説明

タイヤ用ゴム組成物

【課題】タイヤの耐摩耗性、発熱性を低下させることなく、ウェット路面や氷上路面の水膜を効果的に除去し、タイヤの接地性を高め、制動性能を向上させることができるタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】天然ゴム及び/又はジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して変性セルロースを0.1〜30質量部配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに用いられるゴム組成物に関するものであり、より詳細にはスタッドレスタイヤのトレッドゴムを形成するのに好適に用いられるゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スタッドレスタイヤのトレッドゴムは、氷上路面での接地性を高めるために種々の工夫がなされており、例えば、低温でゴム硬度が低くなるように調整されている。また、氷上摩擦力を高めるため、発泡ゴム、中空粒子、ガラス繊維、植物性粒状体等の硬質材料を配合して、氷表面の引っかき効果を得たり、摩耗の進行により硬質材料が脱落したときに生じる脱落孔の凹凸を利用したりする等の手法が提案されている。また、湿潤路面におけるグリップ性能を改良するために、充填剤とオイルの配合量を増やす手法も用いられているが、この方法では、タイヤの転がり抵抗(発熱性)や耐摩耗性が低下してしまうという問題が生じる。
【0003】
さらに、特許文献1では、ゴムにグラスファイバー等の短繊維、古紙及びもみ殻等のセルロース物質を含む粉体加工品を配合し、短繊維が脱落して生じる脱落孔により水膜除去効果を得ることについて提案されている。しかし、この方法では、優れたウェット・氷上制動性能が安定的に維持され難く、また、これらの短繊維や粉体加工品の分散性が低いため、耐摩耗性が低下するという問題も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−249619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、タイヤの耐摩耗性、転がり抵抗(発熱性)を低下させることなく、ウェット路面や氷上路面での接地性や制動性能が向上したタイヤが得られるタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、天然ゴム及び/又はジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して変性セルロースを0.1〜30質量部配合したものとする。
【0007】
上記本発明のゴム組成物における変性セルロースとしてはカルボキシメチルセルロースが好適に用いられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明のゴム組成物より得られるタイヤは、ウェット路面や氷上路面の水膜を効果的に除去することができるものとなり、タイヤの耐摩耗性、転がり抵抗を低下させることなく、ウェット制動性能やアイス制動性能を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の1ロット目の試料の切断面を示す拡大写真である。
【図2】実施例1の2ロット目の試料の切断面を示す拡大写真である。
【図3】比較例2の1ロット目の試料の切断面を示す拡大写真である。
【図4】比較例2の2ロット目の試料の切断面を示す拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において使用する変性セルロースとは、セルロース分子の水酸基を適度に他の基に置換すること、すなわちエーテル変性することにより、その水酸基同士の水素結合が起こらないようにしたものであり、そのような置換基の例としては、メチル基等のアルキル基;ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等のヒドロキシアルキル基;カルボキシメチル基、カルボキシエチル基等のカルボキシアルキル基等が挙げられる。
【0012】
すなわち、セルロースは多くの水酸基を有するため、分子間でその水酸基同士が強い水素結合を形成して凝集するが、水酸基同士の水素結合を抑制することによりセルロース分子同士が凝集し難くなり、よって分散性のよいパウダー状のセルロースが得られる。このようなパウダー状の変性セルロースはゴムとの親和性も良好であり、ゴム中での分散性が優れていると考えられる。
【0013】
上記変性セルロースのエーテル化度は0.1〜3.0の範囲であることが好ましく、0.25〜1.0の範囲であることがより好ましい。エーテル化度が0.1より低いと分散性が不十分となり、3.0より大きいと親水性が小さくなり、路面の水膜を除去する効果が得られ難くなる。
【0014】
また、上記変性セルロースは、平均粒径が20〜100μmの範囲であるパウダー状であることが好ましい。平均粒径が20μmより小さいと分散性が不十分となり易く、100μmより大きいとゴムとの親和性が小さくなりタイヤの耐摩耗性が低下し易い。なお、本明細書でいう平均粒径は篩にて分級することにより算出したものとする。
【0015】
本発明のゴム組成物においては、天然ゴム及び/又はジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して上記変性セルロースを0.1〜30質量部配合するものとし、好ましくは2〜25質量部配合するものとする。その配合量が0.1質量部より少ないと水膜除去効果が得られず、30質量部より大きいと耐摩耗性が著しく低下する。
【0016】
上記のようにセルロース分子中の水酸基を適度に他の基に置換した変性セルロースを使用した場合、これらの変性セルロースは、ゴム中での分散性が良好であることから、タイヤの耐摩耗性の向上に寄与するとともに、親水性が高くウェット・氷上路面の水膜を吸水および除水することにより、優れた制動性能が発現されると考えられる。また、この変性セルロースは、シリカ等のフィラーと共に使用した場合、これらのフィラーの分散剤としても機能すると考えられる。
【0017】
また、上記変性セルロースを配合すると、発泡剤を使用しなくても、平均孔径40〜50μm程度の、均一できめ細かな気泡を有するミクロボイド構造をゴム中に形成するのが認められ、このミクロボイド構造も、タイヤを形成した際に、吸水、除水、エッジ効果等を発揮し、優れたウェット制動性能・氷上制動性能の維持に寄与していると考えられる。ミクロボイド構造が形成されるメカニズムは明らかではないが、タイヤ組成物の混合中等に発生する水分や揮発成分が、変性セルロース分子の存在によって、分散した状態で捕捉されると推測される。
【0018】
本発明に係るゴム組成物においては、上記変性セルロースを使用する以外は、従来のタイヤ用ゴム組成物に準じた組成を採用することができる。
【0019】
本発明で使用可能なジエン系ゴムとしては、各種天然ゴム(NR)、各種ポリイソプレンゴム(IR)、各種スチレンブタジエンゴム(SBR)、各種ポリブタジエンゴム(BR)等が挙げられ、これらはいずれか一種を用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。好ましくは、天然ゴム及び/又はイソプレンゴムを用いる。
【0020】
充填剤としては、カーボンブラック及び/又はシリカを用いることができる。これら充填剤のゴム組成物中での配合量は、ゴム成分100質量部に対して25〜125質量部であることが好ましく、30〜80質量部であることがより好ましい。
【0021】
シリカとしては、例えば、湿式シリカ(含水ケイ酸),乾式シリカ(無水ケイ酸),ケイ酸カルシウム,ケイ酸アルミニウム等が挙げられるが、中でも湿式シリカが好ましい。
【0022】
シリカを配合する場合は、スルフィドシラン、メルカプトシランなどのシランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤の配合量は、シリカ100質量部に対して5〜15質量部であることが好ましい。
【0023】
本発明に係るゴム組成物には、上記の各成分の他に、亜鉛華、ステアリン酸、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤ用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。上記加硫剤としては、硫黄、硫黄含有化合物等が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、上記ゴム成分100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。該ゴム組成物は、通常のバンバリーミキサーやニーダーなどのゴム用混練機を用いて、常法に従い混練することで調製される。
【0024】
以上よりなるゴム組成物はタイヤのトレッドゴムとして用いることができ、このゴム組成物を、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、タイヤを形成することができる。
【0025】
本発明のタイヤは、上記本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造することができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0027】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、硫黄と加硫促進剤を除く成分を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で硫黄と加硫促進剤を添加混合してタイヤ用ゴム組成物を調製した。表1中の各配合物の詳細は以下の通りである。
【0028】
・NR:天然ゴム(RSS#3)
・BR:JSR(株)製「ハイシスBR」
・SBR(1):ランクセス(株)製「SSBR VSL5025」
・SBR(2):JSR(株)製「ESBR SBR1502」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストKH(N339)」
・シリカ:日本シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・シランカップリング剤:デグサ社製「Si75」
・パラフィンオイル:JOMOサンエナジー(株)製「プロセスP200」
・未変性セルロース:日本製紙ケミカル(株)製「KCフロック」(平均粒径50μm)
・変性セルロース(1):日本製紙ケミカル(株)製「サンローズ」(カルボキシメチルセルロース、エーテル化度0.25、平均粒径50μm)
・変性セルロース(2):日本製紙ケミカル(株)製「サンローズ」(カルボキシメチルセルロース、エーテル化度0.70、平均粒径50μm)
・ステアリン酸:日本油脂(株)製「ステアリン酸」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油処理粉末硫黄」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーNS−G」
【0029】
得られた各ゴム組成物について、150℃で30分間加硫して得られた試験用タイヤを用いて、以下の測定及び評価を行った。結果を表1に併記する。
【0030】
・硬度:JIS K6253に準拠したタイプAデュロメータを使用し、23℃及び−5℃で測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。数値が大きいほど硬度が高いことを意味する。
【0031】
・耐摩耗性:2000cc4WD車で2500km毎に左右ローテーションして、10000km走行後の残溝の深さを4本の平均値で、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほど耐摩耗性が良好であることを示す。
【0032】
・転がり抵抗:空気圧230kPa、荷重4.4kN、室温23℃、80km/hの条件下で、RR測定ドラムを使用して、比較例1を100として指数表示した。
【0033】
・アイス制動性能:氷盤路、気温−3±3℃の条件下で、2000ccFF車を40km/hでABS作動させ、制動距離を測定し、比較例1を100として指数表示した。数値が大きい方が制動距離が短く、良好であることを示す。
【0034】
・ウェット制動性能:90km/hでABS作動させ、20km/hまで減速時の制動距離を測定し、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほど制動距離が短く、良好であることを示す。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示された結果から実施例のゴム組成物から得られたタイヤは、比較例のものと比較して、耐摩耗性、転がり抵抗、アイス制動性能、及びウェット制動性能がいずれもバランスよく優れていることが分かる。
【0037】
また、実施例1と比較例2のゴム組成物を上記条件で加硫して得られた試料を切断して、その切断面を倍率200倍で撮影した顕微鏡写真を図1〜4に示す。試料の作成は各2ロット行い、図1及び2は実施例1、図3及び4は比較例2の写真である。
【0038】
実施例1の試料では2ロットとも平均孔径40〜50μmのミクロボイド構造が形成されているのが認められたが、比較例2の試料ではそのようなミクロボイド構造は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のゴム組成物は、乗用車、ライトトラック、トラック・バス等の各種タイヤに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴム及び/又はジエン系ゴムからなるゴム成分100質量部に対して
変性セルロースを0.1〜30質量部配合した
ことを特徴とする、タイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記変性セルロースがカルボキシメチルセルロースであることを特徴とする、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−188494(P2012−188494A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51544(P2011−51544)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】