説明

セントロメア局在タンパク遺伝子のノックアウト細胞

【課題】染色体分配機構の解明、及びがん創薬の有用なモデル細胞になり得る、セントロメアに局在するタンパク遺伝子のノックアウト細胞の提供。
【解決手段】特定のアミノ酸配列からなるか、又は特定のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、セントロメアに局在し、かつCENP−H及びCENP−Iに結合性を有するタンパク質CENP−O又はCENP−Pをコードする遺伝子の機能を欠損させた細胞。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セントロメアに局在するタンパク質の遺伝子のノックアウト細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
生物が生命を維持するためには、全ゲノム情報を包括する構造体である染色体は安定に保持・増殖されなければならない。正常な細胞では、ほぼ決まった時間周期で染色体の複製と分配が正確に行われる。染色体の複製・分配といった基本的な生体反応に狂いが生じると染色体の異数化、がん化など細胞に対する悪影響が生じる。したがって、染色体分配機構の解明は、がん化の制御につながると考えられる。
【0003】
細胞分裂時に両極から伸びた紡錘体が染色体の特殊構造を捕まえて、娘細胞へ分配することで染色体分配はおこる。その際、紡錘体が捕らえる染色体の特殊構造はセントロメア(動原体)と呼ばれている。従って、セントロメアは染色体分配に重要な働きを担っている。また、がん細胞のように過剰な分裂を行う細胞では、セントロメアを構成するあるタンパク質が過剰に発現していることが報告されている(非特許文献1)。CENP−H及びCENP−Iは染色体分配に関わるセントロメア構成タンパク質であり、CENP−HとCENP−Iが結合していることは報告されている(非特許文献2)。ただし、CENP−HやCENP−Iは、染色体分配において未同定のタンパク質と作用して巨大複合体として機能すると予想されている(非特許文献3)。他のセントロメアタンパク質と同様に未同定のセントロメアタンパク質は、がん細胞で過剰に発現していることが予想される。したがって、未同定のセントロメアタンパク質は、制がん薬剤のターゲットになる可能性を秘めている。また、当該未同定のセントロメアタンパク質の機能解明やがん研究のためには、当該タンパク質遺伝子をノックアウトした細胞が必要になる。
【非特許文献1】Tomonaga et al., Cancer Res., 63, 3511-3516, 2003
【非特許文献2】Nishihashi et al., Dev. Cell, 2, 463-476, 2002
【非特許文献3】Fukagawa, Exp. Cell Res., 296, 21-27, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、セントロメアに局在し、CENP−H及びCENP−Iに結合して染色体分配を制御しており、制がん薬剤のターゲットとして有用な新規タンパク質を見出し、そのタンパク質遺伝子のノックアウト細胞を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、がん細胞の増殖制御を目指してセントロメアを構成するタンパク質について研究を行い、特にCENP−H及びCENP−Iに注目し、これに結合するタンパク質を探索してきた。その結果、今般、CENP−H及びCENP−Iに結合し、セントロメアへ局在し染色体分配を制御する機能を有する5種のタンパク質を見出した。そして、さらに研究してきたところ、そのうちの2種のタンパク質遺伝子をノックアウトした細胞の取得に成功し、それらの細胞が増殖はするが、その増殖時間が遅くなっており、染色体分配の機能解明及びがん創薬の有用なモデル細胞になり得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、配列番号1又は2のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号1又は2のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、セントロメアに局在し、かつCENP−H及びCENP−Iに結合性を有するタンパク質CENP−O又はCENP−Pをコードする遺伝子の機能を欠損させた細胞を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
CENP−O及びCENP−Pは、セントロメアを構成するタンパク質であるCENP−H及びCENP−Iに結合し、かつセントロメアへ局在する性質を有することから、染色体の分配に深く関与しているタンパク質である。そして、本発明のノックアウト細胞は、細胞増殖が遅くなっており、細胞のがん化のメカニズム解明や染色体分配機能解明に有用なモデル細胞である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
CENP−O又はCENP−Pは、配列番号1又は2のアミノ酸からなるか、又は配列番号1又は2のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加したアミノ酸配列からなり、セントロメアに局在し、かつCENP−H及びCENP−Iに結合性を有するタンパク質である。ここで配列番号1がCENP−Oのアミノ酸配列、配列番号2がCENP−Pのアミノ酸配列である。ここで、上記1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列と配列番号1又は2のアミノ酸配列との相同性は、好ましくは90%以上、より好ましくは95%、さらに好ましくは98%以上である。
【0009】
また、CENP−O又はCENP−Pをコードする遺伝子としては、前記タンパク質をコードするものであれば制限されないが、例えば配列番号6又は7の塩基配列からなるDNA、又は配列番号6又は7の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつCENP−H及びCENP−Iに結合性を有するタンパク質をコードするDNAが挙げられる。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば0.1%SDSを含む0.2×SSC中50℃、又は0.1%SDSを含む1×SSC中60℃の条件である。
【0010】
配列番号1又は2のアミノ酸配列及び配列番号6又は7の塩基配列は、ニワトリ由来のタンパク質及びそれをコードする遺伝子である。しかし、前記の如く1又は数個のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつCENP−H及びCENP−Iに結合性を有する限り、ヒトを含む哺乳類由来のタンパク質も本発明に含まれることは言うまでもない。
【0011】
セントロメアに局在するタンパク質の同定は、生化学的手法や遺伝学的手法を用いることで数多く試みられている。しかしながら、存在量の少なさや抽出技術の困難さから、新しくセントロメアタンパク質を同定したという成功例は数少ない。また、既存のセントロメアタンパク質にタグをつけたタンパク質を細胞内で大量発現させて、結合タンパク質を同定する試みが最近さかんに行われている。しかしながら、大量発現することで、そのタンパク質がセントロメア以外の場所に局在し、セントロメアに局在するセントロメアタンパク質同定がうまくいかないなど技術的な問題点が数多くあった。
【0012】
CENP−O又はCENP−Pは、例えばニワトリDT40細胞を用いて、以下の如くして分離できる。すなわち、ニワトリDT40細胞内では、相同組み換えが高頻度でおこるために遺伝子改変を効率的に行うことができる。セントロメアタンパク質CENP−H又はCENP−Iの発現を100%タグ付きの融合タンパク質に置き換えた細胞株を樹立した。この細胞株では、タグ付きのCENP−HやCENP−Iがセントロメア以外に局在してしまうという前記問題点が克服できていた。そこでこれらの細胞株を用いてクロマチン画分を調製し、抗タグ抗体を用いた免疫沈降法によりCENP−H及びCENP−Iと結合するタンパク質を同定した。得られたペプチド配列をもとにcDNAクローニングすることにより、配列番号1又は2のアミノ酸配列からなる2種類のタンパク質CENP−O及びCENP−P得られる。
【0013】
得られたCENP−O又はCENP−Pは、これをGFP融合タンパク質等の標識タンパク質として細胞内で発現させれば、細胞周期を通じてセントロメアへ局在することが確認できる。
【0014】
かくして得られたCENP−O又はCENP−P及びこれらの遺伝子は、アミノ酸配列又は塩基配列が判明したので、前記手段に限定されず、ペプチド合成等により製造することもでき、通常の遺伝子組み換え手段により製造できることは言うまでもない。
【0015】
CENP−O又はCENP−Pは、CENP−H及びCENP−Iに結合し、かつセントロメアへ局在する。従って、染色体の分配に必須のタンパク質である。
【0016】
本発明において、CENP−O又はCENP−Pをコードする遺伝子の機能を欠損させたとは、該遺伝子の遺伝子産物であるCENP−O又はCENP−Pが正常に産生されないようにしたことをいい、CENP−O又はCENP−P自体が産生しない場合、及び一部を欠損するなどして機能を発現し得ないタンパク質を産生する場合が含まれる。
【0017】
本発明のノックアウト細胞は、例えばCENP−O又はCENP−Pの遺伝子領域の一部又は全部を相同組み換え方法によって、染色体上の当該遺伝子を破壊することにより行なわれる。相同組み換えは、他の遺伝子、例えば薬剤耐性遺伝子との間に相同組み換えを行うことにより、CENP−O又はCENP−Pの遺伝子の領域を細胞から欠失させることにより行うのが好ましい。
【0018】
本発明のノックアウト細胞の樹立は、具体的には次の如くして行われる。CENP−Oを例にして説明する。
宿主としては例えば、ニワトリのB細胞由来のDT40細胞を用いることができる。DT40細胞は2倍体であるため、CENP−Oが2ローカス存在する。そこで、2つのノックアウトコンストラクトを作成して順次遺伝子破壊を行う。はじめに、薬剤耐性遺伝子、例えばヒスティディノール耐性遺伝子(hisD遺伝子)を含むノックアウトコンストラクトを導入する。このノックアウトコンストラクトがCENP−Oの遺伝子領域と相同組み換えを起こすと、CENP−Oのエキソン3からエキソン7がhisD遺伝子と置き換わり、CENP−Oの一つの遺伝子領域が破壊される。1遺伝子座が破壊された細胞へもう一つの薬剤耐性遺伝子、例えばピユーロマイシン耐性遺伝子を含む2つ目のノックアウトコンストラクトを導入して2遺伝子座も完全に破壊する。ノックアウト株の全ゲノムDNAを抽出して制限酵素で消化してゲル電気泳動後、DNAをフィルターに転写する。フィルターをラベルしたのちハイブリダイズして、遺伝子置換を起こしている細胞を選択する。
【0019】
かくして得られるノックアウト細胞は、いずれも細胞増殖は行うが、野生型に比べると遅延している。倍加時間は、野生型で約9時間であったのに対し、10〜11時間であった。従って、CENP−O及びCENP−Pはいずれも染色体の分配に必須ではあるが、細胞増殖に必須ではないことが判明した。従って、本発明のノックアウト細胞は、がん治療薬のスクリーニングモデル細胞として、また染色体分配の機構解明に有用である。
【実施例】
【0020】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0021】
(1)細胞内のCENP−H又はCENP−Iタンパク質の全てをタグ付き融合タンパク質に置換された細胞株の確立
CENP−H遺伝子あるいはCENP−I遺伝子のゲノム領域と相同性のある約10Kbのゲノム配列をプラスミドベクターpBSへクローン化する。そのプラスミドへクローン化されたゲノム領域へ薬剤耐性遺伝子(ヒスチジノール耐性遺伝子あるいはピューロマイシン耐性遺伝子)を挿入したプラスミドを構築する (ノックアウトコンストラクト)。エレクトロポーレーション法(550V、25マイクロF)を用いて、制限酵素NotIで切断されたノックアウトコンストラクトをDT40細胞へ導入して、ノックコンストラクトとゲノム領域が置換したニワトリDT40細胞株(CENP−HあるいはCENP−Iノックアウト株)を樹立する。相同組み換えの有無は、サザンハイブリダイゼーションで確認できる。平行して、CMVプローモーターの下流でFLAGタグ融合CENP−HあるいはCENP−Iタンパク質が発現するプラスミドベクターを構築する(FLAGタグ融合ベクター)。FLAGタグ融合ベクターをエレクトロポーレーション法を用いて、CENP−HあるいはCENP−Iノックアウト株へ導入した。これらの細胞株では、野生型のCENP−HあるいはCENP−Iタンパク質がノックアウトされて、FLAGタグ融合CENP−HあるいはCENP−Iタンパク質が発現しているため、細胞内の全てのCENP−HあるいはCENP−Iタンパク質がFLAGタグ融合CENP−HあるいはCENP−Iタンパク質に置き換わっている。
【0022】
(2)CENP−O及びCENP−Pの分離
(1)で得た細胞を大量培養して間期の細胞を集めた。Dounceホモジナイザーを用いて細胞を破砕し、遠心分離によって核を調製する。核を緩衝液A(20mM HEPES−KOH pH8.0/150mM KCl/1mM DTT)に懸濁した後、超音波破砕し、遠心分離によってDNAを含む画分を調製した。DNAを含む画分に最終濃度3mMのCaCl2を添加し、さらにマイクロコッカル・ヌクレアーゼを加えて4℃1時間反応させ、DNAを切断することによって、DNAに結合しているタンパク質を可溶化した。KCl及びNP−40をそれぞれ最終濃度300mM及び0.1%になるよう添加し、続いて抗FLAG抗体を固定化したレジンを添加して4℃3時間撹拌した。抗FLAG抗体を固定化したレジンを遠心分離によって回収し、緩衝液B(20mM HEPES−KOH pH8.0/300mM KCl/1mM DTT/0.1% NP−40)を用いて洗浄した。抗FLAG抗体を固定化したレジンに0.1M Glycine pH2.5溶液を添加して1分間静置した後、遠心分離によって溶液を回収した。溶液に等量の20%トリクロロ酢酸及び5倍量のアセトンを添加し、−20℃で2時間静置し、遠心分離によってタンパク質を回収した。
【0023】
(3)タンパク質の同定
回収されたタンパク質をSDS−PAGEによって分離した後、銀染色で検出し、ゲルを切り出して質量分析を行うことで各タンパク質の部分アミノ酸配列を決定した。各タンパク質の部分アミノ酸配列は、以下の通りである。
【0024】
(CENP−O)Asp Gly Gly Gly Arg Met Pro Ala Ala Pro Leu Ala Gln Gly Lys Val Glu Arg
【0025】
(CENP−35)Lys Gln Trp Thr Leu Tyr Ser Val Ser Pro Leu Tyr Lys Phe Ser Ser Ala Asp Leu Lys Asp Tyr Ala Arg Met Leu Gly Val Phe Ile Ala Ala Glu Lys Arg
【0026】
(CENP−P)Lys Ala Glu Leu Glu Ser Leu Gln Arg Asp Leu Ser Phe Leu Val Lys Phe Thr Gly Ile Gln Ile Thr Ser His Ser Lys Lys Thr Leu Glu Lys Thr Gly Asn Arg
【0027】
(CENP−30)Arg Asn Pro Glu Leu Ile Ser Thr Asn Pro Glu Val Leu Leu Leu Leu Gly Glu Glu Glu Leu Gln Lys
【0028】
(CENP−17)Asn Val Gln Ala Ser Leu Ala Tyr Val Asp Val Arg Phe Phe Leu Gly Lys Val Cys Phe Leu Val Thr Gly Val Gly Arg Ala Asn Asn Cys Ser Val Glu Met
【0029】
CENP−I−GFP、CENP−H−GFP、あるいはCENP−H−3×FLAG融合タンパクを発現する細胞を大量培養し、クロマチン画分を調製した。抗GFP抗体あるいは抗FLAG抗体を用いてタンパク複合体を免疫沈降し、銀染色によってタンパクを検出した。得られた結果を図1に示す。コントロール実験として、野生型のDT40細胞(wt)を大量培養し、クロマチン画分を調製して抗GFP抗体あるいは抗FLAG抗体を用いた免疫沈降実験を行った。ここで、検出されるタンパク質は、抗体の非特異的吸着により沈降されるタンパク質である。CENP−I−GFP、CENP−H−GFP、あるいはCENP−H−3×FLAG融合タンパクを発現する細胞で、特異的に沈降され、コントロール実験で沈降される5本のバンドに着目して、それらをCENP−I、CENP−H、CENP−O、CENP−35、CENP−P、CENP−30、CENP−17と命名した。
CENP−O、CENP−35、CENP−P、CENP−30、CENP−17の各タンパクは、CENP−HやCENP−Iと特異的に結合することから、これらが構成的にセントロメアに局在するタンパク複合体であると考えられた。CENP−HをCENP−H−FLAGに置き換えた細胞から調製したサンプルとCENP−IをCENP−I−FLAGに置き換えた細胞から調製したサンプルで共通に見られる5本のバンドを切り出して部分的アミノ酸配列を決定した。
【0030】
(4)得られた部分アミノ酸配列をもとにプローブを調製し、ニワトリ胚由来のcDNAライブラリーをスクリーングした。各種タンパク質に関して複数種類のcDNAクローンを得て、得られたすべてのcDNAクローンの塩基配列を決定した。その結果すべての 種類のタンパク質に関して開始コドンと予想されるATGが見いだされ、完全長のcDNAの塩基配列が決定できた。(CENP−Oが配列番号1及び6、CENP−Pが配列番号2及び7、CENP−35が配列番号3及び8、CENP−30が配列番号4及び9、CENP−17が配列番号5及び10にそれぞれ対応する)。それらのcDNAを参考にプライマーを設計して、PCR反応を行いストップコドンをとり除いたcDNAを得て、その断片をpEGFPN1(クローンテック社)のBamHIサイトへクローン化した。それぞれのプラスミドは、ストップコドンが取り除かれてGFPのコード領域と融合している(GFP融合発現プラスミド)。GFP融合発現プラスミドをDT40野生型細胞あるいはCENP−H−RFP発現細胞(セントロメア領域が赤で標識されている細胞)へ導入して、GFP融合タンパク質としてそれぞれのタンパク質を安定に発現させた。それぞれのGFP融合タンパク質の安定発現細胞を集めて、PBSで洗浄後、サイトスピン法によってスライドグラス上に貼付けた。スライドグラスを3%パラホルムアルデヒドに15分間浸透させ、細胞を固定した。細胞をPBSでリンスした後0.3マイクロg/mLのDAPIで細胞核及び染色体を染色した。作成したスライドグラスを蛍光顕微鏡へ供してGFP融合タンパク質の細胞内局在を緑チャンネルで観察した。細胞形態によって、細胞分裂期の細胞と間期の細胞の区別が可能となる。5種類すべてのタンパク質がCENP−HやCENP−Iと同様に細胞周期を通じて点状のドットとして観察された。CENP−Hと局在をともにすることから、すべてのタンパク質が細胞周期を通じてセントロメアへ局在していることが確認できた(図2〜図6)。
【0031】
(5)CENP−Oノックアウト細胞
ニワトリのB細胞由来のDT40細胞を宿主に用いた。遺伝子破壊はCENP−Oの遺伝子領域の一部を欠損させたプラスミドコンストラクトと薬剤耐性遺伝子を結合させたノックアウトコンストラクトを細胞へ導入して、当該遺伝子領域と相同組み換え法によって、ノックアウトコンストラクトと遺伝子領域を置換させて遺伝子領域の一部を細胞から欠失させることで行った。
【0032】
DT40細胞は2倍体であるため、CENP−Oが2ローカス存在する。そこで、2つのノックアウトコンストラクトを作成して順次遺伝子破壊を行った。はじめに、図7に示すヒスティディノール耐性遺伝子(hisD遺伝子)を含むノックアウトコンストラクトを導入した。このノックアウトコンストラクトは、CENP−Oのゲノム領域をクローン化した後、エキソン3からエキソン7の部分を取り除き、hisD遺伝子を挿入して構築したものである。このノックアウトコンストラクトをエレクトロポーローション法(550V 25μF)によって、細胞へ導入した。1mg/mlのヒスティディノールに耐性を示すクローンを拾い、全ゲノムDNAを抽出して、下(図8の1st)で示すサザンハイブリダアーゼーションで組み換えを同定する。CENP−Oの遺伝子領域と相同組み換えを起こすと、CENP−Oのエキソン3からエキソン7がhisD遺伝子と置き換わり、CENP−Oの一つの遺伝子領域が破壊される。1遺伝子座が破壊された細胞へピユーロマイシン耐性遺伝子を含む2つ目のノックアウトコンストラクトをエレクトロポーローション法(550V 25μF)によって、細胞へ導入する。O.5μg/mlのピユーロマイシンに耐性を示すクローンを拾う。2遺伝子座目の破壊を調べるために、ノックアウト候補株の全ゲノムDNAを抽出して制限酵素SalIおよびXhoIで消化してゲル電気泳動後、DNAをフィルターに転写した。フィルターを図1でしめすprobeを放射能ラベルしたのちハイブリダイズする。0.5XSSC-0.5%SDS溶液中65度でフィルターを洗浄してオートラジオグラフィーをとって、遺伝子置換を起こしている細胞を選択した。DNA置換が起きていないと約12kbにバンドがでる(図8のwild−type)が、CENP−Oの1遺伝子座の遺伝子領域が破壊されていると12kbに加えて約9kb(図8の1st)のバンドをしめす。さらにノックアウト株では、野生型ででる12kbのバンドは消失して10kbと9kbのバンドパターンが得られる(図8の2nd)。この遺伝子型を有する細胞が目的のノックアウト細胞株である(#31−24−1)。
【0033】
得られたCENP−Oのノックアウト細胞と野生型の細胞でCENP−Oの量をウエスタンブロット法にて測定した(図9)。10の5条個の細胞を集めて、4%SDSに溶解して超音波破砕した。全細胞タンパク質をSDS-電気泳動に供し、泳動後ゲルをニトロセルロースフィルターへ移した。フィルターをスキムミルクでブロック後抗CENP-O抗体と1時間以上インキュベートした。HRPラベルした抗ウサギ抗体でタンパク質を検出した。その結果、ノックアウト細胞ではCENP−Oタンパク質が検出できなかった。これにより、CENP−Oのノックアウトが確認できた。また、細胞増殖は行うがノックアウト細胞の増殖は野生型のそれに比べると遅延した(図10)。倍加時間は、野生型で約9時間であったのに対して10−11時間程度であった(図11)。倍加時間の測定を行うためには、適当時間の培養後細胞をトリパンブルーで染色することによって細胞数をカウントした。
【0034】
(6)CENP−Pノックアウト細胞
ニワトリのB細胞由来のDT40細胞を宿主に用いた。遺伝子破壊はCENP−Pの遺伝子領域の一部を欠損させたプラスミドコンストラクトと薬剤耐性遺伝子を結合させたノックアウトコンストラクトを細胞へ導入して、当該遺伝子領域と相同組み換え法によって、ノックアウトコンストラクトと遺伝子領域を置換させて遺伝子領域の一部を細胞から欠失させることで行った。
【0035】
DT40細胞は2倍体であるため、CENP−Pが2ローカス存在する。そこで、2つのノックアウトコンストラクトを作成して順次遺伝子破壊を行った。はじめに、図12に示すヒスティディノール耐性遺伝子(hisD遺伝子)を含むノックアウトコンストラクトを導入した。このノックアウトコンストラクトは、CENP−Pのゲノム領域をクローン化した後、エキソン2からエキソン4の部分を取り除き、hisD遺伝子を挿入して構築したものである。このノックアウトコンストラクトをエレクトロポーローション法(550V 25μF)によって、細胞へ導入した。1mg/mlのヒスティディノールに耐性を示すクローンを拾い、全ゲノムDNAを抽出して、下(図13の1st)で示すサザンハイブリダアーゼーションで組み換えを同定する。CENP−Pの遺伝子領域と相同組み換えを起こすと、CENP−Pのエキソン2からエキソン4がhisD遺伝子と置き換わり、CENP−Pの一つの遺伝子領域が破壊される。1遺伝子座が破壊された細胞へピユーロマイシン耐性遺伝子を含む2つ目のノックアウトコンストラクトをエレクトロポーローション法(550V 25μF)によって、細胞へ導入する。O.5μg/mlのピユーロマイシンに耐性を示すクローンを拾う。2遺伝子座目の破壊を調べるために、ノックアウト候補株の全ゲノムDNAを抽出して制限酵素EcoRVで消化してゲル電気泳動後、DNAをフィルターに転写した。フィルターを図11でしめすprobeを放射能ラベルしたのちハイブリダイズする。0.5XSSC-0.5%SDS溶液中65度でフィルターを洗浄してオートラジオグラフィーをとって、遺伝子置換を起こしている細胞を選択した。DNA置換が起きていないと約7.3kbにバンドがでる(図13のwild−type)が、CENP−Pの1遺伝子座の遺伝子領域が破壊されていると7.3kbに加えて約10.6kb(図13の1st)のバンドをしめす。さらにノックアウト株では、野生型ででる7.3kbのバンドは消失して10.6kbと9.7kbのバンドパターンが得られる(図13の2nd)。この遺伝子型を有する細胞が目的のノックアウト細胞株である(XP5−1)。
【0036】
得られたCENP−Pのノックアウト細胞と野生型の細胞でCENP−Pの量をウエスタンブロット法にて測定した(図14)。10の5条個の細胞を集めて、4%SDSに溶解して超音波破砕した。全細胞タンパク質をSDS-電気泳動に供し、泳動後ゲルをニトロセルロースフィルターへ移した。フィルターをスキムミルクでブロック後抗CENP-P抗体と1時間以上インキュベートした。HRPラベルした抗ウサギ抗体でタンパク質を検出した。その結果、ノックアウト細胞ではCENP−Pタンパク質が検出できなかった。これにより、CENP−Pのノックアウトが確認できた。また、細胞増殖は行うがノックアウト細胞の増殖は野生型のそれに比べると遅延した。その結果、ノックアウト細胞ではCENP−Pタンパク質が検出できなかった。これにより、CENP−Pのノックアウトが確認できた。また、細胞増殖は行うがノックアウト細胞の増殖は野生型のそれに比べると遅延した(図15)。倍加時間は、野生型で約9時間であったのに対して10−11時間程度であった(図16)。倍加時間の測定を行うためには、適当時間の培養後細胞をトリパンブルーで染色することによって細胞数をカウントした。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】CENP−I−GFP、CENP−H−GFP、あるいはCENP−H−3×FLAG融合タンパク質を発現する細胞から得られた抽出液を、抗GFP抗体あるいは抗FLAG抗体を用いて免疫複合体を免疫沈降させた結果を示す図である。図中、WTは野生株細胞を示す。
【図2】CENP−Oの細胞内局在を示す図である。a、bはM期、cは間期であり、CENP−Oは緑、DAPIは青に染色されており、細胞核及び染色体を示している。
【図3】融合タンパク質(merge)、DAPI(細胞核)、CENP−35及びCENP−Hの細胞内局在を示す図である。
【図4】融合タンパク質(merge)、DAPI(細胞核)、CENP−P及びCENP−Hの細胞内局在を示す図である。
【図5】CENP−30の細胞内局在を示す図である。CENP−30は緑、DAPI(細胞核)は青に染色されている。
【図6】融合タンパク質(merge)、DAPI(細胞核)及びCENP−17の細胞内局在を示す図である。CENP−17は緑、DAPIは青に染色されている。
【図7】DT−40細胞のCENP−O遺伝子ノックアウトコンストラクトを示す図である。
【図8】ノックアウト細胞選択のためのハイブリダイズ結果を示す図である。
【図9】ノックアウト細胞がCENP−Oを産生していないことを示す図である。
【図10】CENP−Oノックアウト細胞の増殖速度を示す図である。
【図11】CENP−Oノックアウト細胞の倍加時間を示す図である。
【図12】DT−40細胞のCENP−P遺伝子ノックアウトコンストラクトを示す図である。
【図13】ノックアウト細胞選択のためのハイブリダイズ結果を示す図である。
【図14】ノックアウト細胞がCENP−Pを産生していないことを示す図である。
【図15】CENP−Pノックアウト細胞の増殖速度を示す図である。
【図16】CENP−Pノックアウト細胞の倍加時間を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1又は2のアミノ酸配列からなるか、又は配列番号1又は2のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、セントロメアに局在し、かつCENP−H及びCENP−Iに結合性を有するタンパク質CENP−O又はCENP−Pをコードする遺伝子の機能を欠損させた細胞。
【請求項2】
CENP−O又はCENP−Pをコードする遺伝子のいずれかの部位を欠失させるか、又はいずれかの部位を他の遺伝子と置換することにより該遺伝子の機能を欠損させたものである請求項1記載の細胞。
【請求項3】
他の遺伝子が薬剤耐性遺伝子である請求項1又は2記載の細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−195429(P2007−195429A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16079(P2006−16079)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(504202472)大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 (119)
【Fターム(参考)】