説明

タンパク質吸着阻害剤を用いた免疫測定法と免疫測定用の基板及びキット

【課題】特異的な免疫反応を利用する免疫測定法において、未反応物の非特異的吸着を大幅に低減するために、生体由来ではないブロッキング剤を用いる方法・手段を提供すること。
【解決手段】免疫測定法、例えば、酵素免疫測定法において、非生体由来の無機粒子材料及び/又は非生体由来の有機無機複合粒子材料を、未反応物の非特異的吸着を阻害するための非特異的吸着阻害剤(ブロッキング剤)として使用する方法、及びそれに使用する基板又はキット。無機粒子又は有機無機複合粒子としては、粒径が、0.1〜500nmの範囲にある二酸化珪素を主体として構成されたものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特異的な免疫反応を利用した免疫測定法において、特定の非特異的吸着阻害剤(ブロッキング剤)を用いて、未反応物の非特異的吸着を大幅に低減したことを特徴とする免疫測定法、及びそれに使用する基板とキットに関する。
【背景技術】
【0002】
免疫測定法とは、抗原抗体反応の特異性を利用して、微量の低分子物質を定性・定量する方法である。免疫測定法には、標識試薬として放射性同位元素を用いる放射免疫測定法(RIA法)、酵素を用いる酵素免疫測定法(EIA法)、金属錯体を用いる電気化学発光免疫測定法(ECL法)等がある。これらの測定法では、標識試薬と、その標識の検出方法は異なるが、標識試薬を固定化した抗体を、測定対象である抗原やその他の物質(以下、本発明ではまとめて抗原という)に免疫反応により結合させ、その結合型の標識抗体の濃度を種々の検出法により測定する点では共通している。
【0003】
例えば、酵素免疫測定法は、抗原抗体反応において、酵素の発色を利用して抗原を検出・測定する方法として広く知られている。そして、EIA法のうちプレート等に抗体を固定した方法は、ELISA法(Enzyme Linked Immuno Sorbent Assay、固相酵素免疫測定法)として知られており、安全且つ便利なため各種の分析に多用されている。
【0004】
これらの免疫測定方法、例えば、ELISA法において、タンパク質や脂質などの生体分子混在下で特定の物質を検出する場合、共存する物質の、プレート等の固相表面への非特異的吸着が、バックグラウンドとして特異的吸着を妨害し、高感度化の妨げとなっている。そして、この問題の解決のため、従来、免疫測定においては、アルブミン、カゼイン、ゼラチン等の水溶性高分子が、共存する物質の非特異吸着を抑制・阻害するブロッキング剤として用いられている。
【0005】
しかしながら、従来法によるブロッキング操作を施しても、完全に固相表面への非特異的な吸着を防ぐことは難しく、また、ブロッキング剤への非特異的吸着が無視できないこと、更に、生体由来のブロッキング剤を用いる場合、免疫グロブリン、ビオチン等の混入により、ブロッキング操作が免疫反応に影響を与え、抗体の動物種や酵素発色系に制限があるという問題があった。また、生体由来のブロッキング剤の場合には、動物組織から得られる物質を使用するため、安定性や価格、その他狂牛病問題に代表される安全性の観点からの懸念も高まっている。従って、生体由来ではない高性能のブロッキング剤の開発が望まれていた。
【0006】
生体由来のブロッキング剤でも改良法が提案されている。例えば、特許文献1では、タンパク質の吸着が少ない高分子粒子を担体として用いることを提案している。具体的には、非特異的吸着を抑制する手段として、ラテックス粒子表面にアルブミンやカゼインなどの一般的な生体由来材料(ブロッキング剤)を結合させ、従来よりも高い効果の発現を提唱している。しかし、これでは生体材料を用いていることに変わりはなく、抜本的な解決には至っていない。
【特許文献1】特開2001−21563号公報
【0007】
生体由来ではないブロッキング剤に関しては、例えば、ポリエチレングリコールセグメントを含有するブロック共重合体(特許文献2)や、ポリエチレングリコール鎖セグメントをベースにした非架橋ポリマー(特許文献3)が提案されている。しかしながら、非特異的吸着を抑制する効果は、必ずしも十分ではない。
【特許文献2】特開2006−226982号公報
【特許文献3】国際公開第2005/010529号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、特異的な免疫反応を利用する免疫測定法において、未反応物の非特異的吸着を大幅に低減するために、生体由来ではないブロッキング剤を用いる方法・手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、立体障害有機ポリマーで表面修飾した無機粒子材料、例えば、コロイダルシリカを、ELISAプレート上に緻密に並べ、タンパク質の特異吸着を抑制する方法を検討していた過程で、表面修飾したコロイダルシリカだけでなく、むしろ特に表面を修飾していないコロイダルシリカをプレート上に緻密に並べると、シリカ表面のOH基による親水性のため、親油性であるタンパク質の特異吸着が抑制され、検出バックグラウンドが低くなるということを知見し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、免疫測定法において、非生体由来の無機粒子材料及び/又は非生体由来の有機無機複合粒子材料を、未反応物の非特異的吸着を阻害するための非特異的吸着阻害剤(ブロッキング剤)として使用することを特徴とする免疫測定法である(請求項1記載の発明)。
【0011】
本発明において、無機粒子又は有機無機複合粒子の粒径が、0.1〜500nmの範囲にあるものが好ましい(請求項2の発明)。さらに好ましくは1〜150nmのものである。そして、無機粒子又は有機無機複合粒子としては、二酸化珪素を主体として構成されたものが好ましい(請求項3の発明)。また、本発明は、免疫測定法の中でも、酵素免疫測定法に好適に適用できる(請求項4の発明)。
【0012】
本発明の他の態様は、免疫測定法において使用する基板であって、少なくともその表面の一部を、非生体由来の無機粒子材料及び/又は非生体由来の有機無機複合粒子材料で被覆してなる免疫測定用の基板である(請求項5の発明)。
【0013】
そして、本発明の更に他の態様は、免疫測定法において使用する基板の少なくともその表面の一部を被覆するための、非生体由来の無機粒子材料及び/又は非生体由来の有機無機複合粒子材料の含有液を、その構成要素の一つとする免疫測定用キットである(請求項6の発明)。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、特異的な免疫反応を利用する各種免疫測定において、未反応物の非特異的吸着を大幅に低減するための簡便な手段と方法が提供される。本発明は、特に、ELISA等の酵素免疫測定法において、好適に利用することができるので、臨床検査、病理研究、農業・バイオ分野等の分野において、抗原抗体反応を用いる検査・検出・測定のための簡便で高感度の方法・手段が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、免疫測定法において、非生体由来の無機粒子材料及び/又は非生体由来の有機無機複合粒子材料を、未反応物の非特異的吸着を阻害するための非特異的吸着阻害剤(ブロッキング剤)として使用するものである。本発明において、免疫測定法とは、抗原抗体反応の特異性を利用して、微量の低分子物質を定性・定量する方法である。免疫測定法には、標識試薬として放射性同位元素を用いる放射免疫測定法(RIA法)、酵素を用いる酵素免疫測定法(EIA法)、金属錯体を用いる電気化学発光免疫測定法(ECL法)等がある。本発明が特に好ましく適用されるのは、酵素免疫測定法である。
【0016】
酵素免疫測定法は、抗原抗体反応において、酵素の発色を利用して抗原を検出・測定する方法として広く知られている。酵素免疫測定法には、直接法、間接法、競合法、サンドイッチ法、その他の変法など多くの方法が知られている。厳密には、酵素免疫測定法のうちプラスチックのプレート等の基板に抗体を固定した方法を、ELISA法(Enzyme Linked Immuno Sorbent Assay、固相酵素免疫測定法)というが、ELISA法は、抗原を2種類の抗体で挟み込み定量するサンドイッチ法と同義に使われる場合もある。ELISA法は、免疫反応即ち抗原抗体反応と、酵素基質反応の二つを組み合わせたものである。即ち、抗原抗体反応で捕捉された抗原を、酵素と発色基質による発色反応を利用して検出する。この際、二つの反応を関連付けるための手段として、抗体酵素複合体を用いるサンドイッチ法等の方法と、抗原酵素複合体を用いるいわゆる競合法がある。本発明において酵素免疫測定法とは、上記全ての方法を含むものである。
【0017】
通常の酵素免疫測定法においては、酵素と発色基質による発色反応を起こさせるためには、発色基質として蛍光等の発色物質が用いられる。例えば、アルカリホスファターゼを標識した抗体の場合、基質としてのp-ニトロフェニルリン酸を作用させると、p-ニトロフェノールが遊離し発色するので、405nmの波長を吸光度計で測定し発色量を求める。
【0018】
本発明において、免疫反応の未反応物の非特異的吸着を阻害するための非特異的吸着阻害剤(ブロッキング剤)として、非生体由来の無機粒子材料、あるいは非生体由来の有機無機複合粒子材料が用いられる。無機粒子又は有機無機複合粒子としては微粒子が用いられるが、粒径が、0.1〜500nmの範囲にあるものが好ましい。さらに好ましくは1〜150nmのものである。
【0019】
無機粒子としては、例えば、CaO、SiO2、P2O5、MgO、K2O、Na2O、TiO2、アパタイト、チタンアパタイト、ガラス、セラミックス等の粒子が挙げられる。有機無機複合粒子は、前記無機粒子表面上に各種有機化合物が化学的に結合したものである。有機化合物としては、具体的には、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基、アミド基、スルホンアミド基、エポキシ基、エステル結合、スルホン酸エステル基、エーテル結合、アミド結合、ウレタン結合、フッ素原子を少なくとも1種有する有機化合物、又はその有機化合物の重合体が挙げられる。
【0020】
無機粒子又は有機無機複合粒子としては、二酸化珪素を無機物の主体として構成されたものが好ましい。中でも、コロイダルシリカ(コロイドシリカ又はコロイドケイ酸)が好ましい。コロイダルシリカとは、通常、水中で水和によってその表面にOH基を有するSiOのコロイド懸濁液をいう。一般的には、ケイ酸ナトリウムの水溶液に塩酸を加えることによって生成する。しかし、本発明においては、非水溶液中に分散したものや気相法で作った微粉末状のものも含む。粒子径は通常、数nmから数μmのものが多い。
【0021】
有機無機複合粒子としては、コロイダルシリカと有機物質を化学的に結合させた有機複合シリケートの粒子が好ましい。有機物質としては、アクリル酸系のモノマーやポリマー、脂肪族のジアミン化合物やポリアミン化合物、ポリエチレングリコール類、アクリルアミドとその誘導体等の親水性の化合物が好ましい。
【0022】
本発明の他の態様は、免疫測定法において使用する基板であって、少なくともその表面の一部を、非生体由来の無機粒子材料及び/又は非生体由来の有機無機複合粒子材料で被覆してなる免疫測定用の基板である。
【0023】
そして、本発明の更に他の態様は、免疫測定法において使用する基板の少なくともその表面の一部を被覆するための、非生体由来の無機粒子材料及び/又は非生体由来の有機無機複合粒子材料の含有液を、その構成要素の一つとする免疫測定用キットである。免疫測定用キットとは、例えば、ELISA法を実行するための器具や試薬の組み合わせを意味する。
【0024】
本発明において基板とは、免疫測定において用いられる抗体等を固定するためのプレート等の基板を意味する。例えば、4穴、6穴、24穴、96穴等のプラスチック(ポリプロピレン、ポリスチレン等)プレートからなる免疫測定用プレートが挙げられる。本発明においては、かかる基板の少なくともその表面の一部が、前記非生体由来の無機粒子材料及び/又は非生体由来の有機無機複合粒子材料で被覆される。例えば、96穴プレートの底面に、コロイダルシリカ等の粒子材を、密着させ張り付けたものを、免疫測定用のプレートとして用いる。
【0025】
前記プレートは、あらかじめその表面の一部が非生体由来の無機粒子材料及び/又は非生体由来の有機無機複合粒子材料で被覆された形で提供されても良いし、あるいは、他の構成材料と組み合わせて免疫測定用キットを形成しており、検査・測定に際してその場で、例えば、96穴プレートの底面にコロイダルシリカ等の粒子材を密着・張り付けるように構成されているものでも良い。
【0026】
本発明の検出感度を向上するための手法、即ち、基板の親水性を高めて未反応物の吸着を抑制又は阻害する手法を、いわゆるサンドイッチ法を例にして説明すると次の通りになる。
(1)特定の抗原に対する抗体を、基板に固定化する(抗体の固相化)。用いる基板は、一般的にELISA法で用いられているもので良く、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、金薄膜が挙げられる。(2)非生体由来の無機粒子材料及び/又は非生体由来の有機無機複合粒子材料を、前記抗体を固相化した免疫測定用の基板に張り付ける。(3)検体中の抗原を基板に固相化した抗体によって捕捉する。(4)酵素標識抗体、即ち、(1)の抗体とは認識部位が異なっている二次抗体を抗原に結合させ、次いで、基質と酵素標識抗体中の酵素を反応させ、発色した生成物の吸光度を測定する。
【実施例】
【0027】
以下、参考例、実施例及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0028】
[合成例1:SiO2-MPSの合成]
還流管、温度計及び50 ml滴下ロートを備え、スターラーピースを入れた200 mlの3つ口フラスコに、粒径125 nmのコロイダルシリカ[触媒化成工業(株)製]2.1 gを含むEtOH分散液 20 ml、及びチッソ(株)製3-メタクリル酸プロピルトリエトキシシラン(MPS)1.0 gを加えた。55℃で24時間撹拌後、反応溶液の遠心分離を行って上澄みを除去した。次に、残った残渣にEtOHを20ml加えて再分散後、遠心分離を行って上澄みを除去する洗浄操作を5回行った。洗浄後の残渣を減圧乾燥し、メタクリル酸プロピルを表面に修飾したコロイダルシリカ(合成物1:SiO2-MPS)1.953 gを調製した。
【0029】
[合成例2:SiO2-NH2の合成]
合成物1(200 mg)とエチレンジアミン(50 mg)を20 mlのEtOHを加えたナス型フラスコ中で混合し、室温下24時間撹拌後、反応溶液の遠心分離を行って上澄みを除去した。次に、残った残渣にEtOHを20ml加えて再分散し、遠心分離を行って上澄みを除去する洗浄操作を5回行った。洗浄によって得られた残渣を、減圧乾燥することでエチレンジアミン修飾コロイダルシリカ(合成物2:SiO2-NH2)185 mgを調製した。
【0030】
[合成例3:SiO2-PAAmの合成]
合成物1(200 mg)とポリアリルアミン(200 mg)を20 mlのEtOHを加えたナス型フラスコ中で混合し、室温下24時間撹拌後、反応溶液の遠心分離を行って上澄みを除去した。次に、残った残渣にEtOHを20ml加えて再分散し、遠心分離を行って上澄みを除去する洗浄操作を5回行った。洗浄で得た残渣を、減圧乾燥することでポリアリルアミン修飾コロイダルシリカ(合成物3:SiO2-PAAm)207 mgを調製した。
【0031】
[合成例4:SiO2-PEGの合成]
粒径120
nmのコロイダルシリカ500
mgと、平均分子量2000のポリエチレングリコキシアミドプロピルトリエトキシシラン500 mgを50 mlの脱水EtOHを加えたナス型フラスコ中で混合し、室温下24時間撹拌後、反応溶液の遠心分離を行って上澄みを除去した。次に、残った残渣にEtOHを50ml加えて再分散後、遠心分離を行って上澄みを除去する洗浄操作を5回行った。洗浄後の残渣を減圧乾燥し、ポリエチレングリコール修飾コロイダルシリカ(合成物4:SiO2-PEG)473 mgを調製した。
【0032】
[合成例5:SiO2-PAcの合成]
合成物1(250 mg)とアクリル酸 2.0 gを100 mlのイオン交換水を加えたナス型フラスコ中で混合し、重合開始剤にAAP(2-2’-アゾビス-2-ジアミノプロパン二塩酸塩)40 mgを加え、70℃で6時間反応を行った後、反応溶液の遠心分離を行って上澄みを除去した。残った残渣にイオン交換水を100ml加えて再分散し、遠心分離を行って上澄みを除去する洗浄操作を8回行った。洗浄後の残渣を減圧乾燥し、ポリアクリル酸修飾コロイダルシリカ粒子(合成物5:SiO2-PAc)244 mgを調製した。
【0033】
[合成例6:SiO2-PNIPAMの合成]
ナス型フラスコに合成物1(250mg)、及びN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM) 500mg、重合開始剤アゾビスイソブチロニトリル(20mg)、およびEtOHを50ml加え、70℃で6時間撹拌した後、反応溶液の遠心分離を行って上澄みを除去した。残った残渣にEtOHを50ml加えて再分散し、遠心分離を行って上澄みを除去する洗浄操作を8回行った。洗浄後の残渣を減圧乾燥し、N-イソプロピルアクリルアミド修飾コロイダルシリカ(合成物6:SiO2-PNIPAM)253mgを調製した。
【0034】
[試験]
タンパク質の界面への吸着は、一般的に界面の疎水性が高いほど起こりやすい。従って、タンパク質が非特異的に基板へ吸着する現象を抑制する目的に用いられるブロッキング剤は、基板に親水性を付与することでその機能を果たしている。一方、親水性を判断する指標の1つに、水と界面の接触角を求める手法がある。そこで、コロイダルシリカ等を被覆した基板と水の接触角を測定し、その基板の親水性を評価することによりタンパク質吸着抑制効果の簡易的評価を行った。
【0035】
[試験例1:接触角の測定]
1.8×1.8 mmのガラス基板上に、ポリスチレン(重合度2000)の0.5 %酢酸エチル溶液を15μl滴下し、3000 rpmで30秒間スピンコートを行うことで、ポリスチレンコート基板を調製した。このポリスチレンコート基板上に、コロイダルシリカ等の10mg/mlエタノール分散液を10μl滴下し、3000 rpmで30秒間スピンコートを行い、コロイダルシリカ等のコート基板を調製した。なお、使用するコロイダルシリカ等は、上記合成例2から6に示したコロイダルシリカの化学修飾粒子(合成物2から合成物6)、および粒径の異なる2種の未修飾のコロイダルシリカ粒子(粒径120nmと60nm)の計7種を用いた。調製した7種のコロイダルシリカ等のコート基板の、水に対する接触角の測定を行った。結果を表1に示した。
【0036】
[比較例1]
1.8×1.8 mmのガラス基板上にポリスチレン(重合度2000)の0.5 %酢酸エチル溶液を15μl滴下し、3000 rpmで30秒間スピンコートを行うことで、ポリスチレンコート基板を調製した。このポリスチレンコート基板上を0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)のPBS溶液中へ浸漬し、40℃で1時間ディップコートを行い、BSAコート基板を調製した。加えて未処理の基板(ガラス)、及びポリスチレンコート基板(PS)を比較用基板として用いた。比較例として調製した3種の基板の、水に対する接触角を測定した。結果を表2に示した。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
接触角の測定結果から、コロイダルシリカ等をコートした基板は、ポリスチレンをコートした基板と比較して、著しい接触角の減少が確認された。また、一般的なブロッキング剤であるBSAで処理した基板と比較しても、基板表面の親水性が同等もしくはそれ以上に向上することが明らかとなった。
【0040】
[試験例2:基板上へ非特異的に吸着するタンパク質(抗体)量の評価]
ブロッキング処理:96ウェルプレート成形品(Nunc社製)に、濃度0.1mg/mlのコロイダルシリカ/リン酸緩衝液(PBS)(pH7.4)分散液を、300μl/ウェルの割合で8つのウェルに分注し、40℃で1時間静置し基板へコロイダルシリカをブロッキングした。反応終了後、0.05%となるようTween 20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)を加えたPBSからなる洗浄液(PBS-Tween)で3回洗浄した。なお、使用したコロイダルシリカは、合成例2から6に示す化学修飾粒子(合成物2から合成物6)、および粒径の異なる2種の未修飾粒子(粒径125nmと60nm)の計7種を用いて検討した。また、比較として、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)/PBS-Tweenを300μl/ウェルで分注し、同様の方法でブロッキングと洗浄を行ったものを用いた。
【0041】
非特異的吸着処理:ペルオキシダーゼ標識抗ヤギIgG(Invitrogen社製)、またはペルオキシダーゼ標識抗ヒトアルブミンIgG(Bethyl社製)のPBS-Tween溶液8種(1000,
500, 250, 100, 50, 25, 10, 0 ng/ml)を、各粒子でブロッキング処理した8ウェルにそれぞれ100μl分注し、1時間静置して固相化抗ヒトアルブミンIgGをプレートへ吸着させた。反応後、PBS-Tweenで5回洗浄した。
【0042】
発色反応:和光純薬製o-フェニレンジアミン(OPD)の0.5 mg/mlクエン酸リン酸緩衝溶液(0.03%過酸化水素含有)(pH4.5)を、100μl/ウェルで分注し、プレートに吸着した抗体中のペルオキシダーゼと30分間反応させた。50ul/ウェルで2N硫酸を分注して反応を停止させ、各ウェル内で発色した溶液の吸光度(492nm)をプレートリーダーで計測した。結果を表3及び表4に示した。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
試験例2の結果より、各種コロイダルシリカをブロッキング剤に用いた場合、一般的にブロッキング剤として多用されるBSA(ウシ血清アルブミン)と同等かそれ以下の吸光度を示した。従って、BSAと同様にプレートとペルオキシダーゼ標識抗体(タンパク質)の間に起こる非特異的な吸着が抑制されたものと考えられる。特に、粒径60nmの未修飾コロイダルシリカ(60nm)は、極めて良好な吸着抑制効果を示した。
【0046】
[試験例3]
一次抗体処理:96ウェルプレート成形品(Nunc社製)に、一次抗体として1000ng/ml濃度のMP Biomedicals社製 ウサギIgG/PBSを、100μl/ウェルの割合で実験に使用する全てのウェルへ分注し、40℃で1時間反応を行い、一次抗体を固相化した。反応終了後、PBS-Tweenで3回洗浄した。
【0047】
ブロッキング処理:0.1mg/mlに調製したコロイダルシリカ等/PBS分散液を、一次抗体処理したウェルへ300μl/ウェルで分注し、40℃で1時間反応させた。反応終了後、PBS-Tweenで3回洗浄した。なお、使用するコロイダルシリカ等は合成例2から6に示す化学修飾粒子(合成物2から合成物6)、および粒径の異なる2種の未修飾粒子(粒径125nmと60nm)の計7種を用い、それぞれ8ウェルづつブロッキング処理した。また、比較として0.5%
BSA/PBS-Tweenを300μl/ウェルで分注し、同様の方法で反応と洗浄を行ったものを用いた。
【0048】
抗原処理:ヤギ抗ウサギ IgG(ROCKLAND社製)のPBS-Tween溶液8種(1000,
500, 250, 100, 50, 25, 10, 0 ng/ml)を、ブロッキング処理した8ウェルに各100μl分注し、1時間静置して固相化ウサギIgGと反応させた。反応後、ウェル内の溶液を捨てPBS-Tweenで3回洗浄した。
【0049】
二次抗体処理:ペルオキシダーゼ標識抗ヤギIgG(Invitrogen社製)PBS-Tween溶液(150ng/mL)を100μl/ウェルで分注し、室温で1時間静置して反応させた。反応後、PBS-Tweenで5回洗浄した。
【0050】
発色反応:和光純薬製o-フェニレンジアミン(OPD)の0.5 mg/mlクエン酸リン酸緩衝溶液(0.03%過酸化水素含有)(pH4.5)を100μl/ウェルで分注し、各ウェル内に固定化されたペルオキシダーゼと10分間反応させ、2N硫酸を50ul/ウェルで分注して反応を停止した。各ウェル内で発色した溶液の吸光度(492nm)をプレートリーダーで計測した。測定結果を表5に示した。
【0051】
[試験例4]
一次抗体処理:96ウェルプレート成形品(Nunc社製)に、一次抗体として1000ng/ml濃度のBethyl社製抗ヒトアルブミンIgG/PBSを100μl/ウェルの割合で実験に使用する全てのウェルへ分注し、40℃で1時間反応を行い、一次抗体を固相化した。反応終了後、PBS-Tweenで3回洗浄した。
【0052】
ブロッキング処理:0.1mg/ml濃度のコロイダルシリカ等/PBS分散液を一次抗体処理したウェルへ300μl/ウェルで分注し、40℃で1時間反応させた。反応終了後、PBS-Tweenで3回洗浄した。なお、使用するコロイダルシリカ等は合成例2から6に示す化学修飾粒子(合成物2から合成物6)、および粒径の異なる2種の未修飾粒子(粒径125nmと60nm)の計7種を用いて検討した。また、比較として0.5% BSA/PBS-Tweenを300μl/ウェルで分注し、同様の方法で反応と洗浄を行ったものを用いた。
【0053】
抗原処理:ヒトアルブミン(和光純薬製)のPBS-Tween溶液8種(1000,500,250,100,50,25,10,0
ng/ml)を、ブロッキング処理した8ウェルに各100μlで分注し、1時間静置して固相化抗ヒトアルブミンIgGと反応させた。反応後、ウェル内の溶液を捨てPBS-Tweenで3回洗浄した。
【0054】
二次抗体処理:ペルオキシダーゼ標識抗ヒトアルブミンIgG(Bethyl社製)PBS-Tween溶液(75ng/mL)を100μl/ウェルで分注し、室温で1時間静置して反応させた。反応後、PBS-Tweenで5回洗浄した。
【0055】
発色反応:和光純薬製o-フェニレンジアミン(OPD)の0.5 mg/mlクエン酸リン酸緩衝溶液(0.03%過酸化水素含有)(pH4.5)を100μl/ウェルで分注し、各ウェル内に固定化されたペルオキシダーゼと10分間反応させ、2N硫酸を50ul/ウェルで分注して反応を停止した。各ウェル内で発色した溶液の吸光度(492nm)をプレートリーダーで計測した。測定結果を表6に示した。
【0056】
【表5】

【0057】
【表6】

【0058】
各種コロイダルシリカのブロッキング効果をELISA法によって確認した結果、一般的なブロッキング剤のBSAと比較して、吸光度が同等か減少することを確認した。吸光度の減少は、抗原抗体反応のおける未反応物が基板へ非特異的に吸着することを抑制し、バックグラウンドが改善したことを意味する。従って、コロイダルシリカは、BSAと比較して非特異的吸着を抑制する効果が優れていることを確認した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫測定法において、非生体由来の無機粒子材料及び/又は非生体由来の有機無機複合粒子材料を、未反応物の非特異的吸着を阻害するための非特異的吸着阻害剤(ブロッキング剤)として使用することを特徴とする免疫測定法。
【請求項2】
無機粒子又は有機無機複合粒子の粒径が、0.1〜500nmの範囲にあることを特徴とする請求項1記載の免疫測定法。
【請求項3】
無機粒子又は有機無機複合粒子が、二酸化珪素を主体として構成されたものであるあることを特徴とする請求項1又は2記載の免疫測定法。
【請求項4】
免疫測定法が酵素免疫測定法である請求項1〜3のいずれか1項記載の免疫測定法。
【請求項5】
免疫測定法において使用する基板であって、少なくともその表面の一部を、非生体由来の無機粒子材料及び/又は非生体由来の有機無機複合粒子材料で被覆してなる免疫測定用の基板。
【請求項6】
免疫測定法において使用する基板の少なくともその表面の一部を被覆するための、非生体由来の無機粒子材料及び/又は非生体由来の有機無機複合粒子材料の含有液を、その構成要素の一つとする免疫測定用キット。