説明

ソリッドケーブル

【課題】絶縁層中の絶縁油量をある程度低減して高い絶縁特性を有しつつ、隣接する複合紙間でのなじみを確保することができるソリッドケーブルを提供する。
【解決手段】絶縁油が含浸された絶縁層30を備え、その絶縁層30の少なくとも一部が、絶縁紙とプラスチック層とを有する複合紙を巻回して構成されたソリッドケーブルである。この複合紙には、カレンダ掛けされた複合紙Aと、この複合紙Aと異なる複合紙Bとが組み合わせて用いられる。複合紙Bは、複合紙Aとは異なる条件でカレンダ掛けされた複合紙b1及びカレンダ掛けされていない複合紙b2の少なくとも一方である。主として複合紙Bに絶縁層30中のクッション機能を持たせ、主として複合紙Aに電気ストレスの分担機能を持たせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソリッドケーブルに関するものである。特に、複合紙を用いて構成される絶縁層中の絶縁油の移動を抑制しつつ、隣接する複合紙の同士のなじみを確保して電気特性を改善できるソリッドケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
海底ケーブルなどの電力線路として、ソリッドケーブルが提案されている。例えば、導体の外周にクラフト紙を巻回して、中粘度や高粘度の絶縁油を含浸させた絶縁層を備えるソリッドケーブルがある。また、使用温度の更なる高温化、大容量化を図ることが可能なソリッドケーブルとして、ポリプロピレンとクラフト紙との複合紙を巻回して、中粘度の絶縁油を含浸させた絶縁層を備えるソリッドケーブルも提案されている(特許文献1)。
【0003】
この複合紙は、プラスチック層の構成樹脂を結合剤とし、1枚又は2枚の絶縁紙を押出機で押出して、プラスチック層と絶縁紙が一体化されたラミネート紙を作製し、その後ラミネート紙をカレンダ掛け又はスーパーカレンダ掛けして製造される(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】特開2000-113734号公報
【特許文献2】特開平10-199338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、カレンダ掛けまたはスーパーカレンダ掛けした複合紙(以下単にカレンダ複合紙という)のみで絶縁層を構成した場合、次のような問題があった。
【0006】
カレンダ複合紙は、電気ストレスを分担するプラスチック層部分を厚くし、油流経路となる絶縁紙部分を薄くできるため、絶縁層中の絶縁油量を少なくし、かつ絶縁層内での絶縁油の移動を抑制することで高い電気特性を持つ絶縁層を構成できる。その一方で、絶縁紙部分が薄いためクッション性に欠け、複合紙を巻回した場合に、絶縁層の内外周に隣接する複合紙の絶縁紙同士のなじみが不十分となることがある。このなじみが不十分な場合、ケーブルに曲げや捻れが加わると、絶縁紙間に空隙が生じたり、絶縁紙の座屈を発生させることがある。その結果、この空隙や座屈が電気的弱点となり、絶縁破壊の起点となることも予想される。特に、前記絶縁紙間のなじみの状態にばらつきがあると、上記不具合は一層顕著に現れる虞がある。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、絶縁層中の絶縁油量をある程度低減して高い絶縁特性を有しつつ、隣接する複合紙間でのなじみを確保することができるソリッドケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のソリッドケーブルは、絶縁油が含浸された絶縁層を備え、その絶縁層の少なくとも一部が、絶縁紙とプラスチック層とを有する複合紙を巻回して構成されたソリッドケーブルに係る。この複合紙には、カレンダ掛けされた複合紙Aと、この複合紙Aと異なる複合紙Bとが組み合わせて用いられる。そして、この複合紙Bは、複合紙Aとは異なる条件でカレンダ掛けされた複合紙b1及びカレンダ掛けされていない複合紙b2の少なくとも一方であることを特徴とする。以下の説明において、カレンダ掛けした複合紙をカレンダ複合紙、絶縁紙の密度が相対的に高くなる条件でカレンダ掛けしたカレンダ複合紙を高カレンダ複合紙、絶縁紙の密度が相対的に低くなる条件でカレンダ掛けしたカレンダ複合紙を低カレンダ複合紙、カレンダ掛けしない複合紙を非カレンダ複合紙ということがある。
【0009】
この構成によれば、絶縁層の構成材料として、複合紙Aと複合紙Bとを組み合わせて用いるため、クッション性の良い一方の複合紙に絶縁層中のクッション機能を持たせ、隣接する複合紙間のなじみを確保することができる。加えて、クッション性に劣るが絶縁特性に優れる他方の複合紙も用いているため、絶縁層のうち、複合紙Aと複合紙Bとを組み合わせて構成した領域を全体としてみれば、その領域における絶縁油量をある程度低減して高い絶縁特性を実現することができる。
【0010】
本発明のソリッドケーブルにおいて、前記絶縁層は、複合紙Aと複合紙b1とを交互に巻回して構成される領域を有することが好ましい。
【0011】
この構成によれば、高カレンダ複合紙と低カレンダ複合紙とが交互に巻回されて絶縁層の少なくとも一部を構成するため、低カレンダ複合紙の利用により、隣接する複合紙間のなじみを十分に確保することができる。また、高カレンダ複合紙も利用されるため、十分な絶縁特性も確保することができる。
【0012】
本発明のソリッドケーブルにおいて、前記絶縁層は、複合紙Aと複合紙b2とを交互に巻回して構成される領域を有することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、カレンダ複合紙と非カレンダ複合紙とが交互に巻回されて絶縁層の少なくとも一部を構成するため、この非カレンダ複合紙の利用により、隣接する複合紙間のなじみを十分に確保することができる。また、カレンダ複合紙も利用されるため、十分な絶縁特性も確保することができる。
【0014】
本発明のソリッドケーブルにおいて、複合紙Aと複合紙Bは、その厚さと幅が同じであることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、複合紙Aと複合紙Bのサイズを合わせることで、両複合紙間のなじみを一層確保しやすい。また、これら複合紙を巻回する際の巻き乱れや、巻回後の複合紙同士のずれなども抑制しやすい。
【0016】
本発明のソリッドケーブルにおいて、複合紙Aの厚みに占めるプラスチック層の厚みの比率が55%以上であり、複合紙Bの厚みに占めるプラスチック層の厚みの比率が40%以上であることが好ましい。
【0017】
複合紙Aの厚みに占めるプラスチック層の厚みの比率が55%以上であれば、電気ストレスを分担するプラスチック層部分を厚くし、油流経路となる絶縁紙部分を薄くできるため、絶縁層中の絶縁油量を低減して高い絶縁特性のケーブルとすることができる。また、複合紙Bの厚みに占めるプラスチック層の厚みの比率が40%以上であれば、複合紙Bに絶縁層中でのクッション機能を持たせやすく、隣接する複合紙間のなじみを確保しやすい。より好ましくは、複合紙Aの上記比率が60%以上、複合紙Bの上記比率が50%以上で、複合紙Aの上記比率>複合紙Bの上記比率とすればよい。特に好ましくは、複合紙A・複合紙B共に、上記比率を60%以上とする。
【0018】
本発明のソリッドケーブルにおいて、複合紙Aおよび複合紙b1の少なくとも一方は、スーパーカレンダ掛けした複合紙であることが好ましい。
【0019】
スーパーカレンダ掛けした複合紙は、複合紙における絶縁紙部分を特に薄くすることができ、複合紙の厚みに占めるプラスチック層の厚みの比率を高くすることができる。そのため、一層絶縁特性に優れたソリッドケーブルを構築できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のソリッドケーブルによれば、複合紙Aと複合紙Bとを用いて絶縁層を構成することで、複合紙間のなじみを確保しつつ、絶縁層中の絶縁油量を低減して、高い絶縁特性を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のソリッドケーブル100は、図1に示すように中心から順に、導体10、内部半導電層20、絶縁層30、外部半導電層40、金属シース50、防食層60および鉄線鎧装70を備える。このうち、金属シース50の内側の層には絶縁油が含浸される。必要に応じて、金属シース50の上又は防食層60の上に、補強層80を設けても良い。本発明の最も特徴とするところは、絶縁層30の少なくとも一部を異なる複合紙を組み合わせて構成したことにある。以下の説明では、この絶縁層30の構成を中心に説明する。
【0022】
《絶縁層以外の構成》
導体10は、複数の銅素線を撚り合わせた、いわゆるキーストン導体が利用できる。内部半導電層20、外部半導電層40は、カーボンテープなどを巻回することで構成される。金属シース50は、鉛により形成される。防食層60は、ポリエチレン(PE)といった樹脂により形成される。補強層80は、金属シース50にかかるフープストレスを分担する層であり、ステンレス鋼といった高抗張力材料からなる帯状材を巻回して構成される。
【0023】
《絶縁層》
絶縁層30は、プラスチック層の片面又は両面に絶縁紙がラミネートされた複合テープ(複合紙)を螺旋状にギャップ巻きして構成される。例えば複合テープのプラスチック層にはポリプロピレン(PP)が、絶縁紙にはクラフト紙が用いられる。より具体的には、複合テープとして一対のクラフト紙の間にPPを押出したPPLP(住友電気工業株式会社の登録商標)が利用できる。この複合テープは、例えば複合テープ全体の厚さに占めるPP層の厚さの割合(k値)が40〜90%である適宜なものを利用できる。
【0024】
ここで、絶縁層30を構成する複合テープには、カレンダ掛けされた複合紙Aと、この複合紙Aと異なる複合紙Bとを組み合わせて用いる。この複合紙Bは、複合紙Aとは異なる条件でカレンダ掛けされた複合紙b1及びカレンダ掛けされていない複合紙b2の少なくとも一方である。
【0025】
カレンダ複合紙A、b1は、非カレンダ複合紙b2をカレンダ掛けすることで得られる。カレンダ掛けは、金属ローラーと弾性ローラーの組み合わせを1ニップとして、複数のニップ間に処理対象紙を通すことにより、ニップ通過時の圧力と摩擦の作用で処理対象紙に平滑性や光沢を与え、高密度化する処理である。このカレンダ掛けには、スーパーカレンダとソフトカレンダとがある。
【0026】
スーパーカレンダは、多数のニップを縦に並べて、処理対象紙を順次各ニップ間に通過させることで行う。このスーパーカレンダは、複合紙全体の厚みを薄くできる。特に、複合紙を構成する絶縁紙を薄くして、絶縁紙の表面平滑性を高めると共に、高密度化することができる。そのため、スーパーカレンダは、特にk値の大きい複合紙を製造するのに好適である。
【0027】
ソフトカレンダは、スーパーカレンダよりも少ないニップ数でスーパーカレンダに近い平滑性を処理対象紙に与えるもので、ローラーを加熱して、処理対象紙をニップ間に通すことで行われる。このソフトカレンダは、ローラーからの熱の伝わった絶縁紙の表面を特に圧縮して平滑性を向上させ、かつ複合紙の厚みの減少を抑えて嵩高な複合紙を得ることができる。そのため、ソフトカレンダ掛けは、k値が比較的小さい複合紙やk値が中間値程度の複合紙を製造するのに好適である。
【0028】
また、カレンダ複合紙A、b1は、カレンダ掛けの条件を変えることで、様々なものが得られる。カレンダ掛けの条件には、カレンダ装置のニップ数、ローラー圧力や温度の他、カレンダ装置に導入される非カレンダ複合紙の絶縁紙やプラスチック層の厚み、絶縁紙の含水量などが含まれる。一般に、ニップ数が多いほど、またはローラー圧力が大きいほど、薄く高密度の絶縁紙を備えるカレンダ複合紙が得られる。
【0029】
一方、非カレンダ複合紙b2は、例えば、プラスチック層の構成樹脂を結合剤とし、1枚又は2枚の絶縁紙を押出機で押出して、プラスチック層と絶縁紙とを一体にラミネートすることで得られる。非カレンダ複合紙は、通常、比較的k値の小さい(65%以下程度)複合紙として好適である。用いる絶縁紙の厚みや形成するプラスチック層の厚みなどを変えることで、種々の特性の非カレンダ複合紙b2を得ることができる。
【0030】
これらカレンダ複合紙A、b1と非カレンダ複合紙b2の各々は、その厚さやk値について種々の組み合わせを選択できる。一般的には、非カレンダ複合紙b2をカレンダ掛けすれば、その複合紙の厚みは減少し、k値は高くなる。例えば、次のようなカレンダ複合紙Aとカレンダ複合紙b1との組み合わせ、或いはカレンダ複合紙Aと非カレンダ複合紙b2の組み合わせを得ることもできる。
【0031】
(A)厚みがカレンダ複合紙b1>カレンダ複合紙Aで、かつk値がカレンダ複合紙b1<カレンダ複合紙A
(B)厚みがカレンダ複合紙b1<カレンダ複合紙Aで、かつk値がカレンダ複合紙b1<カレンダ複合紙A
【0032】
(C)厚みが非カレンダ複合紙b2>カレンダ複合紙Aで、かつk値が非カレンダ複合紙b2>カレンダ複合紙A
(D)厚みが非カレンダ複合紙b2>カレンダ複合紙Aで、かつk値が非カレンダ複合紙b2<カレンダ複合紙A
(E)厚みが非カレンダ複合紙b2<カレンダ複合紙Aで、かつk値が非カレンダ複合紙b2>カレンダ複合紙A
(F)厚みが非カレンダ複合紙b2<カレンダ複合紙Aで、かつk値が非カレンダ複合紙b2<カレンダ複合紙A
【0033】
この複合紙Aと複合紙Bは、実質的に同一厚みで、実質的に同一幅であることが好ましい。幅と厚みが実質的に同一の非カレンダ複合紙とカレンダ複合紙をギャップ巻きすれば、ギャップの高さ(絶縁層30の径方向のギャップの厚さ)を一定にすることができ、巻回作業も容易に行える。そして、両複合紙間のなじみを一層確保しやすい。特に、複合紙Aと複合紙Bは、厚みが実質的に同一で、k値が複合紙A>複合紙Bであるものが好適である。
【0034】
「複合紙Aと複合紙b1」、「複合紙Aと複合紙b2」または「複合紙Aと複合紙b1と複合紙b2」の各組み合わせからなる絶縁層30中の領域の形成の仕方には、次の構成が挙げられる。
(1)複合紙Aと複合紙b1を交互に巻回、または複合紙Aと複合紙b2を交互に巻回する。
(2)複合紙Aと複合紙b1を複数枚毎に交互に巻回、または複合紙Aと複合紙b2を複数枚毎に交互に巻回する。
(3)絶縁層30の厚み方向の特定領域を複合紙Aで構成し、前記特定領域と異なる領域を複合紙B(複合紙b1、複合紙b2)で構成する。
(4)複合紙Aと複合紙b1と複合紙b2を任意の順に巻回する。
【0035】
また、絶縁層30は、その少なくとも一部に複合紙Aと複合紙Bを用いて構成すれば良く、複合紙A、B以外の非複合絶縁テープを組み合わせて構成しても良い。例えば、(1)複合紙A、Bだけで絶縁層30を構成したり、(2)紙テープと複合紙A、Bとを組み合わせて絶縁層30を構成したり、(3)樹脂テープと複合紙A、Bとを組み合わせて絶縁層30を構成したりすることが挙げられる。複合紙A、B以外の各種非複合絶縁テープの組み合わせ方には、絶縁層30の厚さ方向の一部に非複合絶縁テープの巻回層を形成したり、「複合紙Aまたは複合紙B」と「非複合絶縁テープ」とを交互に巻回することが含まれる。
【実施例1】
【0036】
まず、図1に記載のソリッドケーブルであって、カレンダ掛けした複合紙とカレンダ掛けしない複合紙を用いた絶縁層を有するソリッドケーブルを説明する。いずれの複合紙も、押出により、溶融ポリプロピレンを結合剤として、2枚のクラフト紙の間にポリプロピレン層を一体化したテープ状のPPLP(登録商標)である。用いた複合紙の主な特性を表1に示す。表1の複合紙1〜3は、カレンダ装置のニップ数とローラー圧力を変えたスーパーカレンダ掛けにより得られたカレンダ複合紙である。また、「厚さ」は、複合紙1〜3ではカレンダ掛けする前の複合紙の厚さ、複合紙4ではその厚さである。複合紙1〜3のカレンダ掛けした後の厚さは、いずれも100μm、全ての複合紙1〜4の幅は同じである。
【0037】
【表1】

【0038】
以上の4種類の複合紙を用いて絶縁層を構成する。まず、導体上に、複合紙1と複合紙2を交互に巻回して内周領域を形成する。次に、内周領域の上に、複合紙2と複合紙3を交互に巻回して中間領域を形成する。最後に、中間領域の上に、複合紙3と複合紙4を交互に巻回して外周領域を形成する。この絶縁層において、内周領域の複合紙1と複合紙2、中間領域の複合紙2と複合紙3の各々が複合紙Aと複合紙b1の関係となり、外周領域の複合紙3と複合紙4が複合紙Aと複合紙b2の関係となる。各複合紙は、k値が小さいほどクッション性が高く、k値が大きいほど絶縁特性に優れる。絶縁層の総厚みは16mmである。
【0039】
この絶縁層に絶縁油を含浸する。その絶縁油には、中粘度のポリブテン油(日本石油化学株式会社製HV-15)を用いた。この絶縁油の40℃における動粘度は約650mm2/s、60℃における動粘度は約200mm2/sである。
【0040】
このような構成のソリッドケーブルによれば、内周領域、中間領域、外周領域の各々において、クッション性の良い複合紙と、クッション性に劣るが絶縁特性に優れる複合紙とが、ケーブルの径方向に隣接して配置されることになる。そのため、隣接する複合紙のクラフト紙同士のなじみが良く、ケーブルに曲げや捻れが加わった場合に隣接する複合紙のクラフト紙間でずれや空隙が生じることを抑制できる。特に、全ての複合紙1〜4はサイズが実質的に同一であるため、巻回作業が容易で、かつ巻回後のずれが生じ難い。また、絶縁層の多くにカレンダ複合紙を用いているため、全てを非カレンダ複合紙で構成した場合に比べて、絶縁層中の絶縁油量を少なくできる。それにより、ケーブル運転時の温度変化に伴って、絶縁層中で絶縁油が移動することも抑制しやすい。さらに、絶縁層の一部に非カレンダ複合紙を用いているため、全てをカレンダ複合紙で構成した場合に比べて経済的である。そして、内周領域、中間領域、外周領域は、外側の領域ほど平均的に見て複合紙のk値が低いため、油流経路となるクラフト紙部分が広く、ケーブル製造時に絶縁油の含浸が行いやすい。
【実施例2】
【0041】
次に、実施例1の複合紙1と複合紙3を用いたソリッドケーブルを説明する。本例のケーブルは、絶縁層の構成が実施例1と異なるだけであり、他の構成は実施例1と共通である。
【0042】
本例では、導体の上に複合紙1と複合紙3を交互に巻回して絶縁層を構成する。この場合、複合紙1が複合紙A、複合紙3が複合紙b1に相当する。
【0043】
本例のケーブルによれば、絶縁層は全てカレンダ複合紙で構成されるが、絶縁特性に優れる高カレンダ複合紙とクッション性に優れる低カレンダ複合紙とがケーブルの径方向に隣接して配置されることになる。そのため、隣接する複合紙のクラフト紙同士のなじみが良く、ケーブルに曲げや捻れが加わった場合に隣接する複合紙のクラフト紙間でずれや空隙が生じることを抑制できる。また、絶縁層の全てにカレンダ複合紙を用いているため、非カレンダ複合紙を用いた場合に比べて、絶縁層中の絶縁油量を少なくできる。それにより、ケーブル運転時の温度変化に伴って、絶縁層中で絶縁油が移動することも抑制しやすい。
【実施例3】
【0044】
次に、実施例1の複合紙1と複合紙4を用いたソリッドケーブルを説明する。本例のケーブルは、絶縁層の構成が実施例1と異なるだけであり、他の構成は実施例1と共通である。
【0045】
本例では、導体の上に複合紙1と複合紙4を交互に巻回して絶縁層を構成する。この場合、複合紙1が複合紙A、複合紙4が複合紙b2に相当する。
【0046】
本例のケーブルによれば、絶縁層はカレンダ複合紙と非カレンダ複合紙とを組み合わせて構成されるため、絶縁特性に優れるカレンダ複合紙とクッション性に優れる非カレンダ複合紙とがケーブルの径方向に隣接して配置されることになる。そのため、隣接する複合紙のクラフト紙同士のなじみが良く、ケーブルに曲げや捻れが加わった場合に隣接する複合紙のクラフト紙間でずれや空隙が生じることを抑制できる。また、絶縁層の約半分にカレンダ複合紙を用いているため、全てを非カレンダ複合紙で構成した場合に比べて、絶縁層中の絶縁油量を少なくできる。それにより、ケーブル運転時の温度変化に伴って、絶縁層中で絶縁油が移動することも抑制しやすい。さらに、絶縁層の約半分に非カレンダ複合紙を用いているため、全てをカレンダ複合紙で構成した場合に比べて経済的である。
【実施例4】
【0047】
次に、絶縁層の一部に、カレンダ複合紙と非カレンダ複合紙を交互に巻回した領域を有するソリッドケーブルを説明する。
【0048】
本例のケーブルでは、絶縁層の導体近傍の内周領域をカレンダ複合紙と非カレンダ複合紙を交互に巻回して構成し、残部の外周領域は非カレンダ複合紙を巻回して構成している。用いたカレンダ複合紙は表1の複合紙1、非カレンダ複合紙は複合紙4である。内周領域の厚さは絶縁層全体の厚さの1/3とした。その他の構成は、実施例1と共通である。
【0049】
絶縁層における導体近傍は、絶縁層の内側であるため、外周側から強く押えられる。そのため、この内周領域にクッション性に優れた非カレンダ複合紙を混在すれば、全てをカレンダ複合紙とした場合に比べて、油流経路となるクラフト紙部分の過度の圧縮が抑制される。また、ケーブル製造時に絶縁油の含浸は絶縁層の外周側から行われるため、内周領域は絶縁油が含浸しにくい領域である。そのため、この内周領域に比較的クラフト紙部分の厚みが大きい非カレンダ複合紙を混在させれば、絶縁油の含浸が円滑に行える。さらに、導体近傍の絶縁層は、作用する電気ストレスも大きいため、その内周領域において、隣接する複合紙同士がずれたり、その間に隙間ができたりすること等が抑制できれば、絶縁特性上も好ましい。そして、外周領域をk値の低い非カレンダ複合紙で構成しているため、絶縁層の外周領域をカレンダ複合紙のみで構成する場合に比べて、絶縁油の含浸がより円滑に行えると共に、低コストのソリッドケーブルを構築できる。
【実施例5】
【0050】
次に、実施例4とは別の構成で、絶縁層の一部に、カレンダ複合紙と非カレンダ複合紙を交互に巻回した領域を有するソリッドケーブルを説明する。
【0051】
本例のケーブルでは、絶縁層の導体近傍の内周領域は非カレンダ複合紙のみを巻回して構成し、残部の外周領域はカレンダ複合紙と非カレンダ複合紙を交互に巻回して構成している。用いたカレンダ複合紙は表1の複合紙1、非カレンダ複合紙は複合紙4である。内周領域の厚さは絶縁層全体の厚さの2/3とした。その他の構成は、実施例1と共通である。
【0052】
つまり、本例は、内周領域と外周領域を構成する複合紙が実施例4と逆転している。本例の場合、外周領域にカレンダ複合紙が混在しているため、実施例4に比べれば、絶縁油を含浸し難い傾向がある。しかし、一旦、内周領域にまで絶縁油を含浸させれば、ケーブル運転時に絶縁油が膨張して絶縁層の外周側に移動しようとしても、外周領域がいわばバリアの役割を果たし、絶縁油の移動を抑制することができる。もちろん、この外周領域は、カレンダ複合紙と非カレンダ複合紙の交互巻きにより構成されるため、隣接する複合紙同士がずれたり、その間に隙間ができたりすること等が抑制できる。一方、絶縁層の内周側は、クッション性に優れる非カレンダ複合紙のみで構成されるため、内周領域を構成する複合紙間に過度の面圧が作用することを抑制できる。
【0053】
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、実施例4において、内周領域をカレンダ複合紙のみで構成したり、実施例5において、外周領域をカレンダ複合紙のみで構成してもよい。その他、上記の各実施例では各複合紙の幅と厚みが同じであったが、これらが異なる複合紙としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のソリッドケーブルは、海底ケーブル、特に直流海底ケーブルなどに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態に係るソリッドケーブルの横断面図である。
【符号の説明】
【0056】
100 ソリッドケーブル
10 導体 20 内部半導電層 30 絶縁層 40 外部半導電層 50 金属シース
60 防食層 70 鉄線鎧装 80 補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁油が含浸された絶縁層を備え、その絶縁層の少なくとも一部が、絶縁紙とプラスチック層とを有する複合紙を巻回して構成されたソリッドケーブルであって、
前記複合紙には、カレンダ掛けされた複合紙Aと、この複合紙Aと異なる複合紙Bとが組み合わせて用いられ、
この複合紙Bは、複合紙Aとは異なる条件でカレンダ掛けされた複合紙b1及びカレンダ掛けされていない複合紙b2の少なくとも一方であることを特徴とするソリッドケーブル。
【請求項2】
前記絶縁層は、複合紙Aと複合紙b1とを交互に巻回して構成される領域を有することを特徴とする請求項1に記載のソリッドケーブル。
【請求項3】
前記絶縁層は、複合紙Aと複合紙b2とを交互に巻回して構成される領域を有することを特徴とする請求項1または2に記載のソリッドケーブル。
【請求項4】
前記複合紙Aと複合紙Bは、その厚さと幅が実質的に同じであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のソリッドケーブル。
【請求項5】
前記複合紙Aの厚みに占めるプラスチック層の厚みの比率が55%以上であり、
前記複合紙Bの厚みに占めるプラスチック層の厚みの比率が40%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに1項記載のソリッドケーブル。
【請求項6】
前記複合紙Aおよび複合紙b1の少なくとも一方は、スーパーカレンダ掛けした複合紙であることを特徴とする請求項1、2、4、5のいずれかに1項に記載のソリッドケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2010−103008(P2010−103008A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274590(P2008−274590)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)