説明

タンパク質の生産方法

【課題】遺伝子組換え技術により所望のタンパク質を生産する方法であって、生産された所望のタンパク質を容易にかつ変性させることなく回収することができる、遺伝子組換え技術による所望タンパク質の生産方法を提供すること。
【解決手段】 複数回膜貫通型のタンパク質をコードする遺伝子と、所望遺伝子とを含む融合遺伝子が組み込まれたベクターを、ウイルス粒子を産生する宿主細胞に導入して宿主細胞内で前記融合遺伝子を発現させ、所望のタンパク質を前記ウイルス粒子及び前記複数回膜貫通型のタンパク質と融合された形で生産し、所望のタンパク質が融合された該ウイルス粒子を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子組換え技術による所望のタンパク質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム解析が進み、ほぼヒトゲノム配列は一次的なレベルでの配列解析が終了しようとしているが、各遺伝子の機能解析は程遠いものと言わざるを得ない。即ち期待したほどの遺伝子数がない可能性が議論され始めている通り、機能を議論するには単に遺伝子配列情報だけでは何も議論できない状況が明確になってきている。クローン化された遺伝子の機能は組換えタンパク質を用い、その機能解析を行わなくてはならないが、通常大腸菌での発現系では得られるタンパク質が不溶性である為に、その可溶化条件で、構造の変化が伴って来る事は周知の事実である。これまでは分泌型発現系を用いたり、リフォールディングステップを利用する事で何とか辻褄を合わせようとしてきたというのが実態である。如何に本来の天然型構造に戻す条件を見出すかを研究してきたという事が現実である。本来動物細胞を用いると天然型構造は得られると期待されているが、得られる発現量が少なかったり、組換え体の選択に時間がかかりすぎるとの問題点、すなわち抗生物質等による細胞毒性からの回避による選択などでは、この選択条件等が煩雑で時間ばかりかかり、競争が激しい世の中では受け得いれがたいものである。
【0003】
動物細胞由来の糖鎖構造とは異なり、バキュロウイルス発現系が単純ではあるが糖鎖構造を有する点と種々技術改良がなされた為に(Bac-To-Bac(登録商標)バキュロウイルス発現システム、GibcoBRl社製、特許文献1及び特許文献2)、組換え技術が簡単に行える事から、非常に注目を浴びている。これまでに分泌型タンパク質発現系への工夫(非特許文献1)或いは、ウイルス本来のタンパク質をコードする遺伝子(特に表面膜タンパク質をコードする)の前に挿入する遺伝子を融合させる(非特許文献1〜3)等種々の工夫がなされてきた。しかし、分泌型タンパク質等は希望する状態で得られると予想されるが、膜タンパク質になるとその精製課程でどうしても可溶化条件処理で、タンパク質の変性が起こる。或いはflagと称して、精製ステップ用にタグを付与してそれを目安に簡便な精製ステップを提供する方法論も提供されているが、ステップが多くなるのみでコストがかかる。そこでは本来のタンパク質以外のタグがどの程度天然型構造を維持できているかは不明のままで取り扱っている状況にはかわりはない。
【0004】
さらに、遺伝子組換え技術により生産されるタンパク質を、細胞培養上清や細胞破砕物から精製する操作は、硫安沈殿、塩析、種々のクロマトグラフィー、電気泳動等のそれら自体は常法である種々の精製ステップを組み合わせて行われるが、これらの精製方法は操作が煩雑で収率が低く、さらに上述の通り、精製過程でタンパク質が変性する恐れもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,674,908号
【特許文献2】米国特許第4,981,797号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Protein Expr. Purif., 14, 8 - 12 (1998)
【非特許文献2】J. Cell Biol., 143, 1155 - 1166 (1998)
【非特許文献3】Biotechnology, 13, 1079 - 1084 (1995)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、遺伝子組換え技術により所望のタンパク質を生産する方法であって、生産された所望のタンパク質を容易にかつ変性させることなく回収することができる、遺伝子組換え技術による所望タンパク質の生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、所望のタンパク質をコードする遺伝子と、ウイルス粒子を構成するタンパク質をコードする遺伝子との融合遺伝子を宿主細胞中で発現させることにより、所望のタンパク質をウイルス粒子に結合された形態で生産させ、該ウイルス粒子を回収し、必要に応じて、回収されたウイルス粒子から所望のタンパク質を回収することにより所望のタンパク質を容易に、かつ、変性させることなく精製することを見出し本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、ウイルス粒子を構成するタンパク質をコードする遺伝子と、所望遺伝子とを含む融合遺伝子をベクターに組み込み、該ベクターを宿主細胞に導入して宿主細胞内で前記融合遺伝子を発現させ、所望のタンパク質をウイルス粒子に融合された形で生産し、所望のタンパク質が融合された該ウイルス粒子を回収することを含む、遺伝子組換え技術によるタンパク質の生産方法を提供する。また、本発明は、複数回膜貫通型のタンパク質をコードする遺伝子と、所望遺伝子とを含む融合遺伝子が組み込まれたベクターを、ウイルス粒子を産生する宿主細胞に導入して宿主細胞内で前記融合遺伝子を発現させ、所望のタンパク質を前記ウイルス粒子及び前記複数回膜貫通型のタンパク質と融合された形で生産し、所望のタンパク質が融合された該ウイルス粒子を回収することを含む、遺伝子組換え技術によるタンパク質の生産方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、生産された所望のタンパク質を容易にかつ変性させることなく回収することができる、遺伝子組換え技術による所望タンパク質の新規な生産方法が提供された。本発明の方法によれば、所望のタンパク質がサイズの大きなウイルス粒子との融合タンパク質として生産されるので、遠心分離等により極めて容易に精製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の方法では、ウイルス粒子を構成するタンパク質をコードする遺伝子と、所望遺伝子とを含む融合遺伝子をベクターに組み込み、該ベクターを宿主細胞に導入して宿主細胞内で前記融合遺伝子を発現させ、所望のタンパク質をウイルス粒子に融合された形で生産し、所望のタンパク質が融合された該ウイルス粒子を回収する。
【0012】
ここで、ウイルス粒子を構成するタンパク質としては、例えば、ウイルスのエンベロープを構成するコートタンパク質等を挙げることができる。具体的には、バキュロウイルスのコートタンパク質でgp64を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、宿主細胞中で形成されるウイルス粒子にその構成要素として組み込まれるタンパク質であればいずれのタンパク質であってもよい。
【0013】
これらのうち、特にバキュロウイルスのウイルス粒子を構成するタンパク質が好ましく、とりわけ、バキュロウイルスのコートタンパク質であるgp64が特に好ましい。gp64自体は周知のタンパク質であり、そのアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子配列も公知であり、例えばGenBank Accession No. L22858に記載されている。バキュロウイルスは、昆虫細胞中で強力に発現するプロモーターを有し、このプロモーターを利用したバキュロウイルスベクター及びその宿主であるカイコ等の昆虫細胞は市販されて広く用いられており、宿主−ベクター系が確立されている。バキュロウイルスベクターに所望のタンパク質をコードする遺伝子を組み込み、昆虫宿主細胞中で発現させる場合、通常、先ず、バクミド(bacmid)DNAとヘルパープラスミドDNAとを含む大腸菌細胞に、所望のタンパク質をコードする遺伝子を含むプラスミドを導入し、大腸菌細胞中での相同組換えにより所望のタンパク質をコードする遺伝子をバクミド中に組み込み、該バクミドを増殖させた後、宿主昆虫細胞に感染させる。そうすると、宿主細胞中で、バキュロウイルスと共に所望のタンパク質が生産される。この方法に用いられる、バクミド、ヘルパープラスミド、及びこれらを含む大腸菌細胞も市販されており、上記の方法はこれらの市販品を用いて容易に行うことができる。従って、この常法に基づき、バキュロウイルスベクターにgp64遺伝子と所望のタンパク質をコードする遺伝子を組み込み、宿主昆虫細胞中で発現させることにより、所望のタンパク質が融合したgp64を含むバキュロウイルス粒子が生産される。また、この場合、昆虫細胞は真核細胞であるので、原核微生物細胞を宿主とした場合とは異なり、生産される所望のタンパク質には糖鎖が結合され、より天然の状態に近づくという利点ももたらされる。
【0014】
所望のタンパク質は、何ら限定されるものではなく、いずれのタンパク質であってもよい。好ましい例として、フコシルトランスフェラーゼ1〜9、N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼI〜VI、シアル酸転移酵素群、ガラクトシル転移酵素等の糖転移酵素、更には糖鎖構造に硫酸基を付与する糖脂質硫酸転移酵素群(例えば、ヘパラン硫酸N-硫酸転移酵素やガラクトシルセラミド硫酸を合成するセレブロシド硫酸転移酵素)、酸化LDLスカベンジャー受容体、MACRO(Macrophage Receptor with Collagenous Structure)等を含むスカベンジャー受容体ファミリーを含むII型膜タンパク質類全般も挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、ウイルス粒子を構成するタンパク質をコードする遺伝子と、所望遺伝子とを含む融合遺伝子は、これらの2つの遺伝子を直接連結したものであってもよいし、これらの間に介在配列が存在していてもよい(ただし、この場合には下流側の遺伝子のリーディングフレームが上流側の遺伝子のリーディングフレームと合っている必要がある)。また、これらの2つの遺伝子を含む融合遺伝子を予め形成し、これをベクターに組み込んでも良いし、先にいずれか一方の遺伝子をベクターに組み込み、次いで、他の遺伝子をベクターに組み込んでベクター内で融合遺伝子を形成してもよい。なお、後述のように、2つの遺伝子の間に、トロンビンの認識配列Leu-Val-Gly-Arg-Pro-Serや、Factor Xaの認識配列Ile-Glu-Gly-Argをコードする配列を介在させておくと、後の精製工程で、これらのタンパク質分解酵素を作用させて所望のタンパク質をウイルス粒子から容易に切り離すことができる。
【0015】
所望のタンパク質の少なくとも活性領域が、ウイルス粒子の外側に露出する形でウイルス粒子に融合されることが好ましい。このようにすることにより、ウイルス粒子から該タンパク質を切り離すことなく免疫分析又は該タンパク質の活性を指標として所望のタンパク質の存在を確認することができ、また、所望のタンパク質の活性を利用できればよい場合等では、所望のタンパク質をウイルス粒子から切り離すことなくウイルス粒子と融合された形態で用いることも可能である。ウイルス粒子の構造がわかっている場合には、これは容易に行うことができる。すなわち、例えば、バキュロウイルスのgp64では、N末端が粒子の外側に露出し、C末端が粒子の内側に露出することがわかっているので、所望のタンパク質は、gp64のN末端側に融合させればウイルス粒子の外側にその全体が露出することになる。一方、所望のタンパク質が、例えばヒト糖転移酵素のように、膜貫通領域を有する場合には、膜貫通領域は疎水性が高いので、ウイルス粒子の膜(殻)に該膜貫通領域を固定させ、所望のタンパク質がウイルス粒子の膜に埋め込まれた形態にあるものを生産することも可能である。所望のタンパク質の全体がウイルス粒子の外側に完全に露出している場合には、遠心処理等の間に該タンパク質がウイルスから離脱してしまう可能性があるので、所望のタンパク質が膜貫通領域を有する場合には、このようにウイルス粒子の膜に埋め込まれた形で該タンパク質を生産することが好ましい。この場合には、ウイルス粒子の外側に該タンパク質の活性領域が露出することが好ましい。これもウイルス粒子の構造と所望のタンパク質の構造がわかっている場合には容易に行うことができる。例えば、上記の通り、バキュロウイルスのgp64は、N末端が粒子の外側に露出し、C末端が粒子の内側に露出することがわかっている。一方、ヒト糖転移酵素は、膜貫通領域よりもC末端側に活性領域が存在するII型膜タンパク質ファミリーであることがわかっている。従って、gp64のC末端側に糖転移酵素のN末端側が結合するように、gp64遺伝子の3'側下流に糖転移酵素の5'側を連結することにより、糖転移酵素は、そのN末端がウイルス粒子内でgp64のC末端に結合し、その膜貫通領域がウイルス粒子の膜に固定され、その活性領域がウイルス粒子の外側に露出した形態で生産される。従って、所望のタンパク質が膜貫通領域を有する場合には、その全遺伝子をそのまま発現させればよく、膜貫通領域を除去する等の操作は不要である。むしろ、所望のタンパク質が遠心分離操作等の際にウイルス粒子から離脱しないように、ウイルス粒子に所望のタンパク質を比較的堅固に固定することが好ましいので、所望のタンパク質は、少なくとも1個の膜貫通領域を有することが好ましい。gp64はウイルス粒子の膜を貫通する形でウイルス粒子に保持されるので、所望のタンパク質が1個の膜貫通領域を有する場合、ウイルス粒子タンパク質と所望のタンパク質の融合タンパク質は、合計2個の膜貫通領域でウイルス粒子に固定されることになる。このように、ウイルス粒子タンパク質と所望のタンパク質の融合タンパク質が合計2個以上の膜貫通領域を有することが好ましい。
【0016】
本願発明の第2の方法では、融合遺伝子は、複数回膜貫通型のタンパク質をコードする遺伝子が融合された形式をとる。これにより、所望のタンパク質は、複数回膜貫通型のタンパク質に融合された形態で得られる。上記の通り、膜貫通型のタンパク質の膜貫通領域は、疎水性が高いので、ウイルス粒子においてもウイルス粒子の膜を貫通する。従って、複数回膜貫通型のタンパク質を、ウイルス粒子を産生する宿主細胞中で発現させると、ウイルス粒子の膜を複数回貫通する形で該複数回膜貫通型のタンパク質が生産される。所望のタンパク質は、ウイルス粒子の膜を複数回貫通するこの複数回膜貫通型タンパク質と融合した形態で得られる。複数回膜貫通タンパク質は、ウイルス粒子の膜を複数回貫通しているので、精製工程においてウイルス粒子から離脱しにくく、ひいては所望のタンパク質もウイルス粒子から離脱しにくくなる。
【0017】
本願発明の第2の方法においても、融合される2種類の遺伝子は、直接連結してもよいし、各遺伝子の間に介在配列が存在してもよい(ただし、この場合には下流側の遺伝子のリーディングフレームが上流側の遺伝子のリーディングフレームと合っている必要がある)。また、2種類の遺伝子を連結して融合遺伝子を形成した後に該融合遺伝子をベクターに組み込んでもよいし、ベクターに各遺伝子を順次組み込んでベクター内で融合遺伝子を形成してもよい。なお、複数回膜貫通型タンパク質がウイルス粒子の膜を複数回貫通しやすくするために、融合遺伝子は、上流側から複数回膜貫通型タンパク質をコードする遺伝子、及び所望のタンパク質をコードする遺伝子を含むことが好ましい。なお、2つの遺伝子の間に、トロンビンの認識配列Leu-Val-Gly-Arg-Pro-Serや、Factor Xaの認識配列Ile-Glu-Gly-Argをコードする配列を介在させておくと、後の精製工程で、これらのタンパク質分解酵素を作用させて所望のタンパク質を複数回膜貫通タンパク質から容易に切り離すことができる。
【0018】
複数回膜貫通型タンパク質としては、公知の種々の複数回膜貫通型タンパク質のいずれであってもよく、例えば、ヒトケモカイン受容体(CCR3, CCR4, CCR5など、7回貫通型)、リゾリン脂質受容体としてのEdgファミリー(7回貫通型)、生体内アミン(ノルアドレナリン、ドパミン、セロトニン、ヒスタミン)の受容体(7回貫通型)、プロスタグランジン類の受容体(7回貫通型)、多くのペプチドホルモンの受容体(7回貫通型)、ムスカリン受容体(7回貫通型)、グルタミン酸受容体(7回貫通型)、コラーゲン受容体CD36(2回貫通型)、スカベンジャー受容体クラスB(SR-B)(2回貫通型)、ホスファチジン酸ホスファターゼ(6回貫通型)等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0019】
なお、第2の方法において、宿主細胞はウイルス粒子を産生するものである必要がある。これは、上記融合遺伝子を、上記したバキュロウイルスベクターに組み込み、昆虫細胞中で発現させ、それによって、前記融合遺伝子の発現と同時に、昆虫細胞内でウイルス粒子を生産させることによって容易に達成することができる。あるいは、宿主細胞に別途ウイルス自体を感染させたり、又はウイルス粒子を産生するベクターを感染させたりして宿主細胞がウイルス粒子を生産するようにしてもよい。
【0020】
本願発明の第2の方法においても、所望のタンパク質の少なくとも活性領域が、ウイルス粒子の外側に露出する形で複数回膜タンパク質に融合されることが好ましい。これもウイルス粒子の構造、複数回膜タンパク質の構造及び所望のタンパク質の構造がわかっていれば容易に達成することができる。例えば、複数回膜貫通型タンパク質として7回膜貫通型のヒトケモカイン受容体タンパク質CCR3を用い、所望のタンパク質としてヒト糖転移酵素を用いる場合、CCR3は、そのC末端側をウイルス粒子の内側に露出する形でウイルス粒子の膜を貫通するので、その下流にヒト糖転移酵素遺伝子を連結することにより、ヒト糖転移酵素の膜貫通領域が8回目の貫通領域となるように、CCR3とヒト糖転移酵素の融合タンパク質がウイルス粒子の膜に埋め込まれ、ヒト糖転移酵素の活性領域がウイルス粒子の外側に露出したものが得られる。
【0021】
なお、複数回膜貫通型タンパク質の膜貫通回数が偶数の場合には、所望のタンパク質はヒト糖転移酵素のようなII型膜貫通タンパク質1回膜貫通型が好ましく、逆に本来末側が細胞質内に存在する奇数回の膜貫通型タンパク質の場合には、所望のタンパク質として、膜貫通ドメイン構造を有しないタンパク質を融合させる事が好ましい。
【0022】
本願発明の第1及び第2の方法において、宿主細胞に融合タンパク質を生産させる段階までは、バキュロウイルスベクター、宿主昆虫細胞及び大腸菌細胞を含む、市販のキット等を用いて常法に基づき容易に行うことができる。
【0023】
宿主細胞内でウイルス粒子が所望のタンパク質、又は複数回膜貫通型タンパク質と所望のタンパク質との融合した形態で生産された後、該ウイルス粒子を分離する。一般に、ウイルスは、細胞培養上清中に出てくるので、細胞培養上清を遠心分離することにより容易にウイルス粒子を分離することができる。この場合、遠心分離は、9,000〜100,000g程度の加速度で30〜120分間程度行うことにより、培養上清中の他の各種成分から容易に分離することができる。ウイルス粒子は、培養上清中に含まれる他の種々のタンパク質等に比べるとはるかに大きいので、遠心分離のみによって容易に分離することができる。従って、従来法のように種々の煩雑な操作を経る必要がなく、また、タンパク質が変性する恐れもない。ウイルスが培養上清中にあまり出てこない場合には、細胞を破砕し、破砕物からウイルス粒子を回収するが、これも加速度の異なる遠心分離を2〜3回組み合わせることにより容易に行うことができる。また、所望のタンパク質がウイルス表面に露出しているので、回収したウイルスを抗原としてマウス等に免疫する事により、所望のタンパク質に対する抗体を作製することができる。
【0024】
所望のタンパク質の少なくとも活性領域がウイルス粒子の外側に露出している場合には、回収されたウイルス粒子自体が所望のタンパク質の活性を有しているので、所望のタンパク質の活性を利用できればよい場合等では、所望のタンパク質をウイルス粒子から切り離すことなく回収されたウイルス粒子をそのまま所望の目的に用いることができる。
【0025】
また、他の細胞内で発現タンパク質を得る方法では、細胞中のタンパク質と発現タンパク質との分離は容易ではない。発現タンパク質を分泌させ培養液中に放出させても培養液中のタンパク質との分離が必要である。本発明の方法は、ウイルス粒子を回収するため細胞中や培養液中のタンパク質との分離が容易である。すなわち、ウイルスを得ることにより一般的な発現システムに比べて純度の高い発現タンパク質を得ることができる。さらに、所望のタンパク質が膜貫通型のタンパク質の場合には、ウイルスエンベロープ膜に固定された状態が、天然に取り得る膜貫通時の立体構造を維持している可能性もある。
【0026】
さらに、ウイルス粒子より、所望のタンパク質を純化するためには、バキュロウイルスのエンベロープを弱い界面活性剤で溶解してヌクレオカプシド(バキュロウイルスの核部分)と分離する事ができる。
【0027】
例えば、界面活性剤(トライトンX-100, Tween類、ノニデッド、デオキシコール酸、コール酸、リゾPCなど、最終濃度0.05〜1.0%程度)を含む緩衝液をバキュロウイルス粒子に添加して攪拌するか、またはソニケーションすることにより、エンベロープを溶解する。その後、この溶液を9,000〜100,000g程度の加速度で30〜120分間程度遠心分離する。ヌクレオカプシドは沈殿分画に存在し、エンベロープ上に結合していた所望のタンパク質は、遠心後の上清に存在する。
【0028】
この段階で、主に所望のタンパク質とエンベロープ中に存在するエンベロープタンパク質(gp64)に純化することができる。さらに精製を必要とする場合、各種カラム(ゲルろ過カラム、イオン交換カラム、レクチンカラム、抗体カラムなど)を用いて精製する事ができる。
【0029】
加えて、ウイルス粒子から所望の必要のタンパク質を切り出す場合、ウイルス表面より、露出されている部分にプロテアーゼ認識配列をつけることにより、切り出す事ができる。例えば、使用するプロテアーゼとしてトロンビンを用いる場合、認識アミノ酸配列は「Leu-Val-Gly-Arg-Pro-Ser」、プロテアーゼとしてFactor Xaの場合、認識アミノ酸配列は「Ile-Glu-Gly-Arg」を挿入することができるが、使用できるプロテアーゼおよび挿入できる認識アミノ酸配列はこれに限定するものではない。具体的な処理方法は、ウイルス粒子をプロテアーゼで処理し、その後、この溶液を9,000〜100,000g程度の加速度で30〜120分間程度遠心分離するする。沈殿か分画にはウイルス粒子が存在し、上清分画に切り出された所望のタンパク質が存在する。
【0030】
これらの操作は、従来の不溶性タンパク質の精製操作等と比較するとはるかに単純でしかも緩和な条件であり、タンパク質の変性の恐れはほとんどない。
【0031】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
参考例1 フコース転移酵素の一つであるFUT3遺伝子を直接発現させた場合
α (1,3/1,4)フコシルトランスフェラーゼ遺伝子(GenBank Accsession No. X53578、以下FUT3と記載する)をバキュロイウルスに導入して、FUT3のタンパク質を得るように設計した。FUT3遺伝子は、常法に従いヒト遺伝子よりクローニングした。PCR反応による増幅に用いたプライマーは、制限酵素NdeIサイトを付加したFUT3F1:tcg cat atg gat ccc ctg ggt gca gcc aagおよび制限酵素XhoIサイトを付加したFUT3R3:atg ctcgag tca ggt gaa cca agc cgc tatを用いて行った。このFUT3遺伝子のPCR増幅産物および構築したpFB6A/CCR3プラスミド(下記(2)参照)は、制限酵素NdeIおよびXhoIにて処理した。これらを常法に従い結合して大腸菌(DH5αコンピテント細胞)に導入し、アンピシリン含有LB寒天プレートに播種して37℃で約16時間培養した。このプレートより、単一の大腸菌のコロニーを選択し、この大腸菌をアンピシリン含有LB培養液にて約16時間振盪培養した。増殖した大腸菌より、プラスミドを抽出し、挿入したFUT3遺伝子の配列を確認した所、すでに報告されているFUT3遺伝子の配列(GenBank Accession No. X53578)と一致していた。このFUT3遺伝子が導入されたプラスミドをpFB6A/FUT3とした。
【0033】
常法に従い、このFUT3遺伝子を組み込んだドナープラスミド(pFB6A/FUT3)をバクミドDNAとヘルパーDNAを既に導入している大腸菌DH10Bac細胞(GibcoBRl社製)に導入し、FUT3をバクミドDNAに相同組換えにより組み込んだ。これは次のように行った。pFB6A/FUT3をコンピテント状態の大腸菌DH10Bac細胞に導入し、カナマイシン、テトラサイクリン、ゲンタマイシン、IPTGおよびBluo-galを含むLB寒天培地に播種し、37℃で約16時間培養した。相同組換えを起こした大腸菌は、白いコロニーとして確認できるので、白いコロニーを選択してカナマイシン、テトラサイクリンおよびゲンタマイシンを含むLB培溶液にて37℃で約16時間培養した。この大腸菌溶液1.5mlより、常法に従ってバクミドDNAを精製して40μlのTEに溶解した。
【0034】
このバクミドDNA溶液5μlを100μlのSf-900II培養液(GibcoBRl社製)に添加しものと、別にCellFECTIN試薬(GibcoBRl社製)6μlと100μlのSf-900II培養液を混合したものとを混ぜ合わせ、45分間室温で静置した。このバクミドDNA/CellFECTIN混合液にさらに800μlのSf900II培養液を加え、これを昆虫細胞Sf21細胞GibcoBRl社製、9x105個の細胞を結合した6穴プレート)に添加し、5時間、27℃で培養した。5時間後にこのバクミドDNA/CellFECTIN混合液を取り除き、抗生物質の入ったSf-900II培養液で72時間、27℃で培養した。
【0035】
この培養終了後に、培養液を回収した。この培養液には、FUT3を産生する組換えバキュロウイルスが含まれる。回収した培養液800μlを、別途培養していたSf21細胞(T75フラスコ、サブコンフルエントの状態のもの、抗生物質入りのSf-900II培養液20ml含有)に添加して72時間、27℃で培養した。72時間培養後、細胞をフラスコより剥して培養液と同時に回収した。回収した細胞懸濁液を3000rpm、10分間遠心し、上清と沈殿に分離した。沈殿を細胞分画とし、上清をバキュロウイルス分画とした。
【0036】
常法に従い、FUT3モノクローナル抗体(特開平8-119999)を用いてウェスタンブロッティングにて確認した。その結果、FUT3タンパク質は、Sf21細胞内で発現が認めれ、分子量の異なった3種類が確認できた。しかしながら、バキュロウイルス分画には認められなかった。
【0037】
参考例2 pFB6A/CCR3の構築
常法によりヒト白血球より、mRNAを抽出し、cDNAを作製し、ケモカイン受容体CCR3をクローニングした。この際、停止コドンを除いた部分をPCR反応にて増幅し、用いたプライマーは、クローニングするために制限酵素認識配列を付加した。使用したプライマーは、CCR3F:tcgcatatgacaacctcactagatacagtt、CCR3R:tgcgaattcaaacacaatagagagttccggctctgであった。CCR3遺伝子のPCR増幅産物は、制限酵素NdeIおよびEcoRIにて処理した。クローニングに用いたプラスミドは、市販のバキュロウイルスベクターであるpFastBac donor plasmid(GibcoBRL社製)のマルチクローニングサイトをNdeIおよびEcoRIでクローニング出来るように改良したものである(以下pFB6Aと記載する)。このpFB6AもNdeIおよびEcoRIにて処理し、このプラスミドに制限酵素処理したCCR3遺伝子のPCR増幅産物を結合させた。
【0038】
このCCR3遺伝子のPCR増幅産物を組み込んだプラスミドを常法に従い、大腸菌(DH5αコンピテント細胞)に導入し、アンピシリン含有LB寒天プレートに播種して37℃で約16時間培養した。このプレートより、単一の大腸菌のコロニーを選択し、この大腸菌をアンピシリン含有LB培養液にて約16時間振盪培養した。増殖した大腸菌より、プラスミドを抽出して挿入したCCR3遺伝子の配列を確認した所、すでに報告されているCCR3遺伝子の配列(GenBank Accession No. AF026535)と一致していた。そこで、このCCR3遺伝子が導入されたプラスミドをpFB6A/CCR3とした。
【0039】
実施例1 フコース転移酵素の一つであるFUT3遺伝子をCCR3遺伝子の後ろに融合させて発現させた場合
構築したプラスミドpFB6A/CCR3のCCR3遺伝子に糖転移酵素の一つであるα (1,3/1,4)フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を結合し、CCR3-FUT3結合タンパクを得るように設計した。FUT3遺伝子は、参考例1でクローニングしたものを使用した。PCR反応による増幅に用いたプライマーは、制限酵素EcoRIサイトを付加したFUT3F:tgcgaattcatggatcccctgggtgcagccおよび制限酵素XhoIサイトを付加したFUT3R:tgtctcgagtcaggtgaaccaagccgctatを用いて行った。このFUT3遺伝子のPCR増幅産物および構築したpFB6A/CCR3プラスミドは、制限酵素EcoRIおよびXhoIにて処理した。これらを常法に従い結合して大腸菌(DH5αコンピテント細胞)に導入し、アンピシリン含有LB寒天プレートに播種して37℃で約16時間培養した。このプレートより、単一の大腸菌のコロニーを選択し、この大腸菌をアンピシリン含有LB培養液にて約16時間振盪培養した。増殖した大腸菌より、プラスミドを抽出し、挿入したFUT3遺伝子の配列を確認した所、すでに報告されているFUT3遺伝子の配列(GenBank Accession No. X53578)と一致していた。このFUT3遺伝子が導入されたプラスミドをpFB6A/CCR3-FUT3とした。
【0040】
常法に従い、このCCR3遺伝子とFUT3遺伝子を結合したドナープラスミド(pFB6A/CCR3-FUT3)をバクミドDNAとヘルパーDNAを既に導入している大腸菌DH10Bac細胞に導入し、CCR3-FUT3をバクミドDNAに相同組換えにより組み込んだ。これは次のように行った。pFB6A/CCR3-FUT3をコンピテント状態の大腸菌DH10Bac細胞に導入し、カナマイシン、テトラサイクリン、ゲンタマイシン、IPTGおよびBluo-galを含むLB寒天培地に播種し、37℃で約16時間培養した。相同組換えを起こした大腸菌は、白いコロニーとして確認できるので、白いコロニーを選択してカナマイシン、テトラサイクリンおよびゲンタマイシンを含むLB培溶液にて37℃で約16時間培養した。この大腸菌溶液1.5mlより、常法に従ってバクミドDNAを精製して40μlのTEに溶解した。
【0041】
このバクミドDNA溶液5μlを100μlのSf-900II培養液に添加しものと、別にCellFECTIN試薬6μlと100μlのSf-900II培養液を混合したものとを混ぜ合わせ、45分間室温で静置した。このバクミドDNA/CellFECTIN混合液にさらに800μlのSf900II培養液を加え、これを昆虫細胞Sf21細胞(9x105個の細胞を結合した6穴プレート)に添加し、5時間、27℃で培養した。5時間後にこのバクミドDNA/CellFECTIN混合液を取り除き、抗生物質の入ったSf-900II培養液で72時間、27℃で培養した。
【0042】
この培養終了後に、培養液を回収した。この培養液には、CCR3-FUT3を産生する組換えバキュロウイルスが含まれる。回収した培養液800μlを、別途培養していたSf21細胞(T75フラスコ、サブコンフルエントの状態のもの、抗生物質入りのSf-900II培養液20ml含有)に添加して72時間、27℃で培養した。72時間培養後、細胞をフラスコより剥して培養液と同時に回収した。回収した細胞懸濁液を3000rpm、10分間遠心し、上清と沈殿に分離した。沈殿を細胞分画とし、上清をバキュロウイルス分画とした。
【0043】
実施例2 pFB6A/gp64の構築
常法に従い、バキュロウイルスよりゲノムDNAを抽出し、エンベロープ糖タンパク質であるgp64遺伝子をクローニングした。この際、停止コドンを除いた部分をPCR反応にて増幅し、用いたプライマーは、クローニングするために制限酵素認識配列を付加した。使用したプライマーは、制限酵素NdeIサイトを付加したgp64F:tcgcatatggtaagcgctattgttttatat、制限酵素EcoRIサイトを付加したgp64R:tgcgaattcatattgtctattacggtttctであった。gp64遺伝子のPCR増幅産物は、制限酵素NdeIおよびEcoRIにて処理した。クローニングに用いたプラスミドは、pFB6Aを用いた。このpFB6AもNdeIおよびEcoRIにて処理し、このプラスミドに制限酵素処理したgp64遺伝子のPCR増幅産物を結合させた。
【0044】
これを常法に従い、gp64遺伝子のPCR増幅産物を組み込んだプラスミドを大腸菌(DH5αコンピテント細胞)に導入し、アンピシリン含有LB寒天プレートに播種して37℃で約16時間培養した。このプレートより、単一の大腸菌のコロニーを選択し、この大腸菌をアンピシリン含有LB培養液にて約16時間振盪培養した。増殖した大腸菌より、プラスミドを抽出し、挿入したgp64遺伝子の配列を確認した所、すでに報告されているバキュロウイルスのゲノム配列中gp64遺伝子の配列(GenBank Accession No. L22858)と一致していた。このgp64遺伝子が導入されたプラスミドをpFB6A/gp64とした。
【0045】
実施例3 フコース転移酵素の一つであるFUT3遺伝子をgp64遺伝子の後ろに融合させて発現させた場合
gp64遺伝子と糖転移酵素の一つであるα (1,3/1,4)フコシルトランスフェラーゼ遺伝子を結合し、gp64-FUT3結合タンパクを得るためにFUT3遺伝子のクローニングを行った。FUT3遺伝子の増幅は、実施例3に示した。このFUT3遺伝子のPCR増幅産物およびプラスミドpFB6Aを制限酵素EcoRIおよびXhoIにて処理し、常法により結合させた。このFUT3遺伝子を組み込んだプラスミドを大腸菌(DH5αコンピテント細胞)に導入し、アンピシリン含有LB寒天プレートに播種して37℃で約16時間培養した。このプレートより、単一の大腸菌のコロニーを選択し、この大腸菌をアンピシリン含有LB培養液にて約16時間振盪培養した。増殖した大腸菌より、プラスミドを抽出し、挿入したFUT3遺伝子の配列を確認した所、すでに報告されているFUT3遺伝子の配列(GenBank Accession No. X53578)と一致していた。このFUT3遺伝子が導入されたプラスミドをpFB6A/FUT3とした。
【0046】
そこで、構築したプラスミドpFB6A/gp64を制限酵素NdeIおよびEcoRIにて処理し、この反応液を低融点アガロースゲルで分離してgp64遺伝子を得た。さらに、pFB6A/FUT3プラスミドにgp64を組み込むために、制限酵素NdeIおよびEcoRIにて処理した。このプラスミドと精製したgp64遺伝子を常法に従い結合した。このgp64を組み込んだプラスミド大腸菌(DH5αコンピテント細胞)に導入しアンピシリン含有LB寒天プレートに播種して37℃で約16時間培養した。このプレートより、単一の大腸菌のコロニーを選択し、この大腸菌をアンピシリン含有LB培養液にて約16時間振盪培養した。増殖した大腸菌より、プラスミドを抽出し、挿入したgp64遺伝子の配列を確認し、挿入が正しく行われている事を確認した。このgp64遺伝子が導入されたプラスミドをpFB6A/gp64-FUT3とした。
【0047】
常法に従い、このgp64遺伝子とFUT3遺伝子を結合したドナープラスミド(pFB6A/ gp64-FUT3)をバクミドDNAとヘルパーDNAを既に導入している大腸菌DH10Bac細胞に導入し、gp64-FUT3をバクミドDNAに相同組換えにより組み込んだ。これは次のように行った。pFB6A/ gp64-FUT3をコンピテント状態の大腸菌DH10Bac細胞に導入し、カナマイシン、テトラサイクリン、ゲンタマイシン、IPTGおよびBluo-galを含むLB寒天培地に播種し、37℃で約16時間培養した。相同組換えを起こした大腸菌は、白いコロニーとして確認できるので、白いコロニーを選択してカナマイシン、テトラサイクリンおよびゲンタマイシンを含むLB培溶液にて37℃で約16時間培養した。この大腸菌溶液1.5mlより、常法に従ってバクミドDNAを精製して40μlのTEに溶解した。
【0048】
このバクミドDNA溶液5μlを100μlのSf-900II培養液に添加しものと、別にCellFECTIN試薬6μlと100μlのSf-900II培養液を混合したものとを混ぜ合わせ、45分間室温で静置した。このバクミドDNA/CellFECTIN混合液にさらに800μlのSf900II培養液を加え、これを昆虫細胞Sf21細胞(9x105個の細胞を結合した6穴プレート)に添加し、5時間、27℃で培養した。5時間後にこのバクミドDNA/CellFECTIN混合液を取り除き、抗生物質の入ったSf-900II培養液で72時間、27℃で培養した。
【0049】
この培養終了後に、培養液を回収した。この培養液には、gp64-FUT3を産生する組換えバキュロウイルスが含まれる。回収した培養液800μlを、別途培養していたSf21細胞(T75フラスコ、サブコンフルエントの状態のもの、抗生物質入りのSf-900II培養液20ml含有)に添加して72時間、27℃で培養した。72時間培養後、細胞をフラスコより剥して培養液と同時に回収した。回収した細胞懸濁液を3000rpm、10分間遠心し、上清と沈殿に分離した。沈殿を細胞分画とし、上清をバキュロウイルス分画とした。
【0050】
常法に従い、FUT3モノクローナル抗体を用いてウェスタンブロッティングにて確認した。その結果、gp64-FUT3を産生する組換えバキュロウイルス感染Sf21細胞では、陽性バンドが検出されたが、非感染Sf21細胞では陽性バンドが観察されなかった。
【0051】
参考例3 pFB1/CCR3の構築
CCR3との結合タンパク質を作るために、マルチクローニングサイトの配列(制限酵素認識配列)が異なってプラスミドを構築するために、pFastBac donor plasmid1(GibcoBRL社製、以下pFB1と記載する)にCCR3遺伝子をクローニングした。この際、停止コドンを除いた部分をPCR反応にて増幅し、用いたプライマーは、クローニングするために制限酵素認識配列を付加した。使用したプライマーは、制限酵素EcoRIサイトを付加したCCR3FE:tcggaattcatgacaacctcactagataca、制限酵素SalIサイトを付加したCCR3RS:tgcgtcgaccaaacacaatagagagttccであった。CCR3遺伝子のPCR増幅産物およびpFB1プラスミドは、制限酵素EcoRIおよびSalIにて処理し、常法により結合させた。
【0052】
このCCR3遺伝子のPCR増幅産物を組み込んだプラスミドを常法に従い、大腸菌(DH5αコンピテント細胞)に導入し、アンピシリン含有LB寒天プレートに播種して37℃で約16時間培養した。このプレートより、単一の大腸菌のコロニーを選択し、この大腸菌をアンピシリン含有LB培養液にて約16時間振盪培養した。増殖した大腸菌より、プラスミドを抽出して挿入したCCR3遺伝子の配列を確認した所、すでに報告されているCCR3遺伝子の配列(GenBank Accession No.AF026535)と一致していた。そこで、このCCR3遺伝子が導入されたプラスミドをpFB1/CCR3とした。
【0053】
実施例3 ガラクトサミン転移酵素の一つであるGnTV遺伝子をCCR3遺伝子の後ろに融合させて発現させた場合
構築したプラスミドpFB1/CCR3のCCR3遺伝子に糖転移酵素の一つであるN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ V遺伝子 (GenBank Accsession No. NM002410、以下GnTVと記載する)を結合し、gp64-GnTV結合タンパクを得るためにGnTV遺伝子のクローニングを行った。GnTV遺伝子は、常法に従いヒト遺伝子よりクローニングした。PCR反応による増幅に用いたプライマーは、PCR反応による増幅に用いたプライマーは、制限酵素SalIサイトを付加したGnTVF: agagtcgacatggctctcttcactccgtggおよび制限酵素XhoIサイトを付加したGnTVRXho:tgactcgagctataggcagtctttgcを用いて行った。このGnTV遺伝子のPCR増幅産物およびプラスミドpFB1/CCR3は、制限酵素SalIおよびXhoIにて処理した。これらを常法に従い結合して大腸菌(DH5αコンピテント細胞)に導入し、アンピシリン含有LB寒天プレートに播種して37℃で約16時間培養した。このプレートより、単一の大腸菌のコロニーを選択し、この大腸菌をアンピシリン含有LB培養液にて約16時間振盪培養した。増殖した大腸菌より、プラスミドを抽出し、挿入したGnTV遺伝子の配列を確認した所、すでに報告されているGnTV遺伝子の配列(GenBank Accession No. NM002410)と一致した。このGnTV遺伝子が導入されたプラスミドをpFB1/CCR3-GnTVとした。
【0054】
常法に従い、このCCR3遺伝子とGnTV遺伝子を結合したドナープラスミド(pFB1/CCR3-GnTV)をバクミドDNAとヘルパーDNAを既に導入している大腸菌DH10Bac細胞に導入し、CCR3- GnTVをバクミドDNAに相同組換えにより組み込んだ。これは具体的に次のように行った。PFB1/ CCR3- GnTVをコンピテント状態の大腸菌DH10Bac細胞に導入し、カナマイシン、テトラサイクリン、ゲンタマイシン、IPTGおよびBluo-galを含むLB寒天培地に播種し、37℃で約16時間培養した。相同組換えを起こした大腸菌は、白いコロニーとして確認できるので、白いコロニーを選択してカナマイシン、テトラサイクリンおよびゲンタマイシンを含むLB培溶液にて37℃で約16時間培養した。この大腸菌溶液1.5mlより、常法に従ってバクミドDNAを精製して40μlのTEに溶解した。
【0055】
このバクミドDNA溶液5μlを100μlのSf-900II培養液に添加しものと、別にCellFECTIN試薬6μlと100μlのSf-900II培養液を混合したものとを混ぜ合わせ、45分間室温で静置した。このバクミドDNA/CellFECTIN混合液にさらに800μlのSf900II培養液を加え、これを昆虫細胞Sf21細胞(9x105個の細胞を結合した6穴プレート)に添加し、5時間、27℃で培養した。5時間後にこのバクミドDNA/CellFECTIN混合液を取り除き、抗生物質の入ったSf-900II培養液で72時間、27℃で培養した。
【0056】
この培養終了後に、培養液を回収した。この培養液には、CCR3- GnTVを産生する組換えバキュロウイルスが含まれる。回収した培養液800μlを、別途培養していたSf21細胞(T75フラスコ、サブコンフルエントの状態のもの、抗生物質入りのSf-900II培養液20ml含有)に添加して72時間、27℃で培養した。72時間培養後、細胞をフラスコより剥して培養液と同時に回収した。回収した細胞懸濁液を3000rpm、10分間遠心し、上清と沈殿に分離した。沈殿を細胞分画とし、上清をバキュロウイルス分画とした。
【0057】
実施例4 ガラクトサミン転移酵素の一つであるGnTV遺伝子をgp64遺伝子の後ろに融合させて発現させた場合
gp64遺伝子と糖転移酵素の一つであるN-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ V遺伝子を結合し、gp64-GnTV結合タンパクを得るためにGnTV遺伝子のクローニングを行った。GnTV遺伝子は、常法に従いヒト遺伝子よりクローニングした。PCR反応による増幅に用いたプライマーは、制限酵素SalIサイトを付加したGnTVF: agagtcgacatggctctcttcactccgtggおよび制限酵素KpnIサイトを付加したGnTVR17:tgaggtaccctataggcagtctttgcを用いて行った。
【0058】
このGnTV遺伝子のPCR増幅産物およびプラスミドpFB6A/gp64を、制限酵素SalIおよびKpnIにて処理した。これらを常法に従い結合して大腸菌(DH5αコンピテント細胞)に導入し、アンピシリン含有LB寒天プレートに播種して37℃で約16時間培養した。このプレートより、単一の大腸菌のコロニーを選択し、この大腸菌をアンピシリン含有LB培養液にて約16時間振盪培養した。増殖した大腸菌より、プラスミドを抽出し、挿入したGnTV遺伝子の配列を確認した所、すでに報告されているGnTV遺伝子の配列(GenBank Accession No. NM002410)と一致した。このGnTV遺伝子が導入されたプラスミドをpFB6A/gp64-GnTVとした。
【0059】
常法に従い、このgp64遺伝子とGnTV遺伝子を結合したドナープラスミド(pFB6A/ gp64- GnTV)をバクミドDNAとヘルパーDNAを既に導入している大腸菌DH10Bac細胞に導入し、gp64- GnTVをバクミドDNAに相同組換えにより組み込んだ。これは具体的に次のように行った。pFB6A/ gp64- GnTVをコンピテント状態の大腸菌DH10Bac細胞に導入し、カナマイシン、テトラサイクリン、ゲンタマイシン、IPTGおよびBluo-galを含むLB寒天培地に播種し、37℃で約16時間培養した。相同組換えを起こした大腸菌は、白いコロニーとして確認できるので、白いコロニーを選択してカナマイシン、テトラサイクリンおよびゲンタマイシンを含むLB培溶液にて37℃で約16時間培養した。この大腸菌溶液1.5mlより、常法に従ってバクミドDNAを精製して40μlのTEに溶解した。
【0060】
このバクミドDNA溶液5μlを100μlのSf-900II培養液に添加しものと、別にCellFECTIN試薬6μlと100μlのSf-900II培養液を混合したものとを混ぜ合わせ、45分間室温で静置した。このバクミドDNA/CellFECTIN混合液にさらに800μlのSf900II培養液を加え、これを昆虫細胞Sf21細胞(9x105個の細胞を結合した6穴プレート)に添加し、5時間、27℃で培養した。5時間後にこのバクミドDNA/CellFECTIN混合液を取り除き、抗生物質の入ったSf-900II培養液で72時間、27℃で培養した。
【0061】
この培養終了後に、培養液を回収した。この培養液には、gp64- GnTVを産生する組換えバキュロウイルスが含まれる。回収した培養液800μlを、別途培養していたSf21細胞(T75フラスコ、サブコンフルエントの状態のもの、抗生物質入りのSf-900II培養液20ml含有)に添加して72時間、27℃で培養した。72時間培養後、細胞をフラスコより剥して培養液と同時に回収した。回収した細胞懸濁液を3000rpm、10分間遠心し、上清と沈殿に分離した。沈殿を細胞分画とし、上清をバキュロウイルス分画とした。
【0062】
常法に従い、抗GnTVモノクローナル抗体(特開平11-240900)を用いてウェスタンブロッティングにて確認した。gp64-GnTVを産生する組換えバキュロウイルス感染Sf21細胞では、約150kdの陽性バンドが検出されたが、非感染Sf21細胞では陽性バンドが観察されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルス粒子を構成するタンパク質をコードする遺伝子と、所望遺伝子とを含む融合遺伝子が組み込まれたベクターを宿主細胞に導入して宿主細胞内で前記融合遺伝子を発現させ、所望のタンパク質をウイルス粒子に融合された形で生産し、所望のタンパク質が融合された該ウイルス粒子を回収することを含む、遺伝子組換え技術によるタンパク質の生産方法。
【請求項2】
前記ウイルス粒子を構成するタンパク質が、ウイルスのコートタンパク質である請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ウイルスがバキュロウイルスであり、前記宿主細胞が昆虫細胞である請求項1記載の方法。
【請求項4】
ウイルス粒子を構成するタンパク質が、バキュロウイルスのコートタンパク質gp64である請求項3記載の方法。
【請求項5】
所望のタンパク質の少なくとも活性領域が、ウイルス粒子の外側に露出する形でウイルス粒子に融合される請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記融合遺伝子は、gp64遺伝子の下流に所望のタンパク質をコードする遺伝子が結合されてなる請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記所望のタンパク質が糖転移酵素である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
回収されたウイルス粒子から所望のタンパク質を切断して回収する工程をさらに含む請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
複数回膜貫通型のタンパク質をコードする遺伝子と、所望遺伝子とを含む融合遺伝子が組み込まれたベクターを、ウイルス粒子を産生する宿主細胞に導入して宿主細胞内で前記融合遺伝子を発現させ、所望のタンパク質を前記ウイルス粒子及び前記複数回膜貫通型のタンパク質と融合された形で生産し、所望のタンパク質が融合された該ウイルス粒子を回収することを含む、遺伝子組換え技術によるタンパク質の生産方法。
【請求項10】
前記融合遺伝子は、上流側から複数回膜貫通型タンパク質をコードする遺伝子、及び所望のタンパク質をコードする遺伝子を含む請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記ウイルスがバキュロウイルスであり、前記宿主細胞が昆虫細胞である請求項10記載の方法。
【請求項12】
所望のタンパク質の少なくとも活性領域が、ウイルス粒子の外側に露出する形でウイルス粒子に融合される請求項9ないし11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記複数回膜貫通型のタンパク質が奇数回膜貫通型タンパク質であり、前記所望のタンパク質が膜貫通領域を有さない請求項9ないし12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記複数回膜貫通型のタンパク質がケモカイン受容体CCR3をコードする遺伝子である請求項13記載の方法。
【請求項15】
回収されたウイルス粒子から所望のタンパク質を切断して回収する工程をさらに含む請求項9ないし14のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2011−127(P2011−127A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198550(P2010−198550)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【分割の表示】特願2001−60973(P2001−60973)の分割
【原出願日】平成13年3月5日(2001.3.5)
【出願人】(306008724)富士レビオ株式会社 (55)
【Fターム(参考)】