説明

タンパク質の生産方法

【課題】より効率的なタンパク質の生産方法の提供。
【解決手段】リボヌクレオチドレダクターゼをコードするDNA(RRM1遺伝子またはRRM2遺伝子)、および所望のタンパク質をコードするDNAで形質転換された動物細胞を流加培養に供し、培養物中に該タンパク質を生成、蓄積せしめ、該培養物中から該タンパク質を採取する、当該所望のタンパク質を生産するタンパク質の生産方法。動物細胞がCHO細胞、タンパク質が抗体である、タンパク質の生産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物細胞を用いた効率的なタンパク質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、目的タンパク質の生産には、当該目的のタンパク質をコードする遺伝子を動物細胞に導入し、当該細胞を培養するという方法が多く採用されている。動物細胞を用いたタンパク質生産は、微生物の細胞を用いた場合と比較して、動物細胞の増殖速度が遅い、培地に使用する試薬が高価である、また培地当たり目的タンパク質の生産性が低いといった問題点がある。そこで、動物細胞における目的タンパク質の生産性を向上させるための方法が種々試みられている。
【0003】
例えばSV40初期プロモーターなどの強力なプロモーターを用いて目的タンパク質をコードするmRNAの発現量を増大させる方法、ジヒドロ葉酸リダクターゼをコードするdhfr遺伝子をマーカー遺伝子として用い、目的タンパク質をコードする遺伝子を増幅する方法(非特許文献1)、UPR(Unfolded protein response)の機構に関わる転写因子であるXBP1(X box binding protein)の活性型やATF6(Activating transcription factor 6)の細胞質側ドメインを細胞内で過剰発現させることにより細胞自身の分泌機能を向上させる方法(特許文献1〜3)、さらに、アポトーシスを抑制することが知られているBcl-2ファミリーのメンバーの遺伝子を細胞に導入することにより、細胞の生存率(細胞が死滅するまでの時間)、培養液中の細胞密度を向上させる方法などが知られている(非特許文献2)。
【0004】
しかし、これらの方法は目的タンパク質の種類によっては十分な効果が得られない場合もあり、より汎用性の高い生産性向上の方法が求められている。
リボヌクレオチドレダクターゼは、DNA合成に関与する酵素であり、リボヌクレオシド二リン酸をデオキシリボヌクレオシド二リン酸へ変換する役割を担っている(非特許文献3)。
【0005】
また、リボヌクレオチドレダクターゼは85kDaの大きいサブユニット(RRM1)および45kDaの小さいサブユニット(RRM2)の2つのサブユニットからなっており、RRM1は細胞分裂の際の紡錘極体活性および微小管中心体活性に必須なタンパク質であることが知られている(特許文献4)。
しかし、リボヌクレオチドレダクターゼをコードする遺伝子を高発現する細胞を用いた目的タンパク質の生産方法、リボヌクレオチドレダクターゼをコードする遺伝子の高発現が、目的タンパク質の生産性にどのような影響を及ぼすのかということは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第04/111194号パンフレット
【特許文献2】国際公開第05/094355号パンフレット
【特許文献3】米国公開第2006−0053502号公報
【特許文献4】特開2002-355048号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mammalian Cell Biotechnology, Ed. Butler, M. IRL Press, P79
【非特許文献2】Biotechnol.Bioeng.68:31-43,2000
【非特許文献3】Biochem Biophys Res Commun. 340: 428-34, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
効率的に外来タンパク質を生産するための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願は、以下の(1)〜(6)に関する。
(1)リボヌクレオチドレダクターゼをコードするDNAおよび所望のタンパク質をコードするDNAで形質転換された動物細胞を培地に培養し、培養物中に該タンパク質を生成、蓄積せしめ、該培養物中から該タンパク質を採取することを特徴とする、タンパク質の生産方法。
(2)リボヌクレオチドレダクターゼをコードするDNAが、RRM1遺伝子またはRRM2遺伝子をコードするDNAである、(1)記載の生産方法。
(3)リボヌクレオチドレダクターゼをコードするDNAが、以下の(a)〜(d)からなる群より選ばれる一のタンパク質をコードするDNAである、(1)記載の生産方法。
【0010】
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつRRM1活性を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつRRM1活性を有するタンパク質
(c)配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつRRM2活性を有するタンパク質
(d)配列番号4で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつRRM2活性を有するタンパク質
(4)リボヌクレオチドレダクターゼをコードするDNAが、以下の(a)〜(d)からなる群より選ばれる一のDNAである、(1)記載の生産方法。
【0011】
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつRRM1の活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号3で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつRRM2の活性を有するタンパク質をコードするDNA
(5)動物細胞が、CHO細胞であることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の生産方法。
(6)タンパク質が、抗体もしくは抗体断片である、(1)〜(5)のいずれかに記載の生産方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、動物細胞を用いた効率的なタンパク質の生産方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、RRM2発現ベクターTn_pMugneo_RRM2(7542bp)の模式図を示す。図中、CMV P/EはCMV promoter/enhancer配列を、Neorはネオマイシン耐性遺伝子を、Amprはアンピシリン耐性遺伝子をそれぞれ表す。
【図2】図2は、トランスポゼース発現ベクター TPEX/pMug(6149bp)の模式図を示す。図中、CMV P/EはCMV promoter/enhancer配列を、Amprはアンピシリン耐性遺伝子をそれぞれ表す。
【図3】図3は、抗ヒトインフルエンザM2抗体発現ベクターN5LG1_CHX-lox_M2_Z3 (10555bp)の模式図を示す。図中、CMV P/EはCMV promoter/enhancer配列を、CMV PはCMV promoter配列を、Neorはネオマイシン耐性遺伝子を、Amprはアンピシリン耐性遺伝子をそれぞれ表す。
【図4】図4は、RRM2導入細胞および非導入細胞(mock細胞)の培養中における、生細胞数を示す。▲はRRM2導入細胞の、△はmock細胞の生細胞数を示す。
【図5】図5は、RRM2導入細胞と非導入細胞(mock細胞)の、培養中における抗ヒトインフルエンザM2抗体の発現量を示す。▲はRRM2導入細胞の、△はmock細胞の抗体発現量を示す。
【図6】図6は、RRM2導入細胞と非導入細胞(mock細胞)の培養13日目における、培養液中の重合体量を示す。□はRRM2導入細胞の、■はmock細胞の場合の重合体量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.本発明の生産方法に用いる動物細胞
(1)リボヌクレオチド還元酵素遺伝子
本発明の生産方法に用いる動物細胞を形質転換するDNAがコードするリボヌクレオチド還元酵素遺伝子とは、哺乳動物由来のリボヌクレオチド還元酵素遺伝子をいい、リボヌクレオチド還元酵素を構成する2つのサブユニットをそれぞれコードするRRM1遺伝子およびRRM2遺伝子のどちらか一方または両方を用いることができる。
【0015】
そのようなリボヌクレオチド還元酵素遺伝子をコードするDNAとしては、好ましくはヒト由来のリボヌクレオチド還元酵素遺伝子をコードするDNAを用いることができ、具体的にはヒト由来のRRM1遺伝子もしくはヒト由来のRRM2遺伝子をコードするDNAを用いることができる。
ヒト由来のRRM1遺伝子もしくはRRM2遺伝子をコードするDNAとは、配列番号2または4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質もしくはその相同タンパク質をコードするDNAいう。
【0016】
配列番号2または4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質の相同タンパク質とは、
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつRRM1活性を有するタンパク質、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつRRM1活性を有するタンパク質、
(c)配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつRRM2活性を有するタンパク質、
または
(d)配列番号4で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつRRM2活性を有するタンパク質
をいう。
【0017】
配列番号2または4で表されるアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたとは、同一配列中の任意の位置において、1または複数のアミノ酸が欠失、置換または付加されていてもよい。
アミノ酸の欠失または付加が可能なアミノ酸の位置としては、例えば配列番号2または4で表されるアミノ酸配列のN末端側およびC末端側の1〜数個のアミノ酸をあげることができる。
【0018】
欠失、置換または付加は同時に生じてもよく、置換または付加されるアミノ酸は天然型と非天然型とを問わない。天然型アミノ酸としては、L−アラニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン、L−グルタミン酸、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−アルギニン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン、L−システインなどがあげられる。
【0019】
以下に、相互に置換可能なアミノ酸の例を示す。同一群に含まれるアミノ酸は相互に置換可能である。
A群:ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、バリン、ノルバリン、アラニン、2-アミノブタン酸、メチオニン、O-メチルセリン、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、シクロヘキシルアラニン
B群:アスパラギン酸、グルタミン酸、イソアスパラギン酸、イソグルタミン酸、2-アミノアジピン酸、2-アミノスベリン酸
C群:アスパラギン、グルタミン
D群:リジン、アルギニン、オルニチン、2,4-ジアミノブタン酸、2,3-ジアミノプロピオン酸
E群:プロリン、3-ヒドロキシプロリン、4-ヒドロキシプロリン
F群:セリン、スレオニン、ホモセリン
G群:フェニルアラニン、チロシン
また、配列番号2または4で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなる蛋白質としては、後述する配列解析プログラムを使用して解析した場合に、配列番号2または4で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性ないしは同一性、好ましくは90%以上の相同性ないしは同一性、より好ましくは95%以上の相同性ないしは同一性、さらに好ましくは98%以上の相同性ないしは同一性を有する蛋白質をいう。
【0020】
アミノ酸配列や塩基配列の相同性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST[Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)]やFASTA[Methods Enzymol., 183, 63 (1990)]を用いて決定することができる。このアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXとよばれるプログラムが開発されている[J. Mol. Biol., 215, 403(1990)]。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメータは例えばScore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=50、wordlength=3とする。gapped alignmentを得るために、Altschulら(1997, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402)に記載されるようにGapped BLASTを利用することができる。あるいは、PSI-BlastまたはPHI-Blastを用いて、分子間の位置関係(Id.)および共通パターンを共有する分子間の関係を検出する繰返し検索を行うことができる。BLAST、Gapped BLAST、PSI-Blast、およびPHI-Blastプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータを用いることができる(http://www.ncbi.nlm.nih.gov. )。
【0021】
ヒト由来のRRM1遺伝子もしくはRRM2遺伝子をコードするDNAとしては、具体的には、
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつRRM1の活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(c)配列番号3で表される塩基配列からなるDNA、
または
(d)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつRRM2の活性を有するタンパク質をコードするDNA
をいう。
【0022】
ここでいう「ハイブリダイズする」とは、特定の条件下で特定の塩基配列を有するDNAまたは該DNAの一部にDNAがハイブリダイズすることをいう。したがって、該特定の塩基配列を有するDNAまたは該DNAの一部の塩基配列は、ノーザンまたはサザンブロット解析のプローブとして有用であるか、またはPCR解析のオリゴヌクレオチドプライマーとして使用できる長さのDNAであってもよい。プローブとして用いるDNAとしては、少なくとも100塩基以上、好ましくは200塩基以上、より好ましくは500塩基以上のDNAをあげることができるが、少なくとも10塩基以上、好ましくは15塩基以上のDNAであってもよい。
【0023】
DNAのハイブリダイゼーション実験の方法はよく知られており、例えばモレキュラー・クローニング第2版、第3版(2001年)、Methods for General and Molecular Bacteriology, ASM Press(1994)、Immunology methods manual, Academic press (Molecular)に記載の他、多数の他の標準的な教科書に従ってハイブリダイゼーションの条件を決定し、実験を行うことができる。
【0024】
上記のストリンジェントな条件とは、例えばDNAを固定化したフィルターとプローブDNAとを50%ホルムアミド、5×SSC(750mMの塩化ナトリウム、75mMのクエン酸ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%の硫酸デキストラン、および20μg/Lの変性させたサケ精子DNAを含む溶液中で42℃で一晩、インキュベートした後、例えば約65℃の0.2×SSC溶液中で該フィルターを洗浄する条件をあげることができるが、より低いストリンジェント条件を用いることもできる。ストリンジェントな条件の変更は、ホルムアミドの濃度調整(ホルムアミドの濃度を下げるほど低ストリンジェントになる)、塩濃度および温度条件の変更により可能である。低ストリンジェント条件としては、例えば6×SSCE(20×SSCEは、3mol/Lの塩化ナトリウム、0.2mol/Lのリン酸二水素ナトリウム、0.02mol/LのEDTA、pH7.4)、0.5%のSDS、30%のホルムアミド、100μg/Lの変性させたサケ精子DNAを含む溶液中で、37℃で一晩インキュベートした後、50℃の1×SSC、0.1%SDS溶液を用いて洗浄する条件をあげることができる。また、さらに低いストリンジェントな条件としては、上述した低ストリンジェント条件において、高塩濃度(例えば5×SSC)の溶液を用いてハイブリダイゼーションを行った後、洗浄する条件をあげることができる。
【0025】
上述した様々な条件は、ハイブリダイゼーション実験のバックグラウンドを抑えるために用いるブロッキング試薬を添加、または変更することにより設定することもできる。上述したブロッキング試薬の添加は、条件を適合させるために、ハイブリダイゼーション条件の変更を伴ってもよい。
上述したストリンジェントな条件下でハイブリダイズ可能なDNAとしては、例えば上述したBLASTおよびFASTA等のプログラムを用いて、上述のパラメータに基づいて計算したときに、配列番号1または3で表される塩基配列と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の相同性ないし同一性を有する塩基配列からなるDNAをあげることができる。
【0026】
上述したDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが配列番号1または3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同等の活性を有するタンパク質をコードしていることは、当該DNAおよび所望のタンパク質をコードするDNAで動物細胞を形質転換して得られる細胞を流加培養に供し、当該所望のタンパク質の生産量を親株と比較した場合に、親株と比べて向上していることにより確認することができる。
【0027】
本願の生産法で用いるRRM1遺伝子もしくはRRM2遺伝子をコードするDNAは、ヒトまたはCHOなどの哺乳動物由来の細胞よりmRNAを調製し、逆転写酵素でcDNAを合成する一般的な方法により取得することができる。また、RRM1遺伝子またはRRM2遺伝子が発現している細胞や組織に由来するcDNAライブラリーを、配列番号1または3で表される塩基配列の情報をもとにして合成したDNAプローブを用いてスクリーニングすることにより単離することができる。さらに、市販のcDNAクローンを購入して用いることもでき、配列番号1または3で表される塩基配列に基づいて人工的に合成して用いることもできる。
(2)リボヌクレオチド還元酵素遺伝子の発現ベクター
(1)のリボヌクレオチド還元酵素遺伝子をコードするDNAをベクターに組込み、宿主細胞に導入することにより、本願の生産方法で用いる動物細胞を取得することができる。
【0028】
本発明による上記リボヌクレオチド還元酵素をコードするDNAによる動物細胞の形質転換は、当該DNAをベクターに組込むことにより取得される発現ベクターを用いて行うことができる。また、必要に応じて、宿主細胞内で作動可能な制御配列(例えばプロモーター配列及びターミネーター配列)を作動可能に連結させ、リボヌクレオチド還元酵素をコードするDNAと共にベクターに組込むことにより取得される発現ベクターを用いて行うこともできる。
【0029】
ここで作動可能に連結するとは、本発明による遺伝子が導入される宿主において、制御配列のコントロール下で遺伝子が発現するように制御配列と本発明による遺伝子を結合させることを意味する。通常はプロモーターを遺伝子の5’上流に、ターミネーターを、遺伝子の3’下流に連結することができる。
使用するプロモーターは、形質転換する宿主細胞内でプロモーター活性を示すものであれば特に制限がなく、リボヌクレオチド還元酵素遺伝子が本来発現している染色体上のプロモーター領域を、その発現に用いても良いが、これ以外にも、形質転換用の宿主が動物細胞である本発明においては、アデノウイルス(Ad)の初期もしくは後期プロモーター、シミアンウイルス(SV40)の初期もしくは後期プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼ(tk)遺伝子プロモーター、ラウス肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、マウス乳頭腫ウイルス、ウシパヒローマウイルス、鳥の肉腫ウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルスなどのウイルスのゲノムから得られるプロモーター、哺乳動物由来のプロモーター、例えばアクチンプロモーターまたはイムノグロブリンプロモーター、ヒートショックプロテインプロモーター、などが利用できる。
【0030】
また、リボヌクレオチド還元酵素遺伝子をコードするDNAを組込むためのベクターとしては、リボヌクレオチド還元酵素の遺伝子を宿主細胞内で発現可能な形で組込むことのできるベクターであれば、特に限定されないが、pcDNA3.1(インビトロジェン社製)、pKANTEX93(国際公開第97/10354号パンフレット)、pCIneo(Promega社)のように、あらかじめ動物細胞で機能するプロモーター及びターミネーター配列が含まれているベクターに作動可能な形態にリボヌクレオチド還元酵素の遺伝子を連結することによって構築することが可能である。
【0031】
例えばCMV初期遺伝子プロモーターとSV40後期遺伝子ターミネーターとで作動可能になったリボヌクレオチド還元酵素遺伝子発現ユニットを大腸菌複製オリジン(ColE1 ori)およびアンピシリン耐性遺伝子を有するプラスミドベクターpUC18(タカラバイオ社)や、pBluescriptII(Stratagene社)、pBR322などのプラスミドに連結することにより、構築することができる。さらに、必要に応じてプロモーター及びターミネーター配列とで作動可能となったG418耐性遺伝子など、その他の選択マーカー遺伝子などと組み合わせて用いても良い。
【0032】
また、リボヌクレオチド還元酵素遺伝子をコードするDNAを組込むためのベクターとして、トランスポゾン配列とトランスポゼースとを組み合わせた、トランスポゾンベクターを用いることもできる。トランスポゾンベクターを用いる場合には、対応する2つのトランスポゾン配列の間に,組込みたいリボヌクレオチド還元酵素遺伝子をコードするDNAを挿入したDNA断片を調製し、トランスポゼースを発現するベクターとともに宿主細胞に導入し、トランスポゼースを宿主細胞内で発現させることにより、リボヌクレオチド還元酵素遺伝子をコードするDNAを宿主細胞の染色体DNA上に組込むことができる。
【0033】
その他、目的に合わせてヒト人工染色体ベクター(Human Artificial Chromosome, HAC;国際公開第04/031385号パンフレット、国際公開第08/013067号パンフレット)も使用することができる。
2.本発明の生産方法に用いる動物細胞の取得
上記1記載のリボヌクレオチド還元酵素発現ベクターおよび所望のタンパク質を発現するためのベクターを宿主細胞に導入することにより、本発明の生産方法に用いる動物細胞を取得することができる。
【0034】
所望のタンパク質を発現するためのベクターは、上記1のリボヌクレオチド還元酵素発現ベクターと同様に、当該所望のタンパク質をコードするDNAを、宿主細胞中で機能しうるベクターに挿入することにより取得し、用いることができる。
リボヌクレオチド還元酵素遺伝子と所望のタンパク質をコードする遺伝子は、同一の発現ベクターに連結して、あるいはそれぞれ同一のベクターの異なる部位に挿入して宿主細胞に導入してもよいし、それぞれ別々のベクターに挿入して宿主細胞に導入してよい。
【0035】
また、所望のタンパク質が複数のポリペプチドからなる複合タンパク質である場合には、それぞれのポリペプチドを同一のベクターで宿主細胞に導入してもよいし、または複数のベクターを用いて宿主細胞に導入してもよい。
リボヌクレオチド発現ベクターおよび所望のタンパク質を発現するためのベクターを導入する宿主細胞としては、タンパク質を生産するための宿主として用いることのできる動物細胞であればいずれの動物細胞でもよい。宿主細胞として用いることのできる動物細胞の具体例としては、ヒト白血病細胞Namalwa細胞、HEK293細胞、サル細胞COS細胞、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞CHO細胞(Journal of Experimental Medicine, 108, 945 (1958); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 60 , 1275 (1968); Genetics, 55, 513 (1968); Chromosoma, 41, 129 (1973); Methods in Cell Science, 18, 115 (1996); Radiation Research, 148, 260 (1997); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4216 (1980); Proc. Natl. Acad. Sci., 60, 1275 (1968); Cell, 6, 121 (1975); Molecular Cell Genetics, Appendix I, II (pp. 883-900);)、CHO/DG44、CHO-K1(ATCC CCL-61)、DukXB11 (ATCC CCL-9096)、Pro-5(ATCC CCL-1781)、CHO-S(Life Technologies, Cat # 11619)、Pro-3、ラットミエローマ細胞YB2・3HL.P2.G11.16Ag.20(またはYB2/0ともいう)、マウスミエローマ細胞NSO、マウスミエローマ細胞SP2/0-Ag14、シリアンハムスター細胞BHKまたはHBT5637(特開昭63-000299)などをあげることができる。
【0036】
更に、本発明において、生産する目的タンパク質に結合したN結合複合型糖鎖の還元末端に存在するN-アセチルグルコサミンにα-1,6結合するフコースの量を制御するために、レクチン耐性を獲得したLec13[Somatic Cell and Molecular genetics,12,55(1986)]やα1,6−フコース転移酵素遺伝子が欠損したCHO細胞(国際公開第05/35586号パンフレット、国際公開第02/31140号パンフレット)を、本発明の目的タンパク質を生産する宿主細胞として用いることもできる。
【0037】
本発明において生産する目的タンパク質が2以上のポリペプチドから構成されて機能するタンパク質である場合には、2以上のタンパク質発現ベクターを導入した宿主細胞を用いることもできる。
また、あらかじめ抗体などの目的タンパク質を生産できるように、遺伝子が組み換えられた細胞を用いた場合は、リボヌクレオチド還元酵素遺伝子発現プラスミドのみをトランスフェクションすれば、本発明の動物細胞が取得できる。また、遺伝子が組み換えられていない細胞を用いる場合は、目的タンパク質の遺伝子を搭載した発現プラスミドと、リボヌクレオチド還元酵素遺伝子発現プラスミドを同時に細胞にトランスフェクションすることで、本発明の動物細胞を取得することができる。
【0038】
細胞への発現プラスミドの導入方法としては、動物細胞にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法[Cytotechnology, 3, 133 (1990)]、リン酸カルシウム法(特開平2-227075)、またはリポフェクション法[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 7413 (1987)]などがあげられる。また、発現プラスミドにヒト人工染色体ベクターを用いた場合には、宿主細胞への導入方法としてはミクロセル法(特開平11-313576号)を用いることができる。動物細胞に導入される発現プラスミドは、制限酵素で消化し直鎖状にしたものを用いることもできるが、トランスポザーゼの認識配列をもつ発現ベクターを用いる場合は、制限酵素で処理することなく、トランスポゼースと同時にトランスフェクションすることで、本発明の動物細胞を構築することができる。
3.本発明の生産方法
(1)本発明の生産方法で生産されるタンパク質
本発明において生産する目的タンパク質は、本発明のタンパク質の生産方法で用いる動物細胞において発現可能であれば、いかなるタンパク質でもよい。具体的には、ヒト血清タンパク質、ペプチドホルモン、増殖因子、サイトカイン、血液凝固因子、線溶系タンパク質、抗体および各種タンパク質の部分断片などがあげられる。
【0039】
本発明において生産する目的タンパク質として、好ましくはキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体などのモノクローナル抗体、Fc融合タンパク質、アルブミン結合タンパク質および該部分断片などをあげることができる。
本発明において生産されるモノクローナル抗体のエフェクター活性は、種々の方法で制御することができる。例えば、抗体のFc領域の297番目のアスパラギン(Asn)に結合するN結合複合型糖鎖の還元末端に存在するN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)にα-1,6結合するフコース(コアフコースともいう)の量を制御する方法(国際公開第05/035586号パンフレット、国際公開第02/31140号パンフレット、国際公開第00/61739号パンフレット)や、抗体のFc領域のアミノ酸残基を改変することで制御する方法などが知られている。本発明において生産されるモノクローナル抗体にはいずれの方法を用いても、エフェクター活性を制御することができる。
【0040】
エフェクター活性とは、抗体のFc領域を介して引き起こされる抗体依存性の活性をいい、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)、補体依存性傷害活性(CDC活性)、マクロファージや樹状細胞などの食細胞による抗体依存性ファゴサイトーシス(Antibody-dependent phagocytosis、ADP活性)などが知られている。
また、本発明において生産されるモノクローナル抗体のFcのN結合複合型糖鎖のコアフコースの含量を制御することで、抗体のエフェクター活性を増加または低下させることができる。抗体のFcに結合しているN結合複合型糖鎖に結合するフコースの含量を低下させる方法としては、α1,6−フコース転移酵素遺伝子が欠損したCHO細胞を用いて抗体を発現することで、フコースが結合していない抗体を取得することができる。フコースが結合していない抗体は高いADCC活性を有する。一方、抗体のFcに結合しているN結合複合型糖鎖に結合するフコースの含量を増加させる方法としては、α1,6−フコース転移酵素遺伝子を導入した宿主細胞を用いて抗体を発現させることで、フコースが結合している抗体を取得できる。フコースが結合している抗体は、フコースが結合していない抗体よりも低いADCC活性を有する。
【0041】
また、抗体のFc領域のアミノ酸残基を改変することでADCC活性やCDC活性を増加または低下させることができる。例えば、米国特許出願公開第2007/0148165号明細書に記載のFc領域のアミノ酸配列を用いることで、抗体のCDC活性を増加させることができる。また、米国特許第6,737,056号明細書、米国特許第7,297,775号明細書、や米国特許第7,317,091号明細書に記載のアミノ酸改変を行うことで、ADCC活性またはCDC活性を、増加させることも低下させることもできる。
(2)本発明の生産方法
上記2で取得できる動物細胞を流加培養に供し、培地中に所望のタンパク質を生成、蓄積せしめ、該培地中から当該所望のタンパク質を採取することにより、当該所望のタンパク質を生産することができる。
【0042】
本発明の生産方法において行う流加培養(Fed-batch culture)は、半回分培養(semi-batch culture)ともいい、培養期間中に一回もしくは複数回の、または連続的な流加培地の添加を伴う。
本発明の生産方法において使用する培養開始時の培地(以下、基礎培地と略す)としては、例えば、CHO-S-SFMII、CD-CHO培地、CHO-III-PFM(インビトロジェン社)、EX-CELL 325-PF培地(SAFC Biosciences社)、SFM4CHO培地(HyClone社)など動物細胞の培養で使用する一般的な市販の培地を用いることができる他、宿主細胞の必要に応じて糖類、アミノ酸類などを配合し、調製することによっても得られる。
【0043】
基礎培地のpHは、NaHCO3のような炭酸塩類、CaCl2 2H2Oのような塩化物類、MgSO47H2Oのような硫酸塩類、NaH2 PO42H2Oのようなリン酸塩類、ピルビン酸ナトリウム、HEPES(N-〔2-ヒドロキシエチル〕ピペラジン-N’-〔2-エタンスルホン酸〕)またはMOPS(3-〔N-モルホリノ〕-プロパンスルホン酸)などの緩衝剤を用いてpHを適正な範囲に、好ましくはpH6.5〜7.5の範囲に、より好ましくはpH7.0付近に調整する。
【0044】
一方、培養期間中、緩衝剤による緩衝作用のみでpHが所望の範囲に収まらない場合は、NaOHなどのアルカリを添加することによってpHを上げたり、CO2の吹き込み流量を上げることによってpHを下げたりすることで、pHを6.5〜7.5の範囲に、好ましくはpH7.0付近に調整することができる。
基礎培地に含まれる細胞のエネルギー源としては、通常1000〜10,000mg/L程度のグルコース、マンノース、フラクトース、ガラクトースまたはマルトースといった単糖類を用いることができ、好ましくはグルコースを用いることができる。
【0045】
他の培地の成分としては、通常、動物細胞を培養するための培地で使用されている各成分を適宜使用することができる。これらの成分の例としてはアミノ酸、ビタミン類、脂質などをあげることができるほか、さらに、必要に応じて微量金属元素、界面活性剤、増殖補助因子、ヌクレオシドなどを添加しても良い。
培養期間中に添加する流加培地は基礎培地と同じであっても異なっていてもよく、そのような流加培地の例としては、ビタミン、金属などの濃縮液や、基礎培地を濃縮したものなどを用いることができる。
【0046】
流加培養は、上記1の本発明の生産方法に用いる動物細胞を含む前培養液 を基礎培地に適量 添加することにより培養を開始し、その後当該動物細胞の増殖に応じて一回もしくは複数回、または連続的に流加培地を添加しながら行う。
培養条件は、上記1に記載の動物細胞が増殖可能である限りにおいて適宜好適な条件を設定することができるが、例えばCO2濃度が0-40%、好ましくは2-10%、培養温度は30-40℃、好ましくは36-38℃、より好ましくは37℃で行う。また、本発明の生産方法で生産する所望のタンパク質の性質などに応じて、前記の培養温度で培養して十分な細胞数を得た後、より低い温度にて培養を継続し、所望のタンパク質を生産することもできる(特開平09-075077)。
【0047】
培養期間は、必要な細胞量もしくはタンパク質量が得られる期間であれば特に制限はないが、通常1-20日、好ましくは10-15日程度の期間培養を行う。
上記培養により培地中に生成、蓄積した目的タンパク質の精製はタンパク質を含む培養液や細胞破砕液から目的タンパク質と目的外の不純物を分離することによって行う。分離の方法は、遠心、透析、硫安沈殿、カラムクロマトグラフィー、フィルターなどを用い、目的タンパク質と不純物の物理化学的性質の違いやカラム単体への結合力の違いによって行うことができる。タンパク質精製の方法は、タンパク質実験ノート(上)抽出・分離と組換えタンパク質の発現、羊土社、岡田雅人・宮崎香/編、ISBN 9784897069180に記載の方法によって実施することができる。
【実施例1】
【0048】
ヒトリボヌクレオチド還元酵素サブユニットRRM2を発現する抗ヒトインフルエンザM2抗体発現CHO細胞の作製
(1)ヒトリボヌクレオチドレダクターゼ発現プラスミドの作製
ヒトリボヌクレオチドレダクターゼのサブユニットの一つをコードするRRM2遺伝子を発現するためのプラスミドベクターを以下の手順で作製した。
pBluescripit SK+(ストラタジーン社)のKpnI-NotIサイトに人工合成された外来遺伝子発現ユニット(5’側にKpnI、3’側にEcoRVとNotIが付加されたCMVプロモーター/エンハンサーとBGHpAからなるDNA断片)を導入しpMugを作製した。
【0049】
次にpMugのEcoRV-NotIサイトに、同制限酵素サイトを付加した薬剤耐性マーカー発現ユニット(SV40 ori、neomycin耐性遺伝子、SV40pAから構成されるDNA断片)を導入しpMugneoを作製した。
さらに、pMugneoのNotIサイトとDraIIIサイトにそれぞれ人工合成したTol2トランスポゾン認識配列(Tol2 R500およびTol2 L200)を挿入し、Tn/pMugneoを作製した。
【0050】
次にSpeI/SalIで切断したTn/pMugNeoに、pCI(プロメガ社)をSpeI/SalIで切断して得られた断片(CMVプロモーターとイントロンを含む断片)を挿入し、Tn/pMugNeo-CIを作製した。配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるヒトRRM2のcDNA(Open biosystems社より購入)の5’側にXbaIサイト、3‘側にBamHIを付加し、Tn/pMugNeo-CIのXbaI-BamHIサイトに導入してヒトRRM2発現ベクターTn_pMugneo_RRM2を作製した(図1)。
(2)トランスポゼース発現ベクターの作製
配列番号7で表される塩基配列からなるメダカ由来のTol2トランスポゼースをコードするDNAの5’側にSalIサイト、3’側にBamHIサイトを付加したDNA断片を人工合成した。合成したDNA断片を上記(1)のpMugのSalI-BamHIサイトに導入し、トランスポゼース発現ベクター TPEX/pMugを作製した(図2)。
(3)抗ヒトインフルエンザM2抗体発現ベクターの作製
抗ヒトインフルエンザM2抗体発現プラスミドを以下の手順で作成した。抗ヒトインフルエンザM2抗体Z3G1発現プラスミドベクターN5LG1_M2_Z3(国際公開第2006/061723号パンフレット)をSbfIとAscIで消化して、Neo-Exon2を除いたDNA断片を調製した。
【0051】
PCRにてSbfIとAscIサイトを付加したCMVエンハンサー/プロモーター制御下に、シクロヘキシミドに対する耐性遺伝子(ヒトL36aリボソームタンパク質の54位のプロリンがグルタミンに変異した遺伝子、特開2002-262879号公報)が挿入されたシクロヘキシミド耐性遺伝子発現ユニットを導入後、BspLU11Iサイトの両端にlox Pサイトを導入することで作製した。得られたプラスミドはN5LG1_CHX-lox_M2_Z3と命名した(図3)。
(4)抗ヒトインフルエンザM2抗体発現CHO細胞の作製
制限酵素BspLU11Iで消化し直鎖状としたプラスミドN5LG1_CHX-lox_M2_Z3をリポフェクション法にてCHO細胞に導入した。3μg/mlのシクロヘキシミド(CHX)を含む培地(10% FBS添加MEM培地)を用いて選抜することで、CHX耐性細胞を得た。得られた細胞を、4mmol/LとなるようL-グルタミンを添加したEX-CELL 325-PF培地(SAFC Bioscience社)で振とう培養することで、浮遊培養に馴化させ、抗ヒトインフルエンザM2抗体発現プラスミドが導入された細胞を構築した。得られた細胞はNo20と命名した。
(5)ヒトリボヌクレオチド還元酵素発現プラスミドTn_pMugneo_RRM2を導入したNo20細胞の作製
No20細胞(4×106個)を400μlのPBSバッファーに懸濁し、ヒトリボヌクレオチド還元酵素発現プラスミドTn_pMugneo_RRM2、または、Tn_pMugneo_RRM2からヒトリボヌクレオチド還元酵素のcDNAを除いたプラスミド(以下、Mockプラスミドという) 各10μgと、(2)で作製したTol2トランスポゼース発現ベクター 20μgを、それぞれエレクトロポレーション法により環状DNAのまま共導入した。エレクトロポレーションは、エレクトロポレーター(Gene Pulser XceII system(Bio-Rad社製))を用い、電圧300V、静電容量500μF、室温の条件で、gap幅4mmのキュベット(Bio-Rad社製)を使用して行った。
【0052】
エレクトロポレーションによる遺伝子導入後、4mmol/Lとなるようグルタミンを添加したEX-CELL 325-PF培地(SAFC Biosciences社)に細胞を懸濁した後、96穴プレートに播種した。細胞が播種された96穴プレートはCO2インキュベーターで3〜4日間静置培し、その後、EX-CELL 325-PF培地に500μg/mlのG418と3μg/mlのCHXを加えた選抜培地(325PF-G418/CHXと命名)を用いて、約1週間毎に培地交換を行いながら、一ヶ月静置培養した。
【0053】
325PF-G418/CHX培地で増殖が可能となった細胞を、325PF-G418/CHX 培地を用いて24穴プレート、6穴プレート、125mlフラスコでの培養へと徐々にスケールアップし、ヒトリボヌクレオチド還元酵素発現プラスミドTn_pMugneo_RRM2を導入したNo20細胞(以後、No20/Tn_pMugneo_RRM2と称す)を11クローンおよびMockプラスミドを導入したNo20細胞(以後、No20/Mockと称す)5クローンを取得した。
【実施例2】
【0054】
ヒトリボヌクレオチド還元酵素サブユニットRRM2を発現する抗ヒトインフルエンザM2抗体発現CHO細胞による抗体生産性評価
(1)抗体生産活性の確認
実施例1(5)で取得したNo20/Tn_pMugneo_RRM2を、125mlフラスコ中EX-CELL325-PF培地で3日間培養した。得られた培養液の培養上清について抗ヒトインフルエンザM2抗体のタンパク質量をHPLCにて測定し、No20/Tn_pMugneo_RRM2が抗ヒトインフルエンザM2抗体の生産能を有していることを確認した。
【0055】
なお、培養上清中の抗体濃度の測定はKurodaら(FEMS Yeast Res. 7, (2007),1307-1316)に記載の方法に従って行った。
(2)流加培養による抗体生産性評価
Tn_pMugneo_RRM2を導入したNo20細胞の流加培養
(1)で作製したNo20/Tn_pMugneo_RRM2導入細胞、ならびにNo20/Mockで流加培養を実施した。
【0056】
OpticCHOHL培地[CHO CD EFFICIENTFEED A(Invitrogen社より購入) 1000mLにペプトンSE50MAF-UF(DMV International社製)5gおよびL-グルタミン(和光純薬社製)0.6gを溶解したもの]およびFeedAHL培地[CD OptiCHOTM(GIBCO社製)1000mLにD-グルコース(和光純薬社製)22.5g、ペプトンSE50MAF-UF 16.25gおよびL-グルタミン 2.58gを溶解したもの]を4対1で混合することにより、基礎培地を調製した。
【0057】
調製した基礎培地各30mLにNo20/Mock細胞およびNo20/Tn_pMugneo_RRM2細胞の各培養液10mLをそれぞれ添加して合計40mLの調整培地とし、Fed-batch培養を行った。
培養3日目から毎日、培養液に対して3%の流加培地を添加し、13日間培養を行った。
培養中の各時点における培養液中の細胞数および培養上清中の抗ヒトインフルエンザM2抗体のタンパク質量を測定した。培養液中の細胞密度を図4に、培養上清
中の抗体量を図5に示す。
【0058】
図4に示すとおり、No20/Mockに比べNo20/Tn_pMugneo_RRM2は増殖速度および最高到達細胞密度が高かった。また、図6に示すとおり、No20/Mockに比べNo20/Tn_pMugneo_RRM2は抗体生産能が高いことがわかった。
さらに、培養13日の抗体量および全抗M2抗体中に示す重合体比率(%)を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示す通り、No20/Tn_pMugneo_RRM2はNo20/Mockに比べ抗M2抗体生産量が高いことに加え、重合体比率が低いことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明により、動物細胞を用いた効率的なタンパク質の生産方法が提供される。
【配列表フリーテキスト】
【0062】
配列番号5−人工配列の説明;Tol2-Rトランスポゾン配列
配列番号6−人工配列の説明;Tol2-Lトランスポゾン配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リボヌクレオチドレダクターゼをコードするDNAおよび所望のタンパク質をコードするDNAで形質転換された動物細胞を培地に培養し、培養物中に該タンパク質を生成、蓄積せしめ、該培養物中から該タンパク質を採取することを特徴とする、タンパク質の生産方法。
【請求項2】
リボヌクレオチドレダクターゼをコードするDNAが、RRM1遺伝子またはRRM2遺伝子をコードするDNAである、請求項1記載の生産方法。
【請求項3】
リボヌクレオチドレダクターゼをコードするDNAが、以下の(a)〜(d)からなる群より選ばれる一のタンパク質をコードするDNAである、請求項1記載の生産方法。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつRRM1活性を有するタンパク質
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつRRM1活性を有するタンパク質
(c)配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が欠失、置換または付加したアミノ酸配列からなり、かつRRM2活性を有するタンパク質
(d)配列番号4で表されるアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつRRM2活性を有するタンパク質
【請求項4】
リボヌクレオチドレダクターゼをコードするDNAが、以下の(a)〜(d)からなる群より選ばれる一のDNAである、請求項1記載の生産方法。
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA
(b)配列番号1で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつRRM1の活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号3で表される塩基配列からなるDNA
(d)配列番号3で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつRRM2の活性を有するタンパク質をコードするDNA
【請求項5】
動物細胞が、CHO細胞であることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の生産方法。
【請求項6】
タンパク質が、抗体もしくは抗体断片である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の生産方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−125197(P2012−125197A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280276(P2010−280276)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000001029)協和発酵キリン株式会社 (276)
【Fターム(参考)】