基、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ基、N−メチルーメトキシカルボニルアミノ基)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換または無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ基、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ基、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ基)、
【0028】
スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0〜30の置換または無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ基、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ基、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ基)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルホニルアミノ基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールスルホニルアミノ基、例えば、メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p−メチルフェニルスルホニルアミノ基)、メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ基、エチルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリールチオ基、例えば、フェニルチオ基、p−クロロフェニルチオ基、m−メトキシフェニルチオ基)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ基、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ基)、
【0029】
スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30の置換または無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル基、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−アセチルスルファモイル基、N−ベンゾイルスルファモイル基、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル基)、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルフィニル基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、p−メチルフェニルスルフィニル基)、アルキルおよびアリールスルホニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルホニル基、炭素数6〜30の置換または無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、フェニルスルホニル基、p−メチルフェニルスルホニル基)、
【0030】
アリールおよびヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素数6〜30の置換または無置換のアリールアゾ基、炭素数3〜30の置換または無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ基、p−クロロフェニルアゾ基、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ基)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド基、N−フタルイミド基)、ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ基、ジフェニルホスフィノ基、メチルフェノキシホスフィノ基)、ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル基、ジオクチルオキシホスフィニル基、ジエトキシホスフィニル基)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ基、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ基)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ基、ジメチルアミノホスフィニルアミノ基)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基)を表わす。
【0031】
上記の置換基の中で、水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の基で置換されていてもよい。そのような官能基の例としては、アルキルカルボニルアミノスルホニル基、アリールカルボニルアミノスルホニル基、アルキルスルホニルアミノカルボニル基、アリールスルホニルアミノカルボニル基が挙げられる。その例としては、メチルスルホニルアミノカルボニル基、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル基、アセチルアミノスルホニル基、ベンゾイルアミノスルホニル基が挙げられる。
【0032】
1は好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環
基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、シアノ基、アミノ基であり、さらに好ましくは、ハロゲン原子、アルキル基、シアノ基、アルコキシ基であり、もっとも好ましくはハロゲン原子、炭素原子数1から8のアルキル基、シアノ基、炭素原子数1から8のアルコキシ基である。
nは0〜2の整数を表し、好ましくは0又は1である。
【0033】
4、R5は各々独立に置換基を表す。例としては上記R1の例があげられる。好ましくは、ハメットの置換基定数σp値が0以上の電子吸引性の置換基であることが好ましく、σp値が0〜1.5の電子吸引性の置換基を有していることがさらに好ましい。
【0034】
このような置換基としてはトリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基、カルボニル基、カルバモイル基、等が挙げられる。また、R4とR5とが結合して環を形成してもよい。
これらのうち好ましくは、シアノ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基であり、より好ましくは、シアノ基、アルキルカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基である。
なお、ハメットの置換基定数のσp、σmに関しては、例えば、稲本直樹著「ハメット則−構造と反応性−」(丸善)、日本化学会編「新実験化学講座14 有機化合物の合成と反応V」2605頁(丸善)、仲谷忠雄著「理論有機化学解説」217頁(東京化学同人)、ケミカル レビュー,91巻,165〜195頁(1991年)等の成書に詳しく解説されている。
【0035】
1およびA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子または置換基)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表す。好ましくは−O−、−NR−(Rは置換基を表し、例としては上記R1の例が挙げられる。好ましくは、置換または無置換のアルキル基またはアリール基である。)または−S−であり、より好ましくは−S−である。
【0036】
−L11−Ra−(L21−Rb)m1−L31−R21、および−L12−Ra−(L22−Rb)m2−L32−R22で表される基について説明する。
【0037】
11、L12、L21、L22、L31およびL32はそれぞれ独立に単結合または2価の連結基を表す。L11、L12、L21、およびL22は、それぞれ独立に、単結合、−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)、二価の鎖状基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基であることが好ましい。二価の鎖状基は、アルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基、置換アルケニレン基、アルキニレン基又は置換アルキニレン基を意味する。アルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基及び置換アルケニレン基が好ましく、アルキレン基及びアルケニレン基がさらに好ましい。アルキレン基は、分岐を有していてもよい。アルキレン基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましく、1〜8であることがさらに好ましく、1〜2であることが最も好ましい。置換アルキレン基のアルキレン部分は、上記アルキレン基と同様である。置換アルキレン基の置換基の例には、アルコキシ基、ハロゲン原子が含まれる。アルケニレン基は、分岐を有していてもよい。アルケニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2であることが最も好ましい。置換アルケニレン基のアルケニレン部分は、上記アルケニレン基と同様である。置換アルケニレン基の置換基の例には、アルコキシ基、ハロゲン原子が含まれる。アルキニレン基は、分岐を有していてもよい。アルキニレン基の炭素原子数は、2〜12であることが好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2であることが最も好ましい。置換アルキニレン基のアルキニレン部分は、上記アルキニレン基と同様である。置換アルキニレン基の置換基の例には、アルコキシ基、ハロゲン原子が含まれる。また、二価の鎖状基において、一つ以上の隣接していないCH基は−O−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CO−、−S−に置換されていてよい。
前記2個以上連結して形成される2価の連結基としては、−C(=O)O−、−OC(=O)−、−OC(=O)O−、−C(=O)NH−、−NHC(=O)−、−OC(=O)NH−、−NHC(=O)O−、−NHC(=O)NH−、−C(=O)O(CHO−(mは1以上の整数)があげられる。
11およびL12として好ましくは単結合、−O−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−O−CO−O−、−OCH−であり、より好ましくは−O−、−O−C(=O)−、−O−CO−O−、−OCH−である。
21、L22、L31およびL32として好ましくは単結合、−O−、−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−O−CO−O−、−OCH−、−CHO−、より好ましくは単結合、−O−、−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−である。
【0038】
Ra、Ra、Rb、およびRbは各々独立に二価の環状連結基を表し、RaまたはRbのうち少なくとも一つはヘテロ環連結基である。
Ra、Ra、Rb、およびRbで表される二価の環状連結基に含まれる環としては、芳香族環、脂肪族環、ヘテロ環ともに用いることができ、単環でも縮環でもよく、また、置換基を有していてもよい。
【0039】
芳香族環の例としては、炭素原子数6〜30のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環およびフェナントレン環があげられる。ベンゼン環を有する環状基としては、1,4−フェニレン基および1,3−フェニレン基が好ましく、ナフタレン環を有する環状基としては、ナフタレン−1,4−ジイル基、ナフタレン−1,5−ジイル基、ナフタレン−1,6−ジイル基、ナフタレン−2,5−ジイル基、ナフタレン−2,6−ジイル基およびナフタレン−2,7−ジイル基が好ましい。
これらのうち、芳香族環からなる二価の環状連結基として特に好ましくは、無置換もしくは置換の1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、ナフタレン−2,6−ジイル基であり、無置換もしくは置換の1,4−フェニレン基がもっとも好ましい。
【0040】
脂肪族環の例としては炭素原子数3〜20のシクロプロパン環、シクロペンチル環、シクロヘキサン環があげられる。シクロヘキサン環を有する環状基としては1,4−シクロへキシレン基が好ましい。シクロヘキサン環にはシス体およびトランス体の立体異性体が存在するが、本発明においては限定されず、両者の混合物でも良い。好ましくはトランス-シクロヘキサン環である。したがって脂肪族環からなる二価の環状連結基として好ましくはトランス-1,4−シクロへキシレン基である。
【0041】
ヘテロ環連結基としては、5または6員の置換もしくは無置換の芳香族もしくは非芳香族へテロ環連結基があげられる。ヘテロ環連結基に含まれるヘテロ原子としては、N、O、S、Bがあげられるがこれに限定されるものではない。また、二つ以上のヘテロ原子を含むことも好ましい。単環でも縮環でもよく、また、置換基を有していてもよい。ヘテロ環連結基としては、例えば、ピリジン環連結基、ピペリジン環連結基、ピラジン環連結基、フラン環連結基、ジオキサン環連結基、ベンズイミダゾール環連結基、イミダゾール環連結基、チオフェン環連結基、ピロール環連結基等が挙げられる。
【0042】
非芳香族へテロ環連結基としては、下記に示すような連結基があげられる。*の位置で連結するがどちら側がL11側になっていてもかまわない。
【0043】
【化4】

【0044】
また、芳香族へテロ環連結基としては、下記に示すような連結基があげられる。*の位置で連結するがどちら側がL11側になっていてもかまわない。
【0045】
【化5】

【0046】
【化6】

【0047】
ヘテロ環連結基に含まれるヘテロ原子としては、好ましくは、N,S,O原子であり、より好ましくは、NまたはO原子である。ヘテロ環連結基としては、好ましくは、5または6員の置換もしくは無置換の芳香族もしくは非芳香族へテロ環連結基であり、より好ましくは、6員の置換もしくは無置換の非芳香族へテロ環連結基である。
【0048】
ヘテロ環連結基はRaおよびRb中のいずれに含まれていてもよく、また二つ以上含まれていてもよい。この場合同じへテロ環連結基を二つ以上含んでいてもよく、異なるヘテロ環連結基を含んでいてもよい。RaまたはRbのうち少なくとも一つはヘテロ環連結基であるが、それ以外の、RaおよびRbにもヘテロ環連結基を含んでいてもかまわない。
【0049】
21およびR22は水素原子または置換もしくは無置換のアルキル基であり、アルキル基の例としては先のRで示したとおりである。ただし、R21およびR22が置換アルキル基であるとき、末端に二重結合を有することはない。
21およびR22として好ましくは、炭素原子数12以下の置換もしくは無置換のアルキル基であり、より好ましくは、8以下の無置換のアルキル基である。
【0050】
m1およびm2は0から2までの整数を表し、好ましくはmは0または1であり、もっとも好ましくは、m1およびm2は1である。
m1が2の場合、複数存在するL21およびRbは同一であっても異なっていてもよい。また同様に、m2が2の場合、複数存在するL22およびRb2は同一であっても異なっていてもよい。また、−L11−Ra−(L21−Rb)m1−L31−R21で表される基と−L12−Ra−(L22−Rb)m2−L32−R22で表される基は、同一であっても異なっていてもよい。合成の観点からは同じであることが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0051】
本発明の一般式(I)で表される化合物のもっとも好ましい例としては、
1およびA2は、−S−であり、nは0または1であり、nは1のときのR1はハロゲン原子、アルコキシ基またはアルキル基であり、
、Rはそれぞれ独立にシアノ基、アルキルカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、カルバモイル基であり、
11およびL12は単結合、−O−、−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−O−CO−O−、−OCH−であり、より好ましくは−O−、−O−C(=O)−、−O−CO−O−、−OCH−である。
21、L22、L31およびL32は単結合、−O−、−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−O−CO−O−、−OCH−、−CHO−であり、より好ましくは、単結合、−O−、−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−である。
Ra、Ra、Rb、およびRbは無置換もしくは置換の1,4−フェニレン基、1,4−シクロへキシレン基、または、5もしくは6員の置換もしくは無置換の芳香族もしくは非芳香族へテロ環連結基であり、
21およびR22はそれぞれ独立に無置換のアルキル基であり、
m1およびm2はそれぞれ独立に0または1である。
【0052】
本発明の一般式(I)で表される化合物の分子量としては、好ましくは、100〜3000であり、より好ましくは200〜2000であり、最も好ましくは、300〜1500である。
【0053】
以下に、一般式(I)で表される化合物の具体例を示すが、本発明は以下の具体例によって何ら限定されることはない。下記化合物に関しては、指定のない限り括弧( )内の数字にて例示化合物(X)と示す。
【0054】
【化7】

【0055】
【化8】

【0056】
【化9】

【0057】
【化10】

【0058】
【化11】

【0059】
【化12】

【0060】
【化13】

【0061】
【化14】

【0062】
【化15】

【0063】
【化16】

【0064】
【化17】

【0065】
【化18】

【0066】
【化19】

【0067】
【化20】

【0068】
【化21】

【0069】
一般式(I)で表される化合物の合成は、既知の方法を参照して行うことができる。例えば、例示化合物(N−11)は、下記スキームに従って合成することができる。
【0070】
【化22】

【0071】
前記スキーム中、化合物(N−11−a)から化合物(N−11−d)までの合成は、“Journal of Chemical Crystallography”(1997);27(9);p.515-526.に記載の方法を参照して行うことができる。さらに詳細には、特開2008−107767号公報の段落0066〜0067、0136〜0176に記載の方法を用いることができる。
さらに、前記スキームに示したように、化合物(N−8−b)のトルエン溶液にN,N−ジメチルホルムアミドを添加し、塩化チオニルを加えて加熱攪拌することによって酸クロライドを生成させたのち、この酸クロライドを、化合物(N−11−d)のテトラヒドロフラン溶液に滴下し、その後、ピリジンを加えて攪拌することで、例示化合物(N−11)を得ることができる。
【0072】
なお、一般式(I)において置換基や連結基の異なる他の化合物の合成については、上記方法に基づき、使用する化合物や行う反応を変えることで行える。例えば置換基Rがアルキルオキシカルボニル基である化合物の場合、上記化合物(N−11−c)から化合物(N−11−d)の反応においてマロノニトリルをシアノ酢酸エステル(例えばシアノ酢酸エチル、シアノ酢酸ブチルなど)とすることにより合成できる。また置換基R、Rがそれぞれカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基である化合物の場合、上記化合物(N−11−c)から化合物(N−11−d)の反応においてマロノニトリルを対応するケトエステル(例えばアセト酢酸エチル、アセト酢酸ブチルなど)とすることにより合成できる。Rがアルキル基の場合は、(N−11−a)をアルキルハイドロキノン(例えばメチルハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン)に変えることで合成できる。
【0073】
一般式(I)で表される化合物は、光学フィルム用のレターデーション制御剤(特に、レターデーション上昇および波長分散制御剤)としての役割を果たす。特に延伸によるRe発現性および波長分散に優れたフィルムを得るためのレターデーション制御剤として好適な役割を果たす。
【0074】
Δnは配向方向(以下TD方向と示す。)の屈折率から配向方向と直交する方向(以下MD方向と示す。)の屈折率を差し引いた値であるため、TD方向の屈折率の波長分散性よりも、MD方向の波長分散性が、より右肩下がり(左を短波長側、右を長波長側とおいたときのΔnの傾き)であれば、その差し引いた値は、
数式(1): 1>|Δn(450nm)/Δn(550nm)|、および
数式(2): 1<|Δn(630nm)/Δn(550nm)|
を満足する。屈折率の波長分散性は、Lorentz−Lorenzの式で表されているように、物質の吸収に密接な関係にあるため、MD方向の波長分散性をより右肩下がりにするためには、TD方向に比較してMD方向の吸収遷移波長をより長波化できれば、数式(1)及び(2)を満たすフィルムを設計することができる。例えば延伸処理を行ったポリマー材料では、MD方向は分子の鎖に直交方向である。そのような高分子幅方向の吸収遷移波長を長波化することは高分子材料としては非常に困難である。
【0075】
本発明では、高分子材料に対して低分子化合物を添加し配向することで、低分子化合物の吸収遷移波長が高分子幅方向(MD方向)に長波であれば、数式(1)及び(2)を満たすフィルムを設計することができる。
低分子化合物の屈折率の大きさがMD方向に比べてTD方向に大きければ、フィルムとしてTD方向に対して複屈折Δn(550nm)が正であることに問題がないが、逆に低分子化合物の屈折率の大きさがTD方向に比べてMD方向に大きくても高分子材料の屈折率がTD方向に大きく、フィルムとして複屈折Δn(550nm)が正であれば問題ない。
すなわち、本発明の一般式(I)で表される化合物を少なくとも一種含有するセルロースフィルムは、配向処理されたのち、配向方向に対して屈折率Δn(550nm)が0より大きく、かつ、上記数式(1)、(2)を満たすことが特に好ましい。
【0076】
Δnについては、例えば液晶便覧(2000年、丸善株式会社)201頁に詳細な説明がある。このΔnは一般的には温度依存性を示す。本発明においてΔnの測定温度は任意であるが、好ましくはフィルム状態でのΔnは−20℃から120℃の範囲の一定の温度で行われる。
【0077】
[セルロース組成物]
本発明のセルロース組成物は、一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種と、セルロース化合物とを含む組成物である。一般式(I)で表される化合物は二種類以上含んでいてもかまわない。
また、本発明において、「セルロース化合物」とは、例えば、セルロースを基本構造とする化合物であって、セルロースを原料として生物的あるいは化学的に官能基を導入して得られるセルロース骨格を有する化合物を含むものをいう。本発明においては異なる2種類以上のセルロース化合物を混合して用いてもよい。
【0078】
本発明における、一般式(I)で表される化合物の含有量は、セルロース化合物100質量部に対して0.1〜50質量部であることが好ましく、0.1〜30質量部であることがより好ましく、0.5〜30質量部であることがさらに好ましく、1〜30質量部であることが最も好ましい。
セルロース化合物として好ましいものはセルロースエステルであり、より好ましくはセルロースアシレート(セルローストリアシレート、セルロースアシレートプロピオネート等が挙げられる。)である。以下、セルロースアシレートを例にして、本発明の好ましい態様を説明する。
【0079】
<セルロースアシレート原料綿>
本発明に用いられるセルロースアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ、針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細は、例えば「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」(丸澤・宇田著、日刊工業新聞社、1970年発行)や発明協会公開技報2001−1745(7〜8頁)に記載されており、本発明に対しては特に限定されるものではない。
【0080】
本発明に用いられるセルロースアシレートは、セルロースの水酸基をアセチル基及び炭素原子数が3以上のアシル基で置換して得られたセルロースの混合脂肪酸エステルであって、セルロースの水酸基への置換度が下記数式(3)及び数式(4)を満足するセルロースアシレートであることが好ましい。
数式(3): 2.0≦A+B≦3.0
数式(4): 0<B
上記式中Aは、セルロースの水酸基に置換されているアセチル基の置換度を表し、Bはセルロースの水酸基に置換されている炭素原子数3以上のアシル基の置換度を表す。
【0081】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部又は全部を、アシル基によってエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。
【0082】
<セルロースアシレートの重合度>
本発明におけるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で180〜700であることが好ましく、セルロースアセテートにおいては、180〜550がより好ましく、180〜400がさらに好ましく、180〜350が特に好ましい。重合度を700以下とすることにより、セルロースアシレートのドープ溶液の粘度が高くなり過ぎず、流延によるフィルム製造が容易になる傾向にある。また、重合度を180以上とすることにより、作製したフィルムの強度がより向上する傾向にあり好ましい。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫・斉藤秀夫著、「繊維学会誌」、第18巻、第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。具体的には、特開平9−95538号公報に記載の方法に従って測定することができる。
また、本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの分子量分布はゲルパーミエーションクロマトグラフィによって評価され、その多分散性指数Mw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)が小さく、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜3.0であることが好ましく、1.0〜2.0であることがより好ましく、1.0〜1.6であることがさらに好ましい。
また、本発明におけるセルロースアシレートの原料綿や合成方法としては、例えば、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、7頁〜12頁、2001年3月15日発行、発明協会)に記載のものを好ましく採用できる。
【0083】
<セルロース組成物への添加剤>
本発明のセルロース組成物(以下、セルロースアシレート溶液もしくはドープともいう)には、上記一般式(I)で表される化合物のほか、種々の添加剤(例えば、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、光学特性調整剤等)を加えることができる。また、一般式(I)で表される化合物および他の添加剤の添加時期は、ドープ作製工程の何れにおいて添加してもよく、また、ドープ調製工程の最後に調製工程としてこれらの添加剤を添加してもよい。
【0084】
これらの添加剤は、固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。例えば、20℃未満の紫外線吸収剤と20℃以上の紫外線吸収剤を混合して用いたり、同様に可塑剤を混合して用いたりすることができる。具体的には、特開2001−151901号公報に記載の方法を採用できる。
【0085】
(紫外線吸収剤)
紫外線吸収剤としては、目的に応じ任意の種類のものを選択することができ、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、シアノアクリレート系、ニッケル錯塩系等の吸収剤を用いることができ、好ましくはベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸エステル系である。
【0086】
紫外線吸収剤は、吸収波長の異なる複数の吸収剤を複合して用いることが、広い波長範囲で高い遮断効果を得ることができるので好ましい。液晶用紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、且つ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。特に好ましい紫外線吸収剤は、上述のベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物、サリチル酸エステル系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロースエステルに対する不用な着色が少ないことから、好ましい。
【0087】
また、紫外線吸収剤については、特開昭60−235852号、特開平3−199201号、同5−1907073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号、同6−118233号、同6−148430号、同7−11056号、同7−11055号、同7−11056号、同8−29619号、同8−239509号、特開2000−204173号の各公報に記載の化合物も用いることができる。
【0088】
紫外線吸収剤の添加量は、セルロースアシレートに対し0.001〜5質量%が好ましく、0.01〜1質量%がより好ましい。添加量が0.001質量%以上であれば添加効果が十分に発揮されうるので好ましく、添加量が5質量%以下であればフィルム表面への紫外線吸収剤のブリードアウトを抑制できるので好ましい。
【0089】
(劣化防止剤)
劣化防止剤は、セルローストリアセテート等が劣化、分解するのを防止するために添加してもよい。劣化防止剤としては、ブチルアミン、ヒンダードアミン化合物(特開平8−325537号公報)、グアニジン化合物(特開平5−271471号公報)、ベンゾトリアゾール系UV吸収剤(特開平6−235819号公報)、ベンゾフェノン系UV吸収剤(特開平6−118233号公報)などの化合物を用いることができる。
【0090】
(可塑剤)
可塑剤としては、リン酸エステルおよび/またはカルボン酸エステルであることが好ましい。リン酸エステル系可塑剤としては、例えばトリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート(BDP)、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等が好ましい。また、カルボン酸エステル系可塑剤としては、例えばジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)、ジエチルヘキシルフタレート(DEHP)、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)、O−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等が好ましい。さらに、前記可塑剤が、(ジ)ペンタエリスリトールエステル類、グリセロールエステル類、ジグリセロールエステル類であることが好ましい。
【0091】
(剥離促進剤)
剥離促進剤としては、クエン酸のエチルエステル類が好ましい例として挙げられる。
(赤外吸収剤)
赤外吸収剤としては、例えば特開2001−194522号公報に記載のものが好ましい。
【0092】
(染料)
本発明では、色相調整のための染料を添加してもよい。染料の含有量は、セルロースアシレートに対する質量割合で10〜1000ppmが好ましく、50〜500ppmがさらに好ましい。特開平5−34858号公報に記載の染料を用いることができる。
【0093】
(マット剤微粒子)
セルロースアシレート溶液にマット剤として微粒子を加え、本発明のセルロースアシレートフィルムに含有させてもよい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子は、ケイ素を含むものが濁度が低くなる点でより好ましく、特に二酸化ケイ素が好ましい。二酸化ケイ素の微粒子は、1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットルが好ましく、100〜200g/リットルがさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0094】
二酸化ケイ素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上、いずれも商品名、日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976及びR811(以上、いずれも商品名、日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0095】
(化合物添加の比率)
本発明のセルロースアシレートフィルムにおいては、分子量が3000以下の化合物の総量は、セルロースアシレート質量に対して5〜45質量%であることが好ましい。より好ましくは10〜40質量%であり、さらに好ましくは15〜30質量%である。これらの化合物としては上述したように、光学異方性を低下する化合物、波長分散調整剤、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、剥離剤、赤外吸収剤などである。さらに、分子量が2000以下の化合物の総量が上記範囲内であることがより好ましい。これら化合物の総量を5質量%以上とすることにより、セルロースアシレート単体の性質が出にくくなり、例えば、温度や湿度の変化に対して光学性能や物理的強度が変動しにくくなる。またこれら化合物の総量を45質量%以下とすることにより、セルロースアシレートフィルム中に化合物が相溶する限界を超え、フィルム表面に析出してフィルムの白濁(フィルムからの泣き出し)が抑止される傾向にあり好ましい。
【0096】
<セルロースアシレート溶液の有機溶媒>
本発明では、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを製造することが好ましく、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いて製造されることが好ましい。主溶媒として好ましく用いられる有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル、および炭素原子数が1〜7のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトンおよび、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。二種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0097】
以上、本発明のセルロースアシレートフィルムに対しては塩素系のハロゲン化炭化水素を主溶媒としてもよいし、例えば公開技法(公開技報2001−1745、12頁〜16頁、2001年発行、発明協会)に記載されているように、非塩素系溶媒を主溶媒としてもよい。
【0098】
その他、本発明のセルロースアシレート溶液及びフィルムについての溶媒は、その溶解方法も含め以下の特許文献に開示されているものを、好ましい態様としてあげることができる。特開2000−95876号、特開平12−95877号、特開平10−324774号、特開平8−152514号、特開平10−330538号、特開平9−95538号、特開平9−95557号、特開平10−235664号、特開平12−63534号、特開平11−21379号、特開平10−182853号、特開平10−278056号、特開平10−279702号、特開平10−323853号、特開平10−237186号、特開平11−60807号、特開平11−152342号、特開平11−292988号、特開平11−60752号、特開平11−60752号の各公報。
これらの特許文献によると本発明において好ましい溶媒だけでなく、その溶液物性や共存させる共存物質についても記載があり、それらも、本発明においても好ましい態様である。
【0099】
[光学フィルム]
次に、セルロースアシレート溶液を用いたフィルムの製造方法について述べる。本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する方法及び設備は、従来セルローストリアセテートフィルム製造に供する溶液流延製膜方法及び溶液流延製膜装置を広く採用することができる。
<セルロースアシレートフィルムの製造工程>
(溶解工程)
セルロースアシレート溶液(ドープ)の調製は、その溶解方法は特に限定されず、室温でもよくさらには冷却溶解法または高温溶解方法、さらにはこれらの組み合わせで実施される。本発明におけるセルロースアシレート溶液の調製、さらには溶解工程に伴う溶液濃縮、ろ過の各工程に関しては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、22頁〜25頁、2001年3月15日発行、発明協会)にて詳細に記載されている製造工程が好ましく用いられる。
【0100】
本発明におけるセルロースアシレート溶液のドープ透明度としては85%以上であることが好ましく、88%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。本発明においてはセルロースアシレートドープ溶液に各種の添加剤が十分に溶解していることを確認した。具体的なドープ透明度の算出方法としては、ドープ溶液を1cm角のガラスセルに注入し、分光光度計(UV−3150、商品名、島津製作所)で550nmの吸光度を測定する。溶媒のみをあらかじめブランクとして測定しておき、ブランクの吸光度との比からセルロースアシレート溶液の透明度を算出する。
【0101】
(流延、乾燥、巻き取り工程)
溶解機(釜)から調製されたドープ(セルロースアシレート溶液)を貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製をする。ドープをドープ排出口から、例えば、回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギヤポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延され、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離する。得られるウェブの両端をクリップで挟み、幅保持しながらテンターで搬送して乾燥し、続いて得られたフィルムを乾燥装置のロール群で機械的に搬送し乾燥を終了して巻き取り機でロール状に所定の長さに巻き取る。テンターとロール群の乾燥装置との組み合わせはその目的により変わる。本発明のセルロースアシレートフィルムの主な用途である、電子ディスプレイ用の光学部材である機能性保護膜やハロゲン化銀写真感光材料に用いる溶液流延製膜方法においては、溶液流延製膜装置の他に、下引層、帯電防止層、ハレーション防止層、保護層等のフィルムへの表面加工のために、塗布装置が付加されることが多い。これらについては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、25頁〜30頁、2001年3月15日発行、発明協会)に詳細に記載されており、流延(共流延を含む)、金属支持体、乾燥、剥離などに分類され、本発明において好ましく用いることができる。
【0102】
(延伸処理)
本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムは、延伸処理によりレターデーション値を調整することが好ましい。特に、セルロースアシレートフィルムの面内レターデーション値を高い値とする場合には、積極的に幅方向に延伸する方法、例えば、特開昭62−115035号、特開平4−152125号、特開平4−284211号、特開平4−298310号、及び特開平11−48271号の各公報などに記載されている、製造したフィルムを延伸する方法を用いることができる。
【0103】
フィルムの延伸は、常温又は加熱条件下で実施する。加熱温度は、フィルムのガラス転移温度以下であることが好ましい。フィルムの延伸は、縦又は横だけの一軸延伸でもよく、同時又は逐次2軸延伸でもよい。フィルムは、1〜200%の延伸を行うことが好ましく、1〜100%の延伸を行うことがより好ましく、1〜50%の延伸を行うことがさらに好ましい。
【0104】
乾燥後得られる、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートフィルムの厚さは、使用目的によって異なり、5〜500μmの範囲であることが好ましく、20〜300μmの範囲であることがより好ましく、30〜150μmの範囲であることがさらに好ましい。また、光学用、特にVA液晶表示装置用としては、40〜110μmであることが好ましい。フィルム厚さの調整は、所望の厚さになるように、ドープ中に含まれる固形分濃度、ダイの口金のスリット間隙、ダイからの押し出し圧力、金属支持体速度等を調節すればよい。
【0105】
<セルロースアシレートフィルムの光学特性>
(Re、Rthの測定)
[フィルムのレターデーション]
本明細書において、Re(λ)及びRth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーション及び厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADH又はWR(商品名、王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。測定波長λnmの選択にあたっては、波長選択フィルターをマニュアルで交換するか、または測定値をプログラム等で変換して測定することができる。
測定されるフィルムが1軸又は2軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
上記において、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADH又はWRが算出する。
なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(21)及び式(22)よりRthを算出することもできる。
【0106】
【数1】

式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnx及びnyに直交する方向の屈折率を表し、dは層の厚み(nm)である。
【0107】
測定されるフィルムが1軸や2軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADH又はWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADH又はWRが算出する。
【0108】
上記の測定において、平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADH又はWRはnx、ny、nzを算出することができる。
【0109】
Re(λ)値、Rth(λ)値は、それぞれ、以下の数式(5)、(6)を満たすことが、液晶表示装置、特にVAモード、OCBモード液晶表示装置の視野角を広くするために好ましい。また特にセルロースアシレートフィルムが、偏光板の液晶セル側の保護膜に用いられる場合に好ましい。
数式(5):0nm≦Re(590)≦200nm
数式(6):0nm≦Rth(590)≦400nm
(式中、Re(590)、Rth(590)は、波長λ=590nmにおける値(単位:nm)である。)
さらに好ましくは、以下の数式(5−1)、(6−1)を満たす。
数式(5−1):30nm≦Re(590)≦150nm
数式(6−1):30nm≦Rth(590)≦300nm
(式中、Re(590)、Rth(590)は、式(5)、(6)におけると同義である。)
【0110】
本発明のセルロースアシレートフィルムをVAモード、OCBモードに使用する場合、セルの両側に1枚ずつ合計2枚使用する形態(2枚型)と、セルの上下のいずれか一方の側にのみ使用する形態(1枚型)の2通りがある。
2枚型の場合、Re(590)は20〜100nmが好ましく、30〜70nmがさらに好ましい。Rth(590)については70〜300nmが好ましく、100〜200nmがさらに好ましい。
1枚型の場合、Re(590)は30〜150nmが好ましく、40〜100nmがさらに好ましい。Rth(590)については100〜300nmが好ましく、150〜250nmがさらに好ましい。
【0111】
<フィルムの透湿度>
本発明の位相差板(光学補償シート)に用いるセルロースアシレートフィルムの透湿度は、JIS規格JIS Z 0208をもとに、温度60℃、湿度95%RH(相対湿度)の条件において測定し、膜厚80μmに換算して400〜2000g/m2・24hであることが好ましい。500〜1800g/m2・24hであることがより好ましく、600〜1600g/m2・24hであることが特に好ましい。
透湿度の測定法は、「高分子の物性II」(高分子実験講座4,共立出版)の285頁〜294頁:蒸気透過量の測定(質量法、温度計法、蒸気圧法、吸着量法)に記載の方法を適用することができ、本発明のセルロースアシレートフィルム試料70mmφを25℃、90%RH及び60℃、95%RHでそれぞれ24時間調湿し、透湿試験装置(KK−709007、商品名、東洋精機(株))にて、JIS Z−0208に従って、単位面積あたりの水分量を算出(g/m2)し、透湿度=調湿後質量−調湿前質量で求める。
【0112】
<フィルムの残留溶剤量>
本発明では、セルロースアシレートフィルムに対する残留溶剤量が、0.01〜1.5質量%の範囲となる条件で乾燥することが好ましい。より好ましくは0.01〜1.0質量%である。本発明のセルロースアシレートフィルムを支持体に用いる場合、残留溶剤量を該範囲内とすることでカールをより抑制できる。これは、前述のソルベントキャスト方法による成膜時の残留溶剤量が少なくすることで自由体積が小さくなることが主要な効果要因になるためと思われる。
【0113】
[フィルムの吸湿膨張係数]
本発明のセルロースアシレートフィルムの吸湿膨張係数は30×10-5/%RH以下とすることが好ましく、15×10-5/%RH以下とすることがより好ましく、10×10-5/%RH以下であることがさらに好ましい。また、下限値は特に定めるものではなく、吸湿膨張係数は小さい方が好ましい傾向にあるが、より好ましくは、1.0×10-5/%RH以上の値である。吸湿膨張係数は、一定温度下において相対湿度を変化させた時の試料の長さの変化量を示す。この吸湿膨張係数を調節することで、本発明のセルロースアシレートフィルムを光学補償フィルム支持体として用いた際、光学補償フィルムの光学補償機能を維持したまま、額縁状の透過率上昇すなわち歪みによる光漏れを防止することができる。
【0114】
<表面処理>
セルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えば、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、10-3〜20Torr(0.133Pa〜2.67kPa)の低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、更にまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類及びそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、30頁〜32頁、2001年3月15日発行、発明協会)に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。
【0115】
<機能層>
本発明のセルロースフィルムは、その用途として光学用途と写真感光材料に適用される。特に光学用途が液晶表示装置であることが好ましく、液晶表示装置が、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光素子、および該液晶セルと該偏光素子との間に少なくとも一枚の光学補償シートを配置した構成であることがさらに好ましい。これらの液晶表示装置としては、TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、ECB(Electrically Controlled Birefringence)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)が好ましい。
その際に前述の光学用途に本発明のセルロースフィルムを用いるに際し、各種の機能層を付与することが実施される。それらは、例えば、帯電防止層、硬化樹脂層(透明ハードコート層)、反射防止層、易接着層、防眩層、光学補償層、配向層、液晶層などである。本発明のセルロースフィルムを用いることができるこれらの機能層及びその材料としては、界面活性剤、滑り剤、マット剤、帯電防止層、ハードコート層などが挙げられ、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、32頁〜45頁、2001年3月15日発行、発明協会)に詳細に記載されており、本発明において好ましく用いることができる。
【0116】
[偏光板]
本発明のセルロースフィルムの用途について説明する。
本発明のセルロースフィルムは特に偏光板保護膜用として有用である。偏光板保護膜として用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られたセルロースフィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光膜の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号公報、特開平6−118232号公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。
保護膜処理面と偏光膜を貼り合わせるのに使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。
偏光板は偏光膜及びその両面を保護する保護膜で構成されており、更に該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成してもよい。プロテクトフィルム及びセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。又、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。
液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明のセルロースフィルムを適用した偏光板保護膜はどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護膜には透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護膜をこの部分に用いることが特に好ましい。
【0117】
[光学補償フィルム(位相差板)]
本発明のセルロースフィルムは、様々な用途で用いることができ、液晶表示装置の光学補償フィルムとして用いると特に効果がある。なお、光学補償フィルムとは、一般に液晶表示装置に用いられ、位相差を補償する光学材料のことを指し、位相差板、光学補償シートなどと同義である。光学補償フィルムは複屈折性を有し、液晶表示装置の表示画面の着色を取り除いたり、視野角特性を改善したりする目的で用いられる。
【0118】
[液晶表示装置]
<一般的な液晶表示装置の構成>
本発明のセルロースフィルムを光学補償フィルムとして用いる場合は、偏光膜の透過軸と、セルロースフィルムからなる光学補償フィルムの遅相軸とをどのような角度で配置しても構わない。液晶表示装置は、二枚の電極基板の間に液晶を担持してなる液晶セル、その両側に配置された二枚の偏光膜、および該液晶セルと該偏光膜との間に少なくとも一枚の光学補償フィルムを配置した構成を有している。
液晶セルの液晶層は、通常は、二枚の基板の間にスペーサーを挟み込んで形成した空間に液晶を封入して形成する。透明電極層は、導電性物質を含む透明な膜として基板上に形成する。液晶セルには、さらにガスバリアー層、ハードコート層あるいは(透明電極層の接着に用いる)アンダーコート層(下塗り層)を設けてもよい。これらの層は、通常、基板上に設けられる。液晶セルの基板は、好ましくは50μm〜2mmの厚さを有する。
【0119】
<液晶表示装置の種類>
本発明のセルロースフィルムは、様々な表示モードの液晶セルに用いることができる。具体的には、TN、IPS、FLC、AFLC、OCB、STN、VA、ECB、およびHAN等の表示モードが挙げられる。また、上記表示モードを配向分割した表示モードにおいても用いることができる。また、本発明のセルロースフィルムは、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても好ましく用いることができる。
【0120】
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置に用いる光学補償シートのRe値を0〜150nmとし、Rth値を70〜400nmとすることが好ましい。VA型液晶表示装置に二枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRth値は70〜250nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置に一枚の光学的異方性ポリマーフィルムを使用する場合、フィルムのRth値は150〜400nmであることが好ましい。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であってもよい。
【0121】
<ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム>
本発明のセルロースフィルムは、また、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムに好ましく用いることができる。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明のセルロースフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れかあるいは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、54頁〜57頁、2001年3月15日発行、発明協会)に詳細に記載されており、本発明のセルロースフィルムを好ましく用いることができる。
【0122】
<写真フィルム支持体>
さらに、本発明のセルロースフィルムは、ハロゲン化銀写真感光材料の支持体としても適用できる。具体的には、特開2000−105445号公報にカラーネガティブに関する記載に従って、本発明のセルロースフィルムが好ましく用いられる。またカラー反転ハロゲン化銀写真感光材料の支持体としての適用も好ましく、特開平11−282119号公報に記載されている各種の素材や処方さらには処理方法に従って、作製することができる。
【0123】
<透明基板>
本発明のセルロースフィルムは、光学的異方性がゼロに近く、優れた透明性を持たせることもできることから、液晶表示装置の液晶セルガラス基板の代替、すなわち駆動液晶を封入する透明基板としても用いることができる。
液晶を封入する透明基板はガスバリアー性に優れる必要があることから、必要に応じて本発明のセルロースフィルムの表面にガスバリアー層を設けてもよい。ガスバリアー層の形態や材質は特に限定されないが、本発明のセルロースフィルムの少なくとも片面にSiO2等を蒸着したり、塩化ビニリデン系ポリマーやビニルアルコール系ポリマーなど相対
的にガスバリアー性の高いポリマーのコート層を設ける方法が考えられ、これらを適宜使用できる。
また液晶を封入する透明基板として用いるには、電圧印加によって液晶を駆動するための透明電極を設けてもよい。透明電極としては特に限定されないが、本発明のセルロースフィルムの少なくとも片面に、金属膜、金属酸化物膜などを積層することによって透明電極を設けることができる。中でも透明性、導電性、機械的特性の点から、金属酸化物膜が好ましく、なかでも酸化スズを主として酸化亜鉛を2〜15質量%含む酸化インジウムの薄膜が好ましく使用できる。これら技術の詳細は例えば、特開2001−125079号公報や特開2000−227603号公報に記載の方法を用いることができる。
【0124】
本発明のセルロースフィルムのRe値とRth値をそれぞれ好ましい範囲に制御するためには、使用する一般式(I)で表される化合物(レターデーション制御剤)の種類および添加量、ならびにフィルムの延伸倍率を適宜調整することが好ましい。特に、本発明では、一般式(I)で表される化合物の中から、所望のRth値を達成し得るレターデーション制御剤を選択し、かつ、所望のRe値が得られるように、該レターデーション制御剤の添加量およびフィルムの延伸倍率を適宜設定することにより、所望のRe値およびRth値を有するセルロースフィルムを得ることができる。
【0125】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【実施例】
【0126】
実施例1
[例示化合物(N−8)の合成]
下記スキームに従い、例示化合物(N−8)を合成した。なお、合成したすべての化合物の同定は1H−NMR(300MHzまたは400MHz)により行った。
【0127】
【化23】

【0128】
化合物(N−8−a)の合成
トランスー4−ペンチルシクロヘキシルカルボン酸23.8g(0.12mol)、トルエン100ml、N,N−ジメチルホルムアミド0.25mlの混合溶液に、塩化チオニル9.63mlを添加し、1時間80℃に加熱攪拌したのち、溶媒を減圧留去した。この酸クロライドを、イソニペコチン酸エチル17.3gのテトラヒドロフラン50ml溶液に氷冷下で滴下し、さらに、トリエチルアミン16.87mlを滴下した。この反応溶液を室温で2時間攪拌したのち、水に加え、酢酸エチルで生成物を抽出した。有機層は、塩酸水、水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去することで、オイル状の化合物(N−8−a)を40g(収率100%)得た。
【0129】
化合物(N−8−b)の合成
化合物(N−8−a)40gのメタノール50ml溶液に、水酸化カリウム(18g)水溶液を加え、室温で一晩攪拌した。この反応溶液を水150ml、塩酸27.5ml溶液に氷冷下で添加し、得られた白色固体をろ別することで、化合物(N−8−b)を33g(収率100%)得た。
【0130】
化合物(N−8)の合成
化合物(N−8−c)は特開2008−107767号公報に記載の方法で合成した。
化合物(N−8−b)13.6g、トルエン50ml、N,N−ジメチルホルムアミド0.1mlの混合溶液に、塩化チオニル3.53mlを添加し、1時間80℃に加熱攪拌したのち、溶媒を減圧留去した。この酸クロライドをテトラヒドロフラン25mlでけん濁させた溶液を、化合物(N−8−c)6.71gのテトラヒドロフラン50ml溶液に氷冷下で滴下し、さらにピリジン3.56mlを滴下した。この反応溶液を室温で4時間攪拌したのちに、メタノール、水を加え、さらに、塩化メチレンを加えて、生成物を抽出した。
有機層は、塩酸水、水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去したのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、塩化メチレン/へキサンにより再結晶することで、例示化合物(N−8)を白色固体として5g(収率27%)得た。
1H−NMR(CDCl3)δ0.80−1.00(10H),1.13−1.38(18H),1.30(s,6H),1.42−1.90(16H),1.95(t,2H),2.15(m,4H),2.43(m,2H),2.86(m,4H),3.21(m,2H),4.01(m,4H),4.48(t,2H),4.60(m,2H),7.28(s,2H)
【0131】
実施例2
[例示化合物(N−7)(N−6)の合成]
実施例1におけるトランスー4−ペンチルシクロヘキシルカルボン酸を、トランスー4−ブチルシクロヘキシルカルボン酸、トランスー4−プロピルシクロヘキシルカルボン酸と変更したこと以外は実施例1と同様にして、例示化合物(N−7)、(N−6)を合成した。
【0132】
実施例3
[例示化合物(N−10)(N−11)の合成]
実施例1における中間体(N−8−c)を、(N−10−a)、(N−11−a)と変更したこと以外は実施例1と同様にして、例示化合物(N−10)、(N−11)を合成した。
【0133】
【化24】

【0134】
実施例4
[例示化合物(O−14)の合成]
下記スキームに従い、例示化合物(O−14)を合成した。
【0135】
【化25】

【0136】
化合物(O−14−a)の合成
170.3gの4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキシルメチル(ビニル)エーテル(和光純薬工業株式会社製:320−22695)を1Lのトルエンに溶解し、200gのp−トルエンスルホニルクロライドを加え撹拌した。この混合物にピリジン88mLをゆっくり滴下し、1晩放置した。この後、水500mLを加え、分液して有機相を濃縮して、化合物(O−14−a)を得た。
【0137】
化合物(O−14−b)の合成
前記(O−14−a)で合成した化合物全量をテトラヒドロフラン1L、水100mL、p−トルエンスルホン酸一水和物20gを加えて2晩放置した。テトラヒドロフランを減圧留去したのち、酢酸エチルを加えて分液抽出を行った。有機相は濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、化合物(O−14−b)209gを得た(収率70%)。
【0138】
化合物(O−14−c)の合成
前記化合物(O−14−b)200gを塩化メチレン800mLに溶解し、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシドラジカル)2.4gと3%臭化ナトリウム水溶液160mLを加えて室温で撹拌した。これに2%の炭酸水素ナトリウムを含む次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素5%)を25〜30℃に保って滴下した。原料の消失を確認後、有機相を分液し、水洗、チオ硫酸ナトリウム水溶液で洗浄したのち、50%程度濃縮してシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製を行った。目的物は粘稠な油状物150gとして得られた。
【0139】
化合物(O−14−d)の合成
前記化合物(O−14−c)150gを3000mLのトルエンに溶解し、88gの2−ペンチル−1,3−プロパンジオール、0.5gのp−トルエンスルホン酸一水和物を加え、nmrで反応進行を追跡しながら共沸脱水反応を行った。反応終了後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒から再結晶を行い、化合物(O−14−d)を50g得た(収率23%)。
【0140】
化合物(O−14)の合成
前記化合物(O−14−d)47g、化合物(N−8−c)19g、炭酸カルシウム22.6g、ヨウ化ナトリウム0.8g、N−メチルピロリジノン500mlを100℃で二時間加熱攪拌した。反応溶液を水に加えた後、クロロホルムで生成物を抽出し、有機層は、塩酸水、水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製を行い、酢酸エチルにより再結晶することで、例示化合物(O−14)を白色固体として17.5g(収率38%)得た。
融点;214℃。
1H−NMR(CDCl3)δ0.88(t,6H),0.93−1.58(24H),1.30(s,6H),1.70−2.00(14H),3.29(t,4H),3.82(dd,4H),4.08(dd,4H),4.19(m,2H),4.46(t,2H),6.72(s,2H)
【0141】
実施例5
[例示化合物(O−10)〜(O−13)の合成]
実施例4における2−ペンチル−1,3−プロパンジオールを、それぞれ2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオールと変更したこと以外は実施例4と同様にして、例示化合物(O−10)〜(O−13)を合成した。
融点;例示化合物(O−10);220℃、例示化合物(O−11);238℃、例示化合物(O−12);250℃、例示化合物(O−13);220℃
【0142】
実施例6
[例示化合物(O−19)(O−25)の合成]
実施例4における中間体(N−8−c)を、(O−19−a)、(O−25−a)と変更したこと以外は実施例4と同様にして、例示化合物(O−19)、(O−25)を合成した。
【0143】
【化26】

【0144】
実施例7
[例示化合物(H−15)の合成]
下記スキームに従い、例示化合物(H−15)を合成した。
【0145】
【化27】

【0146】
化合物(H−15−b)の合成
上記スキームにしたがって合成した化合物(H−15−a)53.1gをN−メチルピロリジノン300mlに加え加熱攪拌して溶解させたのち、クロロアセチルクロライド23.9ml、トリエチルアミン41.9mlを室温にて順に滴下した。途中発熱する際、水冷し、反応溶液が40℃以下を保つようにしたのち、室温にてさらに2時間攪拌した。その後反応溶液を水1.5lに加えて生成物をろ取した。メタノールで再結晶し、42g(収率58%)の化合物(H−15−b)を得た。
【0147】
化合物(H−15−c)の合成
化合物(H−15−b)15gをアセトニトリル200mlに加え、トリフェニルホスフィン41g、四塩化炭素25mlを室温にて順に添加したのち、60℃にて3時間過熱攪拌した。その後反応溶液を水に加えて、さらに、酢酸エチルを加えて、生成物を抽出した。
有機層は、塩酸水、水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去したのち、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/へキサン=1/3)により精製を行い、油状の化合物(H−15−c)を10.9g(収率71%)得た。
【0148】
化合物(H−15)の合成
前記化合物(H−15−c)9.1g、化合物(N−8−c)5.4g、炭酸カルシウム6.2g、ヨウ化ナトリウム0.23g、N−メチルピロリジノン70mlを100℃で二時間加熱攪拌した。反応溶液を水に加えた後、酢酸エチルで生成物を抽出し、有機層は、塩酸水、水、飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル/へキサン=3/1)により精製を行い、塩化メチレン/酢酸エチルにより再結晶することで、例示化合物(H−15)を白色固体として4.7g(収率38%)得た。
1H−NMR(CDCl3)δ0.86(t,6H),0.95−1.40(22H),1.50−1.68(4H),1.90(4H),1.96(t,2H),2.16(4H),2.86(m,2H),4.45(t,2H),5.30(s,4H),7.02(s,2H)
【0149】
実施例8
[例示化合物(H−13)(H−14)の合成]
実施例7における4-ペンチルシクロヘキサンカルボン酸を4−プロピルシクロヘキサンカルボン酸、4-ブチルシクロヘキサンカルボン酸と変更したこと以外は実施例7と同様にして、例示化合物(H−13)(H−14)を合成した。
融点;例示化合物(H−13);105℃、例示化合物(H−14);108℃
【0150】
実施例9
(セルロースアセテートフィルムの作製1)
下記セルロースアセテート溶液組成の各成分をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0151】
(セルロースアセテート溶液組成)
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
トリフェニルホスフェート(可塑剤) 7.8質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート(可塑剤) 3.9質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
【0152】
別のミキシングタンクに、例示化合物(O−14)、例示化合物(O−19)、例示化合物(O−24)、例示化合物(O−25)または比較化合物(1)、(2)と、メチレンクロライド87質量部およびメタノール13質量部とを投入し、加熱しながら攪拌して、各レターデーション制御剤溶液を調製した。
セルロースアセテート溶液474質量部に上記調製したレターデーション制御剤溶液をそれぞれ36質量部混合し、充分に攪拌してドープを調製した。例示化合物又は比較化合物の量は、セルロースアセテート100質量部に対して表1に記載の質量部を添加するように、各レターデーション制御剤溶液を調製した。
【0153】
得られたドープを、バンド流延機を用いて流延した。残留溶剤量が15質量%のフィルムを、160℃の条件で、固定端一軸延伸で20%の延伸倍率で横延伸して、セルロースアセテートフィルム(厚さ:80μm)を製造した。
作製したセルロースアセテートフィルムについて、波長450nm、550nm、630nmにおけるRe値を、KOBRA 21ADH(商品名、王子計測機器(株)製)において各波長の光をフィルム法線方向に入射させて測定した。結果を表2に示す。なお、表2中のNo.21は、レターデーション制御剤溶液を加えないこと以外は同様にして製造されたセルロースアセテートフィルムである。
【0154】
【表1】

【0155】
比較化合物(1)(特開2003−344655号公報に記載の化合物)
比較化合物(2)(特開2008−273925号公報に記載の化合物(108) )
【0156】
【化28】

【0157】
表1の結果から明らかなように、レターデーション制御剤溶液を用いなかった試料No.1はRe値が著しく小さく、延伸によるRe発現性が得られないことがわかった。また、比較化合物(1)を添加した試料No.8はRe値は大きかったものの、複屈折Δnの波長分散性に劣ることがわかった。また、試料No.9から、特開2008−273925号公報に記載の比較化合物(2)ではRe発現性、波長分散性ともに不足していることがわかる。
これに対し、本発明の試料(試料No.2〜7)はいずれも各波長におけるRe値が大きく、かつ、Reの波長分散性が優れる(Re(630)−Re(450)の値が大きい)ことがわかった。
また、例示化合物(O−8)の添加量を変化させた試料No.2、3を比較すると、添加量の増大につれてRe値が増大することがわかる。
【0158】
実施例10
(セルロースアセテートフィルムの作製2)
下記セルロースアセテート溶液組成の各成分をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して、各成分を溶解し、セルロースアセテート溶液を調製した。
【0159】
(セルロースアセテート溶液組成)
酢化度60.9%のセルロースアセテート 100質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 318質量部
メタノール(第2溶媒) 47質量部
【0160】
別のミキシングタンクに、例示化合物(O−14)、例示化合物(O−25)、例示化合物(N−4)、例示化合物(N−8)または比較化合物(2)と、メチレンクロライド87質量部およびメタノール13質量部とを投入し、加熱しながら攪拌して、各レターデーション制御剤溶液を調製した。
セルロースアセテート溶液474質量部に上記調製したレターデーション制御剤溶液をそれぞれ36質量部混合し、充分に攪拌してドープを調製した。例示化合物又は比較化合物の量は、セルロースアセテート100質量部に対して表2に記載の質量部を添加するように、各レターデーション制御剤溶液を調製した。
【0161】
得られたドープを、バンド流延機を用いて流延した。残留溶剤量が15質量%のフィルムを、195℃の条件で、固定端一軸延伸で20%の延伸倍率で横延伸して、セルロースアセテートフィルム(厚さ:80μm)を製造した。
作製したセルロースアセテートフィルムについて、波長450nm、550nm、630nmにおけるRe値を、KOBRA 21ADH(商品名、王子計測機器(株)製)において各波長の光をフィルム法線方向に入射させて測定した。結果を表2に示す。なお、表2中のNo.10は、レターデーション制御剤溶液を加えないこと以外は同様にして製造されたセルロースアセテートフィルムである。
【0162】
【表2】

【0163】
実施例9と同様、表2の結果から明らかなように、レターデーション制御剤溶液を用いなかった試料No.10および比較化合物(2)を添加した試料No.14では、Reの波長分散性に劣ることがわかった。これに対し、本発明の試料(試料No.11〜13)はいずれも各波長におけるRe値が大きく、かつ、Reの波長分散性が優れることがわかった。
【0164】
実施例11
(セルロースアセテートフィルムの作製3)
実施例9と同様にして、例示化合物(N−1),(N−8)、(N−18),(N−19),(N−28),(O−2)、(H−15),(H−49)についてもセルロースアセテートフィルムを作製し、Re値を測定したところ、いずれも、これらのレターデーション制御剤溶液を用いなかった試料に比べて、Re値が大きく、Reの波長分散性が優れる(Re(630)−Re(450)の値が大きくなっていることが確認できた。
【0165】
実施例12
(偏光板の作製)
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光膜を作製した。
【0166】
上記実施例9で作製したセルロースアシレートフィルム(表1、No.3)をポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光膜の片側に貼り付けた。なお、ケン化処理は以下のような条件で行った。
【0167】
1.5モル/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を調製し、55℃に保温した。0.01モル/リットルの希硫酸水溶液を調製し、35℃に保温した。作製したセルロースアシレートフィルムを上記の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬した後、水に浸漬し水酸化ナトリウム水溶液を十分に洗い流した。次いで、上記の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
市販のセルローストリアシレートフィルム(フジタックTD80UF、商品名、富士写真フイルム(株)製)にケン化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の反対側に貼り付け、70℃で10分以上乾燥した。
偏光膜の透過軸と上記のように作製したセルロースアシレートフィルムの遅相軸とが平行になるように配置した。偏光膜の透過軸と市販のセルローストリアシレートフィルムの遅相軸とは直交するように配置した。
【0168】
(液晶セルの作製)
液晶セルは、基板間のセルギャップを3.6μmとし、負の誘電率異方性を有する液晶材料(「MLC6608」、商品名、メルク社製)を基板間に滴下注入して封入し、基板間に液晶層を形成して作製した。液晶層のレターデーション(即ち、液晶層の厚さd(μm)と屈折率異方性Δnとの積Δn・d)を300nmとした。なお、液晶材料は垂直配向するように配向させた。
【0169】
(VAパネルへの実装)
上記の垂直配向型液晶セルを使用した液晶表示装置の上側偏光板(観察者側)には、市販品のスーパーハイコントラスト品(株式会社サンリッツ社製、商品名、HLC2−5618)を用いた。下側偏光板(バックライト側)には上記実施例9で作製したフィルム(表1、No.3、No.5)を備えた偏光板を、該セルロースアシレートフィルムが液晶セル側となるように設置した。上側偏光板および下側偏光板は粘着剤を介して液晶セルに貼りつけた。上側偏光板の透過軸が上下方向に、そして下側偏光板の透過軸が左右方向になるように、クロスニコル配置とした。
【0170】
液晶セルに55Hzの矩形波電圧を印加した。白表示5V、黒表示0Vのノーマリーブラックモードとした。黒表示の方位角45度、極角60度方向視野角における黒表示及び、方位角45度極角60度と方位角180度極角60度との色ずれを観察した。
【0171】
作製した液晶表示装置を観察した結果、本発明のフィルムを用いた液晶パネルは正面方向および視野角方向のいずれにおいても、ニュートラルな黒表示が実現することを確認できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース化合物の少なくとも一種と、下記一般式(I)で表される化合物の少なくとも一種とを含有することを特徴とするセルロース組成物。
一般式(I)
【化1】

(式中、A1およびA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子または置換基を表す。)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表し、R1、R、Rはそれぞれ独立に置換基を表す。nは0から2までの整数を表す。L11、L12、L21、L22、L31およびL32は各々独立に単結合または二価の連結基を表す。Ra、Ra、Rb、およびRbは各々独立に二価の環状連結基を表し、R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基であり、m1およびm2はそれぞれ独立に0から2までの整数を表す。ただし、RaまたはRbのうち少なくとも一つはヘテロ環構造である。)
【請求項2】
前記一般式(I)においてL11、L12、L21、L22、L31およびL32が各々独立に単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)からなる群より選ばれる二価の連結基であることを特徴とする請求項1に記載のセルロース組成物。
【請求項3】
前記一般式(I)においてRおよびRがハメットの置換基定数σp値が0以上の電子吸引性の置換基である化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする請求項1または2に記載のセルロース組成物。
【請求項4】
前記一般式(I)においてRa、Ra、Rb、およびRbがそれぞれ独立に1,4−シクロへキシレン基、1,4−フェニレン基、またはヘテロ環連結基であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロース組成物。
【請求項5】
前記セルロース化合物がセルロースエステルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロース組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物からなることを特徴とするセルロースフィルム。
【請求項7】
前記一般式(I)で表される化合物がフィルム質量に対して0.1〜50質量%含まれることを特徴とする、請求項6に記載のセルロースフィルム。
【請求項8】
請求項6または7に記載のセルロースフィルムからなる光学フィルム。
【請求項9】
配向方向に対して複屈折率Δn(550nm)が0より大きく、かつ下記数式(1)および(2)を満たすことを特徴とする請求項8に記載の光学フィルム。
数式(1): 1>|Δn(450nm)/Δn(550nm)|、および
数式(2): 1<|Δn(630nm)/Δn(550nm)|
【請求項10】
請求項8または9に記載の光学フィルムからなる位相差板。
【請求項11】
請求項10に記載の位相差板を含んでなる偏光板。
【請求項12】
請求項10に記載の位相差板または請求項11に記載の偏光板を含んでなる液晶表示装置。
【請求項13】
VAモードであることを特徴とする請求項12に記載の液晶表示装置。
【請求項14】
下記一般式(I)で表される化合物。
一般式(I)
【化2】

(式中、A1およびA2は各々独立に、−O−、−NR−(Rは水素原子または置換基を表す。)、−S−及び−CO−からなる群から選ばれる基を表し、R1、R、Rはそれぞれ独立に置換基を表す。nは0から2までの整数を表す。L11、L12、L21、L22、L31およびL32は各々独立に単結合または二価の連結基を表す。Ra、Ra、Rb、およびRbは各々独立に二価の環状連結基を表し、R21およびR22はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基であり、m1およびm2はそれぞれ独立に0から2までの整数を表す。ただし、RaまたはRbのうち少なくとも一つはヘテロ環構造である。)
【請求項15】
前記一般式(I)においてL11、L12、L21、L22、L31およびL32が各々独立に単結合または−O−、−S−、−S(=O)−、−CO−、−NRA−(RAは、炭素原子数が1〜7のアルキル基又は水素原子である。)からなる群より選ばれる二価の連結基であることを特徴とする請求項14に記載の化合物。
【請求項16】
前記一般式(I)においてRおよびRがハメットの置換基定数σp値が0以上の電子吸引性の置換基である化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする請求項14または15に記載の化合物。
【請求項17】
前記一般式(I)においてRa、Ra、Rb、およびRbがそれぞれ独立に1,4−シクロへキシレン基、1,4−フェニレン基、またはヘテロ環連結基であることを特徴とする請求項14〜16のいずれか一項に記載の化合物。

【公開番号】特開2010−163483(P2010−163483A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4605(P2009−4605)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】