説明

ソリッドケーブル

【課題】絶縁層中の絶縁油を増粘させることで、ケーブル運転時の絶縁層の熱履歴に伴う絶縁油の移動を抑制し、絶縁特性を安定させることができるソリッドケーブルとその接続部を提供する。
【解決手段】絶縁油が含浸された絶縁層30を備え、その絶縁層30の少なくとも一部が、絶縁紙とプラスチック層とを有する複合紙を巻回して構成されたソリッドケーブルである。絶縁紙は、パルプ製造工程、絶縁紙製造工程を経て製造され、このパルプ製造工程及び絶縁紙製造工程の少なくとも一方で、酸洗いと中和処理が行われる。そして、この中和処理は、金属イオンを含む中和剤を用いて行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソリッドケーブルとその接続部に関するものである。特に、ケーブル運転時の温度変化に伴って絶縁層に含浸される絶縁油が移動することを抑制できるソリッドケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
海底ケーブルなどの電力線路として、ソリッドケーブルが提案されている。代表的なソリッドケーブルは、中心から順に、導体、内部半導電層、絶縁層、外部半導電層、金属シース、防食層および鉄線鎧装を備える。このソリッドケーブルの絶縁層には、絶縁紙とプラスチック層とを有する複合紙を用いたものがある(特許文献1)。より具体的には、この複合紙を巻回して絶縁層を構成し、金属シースよりも内側の層には、中粘度油または高粘度油が含浸される。
【0003】
上記の複合紙を構成する絶縁紙(クラフト紙)は、通常、異なる業者により行われるパルプ製造工程、絶縁紙製造工程を経て製造される。パルプ製造工程では、原料となる木材チップを蒸解し、得られたパルプを洗浄する。絶縁紙製造工程では、まず、パルプ製造工程で得られたパルプを必要に応じて洗浄した後、離解・叩解し、さらに所定の薬品類を添加して、パルプが水溶液に分散されたパルプ溶液(紙料)を生成する。続いて、得られた紙料を抄紙機に導入して製紙する。さらに、必要に応じて、得られた紙カレンダー掛けで紙を高密度化すると共に、紙の表面を平滑にし、ロールに巻き取る。このような製紙過程において、パルプ製造工程及び絶縁紙製造工程における洗浄では、処理対象を水洗いすることが行われている。
【0004】
【特許文献1】特開2000-113734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年、絶縁紙の原材料の市場状況の変化などにより、安定した品質での原材料の入手が困難な場合がある。このような状況下、パルプや絶縁紙の性能や品質を安定させることが行われているが、一部の絶縁紙を用いた複合紙で試作したソリッドケーブルでは、絶縁油の粘度が過剰に高くなることがわかった。
【0006】
一方で、絶縁層に中・高粘度油を含浸している場合、ケーブルの負荷オン時に導体近傍の絶縁油は低粘度化して膨張し、絶縁層の外周方向に移行する。ところが、この絶縁油は、負荷オフ時に収縮して高粘度化し、絶縁層の外周側から内周側に急速に移行することができず、導体近傍の絶縁層に負圧を発生させて、絶縁油の局部的枯渇を招く虞がある。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、絶縁層中の絶縁油を増粘させることで、ケーブル運転時の絶縁層の熱履歴に伴う絶縁油の移動を抑制し、絶縁特性を安定させることができるソリッドケーブルとその接続部を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、品質や性能の異なる絶縁紙で複合紙を作製し、その複合紙で絶縁層を構成したソリッドケーブルの試作を行い、絶縁油の絶縁層への含浸特性を検討した。その結果、絶縁油の粘度が高くなって絶縁層に絶縁油が十分に含浸されていないものと、適正に絶縁油の含浸が行われているものがあることがわかった。より具体的には、パルプ製造工程及び絶縁紙製造工程の洗浄工程で水洗い処理のみの絶縁紙は、絶縁油の含浸特性に特に問題がない一方、酸洗い及び中和処理をし、その中和処理を金属イオンの含有される中和剤で処理した絶縁紙は、絶縁油を増粘させる傾向が大きく、絶縁油の含浸特性に支障を及ぼす場合のあることが判明した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたもので、絶縁油を増粘させる絶縁紙を積極的に利用することで上記の目的を達成する。
【0009】
本発明のソリッドケーブルは、絶縁油が含浸された絶縁層を備え、その絶縁層の少なくとも一部が、絶縁紙とプラスチック層とを有する複合紙を巻回して構成されたソリッドケーブルに係る。このソリッドケーブルにおいて、前記絶縁紙は、パルプ製造工程、絶縁紙製造工程を経て製造され、このパルプ製造工程及び絶縁紙製造工程の少なくとも一方で、酸洗いと中和処理が行われる。そして、この中和処理は、金属イオンを含む中和剤を用いて行われたことを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、複合紙を構成する絶縁紙は、パルプ製造工程と絶縁紙製造工程の一方又は双方の中和処理で、金属イオンを含む中和剤が用いられる。そのため、得られた絶縁紙を用いて複合紙を構成し、その複合紙で絶縁層を形成すれば、絶縁油を含浸した際に絶縁油の粘度を適度に増加させることができる。つまり、ケーブル運転時の負荷オン・負荷オフに伴って生じる絶縁層の温度履歴に対し、絶縁油を移動し難くすることができる。その結果、上述した絶縁油の局部的枯渇を抑制し、安定した絶縁特性を有するソリッドケーブルとすることができる。
【0011】
本発明のソリッドケーブルにおいて、前記絶縁紙は、酸洗いと中和処理がパルプ製造工程で行われた絶縁紙であることが挙げられる。
【0012】
この構成によれば、絶縁紙製造工程前のパルプ製造工程における中和処理で金属イオンを含有する中和剤を用いるため、この中和剤中の金属イオンと同じ金属イオンが何らかの物質として絶縁紙中に残存すると考えられる。また、その際、絶縁紙中のCaなどの元素が減じられることが多い。そのため、この残存物質の存在を、酸洗い・中和処理した絶縁紙の指標として利用し得る。従って、このような絶縁紙を複合紙として絶縁層に用いると、絶縁層中の絶縁油は高分子量の割合が多くなり、絶縁油の粘度を増加させることができると考えられえる。
【0013】
本発明のソリッドケーブルにおいて、前記絶縁紙は、酸洗いと中和処理が絶縁紙製造工程で行われた絶縁紙であることが挙げられる。
【0014】
この構成によれば、絶縁紙製造工程における中和処理で金属イオンを含有する中和剤を用いるため、この中和剤中の金属イオンと同じ金属イオンが絶縁紙中に何らかの物質として残存すると考えられる。また、その際、Caなどの元素が減じられることが多い。そのため、この残存物質の存在を、酸洗い・中和処理した絶縁紙の指標として利用し得る。従って、このような中和剤で処理された絶縁紙を複合紙として絶縁層に用いると、絶縁油の粘度調整に寄与できると考えられる。
【0015】
本発明のソリッドケーブルにおいて、前記絶縁紙は、酸洗いと中和処理がパルプ製造工程と絶縁紙製造工程の双方で行われた絶縁紙であることが挙げられる。
【0016】
この構成によれば、パルプ製造工程と絶縁紙製造工程の双方における各中和処理で金属イオンを含有する中和剤を用いるため、この中和剤中の金属イオンと同じ金属イオンが絶縁紙中に何らかの物質として残存される。そのため、この絶縁紙を複合紙として絶縁層に用いると、絶縁油の粘度を効果的に増加させることができる。
【0017】
本発明のソリッドケーブルにおいて、前記絶縁油にポリブデンが含まれることが挙げられる。
【0018】
ポリブデンは、二重結合を有する絶縁油であり、この二重結合が他の分子と結合して絶縁油中により高分子材料の割合を増加させると推測される。そのため、ポリブデンのように、二重結合を有する絶縁油を用いる場合に、本発明で規定する絶縁紙を用いることが絶縁油の適度な増粘に効果的であると考えられる。
【0019】
本発明のソリッドケーブルにおいて、前記絶縁紙における前記中和剤中の金属イオンと同じ金属イオンの濃度が300ppm超であることが好ましい。
【0020】
通常、中和剤中の金属イオンと同じ金属イオンは、水などの中にも存在し、洗浄工程で単に水洗いしかしない絶縁紙にも、この金属イオンに由来する物質がある程度含有される。この水洗いしかしない絶縁紙における当該金属イオンの含有量の上限が300ppm程度であるため、絶縁紙中における前記金属イオンの濃度が300ppm超であれば、その絶縁紙は、製造過程の中和処理で、金属イオンを含む中和剤を用いていると考えられる。この金属イオンの濃度は、原子吸光分析やイオンクロマトグラフにより測定できる。
【0021】
本発明のソリッドケーブルにおいて、前記中和剤に含まれる金属イオンが周期律表2族および13族から選択される少なくとも一種の金属イオンとすることが挙げられる。
【0022】
この構成により、周期律表2族および13族から選択される少なくとも一種の金属イオンを含まない中和剤を用いて絶縁紙を得ることで、その絶縁紙を用いて絶縁層を構成した場合、絶縁油の増粘を効果的に抑制できる。
【0023】
この中和剤に含まれる金属イオンの具体例としては、Mgイオンが挙げられる。特に、金属イオンとして、Mgイオンを含む中和剤を用いて絶縁紙を得ることで、その絶縁紙を用いて絶縁層を構成した場合、絶縁油の効果的に増粘させることができる。その他、この中和剤に含まれる金属イオンの具体例としては、Alイオンが挙げられる。
【0024】
本発明のソリッドケーブルにおいて、絶縁層の厚さが10mm以上であることが好ましい。
【0025】
絶縁層の厚さが比較的厚いソリッドケーブルの場合、絶縁油の移動が一旦生じると、その復帰がより困難となる傾向がある。本発明で規定する絶縁紙は、絶縁油の粘度を適度に増粘できるため、特に絶縁層の厚いソリッドケーブルに適用することが効果的である。
【0026】
本発明のソリッドケーブルにおいて、絶縁層の内周側と外周側とで絶縁層を使い分けることが好ましい。具体的には、絶縁層における内周側を構成する複合紙の絶縁紙は、前記中和処理が金属イオンを含む中和剤を用いて行われた絶縁紙とする。一方、絶縁層における外周側を構成する複合紙の絶縁紙は、前記中和処理が金属イオンを含む中和剤を用いることなく行われた絶縁紙とする。
【0027】
この構成によれば、絶縁層の外周側は絶縁油を増粘する作用のない絶縁紙を用い、内周側には絶縁油を増粘する作用のある絶縁紙を用いる。絶縁油は、絶縁層の外周側から内周側に向かって含浸される。そのため、絶縁油の含浸初期において、絶縁層の外周側で絶縁油が増粘されなければ、円滑に絶縁油の含浸を行うことができる。一方、絶縁層の内周側は、導体近傍でもあり、負荷オン時には高温になる個所である。そのため、絶縁層の内周側に絶縁油を増粘させる作用のある絶縁紙を用いれば、当該内周側の絶縁油が増粘され、ケーブル運転時の温度上昇にもかかわらず、絶縁油の移動を抑制することができる。その結果、特に絶縁油の局部的枯渇が生じやすい導体近傍の絶縁層にボイドが発生することを抑制できる。
【0028】
一方、本発明のソリッドケーブルの接続部は、導体と導体を覆う油浸絶縁層とが段階的に露出された一対のケーブルコアの端部と、この露出された導体同士を接続する導体接続部と、これらケーブルコアの端部及び導体接続部の外周に絶縁テープを巻回して構成される接続用絶縁層とを備える。ここで、前記絶縁テープは、絶縁紙とプラスチック層とを有する複合紙である。そして、前記絶縁紙は、パルプ製造工程、絶縁紙製造工程を経て製造され、このパルプ製造工程及び絶縁紙製造工程の少なくとも一方で、酸洗いと中和処理が行われ、この中和処理は、金属イオンを含む中和剤を用いて行われたことを特徴とする。
【0029】
この構成によれば、本発明のソリッドケーブルの場合と同様、上記金属イオンを含む絶縁紙を用いて複合紙を構成し、その複合紙で接続用絶縁層を形成すれば、その接続用絶縁層に絶縁油を含浸した際に絶縁油の粘度を適度に増加させることができる。つまり、ケーブル運転時の負荷オン・負荷オフに伴って生じる接続用絶縁層の温度履歴に対し、絶縁油を移動し難くすることができる。その結果、接続用絶縁層における絶縁油の局部的枯渇を抑制し、安定した絶縁特性を有する接続部とすることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のソリッドケーブルおよびその接続部によれば、複合紙を構成する絶縁紙の製造過程で、中和処理に金属イオンを含む中和剤を用いることで、ケーブルまたは接続用の絶縁層に絶縁油を含浸した際、絶縁油の粘度を適度に増加させることができる。それにより、ケーブルまたは接続用絶縁層における絶縁油の移動を効果的に抑制し、絶縁油の局部的枯渇が絶縁層に生じることを効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
〔ソリッドケーブル〕
本発明のソリッドケーブル100は、図1に示すように中心から順に、導体10、内部半導電層20、絶縁層30、外部半導電層40、金属シース50、防食層60および鉄線鎧装70を備える。このうち、金属シース50の内側の層には絶縁油が含浸される。必要に応じて、金属シース50の上又は防食層60の上に、補強層80を設けても良い。本発明の最も特徴とするところは、絶縁層30の少なくとも一部を絶縁紙とプラスチック層とを有する複合紙で構成し、その複合紙を特定の複合紙としたことにある。以下の説明では、この絶縁層30の構成を中心に説明する。
【0032】
《絶縁層以外の構成》
導体10は、複数の銅素線を撚り合わせた、いわゆるキーストン導体が利用できる。内部半導電層20、外部半導電層40は、カーボンテープなどを巻回することで構成される。金属シース50は、鉛により形成される。防食層60は、ポリエチレン(PE)といった樹脂により形成される。補強層80は、金属シース50にかかるフープストレスを分担する層であり、ステンレス鋼といった高抗張力材料からなる帯状材を巻回して構成される。
【0033】
《絶縁層》
絶縁層30は、プラスチック層の片面又は両面に絶縁紙がラミネートされた複合テープ(複合紙)を螺旋状にギャップ巻きして構成される。例えば複合テープのプラスチック層にはポリプロピレン(PP)が、絶縁紙にはクラフト紙が用いられる。より具体的には、複合テープとして、一対のクラフト紙の間にPPを押出したPPLP(住友電気工業株式会社の登録商標)が利用できる。この複合テープは、例えば複合テープ全体の厚さに占めるPP層の厚さの割合(k値)が40〜90%である適宜なものを利用できる。
【0034】
この絶縁紙(クラフト紙)は、パルプ製造工程、絶縁紙製造工程を経て製造される。パルプ製造工程では、原料となる木材チップを蒸解し、得られたパルプを洗浄する。絶縁紙製造工程では、まず、パルプ製造工程で得られたパルプを必要に応じて洗浄した後、離解・叩解し、さらに所定の薬品類を添加して、パルプが水溶液に分散されたパルプ溶液(紙料)を生成する。続いて、得られた紙料を抄紙機に導入して製紙する。この紙料を抄紙機に導入した以降の絶縁紙製造工程は、通常、ワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパートを備える。ワイヤーパートでは、紙料を抄紙網上に均一に広げ、湿紙として取り出す。プレスパートでは、湿紙を圧縮して搾水する。ドライヤーパートでは、搾水後の湿紙を乾燥する。
【0035】
上記のパルプ製造工程及び絶縁紙製造工程の一方又は双方の洗浄過程において、処理対象を酸洗いして中和処理する。この酸洗いと中和処理を行った場合、中和処理は金属イオンを含有する中和剤を用いて行う。金属イオンを含有する中和剤の一例としてはMgイオンを含有する中和剤がある。以下、この金属イオンを含有する中和剤を用いた中和処理を経て得られる絶縁紙を増粘型絶縁紙という。また、前記中和処理を、金属イオンを含有する中和剤を用いることなく行った絶縁紙を非増粘型絶縁紙という。
【0036】
絶縁層30は、その少なくとも一部に複合テープを用いて構成すれば良い。例えば、(1)複合テープ単独で絶縁層30を構成したり、(2)紙テープと複合テープとを組み合わせて絶縁層30を構成したり、(3)樹脂テープと複合テープとを組み合わせて絶縁層30を構成したりすることが挙げられる。各種絶縁テープの組み合わせ方には、絶縁層30の厚さ方向の一部に異種の絶縁テープ巻回層を形成したり、異種の絶縁テープを交互に巻回することが含まれる。もちろん、前記紙テープも増粘型絶縁紙で構成しても良い。
【0037】
また、絶縁層30を構成する複合テープは、絶縁油の含浸の障害にならない限り、全て増粘型絶縁紙を用いたものとしてもよい。但し、絶縁層30の一部のみ増粘型絶縁紙を用いることが好ましい。絶縁層30への絶縁油の含浸は、絶縁油を所定温度に加熱し、所定圧力に加圧して、絶縁層30の外周側から内周側に向かって絶縁油を浸透させることで行う。その際、増粘型絶縁紙は、絶縁油の粘度が大きくなる傾向があるのに対し、非増粘型絶縁紙は、絶縁油の増粘がないか小さい傾向が見られる。そのため、絶縁層30の外周領域に非増粘型絶縁紙を用いた複合テープを配置すれば、絶縁油の含浸初期において、当該外周領域での絶縁油の増粘が抑制され、絶縁層30の内周側にまで円滑な絶縁油の含浸が可能になる。一方、導体近傍となる絶縁層30の内周領域は、増粘型絶縁紙を用いた複合テープで構成して当該内周領域での絶縁油を増粘させ、ケーブル運転時の導体の発熱に対して、絶縁油の移動を抑制する。例えば、絶縁層30うち、内周側、例えば絶縁層30の厚みの1/2程度の厚み分のみ増粘型絶縁紙を用いた複合紙で構成し、残部を非増粘型絶縁紙を用いた複合紙で構成することが挙げられる。この残部は、酸洗いと中和処理を行わず、水洗いのみを行った絶縁紙を用いた複合紙で構成しても良い。その他、外部半導電層40と金属シース50との間では絶縁油の移動が生じやすいため、絶縁層30の外周領域の表層部に増粘型絶縁紙を配しても良い。この構成によれば、絶縁層30の外周領域の表層部で絶縁油を増粘することで、外部半導電層40と金属シース50との間への絶縁油の移動を抑制することが期待される。また、増粘型絶縁紙を配する領域が絶縁層の表層部であれば、増粘型絶縁紙が絶縁油を絶縁層に含浸する際の障害にはなり難い。
【0038】
《絶縁油》
絶縁層30に含浸されるケーブル絶縁油として、60℃における動粘度が500mm2/s(500cst)以上、特に1000
cst以上の高粘度油や、60℃における動粘度が10mm2/s(10cst)以上500mm2/s(500cst)未満の中粘度油が利用できる。特に、二重結合を含む絶縁油が好適に利用できる。二重結合を含む絶縁油は、増粘型絶縁紙を絶縁層30に用いた場合、絶縁油を増粘する傾向がある。そのため、増粘型絶縁紙は二重結合を有する絶縁油との組み合わせにおいて、絶縁油の増粘に効果的である。
【0039】
《ケーブルの種類》
本発明のソリッドケーブルは、直流ケーブル、交流ケーブルのいずれにも利用できる。特に、誘電損失を考慮しなくても良い直流ケーブルとして利用することが好適である。パルプ製造工程及び絶縁紙製造工程において、酸洗い及び中和処理を行わない場合、処理対象から十分に不純物を除去することができないことがある。このような絶縁紙は、誘電正接(tanδ)特性が悪くなるため、誘電特性が重要視される交流ケーブルには好ましくない場合がある。これに対して、直流ケーブルでは、基本的に絶縁層30の抵抗率が管理できればよい。そのため、パルプ製造工程と絶縁紙製造工程での洗浄を水洗いのみとした絶縁紙を絶縁層の一部に用いても、特に支障なく直流ケーブルを構成することができる。
【0040】
〔ソリッドケーブルの接続部〕
次に、本発明ソリッドケーブルの中間接続部を図2に基づいて説明する。接続対象となるソリッドケーブルは、図1で示したケーブル100と同一構造である。接続される一対のソリッドケーブル100は、その端部において上記各構成部材が段剥ぎされている。両ケーブル100を接続する中間接続部200は、導体10と導体10を覆う絶縁層30とが段階的に露出された一対のケーブルコア100cの端部と、この露出された導体10同士を接続する導体接続部10Jと、上記ケーブルコア100cの端部及び導体接続部10Jの外周に構成される接続用絶縁層30Jとを具える。接続用絶縁層30Jにも絶縁油が含浸されている。図2では、内外の半導電層は省略している。
【0041】
導体接続部10Jは、各ケーブル1のケーブルコア100cの端部から露出された導体10同士を溶接したり、接続スリーブを用いて導体10同士を接続することで構成される。
【0042】
この導体接続部10J及び露出された導体10の外周には、ケーブル1と同様に、内側から順に、複合紙から構成される接続用絶縁層30J、鉛により形成される金属シース50J、ポリエチレンにより形成される防食層60J、ステンレス鋼帯などにより構成される補強層80J、鉄線などで構成される鉄線鎧装70Jが形成される。
【0043】
接続用絶縁層30Jは、ケーブルの絶縁層30と同様のテープ状の複合紙
(PPLP(登録商標))を螺旋状にギャップ巻きすると共に、ケーブルの絶縁層30を構成する複合紙の一部を巻き戻して構成される。接続用絶縁層30Jの形成にあたり巻き足す複合紙は、巻回前にケーブル絶縁油と同様の絶縁油を含浸している。また、この複合紙間には、ケーブルの絶縁油と同じ絶縁油が存在する。この複合紙間に存在する絶縁油は、中間接続部200を組み立てる際にかけ油として利用されたものである。
【0044】
そして、接続用絶縁層30Jを構成する複合紙の絶縁紙には、増粘型絶縁紙が用いられる。接続用絶縁層30Jにも増粘型絶縁紙を用いることで、接続用絶縁層30Jでの絶縁油を増粘させ、ケーブル運転時の導体10の発熱に対して、接続用絶縁層30Jにおける絶縁油の移動を抑制することができる。また、この中間接続部において、絶縁層30Jの表層部に増粘型絶縁紙を配しても良いことは、ケーブルの場合と同様である。
【実施例1】
【0045】
図1に示したソリッドケーブルと同等の構成を有し、複合紙に用いた絶縁紙の製造過程における洗浄条件の異なる複数種の試験ケーブルを作製し、そのケーブルに絶縁油を含浸する。絶縁油の含浸条件は、各試験ケーブルで共通である。そして、含浸後の試験ケーブルを解体して、絶縁層中に絶縁油の粘度変化を調べた。試験ケーブルの仕様は次の通りである。
【0046】
(絶縁層)
構成材料:PPLP(スーパーカレンダー加工によりk値が70%程度のもの)
PPLPの絶縁紙:パルプ製造工程と絶縁紙製造工程で、表1に示す洗浄を行って得られたクラフト紙
PPLPの厚さ:100μm
絶縁層の厚さ:16mm
(絶縁油)
中粘度のポリブテン油(日本石油化学株式会社製HV-15)
40℃における動粘度:約650mm2/s
60℃における動粘度:約200mm2/s
【0047】
PPLPを構成する絶縁紙の製造過程で行った洗浄条件と、試験ケーブルの含浸特性を表1に示す。表1において、「水」は水洗いのみ行ったもの、「酸+中和(Mg)」は酸洗い後、Mgイオンを含む中和剤で中和処理を行ったものを示す。また、含浸特性は、試験ケーブルを解体して、絶縁油の増粘が認められたものを「あり」、増粘の認められなかったものを「なし」としている。
【0048】
【表1】

【0049】
まず、試料No.10は、酸洗いも中和処理も行わず、水洗いのみ行ったため、Mgイオンに由来する物質が絶縁紙に過剰に含有されることがなく、絶縁油に増粘も認められなかった。この試料No.10の絶縁紙に含まれるMgイオン濃度は、300ppm以下であった。但し、パルプ製造工程及び絶縁紙製造工程で処理対象の十分な洗浄が行えていないためか、絶縁紙の誘電正接が大きく、誘電特性に劣っていた。
【0050】
これに対し、試料No.20は、パルプ製造工程と絶縁紙製造工程の双方で酸洗いと中和処理とを行っていおり、いずれの中和処理も、Mgイオンを含有する中和剤を用いて行っている。そのため、絶縁油に増粘が認められた。なお、この試料No.20の絶縁紙に含まれるMgイオン濃度は、300ppm超であった。
【0051】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、絶縁層を厚み方向に3つの領域に分け、内周領域を増粘型絶縁紙を用いた複合テープで構成し、中間領域を増粘型絶縁紙を用いた複合テープと非増粘型絶縁紙を用いた複合テープとを交互に巻回して構成し、外周領域を非増粘型絶縁紙を用いた複合テープで構成することが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のソリッドケーブルおよびその接続部は、海底ケーブル、特に直流海底ケーブルなどに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施形態に係るソリッドケーブルの横断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係るソリッドケーブルの接続部の縦断面図である。
【符号の説明】
【0054】
100 ソリッドケーブル
10 導体 20 内部半導電層 30 絶縁層 40 外部半導電層
50 金属シース 60 防食層 70 鉄線鎧装 80 補強層
200 中間接続部
100c ケーブルコア
10J 導体接続部 30J 接続用絶縁層 50J 金属シース 60J 防食層
70J 鉄線鎧装 80J 補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁油が含浸された絶縁層を備え、その絶縁層の少なくとも一部が、絶縁紙とプラスチック層とを有する複合紙を巻回して構成されたソリッドケーブルであって、
前記絶縁紙は、パルプ製造工程、絶縁紙製造工程を経て製造され、
このパルプ製造工程及び絶縁紙製造工程の少なくとも一方で、酸洗いと中和処理が行われ、
この中和処理は、金属イオンを含む中和剤を用いて行われたことを特徴とするソリッドケーブル。
【請求項2】
前記絶縁紙は、酸洗いと中和処理がパルプ製造工程で行われた絶縁紙であることを特徴とする請求項1に記載のソリッドケーブル。
【請求項3】
前記絶縁紙は、酸洗いと中和処理が絶縁紙製造工程で行われた絶縁紙であることを特徴とする請求項1に記載のソリッドケーブル。
【請求項4】
前記絶縁紙は、酸洗いと中和処理がパルプ製造工程と絶縁紙製造工程の双方で行われた絶縁紙であることを特徴とする請求項1に記載のソリッドケーブル。
【請求項5】
前記絶縁油にポリブデンが含まれることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のソリッドケーブル。
【請求項6】
前記絶縁紙における前記中和剤中の金属イオンと同じ金属イオンの濃度が300ppm超であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のソリッドケーブル。
【請求項7】
前記中和剤に含まれる金属イオンが周期律表2族および13族から選択される少なくとも一種の金属イオンであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のソリッドケーブル。
【請求項8】
前記中和剤に含まれる金属イオンがMgイオンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のソリッドケーブル。
【請求項9】
前記絶縁層の厚さが10mm以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のソリッドケーブル。
【請求項10】
前記絶縁層における内周側を構成する複合紙の絶縁紙は、前記中和処理が金属イオンを含む中和剤を用いて行われた絶縁紙であり、
前記絶縁層における外周側を構成する複合紙の絶縁紙は、前記中和処理が金属イオンを含む中和剤を用いることなく行われた絶縁紙であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のソリッドケーブル。
【請求項11】
導体と導体を覆う油浸絶縁層とが段階的に露出された一対のケーブルコアの端部と、この露出された導体同士を接続する導体接続部と、これらケーブルコアの端部及び導体接続部の外周に絶縁テープを巻回して構成される接続用絶縁層とを備えるソリッドケーブルの接続部であって、
前記絶縁テープは、絶縁紙とプラスチック層とを有する複合紙で、
前記絶縁紙は、パルプ製造工程、絶縁紙製造工程を経て製造され、
このパルプ製造工程及び絶縁紙製造工程の少なくとも一方で、酸洗いと中和処理が行われ、
この中和処理は、金属イオンを含む中和剤を用いて行われたことを特徴とするソリッドケーブルの接続部。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−103007(P2010−103007A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274583(P2008−274583)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】