説明

ソマトスタチン類似体(アナログ)の持続的放出のための医薬組成物の製造方法

本発明は、ソマトスタチン類似体の持続的放出のための注射可能な医薬組成物を製造する方法及び該方法により製造された医薬組成物に関する。好適態様において、この方法は、ランレオチドアセテートと酢酸を合わせる工程、その結果生成した混合物を一回だけ凍結乾燥する工程、及び凍結乾燥物を水和する工程を含む。酢酸は、この方法の最終工程において、所望のpHまで加えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソマトスタチン類似体の持続的放出のための医薬組成物の製造方法及び当該方法により製造された医薬組成物に関する。
【0002】
本発明は、更に、ソマトスタチン類似体ランレオチドの持続的放出のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
多くのペプチド治療では、長期間にわたって、患者における連続的又は繰り返し投与を必要としている。反復注射は、患者に不便と不快の両方を引き起こすので、持続的放出製剤は、望ましく且つ開発努力の対象となってきた。
【0004】
ペプチドを持続的放出する製剤の製造方法としては、様々な方法が知られている。しかしながら、それらの方法は、比較的複雑であることが多く、首尾一貫して同じ製品を製造することができない。
【0005】
国際特許公開WO2004/030650は、GnRHアンタゴニストの持続的放出のための製剤を開示している。本願とは異なり、ゴザレリクス[INN名]は、以前は開発コードD−63153で知られていた良性前立腺過形成(BPH)の患者において用いられる黄体形成ホルモン放出因子(LHRH)のアンタゴニストである。この刊行物は、凍結乾燥されたペプチドを低濃度の無機塩溶液で戻して、ミリリットル当たり5〜50mgの濃度にすることを開示している。その結果生成した製剤の投与は、再構成後、最大で2時間を企図している。
【0006】
米国特許第5,595,760号は、ペプチドの持続的放出を意図した固体及び半固体の医薬組成物を記載しており、それらの組成物は、ゲル化可能な水溶性ペプチドの塩よりなり、適宜、適当な単量体の賦形剤と組み合わされている。これらの組成物ゲルは、患者への投与後、少なくとも3日間の期間にわたって持続的に放出させる。
【0007】
国際特許公開WO99/48517は、ゲル化可能な水溶性のペプチド塩を含む固体又は半固体の医薬組成物を開示している。この組成物の製造方法は、2つの凍結乾燥工程を含み、最終的pHを調節するための酸の添加は開示されていない。
【0008】
ここで、本出願人は、本発明により組成物を製造するためには、単一凍結乾燥工程を含む一層簡単な方法が採用されうるということを発見した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2004/030650号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5595760号明細書
【特許文献3】国際公開第99/48517号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ソマトスタチン類似体の持続的放出のための注射用組成物の一層簡単な製造方法を提供することは、本発明の一つの目的である。常に比較的狭い範囲内にpHを有する組成物を製造することは、本発明の更なる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
それ故、本発明の主題は、注射可能な持続的放出用医薬組成物の製造方法であって、下記の工程を含む、当該製造方法である:
・ゲル化可能なソマトスタチン類似体塩と水性酸溶液を組合わせる(混合する);
・生成した混合物を一度だけ凍結乾燥する;そして
・凍結乾燥物を水和する;
(ここに、組成物の最終的pHは、pH5〜7の範囲にある)。
【0012】
別途明示しない場合は、下記の定義が、本発明を記載するために用いられる様々な用語の意味及び範囲を説明し限定するために用いられる。
【0013】
用語「製薬上許容しうる」は、この文脈においては、哺乳動物又はヒトによって生理的に十分耐えられることを意味する。
【0014】
用語「ゲル化可能」は、純水、pHの調節に適した酸又は塩基性薬剤を含む水溶液、又はヒトにおける非経口投与に適した他の溶剤と混合した場合に非経口投与に適した粘度を有する半固体製品を形成する化合物の能力を意味する。
【0015】
ソマトスタチン類似体は、ソマトスタチン誘導体又は類似体例えば欧州特許EP215171に記載されたランレオチド、又はソマトスタチン類似体例えば米国特許US5,552,520号(この特許自体が、ソマトスタチン類似体を記載している他の特許のリストを含んでおり、それらを、参考として、本明細書中に援用する)に記載されたものを意味するものと理解される。
【0016】
本発明に用いるソマトスタチン類似体は、ランレオチド[BIM23014]、オクトレオチド及びBIM−23244、ソマトスタチンレセプターサブタイプ2及び5選択的類似体を含む群から選択することができる。
【0017】
本発明で使用することのできるソマトスタチン類似体の塩は、好ましくは、酢酸、乳酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、安息香酸、メタンスルホン酸若しくはトルエンスルホン酸などの有機酸の製薬上許容しうる塩、又は塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸若しくはリン酸などの無機酸の製薬上許容しうる塩である。特に、それらは、ソマトスタチン類似体の酢酸塩であってよい。
【0018】
ソマトスタチン類似体ランレオチドは又、開発コードBIM23014によっても知られており、ランレオチド酢酸塩の形態で、商標ソマチュリン(SOMATULINE)(登録商標)にて販売されている。ランレオチド酢酸塩は、天然のホルモン ソマトスタチンの合成環状オクタペプチド類似体である。ランレオチド酢酸塩は、[シクロS−S]−3−(2−ナフチル)−D−アラニル−L−システイニル−L−チロシル−D−トリプトフィル−L−リジル−L−バリル−Lシステイニル−L−スレオニンアミド、酢酸塩として、化学的に公知である。その分子量は、1096.34(塩基)であり、その展開式は、下記の通りである:
【化1】

【0019】
ソマトスタチン類似体BIM23244は、化合物DPhe−c(Cys−3I Tyr−DTrp−Lys−Val−Cys)−Thr−NH2(C5066IN11102)である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】単一凍結乾燥を含む本発明の方法により製造された組成物(黒丸により表示)及び2回の凍結乾燥を含む方法により製造した組成物(黒正方形により表示)についての、注射器で注射する際の力(SIF)(ニュートン)対pHのプロットである。
【図2】単一凍結乾燥を含む本発明の方法により製造された組成物(黒丸により表示)及び2回の凍結乾燥を含む方法により製造した組成物(黒正方形により表示)についての、流量(一分間当たりのマイクロリットル)対pHのプロットである。
【図3】単一凍結乾燥を含む本発明の方法により製造された組成物(黒丸により表示)及び2回の凍結乾燥を含む方法により製造した組成物(黒正方形により表示)のイン・ビトロ試験中の、2.75時間後に放出されたランレオチドアセテートのパーセンテージ対pHを示すプロットである。
【図4】単一凍結乾燥を含む本発明の方法により製造された組成物(黒丸により表示)及び2回の凍結乾燥を含む方法により製造した組成物(黒正方形により表示)のイン・ビトロ試験中の、9.25時間後に放出されたランレオチドアセテートのパーセンテージ対pHを示すプロットである。
【図5】単一凍結乾燥を含む本発明の方法により製造された組成物(黒丸により表示)及び2回の凍結乾燥を含む方法により製造した組成物(黒正方形により表示)のイン・ビトロ試験中の、24.25時間後に放出されたランレオチドアセテートのパーセンテージ対pHを示すプロットである。
【図6】酢酸塩含量(AcOHレベル)と組成物のpHの間の関係を示すプロットである。pHのデータは、活性物質の酢酸塩含量%(w/w)の関数にてプロットされている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
好適実施形態において、本発明に用いるソマトスタチン類似体は、ランレオチド[BIM23014]及びオクトレオチドを含む群から選択される。
【0022】
好適実施形態において、ソマトスタチン類似体は、ランレオチドである。好適実施形態において、ソマトスタチン類似体は、オクトレオチドである。
【0023】
好適実施形態において、酸は、酢酸である。
【0024】
好適実施形態において、ソマトスタチン類似体は、ランレオチドであり、酸は、酢酸である。
【0025】
本発明の好適実施形態において用いる酢酸は、氷酢酸の形態であってよく、95〜99.7%以上、好ましくは95%、98%、99%、99.7%以上の純度を有してよく、一層好ましくは99.7%以上の純度を有してよい。
【0026】
好適実施形態において、本発明の方法における最終工程は、比較的安定したpHの組成物を製造するために、必要であれば、酸の添加を可能にする。それ故、凍結乾燥物を水和するのに用いる水は、好ましくは、必要な最終的pHを与えるのに適した濃度で酸を含む。一層好ましくは、凍結乾燥物の水和に用いられる水は、好ましくは、必要な最終的pHを与え、及び/又は9±2重量%の医薬組成物中の無水酢酸塩含有物を与えるのに適した濃度で酢酸を含む。一層好ましくは、凍結乾燥物の水和に用いられる水は、好ましくは、酢酸を、必要な最終的pHを与え且つ/又は9.7±0.3重量%の医薬組成物中の無水酢酸塩含有物を与えるのに適当な濃度で含む。
【0027】
本発明のこの態様は、pHをより良く制御するのを容易にし、一層安定した最終的pHの組成物を提供するという利点を有する。最終的pHの実験的偏りを減じることは、重要である。このpHは、医薬組成物中のAPI(活性医薬成分)の溶解度を含む幾つもの重要なパラメーターを左右するので、配合物の粘度も又、pHに依存し、そして、その結果、組成物の注射に要する力及び医薬組成物内の薬物物質の溶解度もpHに依存する。組成物の注射に要する力が減少すれば、使用に便利なより小径の注射針が使いやすくなる。薬物物質の溶解度は、注射部位における集積(デポ剤、depot)の形成を左右する。一度形成されれば、API(活性医薬成分)が、その集積から周囲組織へ、分解及び受動拡散によってゆっくり放出される。
【0028】
更なる好適実施形態においては、凍結乾燥工程において、凍結乾燥中の混合物の温度を、好ましくは:
・先ず、室温から、2℃±1℃まで低下させ、その後、一定に維持し;
・更に、2±1℃から、−40±5℃まで低下させ、その後、一定に維持し;
・先ず、−40±5℃から25±5℃まで上昇させ、その後、一定に維持し;そして
・更に、35±5℃まで上昇させ、その後、一定に維持する。
【0029】
更なる好適実施形態においては、凍結乾燥工程中の混合物の温度を、連続的に、
・工程a:先ず、室温から、2℃±1℃まで低下させ、その後、一定に維持し;
・工程b:更に、2±1℃から、−40±5℃まで低下させ、その後、一定に維持し;
・工程c:先ず、−40±5℃から25±5℃まで上昇させ、その後、一定に維持し;そして
・工程d:更に、35±5℃まで上昇させ(工程d)、その後、一定に維持する。
【0030】
凍結乾燥中の圧力に関しては、混合物の温度が低下した後は、大気圧は、好ましくは、20±5μバールまで低下させ、この大気圧を、好ましくは、混合物の温度が上昇する間も一定に維持する。
【0031】
時間に関しては、凍結乾燥工程の持続時間は、好ましくは、少なくとも60時間である。一層詳細には、凍結乾燥工程中、混合物の温度を、好ましくは:
・先ず、最長で30分間、好ましくは、10分以内に低下させて、その後、3±1時間にわたって一定に維持し;
・更に、最長で15分間、好ましくは、10分以内に低下させて、その後、3.5±1時間にわたって一定に維持し;
・先ず、20±5時間にわたって上昇させ、その後、少なくとも40時間にわたって一定に維持し;そして
・更に、1±0.5時間にわたって上昇させ、その後、少なくとも16時間にわたって一定に維持する。
【0032】
一層詳細には、凍結乾燥工程中、混合物の温度を、好ましくは:
・工程aにおいて:先ず、最長で30分間、好ましくは、10分以内に低下させ、その後、3±1時間にわたって一定に維持し;
・工程bにおいて:更に、最長で15分間、好ましくは10分以内に低下させ、その後、3.5±1時間にわたって一定に維持し;
・工程cにおいて:先ず、20±5時間にわたって上昇させ、その後、少なくとも40時間にわたって一定に維持し;そして
・工程dにおいて:更に、1±0.5時間にわたって上昇させ、その後、少なくとも16時間にわたって一定に維持する。
【0033】
他の好適実施形態においては、25±2 g/l ランレオチド塩基と15±2重量%酢酸が、第一工程で組合わされる(混合される)。
【0034】
更に別の好適実施形態においては、この組成物は、ランレオチド塩を完全に溶解させるのに必要とされる量の50%未満の量で、水を含み、水の割合は、組成物に半固体濃度(半固体粘稠性)を与えるように調整される。好ましくは、可能であれば、加える水の量は、ソマトスタチン類似体塩を完全に溶解させるのに必要とされる量の30%未満とし、一層好ましくは10%未満とする。
【0035】
好適実施形態において、組成物の最終的pHは、pH5〜7の範囲にある。一層好ましくは、それは、pH5.5〜6.5の範囲にある。一層好ましくは、それは、pH5.8〜6.4の範囲にある。一層好ましくは、それは、pH5.9〜6.1の範囲にある。
【0036】
本発明の他の主題は、上記の方法により製造された医薬組成物である。
【0037】
この組成物は、好ましくは、7.5±2.5重量%の無水酢酸塩含量を有する。好ましくは、この組成物は、9±2%の無水酢酸塩含量を有し、一層好ましくは、9.7±0.3重量%の無水酢酸塩含量を有する。一層好ましくは、この組成物は、9.1〜10.5重量%の無水酢酸塩含量を有する。
【0038】
好適実施形態において、この組成物は、ランレオチドを少なくとも15日間にわたって放出することができる。好ましくは、この組成物は、ランレオチドを少なくとも28日間にわたって放出することができる。好適実施形態において、この組成物は、少なくとも1月間ランレオチドを放出することができ、好ましくは、約2月(56日)間、一層好ましくは2月間放出することができる。
【0039】
他の好適実施形態において、この組成物は、15〜35重量%のランレオチド塩基を含む。他の好適実施形態において、この組成物は、20〜35重量%のランレオチド塩基を含む。好ましくは、この組成物は、25±5重量%のランレオチド塩基を含む。一層好ましくは、この組成物は、24.6±2.5重量%のランレオチド塩基を含む。一層好ましくは、この組成物は、約24.6重量%のランレオチド塩基を含む。
【0040】
この組成物は、好ましくは、2〜8℃での、12月より長期の、好ましくは、24月超の貯蔵後における使用に適している。この組成物は、好ましくは、25℃で6月にわたる貯蔵後の使用に適している。
【0041】
上記のように、本発明は、一態様において、ゲル化可能なソマトスタチン類似体塩及び酸性水溶液を含む注射可能な持続的放出用医薬組成物の製造方法に関する。本発明の医薬組成物の製造に用いられる方法は、単一の凍結乾燥を含む。
【0042】
組成物のpHが注射可能性及びその放出速度の両方に影響することは見出されていた。注射可能性は、粘度(一層高い粘度は、低い注射可能性を生じる)又は流量(一層高い流量は、大きい注射可能性を生じる)によって測定されうる。放出速度は、イン・ビトロ放出試験を行なって、経時的に放出されるソマトスタチン類似体のパーセンテージを測定することにより測定することができる。
【0043】
所与のソマトスタチン類似体を含む組成物の粘度、流量及び放出速度の研究は、そのソマトスタチン類似体にとっての許容しうるpH範囲を決定することを可能にする。
【0044】
前出のように、一実施形態において、ソマトスタチン類似体は、ランレオチドであり、酸水溶液は、酢酸水溶液である。この実施形態において、組成物のpHは、酢酸の濃度に正比例することが見出されている。だとすると、最適酢酸濃度は、最適pHから計算することができる。
【0045】
本発明の好適方法は、ランレオチド塩基と酢酸を組合わせること、その結果生成した混合物を一度凍結乾燥すること、及び凍結乾燥物を水和することを含む。この方法が行なわれうる詳細な条件は、以下の通りであるが、これらの条件は、例えば異なるソマトスタチン類似体が用いられる場合には、変わりうる。
【0046】
このランレオチド塩基と酢酸は、予備凍結乾燥プールにて組合わせることができ、次いで、トレーに載せる。好適態様において、これらのトレーは、1.5又は2mm厚であり、トレー中の溶液の深さは、1.2mm厚以下である。トレー中の溶液の深さは、医薬組成物の最終的酢酸塩濃度に影響を有するので、制御されなければならない。
【0047】
この凍結乾燥前に、ランレオチド塩基の濃度は、好ましくは、20〜30g/lであり、一層好ましくは、23〜27g/lであり、最も好ましくは、25g/lであり、酢酸の濃度は、好ましくは、20%未満であり、一層好ましくは、13〜17%であり、最も好ましくは、15%である。
【0048】
この凍結乾燥は、当業者に公知の慣用の条件下で行なわれうる。
【0049】
好適実施形態において、この凍結乾燥方法は、トレー中の溶液を室温とその溶液が凍結する温度との間の温度、好ましくは1〜5℃又は一層好ましくは2℃まで冷却することで始めることができる。次いで、この温度は、少なくとも1時間、好ましくは2〜4時間、最も好ましくは3時間にわたって一定に維持することができる。この予備的冷却工程は、その後の凍結工程が一層迅速に起きることを可能にし、これは、更に、凍結した氷格子が一層均質であることを確実にする。
【0050】
次いで、凍結乾燥機の棚を更に冷却し、好ましくは−20℃より低温に、一層好ましくは、−30℃より低温に、最も好ましくは−40±5℃に冷却することができる。この冷却工程は、可能なかぎり迅速に完了すべきであり、好ましくは15分以内に、一層好ましくは10分以内に完了すべきである。生成した固体は、少なくとも2時間、好ましくは2.5〜4.5時間、最も好ましくは、3.5時間にわたって、一定温度に保持されることが好ましい。この混合物は、昇華前に全混合物が凍結するように十分な時間にわたって冷却しなければならない。
【0051】
昇華のプロセスは、好ましくは15〜25μバールの、一層好ましくは20μバールの真空の適用にて開始することができる。次いで、棚の温度を、最初に、好ましくは、少なくとも10時間にわたって上昇させ、一層好ましくは、15〜25時間にわたって上昇させ、最も好ましくは、20時間にわたって上昇させ、好ましくは、20〜30℃まで、一層好ましくは25℃まで上昇させることができる。この溶液の温度は、その後、好ましくは少なくとも20時間にわたって、一層好ましくは、少なくとも40時間にわたって一定に保つことができる。この一次乾燥段階は、開放された水分及び酢酸を除去する。
【0052】
次いで、混合物の温度を、好ましくは、15分間、一層好ましくは0.5〜1.5時間、最も好ましくは1時間にわたって、好ましくは30〜40℃、一層好ましくは、35℃まで更に上昇させることができる。凍結乾燥段階を完了させるために、混合物の温度を一定に、好ましくは、少なくとも10時間にわたって、一層好ましくは少なくとも16時間にわたって、一定に維持することができる。この二次的乾燥段階は、吸着した水分及び酢酸を除去する。
【0053】
この好適工程から生じた凍結乾燥物は、10重量%未満の、好ましくは9.6%未満の無水酢酸塩含量を有するランレオチドアセテートである。
【0054】
この方法の最終段階は、凍結乾燥物を水で、好ましくは、注射用の水で水和することを含む。
【0055】
三方弁を介して繋がれた2つの注射器(シリンダー)からなる機器を用いて、随意に注射用に酸性化した水とランレオチドアセテートを混合することができる。この装置に関しては、当業者は、国際特許公開WO96/07398を有効に参照することもできる。もしかかる機器を用いるのであれば、ランレオチドアセテート粉末凍結乾燥物を含む注射器(シリンダー)に三方弁を介して真空を加えて、該粉末中の空気含量を低減させる。次いで、第二のシリンダー中の水を、ランレオチドアセテートを含む注射器(シリンダー)に三方弁を介して導入することができる。次いで、このランレオチドアセテートは、静的水和を、好ましくは少なくとも2時間にわたって受ける。その結果生成した分散液を均質化するために、注射器(シリンダー)の内容物を、三方弁を介して他の注射器(シリンダー)に移し、そして、この工程を、電気式ミキサーにより助成された2つのピストンの往復運動により反復することができる。各ピストンを押すために使われる力は、この混合工程の間中、溶液が一層飽和するにつれて、増大するであろう。
【0056】
前記のように、凍結乾燥物のpHが、目標pHより高ければ、水和前に注射用水に酸を、その医薬組成物中で必要なpHを与えるのに適した量で加えることができる。この目的のために用いられる酸は、好ましくは、酢酸である。
【0057】
本発明の重要な態様は、この組成物の最も適当な標的pHの選択である。実験は、pHが酸濃度と直接連動していること、及びこれらの関連因子が、この医薬組成物中の薬物物質の注射可能性と溶解性の両方に影響を与えることを示している。この注射可能性に関して、pHの増大は、流量の減少及び注射する力(SIF)の増大へと導き、これらの両者は、注射可能性を低下させる。放出速度に関して、ランレオチドアセテート濃度(及び、結果としてのpH)は、この組成物中の薬物物質の溶解度に影響を与える。この薬物物質の溶解度は、注射部位における集積の形成を左右する。pHを増大させると、集積が一層早く形成され、これにより、PKプロフィルのバースト効果をより良く制御できる。その上、活性物質の溶解度に対するpHの効果は、薬物製品の日常的品質制御のために開発されたイン・ビトロ放出試験にインパクトを与える。pHの増大は、この組成物の放出プロフィルの低下へと導く。
【0058】
だとすると、注射するのが容易で長時間にわたって活性成分を放出する組成物を製造するためには、注射可能性競合因子と放出速度の間の適当な妥協を与えるpHが選択されなければならないということになる。
【0059】
ソマトスタチン類似体がランレオチドであり、酸が酢酸である実施形態においては、実験は、最も適当なpH範囲が5.8〜6.4であることを決定しており、これは、この医薬組成物の9.1〜10.5重量%の無水酢酸塩含量に相当する。もし凍結乾燥固体中の酢酸塩濃度が、この医薬組成物のpHが許容しうるpH範囲を超えるようなものであるならば、上記の仕方で水を都合よく酸性化することができる。酢酸の水への添加は無水酢酸塩含量を狙った濃度にまで増大させることを可能にする。
【0060】
本発明の組成物中のソマトスタチン類似体の割合は、達成することを所望する放出時間により決定されるが、それは、この固体又は半固体組成物を通例の直径の針に合う注射器を用いて注射することのできる限界濃度に相当する最大値を超えることはできない。
【0061】
好ましくは、本発明の組成物は、18.3〜42.7重量%のランレオチドアセテートを含む。好ましくは、ランレオチドアセテートに基づく本発明の組成物は、25〜35重量%、好ましくは、25〜30重量%(20.5〜24.6重量%の純粋ランレオチドに相当)を含む。好適実施形態において、本発明の組成物は、30±3重量%のランレオチドアセテート(24.6±2.5重量%のランレオチド塩基に相当)を含む。
【0062】
この組成物中のランレオチドアセテートの25〜35重量%の範囲は、この組成物中の純粋ランレオチド塩基の20.5〜28.7重量%の範囲に相当する。この組成物中のランレオチドアセテートの24.4〜42.7重量%の範囲は、この組成物中の純粋ランレオチド塩基の20〜35重量%の範囲に相当する。この組成物中のランレオチドアセテートの24.4〜36.6重量%の範囲は、この組成物中の純粋ランレオチド塩基の20〜30重量%の範囲に相当する。
【0063】
本発明の半固体組成物は、製薬分野での使用のためのものである。本発明の組成物は、患者に、例えば、米国特許第6,953,447号に記載されたような装置を用いて、注射によって投与することができる。本発明の組成物は、容易に、約17又は18ゲージ(約1mmの内径に相当)の注射針を用いて注射することができる。
【0064】
別途規定しない限り、ここで用いられる技術的及び科学的用語は、本発明が属する分野の通常の専門家によって普通に理解されるものと同じ意味を有する。ここで言及されるすべての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は、参考として、本明細書中に援用される。
【0065】
下記の実施例は、上記の手順を例証するために与えられるものであり、本発明の範囲を制限するものと考えてはならない。
【0066】
実験部
これらの実施例において用いられる一般的工程は、下記に述べられている。これらの工程のすべてが、すべての実施例で採用されているわけではない。これらの一般的工程は、各実施例において詳細な情報により補われる。
【実施例】
【0067】
ランレオチドアセテートと含水酢酸の組み合わせと、その後の最初の凍結乾燥
予備凍結乾燥プールを、純粋なランレオチド[BIM 23014]の濃度を、15%酢酸水溶液中で25±2g/lに調節することにより、準備した。このプールを金属トレーに載せて、凍結乾燥機中の棚に置き、その棚を室温から10分にわたって2℃まで冷却してから、この温度で3時間維持した。この冷却混合物を、次いで、10分にわたって−40℃まで凍結させてから、この温度で2.75時間維持した。
【0068】
凍結乾燥を達成するために、20μバールまで真空にして、維持し、他方、凍結乾燥機の棚を−40℃から25℃まで20時間にわたって加温して、この温度で更に63.3時間維持し、更に、23時間にわたって35℃まで加温した。
【0069】
随意の酸性化
注射用水を、氷酢酸で酸性化した。
【0070】
凍結乾燥物の水和
このランレオチドアセテート凍結乾燥粉末を注射用酸性化水と、下記の工程を用いて組み合わせて、純粋ランレオチドを特定の濃度にした。これらのランレオチドアセテートと水を重量測定して、ピストン付きの2つの別々のシリンダー中に入れた(これらは、三方弁を介して繋がれている)。水和の前に、100〜600μバールの真空を、ランレオチドアセテート粉末を含んでいるシリンダーに、三方弁を介して加えた。次いで、水を、ランレオチドアセテートを含むシリンダーに再度三方弁を介して導入した。次いで、ランレオチドアセテートは、静的水和を少なくも2時間にわたって受けた。この分散液を、次いで、2つのシリンダー間で、三方弁を介して、ピストンを用いて、内容物を行き来させることによって均質化した。この方法により、ランレオチドアセテート過飽和ゲルを産出した。
【0071】
実施例1〜9のまとめ
各実施例の特定の条件のまとめを、下記の表1に載せてある。
【表1】

3つの欄が「AcOH」という見出しの下に与えられているが、その各々は、酢酸の重量%に関するものである。「API」(「活性主成分」とも呼ばれる)欄は、水和前の凍結乾燥物中の酢酸の量を特定する。「添加」欄は、水和工程で用いられた水に加えられた、酢酸の量を特定している。API欄中のゼロは、随意的酸性化工程が採用されなかったことを示している。全量の欄は、APIと添加の欄の合計からなる組成物中に存在する酢酸の総量を与える。
【0072】
ランレオチドの欄は、最終組成物におけるランレオチドペプチドの重量パーセンテージを与える。pHの欄は、最終組成物のpH値を与える。
【0073】
実施例1〜6は、本発明による単一凍結乾燥を含む方法により製造された組成物に対応しており;実施例7〜9は、PCT出願WO99/48517に記載された方法に従って2回の凍結乾燥を含む方法により製造された組成物に対応している。
【0074】
実施例1〜9で製造された組成物の特性表示
実施例1〜9により製造された組成物の特性を、下記の表2に記載し、図1〜6にグラフ表示した。
【表2】

これらの組成物の注射可能性は、注射器から排液するのに要した力(注射器注射力、即ちSIF)及び流量により測定した組成物の粘性の両方で測定した。
【0075】
流量法は、参考文献NF EN ISO 1133:「Determination of the melt mass flow rate (MFR) and the melt volume flow rate (MVR) of thermoplastics」の原理に基づいて開発された。この技術において、溶液の粘度は、温度制御された条件下で、標準ステンレス鋼製試験用注射器を通る流れを一定の圧力をかけながら測定することにより間接的に測定される。過飽和ゲルの注射器を通る流れ(粘度に比例する)を測定して、流量(μ/分)として表した。
【0076】
注射器注射力(SIF)試験は、垂直位置に維持された最終薬物用注射器に含まれた配合物を、一定の排水速度(200mm/分)で排出するのに要する最大力を評価するために開発された。
【0077】
活性成分の放出を、イン・ビトロ試験(IVT)を用いて測定したが、該試験では、放出された活性組成物のパーセンテージ(Q)を2.75時間後、9.25時間後及び24.25時間後に測定した。このイン・ビトロ放出試験は、特別な性質を有する製剤(配合物s)を念頭においた特別な開発を目的とするものであった。このような製剤(配合物)は、従来の如何なるイン・ビトロ溶解装置も適用不可能であった。結果として、小さい薬物製品保持用デバイスが、透析膜中に配合物を保持するために開発された。薬局方溶出(pharmacopoeial dissolution)(バスケット)装置を、USPの試験<711>溶出、装置1及びEur. Pharma. 2. 9. 3 論文に記載されたように、用いることによって、生理食塩水中でのイン・ビトロ溶解プロフィルが得られる。
【0078】
図1において、注射器注射力(SIF)が、pHに対してプロットされている。このグラフは、pHが増大するにつれて、SIFも又、増大するということ、及びSIFの増大の程度は、単一凍結乾燥工程を用いたか2回凍結乾燥工程を用いたかに依らないことを示している。
【0079】
図2において、流量が、pHに対してプロットされている。この流量は、pHに反比例して、pHが増大するにつれて流量は減少している。酢酸濃度とSIFと同様に、流量パラメーターは、単一凍結乾燥工程を用いたか2回凍結乾燥工程を用いたかによって影響されない。
【0080】
図3、4及び5において、放出される活性成分の割合を、それぞれ、2.75時間後、9.25時間後及び24.25時間後に測定して、組成物のイン・ビトロ試験中のpHに対してプロットしてある。これらのグラフは、濃度を一定に維持した場合、pHの増大と共に放出速度が減少することを示している。
【0081】
実施例10:本発明の組成物の、好適な製造手順
予備凍結乾燥プールを、純粋なランレオチド[BIM-23014]を、15%酢酸水溶液に25g/lで溶解させることにより、準備した。このプールを中空の金属トレーに載せて、室温から10分かけて2℃まで冷却し、次いで、この温度に3時間維持した。冷却した混合物を、次いで、10分かけて−40℃まで凍結させてから、この温度に2.75時間維持した。20μバールまで真空吸引し、この混合物を、−40℃から20時間かけて25℃まで加温し、更に、16.75時間にわたって35℃に加熱する間、真空を維持した。
【0082】
注射用水を、9.6〜10%の最終的無水酢酸塩含量を与えるのに十分な氷酢酸で酸性化した。次いで、この酸性化水とランレオチドアセテートを、次のようにして、合わせて、24.6%の純粋ランレオチドと9.6〜10%の無水酢酸塩の濃度にした:ランレオチドアセテート及び水を、重量測定して、ピストン付きの三方弁を介して繋がれた2つの別々のシリンダーに入れた。水和前に、100〜600μバールの真空を、三方弁を介して、ランレオチドアセテート粉末を含むシリンダーに加えた。次いで、水を、再び、三方弁を介して、ランレオチドアセテートを含むシリンダーに導入した。次いで、ランレオチドアセテートは、静的水和を少なくとも2時間にわたって受けた。この分散液を、次いで、2つのシリンダー間で、ピストンを用いて、内容物を行き来させることによって均質化した。この方法は、pH6.2のランレオチドアセテート過飽和ゲルを産出した。
【0083】
本発明が一つの特定の実施形態に関して記載されたものであっても、様々な改変及び変更が、本発明の範囲から離れずに為されうるということは認められよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射可能な持続的放出用医薬組成物を製造する方法であって、下記の工程を含む、当該方法:
・ ゲル化可能なソマトスタチン類似体塩と水性酸溶液を組み合わせる;
・ 生成した混合物を一度だけ凍結乾燥する;そして
・ 凍結乾燥物を水和する;
(ここに、組成物の最終的pHは、pH5〜7の範囲にある)。
【請求項2】
ソマトスタチン類似体がランレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸が酢酸である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
組成物の最終的pHが5.8〜6.4の範囲にある、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
水性酸溶液が、必要な最終的pHを与えるために適した濃度で酢酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
凍結乾燥物を水和するために用いられる水性酸溶液が、9.1〜10.5重量%の無水酢酸塩含量を与えるのに適した濃度で酢酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
上記第一の工程で25±2 g/l ランレオチドと15±2重量%酢酸が、組み合わされる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
凍結乾燥工程において、混合物の温度を:
・ 先ず、室温から、2℃±1℃まで低下させ、その後、一定に維持し;
・ 更に、2±1℃から、−40±5℃まで低下させ、その後、一定に維持し;
・ 先ず、−40±5℃から25±5℃まで上昇させ、その後、一定に維持し;そして
・ 更に、35±5℃まで上昇させ、その後、一定に維持する
請求項1に記載の方法。
【請求項9】
凍結乾燥工程の持続時間が少なくとも40時間、一層好ましくは、少なくとも60時間である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
凍結乾燥工程中、混合物の温度を:
・ 先ず、最長で30分間、好ましくは、10分以内に低下させて、その後、3±1時間にわたって一定に維持し;
・ 更に、最長で15分間、好ましくは、10分以内に低下させて、その後、3.5±1時間にわたって一定に維持し;
・ 先ず、20±5時間にわたって上昇させ、その後、少なくとも40時間にわたって一定に維持し;そして
・ 更に、1±0.5時間にわたって上昇させ、その後、少なくとも16時間にわたって一定に維持する
請求項7に記載の方法。
【請求項11】
混合物の温度が低下した後、周囲の分圧を、20±5μバールまで低下させ、この周囲の分圧を、混合物の温度が上昇する間も一定に維持する請求項7に記載の方法。
【請求項12】
凍結乾燥物が溶解される水の量が、ランレオチド塩を完全に溶解させるのに要する量の50%未満、好ましくは、30%未満、一層好ましくは、10%未満であって、組成物に半固体濃度を与えるように調整される、請求項1〜10の何れかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜11の何れかに記載の方法によって製造された持続的放出用医薬組成物。
【請求項14】
ランレオチドをイン・ビボで、少なくとも15日、好ましくは1月、一層好ましくは2月の期間にわたって放出することのできる、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
15〜35重量%、好ましくは25±5重量%、一層好ましくは約24.6±2.5重量%のランレオチド塩基を含む、請求項12又は13に記載の組成物。
【請求項16】
2〜8℃で、12月より長期間、好ましくは24月より長期間の貯蔵後の使用に適している、請求項12〜14の何れかに記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−517228(P2013−517228A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−548370(P2012−548370)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【国際出願番号】PCT/EP2011/000069
【国際公開番号】WO2011/085957
【国際公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(509120469)イプセン ファルマ ソシエテ パール アクシオン サンプリフィエ (51)
【氏名又は名称原語表記】IPSEN PHARMA S.A.S.
【住所又は居所原語表記】65 Quai Georges Gorse,F−92100 Boulogne Billancourt FRANCE
【Fターム(参考)】