説明

タンディシュ

【課題】タンディシュ本体の開口部を閉塞する蓋を均一に冷却でき、係る蓋の不用意な熱変形を防ぎ、清浄で且つ適温の溶鋼を供給可能としたタンディシュを提供する。
【解決手段】溶鋼Mを内側に貯留するタンディシュ本体20と、該本体20の開口部を開閉可能にして閉塞する蓋2aと、を備え、係る蓋2aは、鋼板製の天板3aおよび該天板3aの周囲から垂下する側板3bからなる鉄皮3と、該鉄皮3の内側に配置された耐火物4と、外部から上記鉄皮3を貫通し、前記耐火物4の内部を水平方向に沿って配管され、且つタンディシュ本体20の内側に不活性ガスを吐出するガス管10と、を備えており、係るガス管10は、鉄皮3を貫通して外部に連通する複数の給気管12と、タンディシュ本体20の内側に不活性ガスを吐出する複数の吐出管13とを備えている、タンディシュ1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、連続鋳造用鋳型に清浄な溶鋼を注湯するための密閉型のタンディシュに関する。
【背景技術】
【0002】
取り鍋から供給される溶鋼中に含まれる非金属介在物などの不純物の浮上分離と、複数個の連続鋳造用鋳型への溶鋼の分割供給とを目的とし、溶鋼の酸化および温度低下を防ぐため、タンディシュ本体の開口部をタンディシュカバー(蓋)により閉塞可能とした密閉型のタンディシュが使用されている。
上記タンディシュカバーは、鋼板からなる鉄皮(天鋼板/フレーム)の内側に不定形耐火物のキャスタブルを支持させているが、両者間の熱膨張率が異なるため、鉄皮の熱変形によって上記耐火物が破損したり、剥離ないし脱落することにより、タンディシュ本体の密閉性が損なわれる、という問題があった。
【0003】
前記問題を解決するため、天鋼板に加え、前記タンディシュカバーの外周縁に沿って配置し且つ底面に前記耐火物を保持する耐火物保持鋼板と、係る保持鋼板を冷却する冷却水が内部を循環するフレーム兼用の冷却用角管とを設けたタンディシュカバーを含む連続鋳造装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、特許文献1に記載されたタンディシュカバーでは、フレーム兼用の冷却用角管を当該タンディシュカバーの外周縁に沿って配置しているので、該カバーの周辺部が冷却水により急冷されるのに比べ、係るカバーの平面視おける内側部分では、冷却効果が不十分となるため、熱膨張のバラツキが解消していない。しかも、タンディシュカバーの内部に冷却水を循環させるため、冷却用角管を配管する加工やポンプなどの設備によりコスト高になる、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−82190号公報(第1〜10頁、図1〜3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術において説明した問題点を解決し、タンディシュ本体の開口部を閉塞する蓋を均一に冷却でき、係る蓋の不用意な熱変形を防ぎ、清浄で且つ適温の溶鋼を供給可能としたタンディシュを提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、タンディシュ本体の開口部を閉塞する蓋のほぼ全体に不活性ガスのガス管を比較的均一に配管する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明のタンディシュ(請求項1)は、溶鋼を内側に貯留するタンディシュ本体と、該本体の開口部を開閉可能にして閉塞する蓋と、を備えたタンディシュであって、上記蓋は、鋼板製の天板および該天板の周囲から垂下する側板からなる鉄皮と、該鉄皮の内側に配置された耐火物と、外部から上記鉄皮を貫通し、前記耐火物の内部を水平方向に沿って配管され、且つタンディシュ本体の内側に不活性ガスを吐出するガス管と、を備えている、ことを特徴とする。
【0007】
更に、本発明には、前記ガス管は、前記鉄皮を貫通して外部に連通する単数または複数の給気管と、前記タンディシュ本体の内側に不活性ガスを吐出する単数または複数の吐出管とを備えている、タンディシュ(請求項2)も含まれる。
【発明の効果】
【0008】
前記請求項1のタンディシュによれば、タンディシュ本体の開口部を閉塞する蓋が、鉄皮と、その内側に配置した耐火物と、係る耐火物の内部を水平方向に沿って貫通し、当該タンディシュ本体の内側に不活性ガスを吐出するガス管とにより構成されている。その結果、Arや窒素などの不活性ガスは、蓋の内部を流通した後に、タンディシュ本体の内側に貯留された溶鋼に対して吹き付けられるので、係る溶鋼の酸化を防ぎ、分離されて溶鋼の湯面上に浮上した非金属介在物などの再反応を抑制できる。更に、不活性ガスが前記ガス管内を通過した際に蓋全体の熱を比較的均一に奪って冷却するため、鉄皮と耐火物との間で熱膨張差に基づく熱変形を確実に防ぐことができる。しかも、不活性ガスは、蓋の内部を通過する間に加熱されるので、タンディシュ本体の内側に貯留された溶鋼に吹き付けられた際に、係る溶鋼の上方における雰囲気温度を保ち、且つ係る溶鋼の局部的な冷却を防止できる。従って、清浄で且つ適温に保たれた溶鋼を、複数の連続鋳造用鋳型に対して、安定して供給することが可能となる。
加えて、ガス管が耐火物の内部に配管されているので、当該耐火物の不用意な剥離や脱落を抑制することにも寄与し得、且つ係るガス管を安価に配管できる。
【0009】
更に、前記請求項2のタンディシュによれば、Arや窒素などの不活性ガスは、外部から前記蓋の鉄皮を貫通する単数または複数の給気管から、前記耐火物の内部を水平に配管されたガス管内を送給された後、単数または複数の吐出管を経てタンディシュ本体の内側に吐出される。従って、前記鉄皮と耐火物との熱膨張差に基づく熱変形を一層確実に防止でき、溶鋼の局部的な冷却を更に抑制できる。
【0010】
尚、前記蓋は、平面視がほぼ長方形状を呈し、係る長方形状である外形の内側に沿って位置する前記耐火物に前記ガス管を、ほぼ長方形状にして埋設している。
また、前記鉄皮の天板および耐火物には、溶鋼を注湯するためのノズルを貫通させる貫通孔や、タンディシュ本体の底部に位置する注湯孔を開閉する耐火製のノズルロッドを貫通させる貫通孔が形成されている。
更に、前記鉄皮の天板や側板には、前記耐火物の内部に食い込む複数のアンカー金物が下向きまたは横向きに突設されている。
また、前記不活性ガスには、例えば、Ar(アルゴン)、窒素、あるいはこれら2つの混合ガスが含まれる。
【0011】
更に、前記ガス管は、前記鉄皮の天板に対し、複数個の金具を介して溶着することで支持され、この状態で不定形なキャスタブル耐火物を鉄皮の内側に充填し、係る耐火物に埋設するように配管しても良い。
また、前記ガス管は、平面視で蓋の外形に倣ったほぼ長方形状で且つ単一の環状パイプを呈し、係る環状パイプに単数または複数の給気管と吐出管とを接続した形態としても良い。
あるいは、前記ガス管は、平面視で蓋の内部に併設される複数組の環状パイプからなり、各組ごとの環状パイプに単数または複数の給気管と吐出管とを接続した形態としても良い。
加えて、前記ガス管は、その外周面に前記耐火物の内部に食い込む板形状の凸部を長手方向に沿って、間隔を明けて複数個突設した形態としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による一形態のタンディシュを示す平面図。
【図2】図1中のX−X線の矢視に沿った上記タンディシュの垂直断面図。
【図3】図1中のY−Y線の矢視に沿った蓋の垂直断面図。
【図4】異なる形態の蓋を示す図3と同様の垂直断面図。
【図5】更に異なる形態の蓋を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明による一形態のタンディシュ1を示す平面図、図2は、図1中のX−X線の矢視に沿った模式的な垂直断面図である。
上記タンディシュ1は、図1,図2に示すように、全体がほぼ箱状を呈し、内側に溶鋼Mを貯留するタンディシュ本体20と、該本体20の開口部を閉塞する平面視がほぼ長方形の蓋(タンディシュカバー)2aとを備えている。
【0014】
タンディシュ本体20は、図2に示すように、四辺の鋼板からなる側板21、底板22、およびこれらの内側に配置された耐火物23,24からなり、底面には、図示しない連続鋳造鋳型に溶鋼Mを供給するための貫通孔25が左右一対形成されている。係る貫通孔25は、耐火物からなり且つ昇降可能なノズルロッド8aの先端部によって、開閉可能とされている。尚、一枚の側板21と底板22の一部は、次述する蓋20の凸部3cに倣って中間部分が外側に突出している。
【0015】
一方、蓋2aは、図1,図2に示すように、鋼板からなり平面視がほぼ長方形の天板3aと、該天板3aの周囲から垂下する側板3bとからなる鉄皮3と、係る鉄皮3の内側に配置されたほぼ板状の耐火物4と、外部から鉄皮3の天板3aを左右の両端部で貫通する一対の給気管12を有し、且つ上記耐火物4の内部を平面視で天板3aの長方形状とほぼ相似形の環状にしてに配管されたガス管10とを備えている。係るガス管10からは、複数の吐出管13が耐火物4を貫通して垂下し、タンディシュ本体20の内側に連通している。また、上記給気管12には、図示しない不活性ガスのタンクとの間を連通し、中間にポンプを有する供給管が接続されている。
【0016】
尚、図1に示すように、天板3aは、図示で下向きの凸部3cを一体に有しており、係る凸部3cの真下には、タンディシュ本体20側における一方の側板21と底板22の中間に同様な突出部が形成されている。
図3に示すように、複数の吐出管13を含むガス管10は、複数個の板状の金具14を介して、鉄皮3の天板3aの内面に対して溶着され、係る状態で鉄皮3の内側に不定形なキャスタブルの耐火物4を充填して、係るガス管10を埋設している。尚、一対の給気管12は、その中間で天板3aに固定されている。
【0017】
図1,図2に示すように、平面視で蓋2aの中央部には、平面視が六角形の貫通孔5が形成され、係る貫通孔5は、一対の蓋板6によって中央に形成される円形の通し孔7を残して閉塞される。該通し孔7には、耐火物からなる注湯管9が垂直に挿入される。例えば、図示しない溶解炉において溶鋼Mを供給された取り鍋19が真上に搬送された後、その底部から溶鋼Mを、図2中の一点鎖線の矢印で示すように、タンディシュ本体20の内側に注湯して貯留する際に、上記注湯管9が利用される。
【0018】
また、平面視で蓋2aの左右には、一対の貫通孔8が個別に穿設され、該貫通孔8には、前記ノズルロッド8aが昇降可能に貫通している。
更に、図3に示すように、鉄皮3の天板3aや側板3bの内面には、断面がほぼT字形である複数のアンカー金物16が垂直または横向きにして溶着され、それぞれ耐火物4の内部に食い込んでいる。尚、ガス管10の外周面にも、板形状を呈する複数のアンカー金具28を間隔を置いて溶着し、且つ耐火物4に食い込ませても良い。尚また、ガス管10の外周面に対し、複数のアンカー金物16を溶着して突設しても良い。
【0019】
以上のようなタンディシュ1は、以下のようにして用いられる。
予め、タンディシュ本体20の内側における耐火物23,24と、蓋2a側の耐火物4とを、補修ないし貼り替えた後、蓋2aでタンディシュ本体20の開口部を閉塞した状態としたタンディシュ1を、クレーンなどを用いて、図示しない縦型連続鋳造設備における複数個(本実施例では2個)の連続鋳造鋳型(図示せず)の上方に配置する。次いで、取り鍋19を蓋2aの真上に配置し、内部の溶鋼Mを通し孔7に挿入した注湯管9を介して、タンディシュ本体20の内側に注湯および貯留する。この際、蓋2aにおける左右一対の貫通孔8と、タンディシュ本体20の底部における左右一対の注湯孔25とは、一対のノズルロッド8aによって、それぞれ閉塞されている。
【0020】
係る状態で、図示ないガスタンクあるいはガスボンベからArガスを左右一対の給気管12から、環状のガス管10内に流入させた後、図2中で下向きの矢印で示すように、複数の吐出管13から溶鋼Mの上方に吹き込まれる。係る状態で、前記ノズルロッド8aを上昇させることで、上記溶鋼Mが一対の注湯孔25から連続鋳造鋳型に注湯される。尚、前記Arガスに替えて、窒素を用いたたり、Arと窒素との混合ガスを用いても良い。
【0021】
以上のようなタンディシュ1によれば、前記溶鋼Mの上方に吹き込まれArガスなどの不活性ガスによって、溶鋼Mの酸化と、該溶鋼Mの湯面上に浮上した不純物の再反応とを防ぐことができる。また、給気管12、ガス管10、および吐出管13を不活性ガスが流通した際に、蓋2aを構成する鉄皮3と耐火物4との双方を全体として比較的均一に冷却しているので、鉄皮3の熱変形や耐火物4の破損や、剥離ないし脱落を抑制できる。更に、係る不活性ガスは、上記流通する間に加熱されてから、溶鋼Mに吹き付けられるため、係る溶鋼Mの局部的な冷却を防止できるので、比較的均一な温度の溶鋼Mとして注湯することが可能となる。
しかも、ガス管10が耐火物4の内部に配管されているので、当該耐火物4の不用意な剥離や脱落を抑制することも可能となる。加えて、前記蓋2aによって、タンディシュ本体20の内側をシールした状態で溶鋼Mの貯留(保持)および注湯が行えるので、蓋2aにおける耐火物4の耐用期間を伸ばすことも可能となる。
【0022】
図4は、鉄皮3の天板3aおよび側板3bの内面に、断面ほぼY字形を呈する複数のアンカー金物18を垂直または横向きにして溶着し、それぞれ耐火物4の内部に食い込むようにした蓋2bの垂直断面図である。係る蓋2bも、前記蓋2aと同様に、前記タンディシュ1を構成し、且つ前記同様の効果を奏し得る。尚、係る蓋2bにおいて、耐火物4内に埋設するガス管10の外周面にも、板形状を呈する複数のアンカー金具28を間隔を置いて溶着し、且つ耐火物4に食い込ませても良い。尚また、ガス管10の外周面に対し、複数のアンカー金物18や前記アンカー金物16を溶着して突設しても良い。
【0023】
図5は、更に異なる形態の蓋2cを示す平面図である。
蓋2cは、図5に示すように、前記同様の鉄皮3、耐火物4、蓋板6、および通し孔7,貫通孔8を備えている。係る蓋2cでは、中央部のガス管10aと、左右一対のガス管10bとの3個の環状パイプが並列にして耐火物4の内部に配設されている。中央部のガス管10aには、互いに離間した位置に設けた2本の給気管12と、これらの間に設けた合計7本の吐出管13とが前記同様に接続されている。また、左右一対のガス管10bには、1本の給気管12と、4本吐出管13とが前記同様に接続されている。
【0024】
以上のような蓋2cを含むタンディシュ1によれば、前記した効果に加え、圧力が比較的小さい複数のポンプを用いて、3つのガス管10a,10bごとに不活性ガスを圧送し、且つタンディシュ本体20の内側へ供給するため、蓋2c全体を一層均一に冷却でき、耐火物4の脱落を一層抑制できると共に、設備の故障による影響も少なくし得る。尚、上記蓋2cにおいて、耐火物4内に埋設するガス管10の外周面にも、複数のアンカー金具28を間隔を置いて溶着し、且つ耐火物4に食い込ませても良い。
【0025】
本発明は、以上において説明した各形態に限定されるものではない。
例えば、タンディシュ本体や蓋は、平面視がほぼ長方形を呈する形態でも良い。
また、前記ガス管は、断面が円形に限らず、角形状断面の管としても良い。
更に、耐火物は、定形の耐火物と不定形の耐火物とを併用したものでも良い。
加えて、蓋2などに設ける貫通孔8、これを昇降可能に貫通するノズルロッド8a、および該ロッド8aにより開閉され且つタンディシュ本体20の底部に位置する注湯孔25は、前記2個ずつに限らず、3個以上であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、タンディシュ本体の開口部を閉塞する蓋を均一に冷却でき、係る蓋の不用意な熱変形を防げると共に、清浄で且つ適温の溶鋼を安定して供給可能としたタンディシュを提供することができる。
【符号の説明】
【0027】
1…………………………タンディシュ
2a〜2c………………蓋
3…………………………鉄皮
3a………………………天板
3b………………………側板
4…………………………耐火物
10,10a,10b…ガス管
12………………………給気管
13………………………吐出管
M…………………………溶鋼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼を内側に貯留するタンディシュ本体と、該本体の開口部を開閉可能にして閉塞する蓋と、を備えたタンディシュであって、
上記蓋は、鋼板製の天板および該天板の周囲から垂下する側板からなる鉄皮と、該鉄皮の内側に配置された耐火物と、外部から上記鉄皮を貫通し、前記耐火物の内部を水平方向に沿って配管され、且つタンディシュ本体の内側に不活性ガスを吐出するガス管と、を備えている、
ことを特徴とするタンディシュ。
【請求項2】
前記ガス管は、前記鉄皮を貫通して外部に連通する単数または複数の給気管と、前記タンディシュ本体の内側に不活性ガスを吐出する単数または複数の吐出管とを備えている、
ことを特徴とする請求項1に記載のタンディシュ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−35004(P2013−35004A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171561(P2011−171561)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】