説明

センサ素子の処理方法、およびセンサ素子

【課題】NOxセンサにおけるNOx濃度の変動に対するNOx信号の追随性を向上し、かつ当該処理に起因した不良発生を防止する。
【解決手段】酸素イオン導電性の固体電解質とNOx還元能を有する電極とを含んで構成される電気化学的ポンプセルを備え、当該電極において被測定ガス中のNOxガスを還元もしくは分解し、その際に電気化学的ポンプセルを流れる電流に基づいて被測定ガス中のNOx濃度を求めるセンサ素子の処理方法が、炭化水素を含み、空燃比が0.80〜0.9999であり、かつ酸化性ガスが微量添加されたガス雰囲気を用意する準備工程と、当該ガス雰囲気の下で、500℃以上の温度で15分以上、センサ素子を加熱処理する熱処理工程と、を含むようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NOxセンサの特性を向上させる処理方法に関し、特に、NOx濃度変化に対するNOx信号の追随性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のエンジン等の内燃機関における燃焼ガスや排気ガス等の被測定ガス中のNOx濃度を測定する装置として、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質を用いてセンサ素子を形成したNOxセンサが公知である。係るNOxセンサは、測定電極においてNOxガスを分解させると、その際に発生する酸素イオンの量が測定電極と基準電極とを流れる電流(NOx信号とも称する)に比例することを利用して、NOxガスの濃度を求めるようになっている。
【0003】
このようなNOxセンサに対しては、NOx濃度の変化に対する応答性(追随性)がよいことが、求められる。例えば、被測定ガスにおけるNOx濃度が急峻に変化した場合には、NOx信号の値もこの変化に即座に追随して変化することが求められる。一方で、排気ガス中の他のガス成分の濃度が変動したとしても、NOx濃度に変動がない限りは、NOx信号は一定でなければならない。このNOx信号の追随性を向上させる技術が既に公知である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2008/038773号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、NOxセンサを構成する、上述の固体電解質体であるセンサ素子を、炭化水素(HC)を含み、かつ、空気比が0.80〜1.10である雰囲気の下で、500℃以上の温度で15分以上加熱することで、NOx信号における過剰な出力変動を解消させる態様が開示されている。
【0006】
しかしながら、係る態様にてセンサ素子を熱処理した場合、雰囲気中に残存した未燃カーボンが、素子表面に付着して外観不良を生じさせるという問題や、センサ素子の初期の出力信号に悪影響を与えるという問題がある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、NOx濃度の変動に対するNOx信号の追随性が向上するとともに、処理に起因した不良発生が好適に防止された、センサ素子の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、酸素イオン導電性の固体電解質とNOx還元能を有する電極とを含んで構成される電気化学的ポンプセルを備え、前記電極において被測定ガス中のNOxガスを還元もしくは分解し、前記還元もしくは分解の際に前記電気化学的ポンプセルを流れる電流に基づいて前記被測定ガス中のNOx濃度を求めるセンサ素子の処理方法であって、炭化水素を含み、空燃比が0.80〜0.9999であり、かつ酸化性ガスが微量添加されたガス雰囲気を用意する準備工程と、前記ガス雰囲気の下で、500℃以上の温度で15分以上、前記センサ素子を熱処理する熱処理工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のセンサ素子の処理方法であって、前記酸化性ガスがNOであることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項2に記載のセンサ素子の処理方法であって、NOの濃度が体積比で0.05%以上1.0%以下であることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のセンサ素子の処理方法であって、前記加熱処理を、チャンバー内に前記センサ素子を保持した状態で、前記チャンバーに設けられた加熱手段によって前記チャンバー内のガス雰囲気を加熱することで行うことを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のセンサ素子の処理方法であって、前記加熱処理を、前記センサ素子に設けられたヒータによって行うことを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のセンサ素子の処理方法であって、前記ガス雰囲気における空燃比が0.9900〜0.9985であることを特徴とする。
【0014】
請求項7の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のセンサ素子の処理方法であって、前記加熱処理における加熱温度が600〜750℃であることを特徴とする。
【0015】
請求項8の発明は、センサ素子が請求項1ないし請求項7のいずれかの方法で処理されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1ないし請求項8の発明によれば、酸化性ガスが微量添加されたリッチ雰囲気下で熱処理を行うことにより、センサ素子におけるNOx信号の追随性が良好なものとなることに加えて、リッチ雰囲気成分に由来する未燃カーボンに起因する外観不良や初期出力不良などの発生が好適に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態に係る処理方法の適用対象たるNOxセンサのセンサ素子101の構造を模式的に示す断面図である。
【図2】NOx信号に過剰な出力変動が生じる様子を例示する図である。
【図3】加熱処理の雰囲気におけるNOの濃度と、過剰出力変動値との関係をプロットした図である。
【図4】加熱手段を備えた炉による加熱処理を行ったセンサ素子についてのNOx信号の追随性を示す図である。
【図5】センサ素子101単体の状態でヒータ150による加熱処理を行ったセンサ素子についてのNOx信号の追随性を示す図である。
【図6】ガスセンサ組立品の状態でヒータ150による加熱処理を行ったセンサ素子についてのNOx信号の追随性を示す図である。
【図7】実験例4ないし実験例6における加熱処理の条件と評価結果とを一覧にして示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<センサ素子の概要>
図1は、本実施の形態に係る処理方法の適用対象たるNOxセンサのセンサ素子101の構造を模式的に示す断面図である。図1に示すセンサ素子101は、酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニアを主成分とするセラミックスを構造材料として構成されてなる。なお図1に示すセンサ素子101の構成はあくまで例示であって、センサ素子101の具体的構成はこれに限られるものではない。
【0019】
図1に示すセンサ素子101は、第一の内部空室102が、外部空間に開放されたガス導入口104と第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120を通じて連通し、第二の内部空室103が第三の拡散律速部130を通じて第一の内部空室102と連通する構成を備える、いわゆる直列二室構造型のNOxセンサである。係るセンサ素子101を用い、以下のようなプロセスが実行されることで、被測定ガス中のNOxガス濃度が算出される。
【0020】
まず、第一の内部空室102に導入された被測定ガスは、主ポンプセルP1のポンピング作用(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)によって、酸素濃度が略一定に調整されたうえで、第二の内部空室103に導入される。主ポンプセルP1は、センサ素子101の外面に設けられた外部ポンプ電極141と、第一の内部空室102に設けられた内部ポンプ電極142と、両電極の間のセラミックス層101aとによって構成される電気化学的ポンプセルである。第二の内部空室103においては、同じく電気化学的ポンプセルである、補助ポンプセルP2のポンピング作用により、被測定ガス中の酸素が素子外部へと汲み出されて、被測定ガスが十分な低酸素分圧状態とされる。補助ポンプセルP2は、外部ポンプ電極141と、第二の内部空室103に設けられた補助ポンプ電極143と、両電極の間のセラミックス層101bとによって構成される。
【0021】
外部ポンプ電極141、内部ポンプ電極142、および補助ポンプ電極143は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成されてなる。なお、被測定ガスに接触する内部ポンプ電極142および補助ポンプ電極143は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。
【0022】
補助ポンプセルによって低酸素分圧状態とされた被測定ガス中のNOxは、第二の内部空室103に保護層144に被覆される態様にて設けられた測定電極145において還元ないし分解される。測定電極145は、第二の内部空室103内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する多孔質サーメット電極である。測定電極145は、基準ガス導入口105に通じる多孔質アルミナ層146内に設けられた基準電極147との間の電位差が、一定に保たれている。そして、上述の還元ないし分解によって生じた酸素イオンが、測定用ポンプセルP3によって素子外部へと汲み出される。測定用ポンプセルP3は、外部ポンプ電極141と、測定電極145と、両電極の間のセラミックス層101cとによって構成される。測定用ポンプセルP3は、測定電極145の周囲の雰囲気中におけるNOxの分解によって生じた酸素を汲み出す電気化学的ポンプセルである。センサ素子101においては、汲み出される酸素の量に応じて測定電極145と外部ポンプ電極141との間を流れるポンプ電流Ip2が、検出される。NOxセンサにおいては、このポンプ電流Ip2の電流値(NOx信号)と、分解されたNOxの濃度との間に線型関係があることに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度が求められる。
【0023】
なお、センサ素子101には、ヒータ150が設けられている。ヒータ150は、センサ素子101の使用時に、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるべく、センサ素子101を加熱するために設けられてなる。また、ヒータ150は、後述する加熱処理を行う際にも使用される。
【0024】
<NOx信号の追随性の向上>
次に、センサ素子101をNOx濃度の測定に供した場合に、NOx信号の追随性を確保して過剰な出力変動(NOx信号のオーバーシュートやアンダーシュート)を発生させないようにするべく、センサ素子101に対し行う処理について説明する。
【0025】
図2は、NOx信号に過剰な出力変動が生じる様子を例示する図である。図2においては、追随性確保のための処理が施されていないセンサ素子を用いて被測定ガスのNOx濃度を測定している途中において、被測定ガス中のNOx濃度が突然0になったときの、当該センサ素子における実際のNOx信号変化を実線で、理想的なNOx信号変化を破線で、それぞれ示している。
【0026】
所定の濃度でNOxガスを含んでいた被測定ガスにおいて、突然にNOxガスが含まれなくなれば、原理的には、図2に破線にて示すように、NOx信号もこれに速やかに追随して対応する信号値に変化する(図2においてはI1→I0と変化する)はずである。しかしながら、実際には、図2に実線にて示すように、NOx信号には現実のNOx濃度変化とは異なる過剰な出力変動が生じてしまう。なお、このような場合には通常、図2に示すようにアンダーシュートが生じる。以降においては、このような、出力変動が生じたときのNOx信号の値の、理想的なNOx信号の値に対する最大の差分値を、過剰出力変動値と称することとする。
【0027】
本実施の形態においては、炭化水素(HC)と酸化性を有するガス(以下、酸化性ガス)とを含み、かつ空燃比が0.80〜0.9999である雰囲気の下で、センサ素子101を加熱することで、上述のような過剰な出力変動を防止してNOx信号の追随性が良好に確保されるようにする。係る加熱は、酸化性ガスが微量添加された雰囲気下で行うのが好適である。すなわち、本実施の形態は、酸化性ガスを微量含むリッチ雰囲気下で加熱処理を行う点で特徴的である。係る雰囲気下で加熱処理を行うことにより、センサ素子101におけるNOx信号の追随性が良好なものとなることに加えて、未燃カーボンに起因する外観不良や、初期出力不良(NOxが存在しない状況にもかかわらず測定ポンプセルP3に大きなポンプ電流Ip2が流れてしまう不良)などの発生が好適に防止される。なお、空燃比が0.80より小さい雰囲気下での加熱は、未燃カーボンの付着および初期出力不良が発生してしまうため好ましくない。また、空燃比を1.0より大きくするとリーン雰囲気となってしまい、本実施の特徴である、リッチ雰囲気下での処理ではなくなってしまう。この場合、NOx信号の追随性が得られず、過剰な出力変動が生じてしまうため、好ましくない。なお、空燃比を0.9900〜0.9985とするのが更に好適である。この場合、NOx信号の追随性がより確実に確保され、なおかつ外観不良や初期出力不良の発生もより好適に防止される。
【0028】
センサ素子101の加熱処理は、図示しない加熱手段を設けたチャンバー(例えば、モデルガス装置や炉など)内に上述した酸化性ガスを微量含むリッチ雰囲気を形成し、かつ、該チャンバー内にセンサ素子101を保持した状態で、該加熱手段を作動させて、チャンバー内のリッチ雰囲気を加熱することにより行ってもよい。あるいは、同様のリッチ雰囲気を形成した空間でセンサ素子101に設けられたヒータ150を作動させることにより行ってもよい。後者の場合、図示しない保護カバーその他を組み付けてガスセンサを構成する前のセンサ素子150単体の状態で加熱を行っても良いし、ガスセンサ組立品(完成品)の状態で加熱を行っても良い。
【0029】
酸化性ガスとしては、NO、NO2、N2O、CO2、O3、SO3などを用いることができる。なかでも、NOを用いるのが好ましい。なお、リッチ雰囲気の形成にCOが用いられることがあるが、COは炭化水素(例えばC38など)の存在下では酸化性を示さないため、CO含有雰囲気下での加熱処理は、本実施の形態に係る酸化性ガス含有雰囲気下での加熱処理には該当しない。
【0030】
NOを用いる場合であれば、雰囲気ガス中のNO濃度は0.05%〜1.0%であるのが好ましい。なお、本実施の形態においては、ガス濃度は全て体積比で表すものとする。NO濃度が0.05%以下の場合、センサ素子101に対する未燃カーボンの付着が生じてしまい好ましくない。一方、NO濃度が1.0%以上の場合、NOx信号の追随性が得られず、過剰な出力変動が生じてしまうために好ましくない。
【0031】
なお、加熱温度は500℃以上とするのが好適であり、加熱時間は15分以上とするのが好適である。加熱温度は600〜750℃とするのが更に好適であり、加熱時間は1〜4時間とするのが更に好適である。
【0032】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、酸化性ガスが微量添加されたリッチ雰囲気下で加熱処理を行うことにより、センサ素子におけるNOx信号の追随性が良好なものとなることに加えて、未燃カーボンに起因する外観不良や初期出力不良などの発生が好適に防止される。
【実施例】
【0033】
(実験例1)
NO濃度が異なる7水準のリッチ雰囲気ガスを用意し、それぞれの雰囲気において10個ずつ、計70個のセンサ素子101について加熱処理を行った後、全てのセンサ素子101について外観検査とNOx信号の追随性の評価とを行った。
【0034】
具体的には、NO濃度が0%、0.05%、0.1%、0.3%、0.5%、1.0%、1.2%の7水準で異なり、C36濃度が0.07%で一定で、残余がN2である7種の雰囲気ガスを用意し、それぞれの雰囲気下で、10個のセンサ素子101について700℃、2時間の加熱処理を行った。加熱は、10個のセンサ素子101を保持した炉内に雰囲気ガスを流し、当該炉に備わる加熱手段を作動させることにより行った。
【0035】
加熱処理後のセンサ素子101について、外観検査を行ったところ、NO濃度が0%のセンサ素子101(つまりは酸化性ガスが添加されていない雰囲気ガスが用いられたセンサ素子101)においてのみ、未燃カーボンの付着が確認された。係る結果は、酸化性ガスを添加したリッチ雰囲気下で加熱処理を行うことで、未燃カーボンの付着が防止されることを示している。
【0036】
(実験例2)
本実験例では、実際のNOx濃度の変動に対するNOx信号の追随性を評価するため、実験例1の加熱処理後のセンサ素子101を、総排気量2000ccのディーゼルエンジンの排気パイプに取り付け、ディーゼルエンジンを作動させて回転数2000rpmの状態からアイドリング状態へと変化させた。そして、このようにしてエンジンの動作状態を変化させている間、センサ素子101によってNOx信号を連続的に測定し、その変化を調べた。
【0037】
図3は、加熱処理に用いたリッチ雰囲気におけるNOの濃度と、過剰出力変動値との関係をプロットした図である。黒丸印が10個のセンサ素子101についての平均値を示し、上下の横線は最大値と最小値を示している。
【0038】
図3に示す結果からは、酸化性ガスとして1.0%以下の添加量(濃度)でNOをリッチ雰囲気に添加した場合には、過剰な出力変動がほとんど生じず、個々のセンサ素子101間におけるバラツキも小さい一方、添加量が1.2%の雰囲気で加熱処理を行ったセンサ素子については、個々のセンサ素子にアンダーシュートが生じているとともにそのバラツキが大きいことが確認される。係る結果は、加熱処理に用いるリッチ雰囲気におけるNOの添加量(濃度)を1.0%以下とすることで、NOx濃度の変動に対する追随性が安定的に確保されたセンサ素子101が得られることを示している。
【0039】
(実験例3)
本実験例では、加熱処理態様の違いがNOx信号の追随性の向上に与える影響について評価を行った。
【0040】
具体的には、3つのセンサ素子101を用意し、1つ目のセンサ素子101には(a)加熱手段を備えた炉による加熱処理を行い、2つ目のセンサ素子101には(b)センサ素子101単体の状態でのヒータ150による加熱処理を行い、3つ目のセンサ素子101には(c)ガスセンサ組立品の状態でのヒータ150による加熱処理を行った。ただし、加熱処理雰囲気はいずれも、NOガスをおよそ0.13%含むリッチ雰囲気とした。
【0041】
その後、それぞれの条件で加熱処理がなされた3つのセンサ素子101を対象に、実験例2と同様の条件でNOx信号の変化を調べた。
【0042】
図4ないし図6はそれぞれ、上記(a)〜(c)の加熱処理態様で加熱処理がなされたセンサ素子101におけるNOx信号の変化を示す図である。図4は(a)の場合の結果を示しており、図5は(b)の場合の結果を示しており、図6は(c)の場合の結果を示している。なお、図4ないし図6にはいずれも、加熱処理を行わなかったセンサ素子101について同条件でNOx信号の変化を評価した結果を併せて示している。
【0043】
図4ないし図6のいずれにおいても、加熱処理を行っていないセンサ素子101ついてのNOx信号(図において「処理なし」と表示)にはアンダーシュートが生じているのに対して、加熱処理を行ったセンサ素子101についてのNOx信号(図において「処理あり」と表示)にはアンダーシュートは生じていない。
【0044】
係る結果は、加熱処理の具体的態様によらず、酸化性ガスを含んだリッチ雰囲気のもとで加熱処理を行うようにすることで、過剰な出力変動の発生を防止してNOx信号の追随性を向上させることができることを指し示している。
【0045】
(実験例4ないし実験例6)
実験例4ないし実験例6として、空燃比、加熱温度、および加熱時間の違いが、それぞれ、素子外観、NOx信号の追随性、および初期出力に与える影響について、評価を行った。図7は、実験例4ないし実験例6における加熱処理の条件と評価結果とを一覧にして示す図である。
【0046】
実験例4では、雰囲気ガスの空燃比の違いによる影響を評価した。具体的には、NO濃度を0.05%に固定し、C36濃度を違えることによって、空燃比を0.75、0.80、0.90、0.99、0.9985、0.999、1.05の7水準に調整した雰囲気ガスを用意し、それぞれの雰囲気下で、センサ素子101を700℃で2時間加熱する処理を行った。加熱は、センサ素子101を保持した炉内に雰囲気ガスを流し、当該炉に備わる加熱手段を作動させることにより行った。
【0047】
加熱処理の後、それぞれの条件で加熱処理がなされた全7つのセンサ素子101を対象に、外観検査を行った。なお、図7においては、外観検査において外観不良があった場合をNGとし、なかった場合をOKとしている。また、実験例2と同様の条件でNOx信号の変化を調べ、過剰な出力変動の発生の有無を評価した。さらには、NOxが存在しないときに測定ポンプセルP3を流れるポンプ電流Ip2の電流値である初期出力を、被測定ガスとしてN2ガスのみを供給することによって測定した。初期出力は、0に近いほど好ましいが、本実験例では、初期出力が−0.10μA〜0.20μAの範囲内の値であれば合格と判断した。
【0048】
これらの評価の結果、図7に示すように、空燃比が0.8〜0.9999の範囲内の雰囲気下で加熱処理したセンサ素子101については、いずれの評価においても不良は生じなかった。これに対して、空燃比が0.75の雰囲気下で加熱処理したセンサ素子101では未燃カーボンの付着および初期出力不良が発生した。また、空燃比が1.05の雰囲気下で加熱処理したセンサ素子101においては過剰な出力変動が生じた。以上の結果は、空燃比が0.8〜0.9999の範囲内の雰囲気下で加熱処理を行うことで、外観不良を生じさせることなく、NOx信号の追随性を向上させることができることを示している。
【0049】
実験例5では、加熱温度の違いによる影響を評価した。具体的には、400℃、500℃、600℃、700℃、750℃、900℃の6通りの加熱温度でセンサ素子101の加熱処理を行った。ただし、加熱処理雰囲気はいずれも、NO濃度が0.13%であり、C36濃度が0.07%であり、空燃比が0.998であるリッチ雰囲気とした。また、加熱時間は全て2時間とした。加熱は、実験例4と同じく、センサ素子101を保持した炉内に雰囲気ガスを流し、当該炉に備わる加熱手段を作動させることにより行った。
【0050】
加熱処理の後、それぞれの条件で加熱処理がなされた6つのセンサ素子101を対象に、実験例4と同様の条件で3つの評価を行った。
【0051】
図7に示すように、加熱温度を400℃とした場合のみ、過剰な出力変動が生じたが、500℃以上とした場合には、いずれの評価においても不良は生じなかった。係る結果は、加熱温度が低すぎると、加熱処理によるNOx信号の追随性の向上効果が得られないことを示している。
【0052】
実験例6では、加熱時間の違いによる影響を評価した。具体的には、10分、15分、60分、120分、240分、600分の6通りの加熱時間でセンサ素子101の加熱処理を行った。ただし、加熱温度はいずれも700℃とした。また、加熱処理雰囲気はいずれも、NO濃度が0.10%であり、C36濃度が0.07%であり、空燃比が0.995であるリッチ雰囲気とした。加熱は、実験例4と同じく、センサ素子101を保持した炉内に雰囲気ガスを流し、当該炉に備わる加熱手段を作動させることにより行った。
【0053】
加熱処理の後、それぞれの条件で加熱処理がなされた6つのセンサ素子101を対象に、実験例4と同様の条件でNOx信号の変化を調べた。
【0054】
図7に示すように、加熱時間を10分とした場合のみ、過剰な出力変動が生じたが、15分以上とした場合には、いずれの評価においても不良は生じなかった。係る結果は、加熱時間が短すぎると、加熱処理によるNOx信号の追随性の向上効果が得られないことを示している。
【符号の説明】
【0055】
101 センサ素子
102 第一の内部空室
103 第二の内部空室
104 ガス導入口
105 基準ガス導入口
110 第一の拡散律速部
120 第二の拡散律速部
130 第三の拡散律速部
141 外部ポンプ電極
142 内部ポンプ電極
143 補助ポンプ電極
144 保護層
145 測定電極
146 多孔質アルミナ層
147 基準電極
150 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン導電性の固体電解質とNOx還元能を有する電極とを含んで構成される電気化学的ポンプセルを備え、前記電極において被測定ガス中のNOxガスを還元もしくは分解し、前記還元もしくは分解の際に前記電気化学的ポンプセルを流れる電流に基づいて前記被測定ガス中のNOx濃度を求めるセンサ素子の処理方法であって、
炭化水素を含み、空燃比が0.80〜0.9999であり、かつ酸化性ガスが微量添加されたガス雰囲気を用意する準備工程と、
前記ガス雰囲気の下で、500℃以上の温度で15分以上、前記センサ素子を加熱処理する加熱工程と、
を含むことを特徴とするセンサ素子の処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサ素子の処理方法であって、
前記酸化性ガスがNOであることを特徴とするセンサ素子の処理方法。
【請求項3】
請求項2に記載のセンサ素子の処理方法であって、
NOの濃度が体積比で0.05%以上1.0%以下であることを特徴とするセンサ素子の処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のセンサ素子の処理方法であって、
前記加熱処理を、チャンバー内に前記センサ素子を保持した状態で、前記チャンバーに設けられた加熱手段によって前記チャンバー内の前記ガス雰囲気を加熱することで行うことを特徴とするセンサ素子の処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のセンサ素子の処理方法であって、
前記加熱処理を、前記センサ素子に設けられたヒータによって行うことを特徴とするセンサ素子の処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のセンサ素子の処理方法であって、
前記ガス雰囲気における空燃比が0.9900〜0.9985であることを特徴とするセンサ素子の処理方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のセンサ素子の処理方法であって、
前記加熱処理における加熱温度が600〜750℃であることを特徴とするセンサ素子の処理方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかの方法で処理されたセンサ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−227051(P2011−227051A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16199(P2011−16199)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(509302663)エヌジーケイ・セラミックデバイス株式会社 (20)