説明

タイヤトレッド用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】ウェット性能とスノー性能をバランス良く向上させる。
【解決手段】有機リチウム化合物を開始剤とする1,3−ブタジエンとスチレンとの共重合により得られたガラス転移点が−40℃以下の共重合体ゴムの単独、又は該共重合体ゴムと他のジエン系ゴムとのブレンドからなるゴム成分100質量部に対し、ヒドロキシル基を有する化合物で変性されかつガラス転移点が−90〜−30℃の架橋されたジエン系ポリマー粒子であるポリマーゲルを1〜30質量部と、SiR(OR4−nで表される有機シラン化合物(式中、Rは炭素数5〜30のアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、芳香族炭化水素のいずれかであり、Rは炭素数1〜3のアルキル基、nは1〜3の整数)を0.5〜15質量部と、を配合してなるタイヤトレッド用ゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤのトレッドに用いられるタイヤトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
湿潤路面や氷雪路面を走行するタイヤにおいては、路面とタイヤトレッド接地部間の摩擦抵抗が低下するため、十分な制動性、操作性が得られないことがある。そのため、空気入りタイヤ、例えば、スタッドレスタイヤやスノータイヤなどの冬用タイヤ(ウインタータイヤ)、オールシーズンタイヤにおいては、湿潤路面での制動性・グリップ性(以下、ウェット性能という)と、雪上路面や氷上路面での制動性・グリップ性(以下、スノー性能という)とをバランス良く向上させることが好ましい。
【0003】
ウェット性能を向上させるためには、トレッドゴムの反発弾性を低下させることが有効である。そのため、ガラス転移点の高いポリマーを使用したり、フィラーとオイルの配合量を増加したりするといった手法がある。しかしながら、ガラス転移点の高いポリマーを使用すると、スノー性能が低下してしまうという問題がある。
【0004】
一方、スノー性能を向上させるためには、低温領域でのゴム硬さを下げたり、貯蔵弾性率(E’)を低下させることが有効である。そのため、ガラス転移点の低いポリマーを使用したり、フィラーとしてシランを用い、更にシランカップリング剤を配合したりするといった手法がある(例えば、下記特許文献1,2参照)。しかしながら、ガラス転移点の低いポリマーを使用すると、ウェット性能が低下してしまうという問題がある。
【0005】
このようにウェット性能とスノー性能は背反関係にあり、両者をバランス良く向上することは容易ではない。
【0006】
下記特許文献3には、ウェットグリップ性と低燃費性を向上させるために、ヒドロキシル基を有する化合物で変性されかつガラス転移点が−100〜−65℃、トルエン膨潤指数Qiが1〜15及び平均粒子径が5〜2000nmである架橋されたゴム粒子(ポリマーゲル)を配合することが提案されている。このように従来、架橋されたゴム粒子であるポリマーゲル(ゴムゲル)をタイヤ用ゴム組成物に配合することは知られているが、特定のスチレンブタジエンゴム及び有機シラン化合物とともに組み合わせて用いることで、ウェット性能とスノー性能をバランス良く向上することについては知られていない。
【0007】
なお、下記特許文献4には、タイヤトレッドを構成するゴム組成物に、n−オクタデシルトリメトキシシラン等の有機シラン化合物を配合することが提案されている。しかしながら、この文献において有機シラン化合物はシリカと反応することで、シリカを疎水化させるために用いられている。下記特許文献5にも有機シラン化合物をシリカとともに配合することが開示されているが、有機シラン化合物とシリカとの相互作用により、シリカの分散性を向上することを開示したにすぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−155383号公報
【特許文献2】特開2003−155384号公報
【特許文献3】特開2008−169314号公報
【特許文献4】特開平10−1565号公報
【特許文献5】特開2007−277437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み、ウェット性能とスノー性能をバランス良く向上することができるタイヤトレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るタイヤトレッド用ゴム組成物は、有機リチウム化合物を開始剤とする1,3−ブタジエンとスチレンとの共重合により得られたガラス転移点が−40℃以下の共重合体ゴムの単独、又は該共重合体ゴムと他のジエン系ゴムとのブレンドからなるゴム成分100質量部に対し、ヒドロキシル基を有する化合物で変性されかつガラス転移点が−90〜−30℃の架橋されたジエン系ポリマー粒子であるポリマーゲルを1〜30質量部と、下記一般式(1)で表される有機シラン化合物を0.5〜15質量部と、を配合してなるものである。
【0011】
SiR(OR4−n ……(1)
式(1)中、Rは炭素数5〜30のアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、芳香族炭化水素のいずれかであり、Rは炭素数1〜3のアルキル基、nは1〜3の整数である。
【0012】
本発明に係る空気入りタイヤは、かかるゴム組成物を用いてなるトレッドを備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガラス転移点の低いスチレンブタジエンゴムに対し、特定のガラス転移点を持つポリマーゲルと特定の有機シラン化合物とを併用することで、ウェット性能とスノー性能をバランス良く向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0015】
本発明に係るゴム組成物において、ゴム成分として使用される共重合体ゴムは、有機リチウム化合物を開始剤とする1,3−ブタジエンとスチレンとの共重合により得られるスチレンブタジエンゴム(SBR)、すなわち溶液重合SBRである。かかる共重合体ゴムは、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテルなどの不活性有機溶媒を用いた公知の溶液重合法により製造することができ、上記有機リチウム化合物としては、n−ブチルリチウムなどのアルキルリチウム、1,4−ジリチウムブタンなどのアルキレンジリチウム、フェニルリチウムなどが挙げられる。この共重合体ゴムは、スズ系、ケイ素系、アルコキシシラン系カップリング剤により、その共重合体鎖末端が処理されたものであってもよく、また、末端または主鎖がシリカのシラノール基と相互作用や化学反応性を有する官能基(例えば、水酸基やアミノ基)で変性されたものであってもよい。
【0016】
上記共重合体ゴムとしては、ガラス転移点(Tg)が−40℃以下のものを用いる。このようなガラス転移点の低い共重合体ゴムを使用することにより、スノー性能を向上することができる。ガラス転移点の下限は特に限定されないが、−70℃以上であることが好ましい。ここで、ガラス転移点は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定される値(昇温速度20℃/分)である。
【0017】
本発明に係るゴム組成物におけるゴム成分は、上記共重合体ゴムの単独、又は該共重合体ゴムと他のジエン系ゴムとのブレンドゴムからなる。他のジエン系ゴムとしては、特に限定はなく、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、上記共重合体ゴム以外のスチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、ニトリルゴムなどが挙げられ、これらはそれぞれ単独で用いても2種以上併用してもよい。他のジエン系ゴムとして、好ましくはNR及び/又はBRであり、更に好ましくはBRを用いることである。このような他のジエン系ゴムをブレンドする場合、ゴム成分中の比率として60質量%以下であることが好ましい。すなわち、ゴム成分は、上記共重合体ゴム40質量%以上と、他のジエン系ゴム60質量%以下のブレンドであることが好ましい。
【0018】
本発明に係るゴム組成物に配合されるポリマーゲルとしては、ヒドロキシル基を有する化合物で変性され、かつガラス転移点(Tg)が−90〜−30℃である架橋されたジエン系ポリマー粒子(ゴム粒子)が用いられる。このようなガラス転移点の低いポリマーゲルを用いることにより、スノー性能を向上することができる。また、その粒子表面に存在するヒドロキシル基が有機シラン化合物と反応することで、ポリマーゲルの分散性が向上し、これによりウェット性能を損なうことなく、スノー性能を向上することができる。
【0019】
かかるポリマーゲルは、ゴム分散液を架橋することにより製造することができる。該ゴム分散液としては、乳化重合により製造されるゴムラテックス、溶液重合されたゴムを水中に乳化させて得られるゴム分散液などが挙げられ、また、架橋剤としては、有機ペルオキシド、有機アゾ化合物、硫黄系架橋剤など挙げられる。また、ゴム粒子の架橋は、ゴムの乳化重合中に、架橋作用を持つ多官能化合物との共重合によっても行うことができる。具体的には、特開平10−204225号公報、特表2004−504465号公報、特表2004−506058号公報、特表2004−530760号公報などに開示の方法を用いることができる。
【0020】
ポリマーゲルを構成するジエン系ポリマーとしては、上記した各種ジエン系ゴムが挙げられ、これらはいずれか単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、ポリブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムを主成分とするものである。
【0021】
ポリマーゲルのガラス転移点(Tg)は−90〜−30℃であるが、より優れたスノー性能を得る上で、−90〜−50℃であることが好ましく、より好ましくは−90〜−70℃である。ガラス転移点が−90℃よりも低いと、ウェット性能が低下してしまい、逆に−30℃よりも高いと、スノー性能が低下してしまう。なお、ポリマーゲルのガラス転移点は、ベースとなるジエン系ポリマーの種類と、その架橋度により調整することができる。ガラス転移点は、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定される値(昇温速度20℃/分)である。
【0022】
ポリマーゲルとしては、上記のようにOH(ヒドロキシル)基を有する化合物で変性されたものが用いられる。このような化合物(変性剤)としては、例えば、特表2004−506058号公報に記載されているように、ヒドロキシブチルアクリレート又はメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート又はメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート又はメタクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0023】
上記ポリマーゲルは、ジエン系ポリマーからなるため、表面に二重結合を有する。そのため、フィラーとしてシリカを用い、かつシランカップリング剤を配合した場合、該二重結合にシランカップリング剤が反応することで、シランカップリング剤を介してポリマーゲルとシリカを結合することができる。また、ポリマーゲルは、表面のOH基がシランカップリング剤と反応し、シランカップリング剤を介してポリマーゲルと上記ゴム成分とを結合することができる。あるいはまた、シランカップリング剤がポリマーゲルの二重結合とOH基との間で反応することで、ポリマーゲルを架橋することもできる。これらにより、更に性能を向上することができる。
【0024】
該ポリマーゲルは、トルエン膨潤指数Qiが16未満であることが好ましい。トルエン膨潤指数は、より好ましくは1〜15であり、更に好ましくは3〜8である。トルエン膨潤指数Qiが大きすぎると、粒子が柔らかくなり、補強効果が失われ、強度や耐摩耗性が損なわれる。また、ポリマーゲルは、ゲル含量が94質量%以上であることが好ましい。ゲル含量がこれよりも小さいと、ゴム粒子の弾性率が低下する傾向にあり、これを配合するゴム組成物にも影響する。
【0025】
ここで、トルエン膨潤指数及びゲル含量は、ポリマーゲルをトルエンに膨潤させた後、乾燥させることにより測定される。すなわち、ポリマーゲル250mgを、トルエン25mL中で、24時間、振とう下に膨潤させ、20000rpmで遠心分離してから、濡れ質量を秤量し、次いで70℃で質量一定まで乾燥させてから、乾燥質量を秤量する。ゲル含量は、使用されたポリマーゲルに対する乾燥後のポリマーゲルの質量比率(%)である。また、トルエン膨潤指数は、Qi=(ゲルの濡れ質量)/(ゲルの乾燥質量)により求められる。
【0026】
該ポリマーゲルの粒径は特に限定するものではないが、平均粒子径(DIN 53 206によるDVN値)が10〜200nmであることが好ましく、より好ましくは20〜150nmである。
【0027】
該ポリマーゲルの配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して、1〜30質量部であり、より好ましくは5〜25質量部である。ポリマーゲルの配合量が少なすぎると、ウェット性能とスノー性能の向上効果が不十分となる。逆に配合量が多すぎると、耐摩耗性やウェット性能を損なうおそれがある。
【0028】
本発明に係るゴム組成物に配合される有機シラン化合物は、下記一般式(1)で表される長鎖有機シランである。
SiR(OR4−n ……(1)
式(1)中、Rは炭素数5〜30のアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、芳香族炭化水素のいずれかであり、Rは炭素数1〜3のアルキル基、nは1〜3の整数である。かかる有機シラン化合物は、そのアルコキシシラン部分がポリマーゲル表面のヒドロキシル基と反応するとともに、Rで表される長鎖の炭化水素基部分の存在により、ゴム成分中でのポリマーゲルの分散性を向上させることができる。また、フィラーとしてシリカを用いる場合、有機シラン化合物はシリカの分散性向上にも寄与することができ、ウェット性能を向上させることができる。
【0029】
における炭素数が5〜30のアルキル基としては、ペンチル、イソペンチル、2級ペンチル、ネオペンチル、t−ペンチル、ヘキシル、2級ヘキシル、ヘプチル、2級ヘプチル、オクチル、2−エチルヘキシル、2級オクチル、ノニル、2級ノニル、デシル、2級デシル、ウンデシル、2級ウンデシル、ドデシル、2級ドデシル、トリデシル、イソトリデシル、2級トリデシル、テトラデシル、2級テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、2級ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、イコシル、ドコシル、テトラコシル、2−ブチルオクチル、2−ブチルデシル、2−ヘキシルオクチル、2−ヘキシルデシル、2−オクチルデシル、2−ヘキシルドデシル、2−オクチルドデシル、2−デシルテトラデシル、2−ドデシルヘキサデシル等が挙げられる。
【0030】
また、Rにおけるアルケニル基としては、例えば、ペンテニル、イソペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、テトラデセニル、オレイル等が挙げられる。シクロアルケニル基としては、例えば、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル等が挙げられる。芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン等が挙げられる。
【0031】
上記の中でも、Rとしては、炭素数5〜20のアルキル基が好ましく、より好ましくは、炭素数が6以上、更には8以上の直鎖構造であるものが長鎖アルキル基を形成し好ましい。なお、Rは上記の各基を2種類以上含んでいても良い。炭素数が5未満ではRとゴム成分との相互作用が不十分となり、ポリマーゲルの分散性が向上しない。また、炭素数が30を超えるとゴム物性への影響、特にゴム硬度が低下する傾向にある。炭素数の上限はより好ましくは18以下である。
【0032】
は、炭素数1〜3のアルキル基であり、すなわちメチル、エチル、プロピル基である。このRは式中の酸素原子と結合してアルコキシル基を形成し、すなわちROはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基のいずれかである。
【0033】
好ましい有機シラン化合物の具体例としては、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルメトキシシラン、ヘキサデシルエトキシシラン、ジオクチルジメトキシシラン、ジオクチルジエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等が挙げられる。これらはそれぞれ1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0034】
有機シラン化合物の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して、0.5〜15質量部であり、より好ましくは1〜10質量部、更に好ましくは2〜10質量部である。ポリマーゲルの配合量が少なすぎると、ウェット性能とスノー性能の向上効果が不十分となる。逆に配合量が多すぎると、耐摩耗性が損なわれるおそれがある。
【0035】
本発明に係るゴム組成物には、カーボンブラック及び/又は無機充填剤からなるフィラーを配合することができる。無機充填剤としては、シリカ、酸化チタン、クレー、タルク、炭酸カルシウムなどが挙げられるが、その中でもシリカを用いることが好ましい。すなわち、フィラーとしては、シリカ単独、又は、シリカとカーボンブラックの併用が好ましい。
【0036】
シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸),乾式シリカ(無水ケイ酸)等が挙げられるが、中でも低転がり抵抗特性とウェット性能の両立効果が良好である湿式シリカが好ましく、また生産性に優れる点からも好ましい。
【0037】
フィラーの配合量は、前記ゴム成分100質量部に対して50〜200質量部であることが好ましく、より好ましくは70〜150質量部である。また、シリカの配合量は、前記ゴム成分100質量部に対して20〜150質量部であることが好ましく、より好ましくは50〜120質量部である。
【0038】
シリカを配合する場合、シランカップリング剤を更に配合することが好ましい。シランカップリング剤は、例えば、スルフィド、アミノ基、メルカプト基、ビニル基、メタクリル基、エポキシ基などのポリマーと反応し得る有機部と、ハロゲンやアルコキシ基などのシリカ表面のシラノール基と結合する部分を有する化合物であり、公知の種々のシランカップリング剤を用いることができる。好ましくは、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィドなどのスルフィドシラン、3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン、3−プロピオニルチオプロピルトリメトキシシランなどの保護化メルカプトシランを用いることができる。
【0039】
シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して2〜25質量部であることが好ましく、より好ましくは2〜10質量部である。この配合量が2質量部未満ではカップリング効果が充分でなく、逆に25質量部を超えると、ウェット性能等を低下させるおそれがある。
【0040】
本発明に係るゴム組成物には、上記した成分の他に、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、亜鉛華、ステアリン酸、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤトレッド用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。該ゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやロール、ニーダー等の混合機を用いて混練し作成することができる。
【0041】
該ゴム組成物は、各種空気入りタイヤ、特には、スタッドレスタイヤ、スノータイヤなどの冬用タイヤ(ウインタータイヤ)や、オールシーズンタイヤなどのトレッド部のためのゴム組成物として好適に用いられ、常法に従い、例えば140〜200℃で加硫成形することにより、該トレッド部を形成することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1,2に示す配合に従って、常法に従いタイヤトレッド用ゴム組成物を調製した。詳細には、まず第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し、硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して、ゴム組成物を調製した。表中の各成分は以下の通りである。
【0044】
・SBR1:有機リチウム化合物を開始剤とする溶液重合SBR、JSR株式会社製「SBR1723」(Tg=−50℃、スチレン量=24%、ビニル含量=19%、37.5質量部油展、なお、表中の配合量はゴムポリマーとしての質量部であり、表中の「オイル」の配合量は、油展分で配合されるオイルを含む合計量である。SBR2も同じ)
・SBR2:旭化成ケミカルズ(株)製「タフデン4850」(Tg=−25℃、スチレン量=40%、ビニル含量=43%、50質量部油展)
・BR:宇部興産株式会社製「BR150B」(Tg=−104℃)
・NR:RSS#3
【0045】
・ポリマーゲル1:ラインケミー社製「マイクロモルフ30B」(BRをベースとするポリマーゲル、Tg=−80℃、トルエン膨潤指数Qi=5.9、ゲル含量=97質量%、平均粒子径=130nm、ヒドロキシル基変性品)
・ポリマーゲル2:ラインケミー社製「マイクロモルフ3B」(SBRをベースとするポリマーゲル、Tg=−60℃、トルエン膨潤指数Qi=5.9、ゲル含量=97質量%、平均粒子径=60nm、ヒドロキシル基変性品)
・ポリマーゲル3:ラインケミー社製「マイクロモルフ4B」(SBRをベースとするポリマーゲル、Tg=−15℃、トルエン膨潤指数Qi=6、ゲル含量=96質量%、平均粒子径=60nm、ヒドロキシル基変性品)
【0046】
・カーボンブラック:東海カーボン株式会社製「シースト7HM」
・シリカ:東ソー・シリカ株式会社製「ニップシールVN3」
・オイル:株式会社ジャパンエナジー製「プロセスNC−140」
・シランカップリング剤:ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、デグサ社製「Si75」
・有機シラン化合物1:n−デシルトリメトキシシラン、信越化学株式会社製「KBM−3103C」
・有機シラン化合物2:n−ヘキシルトリエトキシシラン、信越化学株式会社製「KBM−3063」
・ステアリン酸:花王株式会社製「ルナックS−20」
・亜鉛華:三井金属鉱業株式会社製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:住友化学株式会社製「アンチゲン6C」
・ワックス:大内新興化学工業株式会社製「サンノックN」
・加工助剤:ラインケミージャパン株式会社製「アクチプラストPP」
・加硫促進剤1:三新化学工業株式会社製「サンセラーDM−G」
・加硫促進剤2:住友化学株式会社製「ソクシノールCZ」
・硫黄:鶴見化学工業株式会社製「粉末硫黄」
【0047】
得られた各ゴム組成物について、160℃×30分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、低発熱性を評価した。また、各ゴム組成物を用いて空気入りラジアルタイヤを作製した。タイヤサイズは195/65/R15として、そのトレッドに各ゴム組成物を適用し、常法に従い加硫成形することによりタイヤを製造した。得られた各タイヤについて、ウェット性能(ウェット制動性能)と、スノー性能(スノー制動性能)と、耐摩耗性を評価した。各評価方法は次の通りである。
【0048】
・低発熱性:USM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数50Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度80℃の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が小さいほどtanδが小さく、発熱しにくいこと、即ち低燃費性に優れ、良好であることを示す。
【0049】
・ウェット性能:上記タイヤを2000ccの4WD車に装着し、湿潤路面(2〜3mmの水深で水をまいた路面)上で90km/h走行からABS作動させて20km/hまで減速時の制動距離を測定し(n=10の平均値)、制動距離の逆数について比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど制動距離が短く、ウェット制動性能に優れることを示す。
【0050】
・スノー性能:上記タイヤを2000ccの4WD車に装着し、雪上路面上で60km/h走行からABS作動させて20km/hまで減速時の制動距離を測定し(n=10の平均値)、制動距離の逆数について比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど制動距離が短く、スノー制動性能に優れることを示す。
【0051】
・耐摩耗性:上記タイヤを2000ccの4WD車に装着し、2500km毎に左右ローテーションさせながら10000km走行させて、走行後の残溝の深さを測定した。残溝は4本の平均値である。比較例1の値を100とした指数で表示し、指数が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
結果は表1,2に示す通りであり、ポリマーゲルを配合せずに有機シラン化合物を配合した比較例2〜4では、コントロールである比較例1に対し、ウェット性能の向上効果は見られたが、スノー性能の向上効果は得られなかった。低Tgのポリマーゲルを配合したものの、有機シラン化合物が未配合の比較例5,6では、スノー性能の改善効果は僅かであり、ウェット性能とスノー性能をバランスよく向上させることはできなかった。
【0055】
比較例7は、低Tgのポリマーゲルと有機シラン化合物の併用であったが、ポリマーゲルの配合量が多すぎてウェット性能が大幅に悪化した。一方、ガラス転移点の高いポリマーゲルを用いた比較例8〜12では、スノー性能の向上効果が得られなかった。更に、比較例13では、低Tgのポリマーゲルと有機シラン化合物を併用するも、マトリックスゴムを構成するSBRのガラス転移点が高すぎて、スノー性能が大幅に悪化した。
【0056】
これに対し、本発明に係る実施例では、低TgのSBRに対し、低Tgのポリマーゲルと有機シラン化合物とを併用することで、発熱性を損なうことなく、ウェット性能とスノー性能がバランス良く向上していた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係るゴム組成物は、空気入りタイヤのトレッドに好適に用いることができ、スタッドレスタイヤやスノータイヤ等の冬用タイヤ(ウインタータイヤ)や、オールシーズンタイヤをはじめ、各種空気入りタイヤに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機リチウム化合物を開始剤とする1,3−ブタジエンとスチレンとの共重合により得られたガラス転移点が−40℃以下の共重合体ゴムの単独、又は該共重合体ゴムと他のジエン系ゴムとのブレンドからなるゴム成分100質量部に対し、
ヒドロキシル基を有する化合物で変性されかつガラス転移点が−90〜−30℃の架橋されたジエン系ポリマー粒子であるポリマーゲルを1〜30質量部と、
下記一般式(1)で表される有機シラン化合物を0.5〜15質量部と、
を配合してなるタイヤトレッド用ゴム組成物。
SiR(OR4−n ……(1)
(式(1)中、Rは炭素数5〜30のアルキル基、アルケニル基、シクロアルケニル基、芳香族炭化水素のいずれかであり、Rは炭素数1〜3のアルキル基、nは1〜3の整数である。)
【請求項2】
前記ポリマーゲルは、トルエン膨潤指数Qiが16未満である請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
カーボンブラック及び/又は無機充填剤からなるフィラーを更に含有する請求項1又は2記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
シリカ及びシランカップリング剤を更に含有する請求項1又は2記載のタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いてなるトレッドを備えた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−184546(P2011−184546A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50552(P2010−50552)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】