説明

タンパク質分泌発現系の構築方法

【課題】標的タンパク質に好適なプロモーター及び分泌シグナルペプチドを組み合わせたタンパク質分泌発現系の構築方法並びに当該方法のためのキットを提供すること。
【解決手段】標的タンパク質の遺伝子を有する線状DNA断片、線状化ベクターDNA、プロモーター配列を有する2種以上の線状DNA断片、及び分泌シグナルペプチド遺伝子を有する2種以上の線状DNA断片を含む組成物、又は標的タンパク質の遺伝子を連結した線状化ベクターDNA、プロモーター配列を有する2種以上の線状DNA断片、及び分泌シグナルペプチド遺伝子を有する2種以上の線状DNA断片を含む組成物を用いて、標的タンパク質の分泌発現用のベクターを作製する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的タンパク質に好適なプロモーター及び分泌シグナルペプチドを組み合わせたタンパク質分泌発現系の構築方法、当該方法のためのキット、並びに前記の方法により構築された発現系を用いるタンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Bacillus subtilisを宿主とする組換えタンパク質の生産は、可溶化発現及び分泌発現に優れている。特に目的タンパク質にS−S結合があるなどの複雑な構造の場合に有効であり、さらに大腸菌を宿主とした発現系とは異なり、エンドトキシンを産生しないという利点がある。このような利点がある一方で、異種タンパク質の分泌効率はシグナルペプチドのタイプに大きく影響される事がEggertらのグループによって報告されている(非特許文献1参照)。言い換えると分泌発現に好適な分泌シグナルペプチドは、目的タンパク質によって異なることになる。従って、分泌シグナルペプチドを目的タンパク質の発現量あるいは活性を指標にスクリーニングすることが重要となる。しかしながら、現在市販されているほとんどの分泌発現系は、強力なプロモーターとそれに適した分泌シグナルペプチドが予め固定されており、必ずしも目的タンパク質に好適な組み合わせであるとは限らない。また、目的タンパク質の分泌発現には、さらにプロモーターとの相性も重要であることがわかってきたが、目的タンパク質の分泌発現に好適なプロモーターと分泌シグナルペプチドの組み合わせを多数の組み合わせの中から一気に選択できるような製品は、存在しないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ジャーナル オブ モレキュラー バイオロジー(J.Mol.Biol.)、第362巻、第393〜402頁(2006年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、標的タンパク質に好適なプロモーター及び分泌シグナルペプチドを組み合わせたタンパク質分泌発現系の構築方法並びに当該方法のためのキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、予め選別した宿主由来のプロモーターライブラリーと分泌シグナルペプチドライブラリー並びに目的タンパク質をコードする遺伝子の組み合わせを多数の組み合わせの中から一気にスクリーニングできる系を見出し、標的タンパク質分泌発現系の構築方法を確立した。さらに当該構築方法を用いることにより、これまで天然型アミノ酸配列で発現が困難であったタカサゴシロアリ由来セルラーゼに好適なプロモーター及び分泌シグナルペプチドを選択できることを確認し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明の第1の発明は、標的タンパク質の分泌発現用のベクターを作製する方法であって、(A)i)標的タンパク質の遺伝子を有する線状DNA断片、線状化ベクターDNA、プロモーター配列を有する2種以上の線状DNA断片、及び分泌シグナルペプチド遺伝子を有する2種以上の線状DNA断片を含む組成物、又はii)標的タンパク質の遺伝子を連結した線状化ベクターDNA、プロモーター配列を有する2種以上の線状DNA断片、及び分泌シグナルペプチド遺伝子を有する2種以上の線状DNA断片を含む組成物、を得る工程、(B)工程(A)で得られた組成物を用いて、標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片、線状化ベクターDNA、プロモーター配列を含む線状DNA断片、及び分泌シグナルペプチド遺伝子を含む線状DNA断片を連結し、環状DNAを得る工程、(C)工程(B)で得られた環状DNAを用いて宿主細胞を形質転換し、形質転換体を得る工程、(D)工程(C)で得られた形質転換体より、標的タンパク質の分泌発現に適した形質転換体を選択する工程、並びに(E)工程(D)で選択した形質転換体より、環状DNAを単離する工程、を含む方法に関する。本発明の第1の発明における線状化ベクターDNAとしては、第一の宿主細胞の複製起点及び第二の宿主細胞の複製起点を有するシャトルベクターに由来するものが例示される。第一の宿主細胞として大腸菌が、第二の宿主細胞としてはバチルス属細菌が例示される。また、本発明の第1の発明においては、前記の工程(B)の後に環状DNAを第一の宿主細胞において増幅し、増幅した環状DNAを得る工程をさらに含み、かつ工程(C)における宿主細胞が第二の宿主細胞であってもよい。
【0007】
本発明の第2の発明は、本発明の第1の発明の方法によって作製されたベクターにより宿主細胞を形質転換する工程、及び得られた形質転換体から分泌される標的タンパク質を採取する工程を含むタンパク質の製造方法に関する。
【0008】
本発明の第3の発明は、標的タンパク質の分泌発現用のベクターを作製するためのキットであって、(a)プロモーター配列を有する2種以上の線状DNA断片、(b)分泌シグナルペプチド遺伝子を有する2種以上の線状DNA断片、及び(c)ベクターDNA又は線状化ベクターDNA、を含有するキットに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、これまで知られていなかった分泌発現目的の標的タンパク質に好適なプロモーター及び分泌シグナルペプチドの組み合わせを有する標的タンパク質分泌発現系が構築できる。また、宿主にとって毒性のあるタンパク質であっても、本発明の方法により宿主が生存可能なレベルで発現できる好適なプロモーター及び分泌シグナルペプチドの組み合わせを有する標的タンパク質分泌発現系が構築できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片」とは、分泌発現の目的とするタンパク質をコードする遺伝子を含む線状DNA断片のことを言い、好ましくは二本鎖DNA断片である。当該タンパク質は、何らかの生理活性を有するものが好ましく、例えば生理活性を有するものであれば、天然において存在するものと同一のアミノ酸配列の酵素には限定されるものではない。当該タンパク質の変異体、誘導体であってもよい。変異体としては、天然において存在するタンパク質のアミノ酸配列に1つ又は数個のアミノ酸の挿入、付加、欠失又は置換が導入されたアミノ酸配列からなるポリペプチドが例示される。また、天然のアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上のアミノ酸配列上の配列同一性を有する変異体を本発明に使用することもできる。また、誘導体としては、例えば分泌発現の目的とするタンパク質に異種のペプチドやポリペプチドを付加したものが例示される。このような誘導体には、宿主内での半減期を延長した誘導体や、細胞内での局在を改変した誘導体が包含される。「標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片」は、前述のような分泌発現の目的とするタンパク質をコードする遺伝子を含む核酸断片であってもよく、分泌発現の目的とするタンパク質の天然のアミノ酸配列を変更することなく核酸レベルで塩基配列が変更された遺伝子を含む核酸断片であってもよい。当該核酸断片は、前記分泌発現の目的とするタンパク質をコードする塩基配列以外に後述の分泌シグナルペプチド遺伝子を有する線状DNA断片と連結しうる部分及び後述の線状化ベクターDNAと連結しうる部分を含んでいてもよい。分泌シグナルペプチド遺伝子を有する線状DNA断片と結合しうる部分は、「標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片」の標的タンパク質のN末端部分をコードする核酸配列もしくは当該核酸配列より上流の末端に設定することが好ましい。また、線状化ベクターDNAと連結しうる部分は、「標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片」の標的タンパク質のC末端部分をコードする核酸配列もしくは当該核酸配列より下流の末端に設定することが好ましい。さらに当該断片は、化学的に合成して調製してもよく、PCRのような核酸増幅方法により調製してもよい。
【0011】
また、「標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片」は、予め線状化ベクターDNAと連結した後に、後述のプロモーター配列を有する線状DNA断片及び分泌シグナルペプチド遺伝子を有する線状DNA断片との連結に供してもよい。この場合、「標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片」は、標的タンパク質の遺伝子に加えて分泌発現に用いる宿主に対応する複製起点を有する。当該核酸断片は、前記分泌発現の目的とするタンパク質をコードする塩基配列及び分泌発現に用いる宿主に対応する複製起点以外に、後述の分泌シグナルペプチド遺伝子を有する線状DNA断片と連結しうる部分及び後述のプロモーター配列を有する線状DNA断片と連結しうる部分を含んでいてもよい。この場合、分泌シグナルペプチド遺伝子を有する線状DNA断片と結合しうる部分は、「標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片」の標的タンパク質のN末端部分をコードする核酸配列もしくは当該核酸配列より上流の末端に設定することが好ましい。また、プロモーター配列を有する線状DNA断片と連結しうる部分は、「標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片」の線状化ベクターDNA由来の末端に設定することが好ましい。
【0012】
本明細書において、「プロモーター配列を有する線状DNA断片」とは、予め選別されたプロモーター配列を含む核酸断片のことであり、好ましくは二本鎖DNA断片である。本発明では、当該「プロモーター配列を有するDNA断片」の少なくとも2種類以上の混合物であるプロモーターライブラリー(PL)として用いることができる。当該プロモーターライブラリーは、分泌発現で用いる宿主由来のものであってもよく、また近縁宿主由来のものであってもよい。すなわち、「プロモーター配列を有する線状DNA断片」は、分泌発現で用いる宿主で機能しうるプロモーター配列を含む核酸断片であれば特に問題はなく、例えば公知のプロモーター配列から適宜選択して調製することができる。当該プロモーター配列は、その機能を失わない程度で、変異体であってもよい。変異体としては、天然のプロモーター配列に1つ又は数個の塩基の挿入、付加、欠失又は置換が導入されてなる塩基配列が例示される。例えば、天然のプロモーター配列と90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の塩基配列上の配列同一性を有する変異体を本発明に使用することができる。当該核酸断片は、前記プロモーター配列以外に上記標的タンパクの遺伝子を含む線状DNA断片又は後述の線状化ベクターDNAと連結しうる部分及び後述の分泌シグナルペプチド遺伝子を有する線状DNA断片と連結しうる部分を含んでいてもよく、当該プロモーター配列の機能をさらに促進しうるような補助配列を含んでいてもよい。上記標的タンパクの遺伝子を含む線状DNA断片又は線状化ベクターDNAと連結しうる部分は、「プロモーター配列を有する線状DNA断片」のプロモーター配列上流側の末端に設定することが好ましい。また、分泌シグナルペプチド遺伝子を有する線状DNA断片と結合しうる部分は、「プロモーター配列を有する線状DNA断片」のプロモーター配列下流側の末端に設定することが好ましい。さらに当該断片は、化学的に合成して調製してもよく、PCRのような核酸増幅方法により調製してもよい。
【0013】
本明細書において、「分泌シグナルペプチド遺伝子を有する線状DNA断片」とは、予め選別された分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子の塩基配列を含む核酸断片のことであり、好ましくは二本鎖DNA断片である。本発明では、当該「分泌シグナルペプチド遺伝子を有する線状DNA断片」の少なくとも2種類以上の混合物である分泌シグナルペプチドライブラリー(SPL)として用いることができる。当該分泌シグナルペプチドライブラリーは、分泌発現で用いる宿主由来のものであってもよく、また近縁宿主由来のものであってもよい。すなわち、分泌発現で用いる宿主で機能しうる分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子の塩基配列を含む核酸断片であれば特に問題はない。すなわち、「分泌シグナルペプチド遺伝子を有するDNA断片」は、分泌発現で用いる宿主で機能しうる分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子の塩基配列を含む核酸断片であれば特に問題はない。当該分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子の塩基配列は、その機能を失わない程度で、変異体であってもよい。変異体としては、天然の分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子の塩基配列に1つ又は数個の塩基の挿入、付加、欠失又は置換が導入されてなる塩基配列が例示される。例えば、天然の分泌シグナルペプチドをコードする遺伝子の塩基配列と90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上の塩基配列上の配列同一性を有する変異体を本発明に使用することができる。当該核酸断片は、前記分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列以外に上記プロモーター配列を有する線状DNA断片と連結しうる部分及び標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片と連結しうる部分を含んでいてもよく、当該分泌シグナルペプチドの機能をさらに促進しうるような補助配列を含んでいてもよい。プロモーター配列を有する線状DNA断片と連結しうる部分は、「分泌シグナルペプチド遺伝子を有するDNA断片」の分泌シグナルペプチドのN末端部分をコードする核酸配列もしくは当該核酸配列より上流の末端に設定することが好ましい。また、標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片と連結しうる部分は、「分泌シグナルペプチド遺伝子を有するDNA断片」の分泌シグナルペプチドのC末端部分をコードする核酸配列もしくは当該核酸配列より下流の末端に設定することが好ましい。さらに当該断片は、化学的に合成して調製してもよく、PCRのような核酸増幅方法により調製してもよい。
【0014】
(1)本発明の標的タンパク質分泌発現系の構築方法
本発明のプロモーター及び分泌シグナルペプチドスクリーニング方法は、「標的タンパク質の遺伝子を有する線状DNA断片」、「プロモーター配列を有する線状DNA断片」及び「分泌シグナルペプチド遺伝子を有する線状DNA断片」を用いることを特徴とする。当該3つの断片を含む3分子以上のDNA断片を連結する方法に特に限定はなく、DNAリガーゼを用いる方法等、DNA断片の接続に通常使用されている方法を用いることができる。例えば、DNA Ligation Kit(タカラバイオ社)や、In−Fusion Advantage PCR Cloning Kit(クロンテック社)等の市販品を使用してもよい。上記3つ以上のDNA断片が共存する系を用いることにより、予め選択されたプロモーターライブラリーと分泌シグナルペプチドライブラリーの多数の組み合わせのなかから一気に好適な組み合わせを選択することができる。
【0015】
本発明の方法により、標的タンパク質の分泌発現にとって最適なプロモーターと分泌シグナルペプチドの組み合わせを選択することができる。また、宿主にとって致死的なタンパク質の製造を目的として、宿主内で有害な作用を発揮しないように当該タンパク質を細胞外に分泌可能なプロモーターと分泌シグナルペプチドの組み合わせを選択することもできる。さらに、宿主が死滅しない程度に分泌発現可能なプロモーターと分泌シグナルペプチドの組み合わせを選択することもできる。
【0016】
また本発明の構築方法に使用される宿主には限定はなく、タンパク質を分泌発現可能な宿主であれば使用することができる。例えば、細菌、酵母、真菌、担子菌、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞等を使用できる。好適には、枯草菌及びその近縁の細菌[バチルス(Bacillus)属細菌、ブレビバチルス(Brevibacillus)属細菌等]が宿主として使用される。また、酵母としては、Pichia属、Candida属、Saccharomyces属、Schizosaccharomyces属、Hansenula属等が宿主として使用できる。さらに、培養細胞としては、CHO細胞、HEK293細胞、Hela細胞、MDCK細胞、NIH3T3細胞、PC12細胞、S2細胞、Sf9細胞、Vero細胞、あるいはBY−2細胞等が宿主として使用できる。
【0017】
本発明の方法により発現されるタンパク質には限定はない。例えば、酵素、構造タンパク質、サイトカイン類、抗体、蛍光タンパク質等に本発明の方法を使用することができる。前記タンパク質は天然のアミノ酸配列のタンパク質のみに限定されるものではなく、変異体、誘導体や複数のタンパク質の融合タンパク質であってもよい。
【0018】
本発明の方法は標的タンパク質を宿主細胞外に分泌させることを目的とする。このため、前記タンパク質をコードする遺伝子は、分泌発現のためのシグナルペプチドが標的タンパク質のN末端に連結されたタンパク質をコードする遺伝子として作製される。標的タンパク質がシグナルペプチドを有しないものである場合、異種のタンパク質由来のシグナルペプチドが連結される。
【0019】
本発明において、標的タンパク質には精製のためのタグ配列(His Tag、Flag Tag等)を付加することができる。例えば、標的タンパク質のmRNAをコードするDNAにタグ配列をコードするDNAを付加することにより、タグ配列を有する標的タンパク質が分泌発現される。
【0020】
本発明の方法で標的タンパク質の分泌発現に好適なプロモーター及び分泌シグナルペプチドを有する発現プラスミドで形質転換された宿主の培養温度も、使用する宿主ごとに最適化することができる。例えば枯草菌の場合は、好ましくは20℃以上、さらに好ましくは28℃以上である。通常、40℃以上での培養は行われず、好適な培養温度は37℃以下である。
【0021】
本発明の方法に使用される培地にも限定はなく、宿主に適したものを適宜選択すればよい。
【0022】
本発明の標的タンパク質分泌発現用のベクターの作製方法は、(A)標的タンパク質の遺伝子を有する線状DNA断片、線状化ベクターDNA、プロモーター配列を有する2種以上の線状DNA断片、及び分泌シグナルペプチド遺伝子を有する2種以上の線状DNA断片を含む組成物を得る工程、(B)工程(A)で得られた組成物において、標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片、線状化ベクターDNA、プロモーター配列を含む線状DNA断片、及び分泌シグナルペプチド遺伝子を含む線状DNA断片を連結し、環状DNAを得る工程、(C)工程(B)で得られた環状DNAを用いて宿主細胞を形質転換する工程、(D)工程(C)で得られた形質転換体より、標的タンパク質の分泌発現に適した形質転換体を選択する工程、並びに(E)工程(D)で選択した形質転換体より、環状DNAを単離する工程、を含む。
【0023】
上記工程(D)における標的タンパク質の分泌発現に適した形質転換体の選択は、例えば、標的タンパク質の分泌発現量、分泌タンパク質全体に占める標的タンパク質の量、分泌発現した標的タンパク質の形状等を指標とすればよい。また、宿主に対して致死的な標的タンパク質の分泌発現を試みる場合には、標的タンパク質の分泌発現の有無を指標として形質転換体を選択すればよい。すなわち、(A)標的タンパク質の遺伝子を有する線状DNA断片、線状化ベクターDNA、プロモーター配列を有する2種以上の線状DNA断片、及び分泌シグナルペプチド遺伝子を有する2種以上の線状DNA断片を含む組成物を得る工程、(B)工程(A)で得られた組成物において、標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片、線状化ベクターDNA、プロモーター配列を含む線状DNA断片、及び分泌シグナルペプチド遺伝子を含む線状DNA断片を連結し、環状DNAを得る工程、(C)工程(B)で得られた環状DNAを用いて宿主細胞を形質転換する工程、(D)工程(C)で得られた形質転換体より、宿主に対して致死的な標的タンパク質を分泌発現させ得る形質転換体を選択する工程、並びに(E)工程(D)で選択した形質転換体より、環状DNAを単離する工程、を含む標的タンパク質の分泌発現用ベクターの作製方法も、本発明の一態様である。
【0024】
本発明の方法には、標的タンパク質の発現に利用可能なベクターDNAが必要である。当該ベクターDNAは宿主に応じて適切なものを選択すればよく、ファージ、プラスミド、コスミド、バクミド、ファージ又はウイルスに由来するいずれのベクターも好適に使用できる。ベクターDNAとしてプラスミド等の環状DNAを利用する場合、使用する宿主に対応した複製起点を有する環状DNAを線状化した線状化ベクターDNAとして使用すればよい。本発明に用いるベクターDNAとしては、複数種類の複数起点を有し、複数の宿主に用いることが可能なシャトルベクターを使用してもよい。また、各線状DNA断片との連結の際には、まず前記標的タンパク質の遺伝子を有する線状DNA断片と連結した後に、他の線状DNA断片と連結してもよい。これらのベクターは、好適には、転写制御に係る各種の調節因子(ターミネーター、ポリAシグナル、エンハンサー、イントロン等)と、適切な位置に所望のタンパク質をコードするDNAを挿入するためのマルチクローニングサイトを有している。前記の調節因子、マルチクローニングサイトは標的タンパク質の発現に適した位置に配置されるべきである。
【0025】
また、当該ベクターDNAは、異なる宿主において機能する複数の複製起点を有していてもよい。例えば、遺伝子操作のし易い第一の宿主細胞での複製起点と、分泌発現に適した第二の宿主細胞の複製起点とを有するシャトルベクターを本発明に使用することができる。特に限定はされないが、前記の第一の宿主細胞は大腸菌が好適であり、recA株並びにrecA株のいずれもが好適である。当該シャトルベクターは、分泌発現に使用する宿主細胞において形質転換が困難な場合や形質転換体を大量に得られない場合に有効である。
【0026】
また、上記の分泌発現用ベクターの作製方法により得られたベクターにより宿主細胞を形質転換する工程、及び得られた形質転換体から分泌される標的タンパク質を採取する工程を含むタンパク質の製造方法も、本発明の一態様である。
【0027】
以上に説明した本発明の方法の実施は、本明細書の開示、並びに周知の遺伝子工学的手法に基づいて、宿主細胞や各種ベクターの調製、遺伝子導入、細胞の培養等の諸操作を行うことにより、当業者には容易になし得る。
【0028】
本発明の方法に使用されるa)プロモーター配列を有する2種以上の線状DNA断片、(b)分泌シグナルペプチド遺伝子を有する2種以上の線状DNA断片、並びに(c)ベクターDNA又は線状化ベクターDNAを含むキットとすることにより、本発明を容易に実施することが可能となる。当該キットには、分泌発現に用いる宿主細胞を含んでもよい。宿主細胞は、前述の通り、遺伝子産物の分泌発現が可能な宿主であれば、特に限定はない。例えば、細菌、酵母、真菌、担子菌、昆虫、植物、動物のいずれであってもよいが、取扱いの容易さ等の観点からは枯草菌(バチルス属細菌)が好適である。
【0029】
(2)本発明を利用した標的タンパク質に好適なプロモーター及び分泌シグナルペプチド分泌発現系の構築
本発明の方法は、標的タンパク質に好適なプロモーター及び分泌シグナルペプチドの組み合わせを選択することができる。本発明を特に限定するものではないが、タカサゴシロアリ由来セルラーゼを例に説明する。
【0030】
天然型のアミノ酸配列を有するタカサゴシロアリ(Nasutitermes Takasagoensis)のセルラーゼ(エンド−β−1,4−グルカナーゼ;EC3.2.1.4)は、高効率で生産された事例は少なく、天然型アミノ酸配列を有するものを高効率に発現可能な系は構築されていない。現時点では、数種類のシロアリセルラーゼ遺伝子をDNAシャッフリングしてアミノ酸の変異を導入することにより、発現する手法が取られている〔バイオサイエンス バイオテクノロジー バイオケミストリー(Biosci.Biotechnol.Biochem.),第69巻, 第1711−1720頁,2005年〕。
【0031】
本発明の方法を利用することにより前記タカサゴシロアリ由来セルラーゼ発現に好適なプロモーター及び分泌シグナルペプチドの組み合わせを選択することができる。例えば、配列表の配列番号3記載のアミノ酸配列をコードするタカサゴシロアリ由来セルラーゼ人工合成遺伝子を含む線状DNA断片を「標的タンパク質の遺伝子を有する線状DNA断片」として枯草菌−大腸菌シャトルベクターにクローニングした後にこれを線状化したDNA断片、実施例1の表1記載の予め選択された「プロモーター配列を有する線状DNA断片」並びにジャーナル オブ モレキュラー バイオロジー(J.Mol.Biol.)、第362巻、第393〜402頁(2006年)に記載の173種類の「分泌シグナルペプチド遺伝子を有する線状DNA断片」を連結反応に供することにより、標的タンパク質を発現可能な枯草菌−大腸菌シャトルベクターを構築することができる。構築したベクターを遺伝子操作が容易な第一の宿主細胞として大腸菌に導入する場合、大腸菌はrecA株が好ましいが、形質転換効率が低い場合には、一旦recA株を前記ベクターで形質転換した後、得られた形質転換体からプラスミドを調製し、そのプラスミドを用いてrecA株を形質転換してもよい。recA株の形質転換体より単離した発現ベクターを枯草菌に導入後、任意に選択、単離したクローンの培養上清についてセルラーゼ活性の測定を行うことにより、高分泌発現クローンを選択する。選択したクローンに保持されているベクターを調製してそこに含まれているプロモーター及び分泌シグナルペプチドのDNA配列を解析することにより、タカサゴシロアリ由来セルラーゼに好適なプロモーター配列並びに分泌シグナルペプチド配列の情報を得ることができる。
【0032】
例えば、配列表の配列番号3記載のアミノ酸配列をコードするシロアリ由来セルラーゼの場合、プロモーター配列を含む断片は、配列表の配列番号28記載の塩基配列のspoVGを含むものが好ましく、「分泌シグナルペプチド遺伝子を含む線状DNA断片」は、配列表の配列番号41〜46及び60〜71記載のアミノ酸配列(配列表の配列番号35〜40及び48〜59記載の塩基配列)を有する、aprE、phoB、yqxI、ypuA、wprA、yfkN、yrvJ、abnA、ywfM、yxaK、yodV、yhjA、ykvV、amyE、yurI、yfjS、glpQ及びbprからなる群から選択される分泌シグナルペプチド遺伝子を有するものが好ましい。
【0033】
すなわち、天然型のアミノ酸配列を有するタカサゴシロアリ由来セルラーゼの分泌発現用ベクターであって、spoVGプロモーター配列、aprE、phoB、yqxI、ypuA、wprA、yfkN、yrvJ、abnA、ywfM、yxaK、yodV、yhjA、ykvV、amyE、yurI、yfjS、glpQ及びbprからなる群から選択される分泌シグナルペプチドをコードする前記プロモーターに動作可能に連結された核酸配列、並びに前記分泌シグナルペプチドと融合タンパク質を形成するように配置された天然型タカサゴシロアリ由来セルラーゼをコードする核酸配列を有するベクターも、本発明の一態様である。
【0034】
さらに例えば、宿主にとって致死的なタンパク質であっても分泌発現可能なプロモーター及び分泌シグナルペプチドの組み合わせを選択することができ、特に限定はされないが、配列特異的エンドリボヌクレアーゼを例に説明する。
【0035】
MazFは、一本鎖RNA(ssRNA)中の配列ACAを認識し、最初のAの5’側において特異的に切断する、配列特異的エンドリボヌクレアーゼである。エンドヌクレアーゼは、核酸を核酸鎖内の様々な位置で切断する、酵素の大グループの1つである。エンドリボヌクレアーゼ又はリボヌクレアーゼは、RNAに特異的である。MazFは、その主要な標的がインビボでのメッセンジャーRNA(mRNA)であるので、mRNA干渉酵素と呼ばれる。転移RNA(tRNA)及びリボソームRNA(rRNA)は、それぞれ、その二次構造又はリボソームタンパク質との結合のせいで、切断から保護されているようである。したがって、MazFが発現すると、mRNAの分解を引き起こし、タンパク質合成の激烈な減少、及び最終的には細胞死をもたらす。MazFは、選択された細菌中に見られ、最近では、大腸菌タンパク質PemK(プラスミドR100によってコードされる)もまた、配列特異的エンドリボヌクレアーゼであることが示された。PemKは、UAXの配列を認識し、中央のAの5’側又は3’側でRNAを切断する。ここでXはC、A又はUである。さらに最近では、同様のエンドリボヌクレアーゼとして、大腸菌タンパク質MqsRが報告されている。MqsRは、GCUのGとCの間でRNAを切断する。
【0036】
これらの配列特異的エンドリボヌクレアーゼをコードする核酸配列を含む二本鎖DNA断片を「標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片」として枯草菌−大腸菌シャトルベクターにクローニングした後にこれを線状化したDNA断片、実施例1の表1記載の予め選択された「プロモーター配列を含む線状DNA断片」並びにB.subtilis Secretory Protein Expression System(タカラバイオ社製)に含まれる「分泌シグナルペプチド遺伝子を有する線状DNA断片」を連結することにより、標的タンパク質を発現する枯草菌−大腸菌シャトルベクターを構築することができる。当該ベクターを、前記のタカサゴシロアリ由来セルラーゼの場合と同様に大腸菌、続いて枯草菌に段階的に導入する。こうして得られる、形質転換された枯草菌より任意に選択した発現クローン群の培養上清について配列特異的エンドリボヌクレアーゼの活性測定を行い、当該酵素を分泌発現しているクローンを選択することができる。選択したクローンに保持されているベクターを調製して、そこに含まれているプロモーター及び分泌シグナルペプチドのDNA配列を解析することにより、配列特異的エンドリボヌクレアーゼに好適なプロモーター配列並びに分泌シグナルペプチド配列の情報を得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
また、本明細書に記載の操作のうち、プラスミドの調製、制限酵素消化などの基本的な操作については2001年、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー発行、J.サムブルック(J.Sambrook)ら編集、モレキュラー クローニング:ア ラボラトリー マニュアル第3版(Molecular Cloning : A Laboratory Manual 3rd ed.)に記載の方法によった。
【0039】
実施例1
本発明の方法の分泌発現モデルタンパク質として、タカサゴシロアリ由来セルラーゼ遺伝子を選択した。当該遺伝子は、人工合成により作成した。その塩基配列を配列表の配列番号1及び2に示す。配列番号1は天然型配列遺伝子、配列番号2は人工配列遺伝子である。いずれの配列もストップコドン部分を除き、天然型のアミノ酸配列を有する。これらのアミノ酸配列を配列表の配列番号3に示す。枯草菌/大腸菌シャトルベクターは、B.subtilis Secretory Protein Expression System(タカラバイオ社製)のpBE−S DNAを用いた。当該DNAは、枯草菌aprEプロモーター及び分泌シグナルペプチドを含む。さらに配列表の配列番号4〜6記載の塩基配列を有するプライマーを合成し、これらのプライマーと配列表の配列番号2記載の塩基配列を有するタカサゴシロアリ由来セルラーゼ遺伝子(鋳型)を用いてPCRを行い、制限酵素NdeI及びXbaIサイトをタカサゴシロアリ由来セルラーゼ遺伝子の両端に導入した。配列表の配列番号4及び5記載の塩基配列を有するプライマー対では、3´末端側にストップコドンが導入される(NtEG(SC+)と称す)。一方、配列表の配列番号4及び6記載の塩基配列を有するプライマー対では、3´末端側にストップコドンが導入されない(NtEG(SC−)と称す)。
【0040】
上記pBE−S DNAを制限酵素NdeI及びXbaIで切断し、上記タカサゴシロアリ由来セルラーゼNtEG(SC+)及びNtEG(SC−)増幅断片を常法により導入した。導入後の発現プラスミドをpBE−S/NtEG(SC+)及びpBE−S/NtEG(SC−)と命名した。このプラスミド10ngで大腸菌HST04株(タカラバイオ社製)を形質転換し、プラスミドDNAを回収した。前記プラスミド50ngでB.subtilis RIK1285株(タカラバイオ社製)を形質転換した。得られたクローンについて、10μg/mL濃度のカナマイシンを含むLB2mLに接種し、14mL容量の試験管を用いて37℃、24時間培養した。培養後、上清を回収し、2%CMC(カルボキシメチルセルロース)−DNSアッセイを行った。その結果、いずれの発現プラスミドにおいてもセルラーゼ活性は確認できなかった。
【0041】
次にpBE−S/NtEG(SC+) DNAのプロモーター部分及び分泌シグナルペプチド部分をそれぞれプロモーターライブラリー由来のプロモーター及び分泌シグナルペプチドライブラリー由来のシグナルペプチドに置き換える方法について検討した。すなわち、pBE−S/NtEG(SC+) DNAを制限酵素SpeI及びEco52Iで切断した。その後、BAP(タカラバイオ社製)処理を行った。次に、表1記載のプロモーターライブラリーのうちプロモーター配列を有する10種類の線状DNA断片を含むPL10ライブラリーと26種類を含むPL26ライブラリーを調製した。表1に記載の26種類のプロモーター配列を有する線状DNA断片のプロモーター部分の核酸配列については、配列表の配列番号7〜32に示す。なお、本実施例ではPCR法により当該プロモーター配列の5´末端側にSpeIサイト、3´末端側にAflIIサイトを導入し、これをプロモーター配列を有する線状DNA断片として使用した。
【0042】
【表1】

【0043】
前記プロモーターライブラリー(以下PLと称す)とB.subtilis Secretory Protein Expression Systemに含まれる分泌シグナルペプチドDNAライブラリー(173種類、以下SPLと称す)を用い、さらにIn−Fusion advantage PCR キット(クロンテック社製)を用いて、上記プロモーター部分と分泌シグナルペプチド部分を入れ換えた。前記分泌シグナルペプチドDNAの塩基配列は、タカラバイオ社HP(http://catalog.takara−bio.co.jp/product/basic_info.asp?catcd=B1000420&subcatcd=B1000425&unitid=U100006454)から入手可能である。入れ換え反応は、添付のプロトコールに従い、pBE−S/NtEG DNA制限酵素SpeI/Eco52I断片:PL:SPL=1:2:2(mol)の比率で行った。その後、当該反応液で大腸菌HST08株を形質転換した。得られたクローン1000個以上からプラスミドDNAを回収した。その後、当該プラスミド10ngで大腸菌BL21株(タカラバイオ社製)を形質転換し、得られたクローン1000個以上からプラスミドDNAを回収した。前記プラスミド100ngでB.subtilis RIK1285株コンピテントセル300μLを形質転換した。得られたクローンの一部について、10μg/mLのカナマイシンを含むLB培地に接種し、培養後プラスミドDNAを回収した。これらのプラスミドについてPL10×SPLの組み合わせから8個、PL26×SPLの組み合わせから8個を選択し、当該プラスミド中のプロモーター部分及び分泌シグナルペプチド部分の塩基配列を解析した。解析の結果確認されたプロモーターと分泌シグナルペプチドの組合せの一例を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に示したように、元のaprEプロモーター部分及び分泌シグナルペプチド部分が入れ替わったプラスミドを取得できた。このことから、本発明の方法は、プロモーターライブラリー及び分泌シグナルペプチドライブラリーの組み合わせ(PL10×SPL:10×173=1730通り、PL26:26×173=4498通り)から一気に好適な組み合わせをスクリーニングできる系であることが明らかになった。
【0046】
実施例2
実施例1で検討したモデル実験を参考にタカサゴシロアリ由来セルラーゼに好適なプロモーターと分泌シグナルペプチドの組み合わせを検討した。すなわち、実施例1で調製した発現プラスミドpBE−S/NtEG(SC+)について、制限酵素SpeI及びEco52Iで切断した。その後、アガロースゲル抜き精製を行い、pBE−S/NtEG(SC+)DNAのSpeI−Eco52IDNA断片を調製した。また、配列表の配列番号33及び34記載の塩基配列を有するプライマーを常法により合成した。当該プライマー対とpBE−S/NtEG(SC+)を用いてPCRを行った。反応液組成は、2×PrimeSTAR(登録商標) Max プレミックス50μL、各0.2μMの上記プライマー、鋳型DNA3ngを含む100μL容量である。当該反応液を2本調製した。また、PCR条件は、98℃ 60秒、(98℃ 10秒、55℃ 5秒、72℃ 40秒)を1サイクルとする30サイクル反応である。PCR終了後、アガロースゲル抜き精製を行い、pBE−S/NtEG(SC+)DNAのInversePCR断片を調製した。
【0047】
次に、表1記載のプロモーターライブラリーのうちプロモーター配列を有する2種類の線状DNA断片を含むPL2とプロモーター配列を有する18種類の線状DNA断片を含むPL18を調製した。前記プロモーターライブラリーとB.subtilis Secretory Protein Expression Systemに含まれる分泌シグナルペプチドDNAライブラリー(173種類)を用い、実施例1記載の方法でIn−Fusion反応を行った。その後、当該反応液で大腸菌HST08株を形質転換した。得られたクローン1000個以上からプラスミドDNAを回収した。その後、当該プラスミド10ngで大腸菌HST04株(タカラバイオ社製)を形質転換し、得られたクローン1000個以上からプラスミドDNAを回収した。前記プラスミド50ngでB.subtilis RIK1285株を形質転換した。得られたクローン(PL2:SpeI−Eco52IDNA断片を用いたもの184クローン、PL18:SpeI−Eco52IDNA断片を用いたもの184クローン及びpBE−S/NtEG(SC+)DNAのInversePCR断片を用いたもの184クローン)は、10μgのカナマイシンを含むLB培地1mLに接種し、2mL容量の96穴プレート(コースター社製)を用いて37℃、1,040rpmで24時間培養した。培養後、培養液の一部をLB培地で10倍希釈し、OD595を測定した。残りは、遠心し、上清を回収した。回収した上清は、2%CMC(カルボキシメチルセルロース)−DNSアッセイに供した。
【0048】
pBE−S/NtEG(SC+) DNAを導入したクローンよりも活性の高いクローン(PL2:SpeI−Eco52IDNA断片を用いたもの2クローン、PL18:SpeI−Eco52IDNA断片を用いたもの2クローン及びpBE−S/NtEG(SC+)DNAのInversePCR断片を用いたもの2クローン)について、プロモーター配列及び分泌シグナルペプチドの塩基配列を解析した。同時に活性が確認できないか、微弱であったクローンについても同様の解析を行った。pBE−S/NtEG(SC+) DNAを導入したクローンよりも活性の高いクローンの解析の結果確認されたプロモーターと分泌シグナルの組合せを表3に示す。
【0049】
【表3】

【0050】
aprEのプロモーター及び分泌シグナルペプチドの組み合わせのクローンでは、全く分泌発現できなかったのに対して、表3に示したように天然型アミノ酸配列を有するタカサゴシロアリ由来セルラーゼに好適なプロモーターライブラリー及び分泌シグナルペプチドライブラリーの組み合わせを確認できた。天然型アミノ酸配列を有するタカサゴシロアリ由来セルラーゼを枯草菌で発現させるのに好適なプロモーターは、配列表の配列番号28記載の塩基配列を有するspoVGと配列表の配列番号41〜46記載のアミノ酸配列(配列表の配列番号35〜40記載の塩基配列)を有する分泌シグナルペプチドの組み合わせであった。
【0051】
実施例3
タカサゴシロアリ由来セルラーゼに好適なプロモーターと分泌シグナルペプチドの組み合わせについて、InversePCR法を用いてスクリーニングした。すなわち、実施例1で調製した発現プラスミドpBE−S/NtEG(SC+)について、制限酵素SpeI及びMluI(タカラバイオ社製)で切断した。その後、アガロースゲル抜き精製を行い、pBE−S/NtEG(SC+)DNAのSpeI−MluIDNA断片を調製した。当該DNA断片に配列表の配列番号28記載の塩基配列を有するspoVGプロモーターDNAをligation法により導入した。得られたプラスミドをpBE−G/NtEG(SC+)DNAと命名した。このDNAを鋳型として、配列表の配列番号33及び47記載の塩基配列を有するプライマーを用いてPCRを行った。反応液組成は、2×PrimeSTAR(登録商標) Max プレミックス 50μL、上記プライマー20pmol、鋳型DNA 2ngを含む100μL容量である。当該反応液を2本調製した。また、PCR条件は、98℃ 10秒、(98℃ 10秒、55℃ 5秒、72℃ 40秒)を1サイクルとする30サイクル反応である。PCR終了後、アガロースゲル抜き精製を行い、pBE−G/NtEG(SC+)DNAのInversePCR断片を調製した。
【0052】
同様にPCR増幅断片を含む反応液をDpnI消化した後にアガロースゲル抜き精製を行い、pBE−G/NtEG(SC+)DNAのInversePCR断片(DpnI処理)を調製した。
【0053】
次に、B.subtilis Secretory Protein Expression Systemに含まれるSPLを用い、実施例1記載の方法でIn−Fusion反応を行った。入れ換え反応は、添付のプロトコールに従い、pBE−G/NtEG(SC+)DNAのInversePCR断片:SPL=1:2(mol)の比率で行った。その後、当該反応液2μLで大腸菌HST08株を形質転換した。得られたクローン1000個以上からプラスミドDNAを回収した。その後、当該プラスミド10ngで大腸菌HST04株を形質転換し、得られたクローン1000個以上からプラスミドDNAを回収した。前記プラスミド50ngでB.subtilis RIK1285株を形質転換した。得られたクローンの中から372クローンについて、10μg/mLのカナマイシンを含むLB(miller)培地1mLに接種し、2mL容量の96穴プレート(コースター社製)を用いて37℃、1,040rpmで24時間培養した。培養後、培養液の一部をLB培地で10倍希釈し、OD595を測定した。残りは、遠心し、上清を回収した。回収した上清は、2%CMC(カルボキシメチルセルロース)−DNSアッセイに供した。
【0054】
アッセイ後の96穴プレート各ウエル中についてA560を測定した。その結果、セルラーゼ活性が高いと思われるもの(pBE−G/NtEG(SC+)DNAのInversePCR断片及びpBE−G/NtEG(SC+)DNAのInversePCR断片(DpnI処理))それぞれ12クローンを選択し、シグナルペプチド部分の塩基配列を解析した。重複を除いた結果について表4に示す。
【0055】
【表4】

【0056】
表4に示したように、天然型アミノ酸配列を有するタカサゴシロアリ由来セルラーゼを枯草菌で発現させるのに好適なプロモーターは、配列表の配列番号28記載の塩基配列を有するspoVGと配列表の配列番号60〜71記載のアミノ酸配列(配列表の配列番号48〜59記載の塩基配列)を有する分泌シグナルペプチドの組み合わせであった。また、実施例2で得られた組み合わせと実施例3で得られた組み合わせにおいて、重複する組み合わせがあり本発明の方法が妥当であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明を用いることにより、標的タンパク質に好適なプロモーター及び分泌シグナルペプチドを組み合わせたタンパク質分泌発現系を構築することができる。当該方法は、標的タンパク質が宿主に致死的な場合であっても分泌発現し得る系を同様に構築することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0058】
SEQ ID NO:2 ;An artificial gene of cellulase derived from Nasutitermes takasagoensis.
SEQ ID NO:4-6 ;A synthetic primer for PCR.
SEQ ID NO:33 ;A synthetic primer "InvNtEG-E" for inverse PCR.
SEQ ID NO:34 ;A synthetic primer "SpeI-R" for inverse PCR.
SEQ ID NO:47 ;A synthetic primer "MluI-R" for inverse PCR.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的タンパク質の分泌発現用のベクターを作製する方法であって、下記の工程(A)〜(E)を含む方法;
(A)i)標的タンパク質の遺伝子を有する線状DNA断片、線状化ベクターDNA、プロモーター配列を有する2種以上の線状DNA断片、及び分泌シグナルペプチド遺伝子を有する2種以上の線状DNA断片を含む組成物、又は
ii)標的タンパク質の遺伝子を連結した線状化ベクターDNA、プロモーター配列を有する2種以上の線状DNA断片、及び分泌シグナルペプチド遺伝子を有する2種以上の線状DNA断片を含む組成物、を得る工程、
(B)工程(A)で得られた組成物を用いて、標的タンパク質の遺伝子を含む線状DNA断片、線状化ベクターDNA、プロモーター配列を含む線状DNA断片、及び分泌シグナルペプチド遺伝子を含む線状DNA断片を連結し、環状DNAを得る工程、
(C)工程(B)で得られた環状DNAを用いて宿主細胞を形質転換し、形質転換体を得る工程、
(D)工程(C)で得られた形質転換体より、標的タンパク質の分泌発現に適した形質転換体を選択する工程、並びに
(E)工程(D)で選択した形質転換体より、環状DNAを単離する工程。
【請求項2】
線状化ベクターDNAが、第一の宿主細胞の複製起点及び第二の宿主細胞の複製起点を有するシャトルベクターに由来する線状化ベクターDNAである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(B)の後に環状DNAを第一の宿主細胞において増幅し、増幅した環状DNAを得る工程をさらに含み、かつ工程(C)における宿主細胞が第二の宿主細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第一の宿主細胞が大腸菌であり、第二の宿主細胞がバチルス属細菌である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4に記載の方法によって作製されたベクターにより宿主細胞を形質転換する工程、及び得られた形質転換体から分泌される標的タンパク質を採取する工程を含む、タンパク質の製造方法。
【請求項6】
標的タンパク質の分泌発現用のベクターを作製するためのキットであって、下記(a)〜(c)を含有するキット;
(a)プロモーター配列を有する2種以上の線状DNA断片、
(b)分泌シグナルペプチド遺伝子を有する2種以上の線状DNA断片、及び
(c)ベクターDNA又は線状化ベクターDNA。

【公開番号】特開2011−217740(P2011−217740A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62119(P2011−62119)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】