説明

ゼータ電位測定装置及びゼータ電位測定方法

【課題】小型且つ安価で、個々の測定対象物のゼータ電位を測定できるゼータ電位測定装置及びゼータ電位測定方法を提供する。
【解決手段】測定対象物が分散しているサンプル溶液200を収容し、第1のリザーバ11、第2のリザーバ12、及び第1のリザーバ11と第2のリザーバ12間を移動するサンプル溶液200中の測定対象物が通過し、測定対象物が移動する方向と垂直な断面積が第1のリザーバ11及び第2のリザーバ12より小さいアパーチャー13を有するマイクロチャネル10と、第1のリザーバ11と第2のリザーバ12間を流れる電流の電流値を測定する電流測定装置20と、電流値が一時的に減少する電流減少時間で測定対象物が通過するアパーチャー13の経路長を除算して測定対象物の電気泳動速度を算出し、電気泳動速度を用いて測定対象物のゼータ電位を算出する算出装置30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液に分散された測定対象物のゼータ電位を測定するゼータ電位測定装置及びゼータ電位測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液に分散した微粒子や細胞等の微小物体の表面が電荷を帯びている場合、これらの微小物体の帯電の度合いを示すのがゼータ電位である。微小物体のゼータ電位を測定するために、超音波や高周波電圧を利用した方法等、様々な測定方法が用いられてきた。代表的な方法として、レーザを用いたレーザドップラー法が挙げられる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
レーザドップラー法は、散乱光の周波数解析によってゼータ電位を測定する方法である。測定対象物が分散している溶液を測定セルに入れ、測定セル内部に電圧を印加し、微小物体を電気泳動させる。そして、測定セルの横からレーザを照射し、電気泳動している微小物体によって散乱された光を検出し、その周波数を解析することでゼータ電位を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2924815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のゼータ電位測定装置は大規模で高価なものが多い。例えば、上記のレーザドップラー法によるゼータ電位測定では、レーザ光源や光電子増倍管等の光学機器が必要であり、ゼータ電位測定装置の小型化や低価格化を困難にしている。また、上記の方法では、レーザを測定セルに照射し、照射された範囲に存在する測定対象物の散乱光を検知し解析することにより、ゼータ電位を算出する。このため、個々の微粒子や細胞のゼータ電位を測定することができないという問題があった。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、小型且つ安価で、個々の測定対象物のゼータ電位を測定できるゼータ電位測定装置及びゼータ電位測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、(イ)測定対象物が分散しているサンプル溶液を収容し、第1のリザーバ、第2のリザーバ、及び第1のリザーバと第2のリザーバ間を移動するサンプル溶液中の測定対象物が通過し、測定対象物が移動する方向と垂直な断面積が第1及び第2のリザーバより小さいアパーチャーを有するマイクロチャネルと、(ロ)第1及び第2のリザーバ間に電圧を印加して、第1及び第2のリザーバ間を流れる電流の電流値を一定時間測定する電流測定装置と、(ハ)一定時間のうちで電流値が一時的に減少する電流減少時間で測定対象物が通過するアパーチャーの経路長を除算して測定対象物の電気泳動速度を算出し、その電気泳動速度を用いて測定対象物のゼータ電位を算出する算出装置とを備えるゼータ電位測定装置が提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、(イ)測定対象物が分散しているサンプル溶液を収容し、第1のリザーバ、第2のリザーバ、及び第1のリザーバと第2のリザーバ間を移動するサンプル溶液中の測定対象物が通過し、測定対象物が移動する方向と垂直な断面積が第1及び第2のリザーバより小さいアパーチャーを備えたマイクロチャネルを用意するステップと、(ロ)第1及び第2のリザーバ間に電圧を印加して、第1及び第2のリザーバ間を流れる電流の電流値を一定時間測定するステップと、(ハ)一定時間のうちで電流値が一時的に減少する電流減少時間で測定対象物が通過するアパーチャーの経路長を除算して測定対象物の電気泳動速度を算出するステップと、(ニ)電気泳動速度を用いて測定対象物のゼータ電位を算出するステップとを含むゼータ電位測定方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小型且つ安価で、個々の測定対象物のゼータ電位を測定できるゼータ電位測定装置及びゼータ電位測定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るゼータ電位測定装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1のII−II方向に沿った断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係るゼータ電位測定装置のアパーチャーの構造を示す模式図である。
【図4】ゼータ電位を説明するための模式図である。
【図5】微粒子が電場に沿って移動することを説明する模式図である。
【図6】本発明の実施形態に係るゼータ電位測定装置のマイクロチャネルを流れる電流を示す模式図である。
【図7】本発明の実施形態に係るゼータ電位測定装置のアパーチャーを微粒子が通過する例を示す模式図である。
【図8】本発明の実施形態に係るゼータ電位測定装置によって測定される電流値の例を示す模式図である。
【図9】本発明の実施形態に係るゼータ電位測定方法を説明するためのフローチャートである。
【図10】本発明の実施形態に係るゼータ電位測定方法によって測定される電流値と時刻との関係を示すグラフである。
【図11】図10に示したグラフの一部を拡大したグラフである。
【図12】本発明の実施形態に係るゼータ電位測定装置のマイクロチャネルをパーツ分けした状態を示す模式図である。
【図13】本発明の実施形態に係るゼータ電位測定装置によって得られる測定対象物の直径と電流減少値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0012】
又、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0013】
(実施形態)
本発明の実施形態に係るゼータ電位測定装置1は、図1に示すように、微粒子や細胞等の測定対象物が分散しているサンプル溶液200を収容し、第1のリザーバ11、第2のリザーバ12、及び第1のリザーバ11と第2のリザーバ12間を移動するサンプル溶液200中の測定対象物が通過し、測定対象物が移動する方向と垂直な断面積が第1のリザーバ11及び第2のリザーバ12より小さいアパーチャー13を有するマイクロチャネル10と、第1のリザーバ11及び第2のリザーバ12間に電圧を印加して、第1のリザーバ11と第2のリザーバ12間を流れる電流の電流値を一定時間測定する電流測定装置20と、一定時間のうちで電流値が一時的に減少する電流減少時間で測定対象物が通過するアパーチャー13の経路長を除算して測定対象物の電気泳動速度を算出し、その電気泳動速度を用いて測定対象物のゼータ電位を算出する算出装置30とを備える。図1では、マイクロチャネル10の平面図を示している。
【0014】
マイクロチャネル10は、負電極201が配置された第1のリザーバ11と正電極202が配置された第2のリザーバ12、及び第1のリザーバ11と第2のリザーバ12間に配置されたアパーチャー13を構成する狭隘部からなる。後述するように、電流測定装置20によって負電極201と正電極202間に電圧が印加され、電流測定装置20は負電極201と正電極202間に流れる電流、即ちアパーチャー13を経由して第1のリザーバ11と第2のリザーバ12間を流れる電流の電流値を測定する。
【0015】
マイクロチャネル10は、例えば図2に示すように、表面にマイクロパターンが形成されたシリコンゴム101をガラス基板102に貼り付けた構造である。このシリコンゴム101の製造には、半導体装置の製造に用いられるフォトリソグラフィ技術等が採用可能である。第1のリザーバ11に設けられた開口部111において負電極201が第1のリザーバ11中のサンプル溶液200に接し、第2のリザーバ12に設けられた開口部121において正電極202が第2のリザーバ12中のサンプル溶液200に接する。
【0016】
マイクロチャネル10は、例えば以下のような方法によって形成可能である。即ち、先ずシリコン基板上にフォトレジスト膜を塗布する。このフォトレジスト膜を、フォトリソグラフィ技術によって、第1のリザーバ11、第2のリザーバ12及びアパーチャー13を有するマイクロチャネル10の空洞形状に対応したパターンに形成する。そして、このフォトレジスト膜を金型としてシリコンゴムを流し込み、その後に硬化したシリコンゴムをシリコン基板から剥がす。これにより、第1のリザーバ11と第2のリザーバ12がアパーチャー13を介して接続されたパターンがシリコンゴム101の表面に形成される。第1のリザーバ11と第2のリザーバ12には、負電極201と正電極202を配置する開口部111、121がそれぞれ形成される。このシリコンゴム101をガラス基板102に貼り付けて、図1に示したマイクロチャネル10が形成される。
【0017】
図3に示すように、アパーチャー13の幅wa、高さh、経路長laとする。なお、図1、図3に示したように、第1のリザーバ11及び第2のリザーバ12のアパーチャー13との接続部は、アパーチャー13に向かってなだらかに幅が狭くなって断面積が徐々に小さくなるように形成されている。これにより、測定対象物100や気泡が第1のリザーバ11及び第2のリザーバ12のアパーチャー13との接続部分に詰まることが防止され、測定精度を向上させることができる。
【0018】
ゼータ電位は、溶液中の微粒子等の表面の帯電の度合いを示す。通常、溶液中に分散している微粒子等の表面は、正電位又は負電位に帯電している。例えば、図4はサンプル溶液200中の測定対象物100の表面が負電位に帯電している場合を示す。このため、測定対象物100の周囲には陽イオンが集まる。測定対象物100が帯電しているため、図5に示すように、正電極202と負電極201間に電圧を印加すると、測定対象物100は電場に沿ってサンプル溶液200中を移動する。このときの移動速度は、帯電の度合い、即ちゼータ電位に依存する。したがって、測定対象物100の移動速度を測定することによって、ゼータ電位を測定することができる。
【0019】
測定対象物100が分散されるサンプル溶液200には、電解質の溶液が使用される。このため、サンプル溶液200をマイクロチャネル10に収容し、第1のリザーバ11と第2のリザーバ12間に直流電圧を印加すると、図6に矢印で示したように、電流が正電極202からアパーチャー13を通過して負電極201に達し、一定の電流値を示す。図6は、サンプル溶液200に測定対象物100が分散されていない場合を示している。
【0020】
一方、サンプル溶液200に測定対象物100が分散されている場合には、既に説明したように、第1のリザーバ11と第2のリザーバ12間に電圧を印加すると測定対象物100は電場に沿って移動する。図7は、サンプル溶液200中の測定対象物100の表面が負電位に帯電している場合を示している。アパーチャー13内に測定対象物100が存在していない場合には、電流は図6に示した場合と同様に流れる。しかし、測定対象物100がアパーチャー13を通過する場合には、アパーチャー13を流れる電流の流れが妨げられる。このため、図8に示すように、アパーチャー13内に測定対象物100が存在する時間だけ、電流値が減少する。以下において、測定対象物100がアパーチャー13を通過することに起因する電流値の減少値を「電流減少値ΔI」、電流値が減少している時間を「電流減少時間Δt」という。アパーチャー13の経路長laを電流減少時間Δtで除算することによって、測定対象物100の電気泳動速度を算出できる。
【0021】
以下に、図1に示したゼータ電位測定装置1によって、サンプル溶液200中に分散している測定対象物100のゼータ電位を測定する方法の例を、図9を参照して説明する。以下では、測定対象物100が直径3μmの微粒子であり、サンプル溶液200中の測定対象物100の表面は負電位に帯電しているとする。
【0022】
(イ)ステップS1において、マイクロチャネル10を用意する。ここで、アパーチャー13の幅wa、高さh、経路長laは、それぞれ5μm、10μm、40μmである。
【0023】
(ロ)ステップS2において、マイクロチャネル10内に、例えば2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)をコーティング液として注入し、マイクロチャネル10のサンプル溶液200に接する表面にポリマーコーティングを施す。これにより、ガラス基板102に測定対象物100が付着することを防止でき、更に、マイクロチャネル10表面のサンプル溶液200によるゼータ電位を抑え、測定対象物100のゼータ電位測定の妨げとなる電気浸透流の影響を最小限にできる。ポリマーコーティングを施すために、例えば24時間程度、マイクロチャネル10内にコーティング液を収容する。
【0024】
(ハ)マイクロチャネル10内のコーティング液をリン酸塩緩衝液等の緩衝液で置換し、マイクロチャネル10内部からコーティング液を排出する。マイクロチャネル10内部から緩衝液を排出後、ステップS3において、測定対象物100が分散しているサンプル溶液200をマイクロチャネル10内に収容する。
【0025】
(ニ)ステップS4において、電流測定装置20が、第1のリザーバ11と第2のリザーバ12間に、例えば30Vの直流電圧を印加する。電流測定装置20は、サンプル溶液200中を負電極201と正電極202間を流れる電流の電流値Iを、一定時間にわたって測定する。サンプル溶液200中に分散している測定対象物100の表面は負電位に帯電しているため、測定対象物100は電気泳動によって、アパーチャー13を通過して、第1のリザーバ11から第2のリザーバ12に移動する。測定された電流値Iの例を、図10に示す。既に説明したように、アパーチャー13内に存在する測定対象物100によってアパーチャー13を流れる電流の流れが妨げられるため、測定対象物100がアパーチャー13を通過するたびに、図10に符号Dで示すように、測定される電流値Iは減少する。図11に、図10の時刻8.18秒前後における電流減少値ΔIを示す。既に説明したように、電流値Iの電流減少時間Δtは、測定対象物100がアパーチャー13内に滞在する時間である。観測された電流減少値ΔIは、算出装置30に送信される。
【0026】
(ホ)ステップS5において、算出装置30が、電流減少時間Δtでアパーチャー13の経路長laを除算して、測定対象物100の電気泳動速度Sを算出する。即ち、S=la/Δtである。
【0027】
(ヘ)ステップS6において、算出装置30が電気泳動速度Sを用いて、測定対象物100の電気泳動移動度及びゼータ電位を算出する。
【0028】
電気泳動移動度Uは、電気泳動速度Sをアパーチャー13内の電場の強さで除算して算出される。また、ゼータ電位ζは、例えば以下の式(1)に示すスモルコフスキーの式を利用した既知の関係式によって、算出される:

U=(ε/η)ζ ・・・(1)

式(1)で、Uは測定対象物100の電気泳動移動度、ε、ηはそれぞれサンプル溶液200の誘電率、粘性係数である。
【0029】
上記に説明したゼータ電位測定装置1を使用した実験によって測定されたゼータ電位が−31.09(±3.12)mVであったのに対し、既知のレーザドップラー法で測定したゼータ電位は、−33.35(±2.42)mVであった。このように、本発明の実施形態に係るゼータ電位測定装置1によって得られるゼータ電位は、既知の測定方法による測定結果とよく一致することが確認された。
【0030】
なお、測定対象物100が移動する方向と垂直なアパーチャー13の断面積が測定対象物100の粒径Mより大きくなければならないのはもちろんであるが、ゼータ電位を正確に測定するためには、一度にアパーチャー13を通過する測定対象物100は1個である必要がある。このため、例えばアパーチャー13の幅waは、M<wa<2×M程度であることが好ましい。つまり、アパーチャー13の断面積は、測定対象物100の直径より大きいが、2つの測定対象物100が横に並んで通過できない程度であることが好ましい。
【0031】
また、アパーチャー13の経路長laが長すぎると、複数の測定対象物100が同時にアパーチャー13内に滞在する確率が高くなる。一方、経路長laが短すぎると、アパーチャー13に測定対象物100が滞在する時間が短くなりすぎて、測定の精度が低下する。例えば測定対象物100の直径が数μmである場合には、経路長laが20μm〜40μm程度であることが好ましいことが実験的に得られている。
【0032】
したがって、測定対象物100の粒径やサンプル溶液200の電気伝導率、サンプル溶液200中の測定対象物100の濃度等を考慮して、アパーチャー13の幅wa、高さh、経路長laを適宜設定すればよい。
【0033】
また、以下に説明するように、図1に示したゼータ電位測定装置1によって、測定対象物100の粒径を測定することができる。
【0034】
マイクロチャネル10を、図12に示すようにパーツ分けし、サンプル溶液200が収容されたマイクロチャネル10の各パーツにおける電気抵抗を考える。ここで、アパーチャー部分P13における電気抵抗を抵抗Raとする。そして、第1のリザーバ11と第2のリザーバ12の直方体部分P111、P121における電気抵抗を抵抗Rcとし、アパーチャー13との接続部分P112、P122における電気抵抗を抵抗Rbとする。
【0035】
アパーチャー13内に測定対象物100が存在していない場合の、抵抗Ra、Rb、Rcは、以下の式(2)〜式(4)で表される:

Ra=la/(σhwa) ・・・(2)
Rb=lb/{σh(wc−wa)}×ln(wc/wa) ・・・(3)
Rc=lc/(σhwc) ・・・(4)

ここで、σはサンプル溶液200の電気伝導率、la、waはアパーチャー部分P13の経路長と幅、lbは接続部分P112、P122の経路長、lc、wcは直方体部分P111、P121の経路長と幅、hはマイクロチャネル10の高さである。
【0036】
一方、アパーチャー13に測定対象物100が存在する場合におけるアパーチャー13の電気抵抗を抵抗Raaとすると、抵抗Raaは以下の式(5)で表される:

Raa=2arctan{(φ/2)/(hwa/π−(φ/2)21/2}/[ σ{π(hwa−π(φ/2)2)}1/2]+(la−φ)/(σhwa) ・・・(5)

式(5)で、φは測定対象物100の直径である。
【0037】
アパーチャー13に測定対象物100が存在しない場合のマイクロチャネル10全体の抵抗R1は以下の式(6)で表され、アパーチャー13に測定対象物100が存在する場合のマイクロチャネル10全体の抵抗R2は以下の式(7)で表される:

R1=Ra+2×(Rb+Rc) ・・・(6)
R2=Raa+2×(Rb+Rc) ・・・(7)
【0038】
第1のリザーバ11と第2のリザーバ12間に印加される印加電圧V、電流減少値ΔIを用いて、以下の式(8)の関係が成立する:

V/R1−V/R2=ΔI ・・・(8)
【0039】
式(2)〜式(8)を用いて、測定対象物100の直径φを算出することができる。測定対象物100の直径φを算出した例を図13に示す。図13は、測定対象物100の直径φと電流減少値ΔIの関係を示すグラフであり、計算により算出された値を実線で示している。
【0040】
また、図13において点で示した値は、直径が2μm及び3μmの微粒子を測定対象物100として使用し、ゼータ電位測定装置1による電流減少値ΔIの測定を行なって得られた測定結果である。図13に示すように、測定結果と計算結果はよく一致する。したがって、図1に示したゼータ電位測定装置1によって、粒径を測定することができることが確認された。
【0041】
上記では、測定対象物100が微粒子である場合を説明したが、本発明の実施形態に係るゼータ電位測定装置1は、単一細胞のゼータ電位の測定も行なうことができる。細胞のゼータ電位は、細胞表面の生化学反応と密接に関係している。例えば、羊由来の赤血球をウサギ由来の抗羊赤血球IgGと反応させ、ゼータ電位測定装置1によって電気泳動移動度を測定した。その結果、フローサイトメータにより測定した細胞表面に付着した抗体の数量と電気泳動移動度に相関があることが明らかになった。ここで、電気泳動移動度Uは、上記の式(1)で表される。したがって、図1に示したゼータ電位測定装置1を用いたゼータ電位測定方法により、細胞表面で起こる抗原抗体反応等の生化学反応を評価できることがわかった。
【0042】
測定対象物100として赤血球をリン酸緩衝液に分散したサンプル溶液200を使用して、ゼータ電位を測定する実験を行なった。図1に示したゼータ電位測定装置1を用いた測定では、ゼータ電位が−12.83(±1.01)mVであったのに対し、既知のレーザドップラー法で測定したゼータ電位は、−15.39(±0.45)mVであった。このように、ゼータ電位測定装置1によって得られる赤血球のゼータ電位は、既知の測定方法による測定結果とよく一致することが確認された。
【0043】
既に説明したゼータ電位測定装置1を用いた測定例では、測定対象物100が直径3μm程度である。このため、アパーチャー13の幅waや高さhは、例えばwa=5μm、h=10μm程度に設定された。しかし、電子線描画法等によって更に微細な加工をガラス基板102に施すことにより、アパーチャー13の幅waや高さhがナノメートルオーダーであるナノチャネルを作成することが可能である。例えば、アパーチャー13の幅waや高さhを100nm以下にすることができる。このナノチャネルにDNAやたんぱく質等の生体分子やナノ粒子を分散したサンプル溶液200を収容し、ゼータ電位測定装置1を用いて、これらのナノ物質の個々の数量、サイズ、ゼータ電位を測定することができる。
【0044】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係るゼータ電位測定装置1によれば、溶液中に分散している個々の微粒子や細胞等のゼータ電位を測定することができる。また、アパーチャー13を流れる電流の減少値の大きさを用いて、ゼータ電位測定と同時に測定対象の微粒子等の直径を測定することができる。
【0045】
更に、図1に示したゼータ電位測定装置1に使用されるマイクロチャネル10は構造が単純で材料費も安いため、小型のゼータ電位測定装置を安価に提供することができる。したがって、本発明の実施形態に係るゼータ電位測定装置1によれば、小型且つ安価で、個々の測定対象物100のゼータ電位を測定できるゼータ電位測定装置及びゼータ電位測定方法を提供することができる。
【0046】
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。つまり、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のゼータ電位測定装置及びゼータ電位測定方法は、溶液中に分散した微粒子や細胞等の微少物体表面の電気的特性を利用する用途に利用可能である。例えば、コロイド溶液の分散性の評価、細胞膜の構造解析、廃水処理法の開発や製紙用添加剤の検証等への応用が可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…ゼータ電位測定装置
10…マイクロチャネル
11…第1のリザーバ
12…第2のリザーバ
13…アパーチャー
20…電流測定装置
30…算出装置
100…測定対象物
101…シリコンゴム
102…ガラス基板
111、121…開口部
200…サンプル溶液
201…負電極
202…正電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物が分散しているサンプル溶液を収容し、第1のリザーバ、第2のリザーバ、及び前記第1のリザーバと前記第2のリザーバ間を移動する前記サンプル溶液中の前記測定対象物が通過し、前記測定対象物が移動する方向と垂直な断面積が前記第1及び第2のリザーバより小さいアパーチャーを有するマイクロチャネルと、
前記第1及び第2のリザーバ間に電圧を印加して、前記第1及び第2のリザーバ間を流れる電流の電流値を一定時間測定する電流測定装置と、
前記一定時間のうちで前記電流値が一時的に減少する電流減少時間で前記測定対象物が通過する前記アパーチャーの経路長を除算して前記測定対象物の電気泳動速度を算出し、該電気泳動速度を用いて前記測定対象物のゼータ電位を算出する算出装置と
を備えることを特徴とするゼータ電位測定装置。
【請求項2】
前記第1及び第2のリザーバの前記アパーチャーとの接続部が、前記アパーチャーに向かって徐々に断面積が小さくなる構造であることを特徴とする請求項1に記載のゼータ電位測定装置。
【請求項3】
前記マイクロチャネルの前記サンプル溶液に接する表面にポリマーコーティングが施されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のゼータ電位測定装置。
【請求項4】
前記算出装置が、前記電流減少時間における前記電流値の減少値と前記マイクロチャネル中の前記サンプル溶液の電気抵抗を用いて、前記測定対象物の粒径を算出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のゼータ電位測定装置。
【請求項5】
測定対象物が分散しているサンプル溶液を収容し、第1のリザーバ、第2のリザーバ、及び前記第1のリザーバと前記第2のリザーバ間を移動する前記サンプル溶液中の前記測定対象物が通過し、前記測定対象物が移動する方向と垂直な断面積が前記第1及び第2のリザーバより小さいアパーチャーを備えたマイクロチャネルを用意するステップと、
前記第1及び第2のリザーバ間に電圧を印加して、前記第1及び第2のリザーバ間を流れる電流の電流値を一定時間測定するステップと、
前記一定時間のうちで前記電流値が一時的に減少する電流減少時間で前記測定対象物が通過する前記アパーチャーの経路長を除算して前記測定対象物の電気泳動速度を算出するステップと、
前記電気泳動速度を用いて前記測定対象物のゼータ電位を算出するステップと
を含むことを特徴とするゼータ電位測定方法。
【請求項6】
前記マイクロチャネルの前記サンプル溶液に接する表面にポリマーコーティングを施すステップを更に含むことを特徴とする請求項5に記載のゼータ電位測定方法。
【請求項7】
前記電流減少時間における前記電流値の減少値と前記マイクロチャネル中の前記サンプル溶液の電気抵抗を用いて、前記測定対象物の粒径を算出するステップを更に含むことを特徴とする請求項5又は6に記載のゼータ電位測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−106915(P2011−106915A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260937(P2009−260937)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年9月8日 社団法人応用物理学会発行の「2009年(平成21年)秋季 第70回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第3分冊」に発表
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)