説明

タイヤ用ゴム組成物およびそれを用いたスタッドレスタイヤ

【課題】本発明は耐摩耗性能を維持しながら氷雪路面におけるグリップ性能を向上したタイヤ用ゴム組成物、およびそれを用いたタイヤを提供することを目的とする。
【解決手段】天然ゴムを20質量%以上さらにポリブタジエンを5質量%以上含むジエン系ゴム成分100質量部に対して、芳香族ビニル重合体を5〜150質量部とシリカを5〜200質量部含むタイヤ用ゴム組成物。前記ポリブタジエンのシス含量が93%以上であり、前記芳香族ビニル重合体の重量平均分子量が300〜10000であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐摩耗性などの特性を維持しながら氷結路面および積雪路面におけるグリップ性能を向上させたタイヤ用ゴム組成物、特に該タイヤ用ゴム組成物を用いたスタッドレスタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スタッドレスタイヤは冬期の氷結路面および積雪路面(以下、「氷雪路面」という)の走行に使用されるため、氷雪路面における高いグリップ性が要求される。また近年の乗用車の高馬力化、および高速道路の整備などに伴い、高速走行下で舗装路面における加速性能やブレーキ性能に代表されるグリップ性能とともに耐摩耗性が重要な要求特性となっている。
【0003】
従来、スチレンブタジェンゴムなどのゴム組成物に軟化剤としてナタネ油を配合することにより、低転がり抵抗、ウエットグリップ性を保持しながら、氷雪上路面での牽引性、制動性を改善した技術がある。しかしスチレンブタジエンゴムを主成分とするゴム組成物ではtanδピーク温度(Tg)が−50℃より高くなり、低温時の硬さが上昇するため、充分な氷雪路面のグリップ特性は得られない。
【0004】
また従来技術として、天然ゴムおよびブタジエンゴムからなるゴム成分にパーム油を配合するものがある。しかしパーム油を配合したゴム組成物からなるタイヤでは、低温時でのゴム硬度が高くなり、また長期に亘って、氷雪上路面でのグリップ性能を維持することは困難である。
【0005】
特に、特許文献1は、グリップ性を改善するため低分子量のスチレンブタジエン共重合体を用いる技術を開示している。ここで低分子量のスチレンブタジエン共重合体は架橋性を有する二重結合を有するので、一部の低分子量のスチレンブタジエン共重合体がマトリクスのゴムと架橋を形成する。そのため低分子量のスチレンブタジエン共重合体は、マトリクスに取り込まれ、充分なヒステリシスロスを発生せずグリップ性は充分改善できないことがある。さらに、低分子量のスチレンブタジエン共重合体が架橋によりマトリクスに取り込まれないようにするため、その二重結合部分を水素添加により飽和結合にした場合、マトリクスとの相溶性が著しく悪くなり、その結果、耐破壊特性が低下したり、低分子量のスチレンブタジエン共重合体成分がブリードしてくる傾向があった。
【0006】
また、特許文献2は、グリップ性能および耐摩耗性に優れるタイヤ用ゴム組成物として、スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムの合計含有率が80質量%以上であるジエン系ゴムにガラス転位温度が10℃以下である芳香族ビニル重合体を配合する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005−154696号公報
【特許文献2】特開2007−112994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は耐摩耗性能を維持しながら氷雪路面におけるグリップ性能を向上したタイヤ用ゴム組成物、およびそれを用いたタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、天然ゴムを20質量%以上さらにポリブタジエンを5質量%以上含むジエン系ゴム成分100質量部に対して、芳香族ビニル重合体を2〜150質量部とシリカを5〜200質量部含むタイヤ用ゴム組成物である。前記ポリブタジエンのシス含量が93%以上であることが望ましい。
【0009】
また前記芳香族ビニル重合体の重量平均分子量が300〜10000であることが好ましく、特に重量平均分子量が300〜2000であることがより好ましい。また前記芳香族ビニル重合体のモノマー成分が、スチレンまたはα−メチルスチレンであるこのが好ましい。
【0010】
本発明は、更に前記タイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いたスタッドレスタイヤである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、天然ゴムを20質量%以上さらにポリブタジエンを5質量%以上含むジエン系ゴム成分に、シリカと芳香族ビニル重合体を所定量配合することでジエン系ゴムのマトリックスに芳香族ビニル重合体が均一に分散してゴム組成物の摩擦力の付与に寄与し低温でのグリップ性能、特に氷雪路面に走行する際のグリップ性能を大幅に改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、天然ゴムを20質量%以上さらにポリブタジエンを5質量%以上含むジエン系ゴム成分100質量部に対して、芳香族ビニル重合体を2〜150質量部とシリカを5〜200質量部含むタイヤ用ゴム組成物である。
【0013】
<ジエン系ゴム成分>
本発明において、ジエン系ゴム成分に天然ゴムを20質量%以上含んでいる。天然ゴムはガラス転位点(Tg)が低いため、氷点下の低温においても、ゴムとしての基本特性が維持され、氷雪路面のグリップ性および耐摩耗性が向上する。天然ゴムはジエン系ゴム成分の50質量%以上を含むことが好ましく、特に60質量%以上が好ましい。
【0014】
また本発明ではジエン系ゴム成分にポリブタジエンを5質量%以上含み、好ましくは、10質量%以上、特に20質量%以上が好ましい。またポリブタジエンは80質量%以下、特に50質量%以下含むことがより好ましい。ポリブタジエンは、芳香族ビニル重合体との相溶性に優れ氷点下の温度におけるグリップ性能に優れている。ポリブタジエンの含量が5質量%未満の場合、氷雪路面のグリップ性と耐摩耗性のバランスが低下する傾向にある。またポリブタジエンの含有量が80質量%を超えると、耐摩耗性および加工性が低下する傾向にある。
【0015】
前記ポリブタジエンはシス含量が93%以上、特に96%以上が好ましい。シス含量が93%未満の場合には氷雪路面のグリップ性が低下するとともに、耐摩耗性も低下する傾向にある。ここで、シス含量は、炭素−13核磁気共鳴分光法(13C−NMR)の測定方法によって得られた値である。
【0016】
本発明において、天然ゴムの配合量(Wn)とポリブタジエンの配合量(Wb)の混合割合(Wn/Wb)は、20/80〜95/5の範囲、特に40/60〜95/5の範囲が好ましい。上記混合割合において氷雪路面のグリップ性と耐摩耗性を同時に改善することができる。
【0017】
本発明において天然ゴムおよびブタジエンゴムとともに混合されるジエン系ゴムとしては特に制限はない。例えば、合成イソプレンゴム(IR)、低シスーポリブタジエンゴム(L−BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)などがあげられ、これらのゴムは単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、グリップ性能および耐摩耗性を高次にバランスよく向上させることからSBRを混合することが好ましい。
【0018】
天然ゴムおよびポリブタジエンゴム以外のジエン系ゴムの混合割合は、50質量%以下、更に30質量%以下がより好ましい。
【0019】
<芳香族ビニル重合体>
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、芳香族ビニル重合体を含有することにより、グリップ性能および耐摩耗性を高次にバランスよく向上させることができる。
【0020】
芳香族ビニル重合体の重量平均分子量(Mw)は300以上が好ましく、350以上がより好ましい。重量平均分子量(Mw)が300未満の場合、氷雪路面のグリップ性の向上が充分でない。重量平均分子量(Mw)は10000以下、更に8000以下であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)が10000を超えると氷雪路面のグリップ性の低下し、発熱性の低減が困難となる傾向にある。
【0021】
芳香族ビニル重合体の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、2質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。芳香族ビニル重合体の含有量が2質量部未満では、とくにグリップ性能の改善効果が得られにくい傾向がある。また、芳香族ビニル重合体の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、150質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましい。芳香族ビニル重合体の含有量が150質量部をこえると、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0022】
前記芳香族ビニル重合体のモノマー成分としては、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、3−ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4−シクロヘキシルスチレン、2,4,6−トリメチルスチレンなどの芳香族ビニルモノマーがあげられる。
【0023】
芳香族ビニルモノマーとしては、経済的で、加工しやすく、グリップ特性に優れていることから、スチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0024】
本発明で使用する芳香族ビニル重合体は、1種類もしくは2種類以上の芳香族ビニルモノマーを単独重合または共重合させて得られる(共)重合体をいい、芳香族ビニルモノマー以外のモノマーとの共重合体は含まない。モノマー成分として、共役ジエンモノマーなど芳香族ビニルモノマー以外のモノマーを含む共重合体は、ジエン系ゴムとの相溶性が劣る。さらに加硫時に芳香族ビニル重合体がジエン系ゴムと共架橋してしまい、強度が低下し耐摩耗性が悪化するため好ましくない。
【0025】
<シリカ>
本発明において、シリカはゴム成分の100質量部に対して5質量部以上で200質量部以下で配合される。シリカの配合量が5質量部未満の場合、耐摩耗性が低下する傾向がある。200質量部を超える場合、加工性および低燃費性が低下する傾向にある。シリカは好ましくは、ゴム成分の100質量部に対して10質量部以上で150質量部以下で配合される。
【0026】
シリカは汎用ゴム一般に用いられるものを使用でき、たとえば補強材として使用される乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン、コロイダルシリカ等が挙げられる。中でも含水ケイ酸を主成分とする湿式法ホワイトカーボンが好ましい。シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、たとえば100〜300m2/g、さらに120〜280m2/gの範囲内であることが好ましい。シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)が100m2/g未満の場合、補強効果が十分ではなく、またタイヤの耐摩耗性を効率的に改善できない。一方、該窒素吸着比表面積が300m2/gを超えると、シリカの分散性が低下し、ゴム組成物の発熱が増大する傾向にある。なお、窒素吸着比表面積(N2SA)は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される。
【0027】
ゴム組成物にシリカを配合する場合には、シラン系カップリング剤、好ましくは含硫黄シランカップリング剤を、通常はシリカ質量に対して1質量%以上20質量%以下で配合する。シランカップリング剤を1質量%以上配合することでタイヤの耐摩耗性が向上し転がり抵抗の低減が達成できる。一方シランカップリング剤の配合量が20質量%以下の場合、ゴムの混練、押出工程での焼け(スコーチ)が生じる危険性が少ない。
【0028】
含硫黄シランカップリング剤としては、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、トリメトキシシリルプロピル−メルカプトベンゾチアゾールテトラスルフィド、トリエトキシシリルプロピル−メタクリレート−モノスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイル−テトラスルフィド、ビス−[3−(トリエトキシシリル)−プロピル]テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が例示される。その他のシラン系カップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等を使用することができる。
【0029】
本発明では、用途に応じてその他のカップリング剤、例えばアルミネート系カップリング剤、チタン系カップリング剤を単独またはシラン系カップリング剤と併用して使用することも可能である。
【0030】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、シリカ以外の補強用充填剤を含有することができる。補強用充填剤としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレー、アルミナ、タルクなど、従来タイヤ用ゴム組成物において慣用されるものであればとくに制限はないが、主としてカーボンブラックが好ましく、これらの補強用充填剤は単独で用いても、2種類以上組合せて用いてもよい。
【0031】
充填剤としてカーボンブラックを添加する場合、カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましい。カーボンブラックの含有量が5質量部未満では、耐摩耗性が低下する傾向がある。また、カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、200質量部以下であることが好ましく、150質量部以下であることがより好ましい。カーボンブラックの含有量が200質量部をこえると、加工性および低燃費性が低下する傾向がある。
【0032】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、80m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましい。窒素吸着比表面積(N2SA)が80m2/g未満では、グリップ性能および耐摩耗性が低下する傾向がある。また、窒素吸着比表面積(N2SA)は280m2/g以下であることが好ましく、200m2/g以下であることがより好ましい。窒素吸着比表面積(N2SA)が280m2/gを超えると、良好な分散が得られにくく、耐摩耗性が低下する傾向がある。
【0033】
ゴム組成物には、上記の他に加硫剤、加硫促進剤、軟化剤、可塑剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化防止剤およびオゾン劣化防止剤等を添加することが好ましい。
【0034】
加硫剤としては、有機過酸化物もしくは硫黄系加硫剤を使用できる。有機過酸化物としては、たとえば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3あるいは1,3−ビス(t−ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピールベンゼン、t−ブチルパーオキシベンゼン、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシロキサン、n−ブチル−4,4−ジ−t−ブチルパーオキシバレレートなどを使用することができる。これらの中で、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼンおよびジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピルベンゼンが好ましい。また、硫黄系加硫剤としては、たとえば、硫黄、モルホリンジスルフィドなどを使用することができる。これらの中では硫黄が好ましい。
【0035】
加硫促進剤としては、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系またはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、もしくは、キサンテート系加硫促進剤のうち少なくとも一つを含有するものを使用することが可能である。
【0036】
老化防止剤としては、アミン系、フェノール系、イミダゾール系の化合物や、カルバミン酸金属塩、ワックスなどを適宜選択して使用することが可能である。
【0037】
軟化剤としては、プロセスオイル、潤滑油、パラフィン、流動パラフィン、石油アスファルト、ワセリンなどの石油系軟化剤、ヒマシ油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油などの脂肪油系軟化剤、トール油、サブ、蜜ロウ、カルナバロウ、ラノリンなどのワックス類、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ラウリン酸などの脂肪酸、等が挙げられる。
【0038】
可塑剤としては、DMP(フタル酸ジメチル)、DEP(フタル酸ジエチル)、DBP(フタル酸ジブチル)、DHP(フタル酸ジヘプチル)、DOP(フタル酸ジオクチル)、DINP(フタル酸ジイソノニル)、DIDP(フタル酸ジイソデシル)、BBP(フタル酸ブチルベンジル)、DLP(フタル酸ジラウリル)、DCHP(フタル酸ジシクロヘキシル)、無水ヒドロフタル酸エステル、DOZ(アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシル)、DBS(セバシン酸ジブチル)、DOS(セバシン酸ジオクチル)、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、DBM(マレイン酸ジブチル)、DOM(マレイン酸−2−エチルヘキシル)、DBF(フマル酸ジブチル)等が挙げられる。
【0039】
<空気入りタイヤ>
本発明のタイヤは、本発明のゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて前記各種薬品を配合した本発明のゴム組成物を未加硫の段階でタイヤの各部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを得る。このようにして得られた本発明のタイヤは、グリップ性能および耐摩耗性のバランスに優れ、タイヤ部材のなかでも特にスタッドレスタイヤのトレッドなどとして用いることが好ましい。
【0040】
図1は、本発明の空気入りタイヤの断面の右半分を示す。タイヤ1は、トレッド部7と、その両端からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部8と、各サイドウォール部の内方端に位置するビード部3およびリム上部に位置するチェーファー2とを備える。また両側のビード部3の間にはカーカス10が架け渡されるとともに、このカーカス10のタイヤ半径方向外側にブレーカー部9が配置される。前記カーカス10は、カーカスコードを配列する1枚以上のカーカスプライから形成され、このカーカスプライは、トレッド部からサイドウォール部を経て、ビードコア4と、該ビードコア4の上端からサイドウォール方向に延びるビードエーペックス5との廻りをタイヤ軸方向の内側から外側に折返されて係止される。ブレーカー部9は、ブレーカーコードを配列した2枚以上のブレーカープライからなり、各ブレーカーコードがブレーカープライ間で交差するよう向きを違えて配置している。前記ブレーカー部の上側にはタイヤ走行時のブレーカー両端のリフチィングを軽減するため、バンド6が配置されている。本発明においてタイヤ用ゴム組成物は、トレッド部7に使用される。なお図1は乗用車用タイヤについて例示したが、トラックバスタイヤ、ライトトラック用タイヤ等にも適用できる。
【実施例】
【0041】
本発明を実施例に基づいて、詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0042】
<芳香族ビニル重合体(1)〜(4)の合成>
(芳香族ビニル重合体(1)の合成)
充分に窒素置換した100ml容器に、シクロヘキサン35ml、テトラヒドロフラン0.5ml、スチレン2.5mlおよび1.6mol/lのn−ブチルリチウムヘキサン溶液2.7mlを添加し、室温で1時間撹拌した後、イソプロパノールを添加して反応を停止させ、芳香族ビニル重合体(1)を合成した。なお、ここで用いた薬品はいずれも東京化成工業(株)製である。
【0043】
(芳香族ビニル重合体(2)の合成)
前記芳香族ビニル重合体(1)の合成において、スチレンの量を2.5mlに代えて5ml添加すること以外は同じ条件で、芳香族ビニル重合体(2)を合成した。
【0044】
(芳香族ビニル重合体(3)の合成)
前記芳香族ビニル重合体(1)の合成において、スチレンに代えてα−メチルスチレンを2.9ml添加すること以外は同じ条件で、芳香族ビニル重合体(3)を合成した。
【0045】
(芳香族ビニル重合体(4)の合成)
前記芳香族ビニル重合体(2)の合成において、1.6mol/lのn−ブチルリチウムヘキサン溶液を、2.7mlに代えて0.27ml添加すること以外は同じ条件で、芳香族ビニル重合体(4)を合成した。
【0046】
得られた芳香族ビニル重合体(1)〜(4)のモノマー成分および重量平均分子量を以下に示す。重量平均分子量(Mw)は、東ソー(株)製のGPC−8000シリーズの装置を用い、検知器として示差屈折計を用いて測定し、分子量は標準ポリスチレンにより校正することにより測定した。
芳香族ビニル重合体(1)(モノマー成分:スチレン、重量平均分子量(Mw=480)。
芳香族ビニル重合体(2)(モノマー成分:スチレン、重量平均分子量(Mw=1020)。
芳香族ビニル重合体(3)(モノマー成分:α−メチルスチレン、重量平均分子量(Mw=520)。
芳香族ビニル重合体(4)(モノマー成分:スチレン、重量平均分子量(Mw=10700)。
【0047】
実施例1〜5および比較例1〜5
硫黄および加硫促進剤以外の薬品を表1、表2に示す配合量添加し、バンバリーミキサーを用いて、150℃で5分間混練りした。その後、得られた混練物に対して、硫黄および加硫促進剤を表1、表2に示す配合量添加し、2軸オープンロールを用いて、50℃で5分間混練りし、未加硫ゴム組成物を得た。さらに得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件にて15分間プレス加硫することにより実施例、比較例の加硫ゴム組成物を得た。
【0048】
前記各未加硫ゴム組成物をトレッド形状に押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに成形し、170℃で10分間プレス加硫し、図1に示す構造のタイヤ(サイズ195/65R15)を製造した。試作タイヤの基本構造は次のとおりである。
【0049】
カーカスプライ
コード角度 タイヤ周方向に90度
コード材料 ポリエステル 1100dtex/2
ブレーカー
コード角度 タイヤ周方向に25度×25度
コード材料 スチールコード(1×5)
本発明の実施例および比較例で用いた薬品をまとめて以下に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
(注1)天然ゴム:テックビーハング社製のRSS#3。
(注2)BR1:宇部興産(株)製のウベポールBR150B(シス含量:96%)、
BR2:日本ゼオン(株)製のニッポールBR1242(シス含量:36%)。
(注3)SBR:日本ゼオン(株)製のニッポールNS116。
(注4)カーボンブラック:キャボットジャッパン(株)製のショウブラックN220(窒素吸着比表面積:125m2/g)。
(注5)シリカ:デグッサ社製のウルトラジルVN3(N2SA:210m2/m)。
(注6)シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)。
(注7)オイル:出光興産(株)製のダイナプロセスオイルPS323。
(注8)芳香族ビニル重合体(1):上記重合方法で得られた重合体(モノマー:スチレン、Mw=480)。
(注9)芳香族ビニル重合体(2):上記重合方法で得られた重合体(モノマー:スチレン、Mw=1020)。
(注10)芳香族ビニル重合体(3):上記重合方法で得られた重合体(モノマー:α−メチルスチレン、Mw=520)。
(注11)芳香族ビニル重合体(4):上記重合方法で得られた重合体(モノマー:スチレン、Mw=10700)。
(注12)ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス。
(注13)老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)。
(注14)ステアリン酸:日本油脂(株)製。
(注15)酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号。
(注16)硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄。
(注17)加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)のノクセラーCZ(N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)。
(注18)加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)のノクセラーD(N,N’−ジフェニルグアニジン)。
【0053】
加硫ゴムおよび試作タイヤの特性評価は以下の方法で行なった。
<グリップ性能(1)>
温度制御された恒温室内に設置された氷面上にゴム試験片を一定荷重で押し付け、一定速度で滑らせるときの摩擦力を検出した。試験条件は、氷温および恒温室温度を−5℃、速度20km/h、設置圧力2kg/cm2となるように荷重をかけた。なお評価は比較例1を100として指数表示をした。数値が大きいほどグリップ性能が優れることを示す。
【0054】
<グリップ性能(2)>
試作タイヤを排気量2000ccの国産FRに装着し、気温−1℃〜−6℃において速度30km/hで制動し、制動時から停車までの氷上での路面走行距離(制動距離)を測定し、その距離の逆数値を求めた。比較例1を100として実施例1〜5、比較例2、3を、その相対値で示し、比較例4を100として実施例6、比較例5をその相対値で示す。数値が大きいほどグリップ性が優れることを示す。
【0055】
<耐摩耗性>
前記試作タイヤを前記国産FRに装着し、前記路面上を20周走行し走行前後における溝の深さの変化を計測し、比較例1の深さを基準として、以下の式によりそれぞれ耐摩耗性指数を算出した。耐摩耗性指数の数値が大きいほど耐摩耗性が良いことを示している。
(耐摩耗性指数)=(比較例1の溝の深さの変化)/(各実施例の溝の深さの変化)×100
表1および表2から芳香族ビニル重合体(1)〜(4)を配合した実施例1〜6では、いずれもグリップ性能および耐摩耗性が向上していることが認められる。
【0056】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、天然ゴムとポリブタジエンのゴム成分にシリカと芳香族ポリビニル重合体を所定量配合することで耐摩耗性を維持しながら氷雪路面におけるグリップ性能が改善される。本発明は乗用車用タイヤのみならずトラックバスタイヤ、ライトトラック用タイヤ等の各種のカテゴリーのタイヤにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の空気入りタイヤの断面図の右半分を示す。
【符号の説明】
【0059】
1 タイヤ、2 チェーファー、3 ビード部、4 ビードコア、5 ビードエーペックス、6 バンド、7 トレッド部、8 サイドウオール部、9 ブレーカー部、10 カーカス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムを20質量%以上さらにポリブタジエンを5質量%以上含むジエン系ゴム成分100質量部に対して、芳香族ビニル重合体を2〜150重量部とシリカを5〜200質量部含むタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ポリブタジエンのシス含量が93%以上である請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記芳香族ビニル重合体の重量平均分子量が300〜10000である請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記芳香族ビニル重合体の重量平均分子量が300〜2000である請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
芳香族ビニル重合体のモノマー成分が、スチレンまたはα−メチルスチレンである請求項1〜4のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いたスタッドレスタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2009−1720(P2009−1720A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165408(P2007−165408)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】