説明

タッピンねじ

【課題】厚さ0.8ミリ迄の鋼板を2枚重ねにして、切削屑を発生させることなく締結することができると共に、1枚でも厚さ1.6ミリ迄の鋼板をつる巻き状の切削屑を発生させることなく締結することができるタッピンねじを提供する。
【解決手段】一端に頭部2を設けた円筒状部3の先端に円錐状部4を有し、円筒状部3に設けた平行ねじ部Lのねじ山5と、円錐状部4に設けたテーパねじ部Mのねじ山6とがピッチの粗い一条のねじ山からなるタッピンねじ1であって円錐状部4が、尖端角度が30度前後の鋭角の円錐状に形成され、該円錐状部4の先端部分に前記テーパねじ部Mのねじ山6と平行延びる第2のねじ山7を設けて、円錐状部4の先端部分に二条のねじ山6,7が形成され、該二条のねじ山6,7からなる先尖りテーパねじ部Tの軸方向長さが、締結する金属板の厚み以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板にねじ締結するのに使用されるタッピンねじに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属板に下穴をあけずに直接貫通してねじ締結するのに使用されるタッピンねじとして、先端部に尖端角度が40度〜50度の円錐状部を有し、ピッチの粗い一条ねじのねじ山からなるタッピンねじがJIS規格にも定められていて、広く知られている。
【0003】
しかし、上記従来のタッピンねじは、ドリルねじのようにドリル部が無いので円錐状部のねじ込みトルクが大きく、厚さ1.0ミリ以下の薄鋼板にしか適用できなかった。
【0004】
そこで、できるだけ厚い金属板に下穴をあけずにねじ込みを可能にするために、二条又は三条のねじ山としたもの、ねじ山の形状を変更したもの、また、円錐状尖端部に切削性能をもたせるために突起山を設けたものや、切れ刃を設けたものなど、種々の改良について提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0005】
しかし、これまで提案されたこの種タッピンねじはいずれも、依然として厚さ1.0ミリ以下の薄鋼板にしか適用できず、厚さ1.0ミリ以上の鋼板や、厚さ0.8ミリ迄の鋼板を2枚重ねでの締結では、ねじ込み抵抗が大きくて使用できなかった。また、切削性能をもたせるため円錐状部先端に突起山や切れ刃を設けたものでは、転造加工により成形することが困難で、実用化に問題があった。このため、厚さ1.0ミリ以上の鋼板や厚さ0.8ミリ迄の薄鋼板を2枚重ねで締結する場合には、ねじ部先端にドリル部を設けたドリルねじが使用されているのが現状である。
【0006】
ところで、ドリルねじを使用して屋根材のカラー鋼板の固着や、壁鋼板に水きり、樋、風除け、看板等を固着する場合、ドリルねじの切削作用により発生するつる巻き状の切削屑が風雨にも流されず残ることで、赤錆が発生し、施工時に、その除去を要求されることがある。また、建築物の使用目的によっては屋内に落下する切削屑が屋内環境を損なう場合もあり、切削屑が発生しない下穴無しのねじ締結が求められている。
【0007】
さらに、自動車産業の組立ラインにおいて、ドリルねじが試用されたが、切削作用により発生するつる巻き状の切削屑が電気配線の接続部などに飛散して、電気系統に障害を起こすため敬遠された経緯があり、切削屑を発生しない下穴無しのねじ締結が実現されると、自動車産業においても新たな展開が期待される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、厚さ0.8ミリ迄の鋼板を2枚重ねにして、切削屑を発生させることなく締結することができると共に、1枚でも厚さ1.6ミリ迄の鋼板をつる巻き状の切削屑を発生させることなく締結することができるタッピンねじを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、一端に頭部を設けた円筒状部の先端に円錐状部を有し、前記円筒状部に設けた平行ねじ部のねじ山と、前記円錐状部に設けたテーパねじ部のねじ山とがピッチの粗い一条のねじ山からなるタッピンねじであって、前記円錐状部が、尖端角度が30度前後の鋭角の円錐状に形成され、該円錐状部の先端部分に前記テーパねじ部のねじ山と平行して延びる第2のねじ山を設けて、前記円錐状部の先端部分に二条のねじ山が形成され、該二条のねじ山からなる先尖りテーパねじ部の軸方向長さが、締結する金属板の厚み(上限1.6mm)以上であることを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記円錐状部の先端部分に形成された前記二条のねじ山が、前記円錐状部の尖端に向けてリード角が増大し、かつ、尖端に収斂する錐揉み刃を構成していることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記一条の平行ねじ部におけるねじ山の締結負荷側(頭部側)のフランク面の角度が、反対側(円錐状部側)のフランク面の角度より小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るタッピンねじは、ピッチの粗い一条のねじ山とすることでねじ込みトルクを軽減するものであり乍ら、円錐状部の先端部分のみ二条のねじ山で形成し、かつ、該二条のねじ山からなる先尖りテーパねじ部の軸方向長さが、締結する金属板の厚み以上とすることで、高速回転させた前記二条のねじ山の先端部分により締結する金属板の厚み相当の深さを有するV字形穴を錐揉み加工し、続いて前記円錐状部の前記二条のねじ山を前記V字形穴に螺合して貫通させ、その貫通孔の周縁部分をバーリング加工のように屈曲変形させる。このとき、請求項2に係る発明に特定したように、前記円錐状部の先端部分に形成された前記二条のねじ山が、前記円錐状部の尖端に向けてリード角が増大し、かつ、尖端に収斂する錐揉み刃を構成すると、前記V字形穴の錐揉み加工と、これに続く貫通、螺合がより小さなねじ込み力でスムーズに行なわれる。
【0013】
さらに、前記円錐状部の前記二条のねじ山が前記貫通孔に螺合する際、ねじ込み抵抗が増大するけれども、前記円錐状部の途中から前記一条のねじ山になることで、ねじ込み抵抗は半減する。そして、前記平行ねじ部の一条のねじ山が前記貫通孔の屈曲変形した内周縁に係合して、前記金属板を締結することができる。しかも、前記V字形穴の錐揉み加工する際に発生する金属屑は少量で粉状であり、風や雨で自然に除去され、特別な除去作業は必要とされない。
【0014】
また、請求項3に係る発明によれば、前記屈曲変形した貫通孔の内周縁に係合する前記一条の平行ねじ部におけるねじ山の締結荷側(頭部側)のフランク面の角度が、反対側(円錐状部側)のフランク面の角度より小さくすることで、薄い金属板に対して高い保持力が得られるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るタッピンねじの正面図である。
【図2】同上平面図である。
【図3】同上円錐状部の先端部分に形成された二条のねじ山からなる先尖りテーパねじ部の拡大正面図である。
【図4】同上平行ねじ部のねじ山の拡大断面図である。
【図5】本発明に係るタッピンねじにより厚さ0.8ミリの薄鋼板を2枚重ねで締結する使用例を示しており、円錐状部の先端部分に形成された二条のねじ山からなる先尖りテーパねじ部による初期加工する状態を示す説明図である。
【図6】同上初期加工されたV字形穴を示す説明図である。
【図7】同上初期加工状態を示す説明図で、(a)は二条のねじ山からなる先尖りテーパねじ部によるV字形の錐揉み加工状態を示し、(b)は前記先尖りテーパねじ部がV字形穴に螺合して貫通する状態を示している。
【図8】同上タッピンねじによる締結完了状態を示す要部断面図である。
【図9】本発明に係るタッピンねじの別の使用例を示す説明図である。
【図10】同上タッピンねじによる締結完了状態を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
図1及び図2は、本発明に係るタッピンねじ1を示している。該タッピンねじ1は、一端に頭部2を設けた円筒状部3の先端に円錐状部4を有し、円筒状部3に設けた平行ねじ部(L)のねじ山5と、円錐状部4に設けたテーパねじ部(M)のねじ山6とが連続したピッチの粗い一条のねじ山からなり、円錐状部4は、図3に示すように尖端角度が30度前後の鋭角の円錐状に形成され、該円錐状部4の先端部分にテーパねじ部(M)のねじ山6と平行して延びる第2のねじ山7を設けて、円錐状部4の先端部分にねじ山6とねじ山7とからなる二条のねじ山が形成され、該二条のねじ山6,7からなる先尖りテーパねじ部(T)の軸方向長さが、締結する金属板の厚み(上限1.6ミリ)以上に設定されている。そして、円錐状部4の先端部分に形成された二条のねじ山6,7は、円錐状部4の尖端に向けてリード角が増大し、かつ、尖端に収斂する錐揉み刃Gを構成している。一方、頭部2には回転工具の係合穴8が設けられている。さらに、図4に良く示されているように、平行ねじ部(L)のねじ山5の締結負荷側(頭部側)のフランク面5eの角度eが、反対側のフランク面5fの角度fより小さくなっている。通常、角度fが30度であるのに対して、角度eは10度に設定されている。これは、後述するように締結する金属板に対するねじ山5の保持力を高めるためである。
【0018】
上記構成を有するタッピンねじ1は、全体が焼入れ硬化されている。
【0019】
図5〜図8は、上述した本発明によるタッピンねじ1を用いて、厚さ0.8ミリの2枚の鋼板11,12を重ねて締結する使用例を示している。図1に示すように、二条のねじ山6,7からなる先尖りテーパねじ部(T)の軸方向の長さが締結する2枚重ねの鋼板11,12の厚さ(1.6ミリ)以上に設定されていると共に、二条のねじ山6,7が円錐状部4の尖端に向けてリード角が増大し、かつ、尖端に収斂する錐揉み刃Gを構成しているので、二条のねじ山6,7の先端部分により2枚重ねの鋼板11,12に厚み(1.6ミリ)相当の深さを有するV字形穴13が錐揉み加工される(図6及び図7(a)参照)。しかも、V字形穴13を錐揉み加工する際に発生する金属屑は少量の粉状であり、風で飛散し、赤錆を発生させることはない。続いて、二条のねじ山6,7がV字形穴13に螺合して2枚重ねの鋼板11,12を貫通し、二条のねじ山6,7と円錐状部4とで貫通孔の周縁部分をバーリング加工のように押し拡げて屈曲変形させる(図7(b)参照)。円錐状部4の二条のねじ山6,7が前記貫通孔に螺合する際、ねじ込み抵抗が増大するけれども、円錐状部4の途中から一条のねじ山6になることで、ねじ込み抵抗は半減する。そして、該ねじ山6に連続する平行ねじ部(L)のねじ山5が屈曲変形した貫通孔の周縁部分14に係合して、図8に示すように2枚重ねの鋼板11,12が締結される。このとき、貫通孔の周縁部分14に当接するねじ山5のフランク面5eが通常より小さい角度(10度)に設定されているので、ねじ山5による鋼板11,12の保持力が高められ、2枚重ねの鋼板11,12が強固に締結される。
【0020】
図9及び図10は、上記した本発明に係るタッピンねじ1を用いて、厚さ1.2ミリ〜1.6ミリの鋼板15に、取付孔21を設けた部材20を支持固定させる使用例を示している。図5〜図8に示した実施例と同様に、円錐状部4の先端部分に形成された二条のねじ山6,7からなる先尖りテーパねじ部(T)の軸方向長さが締結する鋼板15の厚さ(1.2ミリ〜1.6ミリ)以上に設定されていて、二条のねじ山6,7の先端部分に形成された錐揉み刃Gにより鋼板15の厚み相当の深さを有するV字形穴13が錐揉み加工される。続いて、二条のねじ山6,7がV字形穴13に螺合して鋼板15を貫通し、二条のねじ山6,7と円錐状部4とで貫通孔の周縁部分をバーリング加工のように押し拡げて屈曲変形させると共に、ねじ山6に連続する平行ねじ部(L)のねじ山5が屈曲変形した貫通孔の周縁部分16に係合して、図10に示すように鋼板15に締結され、部材20が鋼板15に支持固定される。
【符号の説明】
【0021】
1 タッピンねじ
2 頭部
3 円筒状部
4 円錐状部
5 平行ねじ部(L)のねじ山
6 テーパねじ部(M)のねじ山
7 ねじ山6と平行して延びる第2のねじ山
G 二条のねじ山6,7の先端部分に形成された錐揉み刃
8 回転工具の係合部
L 平行ねじ部
M テーパねじ部
T 二条のねじ山6,7からなる先尖りテーパねじ部
11,12,15 鋼板
13 V字形穴
14,16 貫通孔の周縁部分
20 部材
21 取付孔
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】実公昭48−13799号公報
【特許文献2】特開昭54−53750号公報
【特許文献3】特公昭62−15769号公報
【特許文献4】特開昭51−35847号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に頭部(2)を設けた円筒状部(3)の先端に円錐状部(4)を有し、前記円筒状部(3)に設けた平行ねじ部(L)のねじ山(5)と、前記円錐状部(4)に設けたテーパねじ部(M)のねじ山(6)とがピッチの粗い一条のねじ山からなるタッピンねじ(1)であって
前記円錐状部(4)が、尖端角度が30度前後の鋭角の円錐状に形成され、該円錐状部(4)の先端部分に前記テーパねじ部(M)のねじ山(6)と平行して延びる第2のねじ山(7)を設けて、前記円錐状部(4)の先端部分に二条のねじ山(6,7)が形成され、該二条のねじ山(6,7)からなる先尖りテーパねじ部(T)の軸方向長さが、締結する金属板の厚み(上限1.6mm)以上であることを特徴とするタッピンねじ。
【請求項2】
前記円錐状部(4)の先端部分に形成された前記二条のねじ山(6,7)が、前記円錐状部(4)の尖端に向けてリード角が増大し、かつ、尖端に収斂する錐揉み刃を構成していることを特徴とする請求項1記載のタッピンねじ。
【請求項3】
前記一条の平行ねじ部(L)におけるねじ山(5)の締結負荷側(頭部側)のフランク面(5e)の角度(e)が、反対側(円錐状部側)のフランク面(5f)の角度(f)より小さいことを特徴とする請求項1又は2記載のタッピンねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−256971(P2011−256971A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133541(P2010−133541)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(505384140)ピアス販売株式会社 (16)