説明

タルボ・ロー干渉計用の格子

【課題】光やX線用の回折格子型干渉計の中でも、タルボ・ロー干渉計では、インコヒーレントで大きな光源を用いてシアリング干渉計を構成できる。この干渉計でコントラストの良い干渉縞を得るには、第1の格子と第2の格子の間隔を格子のピッチと波長によって決定される値にする必要があった。
【解決手段】この発明では、第2の格子の1ピッチ内の構造を工夫することにより、製作が比較的容易で、第1の格子と第2の格子の間の間隔に関する制約を取り除くことができる格子を提供することを目的とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
可視光やX線の干渉計の内、回折格子を光波の分割に用いるものがある。その内、タルボ・ロー干渉計は、2枚ないしは3枚の格子を用いて、シアリング干渉計を構成する。この干渉計ではインコヒーレントで大きい光源を用いてもコントラストの良い干渉縞が得られる。この干渉計はX線や可視光、物資波に用いられ、これらの波の位相を測定する方法として有用である。特に、X線の干渉計では、蛋白質などの変化を検出できるということで新たな応用が期待されている。また、この光学系は格子を投影するためにも用いることができ、格子投影法を用いた立体計測にも用いることができる。本特許はこの干渉計に用いる回折格子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タルボ・ロー干渉計用いられている回折格子は、吸収率が周期的に変化する吸収格子か、位相変化が周期的に変化する位相格子が主である。特に、製作が容易な吸収率が2値になっているか、位相変化が2値になっているバイナリ格子が主として用いられている。このような格子を用いると、光学系の構成上に制限が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開 2009 240378
【特許文献2】特開 2008 232643
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】百生敦、医用画像分野における位相X線イメージングの期待、応用物理、36、363-368(2007)
【非特許文献2】Koichi Iwata,Yusuke Sando, Kazuo Sato and Kousuke Moriwaki, Application of generalized grating imaging to pattern projection in three-dimensional profilometry, Appl.Opt.,50, 5115-5121(2011);
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タルボ・ロー干渉計の構造を図1に示す。図にある5の位置(L20で示す。)にコントラストの良い干渉縞が生じる。その干渉縞が細かくて画像センサで検出できない場合には5の位置に第3の格子を設けて、モアレ効果で粗い干渉縞を生じさせる場合もある。この干渉計の理論は一般化格子結像理論によって説明されている。この干渉計では、光源がインコヒーレントで空間的に広がっていてもコントラストの良い格子像を得られる。
【0006】
この光学系の第2の格子の前後に物体を置くことにより、シアリング干渉計として用いることができ、現在は光やX線や物質波の干渉計として研究されている(特許文献1、特許外文献1)。また、コントラストの良い格子像を投影するためにも用いられ、格子投影法を用いた立体計測にも用いることができる(特許文献2、特許外文献2)。
【0007】
この干渉計に用いる格子は、吸収型の格子か、位相のみを変化させる格子が用いられている。しかし、このような格子を用いると光学系の設計に制限が加わることになる。
【0008】
たとえば、第1と第2の格子の間の距離をL1、第1と第2の格子のピッチをp1とp2としたとき、コントラストの良い格子像が結像する位置の第2の格子からの距離L02は、数1となる(特許外文献2)。この条件に一致しない距離L2ではコントラストが悪くなる。この式は特許文献1の式からも導くことができる。
【数1】

【0009】
たとえば、第2の格子に吸収格子を用いて場合は、コントラストの良い格子像を得るため、数1の条件に加えて、第2番目の制限が必要となる。すなわち、特許外文献2にあるように、第1の格子と第2の格子との間隔L1が、数2を満たす必要がある。ここで、nは整数であり、hは波長である。この式は特許文献1の式からも導くことができる。また、特許文献2には近似的な式が示されている。この条件のため、格子結像の光学系の設計に制限が生じる。例えば、p1,p2が大きい値であったり、が小さい値であると、必然的にL1が大きくなる。
【数2】

【0010】
従来のタルボ・ロー干渉計においては、吸収格子や位相格子が用いられ、この場合多くの次数に強い回折光が生じる。数2のような制限はそのために生じる。非特許文献2にあるように位相格子を用いた場合も数2に類似の制限が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第2番目の制限(数2)を除くには、第2の格子の回折光の0次光を無くし1次光だけにする必要がある。1次元格子では、このために、正弦波的に透過率が変化する格子を用いる必要がある。しかし、この場合、透過率が負となる部分があるとともに、透過率が連続的に変化する必要がある。このような格子は製作困難である。
【0012】
そこで、正弦波格子に近い作用をする製作可能な格子が必要となる。そのような格子の内、1次元格子として、2値の吸収格子と2値の位相格子を組み合わせた吸収位相格子が比較的製作が容易で有効である。
【0013】
2次元の格子で、1次光のみに強い回折光を生じさせるものとして、六方格子で、2値の吸収格子と3値の位相格子を組み合わせた吸収位相格子が製作が比較的容易で有効である。
【発明の効果】
【0014】
タルボ・ロー干渉計において、位相と吸収を組み合わせた格子に直線格子や六方格子を用いることにより、インコヒーレントで広がった光源からの光が両格子を透過した後の強度変化に関して、第1の格子と第2の格子の距離L1に係わらず、L20で表されるコントラストのよい位置が存在するようにできる。そのため、光学系の設計が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】タルボ・ロー干渉計の光学系を説明するための図である。
【図2】1次元の直線型吸収位相格子を説明するための図である。
【図3】2次元の吸収位相格子(六方格子)を説明するための図である。
【図4】1次元格子で第2格子を吸収位相格子としたときのコントラストのシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図5】1次元格子で第2格子を位相格子としたときのコントラストのシミュレーション結果の一例を示す図である。
【図6】(a)吸収格子と(b)吸収位相格子の断面図を示す図である。
【図7】1次元格子で第2格子を吸収位相格子としたときの実験結果の一例を示す図である。
【図8】2次元格子で第2格子を吸収位相六方格子としたときのコントラスト変化のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1次元の格子の透過率を図2に示す。図では黒い部分が不透明な部分であり、透明な部分は位相が0度の部分と180度の部分が交互になっている。透明の部分の幅をwであらわす。透過率と位相を合わせたものを複素透過率と呼ぶ。位相180度は-1を表すことになるため、上記のように透過率と位相を合わせると、複素透過率は+1,0,-1が繰り返す格子となる。ここで、3次の回折光を無くすには、上記wの値をw:(p-w)=2:1となるように選ぶ。この結果、0次光、3次光が無く、2次光が大きい回折格子となる。
【0017】
2次元の格子としては、図3に示すような六方格子を用いる。この格子の単位格子は太線で囲んでいる。白い部分は不透明で、円形の部分が透明である。透明部分は3種類あるが、異なるパターンで描かれている部分がそれぞれ -120度, 0度, 120度 の位相を持っている。位相は3つの値となるので、基板の深さが3段階となる。また、透明部分と不透明部分とはほぼ同じ面積となっている。これにより、図の右に破線の矢印で示す3方向に主な1次の回折光が生じる。円形の部分は必ずしも円形に限らない。たとえば、六角形でもよい。
【実施例】
【0018】
光を用いた場合を想定して、吸収位相格子を用いたシミュレーションを行った結果を図4に示す。ここでは、波長h=0.5m. 光源の大きさS=1mm L0=28mm, p1=40.4mm and p2=40mを仮定して、L1,L2の関数として、コントラストを計算している。第1の格子は、w1=p1/6の吸収格子、第2の格子はw2=p1/3の吸収位相格子である。このシステムでは、L1によるコントラストの変化が小さい。
【0019】
比較のために、条件は上の図と同じで、第2の格子のみを全面透過(w2=p2/2)として、2値の位相格子に変えた場合のコントラストを図5に示す。このときは、L1によってコントラストが大きく変化していることがわかる。良いコントラストを得るためには、二つの格子の間隔L1を図中の縦線の位置にする必要がある。これが式2の制限である。
【0020】
図4のシミュレーションに対応する格子を作成した。作成した第1の格子の断面図を図6(a)に、第2の格子の断面図を図6(b)に示す。図で黒いところがCrを蒸着した部分で、不透明である。また、基盤ガラスにエッチングで凹凸を作成して位相変化を生じさせた。(a)は吸収格子であり、(b)は吸収位相格子である
【0021】
吸収位相格子を用いた直線格子の場合の実験結果を図7に示す。格子間隔をL1=7mmとL1=10mmにしたときのL2によるコントラストの変化である。これは図4の縦線に沿うコントラストであり、L1の値を変化させても最大コントラストは変化しないことを示している。シミュレーションとよく一致する。
【0022】
図3の2次元の吸収位相形の六方格子形状の格子に対して、波長=0.5m. 光源の大きさS=1mm L0=28mm, p1=40.4mm and p2=40mとして、コントラストを計算した結果が図8である。ここでもL1が違ってもコントラストが変化していない様子が見て取れる。
【0023】
以上は光波の場合を想定しているが、この理論は光波には限らない。波長を変えればどのような波にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
タルボ・ロー干渉計は、物体によって生じる位相差を測定するのに用いられる。位相差を測定することによって、物体の屈折率の分布や形状に関する情報が得られる。特に、最近ではX線の干渉計によって、H,C,N,Oなどでできた生物の体を構成する物質(蛋白質など)の変化の場所的分布を検出しやすいということから注目されている。
【0025】
可視光で干渉計として利用すると、位相差を測定することにより、ある面上での振幅と位相を含めた光波の全体像を測定することができることになる。これは、レンズや生物体などの透明物体の構造を知る上で重要であり、また、立体ディスプレイに応用することが可能であると考えられる。
【0026】
このような干渉計への応用において、従来の吸収格子、または位相格子だけでは、干渉計の構成に制限があったため、製作できる装置の大きさが限られていた。本発明によって、その制限が緩和され、より自由に設計できるようになる。
【0027】
1次元の格子を用いた干渉計において、第2の格子に0次光と、±1次光存在すると、干渉光は0次項と+1次光及び0次光とー1次光との二つの干渉効果が同じピッチの干渉縞に寄与する。しかし、±1次光のみであると、1つの干渉効果だけが干渉縞に寄与するので、干渉縞のずれがどの光の干渉光によって生じるのかが明確になり、位相差を正確に知り得ることになる。
【0028】
2次元の六方格子において、第2の格子に0次光と多くの1次光が存在する場合は、多くの干渉光が同じピッチの干渉縞に寄与する。しかし、3つの1次光のみの格子であると、一つのピッチに対して一組の干渉光のみが寄与する。このため、干渉縞のずれがどの光とどの光の干渉光によって生じるのかが明確になり、位相差を正確に知り得ることになる。
【0029】
また、この構成は、シアリング干渉計として利用する以外に結像した格子をそのまま利用する方法がある。例えば、結像された六方格子の強度変化を物体に投影し、その投影パターンを投影方向とは異なる方向から、写真にとり、パターンの位置ずれから、三角測量法の原理を用いて、物体の立体形状を測定する方法がある。この場合も、請求項1、2の格子を用いることにより、投影光学系の設計に自由度が増える。
【符号の説明】
【0030】
1. 光源
2. 第1格子
3. 第2格子
4. 任意の観測平面
5. コントラストの良い観測平面

S 光源の大きさの半分
L0 光源から第1格子までの距離
L1 第1格子から第2格子までの距離
L2 第2格子から観測平面までの距離
L20 第2格子からコントラストの良い格子像が得られる観測平面までの距離
p1 第1格子のピッチ
p2 第2格子のピッチ
p ピッチ
w 透明部分の幅
A,B,C 六方格子の透明部分(3つの異なる位相を持つ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透過する部分と不透明な部分の面積の割合がほぼ2:1になっており、透過部分を通った光の透過後の位相差が、透過する部分一つおきにほぼ0度と180度となっているるタルボ・ロー干渉計用の直線格子。
【請求項2】
単位格子内に面積の等しい3つの円形もしくは六角形もしくは三角形の透過部分があり、透明部分と不透明部分の面積の比がほぼ1:1になっており、透過部分の位相が、ほぼ-120度、0度、120度になっているタルボ・ロー干渉計用の六方格子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−114025(P2013−114025A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260018(P2011−260018)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(711012305)
【Fターム(参考)】