説明

タンパク質の凝集が防止された中性域のタンパク質含有組成物及びその製造方法

【課題】Ca及び/又はMgを含む原料を配合し100℃以上の加熱殺菌を施しても凝集を発生させることなく、食感及び風味に優れた中性域のタンパク質含有組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、Ca又はMgのいずれか又は両方、及びタンパク質を含む加熱殺菌されたpHが中性域の組成物であって、さらにタンパク質の凝集を防止するためのメチルエステル化度の低いペクチンを含み、他の凝集防止用添加物を含まない前記組成物を提供する。また、本発明は、Ca又はMgのいずれか又は両方を含む原料と、タンパク質を含む原料と、メチルエステル化度の低いペクチンとを混合し、得られた混合物を100℃以上で加熱殺菌し、加熱殺菌後、得られた混合物を無菌的に充填又はホットパックすることを特徴とするタンパク質の凝集が防止された中性域のタンパク質含有組成物の製造方法を提供する。また、本発明は、Ca又はMgのいずれか又は両方を含む原料と、タンパク質を含む原料と、メチルエステル化度の低いペクチンとを混合し、得られた混合物を容器に充填及び密封して加熱殺菌することを特徴とするタンパク質の凝集が防止された中性域のタンパク質含有組成物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質の凝集が防止された中性域のタンパク質含有組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
野菜又は野菜汁と牛乳を混合し、加熱すると、凝集が発生することが知られている(非特許文献1〜4)。野菜中にイオン態のCa、Mg、Fe等の金属イオンや有機酸が存在すると凝集が起こりやすい。これを防止するために、酸性飲料等においてペクチンなどを用いることが提案されている(特許文献1〜3)。これらの文献には、凝集防止のためには、ペクチンとして高メトキシペクチン(メチルエステル化度の高いペクチン)を用いることが好ましいとされている。しかしながら、中性域の組成物においては、高メトキシペクチンを用いると、凝集が生じる(実験例1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−187851号公報
【特許文献2】特開2003−61575号公報
【特許文献3】特開2005−185132号公報
【非特許文献1】河村フジ子、他1名,「牛乳の熱凝固におよぼす野菜の影響について(第1報)」,日本家政学雑誌,1974年,第25巻,第4号,p.270−275
【非特許文献2】松本睦子、他2名,「牛乳の熱凝固におよぼす野菜の影響について(第2報)」,日本家政学雑誌,1975年,第26巻,第4号,p.243−248
【非特許文献3】河村フジ子、他1名,「牛乳の熱凝固におよぼす野菜の影響について(第3報)」,日本家政学雑誌,1975年,第26巻,第5号,p.340−345
【非特許文献4】河村フジ子、他1名,「牛乳の熱凝固におよぼす野菜の影響について(第4報)」,日本家政学雑誌,1976年,第27巻,第7号,p.479−483
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Ca及び/又はMgを含む原料を配合し100℃以上の加熱殺菌を施しても凝集を発生させることなく、食感及び風味に優れた中性域のタンパク質含有組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、Ca又はMgのいずれか又は両方、及びタンパク質を含む加熱殺菌されたpHが中性域の組成物であって、さらにタンパク質の凝集を防止するためのメチルエステル化度の低いペクチンを含み、他の凝集防止用添加物を含まない前記組成物を提供する。また、本発明は、Ca又はMgのいずれか又は両方を含む原料と、タンパク質を含む原料と、メチルエステル化度の低いペクチンとを混合し、得られた混合物を100℃以上で加熱殺菌し、加熱殺菌後、得られた混合物を無菌的に充填又はホットパックすることを特徴とするタンパク質の凝集が防止された中性域のタンパク質含有組成物の製造方法を提供する。また、本発明は、Ca又はMgのいずれか又は両方を含む原料と、タンパク質を含む原料と、メチルエステル化度の低いペクチンとを混合し、得られた混合物を容器に充填及び密封して加熱殺菌することを特徴とするタンパク質の凝集が防止された中性域のタンパク質含有組成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、Ca及び/又はMgを含む原料を配合し100℃以上の加熱殺菌を施しても凝集を発生させることなく、食感及び風味に優れた組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のタンパク質を含む加熱殺菌されたpHが中性域の組成物は、液状、ペースト状又は固形状のものであってもよい。特に、水を多く含む形態において、タンパク質の凝集の防止能が効率良く発揮される。また、本発明の前記組成物は、食品、化粧品又は医薬品であってもよい。特に、食品においては、食感及び風味に優れる。
本発明の前記組成物のpHは中性域であり、好ましくは6.5〜7.5、更に好ましくは6.5〜7である。前記pHが低くなり過ぎるとケール等の緑色の原料を使用すると、緑色が退色するという問題が生じる場合があり、反対に前記pHが高くなり過ぎると褐変し、風味が悪くなるという問題が生じる場合がある。
本発明の前記組成物においては、タンパク質源として、タンパク質を含むものであれば、食品、化粧品又は医薬品で使用できるものである限り、どのようなものでも使用できる。タンパク質は、動物性タンパク質であっても、植物性タンパク質であってもよい。例えば、生乳、牛乳、加工乳、全粉乳、脱脂粉乳、調製粉乳、練乳、生クリーム、豆乳等があげられる。これらのタンパク質源は、1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。全粉乳、脱脂粉乳、調製粉乳のような粉末のタンパク質源の場合は、水によって液状化して使用してもよく、練乳や生クリームのような濃縮タイプのタンパク質源の場合は、必要に応じて水で薄めて使用してもよい。本発明の前記組成物におけるタンパク質含有量は、例えば0.3〜6.6質量%であり、特に飲料の場合は0.3〜3.6質量%である。
本発明の前記組成物は、さらにCa又はMgのいずれか又は両方を含む。本発明の前記組成物においては、Ca及び/又はMg源として、Ca及び/又はMgを含むものであれば、食品、化粧品又は医薬品で使用できるものである限り、どのようなものでも使用できる。例えば、ケール、パセリ、しそ、すだち、よもぎ、しゅんぎく、モロヘイヤ、ほうれん草、ひじき、わかめ等が挙げられる。好ましくは、ケールである。これらCa及び/又はMg源は、1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。本発明の前記組成物におけるCa又はMg含有量は、例えば0.02〜0.35質量%である。
【0008】
本発明の前記組成物は、さらにメチルエステル化度の低いペクチンを含む。好ましくは、前記メチルエステル化度は、好ましくは3〜12%である。前記ペクチンは水溶性の食物繊維であるため無味無臭である。したがって、添加することによる組成物への味及び臭いの変化が極めて小さい。本発明の前記組成物における前記ペクチン含有量は、例えば0.01〜1.3質量%であり、特に0.1〜1.3質量%の場合に、タンパク質の凝集の防止能が効率良く発揮される。なお、前記ペクチン含有量は、殺菌温度が高くなるほど、殺菌時間が長くなるほど、Ca及び/又はMg含有量が多いほど、多くするのが好ましい。また、前記ペクチン含有量が多すぎる場合には、製品にペクチン由来の粘度が強くなり、製品の流動性が失われる場合もある。
本発明の前記組成物は、好ましくは1500mPa・s以下であり、例えば飲料の場合には5〜25mPa・s程度であることが好ましく、食感・風味共に良好なものが得られる。本発明における上記粘度は、B型粘度計を用いて、品温10℃のときに測定したものである。なお、粘度が5〜50mPa.sである場合には、ロータとして「低粘度アダプタ」(回転数:12rpm)を用い、粘度が50〜500mPa.sである場合には、ロータとして「M1」(回転数:12rpm)を用い、粘度が500〜2500mPa.sである場合には、ロータとして「M2」(回転数:12rpm)を用いる。また、本発明では、タンパク質の凝集を防止するためには上記メチルエステル化度の低いペクチンを含ませればよく、他の凝集防止用添加物を含ませる必要はない。他の凝集防止用添加物としては、ジェランガムやアルギン酸ナトリウム、リン酸塩、高メトキシルペクチン、大豆多糖類アラビアガム等の公知のものを例示することができる。
【0009】
本発明の前記組成物の製造方法においては、各原料の混合順序は、加熱前に行う限り特に限定されるものではなく、各原料の混合順序が異なっていても、タンパク質の凝集防止効果はほとんど変わらない。例えば、Ca及び/又はMg源、タンパク質源及びメチルエステル化度の低いペクチンを一緒に混合してもよく、Ca及び/又はMg源とメチルエステル化度の低いペクチンを混合した後にタンパク質源を混合してもよい。また、Ca及び/又はMg源とタンパク質源を混合した後にメチルエステル化度の低いペクチンを混合してもよい。なお、製造工程上からは、粉体原料同士を混合して粉体混合物とし、その後に液状物と混合するのが、混合工程の効率面から好ましい。
本発明の前記組成物の加熱殺菌方法は、食品、化粧品又は医薬品において行われている公知の方法であればどのような方法であっても用いることができる。例えば、レトルト釜・チューブ式殺菌機等を用いて殺菌してもよい。なお、食品の場合には、殺菌温度が100℃以上であることが長期保存の点で好ましい。前記殺菌は、得られた混合物を容器に充填及び密封した後に行ってもよく、又は前記殺菌を行った後に、得られた混合物を無菌的に充填又はホットパックしてもよい。
【実施例】
【0010】
(実験例1)
水20質量部、乳酸カルシウム0.25質量部、牛乳80質量部を混合し、メチルエステル化度の異なるペクチンをその含有量が0.5質量%及び1質量%となるように添加した。0.1mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を用いて殺菌後のpHが6.5〜6.7(20℃)になるように調整し、シャワー式レトルト殺菌機により、120℃で20秒間の殺菌を実施した。結果を表1に示す。表1から明らかなように、メチルエステル化度が36%以下でタンパク質の凝集防止効果が見られ、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンを用いることで、タンパク質の凝集の発生が防止された。
【0011】
【表1】

【0012】
(実験例2)
各種濃度の乳酸カルシウム溶液に牛乳を80質量%となるように混合し、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンを添加した。0.1mol/Lの水酸化ナトリウムを用いて殺菌後のpHが6.5〜6.7(20℃)になるように調整し、シャワー式レトルト殺菌機により、120℃で20秒間の殺菌を実施した。結果を図1に示す。図1から明らかなように、乳酸カルシウムの添加量を増加させるほど、凝集防止に必要なペクチン量も増加した。また、ペクチンの添加量を0.01〜1.3質量%とした場合、乳酸カルシウム由来のカルシウム量が20〜85(mg/100gあたり)の範囲(直線左側の部分)で凝集防止に効果があった。
【0013】
(実施例1)
水20質量部、塩化マグネシウム0.25質量部、牛乳80質量部を混合し、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンをその含有量が0.5質量%となるように添加した。0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液を用いて殺菌後のpHが6.5〜6.7(20℃)になるように調整し、シャワー式レトルト殺菌機により、120℃で20秒間の殺菌を実施した。
【0014】
(比較例1)
メチルエステル化度が3〜12%のペクチンを添加しないこと以外は、実施例3と同様の方法で処理した。
【0015】
実施例3と比較例1の結果を表2に示す。表2から明らかなように、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンを添加しない場合に発生する凝集を、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンを添加することによって防止することができた。
【表2】

【0016】
(実施例2及び3及び比較例2)
ケール生葉をブランチング後、生葉100質量部に対して水70質量部を添加し、ミキサーによりケールペーストを作成した。得られたケールペースト20質量部に対し、牛乳80質量部を加え、混合した。得られた混合物に対し、メチルエステル化度の異なるペクチンをその含有量が0.2質量%となるように添加し、溶解・攪拌後、シャワー式レトルト殺菌機により、120℃で20秒間の殺菌を実施した(pH6.5〜6.7)。また、B型粘度計を用いて、品温10℃での粘度を測定した。また、凝固度合いや風味について評価した。結果を表3に示す。表3から明らかなように、メチルエステル化度が50%以上のペクチンを添加した場合には殺菌時の凝集発生防止に効果は得られなかった。また、凝集部分は過加熱による焼けた風味がつよく、製品として許容できなかった。メチルエステル化度が32%以下のペクチンを添加した場合には凝集発生防止に効果がみられ、殺菌後の風味が改善された。また、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンを用いた場合にあっては、凝集の発生は全くなく、殺菌後の風味も極めて良好であった。
【表3】

【0017】
(実施例4)
実施例2で作製した混合物に対し、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンをその含有量が0.2質量%となるように添加し、溶解・攪拌した後、チューブ式殺菌機を用いて130℃で30秒間の殺菌を実施した(pH6.5〜6.7)。結果を表4に示す。表4から明らかなように、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンを用いた場合にあっては、チューブ式殺菌機を用いて130℃で30秒間の殺菌を実施しても凝集の発生は全くなく、殺菌後の風味も良好であった。
【表4】

【0018】
(実施例5〜10及び比較例3)
実施例2で用いたケールペースト20質量部に対し、牛乳80質量部を加え、混合した。得られた混合物に対し、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンをその含有量が0〜1.3質量%となるように添加し、溶解・攪拌後、シャワー式レトルト殺菌機により、120℃で20秒間の殺菌を実施した。殺菌後のサンプル飲料について官能評価を実施すると共に、ガラス電極法により20℃におけるpHを測定し、また、B型粘度計を用いて10℃での粘度を測定した。結果を表5に示す。表5から明らかなように、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンをまったく添加しなかった場合は、凝集が発生し、食感・風味どちらも満足することができなかった。一方、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンを0.1質量%の濃度で使用した場合には、少し重さを感じる程度で風味は良好であった。メチルエステル化度が3〜12%のペクチンを0.25質量%以上の濃度で使用した場合においては凝集の発生は全くなく、風味も良好であった。メチルエステル化度が3〜12%のペクチンを1.3質量%の濃度で使用した場合においては、最終製品にペクチン由来の粘度が強くなり、風味面では良好であるが、食感面でわずかに重さを感じるようになった。なお、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンを1.3質量%以上の濃度で使用した場合については、表5には示していないが、製品にペクチン由来の粘度が強くなり、製品の流動性が失われる可能性があるため、凝集防止効果を得る場合には、目的とする食感(例えば、スープ等に使用)にあわせて添加量を調整する必要がある。
【表5】

【0019】
(実施例11)
水20質量部、乳酸カルシウム0.6質量部、牛乳62質量部、全粉乳18質量部を混合し、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンをその含有量が1.3質量部となるように添加した。また、0.1mol/L水酸化ナトリウム溶液を用いて殺菌後のpHが6.5〜6.7(20℃)になるように調整し、シャワー式レトルト殺菌機により、120℃で20秒間の殺菌を実施した。
【0020】
(比較例4)
メチルエステル化度が3〜12%のペクチンを添加しないこと以外は実施例11と同様の方法で処理した。
実施例11と比較例4の結果を表6に示す。表6から明らかなように、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンを添加しない場合に発生する凝集を、メチルエステル化度が3〜12%のペクチンを添加することによって防止することができた。
【0021】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実験例2におけるペクチン量と乳酸カルシウム由来のカルシウム量の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca又はMgのいずれか又は両方、及びタンパク質を含む加熱殺菌されたpHが中性域の組成物であって、さらにタンパク質の凝集を防止するためのメチルエステル化度の低いペクチンを含み、他の凝集防止用添加物を含まない前記組成物。
【請求項2】
Ca又はMg源がケールである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
タンパク質源が生乳、牛乳、加工乳、全粉乳、脱脂粉乳、調製粉乳、練乳及び生クリームから選択される1種又は2種以上である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
ペクチンのメチルエステル化度が3〜12%である、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
前記pHが6.5〜7.5である、請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
その粘度が1500mpa・s(B型粘度計を用いて品温10℃で測定)以下である、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
Ca又はMgのいずれか又は両方を含む原料と、タンパク質を含む原料と、メチルエステル化度の低いペクチンとを混合し、
得られた混合物を100℃以上で加熱殺菌し、
加熱殺菌後、得られた混合物を無菌的に充填又はホットパックすることを特徴とするタンパク質の凝集が防止された中性域のタンパク質含有組成物の製造方法。
【請求項8】
Ca又はMgのいずれか又は両方を含む原料と、タンパク質を含む原料と、メチルエステル化度の低いペクチンとを混合し、
得られた混合物を容器に充填及び密封して100℃以上で加熱殺菌することを特徴とするタンパク質の凝集が防止された中性域のタンパク質含有組成物の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−220215(P2008−220215A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60570(P2007−60570)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】