説明

タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】低燃費性、耐摩耗性、加工性、ゴム強度を改善できるタイヤ用ゴム組成物、及び空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴム、重量平均分子量が25万以上の高分子量ポリブタジエン、及び重量平均分子量が0.5〜20万の低分子量ポリブタジエンを含むタイヤ用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤの転がり抵抗を低減して発熱を抑えることにより、車両の低燃費化が図られている。近年、タイヤによる車両の低燃費化への要請は大きく、乗用車用タイヤだけでなくトラック、バス用の高荷重タイヤでも要求されており、特に高荷重タイヤでは耐摩耗性も要求されている。
【0003】
低燃費性を改善する方法として、カーボンブラックをシリカで置換する方法が知られている。しかし、シリカはカーボンブラックに比べて補強性が低いため、ゴム強度が低下し、耐摩耗性が悪化する傾向がある。また、シリカと併用される従来のシランカップリング剤は、混練中に粘度上昇が発生したり、スコーチタイムが短くなったりする傾向があるなど、加工性に悪影響を及ぼす場合もある。
【0004】
また、タイヤのウェットグリップ性能を向上させる目的でオイルが配合されることが多いが、オイルはポリマー架橋には関与しないため、過剰量を配合するとゴム強度や耐摩耗性を低下させるおそれもある。
【0005】
特許文献1〜5には、変性ブタジエンゴム、変性スチレンブタジエンゴムなどの変性合成ゴムや脱蛋白質天然ゴムを用いることで転がり抵抗を低減することが記載されている。しかし、低燃費性、耐摩耗性、加工性、ゴム強度を同時に改善するという点について、更なる改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−114939号公報
【特許文献2】特開2005−126604号公報
【特許文献3】特開2005−325206号公報
【特許文献4】特開平8−12814号公報
【特許文献5】特開平11−12306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、低燃費性、耐摩耗性、加工性、ゴム強度を改善できるタイヤ用ゴム組成物、及び空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴム、重量平均分子量が25万以上の高分子量ポリブタジエン、及び重量平均分子量が0.5〜20万の低分子量ポリブタジエンを含むタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0009】
ここで、ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量は60〜95質量%であり、高分子量ポリブタジエンの含有量は5〜40質量%であることが好ましい。高分子量ポリブタジエン100質量部に対して、低分子量ポリブタジエンの含有量が5〜29質量部であることが好ましい。
【0010】
また、改質天然ゴムの窒素含有量が0.3質量%以下であることが好ましい。改質天然ゴムのトルエン不溶分として測定されるゲル含有率が20質量%以下であることが好ましい。改質天然ゴムは、天然ゴムラテックスをケン化処理して得られたものであることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、改質天然ゴムを素練りする工程を含まない上記ゴム組成物の製造方法に関する。本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴム、高分子量ポリブタジエン、及び低分子量ポリブタジエンを含むタイヤ用ゴム組成物であるので、低燃費性、耐摩耗性、加工性、ゴム強度を改善でき、これらの性能が高い次元で得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴム(HPNR)、重量平均分子量が25万以上の高分子量ポリブタジエン、及び重量平均分子量が0.5〜20万の低分子量ポリブタジエンを含む。
【0014】
本発明では改質天然ゴム、高分子量ポリブタジエン及び低分子量ポリブタジエンを併用することで、低燃費性、耐摩耗性を同時に改善でき、優れた加工性、ゴム強度も得られ、これらの性能を顕著に高めることが可能である。よって、カーボンブラックをシリカに置換した場合でも、優れたゴム強度、耐摩耗性が得られる。また、オイルを低分子量ポリブタジエンに置換して配合することで、ゴム強度、耐摩耗性の低下を抑制でき、一層優れたゴム強度、耐摩耗性が得られる。さらに、改質天然ゴムを使用すると、耐摩耗性が低下する懸念があるが、本発明では上記成分が併用されることで該懸念も払拭できる。
【0015】
改質天然ゴムは、リン含有量が200ppm以下である。200ppmを超えると、貯蔵中にムーニー粘度が上昇して加工性が悪くなり、優れた低燃費性が得られない傾向がある。該リン含有量は、150ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましい。ここで、リン含有量は、たとえばICP発光分析など、従来の方法で測定できる。リンはリン脂質(リン化合物)に由来するものである。
【0016】
改質天然ゴムにおいて、窒素含有量は0.3質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましい。0.3質量%を超えると、貯蔵中にムーニー粘度が上昇して加工性が悪くなり、優れた低燃費性が得られないおそれがある。窒素含有量は、例えばケルダール法など、従来の方法で測定できる。窒素は、蛋白質に由来するものである。
【0017】
改質天然ゴム中のゲル含有率は、20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。20質量%を超えると、ムーニー粘度が上昇して加工性が悪くなる傾向がある。ゲル含有率とは、トルエンに対する不溶分として測定した値を意味し、以下においては単に「ゲル含有率」または「ゲル分」と称することがある。ゲル分の含有率の測定方法は次のとおりである。まず、天然ゴム試料を脱水トルエンに浸し、暗所に遮光して1週間放置後、トルエン溶液を1.3×10rpmで30分間遠心分離して、不溶のゲル分とトルエン可溶分とを分離する。不溶のゲル分にメタノールを加えて固形化した後、乾燥し、ゲル分の質量と試料の元の質量との比からゲル含有率が求められる。
【0018】
改質天然ゴムは、実質的にリン脂質が存在しないことが好ましい。「実質的にリン脂質が存在しない」とは、天然ゴム試料をクロロホルムで抽出し、抽出物の31P−NMR測定において、−3ppm〜1ppmにリン脂質によるピークが存在しない状態を表す。−3ppm〜1ppmに存在するリンのピークとは、リン脂質におけるリンのリン酸エステル構造に由来するピークである。
【0019】
改質天然ゴムの製造方法としては、例えば、特開2010−138359号公報に記載の製法、すなわち、天然ゴムラテックスをケン化処理し、ケン化天然ゴムラテックスを得る工程(A)、及び得られたケン化天然ゴムラテックスをゴム中に含まれるリン含有量が200ppm以下になるまで洗浄する工程(B)を含む製法などが挙げられる。具体的には、先ず天然ゴムラテックスをアルカリでケン化処理してケン化天然ゴムラテックスを調製し、次いで、該ケン化天然ゴムラテックスを凝集させて得られた凝集ゴムを、ゴム分に対するリン含有量が200ppm以下になるまで繰り返し水で洗浄し、乾燥する方法などにより改質天然ゴム(ケン化天然ゴム)を製造できる。
【0020】
上記製造方法によれば、ケン化により分離したリン化合物が洗浄除去されるので、天然ゴムのリン含有量を抑えることができる。また、ケン化処理により、天然ゴム中の蛋白質が分解されるので、天然ゴムの窒素含有量を抑えることができる。
【0021】
ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。60質量%未満であると、充分な低発熱性、加工性が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは95質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。95質量%を超えると、充分な耐摩耗性が得られないおそれがある。
【0022】
本発明では、上記改質天然ゴムとともに、高分子量ポリブタジエン、低分子量ポリブタジエンが使用される。高分子量ポリブタジエンは、例えば、Co・octなどのコバルト化合物−AlEtClなどの有機アルミニウム化合物−HOからなる触媒を用いて製造できる。また、低分子量ポリブタジエンは、例えば、高分子量ポリブタジエンと同様にCo・octなどのコバルト化合物−AlEtClなどの有機アルミニウム化合物−HOからなる触媒やNi・naphなどのニッケル化合物−AlEtClなどの有機アルミニウム化合物−HOからなる触媒などを用いて製造できる。
【0023】
高分子量ポリブタジエン及び低分子量ポリブタジエンは、例えば、これら両成分をあらかじめ混合した混合物を好適に使用できる。上記混合物の調製方法は特に限定されず、前記の製法などで調製した高分子量ポリブタジエンと低分子量ポリブタジエンとをブレンドして製造できる。
【0024】
上記混合物の分子量分布(Mw/Mn)の下限は好ましくは15以上、より好ましくは25以上であり、上限は好ましくは70以下、より好ましくは50以下である。分子量分布が上記範囲内であると、低燃費性、耐摩耗性、加工性、ゴム強度がバランスよく得られる。
なお、本明細書において、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用い、標準ポリスチレンより換算した値である。
【0025】
高分子量ポリブタジエンの重量平均分子量(Mw)は、25万以上、好ましくは35万以上、より好ましくは50万以上である。25万未満であると耐摩耗性が充分に改善されないおそれがある。該Mwは、好ましくは150万以下、より好ましくは100万以下である。150万を超えると、加工性が充分に改善されないおそれがある。
【0026】
高分子量ポリブタジエンのシス含量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。80質量%未満であると、耐摩耗性を充分に改善できないおそれがある。
なお、ポリブタジエンのシス含量(シス−1,4−結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0027】
低分子量ポリブタジエンの重量平均分子量(Mw)は、0.5万以上、好ましくは0.7万以上である。0.5万未満であると工業的生産が困難になるおそれがある。該Mwは、20万以下、好ましくは7万以下、より好ましくは2万以下である。20万を超えると、オイルに代替して使用した場合に充分に耐摩耗性を向上できないおそれがある。
【0028】
なお、本発明では、高分子量ポリブタジエンはゴム成分に該当し、低分子量ポリブタジエンはゴム成分に該当しないものとする。
【0029】
ゴム成分100質量%中の高分子量ポリブタジエンの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。5質量%未満であると、充分な耐摩耗性が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。40質量%を超えると、充分なゴム強度が得られないおそれがある。
【0030】
低分子量ポリブタジエンの含有量は、高分子量ポリブタジエン100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。5質量部未満であると、グリップ性能が悪化する傾向がある。該含有量は好ましくは29質量部以下、より好ましくは27質量部以下である。29質量部を超えると、耐摩耗性の向上効果が充分に発揮されないおそれがある。
【0031】
本発明のゴム組成物は改質天然ゴム及び高分子量ポリブタジエン以外のゴム成分を含んでもよい。他のゴム成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)などのジエン系ゴムが挙げられる。なかでも、耐摩耗性、低燃費性をバランスよく示すことから、NR、SBRが好ましい。
【0032】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラックを含有してもよい。カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は30m/g以上が好ましく、50m/g以上がより好ましい。30m/g未満では、充分な補強性が得られず、充分な耐摩耗性が得られない傾向がある。また、該NSAは300m/g以下が好ましく、150m/g以下がより好ましい。300m/gを超えると、未加硫時の粘度が非常に高くなり、加工性が悪化する傾向がある。また、分散性が悪化して低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、カーボンブラックのNSAは、JIS K 6217のA法によって求められる。
【0033】
カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。1質量部未満では、充分なゴム強度が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。50質量部を超えると、発熱が大きくなり、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0034】
本発明のゴム組成物は、通常、シリカを含有する。シリカとしては、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などが挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0035】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、30m/g以上が好ましく、50m/g以上がより好ましい。30m/g未満では、補強効果が小さく、ゴム強度が充分に向上できないおそれがある。また、該NSAは、500m/g以下が好ましく、250m/g以下がより好ましい。500m/gを超えると、シリカの分散性が低下し、低発熱性、加工性が低下する傾向がある。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0036】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。10質量部未満であると、シリカ配合による充分な効果が得られない傾向がある。該含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下である。150質量部を超えると、シリカのゴムへの分散が困難になり、ゴムの加工性が悪化する傾向がある。
【0037】
また、カーボンブラック及びシリカの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは15質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。該合計含有量は、好ましくは180質量部以下、より好ましくは120質量部以下である。該含有量が上記範囲内であると、低燃費性、耐摩耗性、加工性、ゴム強度がバランスよく得られる。
【0038】
本発明のゴム組成物は、シリカとともにシランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、スルフィド系、メルカプト系、ビニル系、アミノ系、グリシドキシ系、ニトロ系、クロロ系シランカップリング剤などが挙げられる。なかでも、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィドなどのスルフィド系が好ましく、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドがより好ましい。ここで、シランカップリング剤の含有量の下限はシリカ100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは4質量部以上であり、上限は好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0039】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、オイル、各種老化防止剤、ワックス、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0040】
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物を用いることができる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生湯、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油などが挙げられる。なかでも、アロマ系プロセスオイルが好適に用いられる。
【0041】
オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは8質量部以上である。2質量部未満では、加工性の改善効果が充分に得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは30質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。30質量部を超えると、耐摩耗性が悪化するおそれがある。
【0042】
上記ゴム組成物がオイルを含有する場合、オイル及び低分子量ポリブタジエンの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上である。5質量部未満では、充分な加工性が得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは40質量部以下、より好ましくは25質量部以下である。40質量部を超えると、充分な耐摩耗性が得られないおそれがある。
【0043】
本発明のゴム組成物は、一般的な方法で製造される。すなわち、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどで前記各成分を混練りし、その後加硫する方法などにより製造できる。ここで、天然ゴムを含むゴム組成物を製造する場合、ゴム成分、充填剤などの各成分の混練り工程前に、通常、天然ゴムの素練り工程が行われる。本発明では、改質天然ゴムが使用されているため、該素練り工程を行わなくても良好に混練り工程を実施でき、所望のゴム組成物を作製できる。
【0044】
本発明のゴム組成物は、トレッド(キャップトレッド、ベーストレッド)、サイドウォールなどのタイヤ部材に好適に使用できる。
【0045】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造することができる。
【0046】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車、高荷重タイヤなどに好適に使用できる。
【実施例】
【0047】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0048】
以下、製造例1〜2で使用した各種薬品について、まとめて説明する。なお、薬品は必要に応じて定法に従い精製を行った。
天然ゴムラテックス:タイテックス社から入手したフィールドラテックス
界面活性剤:花王(株)製のEmal−E(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム)
NaOH:和光純薬工業(株)製のNaOH
【0049】
(製造例1:ケン化天然ゴム1(HPNR1)の調製)
天然ゴムラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、天然ゴムラテックス1000gに対し、Emal−E10gとNaOH20gを加え、室温で48時間ケン化反応を行い、ケン化天然ゴムラテックスを得た。このラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり撹拌しながらギ酸を添加しpHを4.0〜4.5に調整し、凝集させた。凝集したゴムを粉砕し、水1000mlで洗浄を繰り返し、その後110℃で2時間乾燥して固形ゴム(ケン化天然ゴム1(HPNR1))を得た。
【0050】
(製造例2:ケン化天然ゴム2(HPNR2)の調製)
NaOH20gを15gに変更した点以外は製造例1と同様の条件で、固形ゴム(ケン化天然ゴム2(HPNR2))を得た。
【0051】
上記製造例により得られたHPNR1、2と、後述のTSRについて、以下に示す方法により、窒素含有量、リン含有量、ゲル含有率を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
(窒素含有量の測定)
窒素含有量は、CHN CORDER MT−5(ヤナコ分析工業(株)製)を用いて測定した。測定には、まずアンチピリンを標準物質として、窒素含有量を求めるための検量線を作製した。次いで、試料約10mgを秤量し、3回の測定結果から平均値を求めて窒素含有量とした。
【0053】
(リン含有量の測定)
ICP発光分析装置(ICPS−8100、(株)島津製作所製)を使用して、試料のリン含有量を求めた。
また、リンの31P−NMR測定は、NMR分析装置(400MHz、AV400M、日本ブルカー社製)を使用し、80%リン酸水溶液のP原子の測定ピークを基準点(0ppm)として、クロロホルムにより生ゴムより抽出した成分を精製し、CDClに溶解して測定した。
【0054】
(ゲル含有率の測定)
1mm×1mmに切断した試料70.00mgを計り取り、これに35mLのトルエンを加え1週間冷暗所に静置した。次いで、遠心分離に付してトルエンに不溶のゲル分を沈殿させ上澄みの可溶分を除去し、ゲル分のみをメタノールで固めた後、乾燥し質量を測定した。次の式によりゲル含有率(質量%)を求めた。
ゲル含有率(質量%)=[乾燥後の質量mg/最初のサンプル質量mg]×100
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示すように、HPNR1、2は、TSRに比べて、窒素含有量、リン含有量、ゲル含有率が低減していた。また、31P−NMR測定において、HPNR1、2は、−3ppm〜1ppmにリン脂質によるピークが存在しなかった。
【0057】
(製造例3:低分子量ポリブタジエン1の調製)
内容量1.5Lオートクレーブの内部を窒素置換し、ブタジエン23質量%、シクロヘキサン36質量%、ベンゼン15質量%及びC4留分26質量%からなる溶液に、0.7L室温にて水(HO)を2.3mmol添加し700rpmで30分間強撹拌した。次いで、ジエチルアルミニウムクロライド(DEAC)3mmol(シクロヘキサン溶液)を添加し室温で5分撹拌した。これを50℃に加温し、オクチル酸ニッケル(Ni(Oct))23mmolのトルエン溶液を添加し、さらに65℃で25分間重合させた。老化防止剤を含むエタノール/ヘプタン(1/1)溶液5mLを添加し、重合を停止した。オートクレーブ内部を放圧した後、重合液をエタノールに投入し、ポリブタジエンを回収した。次いで、回収したポリブタジエンを50℃で6時間真空乾燥した後、79gのポリブタジエンを得た。得られた低分子量ポリブタジエン1のMwは5.7万であった。
【0058】
(製造例4:低分子量ポリブタジエン2の調製)
水2.3mmolを3mmolに変更した点、強攪拌後にエチレンを1kg/cm添加した点、DEAC3mmolを4mmolに変更した以外は製造例3と同様の条件で、ポリブタジエンを得た。80gの低分子量ポリブタジエン2が得られ、Mwは1.2万であった。
【0059】
なお、低分子量ポリブタジエン1〜2、後述の高分子量ポリブタジエン、後述のポリブタジエン混合物1〜3の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)は、以下に示す方法により評価した。
【0060】
(数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)の測定)
数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めた。
【0061】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
【0062】
HPNR1:製造例1
HPNR2:製造例2
TSR:TSR20
高分子量ポリブタジエン:宇部興産(株)製のBR150B(シス含量:96質量%、Mw:44万、Mw/Mn3.2)
低分子量ポリブタジエン1:製造例3(Mw:5.7万、Mw/Mn:2.5)
低分子量ポリブタジエン2:製造例4(Mw:1.2万)
ポリブタジエン混合物1:高分子量ポリブタジエン100質量部に対して、低分子量ポリブタジエン1を10質量部混合したもの(Mw/Mn:30)
ポリブタジエン混合物2:高分子量ポリブタジエン100質量部に対して、低分子量ポリブタジエン2を10質量部混合したもの(Mw/Mn:33)
ポリブタジエン混合物3:高分子量ポリブタジエン100質量部に対して、低分子量ポリブタジエン1を100質量部混合したもの(Mw/Mn:45)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のN351(NSA:69m/g)
シリカ:Rhodia社製のZeosil 1115MP(CTAB比表面積:110m/g、BET比表面積:115m/g)
シランカップリング剤:デグッサ社製のSi69(ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックスN
プロセスオイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスAH−24(アロマ系プロセスオイル)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ステアリン酸:日油(株)製の椿
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤DPG:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’−ジフェニルグアニジン)
加硫促進剤CZ:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0063】
<実施例及び比較例>
表2に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を150℃で30分間、2mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッド形状に成形して、他のタイヤ部材と貼り合わせ、170℃で10分間の条件下で加硫することにより、試験用タイヤ(タイヤサイズ:195/65R15)を作製した。
【0064】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物及び試験用タイヤについて下記の評価を行った。結果を表2に示す。
【0065】
(耐摩耗性)
LAT試験機(Laboratory Abration and Skid Tester)を用い、荷重50N、速度20km/h、スリップアングル5°の条件にて、各加硫ゴム組成物の容積損失量を測定した。比較例3の容積損失量を100として指数表示した。なお指数が大きいほど耐摩耗性に優れることを示す。
(耐摩耗性指数)=(比較例3の容積損失量)/(各配合の容積損失量)×100
【0066】
(転がり抵抗)
粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み2%、周波数10Hzの条件下で各配合(加硫物)の損失正接(tanδ)を測定し、下記計算式により指数表示した(転がり抵抗指数)。指数が大きいほど低燃費性に優れることを示す。
(転がり抵抗指数)=(比較例3のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0067】
(加工性)
得られた未加硫ゴム組成物について、JIS K6300に準拠したムーニー粘度の測定方法に従い、130℃で測定し、下記計算式により指数表示した(加工性指数)。指数が大きいほどムーニー粘度が低く、加工性に優れることを示す。
(加工性指数)=(比較例3のML1+4)/(各配合のML1+4)×100
【0068】
(ゴム強度)
得られた加硫物を用いて、3号ダンベル型ゴム試験片を作製し、JIS K6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて引張試験を行い、破断強度(TB)及び破断時伸び(EB)を測定し、その積(TB×EB)を算出した。そして、下記計算式により、各配合(加硫物)のゴム強度(TB×EB)を指数表示した(ゴム強度指数)。指数が大きいほどゴム強度に優れることを示す。
(ゴム強度指数)=(各配合のTB×EB)/(比較例3のTB×EB)×100
【0069】
(耐摩耗性:試験用タイヤ)
試験用タイヤを車輌(国産FF2000cc)の全輪に装着してテストコースを実車走行し、30000km走行した後の溝深さの減少量を測定し、溝深さが1mm減少するときの走行距離を算出した。そして、比較例3の走行距離を100とし、下記計算式により、各配合の耐摩耗性を指数表示した。指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
(耐摩耗性指数)=(各配合の走行距離)/(比較例3の走行距離)×100
【0070】
(転がり抵抗:試験用タイヤ)
転がり抵抗試験機を用い、各タイヤを正規リム(22.5×8.25の15°深底リム)に装着し、内圧700kPa、時速80km/h、荷重24.52KNで転がり抵抗を測定し、比較例3の転がり抵抗を100とし、各配合の転がり抵抗を指数表示した。指数が小さいほど転がり抵抗が小さく良好である。
【0071】
【表2】

【0072】
表2の結果から改質天然ゴム、高分子量ポリブタジエン及び低分子量ポリブタジエンを併用することで、低燃費性、耐摩耗性、加工性、ゴム強度を改善でき、これらの性能を高い次元で得られることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有量が200ppm以下の改質天然ゴム、重量平均分子量が25万以上の高分子量ポリブタジエン、及び重量平均分子量が0.5〜20万の低分子量ポリブタジエンを含むタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
ゴム成分100質量%中の改質天然ゴムの含有量は60〜95質量%であり、高分子量ポリブタジエンの含有量は5〜40質量%である請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
高分子量ポリブタジエン100質量部に対して、低分子量ポリブタジエンの含有量が5〜29質量部である請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
改質天然ゴムの窒素含有量が0.3質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
改質天然ゴムのトルエン不溶分として測定されるゲル含有率が20質量%以下である請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
改質天然ゴムは、天然ゴムラテックスをケン化処理して得られたものである請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
改質天然ゴムを素練りする工程を含まない請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−149175(P2012−149175A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9000(P2011−9000)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】