説明

センサー用途向けハンドヘルド型位相シフト検出器

【解決手段】 本発明は、配列したセンサーとインターフェースが可能な新規の位相シフト検出器に関する。前記検出器は、軽量で携帯用であり、手のひらの中に収めることができる。前記検出器は、種々の診断、バイオセンサー、および化学センサーの用途に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)によって授与された助成金第R01 EB000720号および国立科学財団(National Science Foundation)によって授与された助成金第CHE−0442100号を基に政府の支援を得て実施されたものであり、従って、政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、圧電マイクロカンチレバーセンサー(piezoelectric microcantilever sensor:PEMS)とインターフェース可能な携帯用ハンドヘルド型位相シフト検出器、前記検出器を使用する方法、および前記検出器を含むシステムに関する。本発明はセンサーまたは診断装置として特に有用である。
【背景技術】
【0003】
インピーダンス分析器と連結したバイオセンサーおよび化学センサーは、当該技術分野において周知である。例えば、米国特許第6,278,379号明細書、および米国特許出願公開第20060257286号明細書および米国特許出願公開第20060217893号明細書には、共振周波数の変化を検出するためのインピーダンス分析器を組み込んだセンサー装置が開示されている。
【0004】
しかしながら、現在のインピーダンス分析器は、一般的にかさばり、重く、比較的移動が難しいので、共振周波数を測定できる環境が限定される。米国特許出願公開第2005/0114045号明細書および米国特許第6,280,396号明細書によって開示されているように、建物などの大きな構造物の物理特性を決定するインピーダンス分析器および体組成を決定するインピーダンス分析器のように、携帯化されたインピーダンス分析器も中にはあるが、化学センサーまたはバイオセンサーと共に使用するインピーダンス分析器は、依然として、大きく、扱いにくく、比較的移動が難しい。
【0005】
従って、診断またはセンサーの用途を容易にするために、軽量で携帯用の、ハンドヘルド型検出器の開発が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、配列したセンサーとインターフェース可能な新規の位相シフト検出器に関する。
【0007】
本発明の1観点において、前記位相シフト検出器は軽量で携帯型である。
【0008】
別の発明において、前記位相シフト検出器は、手のひらの中に収めることができるハンドヘルド型装置である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1a】図1(a)は、ハンドヘルド型位相検出器、発振器、位相検出器、およびリレー要素の概略図である。
【図1b】図1(b)は、配列した炭疽菌胞子の検出器とインターフェースしたハンドヘルド型位相シフト検出器の写真である。
【図2a】図2(a)は、複数の抗原を同時に検出可能な配列したPEMSと連動するハンドヘルド型位相シフト検出器の概略図である。
【図2b】図2(b)は、ハンドヘルド型の、携帯用位相シフト検出器の写真である。
【図2c】図2(c)は、4つのニオブ酸鉛マグネシウム−チタン酸鉛固溶体(PMN−PT)/Cuからなる配列したPEMSの光学顕微鏡写真である。
【図3】図3は、ハンドヘルド型位相シフト検出器を使用した炭疽菌の胞子の検出を示す、時間に対する共振周波数の変化のグラフである。
【図4a】図4(a)は、23μg/mlのHER2溶液内の、1つはHER2のscFvで被覆され、1つはPSA抗体で被覆され、1つはgp120抗体で被覆された3つのPEMSの同時検出を示す共振周波数対時間のグラフである。
【図4b】図4(b)は、18μg/mlのPSA溶液内の、1つはHER2のscFvで被覆され、1つはPSA抗体で被覆され、1つはgp120抗体で被覆された3つのPEMSの同時検出を示す共振周波数対時間のグラフである。
【図4c】図4(c)は、100μg/mlのgp120溶液内の、1つはHER2のscFvで被覆され、1つはPSA抗体で被覆され、1つはgp120抗体で被覆された3つのPEMSの同時検出を示す共振周波数対時間のグラフである。
【図5】図5は、固有のDMMP検出パターンを示す共振周波数対時間のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、図1(a)および1(b)に示すように、1若しくはそれ以上のセンサー7と同時にインターフェースし、それらを監視することが可能な携帯用ハンドヘルド型位相シフト検出器1に関する。位相シフト検出器1は、発振器2と、位相検出器3と、リレー要素4と、ディスプレイ画面5とを有する。前記リレー要素4は、前記配列したセンサー内の接続されたセンサー7間で、位相検出器3および発振器2の接続を循環させて、位相検出器3による各センサー7の出力の測定を可能とする。
【0011】
発振器2は、伝送路と、回路基板と、前記回路基板に実装されたチップ部品と、共振回路によって発生した共振信号を増幅する増幅回路とを含む共振回路を有する。接続部6によってセンサー7に接続された発振器2は、入力信号または電圧を発生させてセンサー7を起動させる。発振器2は、好ましくは、センサー7の共振周波数を包含する周波数範囲においてセンサー7の発振を誘起することによってセンサー7を起動させ、検体の結合の結果生じるセンサー7の共振周波数の変化の検出を可能とする。
【0012】
位相検出器3は、接続部8を通してセンサー7の出力電圧の大きさおよび位相シフトを測定する。周波数に対して描かれた位相シフトの最大値が共振周波数を特定する。共振周波数の顕著な変化は、特定の化合物または分子の、センサー表面上の特定の受容体との結合を示すため、検査中の環境内の前記化合物または分子の存在が検証される。
【0013】
1実施形態において、発振器2は、マイクロプロセッサ制御の信号発生器であってよい。位相シフト検出器1は、数値、またはグラフの形態などの任意の好適な方法で結果を表示するディスプレイ画面5を選択的に含んでもよい。好適な実施形態において、位相シフト検出器1は、また、コンピュータまたはコンピュータ用のディスクなどの電子情報記憶媒体にデータを伝送するデータ伝送器を含んでもよい。ディスプレイ画面5またはその他の好適な手段は、特定の検体の存在の表示を提供する表示器として機能してもよい。もしくは、ディスプレイ画面5またはその他の好適な手段は、特定の検体が閾値を超える量で存在する場合に表示を提供する表示器として機能してもよい。
【0014】
図1(b)に示すように、携帯用ハンドヘルド型位相シフト検出器1は、任意の好適なセンサーシステムに組み込んでもよく、またはそれと連結して動作してもよい。好適な実施形態において、位相シフト検出器1は、1若しくはそれ以上の圧電マイクロカンチレバー(piezoelectric microcantilevers:PEMS)または圧電マイクロディスクと接続されており、各PEMSの出力電圧の大きさおよび位相シフトの検出を可能とする。位相シフト検出器1には、任意の規格電源によって電力を供給することができる。好適な実施形態において、前記電源は一般的な9ボルト電池のように携帯可能で、小型軽量である。ハンドヘルド位相シフト検出器1は、約3.5インチ×7.5インチの大きさであってもよい。好ましくは、位相シフト検出器1は、複数のセンサーに同時に接続できる。好適な実施形態において、位相シフト検出器1は、約8個から32個のセンサーに同時に接続される。好ましくは、その装置全体は十分小型であり、1個人で検出現場に持ち運びが可能なものである。
【0015】
好適な実施形態において、前記ハンドヘルド型位相シフト検出器1は、奥行き約7.5cm、高さ約30cm、幅約30cmまでの寸法、および約2kgを超えない重量を有し、32個までのセンサーを同時に動作できる。前記配列したセンサーおよびそれらのホルダーは、幅約2cm、奥行き約2cm、高さ約1cmを超えない大きさで、重量は50gを超えないものあってもよい。前記位相シフト検出器1は、さらに、接続部6および接続部8を容易に実現する、リボンケーブルなどのリレー機構を含んでもよい。好ましくは、前記リボンケーブルは、長さ1m未満、幅3cm未満で、重量は50g未満である。好ましくは、ハンドヘルド位相シフト検出器1とセンサー7とを含む前記システムの総重量は、2.5kgを超えないものである。
【0016】
好適に小型な前記装置は、携帯可能でかつ丈夫である。好適な実施形態において、前記装置は、手のひらの中に収めることができる。前記位相シフト検出器は簡潔な設計であるので、容易かつ安価に製造でき、多くの用途向けの市販製品として入手可能とすることができる。前記位相シフト検出器は、バイオセンサー、診断、または、任意の分子または化学センサー用途に使用できる。
【実施例1】
【0017】
図2(b)は、PEMSの配列と組み合わせた、測定装置としての、アナログ・デバイセズ(Analog Devices)社製AD8203RF利得/位相検出ICと、高分解能のマイクロプロセッサ制御の信号発生器としての、Analog Devices社製AD9850DDS周波数合成器とを有する位相シフト検出器の1実施形態を示す。図2(a)の位相シフト検出器は、少なくとも8個のPEMSを同時に監視することができる。
【実施例2】
【0018】
図1(b)は、位相シフト検出器および配列したPEMSを示す。前記ハンドヘルド型位相シフト検出器は、各PEMSの周波数変化を正確に検出した。図3は、図1(b)の位相シフト検出器によって処理した炭疽菌(Bacillus anthracis:BA)の検出の実証研究の結果を示す。白抜きの円は、BA胞子に特異の抗体で被覆した2mm長のガラス先端を有するPZT/ガラスPEMSを表し、白抜きの四角は、BA胞子に特異ではなく、ネズミチフス菌に特異の抗体で被覆したカンチレバーを表す。前記位相シフト検出器は、前記PEMSが、BA胞子に特異の抗体で被覆した前記PEMSからのみBA胞子の存在を特定し、それに対して、サルモネラに特異の抗体で被覆した前記PEMSは前記BA胞子を検出しなかったことを正確に報告した。従って、前記結果は、前記ハンドヘルド型位相シフト検出器が、インピーダンス分析器によって得られた結果と同様の正確な結果を生成することが可能であることを立証している。
【実施例3】
【0019】
3つの配列したPEMSと組み合わせたハンドヘルド型位相シフト検出器を使用して、種々の抗原の存在を検出した。抗gp120、抗PSA、およびHer2のscFvを含む異なる受容体を各PEMSの表面上に固定した。gp120は、ヒト免疫不全症ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)の表面タンパク質である。前立腺特異抗原(prostate specific antigen:PSA)は前立腺癌マーカーであり、HER2は乳癌およびその他の癌に関連した上皮成長因子受容体のメンバーであり、scFvは改変型一本鎖変異フラグメント受容体である。
【0020】
各受容体に特異の抗原を含む各々3つの異なる溶液内に前記PEMSを配置した。図4に示すように、前記位相シフト検出器は、前記配列を各々の溶液内に沈めたときに、前記溶液内に存在するマーカーに対応した抗原特異の受容体を有するPEMSのみが反応したことを正しく報告した。図4(a)は、HER2に対するscFvを有するPEMSのみがHER2に反応したことを示している。図4(b)は、PSAの抗体を有するPEMSのみがPSAに反応したことを示しており、図4(c)は、gp120の抗体を有するPEMSのみがgp120に反応したことを示している。この実験は、前記位相シフト検出器および配列したPEMSが複数の抗原を同時に検出できることを明示している。
【実施例4】
【0021】
また、配列したPEMSと組み合わせた前記ハンドヘルド型位相シフト検出器を、気体/化学物質を検出するために使用してもよい。抗体−抗原結合が特異である生態学的検出とは異なり、気体/化学物質検出のための受容体のほとんどは選択的ではない。異なる受容体を有する配列したPEMSを使用することにより、気体または化学物質に関する特殊検出パターンを創り出すことが可能である。前記配列したPEMSの特殊な組み合わせにより、化学物質または気体の検出の検出感度および精度が向上する。図5は、神経ガス類似物であるメチルホスホン酸ジメチル(dimethyl methylphosphonate:DMMP)用に固有の配列したPEMSを示す。
【0022】
DMMPを検出するために、3つのニオブ酸鉛マグネシウム−チタン酸鉛固溶体(lead magnesium niobate−lead titanate solid solution:PMN−PT)/CuからなるPEMSの各々は、細孔性シリカ、メソ多孔性アルミナ、および11−メルカプトウンデカン酸(mercaptoundecanoic acid:MUA)の自己構成単分子膜上のCu2+イオンの分子膜によって前記PEMSの表面上に固定した異なる受容体で被覆されている。
【0023】
実例的であることを意図し、限定的ではない本発明の好適な実施形態を説明したが、上述の教示を考慮すれば、当業者によって改造および変型をなすことができることを特に記す。従って、開示の本発明の特定の実施形態に、添付の請求項によって要約された本発明の範囲および趣旨の範囲内の変更を施してもよいことを理解すべきである。本発明を、特許法によって求められる詳細および特徴を伴ってこのように説明したが、意図される保護範囲は、添付の請求項に定める。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相シフトを検出する携帯用装置であって、
所望の周波数の入力信号を発生させる発振器と、
前記発振器が少なくとも1つのセンサーに動作可能に接続することを可能にする当該発振器との接続部と、
前記発振器に動作可能に接続されたセンサーからの出力信号の位相シフトを検出可能な検出器と
を有する装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、前記装置は、複数の配列したセンサーに動作可能に接続できるものである。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、この装置は、さらに、前記検出器を前記センサーの各々に選択的に接続して、当該センサーからの出力信号を選択的に受信するリレー部を有するものである。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、前記発振器は、マイクロプロセッサにより制御される信号発生器である。
【請求項5】
請求項3記載の装置において、前記センサーは、圧電マイクロカンチレバーと、圧電マイクロディスクからなる群から選択されるものである。
【請求項6】
請求項1記載の装置において、前記位相シフト検出器は、RF利得/位相検出器である。
【請求項7】
請求項1記載の装置において、前記装置の総重量は、約2kgを超えないものである。
【請求項8】
請求項1記載の装置において、前記装置は、奥行き約7.5cm、幅約30cm、高さ約30cmを超えないサイズを有するものである。
【請求項9】
請求項1記載の装置において、この装置は、さらに、検体の存在の表示を生成する表示器を有するものである。
【請求項10】
請求項1記載の装置において、この装置は、さらに、閾値の量を超える検体の量の存在の表示を生成する表示器を有するものである。
【請求項11】
検体の存在を検出する携帯用システムであって、
所望の周波数の入力信号を発生させる発振器と、
入力信号が提供されると出力信号を発生させることが可能な少なくとも1つのセンサーと、
前記発振器と前記少なくとも1つのセンサーを接続し、前記発振器から前記センサーに前記入力信号を提供する接続部と、
前記センサーからの出力信号の位相シフトを検出可能な検出器と、
前記センサーと前記検出器を接続し、前記センサーから前記検出器に前記出力信号を提供する接続部と
を有し、
前記システムは十分小型であり、1個人による検出現場までの持ち運びが可能なものである
携帯用システム。
【請求項12】
請求項11記載のシステムにおいて、このシステムは、複数のセンサーと、前記発振器と各センサーを接続する接続部と、各センサーから前記検出器を接続する接続部とを有するものである。
【請求項13】
請求項12記載のシステムにおいて、このシステムは、さらに、前記検出器を各々のセンサーに選択的に接続して、当該センサーからの出力信号を選択的に受信するリレー部を有するものである。
【請求項14】
請求項11記載のシステムにおいて、前記発振器は、マイクロプロセッサにより制御される信号発生器である。
【請求項15】
請求項13記載のシステムにおいて、前記センサーは、圧電マイクロカンチレバーである。
【請求項16】
請求項11記載のシステムにおいて、前記位相シフト検出器は、RF利得/位相検出器である。
【請求項17】
請求項11記載のシステムにおいて、前記システムの総重量は、約2.5kgを超えないものである。
【請求項18】
請求項11記載のシステムにおいて、前記システムは、奥行き約7.5cm、幅約30cm、高さ約30cmを超えないサイズを有するものである。
【請求項19】
請求項11記載のシステムにおいて、このシステムは、さらに、検体の存在の表示を生成する表示器を有するものである。
【請求項20】
請求項11記載のシステムにおいて、このシステムは、さらに、閾値の量を超える検体の量の存在の表示を生成する表示器を有するものである。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図4c】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−518380(P2010−518380A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548403(P2009−548403)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/052388
【国際公開番号】WO2008/109205
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(598072065)ドレクセル・ユニバーシティー (11)