説明

セルロース誘導体、樹脂組成物、成形体、電子機器用筺体、及びセルロース誘導体の製造方法

【課題】熱可塑性であり、良好な強度及び破断伸度を有し、成形加工に適したセルロース誘導体、これを含む樹脂組成物、セルロース誘導体からなる成型体、この成型体から構成される電子機器用筺体、及びセルロース誘導体の製造方法の提供を目的とする。
【解決手段】セルロースに含まれる水酸基の少なくとも一部が、脂肪族または芳香族のエーテル基、及び脂肪族または芳香族のカルバメート基に置換されたセルロース誘導体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なセルロース誘導体、樹脂組成物、成形体、電子機器用筺体、及びセルロース誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機、プリンター等の電子機器を構成する部材には、その部材に求められる特性、機能等を考慮して、各種の素材が使用されている。例えば、電子機器の駆動機等を収納し、当該駆動機を保護する役割を果たす部材(筺体)にはPC(Polycarbonate)、ABS(Acrylonitrile−butadiene−styrene)樹脂、PC/ABS等が一般的に多量に使用されている(例えば、特許文献1参照)。これらの樹脂は、石油を原料として得られる化合物を反応させて製造されている。
【0003】
ところで、石油、石炭、天然ガス等の化石資源は、長年月の間、地中に固定されてきた炭素を主成分とするものである。このような化石資源、または化石資源を原料とする製品を燃焼させて、二酸化炭素が大気中に放出された場合には、本来、大気中に存在せずに地中深くに固定されていた炭素を二酸化炭素として急激に放出することになり、大気中の二酸化炭素が大きく増加し、これが地球温暖化の原因のひとつと考えられている。したがって、化石資源である石油を原料とするABS、PC等のポリマーは、電子機器用部材の素材としては、優れた特性を有するものの、化石資源である石油を原料とするものであるため、地球温暖化の防止の観点からは、その使用量の低減が望ましい。
【0004】
一方、植物由来の樹脂は、元々、植物が大気中の二酸化炭素と水とを原料として光合成反応によって生成したものである。そのため、植物由来の樹脂を焼却して二酸化炭素が発生しても、その二酸化炭素は元々、大気中にあった二酸化炭素に相当するものであるから、大気中の二酸化炭素の収支はプラスマイナスゼロとなり、結局、大気中のCO2の総量を増加させない、という考え方がある。このような考えから、植物由来の樹脂は、いわゆる「カーボンニュートラル」な材料と称されている。石油由来の樹脂に代わって、カーボンニュートラルな材料を用いることは、近年の地球温暖化を防止する上で急務となっている。
【0005】
このため、PCポリマーにおいて、石油由来の原料の一部としてデンプン等の植物由来資源を使用することにより石油由来資源を低減する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、より完全なカーボンニュートラルな材料を目指す観点から、さらなる改良が求められている。
【0006】
【特許文献1】特開昭56−55425号公報
【特許文献2】特開2008−24919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、カーボンニュートラルな樹脂として、セルロースを使用することに初めて着目した。しかし、セルロースは一般的に熱可塑性を持たないため、加熱等により成形することが困難であり、成形加工に適さない。また、たとえ熱可塑性を付与できたとしても、耐衝撃性等の強度が大きく低下する問題がある。さらには、破断伸度の点でも改良の余地がある。
そこで、本発明の目的は、良好な熱可塑性、強度及び破断伸度を有し、成形加工に適したセルロース誘導体及び樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、セルロースの分子構造に着目し、当該セルロースを特定構造のセルロース誘導体にすることにより、良好な熱可塑性、耐衝撃性及び破断伸度を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題は以下の手段により達成することができる。
【0009】
1. セルロースに含まれる水酸基の少なくとも一部が、脂肪族または芳香族のエーテル基、及び脂肪族または芳香族のカルバメート基に置換されたセルロース誘導体。
2. 前記カルバメート基が脂肪族カルバメート基である上記1に記載のセルロース誘導体。
3. 前記エーテル基の炭素数が1〜9である上記1又は2に記載のセルロース誘導体。
4. 前記エーテル基がメチルエーテル基又はエチルエーテル基である上記1〜3のいずれかに記載のセルロース誘導体。
5. 前記エーテル基がメチルエーテル基である上記1〜3のいずれかに記載のセルロース誘導体。
6. 上記1〜5のいずれかに記載のセルロース誘導体を含有する樹脂組成物。
7. 上記1〜5のいずれかに記載のセルロース誘導体又は上記6に記載の樹脂組成物を成形して得られる成形体。
8. 上記7に記載の成形体を含む電子機器用筺体。
9. 上記1〜5のいずれかに記載のセルロース誘導体の製造方法であって、セルロースエーテルにイソシアネートを反応させる工程を含むセルロース誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセルロース誘導体又は樹脂組成物は、優れた熱可塑性を有するため、成形体とすることができる。また、本発明のセルロース誘導体又は樹脂組成物によって形成された成形体は、良好な耐衝撃性、破断伸度等を有するため、耐衝撃性及び破断伸度が必要な部材、例えば、電子機器用筺体として好適に使用することができる。また、植物由来の樹脂であるため、温暖化防止に貢献できる素材として、従来の石油由来の樹脂に代替できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のセルロース誘導体は、セルロースに含まれる水酸基の少なくとも一部が、脂肪族または芳香族のエーテル基、及び脂肪族または芳香族のカルバメート基に置換されたセルロース誘導体である。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
1.セルロース誘導体
本発明のセルロース誘導体は、セルロース((C10)に含まれる水酸基の少なくとも一部が、脂肪族または芳香族のエーテル基、及び脂肪族または芳香族のカルバメート基に置換されている。
すなわち、本発明のセルロース誘導体は、下記一般式(1)で表される重合単位を有する。
【0013】
【化1】

【0014】
上記一般式(1)において、R、R及びRは、それぞれ独立に、水酸基またはその他の置換基を表す。但し、R、R、及びRの少なくとも一部が、脂肪族または芳香族のエーテル基に置換され、かつ少なくとも一部が、脂肪族または芳香族のカルバメート基に置換されている。
エーテル基とカルバメート基による置換は、R、R及びRの一部でよいため、エーテル基やカルバメート基でないR、R及びRは水酸基またはその他の置換基であってよい。
【0015】
本発明のセルロース誘導体は、上記のようにβ−グルコース環の水酸基の少なくとも一部が脂肪族または芳香族のエーテル基、及び脂肪族または芳香族のカルバメート基によって置換されていることにより、熱可塑性を発現することができ、成形加工に適したものである。また、本発明のセルロース誘導体は、成形体としても優れた強度及び破断伸度を発現することができる。さらには、セルロースは完全な植物由来成分であるため、カーボンニュートラルであり、環境に対する負荷を大幅に低減することができる。
【0016】
なお、本発明にいう「セルロース」とは、多数のグルコースがβ−1,4−グリコシド結合によって重合した高分子化合物であって、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基が無置換であるものを意味する。
また、「セルロースに含まれる水酸基」とは、セルロースのグルコース環における2位、3位、6位の炭素原子に結合している水酸基を指す。
【0017】
本発明のセルロース誘導体は、その全体のいずれかの部分に、脂肪族または芳香族のエーテル基、及び脂肪族または芳香族のカルバメート基を含んでいればよく、同一の重合単位からなるものであってもよいし、複数の種類の重合単位からなるものであってもよい。また、本発明のセルロース誘導体は、ひとつの重合単位において、エーテル基及びカルバメート基の両方を含有する必要はない。
例えば、(1)R、R及びRの一部がエーテル基で置換されている単量体と、R、R及びRの一部がカルバメート基で置換されている単量体とから構成される重合体であってよいし、(2)ひとつの重合単位のR、R及びRにエーテル基及びカルバメート基の両方が置換されている単一の単量体から構成される重合体であってもよい。さらには、(3)一般式(1)で表される重合単位であって異なる種類の重合単位が、ランダムに重合されている重合体であってもよい。
なお、重合体の一部には、無置換の重合単位(すなわち、前記一般式(1)において、R、R及びRすべてが水酸基である重合単位)を含んでいてもよい。
【0018】
上記エーテル基は、脂肪族及び芳香族のいずれでもよい。
脂肪族エーテル基の脂肪族部位は、直鎖構造、分岐構造及び環状構造のいずれであってもよい。脂肪族エーテル基の炭素数は1〜9が好ましく、さらに好ましくは1〜4である。脂肪族エーテル基の具体例としては、メチルエーテル基、エチルエーテル基、プロピルエーテル基、ブチルエーテル基、イソブチルエーテル基、ペンチルエーテル基、ヘキシルエーテル基、ヘプチルエーテル基、オクチルエーテル基、2−エチルヘキシルエーテル基、ノニル基等を挙げることができる。これらは1種単独のものでもよいし、2種以上が組み合わされたものでもよい。
エーテル基がメチルエーテル基又はエチルエーテル基であることが好ましく、エーテル基がメチルエーテル基であることがより好ましい。
芳香族エーテル基の炭素数は7〜16が好ましく、さらに好ましくは7〜10である。芳香族エーテル基の具体例としては、ベンジルエーテル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、1−メチル−2−フェニルエチル基、シンナミル基、トリチル基等を挙げることができる。これらは1種単独のものでもよいし、2種以上が組み合わされたものでもよい。
【0019】
以下、エーテル基の好ましい例を具体的に記す(A−1〜A−18)。ただし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0020】
【化2】

【0021】
カルバメート基は、脂肪族及び芳香族のいずれでもよい。
脂肪族カルバメート基の炭素数は1〜18が好ましく、さらに好ましくは炭素数4〜10である。脂肪族カルバメート基の具体例としては、メチルカルバメート、エチルカルバメート、プロピルカルバメート、イソプロピルカルバメート、アリルカルバメート、ブチルカルバメート、イソブチルカルバメート、tert−ブチルカルバメート、ペンチルカルバメート、ヘキシルカルバメート、シクロヘキシルカルバメート、ヘプチルカルバメート、オクチルカルバメート、1,1,3,3−テトラメチルブチルカルバメート、1−アダマンチルカルバメート、ドデシルカルバメート、オクタデシルカルバメート等を挙げることができる。これらは1種単独のものでもよいし、2種以上が組み合わされたものでもよい。
芳香族カルバメート基の炭素数は6〜12が好ましく、さらに好ましくは炭素数6〜8である。芳香族カルバメート基の具体例としては、フェニルカルバメート、o−トリルカルバメート、m−トリルカルバメート、p−トリルカルバメート、4−イソプロピルフェニルカルバメート、1−ナフチルカルバメート、2−ビフェニルカルバメート等を挙げることができる。これらは1種単独のものでもよいし、2種以上が組み合わされたものでもよい。
カルバメート基は、脂肪族カルバメート基であることが好ましい。
【0022】
以下、カルバメート基の好ましい例を具体的に記す(B−1〜B−25)。ただし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
【0023】
【化3】

【0024】
上記エーテル基およびカルバメート基は、さらなる置換基を有していてもよい。さらなる置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、エーテル基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基等が挙げられる。
【0025】
セルロース誘導体中のエーテル基およびカルバメート基の置換位置、並びにβ−グルコース環単位当たりの前記エーテル基およびカルバメート基の数(置換度)は特に限定されない。
例えば、脂肪族または芳香族のエーテル基の置換度DS(重合単位中、β−グルコース環の2位、3位及び6位の水酸基に対するエーテル基の数)は、通常1.0程度以上、好ましくは1.5〜2.5程度とすればよい。
脂肪族または芳香族のカルバメート基の置換度DS(重合単位中、β−グルコース環のセルロース構造の2位、3位及び6位の水酸基に対するカルバメート基の数)は通常0.1程度以上、好ましくは0.3〜1.5程度とすればよい。このような範囲の置換基とすることにより、破断伸度、脆性等を向上させることができる。
【0026】
また、セルロース誘導体中に存在する無置換の水酸基の数も特に限定されない。
水酸基の置換度DS(重合単位中、2位、3位及び6位の水酸基が無置換である割合)は通常0.01〜1.5程度、好ましくは0.2〜1.2程度とすればよい。DSを0.01以上とすることにより、樹脂組成物の流動性を向上させることができる。また、DSを1.5以下とすることにより、樹脂組成物の流動性を向上させたり、熱分解の加速・成形時の樹脂組成物の吸水による発泡等を抑制させたりできる。
なお、各置換度の総和(DS+DS+DS)は3である。
【0027】
本発明のセルロース誘導体の分子量は、数平均分子量(Mn)が5000〜1000000の範囲が好ましく、10000〜500000の範囲がさらに好ましく、100000〜200000の範囲が最も好ましい。また、重量平均分子量(Mw)は、7000〜5000000の範囲が好ましく、15000〜2500000の範囲がさらに好ましく、300000〜1500000の範囲が最も好ましい。分子量分布(MWD)は1.1〜5.0の範囲が好ましく、1.5〜3.5の範囲がさらに好ましい。この範囲の平均分子量とすることにより、成形体の成形性、力学強度等を向上させることができる。また、この範囲異の分子量分布とすることにより、成形性等を向上させることができる。
本発明における、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(MWD)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行うことができる。具体的には、テトラヒドロフランを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めることができる。
【0028】
2.セルロース誘導体の製造方法
本発明のセルロース誘導体の製造方法は特に限定されず、セルロースを原料とし、セルロースの水酸基を、脂肪族または芳香族のエーテル基、及び脂肪族または芳香族のカルバメート基によって、置換することにより製造することができる。セルロースの原料としては特に制限はなく、例えば、綿、リンター、パルプ等を用いることができる。
好ましい製造方法の態様は、セルロースエーテル(β−グルコース環の2位、3位及び6位の水酸基の少なくとも一部が、エーテル基に置換されたセルロース誘導体)に、イソシアネートを反応させる工程を含むものである。
【0029】
セルロースエーテルとしては、例えば、セルロースに含まれる水酸基がエーテル基で置換されたセルロースエーテルを用いることができる。
具体的には、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロース、アリルセルロース、ベンジルセルロース等が挙げられる。
【0030】
そのほかの具体的な製造条件等は、常法に従うことができる。例えば、「セルロースの事典」131頁〜164頁(朝倉書店、2000年)等に記載の方法を参考にすることができる。
【0031】
3.セルロース誘導体を含む樹脂組成物及び成型体
本発明の樹脂組成物は、本発明のセルロース誘導体を含有しており、必要に応じてその他の添加剤を含有することができる。
樹脂組成物に含まれる成分の含有割合は、特に限定されない。好ましくはセルロース誘導体を75質量%程度以上、より好ましくは80質量%程度以上、さらに好ましくは80〜100質量%程度含有する。
本発明の樹脂組成物は、本発明のセルロース誘導体のほか、必要に応じて、フィラー、難燃剤等の種々の添加剤を含有していてもよい。
【0032】
本発明の樹脂組成物は、フィラー(強化材)を含有してもよい。フィラーを含有することにより、樹脂組成物によって形成される成形体の機械的特性を強化することができる。
【0033】
フィラーとしては、公知のものを使用できる。フィラーの形状は、繊維状、板状、粒状、粉末状等いずれでもよい。また、無機物でも有機物でもよい。
具体的には、無機フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維および硼素繊維等の繊維状の無機フィラーや;ガラスフレーク、非膨潤性雲母、カーボンブラック、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト、白土等の板状や粒状の無機フィラーが挙げられる。
【0034】
有機フィラーとしては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、再生セルロース繊維、アセテート繊維等の合成繊維、ケナフ、ラミー、木綿、ジュート、麻、サイザル、マニラ麻、亜麻、リネン、絹、ウール等の天然繊維、微結晶セルロース、さとうきび、木材パルプ、紙屑、古紙等から得られる繊維状の有機フィラーや、有機顔料等の粒状の有機フィラーが挙げられる。
【0035】
樹脂組成物がフィラーを含有する場合、その含有量は特に限定されないが、セルロース誘導体100質量部に対して、通常30質量部程度以下、好ましくは5〜10質量部程度である。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、難燃剤を含有してもよい。これによって、その燃焼速度の低下または抑制といった難燃効果を向上させることができる。
難燃剤は、特に限定されず、常用のものを用いることができる。例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。これらの中でも、樹脂との複合時や成形加工時に熱分解してハロゲン化水素が発生して加工機械や金型を腐食させたり、作業環境を悪化させたりすることがなく、また、焼却廃棄時にハロゲンが気散したり、分解してダイオキシン類等の有害物質の発生等によって環境に悪影響を与える可能性が少ないことから、リン含有難燃剤およびケイ素含有難燃剤が好ましい。
【0037】
リン含有難燃剤としては、特に限定されることはなく、常用のものを用いることができる。例えば、リン酸エステル、リン酸縮合エステル、ポリリン酸塩などの有機リン系化合物が挙げられる。
【0038】
リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどを挙げることができる。
【0039】
リン酸縮合エステルとしては、例えば、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェートならびにこれらの縮合物などの芳香族リン酸縮合エステル等を挙げることができる。
【0040】
また、リン酸、ポリリン酸と周期律表1族〜14族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンとの塩からなるポリリン酸塩を挙げることもできる。ポリリン酸塩の代表的な塩として、金属塩としてリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、アルミニウム塩など、脂肪族アミン塩としてメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ピペラジン塩などがあり、芳香族アミン塩としてはピリジン塩、トリアジン等が挙げられる。
【0041】
また、前記以外にも、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート)などの含ハロゲンリン酸エステル、また、リン原子と窒素原子が二重結合で結ばれた構造を有するホスファゼン化合物、リン酸エステルアミドを挙げることができる。
これらのリン含有難燃剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
ケイ素含有難燃剤としては、式:RmSi(4-m)/2(mは1以上3以下の整数、Rは、水素原子、置換もしくは非置換の脂肪族炭化水素基、または芳香族炭化水素基である)で表される構造単位を主構成単位とする二次元または三次元構造の有機ケイ素化合物、ポリジメチルシロキサン、またはポリジメチルシロキサンの側鎖または末端のメチル基が、水素原子、置換または非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基で置換または修飾されたもの、いわゆるシリコーンオイル、または変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0043】
置換または非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、メルカプト基、クロロアルキル基、アルキル高級アルコールエステル基、アルコール基、アラルキル基、ビニル基、またはトリフロロメチル基等が挙げられる。
これらのケイ素含有難燃剤は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
また、前記リン含有難燃剤またはケイ素含有難燃剤以外の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、酸化スズ塩、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化第一錫、酸化第二スズ、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸の金属塩、タングステンとメタロイドとの複合酸化物、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、ジルコニウム系化合物、グアニジン系化合物、フッ素系化合物、黒鉛、膨潤性黒鉛等の無機系難燃剤を用いることができる。これらの他の難燃剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0045】
本発明の樹脂組成物が難燃剤を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、セルロース誘導体100質量部に対して、通常30質量部程度以下、好ましくは2〜10質量部程度である。この範囲とすることにより、耐衝撃性・脆性等の向上や、ペレットブロッキングの発生を抑制できる。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、前記のセルロース誘導体、フィラー及び難燃剤以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲で、成形性・難燃性等の各種特性をより一層改善する目的で他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、前記セルロース誘導体以外のポリマー、可塑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、離型剤(脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、変成シリコーン)等が挙げられる。さらに、染料や顔料を含む着色剤などを添加することもできる。
【0047】
前記セルロース誘導体以外のポリマーとしては、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーのいずれも用い得るが、成形性の点から熱可塑性ポリマーが好ましい。セルロース誘導体以外のポリマーの具体例としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリウレタン、芳香族および脂肪族ポリケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、熱可塑性澱粉樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、ACS樹脂、AAS樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、ポリウレタン、MS樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリ−4−メチルペンテン−1、ポリエーテルイミド、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂などを挙げることができる。また、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、各種アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体およびそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、酸変性エチレン−プロピレン共重合体、ジエンゴム(例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(例えば、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合させたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエンまたはイソプレンとの共重合体、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム等が挙げられる。
【0048】
更に、各種の架橋度を有するものや、各種のミクロ構造、例えばシス構造、トランス構造等を有するもの、ビニル基などを有するもの、あるいは各種の平均粒径(樹脂組成物中における)を有するものや、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成されるいわゆるコアシェルゴムと呼ばれる多層構造重合体なども使用することができ、さらにシリコーン化合物を含有したコアシェルゴムも使用することができる。
これらのポリマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本発明の樹脂組成物がセルロース誘導体以外のポリマーを含有する場合、その含有量は、セルロース誘導体100質量部に対して30質量部程度以下が好ましく、2〜10質量部程度がより好ましい。
【0050】
本発明の樹脂組成物は、可塑剤を含有してもよい。これにより、難燃性及び成形性をより一層向上させることができる。可塑剤としては、ポリマーの成形に常用されるものを用いることができる。例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤およびエポキシ系可塑剤等が挙げられる。
【0051】
ポリエステル系可塑剤の具体例としては、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ロジンなどの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル等が挙げられる。これらのポリエステルは単官能カルボン酸もしくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
【0052】
グリセリン系可塑剤の具体例としては、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレートおよびグリセリンモノアセトモノモンタネート等が挙げられる。
【0053】
多価カルボン酸系可塑剤の具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシルなどのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチル−n−デシル、アジピン酸メチルジグリコールブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコールなどのアジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、およびセバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0054】
ポリアルキレングリコール系可塑剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロックおよび/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのポリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、および末端エーテル変性化合物等が挙げられる。
【0055】
エポキシ系可塑剤とは、一般にはエポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリドなどを指すが、その他にも、主にビスフェノールAとエピクロロヒドリンを原料とするような、いわゆるエポキシ樹脂も使用することができる。
【0056】
その他の可塑剤の具体例としては、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレートなどの脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、オレイン酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチルなどのオキシ酸エステル、ペンタエリスリトール、各種ソルビトール等が挙げられる。
【0057】
本発明の樹脂組成物が可塑剤を含有する場合、その含有量は、セルロース誘導体100質量部に対して通常5質量部程度以下であり、0.005〜5質量部程度が好ましく、より好ましくは0.01〜1質量部程度である。
【0058】
本発明の成形体は、本発明のセルロース誘導体又は本発明のセルロース誘導体及び添加剤(好ましくはフィラー)を含む樹脂組成物を成形することにより得られる。より具体的には、本発明のセルロース誘導体又は本発明のセルロース誘導体及びフィラー等を含む樹脂組成物を加熱等により溶融し、各種の成形方法により成形することによって得られる。
成形方法としては、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形等が挙げられる。
加熱温度は、通常160〜260℃程度であり、好ましくは180〜240℃程度である。
【0059】
本発明の成形体は、優れた破断伸度及び耐衝撃性を有する。したがって、本発明の成形体は、例えば、コピー機、プリンター、パソコン、テレビ等の電子機器用の筺体として好適に使用することができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0061】
<合成例1:メチルセルロースプロピルカルバメート(P−1)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた5Lの三ツ口フラスコにメチルセルロース(和光純薬製:メトキシ置換度1.8)50g、ピリジン2Lを量り取り、室温で攪拌した。溶解を確認後、水冷下、イソシアン酸プロピル68.0gを滴下した後、55℃で3時間攪拌した。反応後、メタノール200mLを加えてクエンチした。反応溶液をアセトン/水(2L/6L)へ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量の水で3回洗浄を行った。得られた白色固体を100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(P−1)(メチルセルロースプロピルカルバメート、置換度は表3に記載)を白色粉体として得た(45.2g)。
【0062】
<合成例2:メチルセルロースブチルカルバメート(P−2)の合成>
合成例1においてイソシアン酸プロピルをイソシアン酸ブチルに変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−2)(メチルセルロースブチルカルバメート、置換度は表3に記載)を白色粉体として得た(48.0g)。
【0063】
<合成例3:メチルセルロースヘプチルカルバメート(P−3)の合成>
合成例1においてイソシアン酸プロピルをイソシアン酸ヘプチルに変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−3)(メチルセルロースヘプチルカルバメート、置換度は表3に記載)を白色粉体として得た(48.5g)。
【0064】
<合成例4:メチルセルロースオクチルカルバメート(P−4)の合成>
合成例1においてメチルセルロース(和光純薬製:メトキシ置換度1.8)を後述の比較化合物H−2に変更し、イソシアン酸プロピルをイソシアン酸オクチルに変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−4)(メチルセルロースオクチルカルバメート、置換度は表3に記載)を白色粉体として得た(52.0g)。
【0065】
<合成例5:メチルセルロースオクチルカルバメート(P−5)の合成>
合成例1においてイソシアン酸プロピルをイソシアン酸オクチルに変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−5)(メチルセルロースオクチルカルバメート、置換度は表3に記載)を白色粉体として得た(49.0g)。
【0066】
<合成例6:メチルセルロースイソプロピルカルバメート(P−6)の合成>
合成例1においてメチルセルロース(和光純薬製:メトキシ置換度1.8)を後述の比較化合物H−2に変更し、イソシアン酸プロピルをイソシアン酸イソプロピルに変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−6)(メチルセルロースイソプロピルカルバメート、置換度は表3に記載)を黄色粉体として得た(35.5g)。
【0067】
<合成例7:エチルセルロースオクチルカルバメート(P−7)の合成>
合成例1においてメチルセルロース(和光純薬製:メトキシ置換度1.8)を後述のエチルセルロース(エトキシ置換度1.3)に変更し、イソシアン酸プロピルをイソシアン酸オクチルに変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−7)(エチルセルロースオクチルカルバメート、置換度は表3に記載)を白色粉体として得た(37.0g)。
【0068】
<合成例8:エチルセルロースオクチルカルバメート(P−8)の合成>
合成例1においてメチルセルロース(和光純薬製:メトキシ置換度1.8)をエチルセルロース(アルドリッチ社製:エトキシ置換度2.4)に変更し、イソシアン酸プロピルをイソシアン酸オクチルに変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−8)(エチルセルロースオクチルカルバメート、置換度は表3に記載)を白色粉体として得た(29.0g)。
【0069】
<合成例9:メチルセルロースフェニルカルバメート(P−9)の合成>
合成例1においてイソシアン酸プロピルをイソシアン酸フェニルに変更した以外は同様にして目的のセルロース誘導体(P−9)(メチルセルロースフェニルカルバメート、置換度は表3に記載)を白色粉体として得た(57.0g)。
【0070】
<比較化合物の合成1:セルロースエチルカルバメート(H−1)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた3Lの三ツ口フラスコにセルロース(日本製紙製:KCフロックW400)30g、ジメチルアセトアミド1.5Lを量り取り120℃で2時間攪拌した。次いでリチウムクロライド90gを添加しさらに1時間撹拌した。反応液を室温まで戻した後、イソシアン酸エチル141mLを滴下し、さらにDibutyltin Dilaurate1mLを添加し、55℃で3時間撹拌した。反応溶液をメタノール6Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量のメタノールで3回洗浄を行った。得られた白色個体を100℃で6時間真空乾燥することにより目的の比較化合物(H−1)(セルロースエチルカルバメート、置換度は表3に記載)を白色粉体として得た(21.0g)。
【0071】
<比較化合物の合成2:メチルセルロース(H−2)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた3Lの三ツ口フラスコにメチルセルロース(和光純薬製:メトキシ置換度1.8)100g、ジメチルアセトアミド2Lを量り取り室温で攪拌した。ここに、粉末水酸化ナトリウム100gを加えて60℃で1時間撹拌後、反応液を冷却し水冷下でヨウ化メチル80mLを滴下し、50℃で3時間撹拌した。反応溶液をメタノール12Lへ激しく攪拌しながら投入すると、白色固体が析出した。白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量のイソプロパノールで3回洗浄を行った。得られた白色個体を100℃で6時間真空乾燥することにより目的のセルロース誘導体(H−2)(メチルセルロース、メトキシ置換度2.1)を白色粉体として得た(85.3g)。
【0072】
<中間化合物の合成:エチルセルロース(置換度:1.3)の合成>
メカニカルスターラー、温度計、冷却管、滴下ロートをつけた3Lの三ツ口フラスコにセルロース(日本製紙製:KCフロックW400)30g、ジメチルアセトアミド1.5Lを量り取り120℃で2時間攪拌した。次いでリチウムクロライド90gを添加しさらに1時間撹拌した。反応液を室温まで戻した後、粉末状の水酸化ナトリウム67gを添加し、55℃で攪拌した。さらにヨードエタン222mLを滴下し、さらに55℃で3時間撹拌した。反応溶液をメタノール/水(3L/3L)へ激しく攪拌しながら投入すると、黄白色固体が析出した。黄白色固体を吸引ろ過によりろ別し、大量のメタノールで3回洗浄を行った。得られた黄白色個体を100℃で6時間真空乾燥することにより目的のエチルセルロース(置換度:1.30)を黄白色粉体として得た(36.8g)。
【0073】
なお、以上で得られた化合物について、セルロースに含まれる水酸基(R、R及びR)に置換された官能基の種類、並びにDS、DS及びDSは、Cellulose Communication 6,73−79(1999)及びChrality 12(9),670−674に記載の方法を利用して、H−NMRあるいは13C−NMRにより、観測及び決定した。
各化合物が有する置換基(エーテル基を置換基B、カルバメート基を置換基Cとする)と置換度を以下の表にまとめる。
【0074】
【表1】

【0075】
<セルロース誘導体の物性測定>
得られたセルロース誘導体について、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(MWD)、ガラス転移温度(Tg)を表2に示す。表2には後述の比較ポリマーについても記載してある。なお、これらの測定方法は以下の通りである。
【0076】
[分子量及び分子量分布]
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(MWD)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いた。具体的には、テトラヒドロフランを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めた。GPC装置は、HLC−8220GPC(東ソー社製)を使用した。
【0077】
[ガラス転移温度]
示差走査熱量計(品番:DSC6200、セイコー電子社製)を用いて10℃/分で昇温して測定した。
【0078】
【表2】

【0079】
<実施例1:セルロース誘導体からなる成形体の作製>
[試験片作製]
上記で得られたセルロース誘導体(P−1)を射出成形機((株)井元製作所製、半自動射出成形機)に供給してシリンダー温度250℃、金型温度30℃、射出圧力1.8kgf/cmにて4×10×80mmの多目的試験片(衝撃試験片および熱変形試験片)を成形した。
ポリマー成形におけるシリンダー温度はメルトフローレートが5〜15g/10minの範囲となる温度に設定した。金型温度は30℃とした。
[フイルム作製]
上記で得られたセルロース誘導体(P−1)をミニプレス機(東洋精機(株)製)を用いて、プレス温度240℃にて100μmの溶融成形フイルムを作製した。
【0080】
同様にして、セルロース誘導体(P−2)〜(P−9)、比較化合物としてセルロース誘導体(H−1)、(H−2)、(H−3)(和光純薬製:メチルセルロース、メトキシ置換度1.8)、(H−4)(アルドリッチ製:エチルセルロース、エトキシ置換度2.4)を用いて、表3の成形条件に従って成形し試験片を作製するとともに、実施例2〜9、比較例1〜4の溶融成形フイルムを作製した。
【0081】
<試験片の物性測定>
得られた試験片について、下記の方法にしたがってシャルピー衝撃強度を測定した。結果を表3に示す。
[シャルピー衝撃強度]
ISO179に準拠して、射出成形にて成形した試験片に入射角45±0.5°、先端0.25±0.05mmのノッチを形成し、30℃±2℃、50%±5%RHで48時間以上保存した後、シャルピー衝撃試験機によってエッジワイズにて衝撃強度を測定した。
【0082】
<フイルムの物性測定>
得られたフイルムについて、JIS K7127の方法にしたがって破断伸度、破断強度を測定した。結果を表3に示す。
【0083】
【表3】

【0084】
表3の結果から明らかなように、メチルセルロース(比較例2、3)が熱可塑性を発現しないのに対し、カルバメート基を導入することによって熱可塑性が付与され成形可能になったうえに、高い耐衝撃性、破断強度を発現していることがわかる。また、熱可塑性を有するエチルセルロースにおいても、カルバメート基を修飾することによって、耐衝撃性、破断強度の向上が見られる。また、セルロースエチルカルバメートを用いた場合(比較例1)には、成形中に熱分解を伴い、非常に脆い試験片もしくはフイルムとなり、力学特性の評価に至らなかった。以上のことから、本発明のセルロース誘導体を用いた成形体では、いずれも高い衝撃性と柔軟性を示すことがわかる。
即ち、本発明のセルロース誘導体によれば、熱可塑性の発現と耐衝撃性という予期せぬ効果が得られることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースに含まれる水酸基の少なくとも一部が、脂肪族または芳香族のエーテル基、及び脂肪族または芳香族のカルバメート基に置換されたセルロース誘導体。
【請求項2】
前記カルバメート基が脂肪族カルバメート基である請求項1に記載のセルロース誘導体。
【請求項3】
前記エーテル基の炭素数が1〜9である請求項1又は2に記載のセルロース誘導体。
【請求項4】
前記エーテル基がメチルエーテル基又はエチルエーテル基である請求項1〜3のいずれかに記載のセルロース誘導体。
【請求項5】
前記エーテル基がメチルエーテル基である請求項1〜3のいずれかに記載のセルロース誘導体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のセルロース誘導体を含有する樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のセルロース誘導体又は請求項6に記載の樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【請求項8】
請求項7に記載の成形体を含む電子機器用筺体。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載のセルロース誘導体の製造方法であって、セルロースエーテルにイソシアネートを反応させる工程を含むセルロース誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2010−90311(P2010−90311A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263070(P2008−263070)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】