説明

タイヤ劣化促進方法

【課題】低コストで経時的に劣化したタイヤを早期に再現し得るタイヤ劣化促進方法を提供する。
【解決手段】オゾンを用いてタイヤの劣化を促進させるタイヤ劣化促進方法であって、オゾンが供給された気密な収容体の中にタイヤを放置して劣化させる劣化工程を含むことを特徴とするタイヤ劣化促進方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低コストで経時的に劣化したタイヤを早期に再現し得るタイヤ劣化促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤの耐久試験において、試験時間を短縮して効率良く試験結果を得ることが求められている。このため、オゾンが有するゴム劣化作用を利用して、タイヤを早期に劣化させることが種々提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1では、図2(a)に示されるように、ドラム試験装置aを用いて試験走行中のタイヤbにオゾンを直接吹きつけてタイヤbを劣化させながら耐久試験を行う方法が提案されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、図2(b)に示されるように、オゾンが供給されたチャンバーc内にドラム試験装置aを設け、オゾン雰囲気のチャンバーc内でタイヤbを劣化させながら耐久試験を行う方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−84290号公報
【特許文献2】特開2008−26228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、耐久試験中、連続してオゾンをタイヤに供給しなければならず、その運転コストが大きくなるという問題がある。また、上記特許文献2の技術では、ドラム試験装置を収容する大きなチャンバーcが必要であり、設備コストや運転コストが大きくなる他、オゾン雰囲気下に置かれたドラム試験装置aも劣化が促進されてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑み案出なされたもので、低コストで経時的に劣化したタイヤを早期に再現し得るタイヤ劣化促進方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のうち請求項1記載の発明は、オゾンを用いてタイヤの劣化を促進させるタイヤ劣化促進方法であって、オゾン濃度が0.1〜1.0ppmである気体が充填された気密な収容体の中にタイヤを放置して劣化させる劣化工程を含むことを特徴とするタイヤ劣化促進方法である。
【0009】
また請求項2記載の発明は、前記収容体中のオゾン濃度が0.3〜0.7ppmである請求項1記載のタイヤ劣化促進方法である。
【0010】
また請求項3記載の発明は、前記タイヤは、リム組みされかつ内圧が充填された状態で前記収容体の中に放置される請求項1又は2に記載のタイヤ劣化促進方法である。
【0011】
また請求項4記載の発明は、前記劣化工程に先立ち、前記タイヤから老化防止剤を除去する老化防止剤除去工程を含む請求項1乃至3のいずれかに記載のタイヤ劣化方法である。
【0012】
また請求項5記載の発明は、前記タイヤを前記収容体から取り出した後、ドラム耐久試験を行う耐久試験工程をさらに含む請求項1乃至4のいずれかに記載のタイヤ劣化促進方法である。
【0013】
また請求項6記載の発明は、前記耐久試験工程は、前記タイヤに、正規内圧の50〜150%の内圧を充填しかつ正規荷重の50〜250%の荷重を負荷して行われる請求項5に記載のタイヤ劣化促進方法である。
【0014】
また請求項7記載の発明は、前記劣化工程と前記耐久試験工程とが、交互に繰り返される請求項5又は6記載のタイヤ劣化促進方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のタイヤ劣化促進方法では、オゾンが供給された気密な収容体の中にタイヤを放置して劣化させる劣化工程を含むことを特徴とする。このようなタイヤ劣化促進方法では、オゾンの連続供給が不要となるため、運転コストを低減しつつタイヤをオゾンによって劣化させることができる。また、収容体は、気密性を有しかつタイヤが放置できる容積を具えていれば足りるから、収容体を小型化及び簡素化でき、運転コスト及び設備コストを低減しうる。しかも、タイヤは、収容体内で放置されることで劣化するため、収容体内に別途、ドラム試験装置を収容する必要がない。従って、収容体の内部で、タイヤ以外の装置がオゾンによって劣化するといった不具合を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態のタイヤ劣化促進方法を示す斜視図である。
【図2】(a)及び(b)は、従来のタイヤ劣化促進試験方法を説明する概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のタイヤ劣化促進方法の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本発明のタイヤの劣化促進方法は、オゾンの劣化促進作用(酸化作用)を用いてタイヤを劣化させる劣化促進方法である。この劣化促進方法を行うことにより、実際に長い時間をかけてタイヤを経時劣化させなくとも、それに近い劣化が生じたタイヤを比較的短時間で再現することができる。そして、例えば、劣化後のタイヤについて耐久性試験を行うことにより、経時劣化後のタイヤ耐久性能を能率良く短時間で解析することができる。
【0018】
本実施形態のタイヤ劣化促進方法では、図1に示されるように、オゾンが供給された気密な収容体1の中に空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」という。)Tを放置して劣化させる劣化工程を含むことを特徴とする。
【0019】
前記タイヤTには、例えば、乗用車用、トラック用又は自動二輪車用など種々のカテゴリーの空気入りタイヤが含まれるが、ソリッドタイヤなどが含まれても良い。
【0020】
前記収容体1は、例えば、上下及び側部が外壁面で囲まれた直方体状のチャンバー3であり、外部空気とは気密に区画された空間として形成される。該チャンバー3は、好ましくは複数本のタイヤTを収容しうる容積を具えるのが望ましい。なお、図示していないが、該チャンバー3には、タイヤを出し入れしうる開閉可能な扉部が設けられる。
【0021】
前記チャンバー3には、オゾン供給装置2が接続される。該オゾン供給装置2は、周知のオゾン発生器8と、このオゾン発生機8とチャンバー3とを接続する接続管4とを含む。
【0022】
前記接続管4は、オゾン発生器8で発生したオゾンをチャンバー3内に供給する送り管4aと、チャンバー3内の気体をオゾン発生器8へ送る戻し管4bとを具える。これにより、オゾン発生器8とチャンバー3とは、接続管4を介して気体が循環するように構成されている。
【0023】
前記オゾン発生機8は、内部にオゾン濃度センサ5を具えている。そして、オゾン発生器8は、チャンバー3内から戻し管4bを介して取り込んだ気体を予め設定されたオゾン濃度に調節した後、送り管4aを介してチャンバー3内へと供給しうる。従って、本実施形態のオゾン発生器8は、チャンバー3内を予め定めたオゾン濃度に調節して維持することができる。
【0024】
前記チャンバー3内のオゾン濃度は、0.1ppm以上であるが、より好ましくは0.3ppm以上とする。前記収容体1中のオゾン濃度が0.1ppm未満であると、オゾンによるタイヤの劣化が十分に進行し得ず、短時間での劣化が困難になる。逆に、前記オゾン濃度が高すぎても、タイヤの劣化作用が経時劣化と異なるおそれがある他、運転コストの増加や収容体1等の過度の劣化が生じるおそれがある。このような観点より、前記チャンバー3内のオゾン濃度は、1.0ppm以下とするが、より好ましくは0.7ppm以下とする。
【0025】
なお、上記オゾン濃度は、下記式(1)によって計算されるものとする。
オゾン濃度(%)=(Po/Pt)×100 …(1)
Pt:収容体1中の気体の全圧(Pa)
Po:上記全圧に対するオゾン分圧(Pa)
【0026】
以上のように構成された本発明のタイヤ劣化促進方法では、気密な収容体1(チャンバー3)を利用しているため、オゾンの連続供給が不要となり、運転コストを低減しつつタイヤ1をオゾンによって確実に劣化させることができる。また、収容体1は、気密性を有しかつタイヤTが放置できる容積を具えていれば足りるため、収容体1を小型化及び簡素化でき、運転コスト及び設備コストを低減しうる。しかも、タイヤTは、収容体1内で放置されることで劣化されるため、収容体1内に別途、ドラム試験装置などを収容する必要がない。従って、収容体1の内部で、タイヤ以外の装置がオゾンによって劣化するといった不具合を確実に防止できる。なお、本実施形態の収容体1にはリフト6が配置されている。このリフト6にタイヤが載置されて収容体1内を周回することにより、オゾン濃度の不均一による劣化のムラを除去できる。
【0027】
前記タイヤTは、リム組みされかつ内圧が充填された状態で前記収容体1の中に放置されるのが望ましい。これにより、実際にタイヤTが使用される環境により近い状態で、前記タイヤTの劣化を行うのに役立つ。とりわけ、前記リムは、正規リムであり、かつ、タイヤ内腔に充填される空気圧は正規内圧にそれぞれ設定されるのが望ましい。
【0028】
本明細書において前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim"とする。
【0029】
また、前記「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" であるが、タイヤが乗用車用である場合は一律に180KPaとする。
【0030】
また、オゾンが供給されている前記収容体1へのタイヤTを放置する放置日数は、好ましくは6日以上、より好ましくは9日以上が望ましい。タイヤTの放置日数が短くなると、オゾンによるタイヤTの劣化が不十分となる傾向がある。逆に、前記放置日数が長くなると、オゾンの供給量が大きくなり、運転コストが増大する傾向にある他、一般的な経時劣化とは異なる劣化状態のタイヤが得られるおそれがある。このような観点より、前記収容体1へのタイヤTを放置する放置時間は、好ましくは30日以下、より好ましくは20日以下が望ましい。このように、タイヤTの放置日数をコントロールすることにより、実際の経年劣化と非常に相関性の良い劣化状態が短日数で得られる。
【0031】
また、本実施形態のタイヤ劣化促進方法では、タイヤTを収容体1から取り出した後、ドラム耐久試験を行う耐久試験工程がさらに行われる。収容体1から取り出されたタイヤTには、実際の経年劣化に近似した劣化ないし老化が生じている。従って、かかるタイヤTを用いて耐久試験を行うことによって、経年劣化後の性能を精度良く、かつ、実際にタイヤを経年劣化させることなく評価できる。従って、短期間での評価が可能となる。
【0032】
前記ドラム耐久試験は、例えばJIS−D4230に規定されるように、負荷をかけながら速度をステップアップさせる高速耐久性試験方法などが好適である。
【0033】
また、耐久試験工程では、前記タイヤTに正規内圧の好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上の内圧が充填されるのが望ましく、また、好ましくは150%以下、より好ましくは130%以下の内圧が充填されるのが望ましい。タイヤTの内圧が過度に大きくなると、劣化工程によって発生したタイヤ表面のクラック等を起点として亀裂が過度に進行し、耐久試験を精度良く行うことができない傾向がある。逆に、タイヤTの内圧が小さくなると、タイヤの撓みが過度に大きくなってやはり耐久試験を精度良く行うことができないおそれがある。
【0034】
同様の観点より、上記耐久試験工程では、タイヤTに正規荷重の好ましくは50%以上、より好ましくは100%以上の荷重が負荷されるのが望ましく、また、好ましくは250%以下、より好ましくは180%以下の荷重が負荷されるのが望ましい。
【0035】
なお、前記「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば"最大負荷能力"、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"とするが、タイヤが乗用車用の場合には前記各荷重の88%に相当する荷重とする。
【0036】
また、劣化工程及び該劣化工程の後に行われる耐久試験工程は、夫々1回行われる態様でも良いが、好ましくは、劣化工程と耐久試験工程とが交互にそれぞれ複数回以上繰り返されて行われるのが望ましい。これにより、さらに短期間で、経年劣化したタイヤTを再現できるため、運転コストを削減できる。
【0037】
さらに、タイヤ劣化促進方法は、上記劣化工程に先立ち、タイヤTから例えば表面の老化防止剤を除去する老化防止剤除去工程を含むことが望ましい。タイヤTには、耐候性などを高めるために、ヒンダードフェノール系等の化合物等、各種の老化防止剤が配合されており、これがタイヤの外表面に現れている。従って、このような老化防止剤をタイヤの表面から予め除去しておくことにより、タイヤTの経時的劣化がさらに促進され、前記劣化工程におけるタイヤTの放置日数を短縮できる、また、これに伴い、オゾン発生装置2の運転コストも低減できる。
【0038】
老化防止剤除去工程は、例えば、タイヤTの外表面に現れている老化防止剤を洗浄又は拭き取りによって除去することで行われる。
【0039】
以上本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施することができる。例えば、上記実施形態では、収容体1としてチャンバー3を示したが、例えば、収容体1は、オゾン透過率の小さい樹脂等からなる袋等で構成されても良い。
【実施例】
【0040】
本発明の効果を確認するために、表1の仕様でそれぞれ2本ずつタイヤを劣化促進させ、実際に経年劣化したタイヤ(3年間屋外に放置したタイヤ)との劣化状態が比較された。
【0041】
テストに使用された各タイヤは、サイズ195/65R15の乗用車用の空気入りタイヤであり、各タイヤは、15×6.0のリムに組み付けられた後、内圧230kPaを充填されて表1の仕様条件に設定された収容体に放置された。収容体は、幅727cm、奥行320cm、高さ270cmの直方体空間を有するチャンバーとし、オゾン発生器には、スガ試験機株式会社製のOMR−5Cが採用された。
評価方法は次の通りである。
【0042】
<クラック数>
劣化促進工程を経たタイヤの一方のサイドウォール部に発生した長さ3mm以上のクラックの本数が肉眼で計数された。
【0043】
<高速耐久性試験>
劣化促進工程を経たタイヤについて、JIS−D4230の高速耐久性試験方法が行われた。そして、クラックの成長状態が肉眼により観察され、以下の基準で評価された。
○:実際の経年劣化したタイヤのクラックの成長に近似
△:実際の経年劣化したタイヤのクラックの成長に少し近似
×:実際の経年劣化したタイヤのクラックの成長に全く近似していない
テスト結果などを表1に示す。
【0044】
【表1】


【0045】
テストの結果、実施例のタイヤは、実際の経年劣化したタイヤと同様のクラックが発生し、さらに高速耐久試験によるクラックの成長状態も近似しており、十分経時劣化が再現されていることが確認できる。
【0046】
次に、実施例及び従来例1(図2(a))、及び従来例2(図2(b))の劣化促進方法による運転コストが比較された。運転コストは、オゾン発生装置を稼働させる費用のみで算出したところ、実施例の運転コスト100に対して、従来例1では300、従来例2では500であった。この実験により、本発明のタイヤ劣化促進方法では、低コストでタイヤを劣化させ得ることが確認できた。テスト結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【符号の説明】
【0048】
1 収容体
2 オゾン供給装置
3 チャンバー
T タイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾンを用いてタイヤの劣化を促進させるタイヤ劣化促進方法であって、オゾン濃度が0.1〜1.0ppmである気体が充填された気密な収容体の中にタイヤを放置して劣化させる劣化工程を含むことを特徴とするタイヤ劣化促進方法。
【請求項2】
前記収容体中のオゾン濃度が0.3〜0.7ppmである請求項1記載のタイヤ劣化促進方法。
【請求項3】
前記タイヤは、リム組みされかつ内圧が充填された状態で前記収容体の中に放置される請求項1又は2に記載のタイヤ劣化促進方法。
【請求項4】
前記劣化工程に先立ち、前記タイヤから老化防止剤を除去する老化防止剤除去工程を含む請求項1乃至3のいずれかに記載のタイヤ劣化方法。
【請求項5】
前記タイヤを前記収容体から取り出した後、ドラム耐久試験を行う耐久試験工程をさらに含む請求項1乃至4のいずれかに記載のタイヤ劣化促進方法。
【請求項6】
前記耐久試験工程は、前記タイヤに、正規内圧の50〜150%の内圧を充填しかつ正規荷重の50〜250%の荷重を負荷して行われる請求項5に記載のタイヤ劣化促進方法。
【請求項7】
前記劣化工程と前記耐久試験工程とが、交互に繰り返される請求項5又は6記載のタイヤ劣化促進方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−127921(P2012−127921A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282130(P2010−282130)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】