センサ機能付き統合型ソフトアクチュエータ
【課題】低電圧で駆動でき、外部から電解質を補充することなく空気中および真空中で安定して作動でき、製造が極めて容易であり、外部からの入力信号に対する応答性が高く、かつその変位を検出することができるセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータを提供する。
【解決手段】イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び絶縁性のあるイオン伝導層4と、イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び導電性のある電極層3とからなるアクチュエータ部12とセンサ部14とを備える。アクチュエータ部12は、2枚の電極層3間にイオン伝導層4を挟持してその間に電圧信号を入力するように構成され、センサ部14は、2枚の電極層3間にイオン伝導層4を挟持してその間から電圧信号を出力するように構成されている。
【解決手段】イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び絶縁性のあるイオン伝導層4と、イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び導電性のある電極層3とからなるアクチュエータ部12とセンサ部14とを備える。アクチュエータ部12は、2枚の電極層3間にイオン伝導層4を挟持してその間に電圧信号を入力するように構成され、センサ部14は、2枚の電極層3間にイオン伝導層4を挟持してその間から電圧信号を出力するように構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの入力信号に応答して変位し、かつその変位を検出するセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療、福祉、ロボット、エンターテイメント産業などの様々な分野で、生物的な柔らかい動きができる高分子アクチュエータが着目されている。高分子アクチュエータとは、高分子材料を主体とし、高分子材料自体が何らかの刺激に対して応答して変形することを利用するアクチュエータをいう。かかる高分子アクチュエータは、例えば、非特許文献1に開示されている。
【0003】
現在、実用化に近いところまで開発が進んでいる高分子アクチュエータ材料のひとつとして、図13に示すイオン導電性高分子膜(Ionic Conductive Polymer gel Film:ICPF)が知られている。この高分子膜は、イオン導電性高分子膜51の両面に電極52a,52bを備えたものであり、イオン導電性高分子金属複合体(Ionic Polymer Metal Composite:IPMC)とも呼ばれる。以下これをIPMC膜(又はICPF)と呼ぶ。
【0004】
IPMC膜は、電極間に電圧を加えたときに、高分子膜内のイオンが膜厚方向に移動し、これに伴い樹脂内の溶媒が膜厚方向に移動し、その結果、膜の一方の面が伸び他方の面が縮むことにより、屈曲する特性を有する。この屈曲運動の応答特性は、低電圧駆動(3V以下)において応答速度が比較的速く(例えば10ms)、変形も大きい。また、機械的、熱的、化学的耐久性にも優れていることが知られている。
【0005】
しかし、IPMC膜を用いた高分子アクチュエータは、電場応答性高分子膜の膨潤収縮現象を利用するため、電場応答性高分子膜を常に水溶液中又は湿潤した状態に保持する必要がある。
そこで、この問題を解決するために、例えば、非特許文献2及び特許文献1が提案されている。
【0006】
非特許文献2は、図14に示すアクチュエータ素子を開示している。このアクチュエータ素子は、イオン液体をベースポリマーでゲル化して得られる電解質フィルム61の両面に、電極63を積層した3層からなり、電極63間に電位差を与えることにより湾曲させるものである。また電極63は、単層カーボンナノチューブ62をイオン液体内に分散したゲル状物質(「バッキーゲル」と呼ぶ)をベースポリマーで成形したものである。
なお、単層カーボンナノチューブ62は、グラファイトの一枚面を巻いてできる筒状物質であり、直径およそ1nm、長さ数μmである。
【0007】
特許文献1の「アクチュエータ素子」は、図15に示すように、イオン液体とポリマーとのゲル状組成物からなるイオン伝導層71の表面に、カーボンナノチューブとイオン液体とポリマーとのゲル状組成物からなる電極層72が相互に絶縁状態で少なくとも2個形成されたものであり、電極72間に電位差を与えることにより湾曲および変形を生じさせ得るものである。
【0008】
【非特許文献1】安積欣志、「高分子アクチュエータ」、日本ロボット学会誌、Vol.21 No.7,pp.708〜712,2003
【非特許文献2】安積欣志、福島孝典、相田卓三「プリンタブル高分子アクチュエータ材料の開発」、未来材料、第5巻、第10号
【0009】
【特許文献1】特開2005−176428号公報、「アクチュエータ素子」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したIPMC膜は、フッ素系イオン交換樹脂に貴金属をメッキしたイオン導電性高分子/金属接合体である。この材料は電圧印加により変形するアクチュエータとして用いることが可能であるが、イオン交換樹脂が駆動するために水分が必要である。そのため、水中動作や水分が蒸発しないようにコーティングする必要があった。
また、貴金属のメッキのため、無電解メッキ法という煩雑な手段を用いる必要があった。
【0011】
一方、非特許文献2及び特許文献1で使用しているイオン液体は、常温溶融塩ともいい、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈し、かつ蒸気圧が無視できるほど低いため、揮発による溶媒の乾燥を防ぐことができる特徴がある。
そのため、非特許文献2及び特許文献1に開示されたアクチュエータ(以下、「バッキーゲルアクチュエータ」と呼ぶ)は、ナノチューブに注入された電荷を打ち消すための電解質(イオン液体)が予めフィルムに内包されており、外部から電解質を補充する必要がないため、空中作動が可能である。
従って、バッキーゲルアクチュエータは、(1)不揮発性電解質と電極の一体化による空中作動性、(2)プリント法が適用可能な優れた成形性、および、(3)大きくしなやかに変形する応答性、等の優れた特性を有している。
【0012】
しかし、バッキーゲルアクチュエータは、低電圧で駆動できるが、その変位(例えば曲げ角度)を検出できない問題点があった。
【0013】
本発明はかかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、低電圧で駆動でき、外部から電解質を補充することなく空気中および真空中で安定して作動でき、製造が極めて容易であり、外部からの入力信号に対する応答性が高く、かつその変位を検出することができるセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、特許文献1に開示したアクチュエータ素子が、変形させると電圧が生じる逆の作動特性を有し、変位センサとしても使用可能なことを発見したことに基づくものである。
この発見に基づき、アクチュエータと変位センサを一体化したセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータの実現が可能になり、生体適合性のあるソフトなデバイスの制御が可能となった。
【0015】
すなわち、本発明によれば、イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び絶縁性のあるイオン伝導層と、
前記イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び導電性のある電極層とからなるアクチュエータ部とセンサ部とを備え、
アクチュエータ部は、2枚の電極層間にイオン伝導層を挟持してその間に電圧信号を入力するように構成され、
センサ部は、2枚の電極層間にイオン伝導層を挟持してその間から電圧信号を出力するように構成されている、ことを特徴とするセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータが提供される。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記アクチュエータ部を構成する2枚の電極層と、前記センサ部を構成する2枚の電極層は、互いに間隔を隔てた4枚の電極層であり、同一のイオン伝導層の異なる部分を挟持する並列配置である。
【0017】
また本発明の好ましい別の実施形態によれば、前記アクチュエータ部を構成する2枚の電極層と、前記センサ部を構成する2枚の電極層は、2枚のイオン伝導層の間に挟持された1枚を共有する計3枚の電極層であり、2枚のイオン伝導層の同一位置を挟持する積層配置である。
【0018】
前記イオン伝導層は、イオン液体とポリマーからなるゲル状組成物であり、
前記電極層は、カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーからなるゲル状組成物である。
【発明の効果】
【0019】
上述した本発明の構成によれば、アクチュエータ部が、不揮発性の電極層間に不揮発性のイオン伝導層を挟持してその間に電圧信号を入力するように構成されるので、外部から電解質を補充することなく空気中および真空中で安定して作動できる。
【0020】
また、イオン伝導層と電極層がイオン液体を含みかつ可撓性があるので、低電圧で駆動でき、かつ外部からの入力信号に対する応答性を高くできる。
【0021】
また、アクチュエータ部とセンサ部を備え、センサ部も、2枚の電極層間にイオン伝導層を挟持してその間から電圧信号を出力するように構成されているので、アクチュエータ部によるイオン伝導層の変位をセンサ部で直接検出することができる。
【0022】
さらに、電極層形成工程と伝導層形成工程を同時又は順次行うことで、アクチュエータ部とセンサ部を形成することができ、この両方の工程を、塗布、印刷、押出し、キャスト又は射出により行うことができるので、製造が極めて容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明のセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータの第1実施形態図である。この図において、本発明のセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータ10(以下、単に「ソフトアクチュエータ」と呼ぶ)は、アクチュエータ部12とセンサ部14とを備える。
【0024】
アクチュエータ部12は、2枚の電極層3と1枚のイオン伝導層4からなり、2枚の電極層3の間にイオン伝導層4を挟持する。また、2枚の電極層3にはそれぞれ信号入力線13が取り付けられ、その間に外部から電圧信号を入力するように構成されている。
【0025】
センサ部14も、2枚の電極層3と1枚のイオン伝導層4からなり、2枚の電極層3の間にイオン伝導層4を挟持する。また、2枚の電極層3にはそれぞれ信号出力線15が取り付けられ、その間から電圧信号を外部に出力するように構成されている。
【0026】
イオン伝導層4は、イオン液体とポリマーからなるゲル状組成物であり、イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び絶縁性のある薄膜層である。
【0027】
電極層3は、カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーからなるゲル状組成物であり、前記イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び導電性のある薄膜層である。
【0028】
図1は、本発明のソフトアクチュエータ10の並列配置例を示している。
この図において、アクチュエータ部12を構成する2枚の電極層3と、センサ部14を構成する2枚の電極層3は、互いに間隔を隔てた4枚の電極層3であり、同一のイオン伝導層4の異なる部分を挟持している。
なお、並列配置はこの例に限定されず、アクチュエータ部12、センサ部14のいずれか一方、又は両方を複数対の電極層3で構成してもよい。
【0029】
図2は、本発明のソフトアクチュエータ10の第2実施形態図である。この図は、本発明のソフトアクチュエータの積層配置例を示している。
この図において、アクチュエータ部12を構成する2枚の電極層3と、センサ部14を構成する2枚の電極層3は、2枚のイオン伝導層4の間に挟持された1枚を共有する計3枚の電極層であり、2枚のイオン伝導層4の同一位置を挟持している。
【0030】
この例で、中間の電極層3に取り付けられた信号線16は、この例では接地され、信号入力線13と信号出力線15の両方に対し2端子対の役割を果たすように構成されているが、信号線16を信号入力線13と信号出力線15の2本で置き換えてもよい。
なお、積層配置はこの例に限定されず、3枚以上のイオン伝導層4と4枚以上の電極層3を交互に積層し、アクチュエータ部12とセンサ部14を複数対の電極層3で構成してもよい。
【0031】
また、本発明は、並列配置又は積層配置に限定されず、両者を組み合わせた構造でもよい。また、アクチュエータ部12とセンサ部14の形状、大きさ、向きはこの例では同一であるが、相違してもよい。
【0032】
図3は、本発明のソフトアクチュエータの製造方法を示すフロー図である。
この図に示すように、本発明のソフトアクチュエータの製造方法は、電極層前駆体液調製工程S1、伝導層前駆体液調製工程S2、電極層形成工程S3、および伝導層形成工程S4の各工程からなる。
【0033】
電極層前駆体液調製工程S1では、カーボンナノチューブ、イオン液体、ポリマーおよび溶媒を含む電極層前駆体液1を調製する。単層カーボンナノチューブをイオン液体と混合すると、ナノチューブが分散するとともに液体がゲル化してゲル状物質となる。従って、これにポリマーを加えることにより、任意の形状に成形することができる。
また、カーボンナノチューブ、イオン液体、ポリマーおよび溶媒を加え、ゲル化のプロセスなしに電極層前駆体液1を調製後、任意の形状に成形することもできる。
伝導層前駆体液調製工程S2では、イオン液体、ポリマーおよび溶媒を含む伝導層前駆体液2を調製する。イオン液体にポリマーを加えることにより、任意の形状に成形することができる。
【0034】
イオン液体は、後述する実施例では、エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF4)又はブチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(BMIBF4)である。イオン液体は、イオン伝導層4と電極層3の両方で共通であるのがよい。
ポリマーは、後述する実施例では、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF(HFP))(III)である。ポリマーもイオン伝導層4と電極層3の両方で共通であるのがよい。
カーボンナノチューブは、後述する実施例では、高純度単層カーボンナノチューブ(SWNT)である。
溶媒は、後述する実施例では、4−メチルペンタンー2−オン(MP)とプロピレンカーボネイト(PC)である。
【0035】
電極層形成工程S3では、電極層前駆体液1を薄膜状に形成しかつ溶媒を除去して薄膜状の電極層3を形成する。この工程S3は、塗布、印刷、押出し、キャスト又は射出により行うことができる。
伝導層形成工程S4では、伝導層前駆体液2を薄膜状に形成しかつ溶媒を除去して薄膜状のイオン伝導層4を形成する。この工程S4も、塗布、印刷、押出し、キャスト又は射出により行うことができる。
【0036】
電極層形成工程S3と伝導層形成工程S4は同時に又は順次行い、電極層3の間にイオン伝導層4を挟持したアクチュエータ部12とセンサ部14を形成する。
アクチュエータ部12は、2枚の電極層3間にイオン伝導層4を挟持してその間に電圧信号を入力するように構成する。2枚の電極層3にはそれぞれ信号入力線13を取り付ける。
センサ部14は、2枚の電極層3の間にイオン伝導層4を挟持してその間から電圧信号を出力するように構成する。2枚の電極層3にはそれぞれ信号出力線15を取り付ける。
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0037】
本発明のソフトアクチュエータのセンサ部14に相当するセンサフィルムを以下の方法で作製した。
使用した薬品、材料は、以下の通り。
1 イオン液体(IL)
A.エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF4)
B.ブチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(BMIBF4)
2 カーボンナノチューブ
高純度単層カーボンナノチューブ(SWCNT)
商品名:HiPco(カーボンナノテクノロジー・インコーポレーテッド社製)
3 ポリマー
ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF(HFP))
4 溶媒
A:4−メチルペンタンー2−オン(MP)
B:プロピレンカーボネイト(PC)
【0038】
(作製方法)
1 電極層前駆体液(電極キャスト液)の作製
上述した材料をSWNT/PVDF(HFP)/IL/PC/MP=3/8/12/24/300(重量比)の割合で混ぜ、超音波洗浄機中で1時間以上、分散させて、分散液を作製した。その後、液温を80℃に上げ、30分間以上攪拌した。
イオン液体(IL)には、A(EMIBF4)とB(BMIBF4)の両方をそれぞれ用いた。
2 伝導層前駆体液(電解質キャスト液)の作製
上述した材料をIL/PVDF(HFP)/PC/MP=12/20/24/300(重量比)の割合で混ぜ、液温を80℃に上げ、30分間以上攪拌した。
3 センサフィルムの作製
電極キャスト液、電解質キャスト液、電極キャスト液の順に、キャストを行い、溶媒を十分乾燥して、3層形態の2種のセンサフィルムを作製した。
【0039】
以下、イオン液体(IL)にA(EMIBF4)を用いたものを「センサフィルムA」、イオン液体(IL)にB(BMIBF4)を用いたものを「センサフィルムB」と呼ぶ。
【実施例2】
【0040】
実施例1で得られたセンサフィルムAとセンサフィルムBのセンサ機能について以下の検証試験を行った。試験したセンサフィルムA,Bの寸法は、長さ20mm×幅2.5mm×厚さ130μmであった。
【0041】
図4は、使用した試験装置の構成図である。この図において、20はセンサフィルム(A又はB)、22はレーザー変位計、24は電圧増幅アンプを内蔵した電圧計である。
この試験では、センサフィルム20の曲げ変形による横方向の変位とフィルム両面の電極間に発生する電圧を測定した。
センサフィルム20は、両面が鉛直に位置し、長さ方向を水平に位置決めし、一端部を固定して保持した。センサフィルム20の変形は先端部を手動で水平方向に移動し、固定部分から約12mmの位置の横方向変位をレーザー変位計22を用いて測定した。
またセンサフィルム20の電極層3の間に発生する電圧を電圧増幅アンプで約500倍に増幅し、一次のローパスフィルタを通して測定した。
【0042】
図5、図6は、センサフィルムAの試験結果であり、図5は比較的遅い変形(約1秒と約5秒の周期)の場合、図6は変位を加えて離したときの減衰自由振動の場合である。また各図において横軸は時間、縦軸は(A)は電圧変化、(B)は変位を示している。
図5(A)(B)から、約1秒の周期では電圧変化は変位と良く一致しているが、約5秒の周期では電圧変化と変位のずれが大きいことがわかる。
また図6(A)(B)から、減衰自由振動において、電圧変化と変位は良く一致している。
【0043】
図7、図8は、センサフィルムBの試験結果であり、図7は比較的遅い変形(約1秒と約5秒の周期)の場合、図8は変位を加えて離したときの減衰自由振動の場合である。また各図において横軸は時間、縦軸は(A)は電圧変化、(B)は変位を示している。
図7(A)(B)から、約1秒、約5秒の両方の周期で電圧変化は変位と良く一致している。
また図8(A)(B)から、減衰自由振動においても、電圧変化と変位は良く一致している。
【0044】
BMIBF4使用のセンサフィルムBは、EMIBF4使用のセンサフィルムAよりもプラスイオンがやや大きいフィルムである。
図5、図6と図7、図8を比較すると、プラスイオンがやや大きいセンサフィルムBの方が、発生する電圧が大きくなっていることが確認できる。
すなわちIPMCでのNa+とTEA+のときと同様に、イオンの違いによってセンサ特性も大きく変化することがわかる。
【0045】
また実施例2の試験結果から、
1 センサフィルムAおよびセンサフィルムBは、変形に対してほぼ比例した電位を発生するが、発生する電圧は0.01〜0.1mV程度であり、IPMCに比べると低い、
2 膜内のイオンによってセンサ特性が変化する、
ことがわかり、センサ機能を有することが確認された。
【実施例3】
【0046】
実施例1で得られたセンサフィルムBのセンサ機能について、実施例1と同一の装置を用いて再度検証試験を行った。試験したセンサフィルムBの寸法は、長さ20mm×幅2.5mm×厚さ130μmであった。
図9、図10、図11は、この試験結果である。各図において横軸は時間、縦軸は(A)は電圧変化、(B)は変位を示している。
【0047】
図9、図10は、周期1秒から5秒の比較的速い動作に対する応答結果である。これらの図から、周期1秒から5秒の比較的速い変形に対しては、ほぼ変位に比例した電位が発生していることが確認できる。
図11は一定位置に止めた場合の応答結果であり、出力電圧がゆっくりと減衰していく挙動が確認できる。
実施例2との比較により、高分子内のイオン種によっても、挙動は異なり、EMIBF4を用いたセンサフィルムA(小さいプラスイオンの場合)では減衰する挙動がBMIBF4を用いたセンサフィルムBに比べて速いことがわかる。
【実施例4】
【0048】
図12は、実施例3と同じ設定で数日の間隔をおいて行った再現性/定量性の試験結果である。
図12(A)(B)(C)にそれぞれ別の日に行った試験結果を示す。この図では横軸が変形量、縦軸が出力電圧となっており、40秒間に、比較的速い変形を加えたときの試験結果である。速い動作においては、減衰する遅いダイナミクスの影響が少なく、変位と電位応答にほぼ比例関係があることがわかる。
また図12から、それぞれ別の日に行った試験で同様の結果が得られ、再現性があることが確認できた。
【0049】
上述したように本発明の装置および方法によれば、アクチュエータ部12が、不揮発性の電極層3の間に不揮発性のイオン伝導層4を挟持してその間に電圧信号を入力するように構成されるので、外部から電解質を補充することなく空気中および真空中で安定して作動できる。
【0050】
また、イオン伝導層4と電極層3がイオン液体を含みかつ可撓性があるので、低電圧で駆動でき、かつ外部からの入力信号に対する応答性を高くできる。
【0051】
また、アクチュエータ部12とセンサ部14を備え、センサ部14も、2枚の電極層3の間にイオン伝導層4を挟持してその間から電圧信号を出力するように構成されているので、アクチュエータ部によるイオン伝導層の変位をセンサ部で検出することができる。
【0052】
さらに、電極層形成工程S3と伝導層形成工程S4を同時又は順次行うことで、アクチュエータ部12とセンサ部14を形成することができ、この両方の工程を、塗布、印刷、押出し、キャスト又は射出により行うことができるので、製造が極めて容易である。
【0053】
また、本発明のソフトアクチュエータ10を用いることにより空中での動作が可能で、センサ部14によるフィードバック機能を用いることにより、空間的に部分的に剛性を変えることが可能となり、さらに多様な触覚を与えるデバイスを作成可能である。
また、同様の機構をセンサとして使用することにより、皮膚(産毛)のように面で接触を検知できるセンサを構成可能であり、介護などを行う人と接するロボットなどの人工皮膚としての利用が期待できる。また、低電圧で駆動できるという長所を利用し、小型化した鞭毛推進機構を構成することで、血管など人体内を移動するデバイスの開発も期待できる。
【0054】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータの第1実施形態図である。
【図2】本発明のソフトアクチュエータの第2実施形態図である。
【図3】本発明のソフトアクチュエータの製造方法を示すフロー図である。
【図4】使用した試験装置の構成図である。
【図5】センサフィルムAの試験結果である。
【図6】センサフィルムAの別の試験結果である。
【図7】センサフィルムBの試験結果である。
【図8】センサフィルムBの別の試験結果である。
【図9】センサフィルムBの比較的速い動作に対する応答結果である。
【図10】センサフィルムBの比較的速い動作に対する別の応答結果である。
【図11】センサフィルムBの一定位置に止めた場合の応答結果である。
【図12】再現性/定量性の試験結果である。
【図13】非特許文献1のIPMC膜の模式図である。
【図14】非特許文献2のアクチュエータ素子の模式図である。
【図15】特許文献1の「アクチュエータ素子」の構成図である。
【符号の説明】
【0056】
1 電極層前駆体液、2 伝導層前駆体液、
3 電極層、4 イオン伝導層、
10 センサ機能付き統合型ソフトアクチュエータ(ソフトアクチュエータ)、
12 アクチュエータ部、13 信号入力線、
14 センサ部、15 信号出力線、16 信号線、
20 センサフィルム(A又はB)、
22 レーザー変位計、
24 電圧増幅アンプを内蔵した電圧計
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部からの入力信号に応答して変位し、かつその変位を検出するセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療、福祉、ロボット、エンターテイメント産業などの様々な分野で、生物的な柔らかい動きができる高分子アクチュエータが着目されている。高分子アクチュエータとは、高分子材料を主体とし、高分子材料自体が何らかの刺激に対して応答して変形することを利用するアクチュエータをいう。かかる高分子アクチュエータは、例えば、非特許文献1に開示されている。
【0003】
現在、実用化に近いところまで開発が進んでいる高分子アクチュエータ材料のひとつとして、図13に示すイオン導電性高分子膜(Ionic Conductive Polymer gel Film:ICPF)が知られている。この高分子膜は、イオン導電性高分子膜51の両面に電極52a,52bを備えたものであり、イオン導電性高分子金属複合体(Ionic Polymer Metal Composite:IPMC)とも呼ばれる。以下これをIPMC膜(又はICPF)と呼ぶ。
【0004】
IPMC膜は、電極間に電圧を加えたときに、高分子膜内のイオンが膜厚方向に移動し、これに伴い樹脂内の溶媒が膜厚方向に移動し、その結果、膜の一方の面が伸び他方の面が縮むことにより、屈曲する特性を有する。この屈曲運動の応答特性は、低電圧駆動(3V以下)において応答速度が比較的速く(例えば10ms)、変形も大きい。また、機械的、熱的、化学的耐久性にも優れていることが知られている。
【0005】
しかし、IPMC膜を用いた高分子アクチュエータは、電場応答性高分子膜の膨潤収縮現象を利用するため、電場応答性高分子膜を常に水溶液中又は湿潤した状態に保持する必要がある。
そこで、この問題を解決するために、例えば、非特許文献2及び特許文献1が提案されている。
【0006】
非特許文献2は、図14に示すアクチュエータ素子を開示している。このアクチュエータ素子は、イオン液体をベースポリマーでゲル化して得られる電解質フィルム61の両面に、電極63を積層した3層からなり、電極63間に電位差を与えることにより湾曲させるものである。また電極63は、単層カーボンナノチューブ62をイオン液体内に分散したゲル状物質(「バッキーゲル」と呼ぶ)をベースポリマーで成形したものである。
なお、単層カーボンナノチューブ62は、グラファイトの一枚面を巻いてできる筒状物質であり、直径およそ1nm、長さ数μmである。
【0007】
特許文献1の「アクチュエータ素子」は、図15に示すように、イオン液体とポリマーとのゲル状組成物からなるイオン伝導層71の表面に、カーボンナノチューブとイオン液体とポリマーとのゲル状組成物からなる電極層72が相互に絶縁状態で少なくとも2個形成されたものであり、電極72間に電位差を与えることにより湾曲および変形を生じさせ得るものである。
【0008】
【非特許文献1】安積欣志、「高分子アクチュエータ」、日本ロボット学会誌、Vol.21 No.7,pp.708〜712,2003
【非特許文献2】安積欣志、福島孝典、相田卓三「プリンタブル高分子アクチュエータ材料の開発」、未来材料、第5巻、第10号
【0009】
【特許文献1】特開2005−176428号公報、「アクチュエータ素子」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したIPMC膜は、フッ素系イオン交換樹脂に貴金属をメッキしたイオン導電性高分子/金属接合体である。この材料は電圧印加により変形するアクチュエータとして用いることが可能であるが、イオン交換樹脂が駆動するために水分が必要である。そのため、水中動作や水分が蒸発しないようにコーティングする必要があった。
また、貴金属のメッキのため、無電解メッキ法という煩雑な手段を用いる必要があった。
【0011】
一方、非特許文献2及び特許文献1で使用しているイオン液体は、常温溶融塩ともいい、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態を呈し、かつ蒸気圧が無視できるほど低いため、揮発による溶媒の乾燥を防ぐことができる特徴がある。
そのため、非特許文献2及び特許文献1に開示されたアクチュエータ(以下、「バッキーゲルアクチュエータ」と呼ぶ)は、ナノチューブに注入された電荷を打ち消すための電解質(イオン液体)が予めフィルムに内包されており、外部から電解質を補充する必要がないため、空中作動が可能である。
従って、バッキーゲルアクチュエータは、(1)不揮発性電解質と電極の一体化による空中作動性、(2)プリント法が適用可能な優れた成形性、および、(3)大きくしなやかに変形する応答性、等の優れた特性を有している。
【0012】
しかし、バッキーゲルアクチュエータは、低電圧で駆動できるが、その変位(例えば曲げ角度)を検出できない問題点があった。
【0013】
本発明はかかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、低電圧で駆動でき、外部から電解質を補充することなく空気中および真空中で安定して作動でき、製造が極めて容易であり、外部からの入力信号に対する応答性が高く、かつその変位を検出することができるセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、特許文献1に開示したアクチュエータ素子が、変形させると電圧が生じる逆の作動特性を有し、変位センサとしても使用可能なことを発見したことに基づくものである。
この発見に基づき、アクチュエータと変位センサを一体化したセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータの実現が可能になり、生体適合性のあるソフトなデバイスの制御が可能となった。
【0015】
すなわち、本発明によれば、イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び絶縁性のあるイオン伝導層と、
前記イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び導電性のある電極層とからなるアクチュエータ部とセンサ部とを備え、
アクチュエータ部は、2枚の電極層間にイオン伝導層を挟持してその間に電圧信号を入力するように構成され、
センサ部は、2枚の電極層間にイオン伝導層を挟持してその間から電圧信号を出力するように構成されている、ことを特徴とするセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータが提供される。
【0016】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記アクチュエータ部を構成する2枚の電極層と、前記センサ部を構成する2枚の電極層は、互いに間隔を隔てた4枚の電極層であり、同一のイオン伝導層の異なる部分を挟持する並列配置である。
【0017】
また本発明の好ましい別の実施形態によれば、前記アクチュエータ部を構成する2枚の電極層と、前記センサ部を構成する2枚の電極層は、2枚のイオン伝導層の間に挟持された1枚を共有する計3枚の電極層であり、2枚のイオン伝導層の同一位置を挟持する積層配置である。
【0018】
前記イオン伝導層は、イオン液体とポリマーからなるゲル状組成物であり、
前記電極層は、カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーからなるゲル状組成物である。
【発明の効果】
【0019】
上述した本発明の構成によれば、アクチュエータ部が、不揮発性の電極層間に不揮発性のイオン伝導層を挟持してその間に電圧信号を入力するように構成されるので、外部から電解質を補充することなく空気中および真空中で安定して作動できる。
【0020】
また、イオン伝導層と電極層がイオン液体を含みかつ可撓性があるので、低電圧で駆動でき、かつ外部からの入力信号に対する応答性を高くできる。
【0021】
また、アクチュエータ部とセンサ部を備え、センサ部も、2枚の電極層間にイオン伝導層を挟持してその間から電圧信号を出力するように構成されているので、アクチュエータ部によるイオン伝導層の変位をセンサ部で直接検出することができる。
【0022】
さらに、電極層形成工程と伝導層形成工程を同時又は順次行うことで、アクチュエータ部とセンサ部を形成することができ、この両方の工程を、塗布、印刷、押出し、キャスト又は射出により行うことができるので、製造が極めて容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明のセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータの第1実施形態図である。この図において、本発明のセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータ10(以下、単に「ソフトアクチュエータ」と呼ぶ)は、アクチュエータ部12とセンサ部14とを備える。
【0024】
アクチュエータ部12は、2枚の電極層3と1枚のイオン伝導層4からなり、2枚の電極層3の間にイオン伝導層4を挟持する。また、2枚の電極層3にはそれぞれ信号入力線13が取り付けられ、その間に外部から電圧信号を入力するように構成されている。
【0025】
センサ部14も、2枚の電極層3と1枚のイオン伝導層4からなり、2枚の電極層3の間にイオン伝導層4を挟持する。また、2枚の電極層3にはそれぞれ信号出力線15が取り付けられ、その間から電圧信号を外部に出力するように構成されている。
【0026】
イオン伝導層4は、イオン液体とポリマーからなるゲル状組成物であり、イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び絶縁性のある薄膜層である。
【0027】
電極層3は、カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーからなるゲル状組成物であり、前記イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び導電性のある薄膜層である。
【0028】
図1は、本発明のソフトアクチュエータ10の並列配置例を示している。
この図において、アクチュエータ部12を構成する2枚の電極層3と、センサ部14を構成する2枚の電極層3は、互いに間隔を隔てた4枚の電極層3であり、同一のイオン伝導層4の異なる部分を挟持している。
なお、並列配置はこの例に限定されず、アクチュエータ部12、センサ部14のいずれか一方、又は両方を複数対の電極層3で構成してもよい。
【0029】
図2は、本発明のソフトアクチュエータ10の第2実施形態図である。この図は、本発明のソフトアクチュエータの積層配置例を示している。
この図において、アクチュエータ部12を構成する2枚の電極層3と、センサ部14を構成する2枚の電極層3は、2枚のイオン伝導層4の間に挟持された1枚を共有する計3枚の電極層であり、2枚のイオン伝導層4の同一位置を挟持している。
【0030】
この例で、中間の電極層3に取り付けられた信号線16は、この例では接地され、信号入力線13と信号出力線15の両方に対し2端子対の役割を果たすように構成されているが、信号線16を信号入力線13と信号出力線15の2本で置き換えてもよい。
なお、積層配置はこの例に限定されず、3枚以上のイオン伝導層4と4枚以上の電極層3を交互に積層し、アクチュエータ部12とセンサ部14を複数対の電極層3で構成してもよい。
【0031】
また、本発明は、並列配置又は積層配置に限定されず、両者を組み合わせた構造でもよい。また、アクチュエータ部12とセンサ部14の形状、大きさ、向きはこの例では同一であるが、相違してもよい。
【0032】
図3は、本発明のソフトアクチュエータの製造方法を示すフロー図である。
この図に示すように、本発明のソフトアクチュエータの製造方法は、電極層前駆体液調製工程S1、伝導層前駆体液調製工程S2、電極層形成工程S3、および伝導層形成工程S4の各工程からなる。
【0033】
電極層前駆体液調製工程S1では、カーボンナノチューブ、イオン液体、ポリマーおよび溶媒を含む電極層前駆体液1を調製する。単層カーボンナノチューブをイオン液体と混合すると、ナノチューブが分散するとともに液体がゲル化してゲル状物質となる。従って、これにポリマーを加えることにより、任意の形状に成形することができる。
また、カーボンナノチューブ、イオン液体、ポリマーおよび溶媒を加え、ゲル化のプロセスなしに電極層前駆体液1を調製後、任意の形状に成形することもできる。
伝導層前駆体液調製工程S2では、イオン液体、ポリマーおよび溶媒を含む伝導層前駆体液2を調製する。イオン液体にポリマーを加えることにより、任意の形状に成形することができる。
【0034】
イオン液体は、後述する実施例では、エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF4)又はブチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(BMIBF4)である。イオン液体は、イオン伝導層4と電極層3の両方で共通であるのがよい。
ポリマーは、後述する実施例では、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF(HFP))(III)である。ポリマーもイオン伝導層4と電極層3の両方で共通であるのがよい。
カーボンナノチューブは、後述する実施例では、高純度単層カーボンナノチューブ(SWNT)である。
溶媒は、後述する実施例では、4−メチルペンタンー2−オン(MP)とプロピレンカーボネイト(PC)である。
【0035】
電極層形成工程S3では、電極層前駆体液1を薄膜状に形成しかつ溶媒を除去して薄膜状の電極層3を形成する。この工程S3は、塗布、印刷、押出し、キャスト又は射出により行うことができる。
伝導層形成工程S4では、伝導層前駆体液2を薄膜状に形成しかつ溶媒を除去して薄膜状のイオン伝導層4を形成する。この工程S4も、塗布、印刷、押出し、キャスト又は射出により行うことができる。
【0036】
電極層形成工程S3と伝導層形成工程S4は同時に又は順次行い、電極層3の間にイオン伝導層4を挟持したアクチュエータ部12とセンサ部14を形成する。
アクチュエータ部12は、2枚の電極層3間にイオン伝導層4を挟持してその間に電圧信号を入力するように構成する。2枚の電極層3にはそれぞれ信号入力線13を取り付ける。
センサ部14は、2枚の電極層3の間にイオン伝導層4を挟持してその間から電圧信号を出力するように構成する。2枚の電極層3にはそれぞれ信号出力線15を取り付ける。
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0037】
本発明のソフトアクチュエータのセンサ部14に相当するセンサフィルムを以下の方法で作製した。
使用した薬品、材料は、以下の通り。
1 イオン液体(IL)
A.エチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(EMIBF4)
B.ブチルメチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(BMIBF4)
2 カーボンナノチューブ
高純度単層カーボンナノチューブ(SWCNT)
商品名:HiPco(カーボンナノテクノロジー・インコーポレーテッド社製)
3 ポリマー
ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF(HFP))
4 溶媒
A:4−メチルペンタンー2−オン(MP)
B:プロピレンカーボネイト(PC)
【0038】
(作製方法)
1 電極層前駆体液(電極キャスト液)の作製
上述した材料をSWNT/PVDF(HFP)/IL/PC/MP=3/8/12/24/300(重量比)の割合で混ぜ、超音波洗浄機中で1時間以上、分散させて、分散液を作製した。その後、液温を80℃に上げ、30分間以上攪拌した。
イオン液体(IL)には、A(EMIBF4)とB(BMIBF4)の両方をそれぞれ用いた。
2 伝導層前駆体液(電解質キャスト液)の作製
上述した材料をIL/PVDF(HFP)/PC/MP=12/20/24/300(重量比)の割合で混ぜ、液温を80℃に上げ、30分間以上攪拌した。
3 センサフィルムの作製
電極キャスト液、電解質キャスト液、電極キャスト液の順に、キャストを行い、溶媒を十分乾燥して、3層形態の2種のセンサフィルムを作製した。
【0039】
以下、イオン液体(IL)にA(EMIBF4)を用いたものを「センサフィルムA」、イオン液体(IL)にB(BMIBF4)を用いたものを「センサフィルムB」と呼ぶ。
【実施例2】
【0040】
実施例1で得られたセンサフィルムAとセンサフィルムBのセンサ機能について以下の検証試験を行った。試験したセンサフィルムA,Bの寸法は、長さ20mm×幅2.5mm×厚さ130μmであった。
【0041】
図4は、使用した試験装置の構成図である。この図において、20はセンサフィルム(A又はB)、22はレーザー変位計、24は電圧増幅アンプを内蔵した電圧計である。
この試験では、センサフィルム20の曲げ変形による横方向の変位とフィルム両面の電極間に発生する電圧を測定した。
センサフィルム20は、両面が鉛直に位置し、長さ方向を水平に位置決めし、一端部を固定して保持した。センサフィルム20の変形は先端部を手動で水平方向に移動し、固定部分から約12mmの位置の横方向変位をレーザー変位計22を用いて測定した。
またセンサフィルム20の電極層3の間に発生する電圧を電圧増幅アンプで約500倍に増幅し、一次のローパスフィルタを通して測定した。
【0042】
図5、図6は、センサフィルムAの試験結果であり、図5は比較的遅い変形(約1秒と約5秒の周期)の場合、図6は変位を加えて離したときの減衰自由振動の場合である。また各図において横軸は時間、縦軸は(A)は電圧変化、(B)は変位を示している。
図5(A)(B)から、約1秒の周期では電圧変化は変位と良く一致しているが、約5秒の周期では電圧変化と変位のずれが大きいことがわかる。
また図6(A)(B)から、減衰自由振動において、電圧変化と変位は良く一致している。
【0043】
図7、図8は、センサフィルムBの試験結果であり、図7は比較的遅い変形(約1秒と約5秒の周期)の場合、図8は変位を加えて離したときの減衰自由振動の場合である。また各図において横軸は時間、縦軸は(A)は電圧変化、(B)は変位を示している。
図7(A)(B)から、約1秒、約5秒の両方の周期で電圧変化は変位と良く一致している。
また図8(A)(B)から、減衰自由振動においても、電圧変化と変位は良く一致している。
【0044】
BMIBF4使用のセンサフィルムBは、EMIBF4使用のセンサフィルムAよりもプラスイオンがやや大きいフィルムである。
図5、図6と図7、図8を比較すると、プラスイオンがやや大きいセンサフィルムBの方が、発生する電圧が大きくなっていることが確認できる。
すなわちIPMCでのNa+とTEA+のときと同様に、イオンの違いによってセンサ特性も大きく変化することがわかる。
【0045】
また実施例2の試験結果から、
1 センサフィルムAおよびセンサフィルムBは、変形に対してほぼ比例した電位を発生するが、発生する電圧は0.01〜0.1mV程度であり、IPMCに比べると低い、
2 膜内のイオンによってセンサ特性が変化する、
ことがわかり、センサ機能を有することが確認された。
【実施例3】
【0046】
実施例1で得られたセンサフィルムBのセンサ機能について、実施例1と同一の装置を用いて再度検証試験を行った。試験したセンサフィルムBの寸法は、長さ20mm×幅2.5mm×厚さ130μmであった。
図9、図10、図11は、この試験結果である。各図において横軸は時間、縦軸は(A)は電圧変化、(B)は変位を示している。
【0047】
図9、図10は、周期1秒から5秒の比較的速い動作に対する応答結果である。これらの図から、周期1秒から5秒の比較的速い変形に対しては、ほぼ変位に比例した電位が発生していることが確認できる。
図11は一定位置に止めた場合の応答結果であり、出力電圧がゆっくりと減衰していく挙動が確認できる。
実施例2との比較により、高分子内のイオン種によっても、挙動は異なり、EMIBF4を用いたセンサフィルムA(小さいプラスイオンの場合)では減衰する挙動がBMIBF4を用いたセンサフィルムBに比べて速いことがわかる。
【実施例4】
【0048】
図12は、実施例3と同じ設定で数日の間隔をおいて行った再現性/定量性の試験結果である。
図12(A)(B)(C)にそれぞれ別の日に行った試験結果を示す。この図では横軸が変形量、縦軸が出力電圧となっており、40秒間に、比較的速い変形を加えたときの試験結果である。速い動作においては、減衰する遅いダイナミクスの影響が少なく、変位と電位応答にほぼ比例関係があることがわかる。
また図12から、それぞれ別の日に行った試験で同様の結果が得られ、再現性があることが確認できた。
【0049】
上述したように本発明の装置および方法によれば、アクチュエータ部12が、不揮発性の電極層3の間に不揮発性のイオン伝導層4を挟持してその間に電圧信号を入力するように構成されるので、外部から電解質を補充することなく空気中および真空中で安定して作動できる。
【0050】
また、イオン伝導層4と電極層3がイオン液体を含みかつ可撓性があるので、低電圧で駆動でき、かつ外部からの入力信号に対する応答性を高くできる。
【0051】
また、アクチュエータ部12とセンサ部14を備え、センサ部14も、2枚の電極層3の間にイオン伝導層4を挟持してその間から電圧信号を出力するように構成されているので、アクチュエータ部によるイオン伝導層の変位をセンサ部で検出することができる。
【0052】
さらに、電極層形成工程S3と伝導層形成工程S4を同時又は順次行うことで、アクチュエータ部12とセンサ部14を形成することができ、この両方の工程を、塗布、印刷、押出し、キャスト又は射出により行うことができるので、製造が極めて容易である。
【0053】
また、本発明のソフトアクチュエータ10を用いることにより空中での動作が可能で、センサ部14によるフィードバック機能を用いることにより、空間的に部分的に剛性を変えることが可能となり、さらに多様な触覚を与えるデバイスを作成可能である。
また、同様の機構をセンサとして使用することにより、皮膚(産毛)のように面で接触を検知できるセンサを構成可能であり、介護などを行う人と接するロボットなどの人工皮膚としての利用が期待できる。また、低電圧で駆動できるという長所を利用し、小型化した鞭毛推進機構を構成することで、血管など人体内を移動するデバイスの開発も期待できる。
【0054】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明のセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータの第1実施形態図である。
【図2】本発明のソフトアクチュエータの第2実施形態図である。
【図3】本発明のソフトアクチュエータの製造方法を示すフロー図である。
【図4】使用した試験装置の構成図である。
【図5】センサフィルムAの試験結果である。
【図6】センサフィルムAの別の試験結果である。
【図7】センサフィルムBの試験結果である。
【図8】センサフィルムBの別の試験結果である。
【図9】センサフィルムBの比較的速い動作に対する応答結果である。
【図10】センサフィルムBの比較的速い動作に対する別の応答結果である。
【図11】センサフィルムBの一定位置に止めた場合の応答結果である。
【図12】再現性/定量性の試験結果である。
【図13】非特許文献1のIPMC膜の模式図である。
【図14】非特許文献2のアクチュエータ素子の模式図である。
【図15】特許文献1の「アクチュエータ素子」の構成図である。
【符号の説明】
【0056】
1 電極層前駆体液、2 伝導層前駆体液、
3 電極層、4 イオン伝導層、
10 センサ機能付き統合型ソフトアクチュエータ(ソフトアクチュエータ)、
12 アクチュエータ部、13 信号入力線、
14 センサ部、15 信号出力線、16 信号線、
20 センサフィルム(A又はB)、
22 レーザー変位計、
24 電圧増幅アンプを内蔵した電圧計
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び絶縁性のあるイオン伝導層と、
前記イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び導電性のある電極層とからなるアクチュエータ部とセンサ部とを備え、
アクチュエータ部は、2枚の電極層間にイオン伝導層を挟持してその間に電圧信号を入力するように構成され、
センサ部は、2枚の電極層間にイオン伝導層を挟持してその間から電圧信号を出力するように構成されている、ことを特徴とするセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータ。
【請求項2】
前記アクチュエータ部を構成する2枚の電極層と、前記センサ部を構成する2枚の電極層は、互いに間隔を隔てた4枚の電極層であり、同一のイオン伝導層の異なる部分を挟持する並列配置である、ことを特徴とする請求項1に記載のセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータ。
【請求項3】
前記アクチュエータ部を構成する2枚の電極層と、前記センサ部を構成する2枚の電極層は、2枚のイオン伝導層の間に挟持された1枚を共有する計3枚の電極層であり、2枚のイオン伝導層の同一位置を挟持する積層配置である、ことを特徴とする請求項1に記載のセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータ。
【請求項4】
前記イオン伝導層は、イオン液体とポリマーからなるゲル状組成物であり、
前記電極層は、カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーからなるゲル状組成物である、ことを特徴とする請求項1に記載のセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータ。
【請求項1】
イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び絶縁性のあるイオン伝導層と、
前記イオン液体を含み不揮発性、可撓性及び導電性のある電極層とからなるアクチュエータ部とセンサ部とを備え、
アクチュエータ部は、2枚の電極層間にイオン伝導層を挟持してその間に電圧信号を入力するように構成され、
センサ部は、2枚の電極層間にイオン伝導層を挟持してその間から電圧信号を出力するように構成されている、ことを特徴とするセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータ。
【請求項2】
前記アクチュエータ部を構成する2枚の電極層と、前記センサ部を構成する2枚の電極層は、互いに間隔を隔てた4枚の電極層であり、同一のイオン伝導層の異なる部分を挟持する並列配置である、ことを特徴とする請求項1に記載のセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータ。
【請求項3】
前記アクチュエータ部を構成する2枚の電極層と、前記センサ部を構成する2枚の電極層は、2枚のイオン伝導層の間に挟持された1枚を共有する計3枚の電極層であり、2枚のイオン伝導層の同一位置を挟持する積層配置である、ことを特徴とする請求項1に記載のセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータ。
【請求項4】
前記イオン伝導層は、イオン液体とポリマーからなるゲル状組成物であり、
前記電極層は、カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーからなるゲル状組成物である、ことを特徴とする請求項1に記載のセンサ機能付き統合型ソフトアクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−318960(P2007−318960A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148152(P2006−148152)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
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