説明

ゾーン変更システム

【課題】可変移相器の損失がなく、かつ、アンテナを機械的に傾ける際に生じやすいアンテナの倒壊を防止することができるゾーン変更システムを提供することを課題とする。
【解決手段】第一アンテナと、第一アンテナを機械的に傾け、第一アンテナの垂直面内の指向性を変化させることが可能な第一指向性変更手段と、を有する基地局と、基地局の第一指向性変更手段を制御し、第一アンテナの垂直面内の指向性を変化させることにより基地局のゾーンを変更する制御装置と、気象情報に基づいて、第一アンテナの垂直面内の指向性を変化させるか否かを判定する判定手段を有する気象観測手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動通信において基地局が形成するゾーンの大きさを制御するゾーン変更システムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動通信において、1つの基地局がカバーする範囲即ち1つの基地局と移動局との通信範囲をゾーン或いはセルと呼んでいる。このゾーンは、基地局のアンテナの指向性等により定まる。
【0003】
図1は、基地局が形成するゾーンを説明するための図である。図1において、1は基地局、2は電力分配器、3はアンテナ、4及び5はゾーンである。またR1は基地局1からゾーン5のエリア端までの距離、R2は基地局1からゾーン4のエリア端までの距離を表す。アンテナ3には、送信機から、電力分配器2を経て送信電力が供給されている。
【0004】
この基地局1のゾーン4、5は、アンテナ3の垂直面内の指向性を示す角度α1、α2で定まる。指向性が角度α1のときは、ゾーン5が基地局1の通信範囲、指向性が角度α2のときは、ゾーン4が基地局1の通信範囲である。
【0005】
基地局1がゾーン4を形成する場合、基地局1のアンテナ3は基地局1からR2の距離をゾーン端とするように垂直面内の指向性を示す角度α2を設定する。次に、基地局1が形成するゾーンをゾーン5に示す範囲に狭める必要がある場合には、基地局1のアンテナ3の垂直面内の指向性を角度α1に変化させて、基地局1からR1の距離がゾーン端となるようにする。
【0006】
以上説明したような、基地局のアンテナの垂直面内の指向性を変化させるビームチルトシステムが必要である理由は、他の場所に基地局の増設を行った場合など該基地局が形成するゾーンの環境が変化した場合に、同一の周波数を使用する基地局同士の電波の干渉を防止し、周波数を有効に利用するためである。
【0007】
図2は、従来のアンテナの垂直面内の指向性を形成する構成を示すブロック図である。図2において、3−1はアレーアンテナ、6は基地局に設置した送受信機を接続する給電点、7は電力分配器、8、9、10及び11は電力分配器7とアンテナ3−1を接続する給電線、12、13、14及び15はアレーアンテナ3−1の給電点、16はアレーアンテナ3−1の内部にアレー状に配置されたアンテナ素子であり、17及び18はアンテナの垂直面内の指向性を表す。また、φは給電点6に給電される送信信号の位相、φ−φはアレーアンテナ3−1の給電点12に給電される送信信号の位相、φ−φはアレーアンテナ3−1の給電点13に給電される送信信号の位相、φ−φはアレーアンテナ3−1の給電点14に給電される送信信号の位相、φ−φはアレーアンテナ3−1の給電点15に給電される送信信号の位相、θはアンテナ指向性17のアンテナ水平方向からの角度、θはアンテナ指向性18のアンテナ水平方向からの角度を表す。
【0008】
図2の給電点6に給電された送信信号は、電力分配器7により分配される。この分配された送信信号はそれぞれ給電線8、9、10及び11を介してアレーアンテナ3−1の給電点12、13、14及び15に給電される。このとき給電線8、9、10及び11による遅延量を異ならせることにより、給電点12、13、14及び15に給電される送信信号は給電点6に給電された送信信号の位相φに対してそれぞれφ−φ、φ−φ、φ−φ、φ−φだけ位相が変化して給電されている。アレーアンテナ3−1内部で給電点12、13、14及び15から給電された送信信号は、アレーアンテナ3−1内部にアレー状に配置されたアンテナ素子16から放射される。アレーアンテナの指向性は、アレーアンテナを構成しているアンテナ素子に給電されている送信信号の位相によって定まる。この位相差を変化させることによりアンテナの垂直面内の指向性をアンテナ指向性17や18に示すように変化させることができる。このように、アンテナ素子に給電される送信信号の位相を一定量ずつずらして、アンテナの指向性を変化させる方法は電気チルトと呼ばれる。
【0009】
可変移相器を用いて電気チルトを実現する従来技術として、特許文献1が知られている。特許文献1のゾーン変更システムは、可変移相器を用いて給電線8、9、10及び11による遅延量を変化させ、給電点12、13、14及び15に給電される送信信号の位相量を変化させることより、アンテナ3−1の垂直面内の指向性を変化させている。特許文献1のゾーン変更システムは、このような構成により、給電線の交換等をせずに、アンテナの垂直面内の指向性を変化させ、ゾーンの大きさを変更することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許2993551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1の従来技術はアンテナと可変移相器とを接続するため、損失が生じる。この損失を考慮すると結果として、アンテナの利得が低下するという問題がある。特に、今後の移動通信システムにおいては、より高い周波数帯でのサービスの実現が検討されている。一般に、高い周波数帯では、送受信信号が可変移相器を通過するときの損失が増大する。このため、高い周波数帯でのサービスが実現した場合、可変移相器に接続した場合に生じる損失が、さらに増大し、結果として、基地局のアンテナの利得は大幅に低下する。そして、基地局のアンテナの利得が低下すると、通信範囲が狭くなる。
【0012】
このような問題を解決するために、指向性を容易に変更することができ、かつ、可変移相器を用いずに、なるべく損失の少ないアンテナが求められる。そこで、電気チルトではなく、アンテナの取り付け角度を機械的に傾けることでアンテナの指向性を変化させる方法(以下、「機械チルト」という)が考えられる。
【0013】
しかし、機械チルトの場合、気象条件によっては、アンテナが倒壊する虞がある。例えば、強風時に、アンテナの取り付け角度を機械的に傾けると、アンテナの受ける風圧が急激に変化し、アンテナが倒壊する虞がある。
【0014】
本発明は、可変移相器の損失がなく、かつ、アンテナを機械的に傾ける際に生じやすいアンテナの倒壊を防止することができるゾーン変更システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明に係るゾーン変更システムは、第一アンテナと、第一アンテナを機械的に傾け、第一アンテナの垂直面内の指向性を変化させることが可能な第一指向性変更手段と、を有する基地局と、基地局の第一指向性変更手段を制御し、第一アンテナの垂直面内の指向性を変化させることにより基地局のゾーンを変更する制御装置と、気象情報に基づいて、第一アンテナの垂直面内の指向性を変化させるか否かを判定する判定手段を有する気象観測手段と、を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、可変移相器の損失がなく、かつ、アンテナを機械的に傾ける際に生じやすいアンテナの倒壊を防止するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】基地局が形成するゾーンを説明するための図。
【図2】従来のアンテナの垂直面内の指向性を形成する構成を示すブロック図。
【図3】ゾーン変更システム100の構成例を示すブロック図。
【図4】基地局110がゾーン4を形成する場合を示す図。
【図5】基地局110がゾーン5を形成する場合を示す図。
【図6】ゾーン変更システム100の機能構成例を示すブロック図。
【図7】ゾーン変更システム200の機能構成例を示すブロック図。
【図8】複数の基地局のゾーンを一括して制御することを説明するための図。
【図9】ゾーン変更システム300の構成例を示すブロック図。
【図10】ゾーン変更システム300の機能構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
<ゾーン変更システム100>
図3を用いて実施例1に係るゾーン変更システム100を説明する。ゾーン変更システム100は、基地局110と、制御装置120と、気象観測手段130と、を備える。さらに、基地局110は、第一アンテナ111と第一指向性変更手段116を有する。
【0020】
なお、ゾーン4及び5は、基地局110によって形成される。距離R1は基地局110からゾーン5のエリア端までの距離を、距離R2は基地局110からゾーン4のエリア端までの距離を表す。
【0021】
図3において、基地局110が形成するゾーンをゾーン4からゾーン5に変更するときは、制御装置120からの制御により、第一指向性変更手段116を動作させ第一アンテナ111の垂直面内の指向性を変化させる。以下、図4〜図6を用いて詳細を説明する。
【0022】
<基地局110>
基地局110は、第一アンテナ111と、第一アンテナ111を機械的に傾け、第一アンテナ111の垂直面内の指向性を変化させることが可能な第一指向性変更手段116と、を有する。さらに、実施例1では基地局110に、制御装置120、気象観測手段130が設置され(図4及び図5参照)、第一指向性変更手段116の第一指向性変更回路116aと制御装置120と気象観測手段130の判定手段131とは、基地局110内部に設けられた通信網150で接続されている(図6参照、但し図6はゾーン変更システム100の機能構成例を示すブロック図であり、設置場所を示すものではない)。このような構成により、制御装置120を第一アンテナ111とは、別の場所、例えば屋内に設置することができ、利用者は、天候や第一アンテナ111の設置場所に関わらず容易にゾーンを変化させることができる。
【0023】
(第一アンテナ111)
第一アンテナ111は、例えばアレーアンテナ等により構成する。このとき、可変移相器を設けない点が特許文献1とは異なる。第一アンテナ111には、垂直面内において給電線等により指向性を持たせておく。但し、第一アンテナ111の垂直面内の指向性を変化させる場合には、給電線等を交換する必要はなく、後述する第一指向性変更手段116によって、容易にその指向性を変化させることができる。
【0024】
(第一指向性変更手段116)
例えば、第一指向性変更手段116は、第一指向性変更回路116aと、モータ116bと、第一アンテナ111の下部の水平方向支持柱116cと、第一アンテナ111の上部の水平方向支持柱116dと、を含む。
【0025】
水平方向支持柱116cの一端は、垂直に設置された支持柱114に固定され、他端は第一アンテナ111の下部を図4及び図5中の矢印xの方向に回動自在に支持する。水平方向支持柱116dは、支持柱114に設けられた孔を貫通しており、水平方向にスライドする。さらに、水平方向支持柱116dの一端は第一アンテナ111の上部を支持する。なお、水平方向支持柱116dが水平方向にスライドする際に、その一端は、第一アンテナ111をその長手方向にスライドする。水平方向支持柱116dは、側面または底面がモータ116bと接しており、モータ116bが回転することで、水平方向にスライドする。水平方向支持柱116dがスライドすることで、図4及び図5に示すように、第一アンテナ111の傾きが変化し、アンテナの垂直面内の指向性が変化し、ゾーンを変更することができる。
【0026】
第一指向性変更回路116aは、後述する制御装置120からモータ116bの回転数と回転方向(以下「回転数等」という)を受け取ると、その回転数等に応じた電気パルスをモータ116bに出力し、モータ116bはその電気パルスに応じて回転する。
【0027】
<制御装置120>
制御装置120は、基地局110の第一指向性変更手段116を制御し、第一アンテナ111の垂直面内の指向性を変化させることにより基地局110のゾーンを変更する。つまり、第一アンテナ111の取り付け角度をどの程度機械的に傾けるかは、制御装置120で制御する。以下、制御例を示す。
【0028】
制御装置120は、第一アンテナ111の取り付け角度を記憶しておく。また、取り付け角度を変更する際に必要となるモータ116bの回転数等を、制御装置120は予め記憶しておく。例えば、取り付け角度を1度変更する場合に必要となる回転数等を記憶しておく。
【0029】
制御装置120へ第一アンテナ111の指向性を入力すると、制御装置120は、変更前(入力時点)の第一アンテナ111の取り付け角度に基づき、入力された指向性に対応する取り付け角度に変更する場合に必要となるモータ116bの回転数等を選択または計算して、第一指向性変更回路116aに出力する。
【0030】
前述の通り、モータ116bの回転数等を受け取った第一指向性変更回路116aは、その回転数等に応じた電気パルスをモータ116bに出力し、モータ116bはその電気パルスに応じて回転する。このような構成により、所望の指向性に変化させることができる。なお、制御装置120は、回転数等を第一指向性変更回路116aに出力する際に、後述する判定手段131に対して、処理を開始させる制御信号を出力する。モータ116bの回転数等を制御信号として利用してもよい。
【0031】
制御装置120は、モータ116bの動作を監視して、指向性の変更後の第一アンテナ111の取り付け角度を記憶しておく。
【0032】
<気象観測手段130>
気象観測手段130は、判定手段131と、気象測定手段132を備える。
【0033】
(気象測定手段132)
気象測定手段132は、第一アンテナ111の近傍に設けられ、気象情報を取得する。例えば、気象情報として風速を用いる場合には、気象測定手段132は風速計であり、常時風速を測定し、判定手段131に出力する。
【0034】
(判定手段131)
判定手段131は、気象情報に基づいて、第一アンテナ111の垂直面内の指向性を変化させるか否かを判定する。
【0035】
例えば、判定手段131は、制御装置120から処理を開始させる制御信号を受け取ると、直前または直後に気象測定手段132から受け取った風速が、予め実験等により定めておいた所定の風速を越えるか否かを判定し、所定の風速を超えた場合には、第一指向性変更手段116に対し、第一アンテナ111の垂直面内の指向性を変化させる処理を停止させるための停止信号を出力する。
【0036】
なお、制御装置120は、モータ116bの動作を監視して、指向性を変化させる処理を停止させたときの第一アンテナ111の取り付け角度を記憶しておく。その場合、制御装置120は、図示しないディスプレイやプリンタ等(以下「出力部」という)に所定のアラーム(例えば、強風のため、チルト変更ができなかった旨のメッセージや、停止時の風速、停止時の第一アンテナ111の取り付け角度、停止時において基地局110により形成されるゾーンのエリア端までの距離(以下、単に「エリア端までの距離」)等)を表示する。このような構成により、利用者は、状況を理解することができ、必要に応じて、再度、第一アンテナ111の指向性の変更を要求することができる。
【0037】
このように気象観測手段130を設けることにより、強風時にアンテナを機械的に傾ける際に生じやすいアンテナの倒壊を防止することができる。
【0038】
なお、気象測定手段132を設けずに、例えば、インターネット等の通信回線を介して取得した気象情報(例えば、各地の風速情報等)を判定手段131に入力してもよい。この場合には、図6中、破線で示すように気象観測手段130を基地局110の外部に設置し、インターネットや専用回線からなる通信回線153を介して、基地局110内に設置された第一指向性変更手段116に対して、停止信号を送信する構成としてもよい。但し、気象測定手段132を第一アンテナ111の近傍に設けることによって、第一アンテナ111が受ける風圧等をリアルタイム、かつ、正確に測定することができる。また、気象観測手段130は、気象測定手段132を第一アンテナ111の近傍に配置し、判定手段131を別の場所に設ける構成としてもよく、このような構成であっても同様の効果を得ることができる。
【0039】
<効果>
このような構成とすることにより、可変移相器の損失がなく、かつ、アンテナを機械的に傾ける際に生じやすい倒壊を防止することができる。
【0040】
また、第一指向性変更手段116及び制御装置120を用いて、機械チルトを実現することで、指向性を容易かつ速やかに変化させることができ、基地局110が形成するゾーンの大きさを容易かつ速やかに変更できる。
【0041】
また、機械チルトの場合、倒壊を防ぐために、人手により設置されている場所において気象条件を監視する方法も考えられるが、その場合、監視するために人的コストがかかり、さらに、遠隔地から制御することができないという問題がある。ゾーン変更システム100においては、気象観測手段130を設けることで、監視するための人的コストを省くことができ、さらに、人手による誤った判断を防ぐことができる。所定の風速を超えていない場合にはサービスを継続したままアンテナの垂直面内の指向性を、すなわちゾーンの大きさを変更することができる。また、制御装置120は必ずしも、第一アンテナ111の近傍に設ける必要はないので、基地局110の外部から通信回線153を介して、基地局110の第一指向性変更手段116を制御してもよい。このような構成とすることで、遠隔地から随時速やかな対応を行うことができる。
【0042】
[変形例]
第一アンテナ111は、機械的に傾けることで、その垂直面内の指向性を変化させるものであればよく、モノポールアンテナやダイポールアンテナ等により構成してもよい。
【0043】
気象条件としては、強風以外にも、アンテナ倒壊の原因となる豪雨や豪雪等が考えられ、これらの条件を測定できる雨雪量計や、風速計と雨雪量計の組合せを気象測定手段132として用いてもよい。
【0044】
気象測定手段132で取得した気象情報を、移動局の利用者に通知するサービスのために用いてもよい。
【0045】
第一指向性変更手段116は、第一アンテナ111を機械的に傾け、その垂直面内の指向性を変化させることが可能であればよく、実施例1以外の方法を用いて実現してもよい。
【0046】
実施例1では、制御装置120は、回転数等を第一指向性変更回路116aに出力する際に、判定手段131に対して、処理を開始させる制御信号を出力し、判定手段131が、制御信号を受け取ると、判定処理を行い、所定の風速を超えた場合には、第一指向性変更手段116に対し、第一アンテナ111の垂直面内の指向性を変化させる処理を停止させるための停止信号を出力する構成としているが、判定手段131が制御装置120に対し判定結果を出力し、制御装置120が所定の風速を超えたことを表す判定結果を受け取った場合に、第一指向性変更手段116に対し、制御装置120が停止信号を出力する構成としてもよい。さらに、以下のような構成であってもよい。制御装置120は、回転数等を第一指向性変更回路116aに出力する前に、判定手段131に対して、処理を開始させる制御信号を出力する。判定手段131は、制御信号を受け取ると、判定処理を行い、所定の風速以下の場合には、制御装置120に対し、第一アンテナ111の垂直面内の指向性を変化させる処理を開始させるための開始信号を出力し、制御装置120は開始信号を受け取ってから、回転数等を第一指向性変更回路116aに出力する。このような構成であっても実施例1と同様の効果を奏する。
【0047】
また、実施例1では図4及び図5に示すように基地局110の内部に、制御装置120、気象観測手段130を設置しているが、基地局110の外部に制御装置120、気象観測手段130を設置し、通信網150と通信回線153を介して、第一指向性変更手段116の第一指向性変更回路116aと制御装置120と気象観測手段130の判定手段131とを接続してもよい。さらに、判定手段131を含む気象観測手段130を制御装置120内に設けてもよい。但し、気象測定手段132は、上述の効果を得るために、第一アンテナ111の近傍に設ける。
【0048】
実施例1では、制御装置120への入力を第一アンテナ111の指向性としているが、エリア端までの距離を入力としてもよい。制御装置120は、各取り付け角度におけるエリア端までの距離を予め記憶しておく。制御装置120へエリア端までの距離を入力すると、対応する(所望の)取り付け角度を選択し、変更前(入力時点)の第一アンテナ111の取り付け角度に基づき、所望の取り付け角度に変更する場合に必要となるモータ116bの回転数等を選択または計算して、第一指向性変更回路116aに出力する。なお、エリア端までの距離は、制御装置120が第一アンテナ111の取り付け位置、方向から計算により求めてもよい。
【0049】
実施例1では、気象測定手段132は常時風速を測定しているが、判定手段131が、制御装置120から処理を開始させる制御信号を受け取ったときに、風速を測定する構成としてもよく、効率的な制御が可能となる。
【0050】
なお、判定手段131が、第一指向性変更手段116に対し、第一アンテナ111の垂直面内の指向性を変化させる処理を停止させるための停止信号を出力した場合の処理を以下のように変更してもよい。制御装置120は、モータ116bの動作を監視して、指向性を変化させる処理を停止させたときの第一アンテナ111の取り付け角度を記憶しておく。さらに、制御装置120は、所定時間経過後に、停止時の取り付け角度から所望の取り付け角度に変更する場合に必要となるモータ116bの回転数等を選択または計算して、第一指向性変更回路116aに出力する。このとき、制御装置120は、判定手段131に対して、処理を開始させる制御信号を出力する。実施例1で説明したように、判定手段131は、所定の風速を超えた場合には、第一指向性変更手段116に対し、第一アンテナ111の垂直面内の指向性を変化させる処理を停止させるための停止信号を出力する。第一アンテナ111の指向性が所望の指向性となるまで、上記処理を繰り返し、指向性を変化させる処理が完了したときに、制御装置120の出力部にゾーン変更が完了した旨のメッセージを表示する。このような構成により、利用者は、再度の変更を要求することなくゾーン変更することができる。
【実施例2】
【0051】
<ゾーン変更システム200>
図7を用いて実施例2に係るゾーン変更システム200を説明する。なお、実施例1と異なる部分についてのみ説明する。ゾーン変更システム200は、N個の基地局210−n(但し、Nは1以上の整数であり、n=1,2,…,N)と、各基地局に対応するN個の制御装置220−nと、各基地局に対応するN個の気象観測手段230−nと、一括制御装置240と、を備える。各基地局210−n、各制御装置220−n及び各気象観測手段230−nは、それぞれ実施例1の基地局110、制御装置120及び気象観測手段130と同様の構成であり、実施例2では各基地局210−nに、それぞれ各制御装置220−n、各気象観測手段230−nが設置され、各基地局210−nの第一指向性変更手段116と各制御装置220−nと各気象観測手段230−nの判定手段131は、各基地局210−n内部に設けられた通信網150で接続され、各基地局210−nと一括制御装置240は通信回線153で接続される。
【0052】
<一括制御装置240>
一括制御装置240は、制御装置220−nを介して各基地局210−nの第一指向性変更手段116を一括して制御する。一括制御装置240へ各基地局210−nの有する第一アンテナ111の指向性を入力すると、一括制御装置240は、通信回線153を介して、第一アンテナ111の指向性を含むチルト変更要求信号を各制御装置220−nに送信する。チルト変更要求信号を受信した各制御装置220−nは実施例1と同様の処理を行う。
【0053】
なお、各制御装置220−nは、実施例1と同様の処理に加え、以下のような処理を行う構成としてもよい。各制御装置220−nは、第一指向性変更手段116のモータ116bの動作を監視して、第一指向性変更手段116が指向性を変化させる処理を完了した場合には、チルト変更終了信号を一括制御装置240へ送信する。一方、第一指向性変更手段116が指向性を変化させる処理を実施できなかった場合や、処理途中に所定の風速を超え指向性を変化させる処理を停止した場合には、各制御装置220−nはチルト変更不可信号を一括制御装置240へ送信する。なお、チルト変更不可信号には中断した時点における第一アンテナ111の取り付け角度やエリア端までの距離を含めてもよい。
【0054】
一括制御装置240は、チルト変更終了信号を受け取った場合には、送信元の基地局のゾーン変更が完了した旨のメッセージを表示し、チルト変更不可信号を受け取った場合には、送信元の基地局と所定のアラームを表示する。
【0055】
このような構成とすることで、各基地局が設置された場所における個別の気象条件を監視しながら安全にゾーンの大きさを変更することができる。
【0056】
<制御例>
図8において、30及び33は基地局210−1が変更するゾーン、31及び34は基地局210−3が変更するゾーン、32及び35は基地局210−2が変更するゾーンを表しており、240は各基地局のアンテナ指向性を一括管理及び制御する一括制御装置である。図8は、相互に隣接する複数の基地局を一括制御装置240により一元的に管理することを示している。図8において、基地局210−1はゾーン30を、基地局210−3はゾーン31を、基地局210−2はゾーン32を形成して移動通信サービスを提供しているときに、基地局210−1及び基地局210−2で多くの呼が発生し、基地局210−1及び基地局210−2に割り当てられた周波数が不足状態になり、基地局210−3に割り当てられた周波数に余裕がある状態が生じているとする。このとき、一括制御装置240は、基地局210−1に対して比較的小さいゾーン33に変更するように、基地局210−2に対して比較的小さいゾーン35に変更するように、また、基地局210−3に対して比較的大きいゾーン34に変更するように、各基地局のアンテナの垂直面内の指向性を変化させる制御を一括して行う。これにより、基地局210−1及び基地局210−2のゾーンを小さくし、基地局210−3ではゾーンを大きくすることになり、今まで、基地局210−1及び基地局210−2と通信していた移動局の一部が、基地局210−3と通信することになる。このように、基地局210−1及び基地局210−2のトラヒックを基地局210−3に分散することが可能となる。この変更は、各基地局210−1、210−2、210−3がサービスを継続したままで、行うことができる。
【0057】
また、実施例2のゾーン変更システム200において、基地局210−3のゾーンが大きくなることから基地局210−3に割り当てられた周波数と同一の周波数を使用する他の基地局との電波の干渉の問題が発生することが考えられる。しかし、このようなことは、基地局210−3がゾーン34に変更した状態においても電波の干渉が発生しないように、周波数を割り当てることにより避けることができる。これにより、必要最低限の周波数を各基地局に配置すればサービスの提供が可能となり、周波数の有効利用が可能となる。
【0058】
<効果>
このような構成により、実施例1と同様の効果を得ることができる。さらに、複数の場所に設置されている基地局のアンテナの指向性を変化させようとする場合には、複数の場所の気象条件を監視する必要があり、人手によりこの監視を行うと人的コストが非常に高くなるが、複数の基地局を一括して制御する一括制御装置を設置することにより、一ケ所で複数の基地局のゾーンを変更することが可能となり、迅速、かつ、容易に各基地局のゾーンを変更することができる。また、各基地局のゾーンを一括管理することで、ある基地局に集中するトラヒックの分散を図ることも可能となる。
【0059】
[変形例]
実施例2では、一括制御装置240は、機械チルトにより第一アンテナ111を機械的に傾ける各基地局210−nのみを制御しているが、制御する基地局の一部を特許文献1記載の電気チルトによりアンテナの指向性を変化させる基地局としてもよい。このような構成とすることで、既存の基地局を利用しながら柔軟に、ゾーン変更システムを構築することができる。
【0060】
実施例2では、一括制御装置240は、基地局外に設置されているが、N個の基地局のうちの何れか1つの基地局内に設置してもよい。
【0061】
なお、一括制御装置240が、通信回線153を介して、直接、一括して各基地局210−nの第一指向性変更手段116を制御し、第一アンテナ111の垂直面内の指向性を変化させることにより各基地局210−nのゾーンを変更する構成としてもよい。つまり、各基地局210−nに対する各制御装置220−nを設けず、各制御装置220−nが行っていた処理を一括して一括制御装置240が行う構成としてもよい。通信回線153を介して処理を行うため、応答時間が長くなるが、N個の制御装置を省くことができ構成を簡素化することができる。
【実施例3】
【0062】
<ゾーン変更システム300>
図9及び図10を用いて実施例3に係るゾーン変更システム300を説明する。なお、実施例1及び実施例2と異なる部分についてのみ説明する。ゾーン変更システム300は、基地局310と、制御装置320と、気象観測手段330と、を備える。
【0063】
<基地局310>
さらに、基地局310は、第一アンテナ111と第一指向性変更手段116とに加え、さらに、第二アンテナ311と、第二指向性変更手段316と、を有する。第一アンテナ111と第一指向性変更手段116は、実施例1と同様の構成である。さらに、実施例3では基地局310に、制御装置320、気象観測手段330が設置され(図9参照)、第一指向性変更手段116と第二指向性変更手段316と制御装置320と気象観測手段330の判定手段331は、基地局310内部に設けられた通信網150で接続されている。
【0064】
(第二アンテナ311及び第二指向性変更手段316)
第二アンテナ311及び第二指向性変更手段316は、例えば特許文献1と同様の構成である。第二アンテナ311は、アレーアンテナ等により構成する。第二指向性変更手段316は可変移相器等により構成する。第二指向性変更手段316は第二アンテナ311の垂直面内の指向性を電気的に変更させる。つまり、第二指向性変更手段316は、第二アンテナ311の各アンテナ素子に給電される送受信号の位相を一定量ずつずらして、アンテナの指向性を変化させる。なお、前述の通り、可変移相器に接続した場合には損失が生じるので、この損失を補償する増幅器を、第二アンテナ311の前段に設ける。
【0065】
<制御装置320>
制御装置320は、基地局310の第一指向性変更手段116を制御し第一アンテナ111の垂直面内の指向性を変化させるか、または、基地局310の第二指向性変更手段316を制御し第二アンテナ311の垂直面内の指向性を変化させる。
【0066】
例えば、制御装置320へ第一アンテナ111の指向性を入力すると、制御装置320は、入力時点の第一アンテナ111の取り付け角度に基づき、入力された指向性に対応する回転数等を選択して、第一指向性変更回路116aに出力すると同時に、入力された指向性に対応する位相量を第二指向性変更手段316に出力する。なお、何れの指向性を変化させるかは、後述する気象観測手段330の判定手段331の判定結果に従う。このような構成により基地局310のゾーンを変更する。
【0067】
<気象観測手段330>
気象観測手段330は判定手段331と気象測定手段132を有する。なお、気象測定手段132は実施例1と同様の構成である。
【0068】
判定手段331は、気象情報に基づいて、第一アンテナ111の垂直面内の指向性を変化させるか、または、第二アンテナ311の垂直面内の指向性を変化させるか、を判定する。例えば、判定手段331は、制御装置320から処理を開始させる制御信号を受け取ると、直前または直後に気象測定手段132から受け取った風速が、予め実験等により定めておいた所定の風速を越えるか否かを判定し、所定の風速以下の場合には、第二指向性変更手段316に対し、第二アンテナ311の垂直面内の指向性を変化させる処理を停止させるための第二停止信号を出力する。一方、所定の風速を超えた場合には、実施例1と同様に第一指向性変更手段116に対し、第一アンテナ111の垂直面内の指向性を変化させる処理を停止させるための停止信号を出力する。
【0069】
なお、制御装置320では、判定手段331の判定結果を受け取り、指向性を変化させるアンテナに対して給電を行うようにスイッチ等を制御する構成としてもよい。
【0070】
<効果>
このような構成とすることで、実施例1と同様の効果を得ることができる。さらに、気象条件を満たさなくとも電気チルトにより基地局のゾーンを変更することが可能となる。可能な限り機械チルトにより損失を抑え、機械チルトができない場合のみ電気チルトを用いて、効率をよくゾーン変更することができる。
【0071】
[変形例]
電気チルトにより基地局のゾーンを変更した後も、定期的に気象観測手段330によって、気象条件を監視し、機械チルトが可能か否かを判定し、機械チルトが可能になったら、第一アンテナを機械的に傾け指向性を変化させ、指向性の変化が完了したら、第一アンテナを用いて電波を出力する、つまり、第一アンテナと第二アンテナを切り替える構成としてもよい。このような構成とすることでより効率的に電波を出力することができる。
【0072】
実施例2と実施例3を組合せて、実施例2の一括制御装置240の制御する基地局の一部を実施例3の基地局に変更してもよい。
【符号の説明】
【0073】
100,200,300 ゾーン変更システム
110,210−n,310 基地局
111 第一アンテナ
116 第一指向性変更手段
311 第二アンテナ
316 第二指向性変更手段
120,220−n,320 制御装置
240 一括制御装置
130,230−n,330 気象観測手段
131,331 判定手段
132 気象測定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一アンテナと、前記第一アンテナを機械的に傾け、前記第一アンテナの垂直面内の指向性を変化させることが可能な第一指向性変更手段と、を有する基地局と、
前記基地局の前記第一指向性変更手段を制御し、前記第一アンテナの垂直面内の指向性を変化させることにより前記基地局のゾーンを変更する制御装置と、
気象情報に基づいて、前記第一アンテナの垂直面内の指向性を変化させるか否かを判定する判定手段を有する気象観測手段と、
を備えるゾーン変更システム。
【請求項2】
請求項1記載のゾーン変更システムであって、
前記気象観測手段は、前記第一アンテナ近傍に設けられ前記気象情報を取得する気象測定手段をさらに有する、
ゾーン変更システム。
【請求項3】
請求項1または2記載のゾーン変更システムであって、
前記基地局は、アレーアンテナからなる第二アンテナと、前記第二アンテナの垂直面内の指向性を電気的に変更させることが可能な第二指向性変更手段と、をさらに有し、
前記制御装置は、前記基地局の前記第一指向性変更手段を制御し前記第一アンテナの垂直面内の指向性を変化させるか、または、前記基地局の前記第二指向性変更手段を制御し前記第二アンテナの垂直面内の指向性を変化させる、ことにより前記基地局のゾーンを変更し、
前記気象観測手段の前記判定手段は、前記気象情報に基づいて、前記第一アンテナの垂直面内の指向性を変化させるか、または、前記第二アンテナの垂直面内の指向性を変化させるか、を判定する、
ゾーン変更システム。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載のゾーン変更システムであって、
1以上の前記基地局と、
1以上の前記基地局に対応する1以上の前記制御装置と、
前記各制御装置を介して前記各基地局の第一指向性変更手段及び第二指向性変更手段を一括して制御する一括制御装置と、
を備える、ゾーン変更システム。
【請求項5】
請求項4記載のゾーン変更システムであって、
前記各制御装置は、前記第一アンテナの垂直面内の指向性を所望の角度まで、変化させた場合にはチルト変更終了信号を、変化させなかった場合にはチルト変更不可信号を、前記一括制御装置へ送信する、
ゾーン変更システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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