説明

タイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】優れた低燃費性を有するとともに、加工性、破断特性および耐摩耗性も向上したタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】重量平均分子量(Mw)が70万〜90万、数平均分子量(Mn)が20万〜40万、Mw/Mnが1.5〜3.0であるブタジエンゴム5〜40質量部と、天然ゴムおよび/またはイソプレンゴム60〜95質量部とからなるジエン系ゴム100質量部に対し、Mnが2万〜5万のブタジエン重合体を10〜30質量部およびCTAB吸着比表面積が100〜150m/gのカーボンブラックを30〜60質量部配合してなるタイヤ用ゴム組成物と、該ゴム組成物をトレッド(3)に使用した空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、優れた低燃費性を有するとともに、加工性、破断特性および耐摩耗性も向上したタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の環境意識の高まりに伴い、タイヤの低燃費性を向上させることが求められ、例えばトラック、バス等の重荷重車用コンパウンドについても同様の検討がなされている。
低発熱化のためには、分子量の高いゴム成分を使用するのが有効であるが、コンパウンドの粘度が上昇し、加工性が悪化してしまう。
そこで、プロセスオイル等の軟化剤の配合量を増加することにより、粘度の低減が図れるが、この場合、発熱性が高くなる、耐摩耗性が低下する等の問題が生じてしまう。
【0003】
下記特許文献1および2には、特定のブタジエンゴムを含むジエン系ゴム成分に対し、特定の比表面積を有するカーボンブラックを配合し、加工性および耐摩耗性の両立を試みた発明が開示されている。しかしながら引用文献1および2には、本発明で使用するような高分子量のブタジエンゴムの開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−31266号公報
【特許文献2】特開2005−298612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、優れた低燃費性を有するとともに、加工性、破断特性および耐摩耗性も向上したタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の高分子量ブタジエンゴムと天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムとを組み合わせ、そこに特定の低分子量ブタジエン重合体の特定量および特定の比表面積を有するカーボンブラックの特定量を配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
1.重量平均分子量(Mw)が70万〜90万であり、数平均分子量(Mn)が20万〜40万であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が1.5〜3.0であるブタジエンゴム5〜40質量部と、天然ゴムおよび/またはイソプレンゴム60〜95質量部とからなるジエン系ゴム100質量部に対して、
数平均分子量(Mn)が2万〜5万であるブタジエン重合体を10〜30質量部、および
CTAB吸着比表面積が100〜150m/gのカーボンブラックを30〜60質量部配合してなることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
2.前記1に記載のタイヤ用ゴム組成物をトレッドに使用した空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特定の高分子量ブタジエンゴムと天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムとを組み合わせ、そこに特定の低分子量ブタジエン重合体の特定量および特定の比表面積を有するカーボンブラックの特定量を配合したので、優れた低燃費性を有するとともに、加工性、破断特性および耐摩耗性も向上したタイヤ用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】空気入りタイヤの一例の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
図1は、空気入りタイヤの一例の部分断面図である。
図1において、空気入りタイヤは左右一対のビード部1およびサイドウォール2と、両サイドウォール2に連なるトレッド3からなり、ビード部1、1間にスチールコードが埋設されたカーカス層4が装架され、カーカス層4の端部がビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。ビードフィラー6は2つの部材から構成され、その上部は上ビードフィラー62であり、下部は下ビードフィラー64である。トレッド3においては、カーカス層4の外側に、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。ベルト層7の両端部には、ベルトクッション8が配置されている。また、トレッド3の内周側には、アンダートレッド31が配置されている。空気入りタイヤの内面には、タイヤ内部に充填された空気がタイヤ外部に漏れるのを防止するために、インナーライナー9が設けられ、インナーライナー9を接着するためのタイゴム10が、カーカス層4とインナーライナー9との間に積層されている。また、ビード部1においてはリムに接する部分にリムクッション11が配置されている。
以下に説明する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、トレッド3に有用であり、とくにキャップトレッドに有用である。
【0011】
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴムは、重量平均分子量(Mw)が70万〜90万であり、数平均分子量(Mn)が20万〜40万であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が1.5〜3.0であるブタジエンゴム(以下、高分子量BRという)5〜40質量部と、天然ゴム(NR)および/またはイソプレンゴム(IR)60〜95質量部とからなる。なお、ジエン系ゴムの合計量は100質量部とする。
高分子量BRの配合量が5質量部未満では、使用量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に40質量部を超えると、粘度が高くなり、特に押し出し加工性が悪化する。
さらに好ましい配合量は、高分子量BRが10〜35質量部、NRおよび/またはIRが65〜90質量部である。
【0012】
前記のように、高分子量BRは、重量平均分子量(Mw)が70万〜90万であり、数平均分子量(Mn)が20万〜40万であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が1.5〜3.0である必要がある。当該分子量の範囲を一つでも満たさない場合、本発明の効果を奏することができない。
なお、本発明において重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により求めた値である。また測定器としては、カラム(Polymer Laboratories製MIXED−B)三本を直列に連結し、検出器として示差屈折計(東ソー(株)製RI−8020)、溶離液としてテトラヒドロフラン、カラム温度として40℃の条件を採用した。
高分子量BRの重量平均分子量(Mw)は、71〜80万が好ましく、71〜78万がさらに好ましい。
高分子量BRの数平均分子量(Mn)は、22〜38万が好ましく、25〜35万がさらに好ましい。
高分子量BRの分子量分布(Mw/Mn)は、1.8〜2.7が好ましい。
【0013】
(低分子量ブタジエン重合体)
本発明で使用する低分子量ブタジエン重合体は、数平均分子量(Mn)が2万〜5万である必要がある。
低分子量ブタジエン重合体の数平均分子量(Mn)が2万未満であると、発熱性が悪化する。逆に5万を超えると、粘度低減効果が低下する。
低分子量ブタジエン重合体の数平均分子量(Mn)は、2.2万〜4.8万が好ましく、2.5万〜4.5万がさらに好ましい。
【0014】
(カーボンブラック)
本発明で使用されるカーボンブラックは、CTAB吸着比表面積が100〜150m/gである必要がある。CTAB吸着比表面積が100m/g未満では、破断特性および耐摩耗性が悪化する。逆に150m/gを超えると、加工性および発熱性が悪化する。
さらに好ましいCTAB吸着比表面積は、110〜145m/gである。
なお、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積は、JIS K6217−3に準拠して、測定するものとする。
【0015】
(充填剤)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、前記のカーボンブラック以外にも、各種充填剤を配合することができる。充填剤としてはとくに制限されず、用途により適宜選択すればよいが、例えばシリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム等の無機充填剤を挙げることができる。
【0016】
(タイヤ用ゴム組成物の配合割合)
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、低分子量ブタジエン重合体を10〜30質量部、CTAB吸着比表面積が100〜150m/gのカーボンブラックを30〜60質量部配合することを特徴とする。
低分子量ブタジエン重合体の配合量が10質量部未満では、添加量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に30質量部を超えると、発熱性、引張強度、耐摩耗性が悪化する。
前記カーボンブラックの配合量が30質量部未満では、充分な補強効果が得られず、引張強度や耐摩耗性が悪化する。逆に60質量部を超えると、切断時伸び、発熱性が共に悪化する。
【0017】
さらに好ましい前記配合割合は、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、低分子量ブタジエン重合体が15〜25質量部、CTAB吸着比表面積が100〜150m/gのカーボンブラックが35〜55質量部である。
【0018】
本発明のタイヤ用ゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0019】
また本発明のタイヤ用ゴム組成物は従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤを製造するのに使用することができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0021】
実施例1〜6および比較例1〜11
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤および硫黄を除く成分を1.5リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、温度150℃でマスターバッチを放出し室温冷却した。その後このマスターバッチをロールにて、加硫促進剤および硫黄を加え2分間混練し、タイヤ用ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で160℃で20分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を調製した。得られた加硫ゴム試験片について以下に示す試験法で物性を測定した。
【0022】
ムーニー粘度(ML1+4:100℃):上記タイヤ用ゴム組成物を用い、JIS 6300−1に準拠して、L型ローターを用いて測定した。結果は、比較例1を100として指数で示した。指数が低いほど粘度が低く、加工性が良好であることを示す。
引張試験:JIS K 6251(JIS 3号ダンベル)に準拠して、室温にて引張試験を実施し、引張強度(TB)および切断時伸び(EB)を測定した。比較例1を100として指数で示した。指数が大きいほど強度が高く、耐チッピング性に優れることを示す。
発熱性:(株)東洋精機製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪=10%、振幅=±2%、周波数=20Hzの条件下でtanδ(60℃)を測定し、この値をもって発熱性を評価した。結果は、比較例1を100として指数で示した。指数が低いほど、低発熱性であることを示す。
耐摩耗性:JIS K6264に準拠し、ランボーン摩耗試験機(岩本製作所(株)製)を使用して、温度20℃、試験片表面回転速度80m/min、荷重40N、スリップ率30%、時間10分の条件で試験片の摩耗質量を測定し、摩耗体積を算出した。比較例1の摩耗体積の値の逆数を100として指数表示にした。指数が高いほど耐摩耗性が良好であることを示す。
結果を表1に併せて示す。
【0023】
【表1】

【0024】
*1:NR(RSS#3)
*2:BR−1(日本ゼオン(株)製Nipol 1220、重量平均分子量(Mw)=49万、数平均分子量(Mn)=18万、分子量分布(Mw/Mn)=2.7)
*3:高分子量BR−2(Lanxess社製Buna CB21、重量平均分子量(Mw)=77万、数平均分子量(Mn)=33万、分子量分布(Mw/Mn)=2.4)
*4:高分子量BR−3(Lanxess社製Buna CB22、重量平均分子量(Mw)=72万、数平均分子量(Mn)=30万、分子量分布(Mw/Mn)=2.4)
*5:BR−4(Lanxess社製Buna CB25、重量平均分子量(Mw)=59万、数平均分子量(Mn)=25万、分子量分布(Mw/Mn)=2.4)
*6:BR−5(Polimeri社製NEOCIS BR40、重量平均分子量(Mw)=76万、数平均分子量(Mn)=20万、分子量分布(Mw/Mn)=3.8)
*7:カーボンブラック−1(キャボットジャパン社製N330、CTAB吸着比表面積=80m2/g)
*8:カーボンブラック−2(Cabot社製Vulcan 10H、CTAB吸着比表面積138m/g)
*9:カーボンブラック−3(新日化カーボン社製ニテロン#415UD、CTAB吸着比表面積=181m2/g)
*10:オイル(H&R社製VIVATEC400)
*11:低分子量ブタジエン重合体−1((株)クラレ製LBR−307、数平均分子量(Mn)=8000)
*12:低分子量ブタジエン重合体−2((株)クラレ製LBR−305、数平均分子量(Mn)=26000)
*13:低分子量ブタジエン重合体−3((株)クラレ製LBR−300、数平均分子量(Mn)=44000)
*14:亜鉛華(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*15:ステアリン酸(千葉脂肪酸(株)製ステアリン酸50S)
*16:老化防止剤(FLEXSYS社製SANTOFLEX 6PPD)
*17:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製ノクセラーNS−P)
*18:硫黄(鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄)
【0025】
上記の表1から明らかなように、実施例1〜6で調製されたタイヤ用ゴム組成物は、特定の高分子量ブタジエンゴムと天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムとを組み合わせ、そこに特定の低分子量ブタジエン重合体の特定量および特定の比表面積を有するカーボンブラックの特定量を配合したので、従来の代表的な比較例1のゴム組成物に対し、優れた発熱性を有するとともに、粘度が低くなるため加工性に優れ、また破断特性および耐摩耗性にも優れる。
これに対し、比較例2は、比較例1のゴム組成物においてBRを高分子量BRに置き換えた例であり、粘度が上昇しており、加工性が悪化する。
比較例3は、比較例2のゴム組成物においてオイルを添加して粘度の低下を図ったものの、発熱性および耐摩耗性が悪化している。
比較例4は、数平均分子量(Mn)が本発明で規定する下限未満である低分子量ブタジエン重合体を用いているので、発熱性が悪化している。
比較例5は、重量平均分子量が本発明で規定する下限未満であるBRを用いているので、発熱性および耐摩耗性が悪化している。
比較例6は、分子量分布(Mw/Mn)が本発明で規定する上限を超えるBRを用いているので、発熱性が悪化している。
比較例7は、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が本発明で規定する下限未満であるので、破断特性および耐摩耗性が悪化している。
比較例8は、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が本発明で規定する上限を超えているので、粘度および発熱性が悪化している。
比較例9は、低分子量ブタジエン重合体の配合量が本発明で規定する上限を超えているので、破断特性、発熱性および耐摩耗性が共に悪化した。
比較例10は、カーボンブラックの配合量が本発明で規定する下限未満であるので、耐摩耗性が悪化した。
比較例11は、カーボンブラックの配合量が本発明で規定する上限を超えているので、発熱性および破断伸びが悪化した。
【符号の説明】
【0026】
1 ビード部
2 サイドウォール
3 トレッド
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトクッション
9 インナーライナー
10 タイゴム
11 リムクッション
31 アンダートレッド
62 上ビードフィラー
64 下ビードフィラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量(Mw)が70万〜90万であり、数平均分子量(Mn)が20万〜40万であり、かつ分子量分布(Mw/Mn)が1.5〜3.0であるブタジエンゴム5〜40質量部と、天然ゴムおよび/またはイソプレンゴム60〜95質量部とからなるジエン系ゴム100質量部に対して、
数平均分子量(Mn)が2万〜5万であるブタジエン重合体を10〜30質量部、および
CTAB吸着比表面積が100〜150m/gのカーボンブラックを30〜60質量部配合してなることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物をトレッドに使用した空気入りタイヤ。

【図1】
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【公開番号】特開2013−23638(P2013−23638A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161587(P2011−161587)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】