説明

タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】良好な加工性を有し、低燃費性、耐久性を向上できるタイヤ用ゴム組成物、及び該タイヤ用ゴム組成物をタイヤの各部材(特に、ブレーカー、カーカス)に用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】天然ゴムと、下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される化合物と、カーボンブラックとを含むタイヤ用ゴム組成物に関する。
[化1]


[式(1)中、pは2〜8の整数を表す。式(2)中、qは2〜8の整数を表す。Mr+は金属イオンを表し、rはその価数を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、車の低燃費化への要求が高まっており、トレッドだけでなく、ブレーカートッピングゴムやカーカストッピングゴムにおいても、転がり抵抗の低減(低燃費性の向上)が求められている。
【0003】
ゴム組成物において低燃費性を向上させる方法として、補強用充填剤を減量する方法が知られている。しかし、この場合、機械的強度が低下し、耐久性が低下するという問題がある。また、低燃費性を向上させる他の方法として、充填剤であるカーボンブラックをシリカで置換する方法が知られているが、この場合も、機械的強度が低下し、耐久性が低下するという問題がある。
【0004】
一方、ゴム組成物において機械的強度(耐久性)を高める方法として、オイルを減量する方法が知られているが、この場合、加工性が悪化するという問題がある。以上のように、良好な加工性を有し、低燃費性、耐久性を改善する方法が望まれている。
【0005】
特許文献1〜3では、低燃費性の向上を目的として、シリカを含む配合において、ゴムに特定の極性基を付加することによりシリカと親和性を持たせ、シリカの分散性を高め、低燃費性に優れたゴム組成物を得る方法が記載されているが、他の方法の提供も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−114939号公報
【特許文献2】特開2005−126604号公報
【特許文献3】特開2005−325206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、良好な加工性を有し、低燃費性、耐久性を向上できるタイヤ用ゴム組成物、及び該タイヤ用ゴム組成物をタイヤの各部材(特に、ブレーカー、カーカス)に用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、天然ゴムと、下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される化合物と、カーボンブラックとを含むタイヤ用ゴム組成物に関する。
【化1】

[式(1)中、pは2〜8の整数を表す。式(2)中、qは2〜8の整数を表す。Mr+は金属イオンを表し、rはその価数を表す。]
式(2)中のMr+で表される金属イオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオン、又は亜鉛イオンであることが好ましく、リチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンであることがより好ましい。
【0009】
上記タイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分100質量%中の天然ゴムの含有量が30質量%以上であることが好ましい。
【0010】
上記タイヤ用ゴム組成物は、ブタジエンゴムを含むことが好ましい。
【0011】
上記タイヤ用ゴム組成物は、上記式(1)及び上記式(2)で表される化合物の合計含有量が、カーボンブラック及びシリカの合計100質量部に対して0.18〜11質量部であることが好ましい。
【0012】
上記タイヤ用ゴム組成物は、カーボンブラックの含有量が、ゴム成分100質量部に対して10〜90質量部であることが好ましい。
【0013】
上記タイヤ用ゴム組成物は、タイヤコード被覆用ゴム組成物として用いられることが好ましく、ブレーカートッピング用ゴム組成物及び/又はカーカストッピング用ゴム組成物として用いられることがより好ましい。
【0014】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、天然ゴムと、上記式(1)及び/又は上記式(2)で表される化合物と、カーボンブラックとを含むタイヤ用ゴム組成物であるので、良好な加工性を有し、低燃費性、耐久性を向上できる。該ゴム組成物をタイヤの各部材(特に、ブレーカー、カーカス)に使用することにより、低燃費性、耐久性に優れた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、天然ゴムと、上記式(1)及び/又は上記式(2)で表される化合物と、カーボンブラックとを含む。
【0017】
天然ゴムと、上記式(1)及び/又は上記式(2)で表される化合物と、カーボンブラックとを併用することにより、良好な加工性を有し、低燃費性、耐久性を向上できる。
【0018】
本発明では、ゴム成分として天然ゴム(NR)が使用される。NRとしては特に限定されず、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。
【0019】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をブレーカートッピング用ゴム組成物として用いる場合、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは60質量%以上である。30質量%未満であると、低燃費性、耐久性及び加工性をバランス良く向上できないおそれがある。NRの含有量は、100質量%であってもよいが、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。95質量%を超えると、低燃費性が悪化するおそれがある。
【0020】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をカーカストッピング用ゴム組成物として用いる場合、ゴム成分100質量%中のNRの含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上である。30質量%未満であると、低燃費性、耐久性及び加工性をバランス良く向上できないおそれがある。NRの含有量は、100質量%であってもよいが、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。90質量%を超えると、低燃費性が悪化するおそれがある。
【0021】
NR以外に本発明に使用されるゴム成分としては、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)等のジエン系ゴムが挙げられる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、低燃費性、耐久性及び加工性がバランスよく得られるという理由から、BRが好ましい。
【0022】
BRとしては特に限定されず、例えば、高シス含有量のBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBRなどを使用できる。なかでも、シス含量が95質量%以上のBRが好ましい。
【0023】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をブレーカートッピング用ゴム組成物として用いる場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。5質量%未満であると、低燃費性が悪化するおそれがある。該BRの含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。40質量%を超えると、低燃費性、耐久性及び加工性をバランス良く向上できないおそれがある。
【0024】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をカーカストッピング用ゴム組成物として用いる場合、ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。10質量%未満であると、低燃費性が悪化するおそれがある。該BRの含有量は、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下である。70質量%を超えると、低燃費性、耐久性及び加工性をバランス良く向上できないおそれがある。
【0025】
本発明では、下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される化合物が使用される。
【化2】

[式(1)中、pは2〜8の整数を表す。式(2)中、qは2〜8の整数を表す。Mr+は金属イオンを表し、rはその価数を表す。]
【0026】
上記式(2)で表される化合物は任意の公知の方法により製造することができる。具体的には、ハロアルキルアミンとチオ硫酸ナトリウムとを反応させる方法、フタルイミドのカリウム塩とジハロアルカンとを反応させて、得られた化合物とチオ硫酸ナトリウムとを反応させ、次いで、得られた化合物を加水分解する方法等が挙げられる。
【0027】
具体的には、qが6の化合物の場合、例えば、6−ハロヘキシルアミンとチオ硫酸ナトリウムとを反応させる方法、フタルイミドのカリウム塩と1,6−ジハロヘキサンとを反応させて、得られた化合物とチオ硫酸ナトリウムとを反応させ、次いで、得られた化合物を加水分解する方法等が挙げられる。
【0028】
また、qが3の化合物の場合、例えば、3−ハロプロピルアミンとチオ硫酸ナトリウムとを反応させる方法、フタルイミドのカリウム塩と1,3―ジハロプロパンとを反応させて、得られた化合物とチオ硫酸ナトリウムとを反応させ、次いで、得られた化合物を加水分解する方法等が挙げられる。
【0029】
上記式(1)で表される化合物は、例えば、上記式(2)で表される化合物とプロトン酸とを反応させることにより製造することができる。
【0030】
本発明では、上記式(1)で表される化合物と上記式(2)で表される化合物の混合物を用いることもできる。かかる混合物は、上記式(1)で表される化合物と上記式(2)で表される化合物とを混合する方法、金属アルカリ(上記Mで示される金属を含有する水酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩等)を用いて上記式(1)で表される化合物の一部を金属塩化する方法、プロトン酸を用いて上記式(2)で表される化合物の一部を中和する方法により製造することができる。このようにして製造した上記式(1)で表される化合物、上記式(2)で表される化合物は、濃縮、晶析等の操作により、反応混合物から取り出すことができ、取り出された上記式(1)で表される化合物、上記式(2)で表される化合物は、通常0.1〜5%程度の水分を含む。本発明では、上記式(1)で表される化合物のみを用いることができ、また、上記式(2)で表される化合物のみを用いることもできる。また、複数種の上記式(1)で表される化合物、上記式(2)で表される化合物を併用することもできる。
【0031】
式(1)中、pは2〜8の整数を表し、2〜5が好ましい。式(2)中、qは2〜8の整数を表し、2〜5が好ましい。
【0032】
r+で示される金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオンおよび亜鉛イオンが好ましく、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンがより好ましく、ナトリウムイオンが更に好ましい。rは金属イオンの価数を表わし、当該金属において可能な範囲であれば、限定されない。金属イオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオンのようなアルカリ金属イオンの場合、rは通常1であり、金属イオンがコバルトイオンの場合、rは通常2または3である。金属イオンが、銅イオンの場合、rは通常1〜3の整数であり、金属イオンが、亜鉛イオンの場合、rは通常2である。上記製法によれば、通常、上記式(1)で表される化合物のナトリウム塩が得られるが、カチオン交換反応を行うことにより、ナトリウム塩以外の金属塩に変換することができる。
【0033】
上記式(1)で表される化合物、上記式(2)で表される化合物のメディアン径は、好ましくは0.05〜100μmの範囲であり、より好ましくは1〜100μmの範囲である。かかるメディアン径は、レーザー回折法にて測定することができる。
【0034】
上記式(1)で表される化合物、上記式(2)で表される化合物は、予め担持剤と混合してから使用してもよい。担持剤としては、日本ゴム協会編「ゴム工業便覧<第四版>」第510〜513頁に記載されている「無機充てん剤、補強剤」が挙げられ、なかでも、カーボンブラック、シリカ、焼成クレー、水酸化アルミニウムが好ましい。担持剤の使用量は、特に限定されないが、上記式(1)及び/又は上記式(2)で表される化合物の合計量100質量部に対して、10〜1000質量部の範囲が好ましい。
【0035】
上記式(1)及び上記式(2)で表される化合物の合計含有量は、カーボンブラック及びシリカの合計100質量部に対して、好ましくは0.18質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、特に好ましくは2質量部以上、最も好ましくは6質量部以上である。0.18質量部未満であると、低燃費性、耐久性及び加工性をバランス良く向上できないおそれがある。また、該合計含有量は、カーボンブラック及びシリカの合計100質量部に対して、好ましくは11質量部以下、より好ましくは10.5質量部以下である。11質量部を超えると、耐久性、低燃費性、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
【0036】
本発明では、カーボンブラックが使用される。使用できるカーボンブラックとしては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、特に限定されない。
【0037】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは30m/g以上、より好ましくは60m/g以上、更に好ましくは80m/g以上である。30m/g未満では、補強性が低下し、充分な耐久性、耐摩耗性が得られない傾向がある。また、該カーボンブラックのNSAは、好ましくは200m/g以下、より好ましくは160m/g以下、更に好ましくは120m/g以下である。200m/gを超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。また、分散性に劣り、耐摩耗性、耐久性が低下する傾向がある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0038】
カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量(DBP)は、好ましくは40ml/100g以上、より好ましくは60ml/100g以上である。40ml/100g未満であると、補強性が低下し、充分な耐久性、耐摩耗性が得られない傾向がある。また、カーボンブラックのDBPは、好ましくは300ml/100g以下、より好ましくは200ml/100g以下、更に好ましくは100ml/100g以下である。300ml/100gを超えると、耐久性、耐疲労特性が悪化するおそれがある。
なお、カーボンブラックのDBPは、JIS K6217−4の測定方法によって求められる。
【0039】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をブレーカートッピング用ゴム組成物として用いる場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは30質量部以上である。10質量部未満であると、低燃費性、耐久性及び加工性をバランス良く向上できないおそれがある。上記カーボンブラックの含有量は、好ましくは90質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。90質量部を超えると、低燃費性、加工性、耐久性が悪化するおそれがある。
【0040】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をカーカストッピング用ゴム組成物として用いる場合、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは15質量部以上、更に好ましくは30質量部以上、特に好ましくは50質量部以上である。10質量部未満であると、低燃費性、耐久性及び加工性をバランス良く向上できないおそれがある。上記カーボンブラックの含有量は、好ましくは90質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは70質量部以下である。90質量部を超えると、低燃費性、加工性、耐久性が悪化するおそれがある。
本発明では、カーボンブラックと共に、天然ゴムと、上記式(1)及び/又は上記式(2)で表される化合物とを併用することにより、良好な加工性を有し、低燃費性、耐久性を向上できる。そのため、低燃費性の向上のために、カーボンブラックを減量する必要がなく、カーボンブラックの含有量を上記量とすることができるので、耐久性の低下を抑制でき、低燃費性、耐久性をよりバランス良く向上できる。
【0041】
本発明のゴム組成物は、有機酸コバルトを含むことが好ましい。有機酸コバルトは、コード(スチールコード)とゴムとを架橋する役目を果たすため、この成分を配合することにより、コードとゴムとの接着性を向上させることができる。有機酸コバルトとしては、例えば、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ホウ素3ネオデカン酸コバルトなどが挙げられる。なかでも、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルトが好ましい。
【0042】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をブレーカートッピング用ゴム組成物として用いる場合、有機酸コバルトの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、コバルトに換算して好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.08質量部以上である。0.05質量部未満では、コード(スチールコードのメッキ層)とゴムの接着性が充分ではなく、耐久性が低下する傾向がある。また、該含有量は、好ましくは0.25質量部以下、より好ましくは0.20質量部以下である。0.25質量部を超えると、加工中、加硫中、使用中のいずれにおいてもゴムの熱劣化が発生し、耐久性が低下する傾向がある。
【0043】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をカーカストッピング用ゴム組成物として用いる場合、有機酸コバルトの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、コバルトに換算して好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.07質量部以上である。0.05質量部未満では、コード(スチールコードのメッキ層)とゴムの接着性が充分ではなく、耐久性が低下する傾向がある。また、該含有量は、好ましくは0.15質量部以下、より好ましくは0.12質量部以下である。0.15質量部を超えると、加工中、加硫中、使用中のいずれにおいてもゴムの熱劣化が発生し、耐久性が低下する傾向がある。
【0044】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、シリカ、クレー等の補強用充填剤、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加工助剤、各種老化防止剤、オイル等の軟化剤、ワックス、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0045】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系若しくはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、又は、キサンテート系加硫促進剤が挙げられる。なかでも、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましい。
【0046】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)等が挙げられる。なかでも、DZが好ましい。
【0047】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をブレーカートッピング用ゴム組成物として用いる場合、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは4質量部以上である。2質量部未満であると、耐久性及び加工性(特に、加工性)をバランス良く向上できないおそれがある。上記オイルの含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。15質量部を超えると、低燃費性と耐久性をバランスよく向上できないおそれがある。
【0048】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をカーカストッピング用ゴム組成物として用いる場合、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上である。1質量部未満であると、低燃費性、耐久性及び加工性(特に、加工性)をバランス良く向上できないおそれがある。上記オイルの含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。15質量部を超えると、低燃費性と耐久性をバランスよく向上できないおそれがある。
本発明では、カーボンブラックと、天然ゴムと、上記式(1)及び/又は上記式(2)で表される化合物とを併用することにより、良好な加工性を有し、低燃費性、耐久性を向上できる。そのため、耐久性の向上のために、オイルを減量する必要がなく、オイルの含有量を上記量とすることができるので、加工性の低下を抑制でき、低燃費性、耐久性及び加工性をよりバランス良く向上できる。
【0049】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をブレーカートッピング用ゴム組成物として用いる場合、硫黄(順硫黄分)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3.5質量部以上である。上記硫黄の含有量は、好ましくは9質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。硫黄の含有量が上記範囲内であると、低燃費性、耐久性及び加工性をよりバランス良く向上できる。
【0050】
本発明のタイヤ用ゴム組成物をカーカストッピング用ゴム組成物として用いる場合、硫黄(順硫黄分)の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは6質量部以上である。上記硫黄の含有量は、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。硫黄の含有量が上記範囲内であると、低燃費性、耐久性及び加工性をよりバランス良く向上できる。
【0051】
酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上、更に好ましくは7質量部以上である。上記酸化亜鉛の含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下である。酸化亜鉛の含有量が上記範囲内であると、低燃費性、耐久性及び加工性をよりバランス良く向上できる。
【0052】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機などのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0053】
本発明のゴム組成物は、タイヤの各部材(特に、タイヤコードをゴムにより被覆して得られるタイヤの部材(タイヤコード/ゴム複合体(例えば、ブレーカー、カーカス等)))に好適に使用できる。すなわち、本発明のゴム組成物は、タイヤコードを被覆するゴム組成物(タイヤコード被覆用ゴム組成物(トッピング用ゴム組成物))として好適に使用される。
【0054】
タイヤコードとしては、例えば、繊維コード、スチールコード等が挙げられる。本発明のゴム組成物をカーカスに使用する(カーカストッピング用ゴム組成物として使用する)場合には、タイヤコードが繊維コードであることが好ましい。なお、カーカストッピング用ゴム組成物をトラック・バス用タイヤに使用する場合には、タイヤコードがスチールコードであることが好ましい。また、本発明のゴム組成物をブレーカーに使用する(ブレーカートッピング用ゴム組成物として使用する)場合には、タイヤコードがスチールコードであることが好ましい。
【0055】
繊維コードとしては、例えば、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、ポリエチレンテレフタレートなどの原料により得られるコードが挙げられる。なかでも熱安定性に優れ、安価であるという理由から、ポリエステルコードが好ましい。
【0056】
スチールコードとしては、例えば、1×n構成の単撚りスチールコード、k+m構成の層撚りスチールコード等が挙げられる。ここで、1×n構成の単撚りスチールコードとは、n本のフィラメントを撚りあわせて得られる1層の撚りスチールコードのことである。また、k+m構成の層撚りスチールコードとは、撚り方向、撚りピッチの異なる2層構造を持ち、内層にk本のフィラメント、外層にm本のフィラメントを有するスチールコードのことである。nは1〜27の整数、kは1〜10の整数、mは1〜3の整数である。スチールコードの表面は、ゴム組成物に対する初期接着性を向上させるため、黄銅(真鍮)、Zn等でメッキすることが好ましい。
【0057】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材(特に、ブレーカー、カーカス)の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。なお、ブレーカー、カーカス等のタイヤコード/ゴム複合体は、タイヤコードを上記タイヤ用ゴム組成物で被覆して成形することにより得られる。
【0058】
また、本発明のタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用(重荷重用)タイヤ、ライトトラック用タイヤ、地球環境保全に対応した低公害車両(エコカー)用タイヤとして好適に用いられる。本発明のタイヤ用ゴム組成物をカーカストッピング用ゴム組成物として用いる場合、トラック・バス用タイヤとして使用することがより好ましい。
【実施例】
【0059】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0060】
(製造例)(S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸のナトリウム塩の製造)
反応容器内の気体を窒素ガスに置換した。該反応容器に、3−ブロモプロピルアミン臭素酸塩25g(0.11モル)、チオ硫酸ナトリウム・五水和物28.42g(0.11モル)、メタノール125mlおよび水125mlを仕込み、得られた混合物を70℃で4.5時間還流した。反応混合物を放冷し、減圧下でメタノールを除去した。得られた残渣に、水酸化ナトリウム4.56gを加え、得られた混合物を室温で30分間撹拌した。減圧下で溶媒を完全に除去した後、残渣にエタノール200mlを加えて1時間還流した。熱ろ過により副生成物である臭化ナトリウムを除去した。ろ液を減圧下で、結晶が析出するまで濃縮し、その後静置した。結晶をろ過により取り出し、エタノール、次いでヘキサンで洗浄した。得られた結晶を真空乾燥して、S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸のナトリウム塩(下記式で表される化合物)を得た。
H−NMR(270.05MHz,MeOD)δppm:3.1(2H,t,J=6.3Hz),2.8(2H,t,J=6.2Hz),1.9−2.0(2H,m)
得られたS−(3−アミノプロピル)チオ硫酸のナトリウム塩のメディアン径(50%D)を、島津製作所製SALD−2000J型を用い、レーザー回折法(測定操作は下記のとおり)により測定したところ、メディアン径(50%D)は66.7μmであった。得られたS−(3−アミノプロピル)チオ硫酸のナトリウム塩を粉砕し、そのメディアン径(50%D)が14.6μmであるS−(3−アミノプロピル)チオ硫酸のナトリウム塩を調製した。メディアン径(50%D)が14.6μmであるS−(3−アミノプロピル)チオ硫酸のナトリウム塩を以下の実施例で使用した。
<測定操作>
得られたS−(3−アミノプロピル)チオ硫酸のナトリウム塩を下記の分散溶媒(トルエン)と分散剤(10質量%スルホこはく酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム/トルエン溶液)との混合溶液に室温で分散させ、得られた分散液に超音波を照射しながら、該分散液を5分間撹拌して試験液を得た。該試験液を回分セルに移し、1分後に測定した(屈折率:1.70−0.20i)。
また、S−(3−アミノプロピル)チオ硫酸のナトリウム塩10.0gを水30mlに溶解させて得られる水溶液のpHは11〜12であった。
【化3】

【0061】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:RSS#3
BR:日本ゼオン(株)製のNipol BR1220(シス含量:97質量%、ビニル含量:1.0質量%)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックLI(NSA:105m/g、DBP:78ml/100g)
化合物1:上記製造例で調製した化合物
オイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスAH−24
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛
ステアリン酸コバルト:DIC Synthetic Resins社製のCOST−F(コバルト含有量9.5質量%)
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C
硫黄1:四国化成工業(株)製のミュークロンOT(硫黄分80質量%、オイル分20質量%含む不溶性硫黄、平均分子量:200000)
硫黄2:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDZ(N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0062】
実施例1〜14及び比較例1,2
表1,2に示す配合処方(なお、化合物1の()内の配合量はカーボンブラック及びシリカの合計100質量部に対する化合物1の配合量を示す)に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で3分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、80℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を150℃で35分間、2mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、比較例1、実施例1〜7では、得られた各未加硫ゴム組成物を用いてブレーカーコード(スチールコード)を被覆し、ブレーカー形状に成形し、他のタイヤ部材と貼り合せ、170℃で30分間加硫することにより、試験用タイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)を作製した。
また、比較例2、実施例8〜14では、得られた各未加硫ゴム組成物を用いてカーカスコード(スチールコード)を被覆し、カーカス形状に成形し、他のタイヤ部材と貼り合せ、170℃で30分間加硫することにより、試験用重荷重用タイヤ(タイヤサイズ:11R22.5)を作製した。
【0063】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物、試験用タイヤ、試験用重荷重用タイヤについて下記の評価を行った。結果を表1,2に示す。なお、表1,2の基準配合はそれぞれ比較例1,2とした。
【0064】
(加工性)
JIS K6300に基づき、上記未加硫ゴム組成物のムーニー粘度を130℃で測定した。そして、基準配合のムーニー粘度を100とし、下記計算式により、各配合のムーニー粘度を指数表示した。指数が小さいほど、加工性に優れることを示す。
(ムーニー粘度指数)=(各配合のムーニー粘度)/(基準配合のムーニー粘度)×100
【0065】
(低燃費性)
上記加硫ゴム組成物について、粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%の条件下で各配合のtanδを測定した。そして、基準配合のtanδを100として、下記計算式により、各配合のtanδを指数表示した。値が大きいほど、低燃費性(転がり抵抗特性)に優れることを示す。
(低燃費性指数)=(基準配合のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0066】
(耐セパレーション再現ドラム試験)
得られた試験用タイヤをJIS規格の最大荷重(最大空気圧条件)に対して140%である荷重オーバーロード条件で、速度80km/hでドラム走行させたときのトレッド部の膨れなどの異常が発生するまでの走行距離を測定し、基準配合の耐セパレーション性能指数を100とし、以下の計算式により、各配合の走行距離を指数表示した。なお、耐セパレーション性能指数が大きいほど、耐セパレーション性能(耐久性)に優れることを示す。
(耐セパレーション性能指数)=(各配合の走行距離)/(基準配合の走行距離)×100
【0067】
(耐久性(重荷重用タイヤ))
ドラム試験機を用い、試験用重荷重用タイヤをリム(サイズ:7.50×22.5)に組み、内圧700kPaを充填後、縦荷重(27.25kNの3倍)の条件下で速度20km/hで走行させ、タイヤに損傷が発生するまでの走行時間を測定した。基準配合の走行時間を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、耐久性に優れることを示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
表1,2の結果より、天然ゴムと、上記式(1)及び/又は上記式(2)で表される化合物と、カーボンブラックとを含む実施例は、良好な加工性を有し、低燃費性、耐久性を向上できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムと、下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される化合物と、カーボンブラックとを含むタイヤ用ゴム組成物。
【化1】

[式(1)中、pは2〜8の整数を表す。式(2)中、qは2〜8の整数を表す。Mr+は金属イオンを表し、rはその価数を表す。]
【請求項2】
式(2)中のMr+で表される金属イオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、コバルトイオン、銅イオン、又は亜鉛イオンである請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
式(2)中のMr+で表される金属イオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンである請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
ゴム成分100質量%中の天然ゴムの含有量が30質量%以上である請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
ブタジエンゴムを含む請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
前記式(1)及び前記式(2)で表される化合物の合計含有量が、カーボンブラック及びシリカの合計100質量部に対して0.18〜11質量部である請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
カーボンブラックの含有量が、ゴム成分100質量部に対して10〜90質量部である請求項1〜6のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項8】
タイヤコード被覆用ゴム組成物として用いられる請求項1〜7のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項9】
ブレーカートッピング用ゴム組成物及び/又はカーカストッピング用ゴム組成物として用いられる請求項1〜8のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−144602(P2012−144602A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2301(P2011−2301)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】