説明

タンパク質染色のための光ルミネセンス性金属複合体

ポリ(アミノ酸)の染色方法であって、前記ポリ(アミノ酸)を、少なくとも一つの遷移金属イオン、及び複数のドナー配位子であって、それらの各々が前記遷移金属イオンと完全に配位し、そして窒素ドナー配位子又はシクロメタル化ドナー配位子のいずれかであり、この内前記ドナー配位子の少なくとも一つがシクロメタル化ドナー配位子である、前記複数のドナー配位子を有する金属複合体と接触させることを含む、前記染色方法。単一の複合体中におけるドナー配位子は、同一であるか又は異なるものであり得る。窒素ドナー配位子は、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで2〜8個の環原子はN、O、S又はそれらの組み合わせであり、この内少なくとも2個の環原子がNであり、ここで各々の窒素ドナー配位子が、0〜4個のR1基で置換される。シクロメタル化ドナー配位子は、同様に10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで1〜4個の環原子はN、O、S又はそれらの組み合わせであり、この内少なくとも1個の環原子がNであり、ここで各々のシクロメタル化ドナー配位子が、0〜4個のR1基で置換される。R1基は、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロゲン、C1-6ハロアルキル、OR2、NR23、CN、C(O)R2、C(O)OR2、OC(O)R2、C(O)NR23、N(R2)C(O)R3、OC(O)NR23、N(R2)C(O)OR3、NR2C(O)NR34、NR2C(S)NR34、NO2、=O、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル又はヘテロシクロアルキルである。2つ以上のR1が単一のドナー配位子上に存在するとき、それらは同一か又は異なり得る。R2、R3及びR4は、H又はC1-12アルキルである。R2、R3及びR4の各々は、同一か又は異なり得る。さらに、本発明の金属複合体は、総電荷において中性又は陽イオン性であり得、その結果当該金属複合体は当該ポリ(アミノ酸)と非共有結合で結合する。したがって当該金属複合体は、当該ポリ(アミノ酸)を染色する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2007年11月21日に出願された米国特許仮出願番号第61/004,115号の優先権を主張し、そしてそれは全体として参照により本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ペプチド及びタンパク質を含むポリ(アミノ酸)は通常、ゲル電気泳動を使用して、溶液定量化アッセイによって、又は固体支持体、例えば例えばフィルター膜上における検出によって、検出かつ評価される。少量のタンパク質又は他のポリ(アミノ酸)は通常、目視できないが、それらを発見し、そして同定し得る前に染色されなければならない。
【0003】
ゲル中のポリ(アミノ酸)を染色する最も一般的な2つの方法は、クマシーブリリアントブルー(CBB)染色、及び銀染色である。特定のポリ(アミノ酸)に関して、銀染色は、CBB染色よりも100〜1000倍高感度であるが、いずれの方法も不利な点を有する。対照的にタンパク質の検出のために、発光性試薬、例えば蛍光性、リン光性、又は化学発光性試薬の使用は、非常に感度を向上させ、そして直線的な定量化範囲を増大させる可能性があり、一方で染色試薬の使用の容易性を同時に増大させ得る。
【0004】
ゲル中、膜上、又は他の支持体上の、及び溶液中のポリ(アミノ酸)のための代表的な蛍光染色剤、例えばスチリル染料及びメロシアニン染料(ゲル中では、例えばInvitrogen社のSYPRO(登録商標)Red、及びSYPRO(登録商標)Orange染料)の使用(米国特許第5,616,502号明細書、参照により本明細書に援用される)は、非常に速く、ポリ(アミノ酸)組成物に対して比較的感度が低く、脱染色が必要なく、そしてCBBよりも一桁超高感度である。
【0005】
他の蛍光性染色剤(例えば、SYPRO(登録商標)Ruby[Invitrogen社]、Flamingo(商標)Fluorescent Gel Stain[Bio−Rad Laboratories]、Deep Purple(商標)Total Protein Stain[GE Healthcare]、Krypton(商標)Protein Stain[Pierce Biotechnology])は、より優れた感度を提供するが、長い多段階染色手順を必要とする。SYPRO Rubyを除くこれらの市販の蛍光性タンパク質染色剤は、紫外線によって比較的弱く励起される。それらは好ましくは、紫外線透視を利用する比較的単純かつ安価な装置とは対照的に、可視光レーザー型スキャナーを使用して画像化される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、中性の又は正に荷電した金属複合体を使用するポリ(アミノ酸)の染色方法を提供する。当該金属複合体は、窒素ドナー配位子、シクロメタル化配位子、又はそれら2つの混合物を有し得る。本発明の金属複合体の使用は、ポリ(アミノ酸)の脱染色及び固定化の必要性を排除する。
【0007】
本発明の方法を実施するために使用される遷移金属複合体は、中性又は陽イオン性のいずれかである総電荷を有する。当該複合体は希釈溶液中でさえ非常に安定であり、そして電気泳動ゲル中のタンパク質と強く結び付き、紫外線で励起されたときに明るく視認可能な発光を発生する。本発明の金属複合体は、タンパク質と強くかつ非共有結合で結合し、そして紫外線による励起を用いた時において他の方法よりも高感度なポリ(アミノ酸)の検出を提供する。
【0008】
一つの実施形態において、本発明は、ポリ(アミノ酸)の染色方法であって、前記ポリ(アミノ酸)を、少なくとも一つの遷移金属イオン、及び複数のドナー配位子であって、それらの各々が前記遷移金属イオンと完全に配位し、そして窒素ドナー配位子又はシクロメタル化ドナー配位子のいずれかであり、この内前記ドナー配位子の少なくとも一つがシクロメタル化ドナー配位子である、前記複数のドナー配位子を有する金属複合体と接触させることを含む、前記染色方法を提供する。単一の複合体中におけるドナー配位子は、同一であるか又は異なるものであり得る。窒素ドナー配位子は、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで2〜8個の環原子はN、O、S又はそれらの組み合わせであり、この内少なくとも2個の環原子がNであり、ここで各々の窒素ドナー配位子が、0〜4個のR1基で置換される。シクロメタル化ドナー配位子は、同様に10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで1〜4個の環原子はN、O、S又はそれらの組み合わせであり、この内少なくとも1個の環原子がNであり、ここで各々のシクロメタル化ドナー配位子が、0〜4個のR1基で置換される。R1基は、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロゲン、C1-6ハロアルキル、−OR2、−NR23、−CN、−C(O)R2、−C(O)OR2、−OC(O)R2、−C(O)NR23、−N(R2)C(O)R3、−OC(O)NR23、−N(R2)C(O)OR3、−NR2C(O)NR34、−NR2C(S)NR34、−NO2、=O、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル又はヘテロシクロアルキルである。2つ以上のR1が、単一のドナー配位子上に存在するとき、それらは同一か又は異なり得る。R2、R3及びR4は、H又はC1-12アルキルである。R2、R3及びR4の各々は、同一か又は異なり得る。さらに本発明の金属複合体は、総電荷において中性又は陽イオン性であり得、当該金属複合体と当該ポリ(アミノ酸)との非共有結合を達成する。したがって、当該金属複合体は当該ポリ(アミノ酸)を染色する。
【0009】
第二の実施形態において、本発明は、上記の金属複合体のストック溶液、極性有機溶媒、及び酸性成分若しくは無機塩のいずれか、又はそれらの両方を含むキットを提供する。金属複合体は、約0.10μM〜約10μMの濃度で存在し得る。本発明のキットは、場合により、緩衝剤、抗酸化剤、金属キレート剤、界面活性剤又は追加の検出試薬を、前記と同一の溶液中又は別の溶液中にさらに含む。
【0010】
第三の実施形態において、本発明は、少なくとも一つの遷移金属イオン、及び複数のドナー配位子であって、各々が前記遷移金属イオンと完全に配位しており、そして各々独立して窒素ドナー配位子又はシクロメタル化ドナー配位子であり、ここで少なくとも一つのドナー配位子がシクロメタル化ドナー配位子である、前記複数のドナー配位子を提供する。各々の窒素ドナー配位子は、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで2〜8個の環原子は各々独立してN、O、又はSであり、この内少なくとも2個の環原子がNであり、そして各々の窒素ドナー配位子は、0〜4個のR1基で置換される。各々のシクロメタル化ドナー配位子は、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで1〜4個の環原子は各々独立してN、O又はSであり、この内少なくとも1個の環原子がNであり、そして各々のシクロメタル化ドナー配位子が、0〜4個のR1基で置換される。各々のR1基は、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロゲン、C1-6ハロアルキル、−OR2、−NR23、−CN、−C(O)R2、−C(O)OR2、−OC(O)R2、−C(O)NR23、−N(R2)C(O)R3、−OC(O)NR23、−N(R2)C(O)OR3、−NR2C(O)NR34、−NR2C(S)NR34、−NO2、=O、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル又はヘテロシクロアルキルである。当該金属複合体は、総電荷において中性又は陽イオン性である。シクロメタル化ドナー配位子がフェニルピリジンであり、そして窒素ドナー配位子がビピリジルであるとき、窒素ドナー配位子はメチル以外の基で置換される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、化合物1の励起及び発光スペクトルを示す。
【図2】図2A及び2Bは、化合物1又はSYPRO Rubyのいずれかで染色されたゲルの画像を示す。図2Aは原画像であって、図2Bは、感度限界を示すために調整された陰画を示す。
【図3】図3は、化合物1、2及び3を使用して、異なるロード量のポリ(アミノ酸)を分離したSDS−PAGEの染色を示す。ゲル画像の上部に沿って示される量は、バンドあたりにおけるタンパク質量のことである。
【図4】図4は、過剰の染色なしに、90分で最大の染色強度を示す、化合物1を使用するタンパク質標準の染色を示す。
【図5】図5は、40%メタノール、0.85%リン酸中の化合物1による染色を用いた、2−D電気泳動によるE.coli溶解物の分離を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
I.定義
本明細書において使用される用語「アミノ酸」は、天然に存在する及び合成のアミノ酸、並びに天然に存在するアミノ酸と類似する方法で機能するアミノ酸類縁体(amino acid analog)及びアミノ酸模倣体(amino acid mimetics)のことである。天然に存在するアミノ酸は、遺伝子コードによってコードされるもの、及び後に修飾されるアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタメート及びO−ホスホセリンである。アミノ酸はまた、ポリ(アミノ酸)、例えばペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質のことである。
【0013】
「アミノ酸類縁体」は、天然に存在するアミノ酸と同一の基本的化学構造を有する化合物のことであり、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基及びR基と結合するα炭素を有する。アミノ酸類縁体の例は、限定されないが、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスルホニウムを含む。かかる類縁体は、修飾R基を有し(例えばノルロイシン)、又は修飾ペプチドバックボーンを有し、しかし天然に存在するアミノ酸と同一の基本的化学構造を保持している。
【0014】
「非天然アミノ酸」は、遺伝子コードによってコードされておらず、そして必須ではないが、天然に存在するアミノ酸と同一の基本的構造を有する。非天然アミノ酸は、限定されないが、アゼチジンカルボン酸、2−アミノアジピン酸、3−アミノアジピン酸、ベータ−アラニン、アミノプロピオン酸、2−アミノ酪酸、4−アミノ酪酸、6−アミノカプロン酸、2−アミノヘプタン酸、2−アミノイソ酪酸、3−アミノイソ酪酸、2−アミノピメリン酸、tert−ブチルグリシン、2,4−ジアミノイソ酪酸、デスモシン、2,2’−ジアミノピメリン酸、2,3−ジアミノプロピオン酸、N−エチルグリシン、N−エチルアスパラギン、ホモプロリン、ヒドロキシリシン、アロ−ヒドロキシリシン、3−ヒドロキシプロリン、4−ヒドロキシプロリン、イソデスモシン、アロ−イソロイシン、N−メチルアラニン、N−メチルグリシン、N−メチルイソロイシン、N−メチルペンチルグリシン、N−メチルバリン、ナフトアラニン(naphthアラニン)、ノルバリン、オルニチン、ペンチルグリシン、ピペコリン酸、及びチオプロリンを含む。
【0015】
「アミノ酸模倣体」は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同一の方法で機能する化合物のことである。
【0016】
アミノ酸は、本明細書において、IUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨される、周知の3文字表記又は1文字表記のいずれかで示され得る。同様に核酸は、一般的に許容された1文字コードによって示され得る。
【0017】
「保存的に修飾された改変体(conservatively modified variant)」は、アミノ酸及び核酸配列の両方に適用する。特定の核酸配列に関して、「保存的に修飾された改変体」は、同一又は実質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸のことであり、又は当該核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には実質的に同一な配列のことである。遺伝子コードの縮重のために、多くの機能的に同一な核酸は、任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG及びGCUは、全てアミノ酸のアラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンによって特定化される全ての位置において、コドンは、コードされたポリペプチドを変えることなく、記載された任意の対応するコドンに変化され得る。かかる核酸の改変は、「静的改変(silent variation)」であり、そしてそれは保存的に修飾された改変体の一種である。ポリペプチドをコードする本明細書の全ての核酸配列はまた、核酸の全ての可能な静的改変を示す。当業者は、(通常メチオニンの単一のコドンであるAUG、及び通常トリプトファンの単一のコドンであるTGGを除く)核酸中における全てのコドンは、修飾されて機能的に同一の分子を生じ得る。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各々の静的改変体は、個々に記載された配列中に潜在する。
【0018】
アミノ酸配列に関して、当業者は、核酸、ペプチド、ポリペプチド、又はコードされた配列中において単一のアミノ酸又は少量のパーセンテージであるアミノ酸を変化、付加及び欠失させたタンパク質の配列への個々の置換、欠失又は付加は、「保存的に修飾された改変体」であって、当該変化がアミノ酸の、化学的に類似のアミノ酸(すなわち疎水性、親水性、正に荷電した、中性の、負に荷電したもの)との置換をもたらすことを理解するだろう。例示される疎水性アミノ酸は、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、及びトリプトファンを含む。例示される芳香族アミノ酸は、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンを含む。例示される脂肪族アミノ酸は、セリン及びスレオニンを含む。例示される塩基性アミノ酸は、リシン、アルギニン及びヒスチジンを含む。カルボン酸側鎖を有する、例示されるアミノ酸は、アスパラギン酸及びグルタミン酸を含む。カルボキサミドを側鎖に有する例示されるアミノ酸は、アスパラギン及びグルタミンを含む。機能的に類似のアミノ酸を提供する保存的置換の表は、当技術分野で周知である。かかる保存的に修飾された改変体は、本発明の多形性改変体(polimorphic variant)、種間相同体(interspecies homolog)、及び対立遺伝子に加えられ、そしてそれらを排除しない。
【0019】
以下の8つの群は、互いに保存的置換であるアミノ酸を各々含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リシン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);及び
8)システイン(C),メチオニン(M)
(例えば、Creighton,Proteins(1984)を参照)。
【0020】
アミン酸は、本明細書において、IUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨される周知の3文字表記、又は1文字表記のいずれかのことである。同様に核酸は、一般的に許容された1文字コードによって示され得る。
【0021】
本明細書において使用される用語「接触する」は、少なくとも2つの固有の種を、それらが反応し得るように接触を起こさせる工程のことをいう。しかし、生じる反応産物は、添加された試薬間における反応から、又は反応混合物中で生産され得る、一つ以上の添加された試薬由来の中間体から、直接的に産生され得ることが理解されるべきである。
【0022】
本明細書において使用される用語「遷移金属イオン」は、中性の遷移金属で存在するよりも少ない電子を原子価殻に有する結果として正に荷電している、周期表の遷移金属のことである。遷移金属は、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg及びAcを含む。当業者は、上記の遷移金属が、各々幾つかの異なる酸化状態を採用し、それらの全てが本発明に有用であることを理解するだろう。幾つかの場合において、最も安定な酸化状態が形成されるが、他の酸化状態は本発明において有用である。本発明において有用である遷移金属イオンは、限定されないが、Ir(III)及びRh(III)を含む。
【0023】
本明細書において使用される用語「配位した」は、電子を供与する原子と電子を受け入れる原子との間に結合を形成することであり、ここで、当該結合中で共有される両方の電子は単一の原子である供与原子由来である。
【0024】
本明細書において使用される用語「ドナー配位子」は、(一つの結合中で共有される両方の電子が同一の原子由来である)配位結合を通じて、一つ以上の電子を、一つ以上の中心原子又はイオン、例えば遷移金属イオンへと供与する配位子のことである。ドナー配位子からの電子は、例えば窒素、酸素、硫黄、又はリン上に存在する孤立電子対であり得る。或いは、ドナー配位子からの電子は、陰イオン、例えばカルバニオン及び酸素アニオン由来であり得る。孤立電子対が窒素原子のみから供与されるとき、配位子は窒素ドナー配位子である。多座配位子は、単一の遷移金属イオンと配位結合する1個超の原子を含む配位子である。ドナー配位子が多座配位子であり、そして少なくとも一つの配位する原子が炭素であって、金属と当該炭素との間で共有結合が形成されるとき、配位子はシクロメタル化配位子である。シクロメタル化複合体は、少なくとも一つのシクロメタル化配位子と、少なくとも一つの遷移金属イオンとの間の複合体である。シクロメタル化複合体は、炭素−金属配位部位におけるプロトンの消失、及び形成される炭素−金属結合1つあたり−1の複合体電荷における変化を通じて形成される。シクロメタル化配位子はしたがって、炭素−金属配位部位においてカルバニオンを含むものとして形式上説明される。当業者は、他のドナー配位子が本発明に有用であることを認識するだろう。
【0025】
本明細書において使用される用語「ヘテロアリール」は、5〜16個の環原子を含み、この内1〜4個の環原子は各々N、O又はSのヘテロ原子である、単環の、又は縮合二環式若しくは三環式の芳香環のことである。例えば、ヘテロアリールは、ピリジル、インドリル、インダゾリル、キノキサリニル、キノリニル、イソキノリニル、ベンゾチエニル、ベンゾフラニル、フラニル、ピロリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、オキサゾリル、ベンズオキサゾリル、イソオキサゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピラゾリル、イミダゾリル、チエニル、又は例えばアルキル、ニトロ若しくはハロゲンによって置換された、特にモノ若しくはジ置換された任意の他の基を含む。ピリジルは、2−、3−又は4−ピリジルを示し、有利には2−、又は3−ピリジルを示す。チエニルは、2−又は3−チエニルを示す。キノリニルは、好ましくは2−、3−又は4−キノリニルを示す。イソキノリニルは、好ましくは1−、3−又は4−イソキノリニルを示す。ベンゾピラニル、ベンゾチオピラニルは、好ましくは、各々3−ベンゾピラニル又は3−ベンゾチオピラニルを示す。チアゾリルは、好ましくは2−又は4−チアゾリルを示し、最も好ましくは4−チアゾリルを示す。トリアゾリルは、好ましくは1−、2−又は5−(1,2,4−トリアゾリル)である。テトラゾリルは、好ましくは5−テトラゾリルである。さらなるヘテロアリール化合物は、限定されないが、クロメノン、クロモン及びクマリンを含む。
【0026】
好ましくは、ヘテロアリールは、ピリジル、インドリル、キノリニル、ピロリル、チアゾリル、イソオキサゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピラゾリル、イミダゾリル、チエニル、フラニル、ベンゾチアゾリル、ベンズオキサゾリル、ベンゾフラニル、イソキノリニル、ベンゾチエニル、オキサゾリル、インダゾリル、2−オキソ−2H−クロメニル、又は置換された、特にモノ若しくはジ置換された任意の基を含む。
【0027】
本明細書において使用される用語「アルキル」は、指示された炭素原子数を有する、直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪族基である。例えば、C1−C6アルキルは、限定されないが、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、イソ−プロピル、イソ−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチルなどを含む。
【0028】
有機基又は有機化合物の各々との関連において、上記及び下記の用語「低級」は、1〜7個の、好ましくは1〜4個の炭素原子、そして(分岐しないものとして)1個又は2個の炭素原子を有する、分岐した若しくは分岐しない、化合物又は基を定義する。
【0029】
(通常、アルキレン、アルケニル、ヘテロアルキレン、ヘテロアルケニル、アルキニル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、シクロアルケニル、及びヘテロシクロアルケニルと呼ばれる基を含む)アルキル及びヘテロアルキル基に関する置換基は:0〜(2m’+1)個(m’は、基中の炭素原子の総数)の、−OR’、=O、=NR’、=N−OR’、−NR’R”、−SR’、−ハロゲン、−SiR’R”R'''、−OC(O)R’、−C(O)R’、−CO2R’、−CONR’R”、−OC(O)NR’R”、−NR”C(O)R’、−NR’−C(O)NR”R'''、−NR”C(O)2R’、−NH−C(NH2)=NH、−NR’C(NH2)=NH、−NH−C(NH2)=NR’、−S(O)R’、−S(O)2R’、−S(O)2NRR”、−CN、及び−NO2から選択される種々の基であり得る。R’、R”、R'''は、それぞれ独立して水素、無置換(C1−C8)アルキル及びヘテロアルキル、無置換アリール、無置換アルキル、アルコキシ若しくはチオアルコキシ基、又は無置換アリール−(C1−C4)アルキル基のことである。R’及びR”が同一の窒素原子と結合しているとき、それらは窒素原子と一緒になって5−、6−又は7員環を形成する。例えば−NR’R”は、1−ピロリジニル及び4−モルホリニルを含む意味である。置換基の上の説明から、当業者は、用語「アルキル」が、例えばハロアルキル(例えば、−CF3、及び−CH2CF3)並びにアシル(例えば−C(O)CH3、−C(O)CF3、−C(O)CH2OCH3など)のような基を含むことを意味することを理解するだろう。好ましくは、置換アルキル及びヘテロアルキル基は、1〜4個の、より好ましくは1、2又は3個の置換基を有する。例外は、本発明によって好適であり、かつ意図されるパーハロ(perhalo)アルキル基(例えば、ペンタフルオロエチル等)である。
【0030】
本明細書において使用される用語「アルケニル」は、少なくとも一つの二重結合を有する、直鎖又は分岐鎖の、2〜6個の炭素原子の炭化水素のことである。アルケニル基の例は、限定されないが、ビニル、プロペニル、イソプロペニル、ブテニル、イソブテニル、ブタジエニル、ペンテニル、又はヘキサジエニルを含む。
【0031】
本明細書において使用される用語「アルキニル」は、少なくとも一つの三重結合を有する、直鎖又は分岐鎖の、2〜6個の炭素原子の炭化水素のことである。アルキニル基の例は、限定されないが、アセチレニル、プロピニル、又はブチニルを含む。
【0032】
本明細書において使用される用語「アルコキシ」は、酸素原子を含むアルキル基、例えばメトキシ、エトキシなどのことである。「ハロ置換アルコキシ」は、幾つかの又は全ての水素原子がハロゲン原子で置換されているアルコキシと定義される。例えば、ハロ置換アルコキシは、トリフルオロメトキシなどを含む。
【0033】
本明細書において使用される用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素のことである。
【0034】
本明細書において使用される用語「ハロアルキル」は、幾つかの又は全ての水素原子がハロゲン原子で置換されている、上で定義されたアルキルのことである。ハロゲン(ハロ)は、好ましくはクロロ又はフルオロを示すが、ブロモ又はヨードも示し得る。例えば、ハロアルキルは、トリフルオロメチル、フルオロメチル、1,2,3,4,5−ペンタフルオロ−フェニルなどを含む。用語「パーフルオロ」は、少なくとも2つの利用可能な水素をフッ素で置換した化合物又は基を定義する。例えば、パーフルオロフェニルは、1,2,3,4,5−ペンタフルオロフェニルのことであり、パーフルオロメタンは、1,1,1−トリフルオロメチルのことであり、そしてパーフルオロメトキシは1,1,1−トリフルオロメトキシのことである。
【0035】
本明細書において使用される用語「アリール」は、6〜16個の環原子を含む、単環の、又は縮合二環式、三環式又はそれ以上の芳香環のことである。例えばアリールは、フェニル、ベンジル又はナフチルであり得、好ましくはフェニルであり得る。「アリーレン(Arylene)」は、アリール基由来の二価の基を意味する。アリール基は、アルキル、アルコキシ、アリール、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、アミノ、アミノ−アルキル、トリフルオロメチル、アルキレンジオキシ及びオキシ−C2−C3アルキレンで、モノ−、ジ−、又はトリ置換され得;それらの基の全ては、例えば上で定義されたとおりに場合によりさらに置換され;或いは1−又は2−ナフチルであり得;或いは1−又は2−フェナントレニルであり得る。アルキレンジオキシは、フェニルの2つの隣接炭素原子と連結した二価の置換基であり、例えばメチレンジオキシ又はエチレンジオキシである。オキシ−C2−C3−アルキレンは同様に、フェニルの2つの隣接炭素原子と連結した二価の置換基であり、例えばオキシエチレン又はオキシプロピレンである。オキシ−C2−C3−アルキレン−フェニルの例は、2,3−ジヒドロベンゾフラン−5−イルである。
【0036】
ナフチル、フェニル、又はアルコキシ、フェニル、ハロゲン、アルキル若しくはトリフルオロメチルによってモノ−若しくはジ−置換されたフェニルがアリールとして好ましく、特にフェニル又は、アルコキシ、ハロゲン若しくはトリフルオロメチルによってモノ−若しくはジ−置換されたフェニルが好ましく、そして特にフェニルが好ましい。
【0037】
Rとしての置換フェニルの例は、例えば、場合によりヘテロ環が置換されている、4−クロロフェン−1−イル、3,4−ジクロロフェン−1−イル、4−メトキシフェン−1−イル、4−メチルフェン−1−イル、4−アミノメチルフェン−1−イル、4−メトキシエチルアミノメチルフェン−1−イル、4−ヒドロキシエチルアミノメチルフェン−1−イル、4−ヒドロキシエチル−(メチル)−アミノメチルフェン−1−イル、3−アミノメチルフェン−1−イル、4−N−アセチルアミノメチルフェン−1−イル、4−アミノフェン−1−イル、3−アミノフェン−1−イル、2−アミノフェン−1−イル、4−フェニル−フェン−1−イル、4−(イミダゾール−1−イル)−フェン−イル、4−(イミダゾール−1−イルメチル)−フェン−1−イル、4−(モルホリン−1−イル)−フェン−1−イル、4−(モルホリン−1−イルメチル)−フェン−1−イル、4−(2−メトキシエチルアミノメチル)−フェン−1−イル、及び4−(ピロリジン−1−イルメチル)−フェン−1−イル、4−(チオフェニル)−フェン−1−イル、4−(3−チオフェニル)−フェン−1−イル、4−(4−メチルピペラジン−1−イル)−フェン−1−イル、及び4−(ピペリジニル)−フェニル、及び4−(ピリジニル)−フェニルである。
【0038】
同様に、アリール及びヘテロアリール基の置換基は変化し、そして:−ハロゲン、−OR’、−OC(O)R’、−NR’R”、−SR’、−R’、−CN、−NO2、−CO2R’、−CONR’R”、−C(O)R’、−OC(O)NR’R”、−NR”C(O)R’、−N”C(O)2R’、−NR’−C(O)NR”R'''、−NH−C(NH2)=NH、−NR’C(NH2)=NH、−NH−C(NH2)=NR’、−S(O)R’、−S(O)2R’、−S(O)2NR’R”、−N3、−CH(Ph)2、パーフルオロ(C1−C4)アルコキシ、及びパーフルオロ(C1−C4)アルキルから選択され、0から芳香環系上の空いている価数の総数の範囲の数であり;ここでR’、R”、R'''は、水素、無置換(C1−C8)アルキル、及び無置換ヘテロアルキル、無置換アリール及び無置換ヘテロアリール、無置換(アリール)−(C1−C4)アルキル、及び無置換(アリール)オキシ−(C1−C4)アルキルから独立して選択される。
【0039】
アリール又はヘテロアリール環の隣接原子上における2つの置換基は、場合により式−T−C(O)−(CH2q−U−の置換基で交換され得、ここでT及びUは、独立して−NH−、−O−、−CH2−又は単結合であり、そしてqは0〜2の整数である。或いは、アリール又はヘテロアリール環の隣接原子上における2つの置換基は、場合により式−A−(CH2r−B−の置換基で交換され得、ここでA及びBは、独立して−CH2−、−O−、−NH−、−S−、−S(O)−、−S(O)2−、−S(O)2NR’−又は単結合であり、そしてrは1〜3の整数である。そのようにして形成される新しい環の単結合の一つは、場合により二重結合で交換され得る。或いは、アリール又はヘテロアリール環の隣接原子上における2つの置換基は、場合により式−(CH2s−X−(CH2t−の置換基で交換され得、ここでs及びtは、独立して0〜4の整数であり、Xは−O−、−NR’−、−S−、−S(O)−、−S(O)2−、又は−S(O)2NR’−である。−NR’−及び−S(O)2NR’−中の置換基R’は、水素又は無置換(C1−C6)アルキルから選択される。
【0040】
本明細書において使用される用語「シクロアルキル」は、3〜12個の環原子、又は指示された原子数を含む、飽和の、又は部分的に不飽和の単環、縮合二環、又は橋かけされた多環である。例えば、C3−C8シクロアルキルは、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、及びシクロオクチルまでを含む。
【0041】
本明細書において使用される用語「複素環」は、3〜約20個の環メンバー、及び1〜約5個のヘテロ原子、例えばN、O及びSを有する環系のことである。さらなるヘテロ原子が同様に有用であり得、限定されないが、B、Al、Si及びPを含む。ヘテロ原子はまた酸化され得、例えば限定されないが、−S(O)−及び−S(O)2−である。例えば複素環は、限定されないが、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロチオフェニル、モルホリノ、ピロリジニル、ピロリニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピペラジニル、ピペリジニル、インドリニル、キヌクリジニル及び1,4−ジオキサ−8−アザ−スピロ[4.5]デク−8−イルを含む。
【0042】
本明細書において使用される用語「結び付いた(associated)」は、物理的な結合を意味することなく、2つの分子が互いに安定に結合されていることをいう。
【0043】
本明細書において使用される用語「総電荷」は、存在する任意の対イオンの電荷を計算することなく、遷移金属及び各々の配位子上の電荷を考慮した、複合体上の電荷のことである。
【0044】
本明細書において使用される用語「極性溶媒」は、極性化合物を溶解するために有用な溶媒であり、そして水と単一の相を形成することができる。本発明で使用される極性溶媒は、限定されないが、水、アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール,並びにジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、スルホラン、メチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルアセトアミド、ホルムアミド、メチルピロリドン、ピロリドン、及びジメチルイミダゾリノンを含む。
【0045】
II.本発明の金属複合体
本発明の金属複合体は、窒素ドナー配位子、シクロメタル化ドナー配位子、及び遷移金属イオンを含み得る。幾つかの実施形態において、本発明の金属複合体は、少なくとも一つの遷移金属イオン、及び前記遷移金属イオンと各々完全に配位した複数のドナー配位子を含み、ここで各々のドナー配位子は、窒素ドナー配位子又はシクロメタル化ドナー配位子であり、ここで少なくとも一つのドナー配位子がシクロメタル化ドナー配位子である。各々のドナー配位子は、同一であるか、又は異なり得る。窒素ドナー配位子は、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで2〜8個の環原子がN、O、S又はそれらの組み合わせであり、その内少なくとも2個の環原子がNであり、ここで各々の窒素ドナー配位子は、0〜4個のR1基で置換されている。シクロメタル化ドナー配位子は同様に、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで1〜4個の環原子がN、O、S又はそれらの組み合わせであり、その内少なくとも1個の環原子がNであり、ここで各々のシクロメタル化ドナー配位子は、0〜4個のR1基で置換されている。R1基は、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロゲン、C1-6ハロアルキル、−OR2、−NR23、−CN、−C(O)R2、−C(O)OR2、−OC(O)R2、−C(O)NR23、−N(R2)C(O)R3、−OC(O)NR23、−N(R2)C(O)OR3、−NR2C(O)NR34、−NR2C(S)NR34、−NO2、=O、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、又はヘテロシクロアルキルである。2個以上のR1基が、単一のドナー配位子上に存在するとき、それらは同一か又は異なり得る。R2、R3、及びR4基は、H、又はC1-12アルキルである。R2、R3、及びR4基の各々は、同一か又は異なり得る。或いはR1基は、互いに一緒になってアリール及びヘテロアリール基を形成し得る。
【0046】
A.窒素ドナー配位子
本発明の方法において有用な窒素ドナー配位子は、金属と結合するために利用される2つの窒素ドナー原子を有する、任意の窒素ドナー配位子であり得る。本発明の金属複合体は、任意の数の窒素ドナー配位子を有し得る。幾つかの実施形態において、金属複合体は、0、1、又は2個の窒素ドナー配位子を有し得る。2つ以上の窒素ドナー配位子が単一の金属複合体中に存在するとき、それらは同一か又は異なり得る。
【0047】
幾つかの実施形態において、本発明の各々の窒素ドナー配位子は、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで2〜8個の環原子が各々N、O、又はSであり得、その内少なくとも2個の環原子がNであり、0〜4個のR1基で置換されている。他の実施形態において、各々の窒素ドナー配位子は、以下の式:
【0048】
【化1】

【0049】
[式中、
環A及びBは、各々の5〜20個の環原子を有し、ここで1〜4個の環原子が各々N、O又はSであり得、その内少なくとも一つの環原子がNである]
を有する。幾つかの実施形態において、各々の窒素ドナー配位子は:
【0050】
【化2】

【0051】
[式中、
1a、R1b、R1c及びR1dは、R1に関して上で定義されたとおりであり、そしてXは場合により置換メチレン、O、S、−NR2、及びSeである]
であり得る。
【0052】
別の実施形態において、各々の窒素ドナー配位子は:
【0053】
【化3】

【0054】
【化4】

【0055】
であり得る。
【0056】
幾つかの実施形態において、各々の窒素ドナー配位子は:
【0057】
【化5】

【0058】
であり得る。
【0059】
幾つかの実施形態において、R1は、C1-6アルキル、−NR23、−N(R2)C(O)R3、−NR2C(O)NR34、−NR2C(S)NR34、又はフェニルであり得る。各々のR1は、同一か又は異なり得る。他の実施形態において、各々の窒素ドナー配位子は、以下の式:
【0060】
【化6】

【0061】
を有する。
【0062】
別の実施形態において、各々の窒素ドナー配位子は、以下の式:
【0063】
【化7】

【0064】
を有する。
【0065】
当業者は、他の窒素ドナー配位子が、本発明において有用であることを認識するだろう。
【0066】
B.シクロメタル化ドナー配位子
本発明の方法において有用であるシクロメタル化ドナー配位子は、金属と結合可能な一つの窒素ドナー原子及び一つのカルバニオンを有する、任意のシクロメタル化ドナー配位子であり得る。本発明の金属複合体は、任意の数のシクロメタル化ドナー配位子を有し得る。幾つかの実施形態において、金属複合体は、1、2又は3個のシクロメタル化ドナー配位子を有し得る。2個以上のシクロメタル化ドナー配位子が、単一の金属複合体中に存在するとき、それらは同一か又は異なり得る。
【0067】
幾つかの実施形態において、各々のシクロメタル化ドナー配位子は、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を有し、ここで1〜4個の環原子が各々N、O、又はSであり、その内少なくとも1個の環原子がNであり、0〜4個のR1基で置換されている。他の実施形態において、各々のシクロメタル化ドナー配位子は、以下の式:
【0068】
【化8】

【0069】
[式中、
Aは、6〜15個の環原子を有するアリール環系か、又は5〜15個の環原子を有するヘテロアリール環系であり得、ここでヘテロアリール環系の1〜4個の環原子は、各々N、O又はSであり得;そしてBは、5〜20個の環原子を有するヘテロアリール環系であり、ここで1〜4個の環原子が各々N、O又はSであり得、この内少なくとも一つの環原子がNである]
のシクロメタル化ドナー配位子である。さらなる他の実施形態において、シクロメタル化配位子は:
【0070】
【化9】

【0071】
[式中、
1a及びR1bの各々が、R1に関して上で定義されたとおりであり、そしてXは、場合によりメチレン、O、S、−NR2及びSeである]
であり得る。
【0072】
別の実施形態において、各々のシクロメタル化ドナー配位子は:
【0073】
【化10】

【0074】
であり得る。
【0075】
幾つかの実施形態において、各々のシクロメタル化ドナー配位子は:
【0076】
【化11】

【0077】
であり得る。
【0078】
他の実施形態において、シクロメタル化ドナー配位子は:
【0079】
【化12】

【0080】
であり得る。
【0081】
幾つかの実施形態において、シクロメタル化ドナー配位子は:
【0082】
【化13】

【0083】
であり得る。各々のシクロメタル化ドナー配位子は、同一か又は異なり得る。幾つかの他の実施形態において、R1は、C1-6アルキル、−NR23、−N(R2)C(O)R3、−NR2C(O)NR34、−NR2C(S)NR34又はフェニルであり得る。各々のR1は、同一か又は異なり得る。
【0084】
当業者は、他のシクロメタル化配位子が、本発明において有用であることを認識するだろう。
【0085】
C.遷移金属イオン
本発明の金属複合体において有用な遷移金属イオンは、任意の遷移金属であり得る。本発明において有用である遷移金属は、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、La、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg及びAcを含む。当業者は、上記の遷移金属が、各々幾つかの異なる酸化状態をとり得、それらの全てが本発明において有用であることを認識するだろう。幾つかの場合において、最も安定な酸化状態が形成されるが、他の酸化状態は本発明において有用である。
【0086】
幾つかの実施形態において、遷移金属イオンは、Ir、Rh、Os、Pt、Ru、Pd、又はReであり得る。別の実施形態において、遷移金属イオンはIrであり得る。他の実施形態において、遷移金属イオンはIr(III)であり得る。幾つかの他の実施形態において、遷移金属イオンはRhであり得る。さらに他の実施形態において、遷移金属イオンはRh(III)であり得る。当業者は、他の金属及び酸化状態が本発明において有用であることを認識するだろう。
【0087】
D.金属複合体
本発明の金属複合体は、上で定義された、窒素ドナー配位子、シクロメタル化ドナー配位子、及び遷移金属イオンを含み得る。
【0088】
他の実施形態において、金属複合体は、総電荷において中性又は陽イオン性である。さらに他の実施形態において、シクロメタル化ドナー配位子がフェニルピリジンであり、そして窒素ドナー配位子がビピリジルであるとき、当該窒素ドナー配位子がメチル以外の基で置換されることを条件として、金属複合体は上記のものを含む。
【0089】
幾つかの他の実施形態において、窒素ドナー配位子は、フェナントロリン又はビピリジルである。さらに他の実施形態において、窒素ドナー配位子はフェナントロリンである。さらに他の実施形態において、窒素ドナー配位子はビピリジルである。さらに他の実施形態において、金属複合体は、一つの窒素ドナー配位子及び二つのシクロメタル化ドナー配位子を有し得、ここで窒素ドナー配位子は、フェナントロリン又はビピリジルであり、ここで窒素ドナー配位子は、少なくとも2つのフェニル基で置換される。
【0090】
他の実施形態において、本発明の金属複合体は、総電荷において陽イオン性である。幾つかの他の実施形態において、金属複合体は、一つの窒素ドナー配位子及び二つのシクロメタル化ドナー配位子を有し得る。さらに他の実施形態において、金属複合体は、二つの窒素ドナー配位子及び一つのシクロメタル化ドナー配位子を有し得る。
【0091】
幾つかの実施形態において、本発明の金属複合体は、少なくとも一つのシクロメタル化ドナー配位子、及び少なくとも一つの窒素ドナー配位子、例えば以下の表に記載された化合物を含む。
【0092】
【化14】

【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
【表3】

【0096】
さらなる実施形態において、金属複合体は:
【0097】
【化15】

【0098】
【化16】

【0099】
であり得る。
【0100】
幾つかの実施形態において、各々の金属複合体は、化合物1、2又は3であり得る。他の実施形態において、各々の金属複合体は、化合物4、5、6、7、8、9、10、16、18、19、23、24、26、28、37、46又は55であり得る。幾つかの他の実施形態において、各々の金属複合体は、化合物1、2、3、4、5、6、7、8、9、16、18、19、23、24、26、46、又は55であり得る。さらに他の実施形態において、金属複合体は化合物1である。さらに他の実施形態において、金属複合体は、化合物1、2、3、4、5、6、7、8、9、19、23、24、26、又は46であり得る。さらに他の実施形態において、金属複合体は、化合物1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は46であり得る。
【0101】
III.ポリ(アミノ酸)の染色方法
幾つかの実施形態において、本発明はポリ(アミノ酸)の染色方法を提供する。当該方法は、ポリ(アミノ酸)と上記の金属複合体とを接触させることを含む。
【0102】
A.使用方法
本発明は、上記の金属複合体を利用してポリ(アミノ酸)を染色し、その後染色されたポリ(アミノ酸)の検出を行い、そして場合によりそれらの定量化又は他の分析を行う。ポリ(アミノ酸)は、複数のアミノ酸の任意の集合を意味し、ペプチド結合で連結した、アミノ酸のホモポリマー又はヘテロポリマーを含む。本明細書において使用されるポリ(アミノ酸)は、ペプチド及びタンパク質を含む。ポリ(アミノ酸)は、ポリ(アミノ酸)を含むと考えられる試料混合物を、照射に対して検出可能な比色性又は発光性の光応答を与える、又は検出可能な内因性放射活性を有する、上記の一つ以上の金属複合体を含む染色混合物と化合することによって染色される。さらなるステップは、染色の前、後、又は同時に、任意の組み合わせで、場合により、かつ独立して使用され、ポリ(アミノ酸)の分離又は精製、ポリ(アミノ酸)の検出向上、ポリ(アミノ酸)の定量、例えば抗体又はレクチンの使用による、特定のポリ(アミノ酸)のポリ(アミノ酸)群の同定を提供する。本発明の方法は、多くの態様のプロテオミクス、すなわち、任意の細胞又は組織試料におけるタンパク質の量、構造、及び活性の正確なプロファイルの決定を行うにあたり、一般的かつ具体的に有用である。
【0103】
通常、本発明は、ポリ(アミノ酸)を含んでいると考えられる試料混合物を、本発明の一つ以上の金属複合体を含む染色混合物と化合させて化合混合物を形成させることによって、ポリ(アミノ酸)を検出するために利用される。化合混合物はその後、当該染色混合物中の金属複合体が、試料混合物中に存在する任意のポリ(アミノ酸)と結びつくために十分な時間インキュベートされる。生じる染色されたポリ(アミノ酸)複合体はその後、選択された金属複合体が励起される波長で照射され、そして生じる光応答を検出した。
【0104】
試料混合物は、ポリ(アミノ酸)を含むか、又は含むと考えられる。試料混合物は、場合により、通常(例えば純粋なタンパク質用の)水、若しくは水性緩衝液を用いて調製された水溶液をさらに含むか、又は標識化の間に水溶液と混合される。水溶液は、主に水であり、そして水の溶液特性を保持している溶液のことである。水溶液が水に加えて溶媒を含む場合、水は通常、主の溶媒である。
【0105】
通常、試料混合物は、固体又は半固体マトリックス上に、又はそれらの中に存在する。一つの実施形態において、固体又は半固体マトリックスは、膜、例えばフィルター膜を含む。別の実施形態において、固体又は半固体マトリックスは、電気泳動培地、例えばポリアクリルアミドゲル、アガロースゲル、リニアポリアクリルアミド溶液、ポリビニルアルコールゲル、又はキャピラリー電気泳動バッファーを含む。本発明の一つの実施形態において、固体又は半固体マトリックスは、膜、例えばニトロセルロース、又はポリ(ビニリデンジフルオリド)膜であって、ここでポリ(アミノ酸)が、ブロッティング、スポッティング、又は他の適用法によって当該膜上に固定化されている。他の実施形態において、固体又は半固体マトリックスは、SDS−PAGEゲルであり得る。
【0106】
本方法を使用する染色のために好適であるポリ(アミノ酸)は、合成の、及び天然に存在するポリ(アミノ酸)の両方を含み、そしてそれらは天然及び非天然アミノ酸の両方を含む。本発明のポリ(アミノ酸)は、ペプチド、ポリペプチド、及びタンパク質を含む。本発明に従って標識化され、かつ分析されるポリ(アミノ酸)は、脂質(リポペプチド及びリポタンパク質)、ホスフェート(ホスホペプチド、及びホスホタンパク質)、及び/又は炭水化物(糖ペプチド、及び糖タンパク質)を含む非ペプチド領域と、場合により(共有結合で、又は非共有結合で)結合し;又は金属キレート又は他の補欠分子族、又は標準的ではない側鎖と結合し;或いは複数のサブユニットの複合体であるか、又は他の有機的若しくは生体物質、例えば核酸と結合する。ポリ(アミノ酸)は、場合により、ポリ(アミノ酸)の比較的均一な混合物であるか、又は不均一な混合物である。本発明の一つの態様において、ポリ(アミノ酸)は、少なくとも一つの塩基性アミノ酸、例えばリシン、アルギニン、又はヒスチジンを含む。本発明の別の態様において、ポリ(アミノ酸)は、酵素、抗体、転写因子、分泌タンパク質、構造タンパク質、核タンパク質、若しくは結合因子、又はそれらの組み合わせである。本発明のさらに別の態様において、ポリ(アミノ酸)は、細胞のプロテオームを含む。
【0107】
試料混合物中のポリ(アミノ酸)は、場合により固体又は半固体表面、例えばスライドガラス、マルチウェルプレート(例えば96ウェルプレート)、プラスチックピン、ポリマー膜若しくはビーズ、又は半導体材料と共有結合又は非共有結合するか、或いはそれらは結合しない。固体表面上の分析物と結合したポリ(アミノ酸)の染色は、分析物の存在及びポリ(アミノ酸)の存在を示す。
【0108】
ポリ(アミノ酸)は、種々の源;例えば生物発酵培地、及び自動タンパク質合成機、並びに原核細胞、真核細胞、ウィルス粒子、組織、及び生体液を含む源から得られる。好適な生体液は、限定されないが、尿、脳脊髄液、血液、リンパ液、間質液、細胞抽出物、粘液、唾液、痰、糞便、生理的若しくは細胞分泌物、又は他の同様の液体を含む。一つの実施形態において、ポリ(アミノ酸)は、動物細胞、特に哺乳動物細胞のプロテオームを含む。
【0109】
試料混合物の源によっては、染色の間、前、又は後に除去されるか、又は除去されない所望のポリ(アミノ酸)以外のポリ(アミノ酸)、アミノ酸、核酸、炭水化物、及び脂質を含む、所望のポリ(アミノ酸)以外の分離した生物材料を場合により含む。本発明の一つの態様において、移動度(例えば電気泳動ゲル又はキャピラリー)によって、又は大きさ(例えば遠心分離、ペレット化、又は濃度勾配)によって、又は(例えばフィルター膜又は親和性樹脂への)結合親和性によって、当該方法の間、試料混合物中のポリ(アミノ酸)は、各々から、又は試料混合物中の他の成分から分離される。本発明の別の態様において、ポリ(アミノ酸)を含むと考えられる試料混合物は、分離が行われた。本発明のさらに別の態様において、ポリ(アミノ酸)は分離されない。一つの実施形態において、試料混合物は、原則的に無細胞系である。別の実施形態において、試料混合物は、生存細胞、非生存細胞、細胞器官、例えば核若しくはミトコンドリア、又はそれらの混合物を含む。本発明の別の実施形態において、試料混合物は、組織、組織切片、組織スメア、全器官、又は、生命体を含む。本発明のさらに別の実施形態において、試料混合物の成分は、それが染色混合物と結合する前又は間に、限定されないが、フローサイトメトリー法、電気泳動法又はマイクロフルイディクス法による分離を含めて、物理学的に分離される。試料混合物成分が細胞を含む場合、細胞は場合により、それらの検出可能な光応答に基づいて分離され、そしてそれはその後、細胞生存度と関連付けた。
【0110】
ポリ(アミノ酸)は、場合により修飾されないか、或いは電気泳動ゲル中のポリ(アミノ酸)の移動度を向上させるか又は減少させるために、試料若しくは分子組成物で処理された。(通常、移動を減少させるために)ペプチドと複合化することによって、(通常、生じる断片の移動を増加させるために)選択されたペプチド結合を切断することによって、(例えばアシル化、リン酸化、又は脱リン酸化によって)タンパク質上における相対的電荷を変化させることによって、又は例えばグリコシル化の間に生じる、構成成分の共有結合によって、かかる試薬はポリ(アミノ酸)を修飾し得る。試料混合物中におけるかかる試料の存在又は相互作用は、同一の初期組成を有する未処理のポリ(アミノ酸)と比較した場合において、処理されたポリ(アミノ酸)の電気泳動における移動度の変化によって検出され、その結果、ポリ(アミノ酸)の分布は別の分析物の存在を示す。
【0111】
典型的には、試料混合物中のポリ(アミノ酸)は、約500ダルトン超の分子量を有する。より典型的には、ポリ(アミノ酸)は800ダルトン超である。存在するポリ(アミノ酸)は、場合により、基本的に同一の分子量を有するか、又は分子量の範囲内にある。本発明の一つの実施形態において、存在するポリ(アミノ酸)は、分子量標準として使用される、異なる分子量のポリ(アミノ酸)の混合物である。通常かかる混合物は、等しい質量のミオシン、β−ガラクトシダーゼ、ホスホリラーゼB、ウシ血清アルブミン、オボアルブミン、炭酸脱水酵素、トリプシン阻害剤、リゾチーム及びアプロチニンを含む。本発明の金属複合体はまた、低分子量のペプチド、ポリペプチド及びタンパク質、例えばインスリン、又は神経ペプチドを染色する。
【0112】
本発明の幾つかの実施形態において、電気泳動ゲル中で分離されたポリ(アミノ酸)は、染色混合物を使用して後染色(post−stained)されたか、或いは、染色混合物と結合される前に、フィルター膜若しくはブロット又は他の固体若しくは半固体マトリックスへと移される。本方法は、変性ゲル及び非変性ゲルの両方に有効である。変性ゲルは、界面活性剤、例えばSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)又は他のアルキル硫酸塩(例えば、0.05%−0.1%SDS)を場合により含む。通常、ポリアクリルアミド又はアガロースが電気泳動のために使用される。一般的に使用されるポリアクリルアミドゲルは、限定されないが、トリス−グリシン、トリス−トリシン、スタッキングゲルを一般的に有する小サイズ又は完全サイズのゲルを含む。アガロースゲルは、修飾アガロースを含む。或いは、当該ゲルは等電点電気泳動ゲル又は条片である。ポリアクリルアミド及びアガロースゲルに加えて、好適な電気泳動ゲルは、場合により他のポリマー、例えばHYDROLINKを使用して調製される。或いは、電気泳動ゲルは勾配ゲルである。本発明のために有用な電気泳動ゲルは、標準的手順に従って調製されたものか、又は市販のものを購入したかのいずれかである。
【0113】
本発明の別の実施形態において、本方法は、二次元電気泳動ゲル中に存在するポリ(アミノ酸)を検出するために使用される。本発明の別の実施形態において、電気泳動ゲルは、ゲル移動度−シフト分析のために使用され、ここでポリアクリルアミド又はアガロースゲルは、対象の特異的タンパク質/核酸相互作用を保存するために最適化されたバッファー中に入れられ、そして使用される。両方の実施形態において、染色混合物は、場合により電気泳動の手順中の任意の段階において試料混合物と一緒にされるが、染料は電気泳動分離の後に後染色として好ましくは使用される。
【0114】
試料混合物が、電気泳動ゲル上若しくはその中に、又はブロット膜上に存在する場合、試料混合物のポリ(アミノ酸)は、0.1ng/バンド〜0.1μg/バンドの濃度で通常存在する。
【0115】
本発明のさらに別の実施形態において、本方法は、対象標的と結び付いたポリ(アミノ酸)を検出するために使用される。例えば、標的分子はビオチンで標識化され、その後に標準的に免疫学的方法を使用してストレプトアビジンを用いて標識化される。ストレプトアビジンはその後、本発明の金属複合体を使用して染色される。ストレプトアビジンの発光検出は、対象標的の検出及び/又は局在化をもたらす。同様に標的は、ポリペプチドで標識化され、そしてそれはその後、本発明の金属複合体を使用して直接的に検出される。
【0116】
幾つかの実施形態において、本発明の方法は、ポリ(アミノ酸)を脱染色することなく行われる。他の実施形態において、本方法は、ポリ(アミノ酸)を固定化することなく行われる。
【0117】
固定又は固定化は、染色溶液の適用前に、電気泳動を使用して分離されたタンパク質ゲルへと適用され得る処理である。固定化は、酸性成分を含む水性固定溶液中にゲルを浸漬することに関し、そして水混和性の有機溶媒を追加的に含み得る。酸性成分の例は、酢酸、トリクロロ酢酸、及びリン酸を含む。酸は通常、0.1%〜20%の濃度で存在する。水混和性有機溶媒成分の例は、メタノール、エタノール及びイソプロパノールを含む。存在する場合には、水混和性有機溶媒は通常、5%〜60%の濃度で存在する。固定化ステップは、ゲル中のタンパク質を不動化し、そしてその後の染色ステップの間に、それらがゲル外へ拡散することを防止する。固定化ステップはまた、その後の染色を妨害するゲル中に存在する物質を洗い出すために有用であり得る。かかる物質は、界面活性剤、バッファー及び塩を含む。固定化ステップは、一つ以上の固定化溶液の変化を伴う、単一の又は複数のステップであり得る。
【0118】
(本発明の染色溶液のように、)染色溶液が酸性成分及び混和性有機溶媒成分を含む場合、当該染色溶液がゲル中にタンパク質を不動化するために必要とされる成分を含有するために、固定化ステップ無しで染色することが可能である。ゲル中の物質、例えば界面活性剤、バッファー及び塩が染色を阻害しない場合にこれは可能である。
【0119】
脱染色は、染色溶液の適用後における、電気泳動で分離されたタンパク質ゲルへ適用され得る処理である。脱染色溶液は、水単体から成るか、又は一つ以上の以下のもの:水−水混和性有機溶媒、酸性成分、無機塩、バッファー、界面活性剤の任意の組み合わせを含有する水溶液を含む。脱染色ステップは、タンパク質と結合していないゲル中の染料を洗い出すか又は当該染料濃度を下げるために使用される。これはバッググラウンドの光ルミネセンスを低下させ、そしてそれにより、タンパク質を分離したゲルがより良く検出され、視覚化され、そして定量化される。
【0120】
B.染色混合物
ポリ(アミノ酸)染色をするために、試料混合物は、染色混合物と混合される。染色混合物は通常、溶媒、例えば水、DMSO、DMF又はメタノール中、0.1〜20μMの金属複合体濃度と通常なるように、選択された金属複合体を溶解することによって調製される。染色混合物は、金属複合体を含有する、より濃縮されたストック溶液から調製され得る。ストック溶液は通常、実施されるアッセイに従って、水溶液を用いて希釈される。染色溶液、又はそれらが調製されるストック溶液は、数か月間貯蔵され得る。ゲル又は膜上のポリ(アミノ酸)を染色するために、金属複合体は希釈されて、水を含み、そして場合により追加の製剤成分、例えば酸、緩衝剤、無機塩、極性有機溶媒、抗酸化剤、界面活性剤、及びイオンキレート剤をさらに含む溶液とする。幾つかの例において、染色溶液は再利用され得る。
【0121】
本発明の染色方法は、発光の検出と組み合わせて使用される場合に最も有用であるが、本発明のために使用される幾つかの金属複合体は、比色性の吸光度を有し、そして可視性の色の吸光度によって検出され得る。発光検出のために、染色混合物は、0.10μM超であって10μM未満の;好ましくは約0.50μM超であって約5μM以下の;より好ましくは1〜3μMの典型的濃度の金属複合体を含む。本発明の染色法が細胞生存度を決定するために利用される場合、金属複合体は通常、約1〜5μM、好ましくは約3μMの濃度で存在する。一つの実施形態において、金属複合体は、約1.5μMの濃度で存在する。別の実施形態において、金属複合体は、約5μMの濃度で存在する。
【0122】
遷移金属複合体は、染色された試料中、又は支持体上に存在し得る他の発光性化合物のものよりも長い発光寿命を有し得る。時間分解発光検出法を使用することによって、さらなる感度又は識別のために、この特性が引き出され得る。
【0123】
特定の金属複合体は、一般的に一つ以上の以下の基準を使用して、特定のアッセイのために選択される:通常のポリ(アミノ酸)に対する又はその特定の分類に対する感度、ダイナミックレンジ、光安定性、染色時間、及び核酸の存在に対する非感受性。好ましくは、本発明の金属複合体は、電気泳動ゲル中のスポット又はバンドあたり1〜2ng以下のポリ(アミノ酸)を検出することができる。
【0124】
本発明の金属複合体は、種々のpH値においてタンパク質を容易に染色する。典型的には染色混合物は、約1〜約10の、より典型的には約1〜約5のpHを有する。染色混合物のpHは、好適な酸性成分又は緩衝剤の選択によって制御され得る。
【0125】
幾つかの実施形態において、金属複合体は酸性溶液中に存在する。幾つかの実施形態において、酸性溶液は、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、スルホサリチル酸、又はベンゼンスルホン酸の溶液である。他の実施形態において、酸性溶液はリン酸溶液である。
【0126】
染色混合物中の酸性成分の存在が所望である場合、ポリ(アミノ酸)と混合可能な任意の酸性成分が好適な酸性成分である。通常好適である酸性成分は、限定無しに、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、過塩素酸、リン酸、硫酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、トリクロロ酢酸、スルホサリチル酸、又はベンゼンスルホン酸を含む。酸性成分は通常、0.1%〜20%(v/v)の濃度で存在する。酸性成分が酢酸である場合、それは通常1%〜10%(v/v)の濃度で通常存在する。酸性成分がトリクロロ酢酸である場合、それは7%〜30%(v/v)、好ましくは10%〜20%(v/v)、より好ましくは12%〜13%(v/v)の濃度で通常存在する。酸性成分が過塩素酸である場合、それは2%〜5%(v/v)の濃度で通常存在する。酸性成分がリン酸である場合、それは0.1%〜5%(v/v)の濃度で通常存在する。
【0127】
染色混合物のpHは、酸性成分に加えて、又は酸性成分の代わりに、緩衝剤を含有させることによって場合により調整される。試料中のポリ(アミノ酸)と混合可能な任意の緩衝剤は、染色混合物中における含有に好適である。
【0128】
一つの実施形態において、緩衝剤は、いわゆる「グッド」バッファー(”Good” buffer)の一つである。「グッド」バッファーは、BES(N,N−ビス[2−ヒドロキシエチル]−2−アミノエタンスルホン酸;2−[ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]エタンスルホン酸);BICINE(N,N−ビス[2−ヒドロキシエチル]グリシン)、CAPS(3−[シクロヘキシルアミノ]−1−プロパンスルホン酸)、EPPS(N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N’−[3−プロパンスルホン酸])、HEPES((N−[2−ヒドロキシエチル]ピペラジン−N’−[2−エタンスルホン酸])、MES(2−[N−モルホリノ]エタンスルホン酸)、MOPS(3−[N−モルホリノ]プロパンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン−N,N’−ビス[2−エタンスルホン酸];1,4−ピペラジンジエタンスルホン酸)、TAPS(N−トリス[ヒドロキシメチル]メチル−3−アミノプロパンスルホン酸;([2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]アミノ−1−プロパンスルホン酸)、TES(N−トリス[ヒドロキシメチル]メチル−2−アミノエタンスルホン酸;2−([2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]アミノ)エタンスルホン酸)、又はTRICINE(N−トリス[ヒドロキシメチル]メチルグリシン;N−[2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]グリシン)を含む。
【0129】
他の有用な緩衝剤は、ギ酸、クエン酸、酢酸、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸、イミダゾール、N−2−ヒドロキシエチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸の塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン酢酸塩、又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩を含む。好ましい実施形態において、緩衝剤は酢酸ナトリウムである。緩衝剤は通常、20mM〜500mMの濃度で、別の態様において50mM〜200mMの濃度で、そして別の態様において約100mMの濃度で染色混合物中に通常存在する。
【0130】
製剤自体に十分に溶解する任意の無機塩は、染色製剤中に使用され得る。有利な無機塩は、染色されたゲル中の低いバックグラウンドシグナルを示す染色製剤を産生する。本発明において有用な無機塩は、限定されないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、酢酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、及びグルクロン酸マグネシウムを含む。無機塩は、1〜50%(w/v)の濃度で染色混合物中に存在し得る。
【0131】
幾つかの実施形態において、染色混合物は極性有機溶媒を含む。本発明の方法において有用な極性溶媒は、限定されないが、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセロール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、スルホラン、メチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルアセトアミド、ホルムアミド、メチルピロリドン、ピロリドン、ジメチルイミダゾリノン、アセトニトリル、エトキシエタノール、メトキシエタノール、メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、及びジグリムを含む。極性溶媒がアルコールであるとき、当該アルコールは1〜6個の炭素原子を有し得るか、又は2〜6個の炭素原子を有するジオール又はトリオールであり得る。存在する場合には、極性溶媒は通常、5〜50%(v/v)の濃度で染色混合物中に含まれる。
【0132】
ポリ(アミノ酸)の染色は、抗酸化剤又は遷移金属イオンキレート剤の添加によって場合により強化される。抗酸化剤の選択された実施形態は、グルクロン酸、アスコルビン酸、及びクエン酸を含む。遷移金属イオンキレート剤の選択された実施形態は、エチレンジアミン二酢酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレングリコール−ビス−(β−アミノエチルエーテル)四酢酸(EGTA)、クエン酸、1,2−ビス−(2−アミノフェノキシエタン)−N,N,N’,N’−四酢酸(BAPTA)、2−カルボキシメトキシ−アニリン−N,N−二酢酸(APTRA)、及び種々のクラウンエーテルを含む。クエン酸は、抗酸化剤及びキレート化剤の両方として作用し得、そして当該染色混合物への特に有用な添加剤である。
【0133】
ポリ(アミノ酸)の染色は、界面活性剤の存在によって強化され得る。界面活性剤の選択された実施形態は、任意のPluronics、Triton X−100、及びTween20を含む。界面活性剤は、個々に、又は二つ以上の界面活性剤の混合物として使用され得る。界面活性剤は、0.002%〜10%(w/v)の全体濃度で、より典型的には0.01%〜1%(w/v)の濃度で存在し得る。界面活性剤は、染色試薬の濃縮ストック溶液中に存在し得る。好ましい界面活性剤添加剤は、Pluronic F127である。当業者は、他の界面活性剤が本発明において有用であることを認識するだろう。
【0134】
本発明の金属複合体が調製されるとき、染色混合物は、非常に減らされたバックグラウンド染色でポリアクリルアミドゲル中のポリ(アミノ酸)を染色する。任意の脱染色手順が、幾つかの染色をポリ(アミノ酸)のバンドから常に除去するだろうために、低いバックグラウンドレベルの発光は、ポリ(アミノ酸)バンドの定量的測定のために特に重要である。
【0135】
C.混合された混合物
混合された混合物中に存在する、金属複合体と任意のポリ(アミノ酸)との間の接触を容易とするように、染色混合物は試料混合物と混合される。ゲル電気泳動によって分離されたポリ(アミノ酸)は、染色混合物中におけるゲルの浸漬によって染色され得る。
【0136】
染色されたゲルの脱染色は通常、本発明の金属複合体を使用するタンパク質の発光検出のために必要ではない。染色の持続性及び安定性は、染色されて数週間後に、染色されたゲルがシグナルの著しい消失無しに写真撮影され得る程度である。
【0137】
脱染色は、バックグラウンド染色を減少させるために、又は検出感度を増大させるために実施され得る。脱染色は、水中でのゲルの浸漬によって、又は水と以下の任意成分(組み合わせ若しくは単一)との混合物中にゲルを浸漬することによって行われ得る:極性溶媒、酸、バッファー、塩又は界面活性剤。
【0138】
本発明の方法に従って染色された電気泳動ゲルは、その後フィルターペーパー上で、又はプラスチックシート(例えばセロファン)の間で、標準的手順を使用して乾燥され得る。
【0139】
D.追加の試薬
本発明の方法は場合により、同時に又は連続的に、試料混合物、染色混合物、又は混合された混合物と混合される、一つ以上の追加の試薬をさらに含む。追加の試薬は場合により、本発明の方法によってその検出を向上するために、一般的なポリ(アミノ酸)と、又は特定のポリ(アミノ酸)と共局在化する検出試薬である。或いはさらなる試薬は、試料混合物中の他の成分、例えば核酸染色剤、又は脂質、炭水化物、特定のタンパク質群、若しくは特定のタンパク質修飾、例えばリン酸化若しくはグリコシル化用の染色剤の同定のために有用である。或いは、追加の試薬は、試料混合物の特定の成分を探索するために、試料混合物の特定の部分と相互作用するように設計された検出試薬であり、ここで金属複合体と検出試薬の空間的一致は、当該追加の試薬がまた、ポリ(アミノ酸)と結合していることを示す。
【0140】
追加の試薬はまた、検出可能な応答を生み出すための手段を包含する。検出可能な応答は、直接観察によってか、又は機器を用いてかのいずれかで認知され得る試験系におけるパラメータの変化又はその発生を意味する。かかる検出可能な応答は、色、蛍光、反射率、pH、化学発光、赤外線スペクトル、磁気的特性、放射活性、光散乱、X線散乱、又は電子が豊富な基質の沈澱における変化、又はそれらの発生を含む。検出可能な応答を提供する好適な標識は、限定されないが、可視性若しくは蛍光色素、化学発光試薬、酵素の作用(例えば、ジアミノベンジジンに対する西洋ワサビペルオキシダーゼの作用、又は標識化されたチラミドに対する酵素の作用)に基づく可視性若しくは蛍光性沈澱を生じる酵素基質、可視性若しくは蛍光性標識された微小粒子、金属、例えば、コロイド状の金、若しくは銀コーティング試薬、又は試薬に対する光の作用(例えば、光によって、又はジアミノベンジジンに対する光の作用によって活性化されるケージドフルオロフォア(caged fluorophore))によって放出されるシグナルを含む。追加の試薬の検出可能な標識は、本発明の複合体の光学的シグナルを用いて同時に又は連続的に検出される。
【0141】
本発明の一つの実施形態において、上記の好ましい実施形態を含む一つ以上の追加の染料又は光ルミネセンス性物質が、追加の試薬(単数又は複数)である。個々の染料又は光ルミネセンス性物質は、重複するスペクトル特性を示すように選択され得、その結果、エネルギー移動がポリ(アミノ酸)と結合した物質間で生じ、そしてそれは延長されたStokesシフトを示す標識化ポリ(アミノ酸)をもたらす。或いは、さらなる染料(単数又は複数)は、幾つかの又は全てのポリ(アミノ酸)が消光を示すように、金属複合体と共局在化する。或いは追加の試薬は、ポリ(アミノ酸)の標識化が染色の共局在化によって高められるような、別のタンパク質染色剤(例えばCBB、又は銀染色剤)である。
【0142】
他の有用な追加の試薬は、蛍光性核酸染色剤である。種々の好適な核酸染色剤は、当技術分野において既知であり、限定されないが、チアゾールオレンジ、エチジウムホモダイマー、エチジウムブロマイド、ヨウ化プロピジウム、HOECHST33258、及びDAPIを含む。さらなる有用な核酸染色剤は、国際公開第93/06482号、DIMERS OF UNSYMMETRICAL CYANINE DYES(1993年4月1日公開)、若しくは国際公開第94/24213号、CYCLIC SUBSTITUTED UNSYMMETRICAL CYANINE DYES(1994年10月27日公開);又は米国特許出願公開第5,321,130号明細書、Yue他、1994年;若しくは米国特許第5,410,030号明細書、DIMERS OF UNSYMMETRICAL CYANINE DYES CONTAINING PYRIDINIUM MOIETIES、Yue他、1995年に記載されている。本発明の染料との併用での、好適な核酸染色剤の使用は、ポリ(アミノ酸)及び核酸、例えばDNA及びRNAの同時又は連続的観察が可能となるように選択され得る。
【0143】
追加の試薬は、試薬の検出可能な応答を局在化するために、酵素複合体との併用で使用され得る。酵素媒介性の技術は、種々の分析物を検出するために、特定の結合対間の結び付きを利用する。一般的に酵素媒介性技術は、試薬として、特定の結合対又は一連の特定の結合対の相補的メンバーを検出するために、当該対又は当該一連の対のメンバーと結合する酵素を使用する。最も単純な場合において、一つの特定の結合対のメンバーのみが使用される。当該特定の結合対の一つのメンバーは、分析物、すなわち分析対象物質である。酵素は、当該対の他の(相補的)メンバーと結合して、相補的複合体を形成する。或いは複数の特定の結合対は、当該分析物、当該相補的複合体、又はその両方へと連続的に結合され、その結果として当該分析物と、当該特定の結合複合体に組み込まれた相補的複合体である検出可能な酵素との間に間置された、一連の特定の結合対をもたらす。
【0144】
本発明の別の実施形態において、本発明の方法に従って染色された電気泳動ゲルは、画像化され、その後一次抗体である検出試薬とインキュベートされる。生じる免疫標識されたゲルをその後、本発明の方法に従って再度染色した。本発明の金属複合体は、それがちょうど他のポリ(アミノ酸)を染色するように、一次抗体と結合して染色し、それにより当該ゲルの全体の染色が増大する。この実施形態において、当該標識の存在が本発明の複合体による染色にほとんど影響しないため、非標識抗体でさえ免疫標識のために使用され得る。本発明の方法論は、標識化及び再染色において、強度を増大させるスポットのために、自動化されたワークステーションによって、染色されたゲルを速やかにスクリーニングすることができるため、ハイスループット画像分析のために特に有用である。他のポリ(アミノ酸)標識、例えばアクチン結合タンパク質を同定するために使用されるアクチンの染色は、同様の方法で容易に達成される。
【0145】
E.照射及び観察
本発明の金属複合体が放射活性遷移金属イオン(例えばα、β、又はγ放射体)と結合する場合、混合された混合物中の金属複合体の存在及び位置は、X線撮影によって場合により検出される。通常、内因性放射活性は、膜、蛍光物質貯蔵プレート、又はマイクロスキャナ・アレイ検出器を使用して検出される。
【0146】
金属複合体は、最も典型的には、その内因性蛍光によって検出される。試料混合物への金属複合体の添加後、当該試料混合物は、染色された試料混合物を励起することができる光源を照射される。通常、試料混合物は、金属複合体のピーク吸収の波長で、またはその近くである光を生み出すことができる光源、例えば紫外線又は可視波長の輝線ランプ、レーザー、アーク灯、蛍光灯、又は白熱灯によって励起される。好ましくは、試料混合物は、金属複合体の最大吸収の20nm以内の波長で励起される。金属複合体の最大吸収帯に対してより好適である源による励起によって、より高い感度がもたらされるが、蛍光試料の励起のために一般的に利用可能な装置が、本発明の染色剤を励起するために使用され得る。金属複合体を照射するために有用である選択された装置は、限定されないが、紫外線トランスイルミネーター、紫外線エピイルミネーター(epi−illuminator)、ハンドヘルド・紫外線ランプ、水銀アークランプ、キセノンランプ、アルゴンイオンレーザー、ダイオード・レーザー、及びNd−YAGレーザーを含む。これらの照射源は、場合により、レーザースキャナー、蛍光マイクロプレートリーダー、標準的若しくはミニ蛍光光度計、マイクロスコープ、フローサイトメーター、ゲルリーダー、又はクロマトグラフ検出器へと統合される。
【0147】
本発明の金属複合体は、長期間の発光寿命を有するので、発光の観察は、照射後約100ナノ秒超で生じ、照射後10マイクロ秒超まででさえ生じ得る。この「時間分解」発光は、通常短寿命であるバックグラウンド蛍光のほぼ全ての源の排除をもたらす。この特性は、試料が内因性蛍光である場合、蛍光性不純物を有する場合、又は速やかな蛍光を与える他の検出試薬と併用される場合に特に有用である。
【0148】
本発明の別の実施形態において、試料混合物中のポリ(アミノ酸)の存在又は量は、本発明の金属複合体の発光の偏光を測定することによって検出される。蛍光偏光の技術は、偏光を用いて、蛍光又は発光標識試料混合物を励起し、そして生じる蛍光偏光を測定することに関する。標識化分子が大きく、そしてゆっくりと回転する場合(例えば、染色されたポリ(アミノ酸))、励起光と生じる蛍光との間の偏光の変化は非常に小さい。標識化分子が小さく、そして早く回転する場合(例えばポリ(アミノ酸)が無い場合の金属複合体)、偏光における変化は大きい。蛍光偏光アッセイは通常、均一な溶液である試料を使用する。
【0149】
照射への応答における金属複合体の検出可能な光学応答は、定性的に、又は場合により定量的に検出される。金属複合体の検出可能な光学応答は通常、長寿命の蛍光応答である。
【0150】
光学応答は通常、目視検査、CCDカメラ、ビデオカメラ、写真用フィルム、又は現在使用される装置の使用、例えばレーザースキャニング装置、フルオロメーター、光ダイオード、量子カウンター、エピ蛍光顕微鏡、スキャニング顕微鏡、フローサイトメーター、蛍光マイクロプレートリーダーを含む手段によって、又はシグナル増幅手段、例えば光電子増倍管によって通常検出させる。電気泳動ゲルの光学応答を記録するとき、膜、例えばPOLAROID(登録商標)膜の使用により、純粋な目視観察に対して、シグナル感度の向上をもたらす。検出感度は、非常に薄いゲル上の、又はマイクロチューブキャピラリー中のポリ(アミノ酸)の分離を可能とする技術の使用によって改善される。検出限界はまた、当該培地が強い光、例えばレーザーによって照射される場合、より高感度の検出器を用いて検出される場合、またはバックグラウンドシグナルが遅延された蛍光の検出を通じて減ずる場合に改善される。本発明の金属複合体の高いStokesシフトは、バックグラウンドへの散乱光及び内因性蛍光の寄与を減少させることによって、すぐれたシグナル−ノイズ比をもたらす。
【0151】
発光の存在は、試験試料中のポリ(アミノ酸)の存在を同定するために場合により使用される。或いは、検出可能な光学応答は定量化され、そして試験試料混合物中のポリ(アミノ酸)の濃度を測定するために使用される。定量化は通常、準備された標準曲線に対する、又は較正曲線に対する光学応答の比較によって行われる。通常、電気泳動ゲル中又は膜上の、ポリ(アミノ酸)又はポリ(アミノ酸)混合物の既知の濃度の標準希釈から得られる、測定された光学応答が比較される。一般的に標準曲線は、正確な測定が所望である場合にはいつでも準備されなければならない。或いは、標準曲線は、金属複合体染色されたポリ(アミノ酸)に対して標準化されたリファレンス染料又は染料された粒子との比較によって作成される。
【0152】
染色された電気泳動ゲルは、複合体試料混合物の組成物を分析するために、及びかかる混合物中の特定のポリ(アミノ酸)の相対量を追加的に決定するために使用される。染色されたゲルはまた、単離されたタンパク質の純度を予測するために、及び試料混合物中のポリ(アミノ酸)のタンパク分解度を決定するために使用される。さらに、電気泳動移動度は、評価のされていないポリ(アミノ酸)サイズの測定を提供するために、及び複数のサブユニットタンパク質のサブユニット組成物を分析するために、並びにかかるタンパク質に結合したサブユニットに対する化学量論を決定するために場合により使用される。等電点電気泳動(IEF)の場合において、電気泳動移動度は、ポリ(アミノ酸)が有する正味の分子電荷の測定を提供するために使用される。
【0153】
紫外線による励起を用いて使用される場合、本発明の複合体の使用は、他の類似の電気泳動ゲル染色剤よりも高感度のポリ(アミノ酸)を提供する。本発明の一つの態様において、本方法は、自動化電気泳動法で利用される。本方法を使用することで、少量のポリ(アミノ酸)の明るい発光は、自動画像化システムによる検出を可能とする。さらに、多くの電気泳動ゲル染色剤とは異なり、本方法は「エンドポイント染色」を含む。すなわち、電気泳動ゲルが、最適エンドポイントを超える銀染色によって影響され得るが、本方法を使用して染色されたゲルは長時間の染色をこうむることがなく、そして脱染色を必要とせず、自動化染色システムの使用をさらに単純化する。本発明の金属複合体の感度及び紫外線励起は、自動化システムによるポリ(アミノ酸)のバンド又はスポットの正確な局在化を容易にし、そしてその後の移動及び/又は分析を可能とする。
【0154】
本発明の一つの態様において、ポリ(アミノ酸)バンド又はスポットの位置決定は、当該バンド又はスポットの物理的除去、及びその後に電気泳動マトリックスからのポリ(アミノ酸)の分離をさらに含む。本発明の別の態様において、ポリ(アミノ酸)バンド又はスポットの位置決定は、ポリ(アミノ酸)のイオン化及び質量分析による評価、又は当該ポリ(アミノ酸)の移動、及びEdmanシーケンシングによる当該ポリ(アミノ酸)のその後の分析をさらに含む。
【0155】
IV.キット
幾つかの実施形態において、本発明は、金属複合体のストック溶液、約5〜約50%の濃度の極性有機溶媒、約1%〜約20%の濃度の酸性成分、約1〜約50%の濃度で存在する無機塩、又は両方、及び0.002%〜10%の、より典型的には0.01〜1%全濃度の界面活性剤を含むキットを提供する。本発明の金属複合体は、少なくとも一つの遷移金属イオン、及び各々が当該遷移金属イオンと完全に配位した複数のドナー配位子を有し、ここで当該各々のドナー配位子は窒素ドナー配位子又はシクロメタル化ドナー配位子である。各々のドナー配位子は、同一か又は異なり得る。窒素ドナー配位子は、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで2〜8個の環原子はN、O、S又はそれらの組み合わせであり、この内少なくとも2個の環原子がNであり、ここで各々の窒素ドナー配位子が、0〜4個のR1基と置換される。シクロメタル化ドナー配位子は、同様に10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで1〜4個の環原子はN、O、S又はそれらの組み合わせであり、この内少なくとも1個の環原子がNであり、ここで各々のシクロメタル化ドナー配位子が、0〜4個のR1基と置換される。R1基は、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロゲン、C1-6ハロアルキル、−OR2、−NR23、−CN、−C(O)R2、−C(O)OR2、−OC(O)R2、−C(O)NR23、−N(R2)C(O)R3、−OC(O)NR23、−N(R2)C(O)OR3、−NR2C(O)NR34、−NR2C(S)NR34、−NO2、=O、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル又はヘテロシクロアルキルである。2つ以上のR1が、単一のドナー配位子上に存在し、それらは、同一か又は異なり得る。R2、R3及びR4は、H又はC1-12アルキルである。R2、R3及びR4の各々は、同一か又は異なり得る。本発明の金属複合体は、総電荷において中性か又は陽イオン性であり、そして約0.10μM〜約10μMの濃度で存在する。本発明のキットは場合により、緩衝剤、抗酸化剤、金属キレート剤、界面活性剤、又は追加の検出試薬を、前記と同一の又は異なる溶液中にさらに含む。
【0156】
本発明の金属複合体を含むキットはまた、有用である。当該キットは、乾燥、粉末形態中に、又は溶液として金属複合体を含み得る。当該キットはまた、ポリ(アミノ酸)、並びにポリ(アミノ酸)標準、及び他の成分(例えばバッファー又は洗浄溶液)を染色又は検出するための金属複合体の使用に関する使用説明書を含む。一つの実施形態において、本発明のキットは、本発明の金属複合体のストック水溶液、及び一つ以上の追加のキット成分を含む。
【0157】
追加のキット成分は、酸、緩衝剤、無機塩、極性溶媒、抗酸化剤、又は金属キレート剤を場合により含む。追加のキット成分は、純粋な組成物として、又は一つ以上のさらなるキット成分を含む水溶液として存在する。任意の又は全てのキット成分は場合により、バッファーをさらに含む。キット成分が酸である場合、それは場合により、リン酸、酢酸、クエン酸、又はトリクロロ酢酸である。追加のキット成分が極性溶媒である場合、それは典型的には低級アルコール、例えばメタノール又はエタノールである。幾つかの実施形態において、追加のキット成分は上記の無機塩であり得る。本発明のキットはまた、本発明の金属複合体で染色されたポリ(アミノ酸)を検出するための検出装置を含み得る。
【実施例】
【0158】
実施例1:化合物1の製造及び評価
ビス(2−フェニルピリジン)(4,7−ジフェニル[1,10]フェナントロリン)イリジウムクロリドの製造
【0159】
【化17】

【0160】
10mg(9.3μmol)のジクロロテトラキス(2−(2−ピリジニル)フェニル)ジイリジウム及び8.1mg(24μmol)のバソフェナントロリンを、ジクロロメタンに溶解し、そして窒素下で6時間攪拌した。溶媒を真空下で除去し、そして残渣をジエチルエーテルで洗浄した。これにより、11.4mgの淡褐色結晶物質を得た(収率71%)。分子イオンの予想モノアイソトピック質量は833.2であり、測定質量(主ピーク)は833.7であった。
【0161】
実施例2:化合物2の製造
ステップ1−ジクロロテトラキス(ベンゾ[h]キノリン)ジイリジウムの製造
【0162】
【化18】

【0163】
75mgのIrCl3・H2O、及び186mgのベンゾ[h]キノリンを、4.5mlのエトキシエタノール、1.5mlの水に溶解し、そして24時間加熱還流した。沈澱した固体を濾過により回収し、そしてエタノール及びアセトンで洗浄した。この物質を11mlのジクロロメタンに溶解し、そして3.75mlのトルエン及び1.5mlのヘキサンを添加することによって沈澱させた。沈澱した物質を濾過により回収し、そして真空乾燥した。収率は51%であった。
【0164】
ステップ2−化合物2[ビス(ベンゾ[h]キノリン)(4,7−ジフェニル[1,10]フェナントロリン)イリジウムヘキサクロロホスフェート]の製造
【0165】
【化19】

【0166】
12mgのジクロロテトラキス(ベンゾ[h]キノリン)ジイリジウム、及び8mgの4,7−ジフェニル[1,10]フェナントロリンを1mlのジクロロメタンに加え、そして室温で18時間攪拌した。当該物質を乾燥し、そしてメタノール中に溶解した。KPF6の飽和溶液を添加することによって、化合物2をヘキサフルオロリン酸塩として沈澱させた。沈澱した物質を濾過により回収し、そして真空で乾燥した。収率は36%であった。分子イオンの予想モノアイソトピック質量は881.2であり、測定質量(主ピーク)は881.7であった。
【0167】
実施例3:化合物3の製造
ステップ1−ジクロロテトラキス(2−フェニルベンゾチアゾール)ジイリジウムの製造
【0168】
【化20】

【0169】
75mgのIrCl3・H2O、及び190mgの2−ベンゾチアゾールを、4.5mlのエトキシエタノール及び1.5mlの水に溶解し、そして24時間加熱還流した。沈澱した固体を濾過により回収し、エタノール及びアセトンで洗浄し、そして温めたクロロホルムで抽出した。この物質を、11mlのジクロロメタンに溶解し、そして3.75mlのトルエン及び1.5mlのヘキサンを加えることによって沈澱させた。当該物質を濾過により回収し、そして真空乾燥した。収率は83%であった。
【0170】
ステップ2−化合物3[ビス(2−フェニルベンゾチアゾール)(4,7−ジフェニル[1,10]フェナントロリン)イリジウムヘキサクロロホスフェート]の製造
【0171】
【化21】

【0172】
14mgのジクロロテトラキス(2−フェニルベンゾチアゾール)ジイリジウム、及び8mgの4,7−ジフェニル[1,10]フェナントロリンを1mlのジクロロメタンに加え、そして室温で18時間攪拌した。当該物質を乾燥し、そしてメタノール中に溶解した。KPF6の飽和溶液を加えることにより、化合物2をヘキサフルオロリン酸塩として沈澱させた。沈澱した物質を濾過により回収し、そして真空乾燥した。収率は11%であった。分子イオンの予想モノアイソトピック質量は945.2であり、測定質量(主ピーク)は945.7であった。
【0173】
実施例4:化合物4〜10、16、18、19、23、24、26、28、37、46、及び55の製造
化合物4〜10、16、18、19、23、24、26、28、37、46、及び55を、当技術分野で既知の方法(Sprouse,S.et al.J.Am.Chem.Soc.1984,106,6647−6653;Ohsawa,Y.et al.J.Phys.Chem.1987,91,1047−1054)に従って製造した。0.9mmolのシクロメタル化ドナー配位子を、0.24mmolのIrCl3・H2Oと共に、4.5mlのエトキシエタノール、及び1.5mlの水中で16時間加熱還流することによって、シクロメタル化ジクロロ架橋二核前駆体を製造した。体積を真空下で減らし、そして当該物質を濾過により回収した。ジエチルエーテル及びエタノールを用いて洗浄した後、収率は通常85%超であった。20μmolのジクロロ架橋二核前駆体と、50μmolの窒素ドナー配位子とを、2mlの塩化メチレン中で混合し、そしてアルゴン下で3時間攪拌することによって表題化合物を調製した。当該化合物をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:エタノール 9:1)で精製した。
【0174】
各々の合成化合物の特性を、マトリックスフリーレーザー脱離イオン化質量分析によって検証した(以下):
【0175】
【表4】

【0176】
実施例5:ポリ(アミノ酸)の染色
記載された化合物を、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)によって分離されたタンパク質の蛍光染色のために使用した。単純かつ迅速な染色手順が使用され、そして染色されたゲルは、UV光を用いた透視、及び好適な膜を通じた写真ににより画像化された。タンパク質支援発光は、類似の方法を用いた場合よりも高く、そして1ng以下のタンパク質の検出限界が、比較的短時間の暴露時間で獲得される。
【0177】
10mg/ml(化合物1)、又は7.5mg/ml(化合物2及び3)となるようにジメチルスルホキシド中に溶解し、その後10%(w/v)Pluronic F127水溶液で50倍に希釈することによって、当該物質のストック溶液を調製した。
【0178】
一つの実施例において、タンパク質標準の希釈をSDS−PAGE(Bio−Rad Criterion 4−20%Tris−Cl)上で行った。上記のストック溶液の、40%メタノール、0.85%リン酸の1:100希釈液中で、ゲルを90分間インキュベートした。当該ゲルを、VersaDoc system(Bio−Rad)を用いて、520nmのロングパスフィルターを通じた5秒間の暴露を使用して画像化した(図3)。
【0179】
実施例6:化合物1対SYPRO Rubyでの、ゲル染色剤の比較
7.5mg/mlの濃度となるように化合物1をジメチルスルホキシド中に溶解し、その後10%(w/v)Pluronic F127水溶液で50倍に希釈することによって、化合物1の100xストック溶液を調製した。
【0180】
タンパク質標準の希釈を、SDS−PAGE(Bio−Rad Criterion 8−16%Tris−Cl)上で行った。上記のストック溶液の、40%メタノール、0.85%リン酸の1:100希釈液中で、90分間当該ゲルをインキュベートした。
【0181】
同様にロードされ及び使用されたゲルを、製造業者の指示書に従って、SYPRO Ruby(Invitrogen)を用いて染色した(50%メタノール、7%酢酸で30分間、2度固定化し、一晩染色し、そして10%メタノール、7%酢酸を用いて30分間脱染色した)。
【0182】
両方のゲルを、VersaDoc system(Bio−Rad)を用いて、520nmのロングパスフィルターを通じた10秒間の暴露を使用して画像化した(図2)。
【0183】
実施例7;化合物1を用いたげゲル染色の時間経過
7.5mg/mlの濃度となるように化合物1をジメチルスルホキシド中に溶解し、その後10%(w/v)Pluronic F127水溶液で50倍に希釈することによって、化合物1の100xストック溶液を調製した。
【0184】
タンパク質標準の希釈を、SDS−PAGE(Bio−Rad Criterion 8−16%Tris−Cl)上で行った。上記のストック溶液の、40%メタノール、0.85%リン酸の1:100希釈液中で、当該ゲルをインキュベートした。当該ゲルを定期的にこの溶液から取り出し、UV透視を用いて写真撮影し、そして溶液を交換した。7、15、30、60、90、150、及び300分のインキュベーション後、当該ゲルをこの方法で画像化した。結果を図4に示す。最大染色強度が90分以内で達成され、そして過剰の染色は、長期間の染色において生じなかった。
【0185】
実施例8:2−D PAGE分離を視覚化するための、化合物1の使用
E.coliの溶解物(40μgのタンパク質)は、2−D PAGEによって分離された(第一の次元:11cm pH5〜8、第二の次元:SDS−PAGE 8〜16%アクリルアミド)。実施例6及び7に記載の通りにゲルを染色し、そして画像化した。結果を図5に示す。
【0186】
理解を明確にする目的のために、図及び例を用いて幾らか詳細に前述の発明を説明したが、当業者は、ある程度の変化及び改変が特許請求の範囲内で行われることを認識するだろう。さらに、本明細書において提供された各々の参考文献は、個々の参考文献が個別に参照により援用されたのと同程度に、その全体が参照により本明細書において援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(アミノ酸)の染色方法であって、前記ポリ(アミノ酸)を:
(i)少なくとも一つの遷移金属イオン;及び
(ii)複数のドナー配位子であって、それらの各々が前記遷移金属イオンと完全に配位し、そして窒素ドナー配位子及びシクロメタル化ドナー配位子からなる群から各々独立して選択され、ここで前記ドナー配位子の少なくとも一つがシクロメタル化ドナー配位子である、前記複数のドナー配位子;
を含む金属複合体と接触させることを含み、ここで:
各々の窒素ドナー配位子は、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで2〜8個の環原子はN、O、及びSからなる群から各々独立して選択され、この内少なくとも2個の環原子がNであり、そして各々の窒素ドナー配位子が、0〜4個のR1基で置換され;
各々のシクロメタル化ドナー配位子は、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで1〜4個の環原子はN、O、及びSからなる群から各々独立して選択され、この内少なくとも1個の環原子がNであり、ここで各々のシクロメタル化ドナー配位子が、0〜4個のR1基で置換され;
各々のR1基は、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロゲン、C1-6ハロアルキル、−OR2、−NR23、−CN、−C(O)R2、−C(O)OR2、−OC(O)R2、−C(O)NR23、−N(R2)C(O)R3、−OC(O)NR23、−N(R2)C(O)OR3、−NR2C(O)NR34、−NR2C(S)NR34、−NO2、=O、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクロアルキルからなる群から独立して選択され;そして
各々のR2、R3及びR4は、H及びC1-12アルキルからなる群から独立して選択され;
そして前記金属複合体が、総電荷において中性か又は陽イオン性であり、その結果前記金属複合体と前記ポリ(アミノ酸)との非共有結合を達成し、そしてそれにより前記ポリ(アミノ酸)を染色する、前記方法。
【請求項2】
前記金属複合体が、全体として陽イオン電荷を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属複合体が、一つの窒素ドナー配位子、及び二つのシクロメタル化ドナー配位子を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
各々の窒素ドナー配位子が、以下の式:
【化1】

[式中、
環A及びBは、各々独立して、5〜20個の環原子を有するヘテロアリール環系であり、ここで1〜4個の環原子が、N、O及びSからなる群から各々独立して選択され、その内少なくとも1個の環原子がNである]
を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
各々の窒素ドナー配位子が:
【化2】

【化3】

からなる群から選択されるメンバーである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
各々の窒素ドナー配位子が:
【化4】

[式中、
各々のR1は、C1-6アルキル、−NR23、−N(R2)C(O)R3、−NR2C(O)NR34、−NR2C(S)NR34、及びフェニルからなる群から独立して選択される]
からなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
各々のシクロメタル化ドナー配位子が、以下の式:
【化5】

[式中、
環Aは、6〜15個の環原子を有するアリール環系、及び5〜15個の環原子を有するヘテロアリール環系からなる群から選択されるメンバーであり、ここでヘテロアリール環系の1〜4個の環原子は、N、O、及びSからなる群から各々独立して選択され;そして
環Bは、5〜20個の環原子を有するヘテロアリール環系であり、ここで1〜4個の環原子はN、O、及びSからなる群から各々独立して選択され、この内少なくとも1個の環原子がNである]
のシクロメタル化ドナー配位子である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
各々のシクロメタル化ドナー配位子が:
【化6】

からなる群から選択されるメンバーである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
各々のシクロメタル化ドナー配位子が、独立して:
【化7】

[式中、
各々のR1は、C1-6アルキル、−NR23、−N(R2)C(O)R3、−NR2C(O)NR34、−NR2C(S)NR34、及びフェニルからなる群から独立して選択される]
からなる群から選択されるメンバーである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記遷移金属イオンが、Ir、Rh、Os、Pt、Ru、Pd、及びReからなる群から選択されるメンバーである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記遷移金属イオンが、Ir(III)である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記金属複合体が:
【化8】

【化9】

【化10】

からなる群から選択されるメンバーである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ポリ(アミノ酸)を脱染色することなく行われる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリ(アミノ酸)を固定することなく行われる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
(i)少なくとも一つの遷移金属イオン;及び
(ii)複数のドナー配位子であって、それらの各々が前記遷移金属イオンと完全に配位し、そして窒素ドナー配位子及びシクロメタル化ドナー配位子からなる群から各々独立して選択され、ここで前記ドナー配位子の少なくとも一つがシクロメタル化ドナー配位子である、前記複数のドナー配位子;
を含む金属複合体であって、ここで:
各々の窒素ドナー配位子は、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで2〜8個の環原子は、N、O、及びSからなる群から各々独立して選択され、この内少なくとも2個の環原子がNであり、そして各々の窒素ドナー配位子が、0〜4個のR1基で置換され;
各々のシクロメタル化ドナー配位子は、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで1〜4個の環原子は、N、O、及びSからなる群から各々独立して選択され、この内少なくとも1個の環原子がNであり、そして各々のシクロメタル化ドナー配位子が、0〜4個のR1基で置換され;
各々のR1基は、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロゲン、C1-6ハロアルキル、−OR2、−NR23、−CN、−C(O)R2、−C(O)OR2、−OC(O)R2、−C(O)NR23、−N(R2)C(O)R3、−OC(O)NR23、−N(R2)C(O)OR3、−NR2C(O)NR34、−NR2C(S)NR34、−NO2、=O、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクロアルキルからなる群から独立して選択され;そして
各々のR2、R3及びR4は、H及びC1-12アルキルからなる群から独立して選択され;
そして前記金属複合体は、総電荷において中性か又は陽イオン性であり;
ただし前記シクロメタル化ドナー配位子がピリジル-フェニルであり、そして前記窒素ドナー配位子がビピリジルであるとき、前記窒素ドナー配位子は、メチル以外の基で置換されることを条件とする、前記金属複合体。
【請求項16】
一つの窒素ドナー配位子、及び二つのシクロメタル化ドナー配位子を含み、前記窒素ドナー配位子が、フェナントロリン及びビピリジルからなる群から選択され、そして前記窒素ドナー配位子が、少なくとも2つのフェニル基で置換される、請求項15に記載の金属複合体。
【請求項17】
前記遷移金属イオンがIr(III)である、請求項15または16に記載の金属複合体。
【請求項18】
【化11】

【化12】

【化13】

からなる群から選択される、請求項15〜17のいずれか一項に記載の金属複合体。
【請求項19】
(i)少なくとも一つの遷移金属イオン;及び
(ii)複数のドナー配位子であって、それらの各々が前記遷移金属イオンと完全に配位し、そして窒素ドナー配位子及びシクロメタル化ドナー配位子からなる群から各々独立して選択され、ここで前記ドナー配位子の少なくとも一つがシクロメタル化ドナー配位子である、前記複数のドナー配位子;
を含む金属複合体のストック溶液であって、ここで:
各々の窒素ドナー配位子は、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで2〜8個の環原子は、N、O、及びSからなる群から各々独立して選択され、この内少なくとも2個の環原子がNであり、そして各々の窒素ドナー配位子が、0〜4個のR1基で置換され;
各々のシクロメタル化ドナー配位子は、10〜40個の環原子を有するヘテロアリール環系を含み、ここで1〜4個の環原子は、N、O、及びSからなる群から各々独立して選択され、この内少なくとも1個の環原子がNであり、そして各々のシクロメタル化ドナー配位子が、0〜4個のR1基で置換され;
各々のR1基は、C1-6アルキル、C2-6アルケニル、C2-6アルキニル、C1-6アルコキシ、ハロゲン、C1-6ハロアルキル、−OR2、−NR23、−CN、−C(O)R2、−C(O)OR2、−OC(O)R2、−C(O)NR23、−N(R2)C(O)R3、−OC(O)NR23、−N(R2)C(O)OR3、−NR2C(O)NR34、−NR2C(S)NR34、−NO2、=O、アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、及びヘテロシクロアルキルからなる群から独立して選択され;そして
各々のR2、R3及びR4は、H及びC1-12アルキルからなる群から独立して選択され;
ここで前記金属複合体は、総電荷において中性か又は陽イオン性であり;
そして前記金属複合体は約0.10μM〜約10μMの濃度で存在する、前記ストック溶液;
極性有機溶媒;及び
酸性成分若しくは無機塩のいずれか、又はその両方を含み;
並びに場合により、緩衝剤、抗酸化剤、金属キレート剤、界面活性剤、又は追加の検出試薬を、前記と同一若しくは異なる溶液中にさらに含むキット。
【請求項20】
界面活性剤をさらに含む、請求項19に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−505342(P2011−505342A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535067(P2010−535067)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/084198
【国際公開番号】WO2009/067603
【国際公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(591099809)バイオ−ラッド ラボラトリーズ,インコーポレイティド (79)
【Fターム(参考)】