説明

センサ制御装置、センサ制御システムおよびセンサ制御方法

【課題】検知素子の個体差に応じて出力補正を適用するタイミングを早め、特定ガスの濃度検知をより早く開始できるようにしたセンサ制御装置、センサ制御システムおよびセンサ制御方法を提供する。
【解決手段】ガスセンサの第二酸素ポンプセルに一定の電流を一定時間供給して、第二測定室から第二測定室外部に汲み出す酸素量を一定に制御する予備制御を実行する(S40〜S50)。駆動制御(S55〜S80)の開始当初に第二測定室への酸素の汲み戻しが行われ、汲み戻しの最中はNOx濃度対応値の経時変化が大きく安定しないが、ガスセンサに共通の補正データを用いてNOx濃度対応値の補正を行う。その際に、ガスセンサの個体差に応じて求められる適用時間を用いて補正データを適用するタイミングを調整することで、早期から、補正によって精確となったNOx濃度対応値を出力することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知対象ガスに含まれる特定ガスの濃度を表す濃度対応値を算出するセンサ制御装置、センサ制御システムおよびセンサ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、排気ガス等の検知対象ガスに含まれる特定ガスの濃度を検知するガスセンサが利用されている。例えば、特定ガスとして窒素酸化物(以下、「NOx」という)を検知するNOxセンサは、酸素イオン伝導性の固体電解質層上に多孔質の電極が形成された、酸素濃度検知セルと、第一酸素ポンプセルと、第二酸素ポンプセルとを有する検知素子を備えている。第一酸素ポンプセルは、検知対象ガスが導入される第一測定室から酸素の汲み出しまたは汲み入れを行う。また、第二酸素ポンプセルは、第一測定室に連通する第二測定室から酸素の汲み出しを行う。
【0003】
NOxセンサの制御装置は、第一測定室に面する酸素濃度検知セルの出力電圧が一定値となるように、第一酸素ポンプセルに電流を流して第一測定室から酸素を汲み出し、また、第一測定室に酸素を汲み入れることによって、第一測定室内の検知対象ガスの酸素濃度を一定に制御する。また、制御装置は、第二酸素ポンプセルの電極間に一定電圧を印加することによって、第一測定室から第二測定室に導入されたガス(第一酸素ポンプセルにより酸素濃度が調整されたガス)から酸素を汲み出させる。この一定電圧の印加によってガス中のNOxが分解され、第二酸素ポンプセルに、NOx由来の酸素イオンが流れる。制御装置は、第二酸素ポンプセルを流れる電流値に基づいて、検知対象ガス中のNOx濃度を検知する。
【0004】
NOxセンサを用いて、例えば、内燃機関の排気ガスに含まれるNOx濃度を検知する場合、第二測定室に存在するガスは、前回の内燃機関の運転が停止してから再起動するまでの経過時間に応じて、大気雰囲気に近いリーン状態となる。そのため、制御装置には、内燃機関の起動時に、第二測定室に存在する酸素を一時的に急激に汲み出す予備制御を行うものがある。予備制御によって第二測定室内の酸素濃度を通常よりも早くNOx濃度の検出が可能な所定の低酸素濃度とすることで、制御装置は、NOx濃度の検知を通常よりも早くに開始することができる。
【0005】
また、予備制御が終了した時点における第二測定室内の酸素濃度は、NOx濃度の検出が可能な所定の低酸素濃度よりも低くなっている。予備制御に続いて行われる検知素子の駆動制御では、開始当初において、第二酸素ポンプセルへの印加電圧が上記の一定電圧となるように、第二測定室内への酸素の汲み戻しが行われる。そして、第二測定室内の酸素濃度が所定の低酸素濃度となって検知素子の出力が安定したら、NOx濃度の検出が行われる。
【0006】
ところで、第二酸素ポンプセルに印加される電圧値が所定値以上である場合、第二酸素ポンプセルの電極上において検知対象ガスに含まれる水(HO)の解離が発生することが知られている。HOの解離によって生ずる酸素イオンが第二酸素ポンプセルの電極間に流れることから、排気ガス中のHOの濃度に応じて電流値が増加することも知られている。予備制御において第二酸素ポンプセルに所定値以上の高い電圧が印加された場合、同一個体の検知素子であっても、予備制御が終了した時点における第二測定室内の酸素濃度がHO濃度に依存して異なる。すると、駆動制御が開始されてから酸素の汲み戻しが行われる過程において、検知素子の出力値が示す経時変化の傾向(言い換えると、時間に応じた出力値の変化の状態であり、検知素子の出力値と経過時間との関係を示すグラフにおいて描かれる形状(パターン)である。)が、HO濃度に依存して異なってくる。
【0007】
そこで、予備制御において、第二酸素ポンプセルに所定値の電流を一定時間流し、第二酸素ポンプセルによって汲み出される酸素の量が一定となるようにした制御装置が知られている(例えば特許文献1参照)。制御装置がこのような制御を行えば、予備制御の終了時における第二測定室内の酸素濃度を、HO濃度に依存することなくほぼ一定にすることができる。すると、駆動制御が開始され、酸素の汲み戻しが行われる過程において、検知素子の出力値が示す経時変化の傾向が、HO濃度に依存することなくほぼ一定の傾向を示すので、制御装置はNOx濃度を安定して測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−156676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、駆動制御が開始され、酸素の汲み戻しが行われる初期の段階において、経時変化の傾向については上記のようにほぼ一定の傾向を示しても、検知素子の個体差(個体間バラツキ)によって、経時変化の傾向が示される時期に、ずれを生ずる場合があった。従来は、駆動制御の開始当初においてNOx濃度の検出を行わず、所定時間の経過を待って、検知素子の出力が安定してからNOx濃度の検出が開始されており、このような個体差による酸素の汲み戻しにおける経時変化の傾向の時期的なずれは、考慮されていなかった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、検知素子の個体差に応じて出力補正を適用するタイミングを早め、特定ガスの濃度検知をより早く開始できるようにしたセンサ制御装置、センサ制御システムおよびセンサ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1態様によれば、検知対象ガスが導入される第一測定室と、第一固体電解質層と一対の第一電極とを備え、前記一対の第一電極が前記第一測定室の内側と外側とに設けられる第一酸素ポンプセルと、前記第一測定室に連通する第二測定室と、第二固体電解質層と一対の第二電極とを備え、前記一対の第二電極が前記第二測定室の内側と外側とに設けられた第二酸素ポンプセルとを備えるガスセンサを制御するセンサ制御装置であって、前記第一測定室に導入された前記検知対象ガスの酸素濃度を前記第一酸素ポンプセルへの通電によって調整するとともに、前記第二酸素ポンプセルへ通常電圧を印加する駆動制御を行う駆動制御手段と、前記駆動制御を開始する前に、前記第二酸素ポンプセルに対して一定の電流を一定時間供給して、前記第二測定室から当該第二測定室外部に汲み出す酸素量を一定に制御する予備制御を実行する予備制御手段と、前記駆動制御が開始され、前記通常電圧が印加された前記第二酸素ポンプセルに流れる電流の大きさに基づいて前記検知対象ガスに含まれる特定ガスの濃度を表す濃度対応値を算出する算出手段と、濃度既知の基準ガスのもとで、予め設定された前記予備制御を実行した後に前記駆動制御を開始してからの前記濃度対応値の経時変化のパターンを表すパターンデータを、同一の構成を有する前記ガスセンサに共通の補正データとして記憶する記憶手段と、前記駆動制御を開始してからの前記濃度対応値が示す経時変化のパターンが、前記補正データに表される経時変化のパターンに沿うように、前記補正データを適用するタイミングを決定する決定手段と、前記決定手段によって決定されたタイミングに基づいて、前記濃度対応値に前記補正データを適用し、前記濃度対応値の補正を行う補正手段と、を備えるセンサ制御装置が提供される。
【0012】
第二酸素ポンプセルが汲み出す酸素の量は、第二酸素ポンプセルが備える一対の第二電極間に流れる電流値に比例する。このため、第1態様のセンサ制御装置では、予備制御終了時点において、第二測定室内の酸素濃度は、同一個体のガスセンサであれば、検知対象ガスに含まれるHO濃度によらずほぼ同じ濃度となる。ゆえに、予備制御を実行することによって、検知対象ガスにおけるHO濃度が変化する場合にも、また、ガスセンサが異なる場合にも、予備制御終了後に算出される濃度対応値の経時変化はほぼ同じパターンを示す。そこで、決定手段によってガスセンサの個体差に応じて決定されるタイミングに基づいて補正データを適用すれば、濃度対応値の経時変化が小さくなる時期以前の経時変化が大きな時期の濃度対応値を、経時変化が小さくなるように補正することができる。ゆえに、従来は濃度対応値の経時変化が小さくなった時期より行っていた濃度対応値の出力を、ガスセンサの個体差に応じて、より早期から、行うことができる。
【0013】
第1態様において、前記記憶手段は、前記ガスセンサごとに決定された、前記駆動制御を開始してから前記補正データを適用するタイミングまでの適用時間であって、濃度既知の基準ガスのもとで、前記予備制御を実行した後に前記駆動制御を開始し、当該駆動制御を開始してからの前記濃度対応値が示す経時変化のパターンが、前記補正データに表される経時変化のパターンに沿うように当該補正データを適用するための適用時間をさらに記憶してもよい。前記決定手段は、前記駆動制御を開始してから前記適用時間が経過したときに、前記補正データが適用されるタイミングになったことを決定してもよい。
【0014】
補正データを適用するタイミングを、あらかじめガスセンサの個体差に応じた適用時間として求めておき、適用時間の経過に基づき適用タイミングを決定すれば、適用タイミングを演算等により求めなくとも済む。ゆえに、決定手段の行う処理を簡素化するとともに、決定手段にかかる負荷を軽減することができる。
【0015】
第1態様において、前記記憶手段は、前記ガスセンサごとに決定された、前記酸素量の調整に関する前記センサ制御装置の制御条件であって、濃度既知の基準ガスのもとで、前記予備制御を実行した後に前記駆動制御を開始し、当該駆動制御を開始してからの前記濃度対応値が目標範囲内に納まるように制御するための制御条件をさらに記憶してもよい。前記予備制御手段は、前記制御条件のもとで、前記予備制御を実行してもよい。
【0016】
予備制御実行時の酸素量を調整する制御条件がガスセンサごとに決定されることによって、濃度既知の基準ガスのもとでの駆動制御を開始してからの濃度対応値の経時変化のパターンが、目標範囲内に収まる。つまり、予備制御実行時の酸素量を調整する制御条件が各ガスセンサに対して個別に設定されることによって、センサ制御装置は、ガスセンサの製造バラツキ等の影響を受けずに、駆動制御を開始後に算出される濃度対応値を目標範囲内に有効に収めることができる。すなわち、製造バラツキ等に起因して異なる出力特性を有するガスセンサを備えたセンサ制御装置において、駆動制御を開始後に算出される濃度対応値を比較した場合、各センサ制御装置の濃度対応値の経時変化は目標範囲内に収まる。目標範囲は、駆動制御開始後の濃度対応値の許容バラツキを考慮して適宜定められる。したがってセンサ制御装置は、検知対象ガスのHO濃度がセンサ制御装置の起動ごとに異なる場合にも、また、ガスセンサが出力特性のバラツキを有する場合にも、予備制御終了後(換言すれば、駆動制御開始後)に算出される濃度対応値の経時変化はほぼ同じパターンを示す。このため、同一の構成を有するガスセンサに共通の補正データを適用して濃度対応値の補正を行う上で、より精度よく、濃度対応値の補正を行うことができる。
【0017】
第1態様において、前記制御条件は、前記一定の電流および前記一定時間の少なくとも一方が、前記ガスセンサごとに決定された条件を含んでもよい。予備制御実行時の第二酸素ポンプセルの通電条件を、ガスセンサごとに異ならせた一定の電流の値、または通電時間あるいはその両方を制御するという簡単な制御を実行するだけで、駆動制御開始後の濃度対応値のガスセンサごとのバラツキを低減させることができる。制御条件のうち、第二酸素ポンプセルへの通電時間に、複数のガスセンサ間で共通の時間(一定時間)を設定した上で、出力特性を考慮してガスセンサごとに個別に一定の電流の値を設定した場合には、第1態様のセンサ制御装置は、起動してから駆動制御を実行するまでの時間を、ガスセンサごとでほぼ同じとすることができる。
【0018】
本発明の第2態様によれば、請求項1から4のいずれかに記載の前記ガスセンサと、前記センサ制御装置とを備え、前記センサ制御装置によって前記ガスセンサの制御を行うセンサ制御システムが提供される。個体差の生じうるガスセンサと、そのガスセンサに対応するセンサ制御装置とを、センサ制御システムとして提供することで、特定ガスの濃度検知をより早く開始することができると共に、センサ制御装置にて得られる濃度対応値の精度が高いものとなるため、センサ制御システムの信頼性を確保することができる。
【0019】
本発明の第3態様によれば、検知対象ガスが導入される第一測定室と、第一固体電解質層と一対の第一電極とを備え、前記一対の第一電極が前記第一測定室の内側と外側とに設けられる第一酸素ポンプセルと、前記第一測定室に連通する第二測定室と、第二固体電解質層と一対の第二電極とを備え、前記一対の第二電極が前記第二測定室の内側と外側とに設けられた第二酸素ポンプセルとを備えるガスセンサを制御するセンサ制御装置において実行されるセンサ制御方法であって、前記第一測定室に導入された前記検知対象ガスの酸素濃度が前記第一酸素ポンプセルへの通電によって調整されるとともに、前記第二酸素ポンプセルへ通常電圧を印加する駆動制御が行われる駆動制御ステップと、前記駆動制御が開始される前に、前記第二酸素ポンプセルに対して一定の電流を一定時間供給して、前記第二測定室から当該第二測定室外部に汲み出す酸素量を一定に制御する予備制御が実行される予備制御ステップと、前記駆動制御が開始され、前記通常電圧が印加された前記第二酸素ポンプセルに流れる電流の大きさに基づいて前記検知対象ガスに含まれる特定ガスの濃度を表す濃度対応値が算出される算出ステップと、濃度既知の基準ガスのもとで、予め設定された前記予備制御を実行した後に前記駆動制御を開始してからの前記濃度対応値の経時変化のパターンを表すパターンデータが、同一の構成を有する前記ガスセンサに共通の補正データとして、前記センサ制御装置の備える記憶手段に予め記憶されており、前記駆動制御を開始してからの前記濃度対応値が示す経時変化のパターンが、前記補正データに表される経時変化のパターンに沿うように、前記補正データを適用するタイミングが決定される決定ステップと、前記決定ステップにおいて決定されたタイミングに基づいて、前記濃度対応値に前記補正データが適用され、前記濃度対応値の補正が行われる補正ステップと、を含むセンサ制御方法が提供される。
【0020】
また、第3態様において、前記記憶手段には、前記ガスセンサごとに決定された、前記駆動制御を開始してから前記補正データを適用するタイミングまでの適用時間であって、濃度既知の基準ガスのもとで、前記予備制御を実行した後に前記駆動制御を開始し、当該駆動制御を開始してからの前記濃度対応値が示す経時変化のパターンが、前記補正データに表される経時変化のパターンに沿うように当該補正データを適用するための適用時間がさらに記憶されてもよい。前記決定ステップでは、前記駆動制御を開始してから前記適用時間が経過したときに、前記補正データが適用されるタイミングになったことが決定されてもよい。
【0021】
第3態様のセンサ制御方法に従ってガスセンサが制御されることにより、利用者は、第1態様のセンサ制御装置と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ガスセンサ10およびセンサ制御装置5を備えるセンサ制御システム1の概念図である。
【図2】メイン処理のフローチャートである。
【図3】同一個体のガスセンサ10に対し通電時間を変化させて予備制御を実行した場合の、駆動制御開始直後のNOx濃度対応値の経時変化を表すグラフである。
【図4】基準時間の予備制御を行った場合の駆動制御開始直後のNOx濃度対応値の経時変化を表すグラフである。
【図5】予備制御の通電時間と、駆動制御開始後40secにおけるNOx濃度対応値の代表パターンに対するずれ量との関係を示すグラフである。
【図6】ガスセンサ10ごとに制御条件(通電時間)が設定された場合の、駆動制御開始直後のNOx濃度対応値の経時変化を表すグラフである。
【図7】駆動制御開始直後のNOx濃度対応値を補正した場合の経時変化と補正しなかった場合の経時変化とを比較して表すグラフである。
【図8】予備制御処理の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化したセンサ制御装置、センサ制御システムおよびセンサ制御方法の一実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、参照する図面は、本発明が採用し得る技術的特徴を説明するために用いるものであり、記載している装置の構成等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0024】
以下、図1を参照し、本発明に係るセンサ制御システム1について説明する。まず、センサ制御システム1の概略的な機能について説明する。図1に示す、センサ制御システム1は、ガスセンサ10とセンサ制御装置5を備える。センサ制御装置5は、ガスセンサ10と電気的に接続され、特定ガスとして窒素酸化物(NOx)の濃度を検知する機能を有する。ガスセンサ10は、自動車の排気通路(図示外)に取り付けられ、排気ガス中のNOx濃度に応じた電流値をセンサ制御装置5に出力する。センサ制御装置5は、ガスセンサ10を制御する他、ガスセンサ10から出力された電流値に基づいて、排気ガス中のNOx濃度を表す濃度対応値(以下、「NOx濃度対応値」という。)を算出する。本実施の形態のセンサ制御装置5は、NOx濃度対応値として、NOx濃度を算出する。
【0025】
次に、センサ制御装置5に接続されるガスセンサ10の構造について説明する。ガスセンサ10は、検知素子11と、ヒータ素子35と、コネクタ部40と、ハウジング(図示外)とを備える。検知素子11は、3枚の板状の固体電解質体12,13,14の間に、アルミナ等からなる絶縁体15,16をそれぞれ挟み、層状をなすように形成されている。ヒータ素子35は、固体電解質体12,13,14の早期活性化と、固体電解質体12,13,14の活性の安定性維持とのために、固体電解質体14に積層されている。コネクタ部40は、検知素子11およびヒータ素子35とリード線を介して接続されており、ガスセンサ10と、センサ制御装置5とを電気的に接続するために設けられている。ハウジングは、ガスセンサ10を排気通路(図示外)に取り付けるために、検知素子11と、ヒータ素子35とを内部に保持する。以下、ガスセンサ10が備える各構成について詳述する。
【0026】
まず、検知素子11の構成を説明する。検知素子11は、第一測定室23と、第二測定室30と、基準酸素室29と、第一酸素ポンプセル2(以下、「Ip1セル2」という。)と、酸素分圧検知セル3(以下、「Vsセル3」という。)と、第二酸素ポンプセル4(以下、「Ip2セル4」という。)とを備える。
【0027】
第一測定室23は、排気通路内の排気ガスが検知素子11内に最初に導入される小空間である。第一測定室23は、固体電解質体12と固体電解質体13との間に形成されている。第一測定室23の固体電解質体12側の面には電極18が配置され、固体電解質体13側の面には電極21が配置されている。第一測定室23の検知素子11における先端側には、多孔質状の第一拡散抵抗部24が設けられている。第一拡散抵抗部24は、第一測定室23内外の仕切りとして機能し、第一測定室23内への排気ガスの単位時間あたりの流通量を制限する。同様に、第一測定室23の検知素子11における後端側には、多孔質状の第二拡散抵抗部26が設けられている。第二拡散抵抗部26は、第一測定室23と第二測定室30との仕切りとして機能し、第一測定室23から第二測定室30内へのガスの単位時間あたりの流通量を制限する。
【0028】
第二測定室30は、固体電解質体12と、第二拡散抵抗部26および開口部25と、固体電解質体13に設けられた開口部31と、絶縁体16と、固体電解質体14とによって囲まれた小空間である。第二測定室30は、第一測定室23と連通し、Ip1セル2によって酸素濃度が調整された後の排気ガス(以下、「調整ガス」という。)が導入される。第二測定室30の固体電解質体14側の面には電極28が配置されている。
【0029】
基準酸素室29は、絶縁体16と、固体電解質体13と、固体電解質体14とによって囲まれた小空間である。基準酸素室29内には、セラミック製の多孔質体が充填されている。また、基準酸素室29の固体電解質体13側の面には電極22が配置され、固体電解質体14側の面には電極27が配置されている。
【0030】
Ip1セル2は、固体電解質体12と、多孔質性の電極17,18とを備える。固体電解質体12は、例えばジルコニアからなり、酸素イオン伝導性を有する。電極17,18は、検知素子11の積層方向において固体電解質体12の両面に設けられている。電極17,18は、Ptを主成分とする材料によって形成される。Ptを主成分とする材料としては、例えば、Ptと、Pt合金と、Ptとセラミックスとを含むサーメットとが挙げられる。また、電極17,18の表面には、セラミックスからなる多孔質性の保護層19,20がそれぞれ形成されている。Ip1セル2は、両電極17,18間に電流が供給されることで、電極17の接する雰囲気(検知素子11の外部の雰囲気)と電極18の接する雰囲気(第一測定室23内の雰囲気)との間で、酸素の汲み出しおよび汲み入れ(いわゆる酸素ポンピング)を行う。
【0031】
Vsセル3は、固体電解質体13と、多孔質性の電極21,22とを備える。固体電解質体13は、例えばジルコニアからなり、酸素イオン伝導性を有する。固体電解質体13は、絶縁体15を挟んで固体電解質体12と対向するように配置されている。電極21,22は、検知素子11の積層方向における固体電解質体13の両面にそれぞれ設けられている。電極21は、第一測定室23内の固体電解質体12と向き合う側の面に形成されている。電極21,22は、上述のPtを主成分とする材料によって形成される。Vsセル3は、主として、固体電解質体13によって隔てられた雰囲気(電極21の接する第一測定室23内の雰囲気と、電極22に接する基準酸素室29内の雰囲気)間の酸素分圧差に応じて起電力を発生する。
【0032】
Ip2セル4は、固体電解質体14と、多孔質性の電極27,28とを備える。固体電解質体14は、例えばジルコニアからなり、酸素イオン伝導性を有する。固体電解質体14は、絶縁体16を挟んで固体電解質体13と対向するように配置されている。固体電解質体14の固体電解質体13側の面には、上述のPtを主成分とする材料によって形成された電極27,28がそれぞれ設けられている。Ip2セル4は、絶縁体16によって隔てられた雰囲気(電極27に接する基準酸素室29内の雰囲気と、電極28に接する第二測定室30内の雰囲気)間において酸素の汲み出しを行う。
【0033】
次に、ヒータ素子35について説明する。ヒータ素子35は、絶縁層36,37と、ヒータパターン38とを備える。絶縁層36,37は、アルミナを主成分とするシート状の形状を有する。ヒータパターン38は、絶縁層36,37の間に埋設され、ヒータ素子35内で繋がる一本の電極パターンである。ヒータパターン38は、一方の端部が接地され、他方の端部がヒータ駆動回路59に接続されている。ヒータパターン38は、Ptを主成分とする材料によって形成される。
【0034】
次に、コネクタ部40について説明する。コネクタ部40は、ガスセンサ10の後端側に設けられ、端子42〜47を備える。端子42には、リード線を介して、電極17が電気的に接続されている。端子43には、リード線を介して、電極18と、電極21と、電極28とが、それぞれ同電位に電気的に接続されている。端子44には、リード線を介して、電極22が電気的に接続されている。端子45には、リード線を介して、電極27が電気的に接続されている。端子46,47には、リード線を介して、ヒータパターン38が電気的に接続されている。
【0035】
次に、センサ制御装置5の電気的な構成について説明する。センサ制御装置5は、ガスセンサ10の検知素子11およびヒータ素子35の制御を行う装置である。また、センサ制御装置5は、検知素子11から取得した電流Ip2に基づきNOx濃度対応値を算出し、算出したNOx濃度対応値をエンジンの制御等を司るECU(電子制御ユニット)90に出力する。
【0036】
センサ制御装置5は、駆動回路部50と、マイクロコンピュータ60と、コネクタ部70とを備える。駆動回路部50は、検知素子11と、ヒータ素子35とを制御する。マイクロコンピュータ60は、駆動回路部50を制御する。コネクタ部70は、ガスセンサ10のコネクタ部40と電気的に接続される。以下、センサ制御装置5の各構成を説明する。
【0037】
駆動回路部50は、基準電圧比較回路51と、Ip1ドライブ回路52と、Vs検知回路53と、Icp供給回路54と、抵抗検知回路55と、Ip2検知回路56と、Vp2印加回路57と、定電流回路58と、ヒータ駆動回路59とを備える。以下、駆動回路部50が備える各構成について詳述する。
【0038】
Icp供給回路54は、Vsセル3の電極21,22間に微弱な電流Icpを供給し、第一測定室23内から基準酸素室29内への酸素の汲み出しを行う。Vs検知回路53は、電極21,22間の電圧(起電力)Vsを検知するための回路であり、その検知結果を基準電圧比較回路51に対し出力する。基準電圧比較回路51は、Vs検知回路53によって検知された電圧Vsを、基準となる基準電圧(例えば425mV)と比較するための回路であり、その比較結果をIp1ドライブ回路52に対し出力する。
【0039】
Ip1ドライブ回路52は、Ip1セル2の電極17,18間に電流Ip1を供給するための回路である。Ip1ドライブ回路52は、基準電圧比較回路51によるVsセル3の電極21,22間の電圧Vsの比較結果に基づいて、電圧Vsがあらかじめ設定された基準電圧と略一致するように、電流Ip1の大きさや向きを調整する。その結果、Ip1セル2では、第一測定室23内から検知素子11外部への酸素の汲み出し、あるいは検知素子11外部から第一測定室23内への酸素の汲み入れが行われる。言い換えると、Ip1セル2では、Ip1ドライブ回路52による通電制御に基づき、Vsセル3の電極21,22間の電圧が一定値(基準電圧の値)に保たれるように、第一測定室23内の酸素濃度の調整が行われる。
【0040】
抵抗検知回路55は、Vsセル3に検知電流を定期的に流し、その際の電圧変化量(電圧Vsの変化量)に基づいてVsセル3の内部抵抗Rpvsを検知するための回路である。抵抗検知回路55によって検知された電圧変化量を示す値はマイクロコンピュータ60に出力され、内部抵抗Rpvsが求められる。内部抵抗Rpvsは、Vsセル3の温度、すなわち検知素子11全体の温度と相関があり、内部抵抗Rpvsに基づいてヒータ素子35の通電制御が行われる。
【0041】
Ip2検知回路56は、Ip2セル4の電極28から電極27に流れた電流Ip2の値の検知を行う回路である。Vp2印加回路57は、後述する駆動制御処理の際に、Ip2セル4の電極27,28間に通常電圧Vp2(例えば、450mV)を印加するための回路であり、第二測定室30内から基準酸素室29への酸素の汲み出しを制御する。定電流回路58は、後述する予備制御処理の際に、Ip2セル4の電極28と電極27との間に一定の値の電流Ip3(例えば、10μA)を供給するための回路である。
【0042】
ヒータ駆動回路59は、固体電解質体12,13,14の温度(ガスセンサ10の温度)を所定の温度に保たせるための回路である。ヒータ駆動回路59はマイクロコンピュータ60によって制御され、ヒータ素子35のヒータパターン38へ電流を流し、固体電解質体12,13,14(換言すると、Ip1セル2,Vsセル3,Ip2セル4)を加熱する。マイクロコンピュータ60は、上記の内部抵抗Rpvsに基づいて、固体電解質体12,13,14が目標とする加熱温度になるように、ヒータ駆動回路59にヒータパターン38へのPWM通電を行わせる。
【0043】
次に、マイクロコンピュータ60は、公知のCPU61,ROM63,RAM62,信号入出力部64,およびA/Dコンバータ65を備えた演算装置である。マイクロコンピュータ60は、あらかじめ組み込まれたプログラムに従って駆動回路部50に制御信号を出力し、駆動回路部50が備える各回路の動作を制御する。ROM63には、各種プログラムと、プログラム実行時に参照される各種パラメータとが記憶されている。マイクロコンピュータ60は、ECU90と信号入出力部64を介して通信する。また、マイクロコンピュータ60は、A/Dコンバータ65および信号入出力部64を介して駆動回路部50と通信する。また、マイクロコンピュータ60には、公知のEEPROM66が接続されている。EEPROM66には、後述する制御条件、適用時間、および補正時間が記憶される。なお、後述するが、あらかじめ決定される代表パターン110を用いてガスセンサ10の出力の補正をするための補正データも、EEPROM66に記憶されている。
【0044】
コネクタ部70は、端子72〜77を備える。コネクタ部70が、コネクタ部40と接続された場合、端子72から77はそれぞれ、端子42から端子47に接続される。端子72には、配線を介して、Ip1ドライブ回路52が接続されている。端子73は、配線を介して、センサ制御装置5の基準電位に接続されている。端子74には、配線を介して、Vs検知回路53と、Icp供給回路54と、抵抗検知回路55とがそれぞれ接続されている。端子75には、配線を介して、Ip2検知回路56と、Vp2印加回路57と、定電流回路58とが接続されている。端子76には、配線を介して、ヒータ駆動回路59が接続されている。端子77は、配線を介して、接地されている。
【0045】
次に、NOx濃度を検知する場合のセンサ制御装置5の動作について説明する。排気通路(図示外)内を流通する排気ガスは、第一拡散抵抗部24を介して第一測定室23内に導入される。ここで、Vsセル3には、Icp供給回路54によって電極22側から電極21側へ微弱な電流Icpが供給される。このため、排気ガス中の酸素は、負極側となる電極21から酸素イオンとなって固体電解質体13内を流れ、基準酸素室29内に移動する。つまり、電極21,22間に電流Icpが供給されることによって、第一測定室23内の酸素が基準酸素室29内に送り込まれる。
【0046】
Vs検知回路53では、電極21,22間の電圧Vsが検知される。検知された電圧Vsは、基準電圧比較回路51によって基準電圧(例えば、425mV)と比較されて、その比較結果がIp1ドライブ回路52に対して出力される。ここで、電極21,22間の電位差が基準電圧付近で一定となるように、第一測定室23内の酸素濃度を調整すれば、第一測定室23内の排気ガス中の酸素濃度は所定の濃度C(例えば、0.001ppm)に近づくこととなる。
【0047】
そこで、Ip1ドライブ回路52では、第一測定室23内に導入された排気ガスの酸素濃度が濃度Cより薄い場合、電極17側が負極となるようにIp1セル2に電流Ip1を供給する。その結果、Ip1セル2では、検知素子11外部から第一測定室23内へ酸素の汲み入れが行われる。一方、第一測定室23内に導入された排気ガスの酸素濃度が濃度Cより濃い場合、Ip1ドライブ回路52は、電極18が負極となるようにIp1セル2に電流Ip1を供給する。その結果、Ip1セル2では、第一測定室23内から検知素子11外部へ酸素の汲み出しが行われる。このときの電流Ip1の大きさと、電流Ip1の流れる向きとに基づき、排気ガス中の酸素濃度の検知が可能である。
【0048】
第一測定室23において酸素濃度が濃度Cとなるように調整された調整ガスは、第二拡散抵抗部26を介し、第二測定室30内に導入される。第二測定室30内で電極28と接触した調整ガス中のNOxは、電極28を触媒としてNとOに分解(還元)される。分解された酸素は、電極28から電子を受け取り、酸素イオンとなって(解離して)固体電解質体14内を流れ、基準酸素室29内に移動する。このとき、固体電解質体14を介して一対の電極27,28間に流れる電流Ip2の値が、NOx濃度に対応しており、当該電流Ip2の値がNOx濃度対応値の算出に用いられる。
【0049】
次に、図2〜図8を参照し、センサ制御装置5においてガスセンサ10の制御が行われる際に実行されるメイン処理について説明する。図2に示すメイン処理では、活性化処理(図2における二点鎖線91内の処理)と、予備制御処理(二点鎖線92内の処理)と、駆動制御処理(二点鎖線93内の処理)とを含む処理が実行される。活性化処理は、検知素子11をヒータ素子35によって加熱して、検知素子11を活性化させる処理である。活性化処理が実行されている場合のセンサ制御装置5の制御状態を、活性化制御という。予備制御処理は、駆動制御処理が実行される前に第二測定室30内のガス中の酸素を一定量汲み出す処理である。予備制御処理が実行されている場合のセンサ制御装置5の制御状態を、予備制御という。駆動制御処理は、Ip1セル2への通電によって第一測定室23に導入された排気ガスの酸素濃度を調整し、Ip2セル4への通常電圧Vp2を印加する処理である。また駆動制御処理では、通常電圧Vp2が印加されたIp2セル4の電流の大きさに基づき、NOx濃度対応値を算出する処理が実行される。駆動制御処理が実行されている場合のセンサ制御装置5の制御状態を、駆動制御という。
【0050】
以下、メイン処理の詳細について説明する前に、本実施の形態のセンサ制御システム1においてNOx濃度対応値を算出する際に実施される補正の概要について説明する。ガスセンサ10の起動時に第二測定室30を満たしているガスは、前回のメイン処理実行時に内燃機関の運転が停止してから、すなわち排気ガスの供給が途絶えてから今回の起動までの間に、リーン雰囲気となる。予備制御を行わない場合、駆動制御の開始直後は、当該処理開始前に第二測定室30内を満たしているガスに含まれた残留酸素等を、第二測定室30から汲み出すことになる。この場合、本来算出すべき排気ガス中のNOx濃度に関わらず、残留酸素に応じて大きく変動する電流Ip2が流れることになる。したがって、駆動制御開始直後は、電流Ip2に基づくNOx濃度対応値は本来の排気ガス中のNOx濃度に応じた値を示さない。
【0051】
そこでセンサ制御装置5は、駆動制御処理に先立って予備制御処理を実行し、リーン雰囲気である状態から第二測定室30内の酸素濃度を低下させる。しかしながら、上述のように、Ip2セル4に所定値以上の一定の電圧が印加される場合、Ip2セル4による酸素の汲み出し量は、第二測定室30内のガス中のHO濃度に依存して異なってくるという問題がある。そこで本実施の形態では、予備制御時に、定電流回路58を駆動させ、Ip2セル4に供給する電流が一定となるように制御する。このようにすれば、同じガスセンサ10であれば、予備制御処理によって、第二測定室30からほぼ同量の酸素を汲み出すことができる。本実施の形態では、予備制御時のIp2セル4に供給する一定の電流Ip3を10μAとする。このとき、Ip2セル4に印加される電圧は、駆動制御時の電圧である通常電圧Vp2(425mV)よりも大きい。このため、予備制御時の単位時間当たりの酸素汲み出し量は、駆動制御時に比べ大きい。
【0052】
また、同じ構造を有するガスセンサ10であっても、NOx濃度と、電流Ip2に基づくNOx濃度対応値との関係を表す特性(以下、「出力特性」という。)が、ガスセンサ10の個体ごとに異なる場合がある。例えば、製造バラツキに起因して、複数のガスセンサ10の個体間で、同じNOx濃度下であっても出力特性がばらつく場合がある。このため、例えば排気ガス中のHO濃度が一定の場合であっても、予備制御が終了して駆動制御が開始され、電流Ip2が安定するまでにかかる時間が、出力特性に依存してガスセンサ10の個体ごとに異なるという問題が生じる。
【0053】
したがって、異なるガスセンサ10の個体それぞれに同一の予備制御の制御条件が設定されると、駆動制御開始直後のNOx濃度対応値の経時変化の傾向として示されるパターン(以下、「変化パターン」という。)は、ガスセンサ10の個体ごとに異なる場合がある。そこで、本実施の形態では、駆動制御開始後(換言すれば、予備制御終了後)に算出されるNOx濃度対応値が目標範囲(目標濃度範囲)内に収まるように、ガスセンサ10ごとに制御条件が設定される。制御条件とは、予備制御実行時に第二測定室30から汲み出す酸素量に関する条件である。制御条件には、例えば、予備制御実行時の一定電流の値、および通電時間の少なくとも一方の条件が含まれる。本実施の形態のセンサ制御装置5では、第二測定室30からの酸素汲み出し量に関わるパラメータのうち、第二測定室30に一定電流(10μA)が供給される通電時間(予備制御実行時間)がガスセンサ10ごとに設定され、他の条件には異なるガスセンサ10で共通の条件が設定される。
【0054】
予備制御の制御条件に含まれる通電時間は、例えば、次の手順でガスセンサ10ごとに設定される。事前準備として、所定個(例えば、100個)のガスセンサ10を用いて、基準時間と、目標範囲とが決定され、比較テーブルが作成される。基準時間とは、制御条件に含まれる通電時間を決定するために実施される予備制御の時間である。ここで、同じ構成を有するガスセンサ10において、基準ガスのもとでの予備制御での通電時間と変化パターンとの関係を比較すると、一般に、駆動制御開始直後(例えば、10秒後)のNOx濃度対応値は、予備制御での通電時間が短い順に、大きい値を示す。例えば、上記構成を有するガスセンサ10の、基準ガスのもとでの予備制御での通電時間と変化パターンとの関係は、図3に例示するようになる。なお、図3では、予備制御終了後に駆動制御を開始してからの経過時間を横軸に記載している。
【0055】
図3のように、駆動制御開始時からの25sec経過後のNOx濃度対応値は、変化パターン101(通電時間8sec)、変化パターン102(通電時間9sec)、変化パターン103(通電時間10sec)、変化パターン104(通電時間20sec)、変化パターン105(通電時間50sec)の順に、大きい値を示している。なお、基準ガスとは、NOx濃度が既知のガスである。NOx濃度対応値が所定の目標範囲(例えば、0±5ppm)に収まるか否かを判断するため、基準ガスのNOx濃度は0ppmであることが好ましい。本実施の形態の基準ガスの組成は、NOxが0ppm,Oが7%、HOが4%であり、残りはNガスである。基準ガスの温度は、150℃とした。
【0056】
また、図示しないが、所定個のガスセンサ10においての、通電時間と駆動制御開始直後のNOx濃度対応値のバラツキを比較すると、通電時間が短いほどバラツキが大きい。特に、基準時間以下の短い通電時間が設定される場合には、基準時間が短いほど、ガスセンサ10個体間の通電時間のバラツキが大きくなったり、ガスセンサ10の出力が安定するまでにかかる時間が長くなったりする傾向がある。したがって、基準時間は、ガスセンサ10のバラツキと、出力の安定にかかる時間とを考慮して決定される。本実施の形態では、基準時間を20secに設定している。
【0057】
上記のように所定個のガスセンサ10を用い、基準ガスのもとで、通電時間を基準時間(20sec)として一定電流値の電流を流す予備制御を行う。駆動制御開始直後の各ガスセンサ10の出力に基づく変化パターンをそれぞれ取得し、最も平均的な傾向を示す変化パターン(例えばバラツキの範囲において、より中央の値を通る変化パターン)を、図4に示すように、代表パターン110として定める。さらに、駆動制御開始後のNOx濃度対応値のバラツキの許容範囲を考慮して、代表パターン110を基準に適宜範囲を定め、これを目標範囲111とする。
【0058】
ここで、上記したように、予備制御での通電時間が短いほど、駆動制御開始直後のNOx濃度対応値が大きくなる。例えば、上記所定個のガスセンサ10のうちのサンプル#1(図示外)の出力として図4に示される変化パターン112は、駆動制御開始後、例えば40secにおいて、代表パターン110よりも大きい値を取る。サンプル#1の変化パターン112を代表パターン110に近づけるには、予備制御の通電時間を基準時間よりも長くすればよい。同様に、ガスセンサ10のうちのサンプル#2(図示外)の出力として示される変化パターン113は、駆動制御開始後40secにおいて代表パターン110よりも小さい値を取るので、代表パターン110に近づけるには予備制御の通電時間を基準時間よりも短くすればよい。
【0059】
ガスセンサ10の個体差によって、予備制御の通電時間を調整しても、代表パターン110と完全一致する変化パターンを得ることは難しい。ゆえに、本実施の形態では、予備制御を行った後の変化パターンが、代表パターン110を基準に定められた目標範囲111内に納まるように、個々のガスセンサ10に対し、それぞれのガスセンサ10に適切な通電時間を設定するのである。
【0060】
通電時間の設定は、駆動制御開始後40secにおけるNOx濃度対応値と、同40secにおける代表パターン110のNOx濃度対応値とのずれ量に応じて、図5に示すグラフから求められる。具体的に、予備制御の通電時間を適宜異ならせ、ガスセンサ10の出力が示す変化パターンが目標範囲111に納まる場合の通電時間を求める。さらに、その場合の駆動制御開始後40secにおけるNOx濃度対応値と、同40secにおける代表パターン110のNOx濃度対応値とのずれ量を求める。所定個のガスセンサ10に対して同様に、通電時間とずれ量との関係を求め、図5のグラフにプロットする。そして、通電時間とずれ量との関係を示す最適な関係線121を、例えば最小二乗法などを用いて求める。なお、NOx濃度対応値のずれ量を、駆動制御開始後40secにおいて求めるのは、駆動制御開始後おいてNOx濃度対応値が安定する前の時期で、ガスセンサ10の個体差による出力値の差が大きい時期であることによる。
【0061】
図5のグラフの関係線121を用い、図4の変化パターン112,113に示されるサンプル#1、サンプル#2のそれぞれ最適な予備制御の通電時間を求める。そして、求めた通電時間通りの予備制御を行ったサンプル#1、サンプル#2の出力が示す変化パターンを、それぞれ、図4の変化パターン114,115として示す。このように、図5の関係線121を用いて求められる通電時間通りに予備制御を行ったサンプル#1,#2の駆動制御開始後の出力が示す変化パターン114,115は、いずれも、代表パターン110を基準に定められた目標範囲111内に納まる。
【0062】
このように、基準時間を基準にして通電時間が調整されることによって、各ガスセンサ10の出力が示す変化パターンは代表パターン110の目標範囲111に納まる。すなわち、変化パターンによって示される傾向は、代表パターン110に示される傾向と、ほぼ同じ傾向となる。よって、上記したように、ガスセンサ10の出力値が安定してから(出力値の経時変化における変動が例えば0±5ppm以内に納まってから)NOx濃度対応値の取得を行えばよい。本実施の形態では、あらかじめ、ガスセンサ10の個体ごとに上記のようにして求めた通電時間をEEPROM66に記憶させており、後述するメイン処理では、EEPROM66から読み出した通電時間に基づいて、予備制御を行う。
【0063】
ところで、予備制御によって、ガスセンサ10の出力の変化パターンは、代表パターン110と実質的に同じ傾向となるのである。ゆえに、代表パターン110を用いてガスセンサ10の出力を補正すれば、ガスセンサ10の生の出力値が安定する前でも、出力値を補正した補正値を安定させることができる。本実施の形態では、代表パターン110を表すパターンデータを、同一の構成を有するガスセンサ10に共通の補正データとして、あらかじめEEPROM66に記憶させている。
【0064】
具体例として、上記所定個のガスセンサ10のうちのサンプル#3(図示外)の出力が示す変化パターン131を、図6のグラフに示す。変化パターン131の経時変化の傾向は、代表パターン110(図4参照)と同じ傾向を示すパターン133に沿う。仮に、パターン133が代表パターン110(図4参照)と同一のものであった場合、代表パターン110を用いてサンプル#3の出力が示す変化パターン131を補正すると、図7に示す、補正パターン141が得られる。補正は、(補正パターン141)=(サンプル#3の出力が示す変化パターン131)−(代表パターン110)の計算式のもとで行った。なお、変化パターン131の出力の値と代表パターン110の値は同じタイミングでの値を適用して、補正を実施している。補正パターン141によって示されるように、サンプル#3の出力を補正すれば、駆動制御開始直後の、ガスセンサ10の生の出力値が安定する前(例えば20sec以前(図6参照))においても、安定したNOx濃度対応値を得ることができる。
【0065】
しかし、予備制御における通電時間が同じとされたガスセンサ10同士であっても、駆動制御が開始されて酸素の汲み戻しが行われる初期の段階において、経時変化の傾向が示される時期(タイミング)に、ずれを生ずる場合がある。このタイミングのずれは、ガスセンサ10の制御が予備制御から駆動制御に切り換えられ、検知素子11に供給される電流の向きや大きさが変化するが、ガスセンサ10の個体差によって、追従性に差が出ることなどに起因する。
【0066】
具体例として、上記同様、ガスセンサ10のうちのサンプル#4(図示外)の出力が示す変化パターン132を、図6のグラフに示す。サンプル#4の変化パターン132の経時変化の傾向は、サンプル#3の変化パターン131よりも遅れたタイミングにおいて、代表パターン110(図4参照)と同じ傾向を示すパターン134に沿う。代表パターン110を用いてサンプル#4の変化パターン132を補正すると、図7に示す、補正パターン142が得られる。なお、補正は、(補正パターン142)=(サンプル#4の出力が示す変化パターン132)−(代表パターン110)の計算式のもとで行った。補正パターン142によって示されるように、サンプル#4の出力を補正しても、パターン134と代表パターン110のタイミングにそもそもずれがあるので、駆動制御開始直後に安定したNOx濃度対応値は得られない。
【0067】
そこで、本実施の形態では、ガスセンサ10の出力値に対して代表パターン110を用いて補正を行う上で、補正適用のタイミングを、ガスセンサ10の個体差に応じて調整している。具体例として、ガスセンサ10のうちのサンプル#4の出力が示す変化パターン132を、サンプル#4の出力のタイミングに合わせた上記のパターン134(図6参照)を用いて補正すると、図7に示す、補正パターン143が得られる。なお、補正は、(補正パターン143)=(サンプル#4の出力が示す変化パターン132)−(代表パターン110と同じ傾向を示すパターン134)の計算式のもとで行った。補正パターン143によって示されるように、サンプル#4の出力を、タイミングを合わせてパターン134を用いて補正すれば、上記同様、ガスセンサ10の生の出力値が安定する前においても、安定したNOx濃度対応値を得ることができる。
【0068】
このような代表パターン110を用いた補正は、ガスセンサ10の個体ごとにあらかじめ設定された適用時間が経過したら実施される。適用時間は、予備制御の終了のタイミング、すなわち駆動制御開始のタイミングを0として、代表パターン110を用いた補正を適用するタイミングをいう。本実施の形態では、ガスセンサ10の個体ごとに、上記の基準ガスを用いた検証を行うことにより、補正適用のタイミングが適用時間として求められ、EEPROM66に記憶される。そして、後述するメイン処理では適用時間が読み出され、駆動制御が開始されてから適用時間が経過したら、ガスセンサ10の出力の補正処理が開始される。
【0069】
次に、本実施の形態のメイン処理について、図2を参照して説明する。メイン処理は、内燃機関(図示外)の起動時にECU90からの指示を受けて、CPU61が実行する。なお、メイン処理において算出されたNOx濃度対応値は、メイン処理とは別途実行される出力処理において、駆動制御が開始されてから適用時間が経過したと判断された後、所定の間隔でセンサ制御装置5のECU90に出力される。出力処理において、なお、NOx濃度対応値の出力は、適用時間の経過と同時に開始されてもよいし、あるいは適用時間から所定の時間が経過してから開始されてもよい。
【0070】
内燃機関(図示外)が起動され、ECU90からの指示が信号入出力部64に入力されると、CPU61は、メイン処理を実行する各種条件やパラメータをROM63およびEEPROM66から取得する(S5)。例えば、制御条件として、ガスセンサ10ごとに設定された予備制御時の通電時間がEEPROM66から読み出される。代表パターン110を用いた補正を適用するタイミングとして、適用時間がEEPROM66から読み出される。次に、CPU61は、活性化処理を実行する(S10〜S30)。活性化処理において、CPU61は、ガスセンサ10のヒータパターン38への通電を開始させる(S10)。具体的には、CPU61は、ヒータ駆動回路59を制御して、ヒータパターン38に一定電圧(例えば、12V)を印加する。
【0071】
次に、CPU61は、Icp供給回路54を制御して、Vsセル3に電流Icpの供給を開始する(S15)。電流Icpが供給されたVsセル3は、第一測定室23から基準酸素室29へ酸素を汲み入れる。検知素子11がヒータ素子35によって加熱され、Vsセル3の内部抵抗が低下するに従い、Vsセル3の電圧Vsは徐々に低下する。
【0072】
次に、CPU61は、Vs検知回路53を介して取得される電圧Vsが所定値Vth以下であるか否かを判断する(S20)。電圧Vsが所定値Vth以下ではない場合(S20:NO)、CPU61は、電圧Vsが所定値Vth以下となるまで待機する。電圧Vsが所定値Vth以下である場合(S20:YES)、CPU61は、ヒータ電圧Vhの制御を開始する(S25)。具体的には、CPU61は、Vsセル3の内部抵抗Rpvsが目標値となるように、ヒータ駆動回路59を介してヒータ素子35への通電を制御する。目標値とは、例えば、300Ωであり、内部抵抗Rpvsが300Ωの場合、Vsセル3の温度は、約750℃と推定される。
【0073】
次に、CPU61は、検知素子11が活性化したか否かを判断する(S30)。具体的には、CPU61は、Vsセル3の内部抵抗Rpvsが、閾値に達している否かに基づき、検知素子11が活性化されたか否かを判断する。Vsセル3の内部抵抗Rpvsは、抵抗検知回路55を介して取得された電圧Vsの変化量と、電圧Vsの変化量とVsセル3の内部抵抗とがあらかじめ関連付けられたテーブルとに基づき算出される。閾値は、例えば、350Ωであり、内部抵抗Rpvsが350Ωの場合、Vsセル3の温度は、約650℃と推定される。CPU61は、内部抵抗Rpvsが閾値に達している場合に、検知素子11が活性化したと判断する。
【0074】
検知素子11が活性化していない場合(S30:NO)、CPU61は、検知素子11が活性化するまで待機する。検知素子11が活性化した場合(S30:YES)、CPU61は、Ip1ドライブ回路52を駆動させ、Ip1セル2に通電を開始する(S35)。Ip1セル2への通電は、第一測定室23に導入された排気ガスの酸素濃度を所定の濃度Cに調整するために実行される。
【0075】
次に、CPU61は、予備制御処理を実行する(S40〜S50)。予備制御処理では、CPU61は、Ip2セル4に対して一定値の電流をガスセンサ10ごとに個別に設定された一定の通電時間、供給する(S40)。具体的には、CPU61は、定電流回路58を駆動させ、一定値の電流Ip3をIp2セル4に供給する。一定値の電流Ip3とは、本実施の形態では、10μAである。Ip2セル4は、電流Ip3の供給を受けて、第二測定室30に存在する酸素の汲み出しを開始する。
【0076】
次に、CPU61は、経過時間をカウントするタイマ処理を実行する(S45)。タイマ処理は、メイン処理とは別途実行される処理である。タイマ処理では、所定時間ごとにカウント値がインクリメントされ、インクリメントされたカウント値はRAM62に記憶される。次に、CPU61は、タイマ処理によってRAM62に記憶されるカウント値が、通電時間に相当する値に達したか否かによって、通電時間が経過したかを判断し(S50)、通電時間が経過していない場合には待機する(S50:NO)。通電時間が経過した場合には(S50:YES)、CPU61は、予備制御処理を終了し、Ip2セル4の制御を駆動制御に切り替える(S55)。CPU61は、定電流回路58の駆動を停止させ、Vp2印加回路57を駆動させることによって、予備制御から駆動制御へセンサ制御装置5の制御状態を切り替える。これにより、駆動制御では、Ip2セル4へ通常電圧Vp2(例えば、450mV)が印加される。駆動制御において、S35で開始されたIp1セル2への通電制御は継続して実行される。
【0077】
次に、CPU61は、上記のタイマ処理を再度実行する(S57)。すなわち、CPU61は、カウント値を0にリセットし、所定時間ごとにインクリメントしてRAM62に記憶する。次いでCPU61は、Ip2検知回路56によって検知された電流Ip2の値(より詳細には、電流Ip2を電圧変換した値)を取得し、取得した電流Ip2の値と、取得時のカウント値とをRAM62に記憶させる(S60)。
【0078】
次に、CPU61は、タイマ処理によってRAM62に記憶されるカウント値が、適用時間に相当する値に達したか否かによって、適用時間が経過したかを判断する(S65)。適用時間が経過していない場合には(S65:NO)、CPU61はS60に戻り、電流Ip2の値およびカウント値の取得とRAM62への記憶とを行う。適用時間が経過した場合(S65:YES)、CPU61は、RAM62に記憶された電流Ip2の値に基づきNOx濃度対応値を算出し、算出したNOx濃度対応値をRAM62に記憶させる(S70)。NOx濃度対応値は、例えば、ROM63に記憶された所定の計算式に電流Ip2の値を代入して算出される。また例えば、電流Ip2の値と、NOx濃度対応値との対応を定めるテーブルが参照され、S60で取得された電流Ip2の値に対応するNOx濃度対応値が算出される。
【0079】
次に、CPU61は、タイマ処理によってRAM62に記憶されるカウント値が、補正時間に相当する値に達したか否かによって、補正時間が経過したかを判断する(S65)。補正時間が経過していない場合には(S72:NO)、CPU61は、S70で算出されたNOx濃度対応値を補正し、補正後のNOx濃度対応値をRAM62に上書き記憶させる(S75)。なお、NOx濃度対応値は、計算式(補正後のNOx濃度対応値)=(S70で算出されたNOx濃度対応値)−(代表パターン110に基づく補正データ)に基づき補正される。EEPROM66に記憶されている補正データは、タイマ処理によってカウントされるカウント値が適用時間に相当する値となったときを読み出し開始の基準として、カウント値に同期したデータが読み出され、上記式に適用される。
【0080】
次に、ECU90から終了の指示が入力されていない場合には(S80:NO)、CPU61は処理をS60に戻す。そして、S60〜S75が繰り返されるうちに、補正時間が経過した場合には(S72:NO)、以降、S80に進み、S70で算出されたNOx濃度対応値の補正は行われない。そして、ECU90から終了の指示が入力された場合には(S80:YES)、CPU61はメイン処理を終了させる。
【0081】
なお、本発明は上記実施の形態に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもよい。本実施の形態では、ガスセンサ10として、NOxの濃度を検知するNOxセンサを例示しているが、固体電解質体を用いて構成される種々のガスセンサ(例えば、酸素センサ)に適用可能である。
【0082】
また、センサ制御装置5の構成は適宜変更可能である。例えば、駆動回路部50の構成は適宜変更してもよい。また例えば、センサ制御装置5をガスセンサ10と一体に組み付けてもよい。また例えば、基準酸素室29に代えて、大気導入孔が設けられたガスセンサの制御に、センサ制御装置5が適用されてもよい。また、EEPROM66に記憶された制御条件、適用時間、補正時間、補正データは、EEPROM66に限らず、ROM63など、センサ制御装置5が備えるいずれかの記憶装置に記憶されていてもよい。もちろん、EEPROM66に制御条件、適用時間、補正時間が記憶され、ROM63に補正データが記憶されてもよい。すなわち、記憶装置の種類や記憶装置の設置場所は適宜変更可能である。また、ガスセンサ10の、例えばコネクタ部40に記憶装置を設け、制御条件、適用時間、補正時間を記憶させてもよい。あるいはガスセンサ10に固定抵抗器を設け、この固定抵抗器の抵抗値と、制御条件、適用時間、補正時間の少なくともいずれかとを対応付けたテーブルをROM63に設けてもよい。この場合、メイン処理では、S5において固定抵抗器の抵抗値を読み取り、その抵抗値に対応するテーブルから制御条件、適用時間、補正時間の少なくともいずれかを読み取ればよい。
【0083】
また、制御条件も、適宜変更可能である。本実施の形態では、ガスセンサ10ごとに設定される制御条件として、予備制御の通電時間を挙げた。これに限らず、制御条件として、予備制御時の通電時間はガスセンサ10個体間で共通の条件で、一定電流の値がガスセンサ10ごとに設定されてもよい。この場合、例えば、図2のメイン処理で、予備制御として実行するS40〜S50の処理の代わりに、図8に示す、S41〜S51の処理が実行されればよい。
【0084】
図8では、図2のメイン処理と同様の処理には同じステップ番号を付与している。図8のメイン処理は、二点鎖線192内の予備制御処理のS41と、S51とにおいて、図2のメイン処理と異なる。図8のメイン処理のうち、図2のメイン処理と同様な処理については説明を省略する。メイン処理の活性化処理が終了し、S35においてIp1セル2への通電が開始されたら、CPU61は、S41において、ガスセンサ10ごとに設定された一定電流をIp2セル4に供給する。S45でタイマ処理の実行を開始し、S51において、CPU61は、ガスセンサ10個体間で共通の通電時間が経過するまで待機する(S51:NO)。そしてCPU61は、通電時間が経過したら(S51:YES)、S55に進み、駆動制御処理を実行する。
【0085】
なお、ガスセンサ10ごとの一定電流の設定は、本実施の形態と同様に求めればよい。すなわち、所定個のガスセンサ10を用い、基準ガスのもとで、一定電流の値を基準値(例えば10μA)として一定時間(例えば20sec)の電流を流す予備制御を行って、代表パターン110を定め、目標範囲111を設定する。さらに、所定個のガスセンサ10に対し、予備制御において流す一定電流の値を適宜異ならせ、ガスセンサ10の出力が示す変化パターンが目標範囲111に納まる場合の一定電流の値を求める。ガスセンサ10の出力が示す変化パターンが目標範囲111に納まる場合の駆動制御開始後40secにおけるNOx濃度対応値と、同40secにおける代表パターン110のNOx濃度対応値とのずれ量を求める。そして、一定電流の値とずれ量との関係を示す、図5と同様のグラフを作成し、個々のガスセンサ10について、代表パターン110を基準に定めた目標範囲111内に納まるように、適切な一定電流の値を設定すればよい。
【0086】
もちろん、制御条件として、予備制御時の通電時間と一定電流の値とが共に適宜調整され、ガスセンサ10ごとに設定されてもよい。あるいは、制御条件は、ガスセンサ10の固体間で共通の条件として設定されてもよい。
【0087】
また、メイン処理も適宜変更可能である。例えば、図8のS70において、補正データを用いてNOx濃度対応値を補正する処理は、補正時間の経過によって終了せずに、駆動制御の実行期間の全期間にわたって実行されてもよい。あるいは、補正時間の経過の代わりに、補正前のNOx濃度対応値の変動を確認し、所定時間、所定範囲内の値に納まったら終了としてもよい。
【0088】
目標範囲は、駆動制御開始後の濃度対応値のバラツキの許容範囲を考慮して適宜定められる範囲であればよく、設定方法は適宜変更可能である。例えば、本実施の形態では、目標範囲を、代表パターン110を基準とする所定の範囲とした。これに限らず、駆動制御開始から所定時間(例えば、20sec)経過した後のNOx濃度対応値の範囲によって、目標範囲が定められてもよい。
【0089】
また、本実施の形態では、駆動制御が開始されてから適用時間が経過した場合に、代表パターン110を用いたNOx濃度対応値の補正が適用されたが、適用時間は、あらかじめ設定されていなくともよい。この場合、S65では、例えば、ガスセンサ10の出力値の微分値を求め、代表パターン110の所定のタイミングにおける微分値あるいは所定の閾値と比較し、一致しないうちはS60に戻り、一致したら、以降はS70に進み、代表パターン110を用いた補正が行われるようにすればよい。さらに、ガスセンサ10の出力値から、既知の手法によりノイズを除去した上で微分値を求めれば、より精確な補正適用のタイミングを得ることができる。この場合、ガスセンサ10の出力値の微分値を求め、この微分値と代表パターン110の所定のタイミングにおける微分値あるいは所定の閾値と比較し、当該微分値が一致したときに代表パターン110を用いた補正を行う処理を実行するCPU61が、特許請求の範囲の「決定手段」に相当する。
【0090】
なお、本発明においては、固体電解質体12が「第一固体電解質層」に相当し、電極17,18が「一対の第一電極」に相当する。固体電解質体14が「第二固体電解質層」に相当し、電極27,28が「一対の第二電極」に相当する。Ip1セル2が、「第一酸素ポンプセル」に相当し、Ip2セル4が、「第二酸素ポンプセル」に相当する。EEPROM66が、「記憶手段」に相当する。
【0091】
S55で、Ip2セル4の制御を駆動制御に切り替えるCPU61が、「駆動制御手段」に相当する。S40で、Ip2セル4に一定値の電流を一定の通電時間、供給する予備制御を行うCPU61が、「予備制御手段」に相当する。S70で、電流Ip2の値に基づきNOx濃度対応値を算出するCPU61が、「算出手段」に相当する。S65で、適用時間の経過を判断するCPU61が「決定手段」に相当する。S75で、S70で算出されたNOx濃度対応値を補正するCPU61が、「補正手段」に相当する。
【符号の説明】
【0092】
1 センサ制御システム
2 第一酸素ポンプセル
4 第二酸素ポンプセル
5 センサ制御装置
10 ガスセンサ
12,13,14 固体電解質体
17,18,21,22,27,28 電極
23 第一測定室
30 第二測定室
60 マイクロコンピュータ
61 CPU
63 ROM
66 EEPROM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象ガスが導入される第一測定室と、第一固体電解質層と一対の第一電極とを備え、前記一対の第一電極が前記第一測定室の内側と外側とに設けられる第一酸素ポンプセルと、前記第一測定室に連通する第二測定室と、第二固体電解質層と一対の第二電極とを備え、前記一対の第二電極が前記第二測定室の内側と外側とに設けられた第二酸素ポンプセルとを備えるガスセンサを制御するセンサ制御装置であって、
前記第一測定室に導入された前記検知対象ガスの酸素濃度を前記第一酸素ポンプセルへの通電によって調整するとともに、前記第二酸素ポンプセルへ通常電圧を印加する駆動制御を行う駆動制御手段と、
前記駆動制御を開始する前に、前記第二酸素ポンプセルに対して一定の電流を一定時間供給して、前記第二測定室から当該第二測定室外部に汲み出す酸素量を一定に制御する予備制御を実行する予備制御手段と、
前記駆動制御が開始され、前記通常電圧が印加された前記第二酸素ポンプセルに流れる電流の大きさに基づいて前記検知対象ガスに含まれる特定ガスの濃度を表す濃度対応値を算出する算出手段と、
濃度既知の基準ガスのもとで、予め設定された前記予備制御を実行した後に前記駆動制御を開始してからの前記濃度対応値の経時変化のパターンを表すパターンデータを、同一の構成を有する前記ガスセンサに共通の補正データとして記憶する記憶手段と、
前記駆動制御を開始してからの前記濃度対応値が示す経時変化のパターンが、前記補正データに表される経時変化のパターンに沿うように、前記補正データを適用するタイミングを決定する決定手段と、
前記決定手段によって決定されたタイミングに基づいて、前記濃度対応値に前記補正データを適用し、前記濃度対応値の補正を行う補正手段と、
を備えることを特徴とするセンサ制御装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、前記ガスセンサごとに決定された、前記駆動制御を開始してから前記補正データを適用するタイミングまでの適用時間であって、濃度既知の基準ガスのもとで、前記予備制御を実行した後に前記駆動制御を開始し、当該駆動制御を開始してからの前記濃度対応値が示す経時変化のパターンが、前記補正データに表される経時変化のパターンに沿うように当該補正データを適用するための適用時間をさらに記憶し、
前記決定手段は、前記駆動制御を開始してから前記適用時間が経過したときに、前記補正データが適用されるタイミングになったことを決定すること
を特徴とする請求項1に記載のセンサ制御装置。
【請求項3】
前記記憶手段は、前記ガスセンサごとに決定された、前記酸素量の調整に関する前記センサ制御装置の制御条件であって、濃度既知の基準ガスのもとで、前記予備制御を実行した後に前記駆動制御を開始し、当該駆動制御を開始してからの前記濃度対応値が目標範囲内に納まるように制御するための制御条件をさらに記憶し、
前記予備制御手段は、前記制御条件のもとで、前記予備制御を実行すること
を特徴とする請求項1または2に記載のセンサ制御装置。
【請求項4】
前記制御条件は、前記一定の電流および前記一定時間の少なくとも一方が、前記ガスセンサごとに決定された条件を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のセンサ制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の前記ガスセンサと、前記センサ制御装置とを備え、前記センサ制御装置によって前記ガスセンサの制御を行うことを特徴とするセンサ制御システム。
【請求項6】
検知対象ガスが導入される第一測定室と、第一固体電解質層と一対の第一電極とを備え、前記一対の第一電極が前記第一測定室の内側と外側とに設けられる第一酸素ポンプセルと、前記第一測定室に連通する第二測定室と、第二固体電解質層と一対の第二電極とを備え、前記一対の第二電極が前記第二測定室の内側と外側とに設けられた第二酸素ポンプセルとを備えるガスセンサを制御するセンサ制御装置において実行されるセンサ制御方法であって、
前記第一測定室に導入された前記検知対象ガスの酸素濃度が前記第一酸素ポンプセルへの通電によって調整されるとともに、前記第二酸素ポンプセルへ通常電圧を印加する駆動制御が行われる駆動制御ステップと、
前記駆動制御が開始される前に、前記第二酸素ポンプセルに対して一定の電流を一定時間供給して、前記第二測定室から当該第二測定室外部に汲み出す酸素量を一定に制御する予備制御が実行される予備制御ステップと、
前記駆動制御が開始され、前記通常電圧が印加された前記第二酸素ポンプセルに流れる電流の大きさに基づいて前記検知対象ガスに含まれる特定ガスの濃度を表す濃度対応値が算出される算出ステップと、
濃度既知の基準ガスのもとで、予め設定された前記予備制御を実行した後に前記駆動制御を開始してからの前記濃度対応値の経時変化のパターンを表すパターンデータが、同一の構成を有する前記ガスセンサに共通の補正データとして、前記センサ制御装置の備える記憶手段に予め記憶されており、前記駆動制御を開始してからの前記濃度対応値が示す経時変化のパターンが、前記補正データに表される経時変化のパターンに沿うように、前記補正データを適用するタイミングが決定される決定ステップと、
前記決定ステップにおいて決定されたタイミングに基づいて、前記濃度対応値に前記補正データが適用され、前記濃度対応値の補正が行われる補正ステップと、
を含むセンサ制御方法。
【請求項7】
前記記憶手段には、前記ガスセンサごとに決定された、前記駆動制御を開始してから前記補正データを適用するタイミングまでの適用時間であって、濃度既知の基準ガスのもとで、前記予備制御を実行した後に前記駆動制御を開始し、当該駆動制御を開始してからの前記濃度対応値が示す経時変化のパターンが、前記補正データに表される経時変化のパターンに沿うように当該補正データを適用するための適用時間がさらに記憶されており、
前記決定ステップでは、前記駆動制御を開始してから前記適用時間が経過したときに、前記補正データが適用されるタイミングになったことが決定されること
を特徴とする請求項6に記載のセンサ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−189524(P2012−189524A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54979(P2011−54979)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)