説明

ゼオライト、ゼオライト膜の製造方法及びゼオライト濾過膜

【課題】粘土−ゼオライトスラリーを支持体上に塗布し、粘土部分をゼオライトに変換することによって製造されるゼオライト膜などのゼオライト材、その製造方法及びその用途を提供する。
【解決手段】粘土−ゼオライトスラリーを、金属メッシュをはじめとする各種支持体上に塗布した後、粘土部分を、加熱スチーム処理することによって、ゼオライトに変換して、固結させ、耐水化することからなる、ゼオライト膜などのゼオライト材の製造方法、及びそのゼオライト材。
【効果】自己焼結性の低いゼオライトを、無機成分の粘土を用いて、安価に、簡便に、ゼオライト化してコーティングする技術を提供することができ、本発明は、例えば、お湯のような高温の液体の濾過や、殺菌用の使い捨て濾過膜などとして、好適に使用できるゼオライトコーティング技術を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライト、ゼオライト膜の製造方法及びその用途に関するものであり、更に詳しくは、ゼオライトの類縁鉱物であり、高粘性スラリーを形成する粘土を利用して、任意形状の支持体上にコーティングした後、これをゼオライト化することを特徴とするゼオライト、ゼオライト膜のゼオライト材、その製造方法、及びゼオライト濾過膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粘土は、層状に積み重なった構造を有し、その層間に、水や有機高分子、無機陽イオンをはじめとする様々な分子を挟み込む。このため、粘土は、止水性、膨潤性、イオン交換性をはじめとする様々な特性を示す。そして、粘土は、天然のベントナイト鉱山に豊富に産出することから、例えば、掘削流体などの土木建築の分野、また、無色透明であることから、食品用のラップやプラスチックに強度を持たせるためのフィラー、化粧品などのファインケミカルの分野など、工業材料として、多岐にわたって利用されている。
【0003】
粘土は、前述のように、微粒子が層状に積み重なった層間に水分子を挟んで膨らむ。このとき、水の量が多くなるにしたがって、ゼリー状からスラリー状へと変化し、この状態では、種種の高分子や微粒子と混合して、様々な支持体上に塗布することが可能である。しかし、水が多量に混入すると、高分散して、支持体から流出してしまう。このため、これを、コーティング剤として利用する際には、耐水性の低さが問題となってくる。
【0004】
これまで、粘土の耐水性の低さを解決する問題として、粘土表面の有機修飾による疎水化が行われ、該有機修飾粘土が、水溶液からの有機物の吸着分離などに用いられてきた。しかし、このような有機修飾粘土は、耐熱性の面からは、200−300℃前後で、有機物が分解してしまい、フィルム組織が崩れてしまうという問題を有する。また、抗菌性の面からは、吸着した菌類が、有機物の存在によって増殖するという問題が生じ、ゼオライトの抗菌性が生かせない。
【0005】
一方、ゼオライトは、粘土類似の組成を持ち、3次元的な構造を有しているので、規則的に配列したミクロ孔に水分子を取り込める。ゼオライトは、一般に、耐熱性が高く、化学的にも安定なものが数多く得られ、やはり、様々な工業分野で利用されている。ミクロ孔は、分子オーダーの3−10Å程度で、立体選択的な吸着作用を持つため、水以外にも、様々な分子を対象にしたモレキュラーシーブ(分子ふるい)となる。数十種類の天然に産出するゼオライトの他に、これまでに、150種類以上のゼオライトが合成されており、固体酸触媒、分離吸着剤、及びイオン交換剤などの分野で、幅広く用いられている。
【0006】
このゼオライトは、可塑性、自己焼結性に乏しいため、支持体上にコーティングして膜化する場合、ほとんどの場合は、水熱合成法を用いて、支持基盤上で成長させている。すなわち、ゼオライトは、大量の水と、アルミニウム源、シリカ源、アルカリ金属、アミン類などの有機結晶化調整剤を、適宜、目的の生成物のゼオライト組成になるように調合し、オートクレーブなどの圧力容器にそれらを封じ込めて、アルミナやムライトなどの多孔質基板やチューブを共存させて、加熱することにより、合成されている。
【0007】
これまでに、例えば、MFI、MEL、LTA、ANA、CHA、FAU、SOD、MOR、ERI、BEA、LTL、DDRといったゼオライト膜が合成されており、例えば、先行文献には、ゼオライト種結晶を塗布した後、更に、水熱合成することにより、欠陥のないゼオライト膜を合成する方法が開示されており(特許文献1)、また、これらの手法で合成されたゼオライト膜は、気体又は液体混合物からの分離・濃縮などに利用されることが開示されている(特許文献2)。
【0008】
上述のように、ゼオライト膜を支持基盤上に製膜するにあたっては、支持基盤表面とゼオライトを反応させることによって、基盤とゼオライト膜との密着性を高め、膜を保持させる。しかし、この場合、使用できる支持体の種類や形状、性状は、非常に限定され、高価なセラミック支持体や、表面処理したSUS支持体などに限られてしまう。また、精密濾過や殺菌剤のような、比較的粗い膜を製膜するにしても、ゼオライトは、自己焼結性がないことや、親水性が高いこと、粒状の形態などから、他の有機物などの添加なしで製膜することは困難であり、当技術分野では、有機物などの粘着材を添加することなしにゼオライト膜の製膜を可能とする新しい技術を開発することが強く要請されていた。
【0009】
【特許文献1】特開2003−159518号公報
【特許文献2】特開2003−144871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような状況下にあって、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、これまでに報告されていないゼオライトのコーティング方法を開発すべく、鋭意検討を行った結果、粘土を粘着剤代わりにゼオライトスラリーに混入し、これをスチーム処理によって固結することによって、耐圧、耐水性の比較的高いゼオライトコーティングが可能になることを見出した。
【0011】
本発明は、粘土とゼオライトの混合粉末を、水溶性溶媒に分散して調製したスラリーからなるコーティング剤を提供すること、該コーティング剤を用いて作製したゼオライト、ゼオライト膜のゼオライト材を提供すること、その製造方法を提供すること、及びゼオライト濾過膜を提供すること、を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)粘土粉末を、スチーム処理してゼオライト化するゼオライト材の製造方法であって、
粘土粉末、もしくは粘土とゼオライトの混合粉末を、水溶性溶媒に分散して調製したスラリーを、任意の基板上に塗布して、乾燥させた、もしくは自立膜の形に製膜させた所定の形態の粘土、もしくは粘土とゼオライトの混合物を、スチーム処理して、その粘土部分をゼオライト化したゼオライトもしくはゼオライト膜からなるゼオライト材を作製することを特徴とするゼオライト材の製造方法。
(2)粘土粉末、もしくは粘土とゼオライトの混合粉末を構成する粘土の種類が、天然産モンモリロナイトであり、スチーム処理によって合成されるゼオライトの種類が、モルデナイトである、前記(1)に記載のゼオライト材の製造方法。
(3)基板が、耐熱性多孔質基板である、前記(1)又は(2)に記載のゼオライト材の製造方法。
(4)基板の形状が、チューブ状もしくは不定形状である、前記(1)又は(2)に記載のゼオライト材の製造方法。
(5)基板が、50〜400メッシュの金網である、前記(1)又は(2)に記載のゼオライト材の製造方法。
(6)金網上に塗布した粘土−ゼオライト混合スラリーを乾燥する際に、網目に風を当てながら乾燥して、できる網目の壁面のみを被覆する、前記(5)に記載のゼオライト材の製造方法。
(7)ゼオライトコート処理用のコーティング剤であって、粘土粉末、もしくは粘土とゼオライトの混合粉末を、水溶性溶媒に分散して調製したスラリーから構成されることを特徴とするゼオライトコート処理用コーティング剤。
(8)粘土粉末、もしくは粘土とゼオライトの混合粉末を構成する粘土の種類が、天然産モンモリロナイトであり、スチーム処理によって合成されるゼオライトの種類が、モルデナイトである、前記(7)に記載のコーティング剤。
(9)前記(7)又は(8)に記載のコーティング剤を用いて、基板上に形成された、もしくは自立膜の形に製膜された所定の形態の粘土、もしくは粘土とゼオライトの混合物から、その粘土部分が、その状態で直接固相変換によりゼオライト化されたゼオライトもしくはゼオライト膜であることを特徴とするゼオライト材。
(10)前記(9)に記載のゼオライト材からなることを特徴とするゼオライト濾過膜。
【0013】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明者らは、上記の目的に適合するゼオライト製膜法について鋭意検討した結果、平滑、もしくは多孔質支持体基板に、あらかじめ粘土−ゼオライト分散液を塗布し、乾燥させた後、支持体基板ごと、オートクレーブ中に移し、スチーム処理により、多孔質支持体上の粘土膜構造を、ゼオライト化させることにより、比較的簡便に、ゼオライト膜を得ることに成功した。すなわち、本発明は、全く新規なゼオライトの製膜法を提供するものである。
【0014】
本発明は、粘土をスチーム処理することによって得られるゼオライト材、及びその合成方法であり、また、予め粘土を混合したゼオライト粉末スラリーを、任意の形状の支持体上に塗布することによって得られるゼオライト膜であり、粘土をゼオライト固定用の糊代わりに使用した後、更に、スチーム処理することによって、ゼオライト化させ、膜を耐水化させるゼオライト膜の製膜法である。また、本発明は、金属メッシュ塗布後、乾燥の際に、メッシュに垂直方向から風を当てることによって、メッシュ孔を塞がずコーティングする、金属メッシュ壁面へのゼオライト膜製膜法でもある。本発明は、空気や水処理用もしくは医療用の無機抗菌剤として利用することが可能である。
【0015】
次に、本発明の好適な実施の形態を説明する。本発明において、数値範囲の記載は、両端値のみならず、その中に含まれる全ての任意の中間値を適宜含むものである。本発明において、支持体としては、耐熱性であるものが好ましく、ガラス板の他、アルミナ、ムライト、ジルコニアを代表とするセラミックス、また、ステンレススチールやアルミニウムを代表とする金属あるいは合金製の支持体、ポリカーボネートやポリプロピレン、テフロン(登録商標)などの耐熱性プラスチック素材、陽極酸化膜多孔質支持体などが例示される。
【0016】
その形態としては、例えば、管状支持体、平板円盤状、角板形状((株)ニッカトーのPMチューブ及びF)、金網などが好適である。これらの支持体の表面処理の方法としては、水洗い、超音波洗浄などが例示され、好ましくは水による1〜10分の超音波洗浄により、支持体表面の洗浄を行う方法が挙げられる。
【0017】
これは、必須ではないが、支持体表面のスラリーとの親和性を高めるために、表面処理として、親水化のための酸処理や、サンドペーパーでこする、などの処理を行うことは、一向に差し支えない。また、支持体を用いることなく、自立膜として製膜された粘土膜、もしくは粘土−ゼオライト混合膜の表面を、そのままゼオライト化して、耐水化することは差し支えない。
【0018】
本発明においては、前述の多孔質支持体に、粘土−ゼオライトスラリーを塗布して製膜した後、ゼオライト化処理として、スチーム処理を行う。ゼオライト膜を製膜するにあたって、粘土粉末もしくは、粘土粉末とゼオライト粉末の混合物を溶媒に分散し分散液とする。使用する粘土としては、工業的に合成された市販品でも、天然のベントナイトでも構わないが、主成分であるスメクタイトの含有量が高いことが好ましい。
【0019】
スメクタイトの種類としては、ゼオライト化する都合上、Alの含有率が高い2八面体型のモンモリロナイト、バイテライト、ノントロナイトなど、組成としては、R(Al2−XSi10(OH).nHO、(Rは、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の陽イオン、0<x<0.33、Mは、例えば、Mg、Fe、Mn、Zn、Cr、Niなどの2価金属)であることが好ましい。また、3八面体型スメクタイトでも、Alを含むサポナイトは、比較的容易にゼオライト化するので、好ましい。
【0020】
混合するゼオライト粉末としては、工業的に合成されたものでも、天然産のものでも差し支えないが、スラリーとして溶媒に分散し、塗布するに当たって、特に後者の場合は、サイズが大きい塊や混在物は、そのサイズが数ミクロンサイズ以下になるように、ボールミルなどを用いて、粉砕する必要がある。
【0021】
溶媒の種類としては、水又は水溶性の有機溶媒、もしくはその混合溶媒が使用でき、針金や金網の壁面など、細いものや、凹凸の激しいもの、形状の複雑なもののコーティングには、比較的、乾燥が容易な、エタノールなどの有機溶媒の水溶液を用いることが好ましい。
【0022】
分散液の濃度としては、分散させる粉末の粘性や溶媒に依存するが、均一に塗布できる濃度であれば、問題はない。分散液として水を用いる場合、添加する粘土の量は、水に対して、好ましくは1−5%程度である。これよりも少なすぎると、ゼオライトの塗布や、製膜が困難になり、多すぎると、粘性が高くなりすぎて、スラリー塗布が困難になる上、スチーム処理に際して、ゼオライト化に要する時間が長くなる。
【0023】
塗布の方法としては、刷毛のようなもので支持体表面に塗布しても、ディップコートなどを行ってもよい。塗布後は、室温や、300℃以下の温度で、乾燥させて、膜化する。膜化に当たって、被覆率をあげるために、塗布・乾燥の過程を繰り返すことは差し支えない。また、乾燥の手法として、塗布層が剥離することが無い程度に、ヒートガンなどを用いて乾燥することは差し支えない。その後、ゼオライト化のためのスチーム処理を行う。スチーム処理には、適当な容器、例えば、テフロン(登録商標)内筒型のSUS製耐圧容器などが使用される。
【0024】
本発明において、ゼオライト化のためのスチーム処理条件としては、塗布乾燥後の粘土皮膜もしくは粘土−ゼオライト混合皮膜を、支持体ごと、オートクレーブなどの耐圧密閉容器内に移し、100〜250℃で、15時間以上、好ましくは150〜200℃で、24時間以上、スチーム処理することにより、行なうことができる。
【0025】
上述のようにして作製されたゼオライト膜は、耐水性、耐熱性、湿度調整機能を持ち合わせることから、高温高湿度環境における壁材として使用することが可能である。また、ゼオライトが3次元細孔構造を有することから、VOC等の有害ガスの吸着分離に使用することが可能である。また、銀その他の金属イオン等を担持することにより、抗菌性や触媒作用等の機能を付与することが可能であることから触媒膜、メンブレンリアクターなどとして利用できる。
【0026】
本発明は、従来にはなかった粘土−ゼオライトのような無機物質からなる抗菌剤、更に、それを金網上にコーティングした選択抗菌膜とその製造方法を提供することを可能とするものである。また、このゼオライトコーティング法を用いれば、金属メッシュの穴を塞ぐことなく、針金部分をコーティングできることも確認されたため、ゼオライトのイオン交換性を生かしたイオン交換材、菌の吸着作用を生かした除菌材などに利用可能である。
【0027】
ゼオライトは、自己焼結性が低いため、任意の支持体表面上に、それのみを塗布してコーティングしようとすると、乾燥の際に取れてしまう、といった問題があり、その利用が制限されていた。本発明は、ゼオライトに、粘着材代わりに粘土を混入し、任意の支持体上に塗布し、その後、粘土部分をゼオライトへ固相変換することで、ゼオライト及びゼオライト化した材料を任意の支持体上にコーティングしたゼオライト材を作製することを可能とするゼオライトのコーティング技術を提供するものとして有用である。
【発明の効果】
【0028】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)現在までに報告されていない、粘土の固相変換によるゼオライト化の方法を提供することができる。
(2)これまでに知られていないゼオライトスラリーの塗布によるゼオライト膜製膜及び耐水化方法を提供することができる。
(3)本発明のゼオライト膜は、例えば、高温高湿度環境で湿度コントロールしたり、抗菌作用を持つようにする壁表面処理用の塗布剤として好適に使用することができる。
(4)本発明のゼオライト膜は、例えば、有害ガス吸着、触媒膜、メンブレンリアクター、ガスや水処理用抗菌剤、医療用滅菌剤として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0030】
天然モンモリロナイト、クニピアP(クニミネ工業)0.2gを、10gの蒸留水に分散して、均一な分散液とした。このモンモリロナイト分散液を、石英ガラス板の表面に塗布して、室温にて、半日乾燥を行った。その後、ガラス小瓶に、5mLの蒸留水を用意し、テフロン(登録商標)内筒型ステンレス製耐圧容器(内容積120cc)に、ガラス小瓶と粘土膜付ムライトチューブを移して、オートクレーブ内部で、200℃、120時間、加熱処理を行った。
【0031】
スチーム加熱処理後に、ガラス板を取り出し、粉末X線回折パターンを調べたところ、スメクタイトのピーク強度が減少し、原料には混入していなかったモルデナイトのピークが現れた(図1)。SEM観察によると、塗布面をモルデナイトの繊維状の微結晶が被覆している様子が確認された。
【実施例2】
【0032】
天然モンモリロナイト、クニピアG(クニミネ工業)0.5gと、天然モルデナイト(CP、東北化学工業(株))2.5gを混合して、40gのエタノール中で、ボールミルを用いて、1時間、粉砕混合して、均一なスラリーとした。このスラリーを2.5cmφの円形に切り取った200メッシュのSUS316金網(ニラコ(株)製)の外表面に塗布してはヒートガンで乾燥する処理を6回繰り返し、メッシュのコーティングを行なった。
【0033】
その結果、約15mgの粘土−ゼオライトが、メッシュの壁を覆った(図3)。その後、スチーム処理として、テフロン(登録商標)内筒型ステンレス製耐圧容器(内容積120cc)の内側を蒸留水で湿らせた後、粘土−ゼオライトでコートしたメッシュを、オートクレーブ内部で、200℃、24時間、加熱処理を行った。スチーム処理後にメッシュを取り出したところ、水中でも、コーティングが剥がれないことを確認した(図4)。
【実施例3】
【0034】
実施例2において、SUS316の200メッシュ金網の表面を、すっかり覆うように、スラリーの塗布を行い、スチーム処理として、200℃で、15時間、処理を行った他は、実施例2と全く同じ処理を行った。その結果、約36mgの粘土−ゼオライトがメッシュ表面を覆い、スチーム加熱処理後には、水中でもコーティングが剥がれないことを確認した(図5)。また、XRDパターンによると、モンモリロナイトが壊れて、モルデナイトのピークが増加している様子が認められた(図6)。
【実施例4】
【0035】
実施例2において、支持体として、SUS316の200メッシュの代わりに、SUS316の100メッシュ金網(ニラコ(株)製)を使用した他は、実施例2と全く同じ処理を行った。その結果、約15mgの粘土−ゼオライトがメッシュの壁を覆い、スチーム加熱処理後には、水中でもコーティングが剥がれないことを確認した。
【実施例5】
【0036】
実施例2において、支持体として、SUS316の200メッシュの代わりに、Cuの100メッシュ金網(ニラコ(株)製)を使用した他は、実施例2と全く同じ処理を行った。その結果、約13mgの粘土−ゼオライトがメッシュの壁を覆い、スチーム加熱処理後には、水中でもコーティングが剥がれないことを確認した(図4)。
【実施例6】
【0037】
実施例2において、天然モルデナイトの代わりに、合成Na−Y型ゼオライト(東ソー HSZ−320NAA)2.5gを混合する他は、実施例2と全く同じ処理を行った。その結果、約10mgの粘土−ゼオライトがメッシュの壁を覆い、スチーム加熱処理後には、水中でもコーティングが剥がれないことを確認した。
【実施例7】
【0038】
実施例2において、天然モルデナイトの代わりに、合成Na−Beta型ゼオライト(東ソー HSZ−320NAA)2.5gを混合する他は、実施例2と全く同じ処理を行った。その結果、約10mgの粘土−ゼオライトがメッシュの壁を覆い、スチーム加熱処理後には、水中でもコーティングが剥がれないことを確認した。
【実施例8】
【0039】
天然モンモリロナイト、クニピアG(クニミネ工業)0.2gを、10gの蒸留水に分散して、均一な分散液とした。このモンモリロナイト分散液を、ムライト多孔質チューブ(ニッカトー(株)製、PMチューブ、Al=65%、SiO=33%、平均細孔径1.8ミクロン、かさ密度1.70g/cc、気孔率44.7%、外径6ミリ、内径3ミリ、長さ80ミリ)の外表面に、薬さじで塗布して、室温にて、半日、乾燥を行った。
【0040】
その後、ガラス小瓶に5mLの蒸留水を用意し、テフロン(登録商標)内筒型ステンレス製耐圧容器(内容積120cc)にガラス小瓶と粘土膜付ムライトチューブを移して、オートクレーブ内部で、200℃、120時間、加熱処理を行った。スチーム加熱処理後にチューブを取り出したところ、膜表面をこすっても、支持体から剥がれず、また、チューブ内側に水を入れても、液漏れがないことを確認した。SEM観察によると、粘土膜表面に、ゼオライトの微結晶が分散している様子が確認された。
【実施例9】
【0041】
実施例8において作製した粘土−ゼオライト複合膜を、支持体ごと、ステンレスチューブの先端に固定して、浸水し、支持体内側を真空に引いて、水の透過速度を測定した(バッチ式浸透気化法)。その結果、25℃での水の透過流束は、3.8kg/(mh)であった。
【実施例10】
【0042】
実施例1において、スメクタイト分散液として、ノントロナイト(Na0.3(Fe,Al)(Si,Al)10(OH),SWa−1,アメリカ粘土学会Clay Minerals Society 標準試料)の分散液を用いる他は、実施例1と全く同様の処理を行った。その結果、XRDパターン(図1)に、モルデナイトのパターンが得られた。
【実施例11】
【0043】
実施例1において、スメクタイト分散液として、サポナイト(Na0.3MgSi3.7Al0.310(OH),スメクトンSA,クニミネ工業(株))の分散液を用いる他は、実施例1と全く同様の処理を行った。その結果、XRDパターン(図1)に、モルデナイトのパターンが得られた。
【0044】
(比較例1)
実施例1において、スメクタイト分散液として、組成中にアルミニウムを含まない3八面体スメクタイトであるヘクトライト(Na0.3(Mg2.7Li0.3)Si10(OH),コープケミカル(株)SWN)分散液を用いる他は、実施例1と全く同様の処理を行ったところ、120時間のスチーム処理後も、ヘクトライトのパターンが得られ、モルデナイト他、ゼオライトのパターンが得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上詳述したように、本発明は、ゼオライト、ゼオライト膜のゼオライト材、及びその製造方法、これによって製造されるゼオライト濾過膜に係るものであり、本発明により、現在までに報告されていない粘土のスチーム処理によるゼオライト及びその製造方法、任意の支持体上に、ゼオライトをコーティングする方法を提供することができる。本発明によれば、粘土を固相変換してゼオライト化することで、ゼオライトコーティング技術を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】石英ガラス面に塗布した天然モンモリロナイト(クニピアG,クニミネ工業(株))と各種粘土フィルムの200℃、120時間スチーム処理後サンプルの定方位X線回折パターンとモルデナイトのピークパターン比較。 (a)は、処理後のモンモリロナイト(クニピアG)、(b)は、処理後のノントロナイト(SWa−1,アメリカ粘土学会標準試料)、(c)は、処理後のサポナイト(スメクトンSA,クニミネ工業(株))、(d)は、ヘクトライト(SWa−1,アメリカ粘土学会標準試料)である。実線は、モルデナイト、点線は、モンモリロナイトのピークであり、粘土の主成分であるスメクタイトの構造が、部分的にゼオライト化して、モルデナイトになっている。
【図2】石英ガラス面に塗布した天然モンモリロナイト(クニピアG,クニミネ工業(株))フィルムの200℃スチーム処理前後の表面SEM像の比較。 (a)は、処理前、(b)は、24時間処理後、(c)は、120時間処理後である。処理時間に従って、粘土フィルム表面のゼオライト化が進行し、120時間後には、塗布面の表面は、殆どモルデナイトの繊維状結晶で覆われている。
【図3】天然モルデナイト(a)、(b)、(c)及び合成Na−Y型ゼオライト(d)のスラリーを用いて製膜を行なった針金、金属メッシュの表面SEM像。 (a)は、針金上、(b)は、SUS316 200メッシュ金網上、(c)は、銅100メッシュ金網上、(d)は、SUS316 100メッシュ金網上である。
【図4】金属メッシュにコーティングした天然モルデナイト膜の浸水試験。 (a)及び(b)は、SUS316金網200メッシュ壁面にコーティングし、200℃、24時間スチーム処理したサンプル、(c)は、SUS316金網200メッシュ表面にコーティングし、200℃、15時間スチーム処理したサンプル、(d)は、銅100メッシュ金網壁面にコーティングし、200℃、24時間スチーム処理したサンプル、(e)及び(f)は、ゼオライト膜コートした銅100メッシュ金網の浸水試験後の表面である。水中でも塗布面が剥がれない。
【図5】天然モルデナイト−モンモリロナイトコーティングメッシュを200℃、15時間スチーム処理した際、処理前後の粉末X線回折パターン比較。(a)は、スチーム処理前、(b)は、スチーム処理後である。001ピーク強度にして、50%以上ゼオライト化している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土粉末を、スチーム処理してゼオライト化するゼオライト材の製造方法であって、
粘土粉末、もしくは粘土とゼオライトの混合粉末を、水溶性溶媒に分散して調製したスラリーを、任意の基板上に塗布して、乾燥させた、もしくは自立膜の形に製膜させた所定の形態の粘土、もしくは粘土とゼオライトの混合物を、スチーム処理して、その粘土部分をゼオライト化したゼオライトもしくはゼオライト膜からなるゼオライト材を作製することを特徴とするゼオライト材の製造方法。
【請求項2】
粘土粉末、もしくは粘土とゼオライトの混合粉末を構成する粘土の種類が、天然産モンモリロナイトであり、スチーム処理によって合成されるゼオライトの種類が、モルデナイトである、請求項1に記載のゼオライト材の製造方法。
【請求項3】
基板が、耐熱性多孔質基板である、請求項1又は2に記載のゼオライト材の製造方法。
【請求項4】
基板の形状が、チューブ状もしくは不定形状である、請求項1又は2に記載のゼオライト材の製造方法。
【請求項5】
基板が、50〜400メッシュの金網である、請求項1又は2に記載のゼオライト材の製造方法。
【請求項6】
金網上に塗布した粘土−ゼオライト混合スラリーを乾燥する際に、網目に風を当てながら乾燥して、できる網目の壁面のみを被覆する、請求項5に記載のゼオライト材の製造方法。
【請求項7】
ゼオライトコート処理用のコーティング剤であって、粘土粉末、もしくは粘土とゼオライトの混合粉末を、水溶性溶媒に分散して調製したスラリーから構成されることを特徴とするゼオライトコート処理用コーティング剤。
【請求項8】
粘土粉末、もしくは粘土とゼオライトの混合粉末を構成する粘土の種類が、天然産モンモリロナイトであり、スチーム処理によって合成されるゼオライトの種類が、モルデナイトである、請求項7に記載のコーティング剤。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のコーティング剤を用いて、基板上に形成された、もしくは自立膜の形に製膜された所定の形態の粘土、もしくは粘土とゼオライトの混合物から、その粘土部分が、その状態で直接固相変換によりゼオライト化されたゼオライトもしくはゼオライト膜であることを特徴とするゼオライト材。
【請求項10】
請求項9に記載のゼオライト材からなることを特徴とするゼオライト濾過膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−120834(P2010−120834A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298896(P2008−298896)
【出願日】平成20年11月24日(2008.11.24)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】