説明

ゼロ点補正回路

【課題】 測定の分解能を高く保ちつつ簡単な構成でゼロ点の補正ができるゼロ点補正回路を提供する。
【解決手段】 入力信号をA/D変換するA/D変換器を備え、この入力信号を測定する測定装置のゼロ点補正回路において、
入力信号のオフセット電圧を多段階に出力するオフセット電圧設定手段と、
入力信号を前記オフセット電圧設定手段から出力された電圧に基づいてオフセットすることにより前記A/D変換器に入力される信号を所定の範囲内にする加算器と
を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置におけるゼロ点補正回路に関し、特に、測定の分解能を高く保ちつつ簡単な構成でゼロ点の補正ができるゼロ点補正回路に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、測定装置にはゼロ点の補正が必要とされ、このゼロ点補正の実現方法としては、入力範囲をゼロ点のオフセットを含めて広く取り、デジタル的に処理する方法(以下、「デジタル方式」という。)と、A/D変換器の前段にオフセット回路を設けアナログ的に処理する方法(以下、「アナログ方式」という。)の2種類が存在する。このようなゼロ点の補正に関する先行技術文献としては次のようなものがある。
【0003】
【特許文献1】特開平09―287977号公報
【0004】
【特許文献2】特開平08−001138号公報
【0005】
以下、図3を参照して従来のゼロ点補正回路を説明する。なお、図3は、波形表示装置のゼロ点補正回路の例であり、また、アナログ方式でオフセット電圧を調整する例である。
【0006】
ATT/AMP10は、入力信号の振幅を調整するアッテネータとアンプで構成されている。ADC11は、A/D変換器であり、ATT/AMP10から入力されたアナログの波形データをデジタル変換する。
【0007】
波形データ処理部12は、ADC11から入力された波形データを後述する波形メモリ13に格納したり、波形表示部14で表示するための表示データに変換したりする。波形メモリ13は、波形データ処理部12から入力された波形データを格納する。波形表示部14は、LCD(Liquid Crystal Display)等で構成されている。
【0008】
DAC15は、ATT/AMP10に対して、入力信号に加算すべきオフセット電圧を出力する。制御部16は、CPUやメモリ等で構成されており、DAC15に対して出力するべきオフセット電圧に関する命令を与える。キー入力部17は、ユーザによって各種設定がなされる。ロータリーエンコーダ18は、左右に回転させることによってオフセット電圧を調整し、ゼロ点を調整する。
【0009】
このように、従来のアナログ方式のゼロ点補正回路は、DAC15でATT/AMP10に電圧を加えてオフセット電圧を調整していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、図3の回路では、DAC15で電圧を調整するため、その周辺回路を含めると回路構成が複雑となる。さらに、DAC15に求められる分解能は、測定の分解能よりも高分解能であることが必要となるため、オフセットDAC15の価格が高価となる。
【0011】
一方、デジタル方式では、ゼロ入力時のA/D変換器の値をVz、測定時のA/D変換器の値をVmとすると、A/D変換器から出力される測定波形等の電圧Voは、
Vo=Vm−Vz
として計算されるが、これだとアナログ部分のオフセット電圧が大きい場合に、測定可能範囲を定格より大きくとらなくてはならなくなるため、その分、測定の分解能が低下せざるを得なくなるという問題点がり、また、ノイズの影響も大きくなる。
【0012】
本発明は、これらの問題点に鑑みてなされたものであり、測定の分解能を高く保ちつつ簡単な構成でゼロ点の補正ができるゼロ点補正回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような課題を達成するために請求項1記載の発明は、
入力信号をA/D変換するA/D変換器を備え、この入力信号を測定する測定装置のゼロ点補正回路において、
入力信号のオフセット電圧を多段階に出力するオフセット電圧設定手段と、
入力信号を前記オフセット電圧設定手段から出力された電圧に基づいてオフセットすることにより前記A/D変換器に入力される信号を所定の範囲内にする加算器と
を備える。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のゼロ点補正回路において、
前記オフセット電圧設定手段が、基準電圧をアッテネートするATTとこのATTでアッテネートされた基準電圧を多段階に減衰するSWとで構成される。
【0015】
本発明では、次のような効果がある。加算器にATTを介して基準電圧を入力し、測定範囲を定格範囲内に合わせるため、測定の分解能を高く保ちつつ簡単な構成でゼロ点の補正ができる。また、その結果、アナログのオフセットが大きくても、デジタル方式のゼロ点補正回路と比べて測定範囲を広く取る必要がなくなり、分解能を低下させること無くゼロ点を補正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明のゼロ点補正回路の構成例を説明する。図1は本発明のゼロ点補正回路の構成例である。ATT20はアッテネータであり基準電圧を減衰する。SW21はATT20の出力と接続され、後述する加算器22に対してアッテネートされた基準電圧を多段階に切り替えて出力するスイッチである。また、ATT20とSW21でオフセット電圧設定手段25を構成する。
【0017】
加算器22には被測定波形等が入力されると共に、ATT20を介してアッテネートされた値が入力される。ADC23はA/D変換器である。制御部24は、オフセット電圧設定手段25のSW21に対してどの段階のオフセット電圧を出力するか命令する。
【0018】
なお、図3の例で示した波形表示部、波形メモリ等については波形測定装置を動作させるためには必要になるものの、本発明の本質的な部分とは無関係なので、ADC23以降の構成については説明を省略する。
【0019】
次に、図1の動作について図2を参照して説明する。図2は本発明の動作説明図である。図2の縦軸は電圧軸であり、横軸は左から右に行くに従ってゼロ点補正の手順が進んでいくことを意味している。従って、ゼロ点補正の手順は図2を左側から右側に順に追っていく必要がある。
【0020】
まず、アナログのゼロ点を測定する。そうすると、Vz1(アナログオフセット量30)が求められ、このVz1を基準に補正前入力範囲31が定まる。ところで、補正前入力範囲31は、定格範囲33を外れている。従って、入力範囲(つまり実際の測定範囲)をこの位置にしたのでは高精度に測定をすることができない。
【0021】
そこで、ゼロ点がある値より大きくなった場合は、制御部24はオフセット電圧設定手段25を切り換えてアナログ入力をシフトする。ここではシフト量34をVsとする。この状態で、再びアナログのゼロ点を測定する。補正後のゼロ点Vz2は、
Vz2=Vz1−Vs
の計算式で求められる。
【0022】
以上の手順を経ることによりオフセットの補正ができるので、この状態で被測定波形等の入力を測定する。ここでは、加算器22へアナログの入力値Vmが加えられるものとする。そして、加算器22の出力電圧をVoとすると、Voは、
Vo=Vm−Vz2
の計算式で求められ、この値が真の測定値となる。
【0023】
具体的には、次の様にゼロ点を求める。
測定可能範囲32 ±1V
定格範囲33 ±0.8V
の場合、
アナログのオフセットが0.2V以上になると定格範囲が測定可能範囲を外れてしまう。
【0024】
そこで本発明を実現し得る下記特性のオフセット電圧設定手段25、及び加算器22を利用してゼロ点を設定する。まず、オフセット電圧設定手段25の切り換え点を
+0、 ±0.1V、 ±0.2V
とし、ゼロ点の測定値が0〜0.1Vとすると、 オフセット電圧設定手段25の設定値は「0」となる。
【0025】
以下、同様にしてゼロ点の測定値とオフセット電圧設定手段25の関係は次のようになる。
ゼロ点の測定値 0.1〜0.2 ATT −0.1
ゼロ点の測定値 0.2〜0.3 ATT −0.2
ゼロ点の測定値 −0.1〜0 ATT 0
ゼロ点の測定値 −0.1〜−0.2 ATT 0.1
ゼロ点の測定値 −0.2〜−0.3 ATT 0.2
【0026】
以下、アナログオフセットが0.05Vの場合、0.11Vの場合、0.25Vの場合を例にとり、測定範囲(補正後入力範囲)が定格範囲33に入ることを説明する。
【0027】
まず、アナログオフセット量30が0.05Vの場合
0<vz1<0.1
となるのでATT20出力は「0」、つまりVs=0となる。従って、補正後のゼロ点は、
Vz2=Vz1=0.05
となる。
【0028】
次に、アナログオフセット量30が0.11Vの場合
0.1<Vz1<0.2
となるのでATT出力は「−0.1」、つまりVs=−0.1となる。従って、補正後のゼロ点は、
Vz2=Vz1−0.1=0.01
となる。
【0029】
最後に、アナログオフセット量30が0.25Vの場合を例にとると、
0.2<Vz1<0.3
となるのでATT出力は「−0.2」、つまりVs=−0.2Vとなる。従って、補正後のゼロ点は、
Vz2=Vz1−0.2=0.05
となり、測定範囲が定格範囲に入る。
【0030】
なお、デジタル方式のみを利用した場合、測定範囲が定格範囲に入るようにするために例えば、定格範囲を±0.7Vにするなどして広くしなければならず、その結果分解能が低下する。また、ノイズの影響も大きくなってしまう。
【0031】
また、本発明では、ゼロ点の補正のためにATT20とSW21の組み合わせからなるオフセット電圧設定手段25を使用したが、DAコンバータを使用しても良い。一般にDAコンバータはATTと比べて高価であるが、仮にその場合でも補正動作が上述のように1回ですむこと、及びアナログ的にはラフな補正で済むことに起因して、高分解能のDAコンバータを用いる必要がなく、従来技術と比べると安価に構成することができる。
【0032】
このように、加算器22にオフセット電圧設定手段25を介してアッテネートされた値を入力することにより、測定範囲を定格範囲内に合わせるため、測定の分解能を保ちつつ簡単な構成でゼロ点の補正ができる。また、その結果、アナログのオフセットが大きくても、デジタル方式のゼロ点補正回路と比べて測定範囲を広く取る必要がなくなり、分解能を低下させること無くゼロ点を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明によるゼロ点補正回路の構成図である。
【図2】本発明の動作の説明図である。
【図3】従来技術によるアナログ方式のゼロ点補正回路の構成図である。
【符号の説明】
【0034】
20 ATT
21 SW
22 加算器
23 ADC
24 制御部
25 オフセット電圧設定手段




【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号をA/D変換するA/D変換器を備え、この入力信号を測定する測定装置のゼロ点補正回路において、
入力信号のオフセット電圧を多段階に出力するオフセット電圧設定手段と、
入力信号を前記オフセット電圧設定手段から出力された電圧に基づいてオフセットすることにより前記A/D変換器に入力される信号を所定の範囲内にする加算器と
を備えたことを特徴とするゼロ点補正回路。
【請求項2】
前記オフセット電圧設定手段は、基準電圧をアッテネートするアッテネータとこのアッテネータでアッテネートされた基準電圧を多段階に減衰するスイッチとで構成されることを特徴とする請求項1記載のゼロ点補正回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−133698(P2009−133698A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−309593(P2007−309593)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)