説明

タンパク質製造方法

【目的】無細胞タンパク質合成系において翻訳反応が長時間持続し、容量の大きい反応系にも適用可能な、合成効率の高いタンパク質合成方法を提供すること、さらに同一の容器内でタンパク質合成反応と精製を行う方法を提供すること、並びにこれらの方法を行うための装置を提供することを目的とする。
【解決手段】無細胞タンパク質合成系において、転写・翻訳または翻訳反応において消費される物質を含むゲルまたはゾルに、転写・翻訳反応または翻訳反応溶液を接触させてタンパク質合成を行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、無細胞タンパク質合成系を用いて目的タンパク質を製造する方法であって、転写・翻訳反応または翻訳反応(以下、これを「タンパク質合成反応」と称することがある)において消費される物質を含むゲルまたはゾルに、転写・翻訳反応または翻訳反応液を接触させてタンパク質合成を行うことを特徴とする方法、該方法を行うための試薬キット、および該方法を行うための装置などに関する。
【0002】
【従来の技術】
無細胞タンパク質合成反応において、タンパク質合成反応をバッチで行う場合、反応が途中で停止してしまい十分なタンパク質合成量が得られないという問題点があった。そこでSpirin等は、従来の方法で調製した無細胞タンパク質合成反応溶液に、原料であるアミノ酸とATP、GTPを限外ろ過膜を介して連続的に供給すること、および合成された目的タンパク質を反応溶液から除去することによって(連続式無細胞タンパク質合成反応)、反応時間を20時間以上にわたって持続させることに成功し、従来の20倍を越えるタンパク質合成収量を達成したと報告している(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
さらに、遠藤等は、生体抽出物を含む合成反応溶液(反応相)と基質・エネルギー源供給溶液(供給相)を両相の直接的な接触界面を介した自由核酸によって、供給相の基質・エネルギー源分子が反応相の翻訳反応系へ連続的に供給されると同時に、反応相で生じた副生成物を供給相へ希釈排除されることによって合成反応の持続時間を延長させ、このことによって合成反応の効率を高めることを原理とする拡散連続バッチ方式無細胞タンパク質合成方法を提案している(例えば、特許文献1)。この方法においては、反応相と供給相の接触界面が乱れないように両相を重層する必要があるため、操作が比較的難しいという特徴があった。また界面の面積が大きかったり、重層する溶液の量が多いと界面が形成されにくくなるため、少量の合成反応溶液を用いて微量のタンパク質合成を行う場合に特に適していた。さらに、タンパク合成反応によってできる合成反応阻害産物をタンパク合成体(ポリソーム)と分離することができないため、合成量が透析法などと比べて低いという欠点があった。
【0004】
【非特許文献1】
A. S. Spirin, et al., (1998), Science, 242, 1162-1164
【特許文献1】
WO2002/24939号公報
【0005】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明は、無細胞タンパク質合成系において翻訳反応が長時間持続し、かつ容量の大きい反応系にも適用可能な、合成効率の高い無細胞タンパク質合成方法を提供することを目的とする。さらに、転写・翻訳反応または翻訳反応と同一容器内で合成された目的タンパク質を分離精製する方法等を提供すること、該タンパク質合成反応を行うための試薬キット、並びに該タンパク質合成反応系を用いる目的タンパク質の製造装置を提供すること等を目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、転写・翻訳反応または翻訳反応において消費される物質を含むゲルまたはゾルに、転写・翻訳反応または翻訳反応液を接触させてタンパク質合成を行うことによれば、タンパク質合成反応が長時間持続し、かつ翻訳鋳型の約90%が翻訳されること、さらに、ゾルとしてゲルろ過剤を用いることによれば、該ゲルろ過剤により合成された目的タンパク質が分離精製されることを見出した。本発明はこられの知見に基づいて成し遂げられたものである。
【0007】
即ち、本発明によれば、
(1)無細胞タンパク質合成系を用いて目的タンパク質を製造する方法であって、転写・翻訳反応または翻訳反応において消費される物質を含むゲルまたはゾルに、転写・翻訳反応または翻訳反応液を接触させてタンパク質合成を行うことを特徴とする方法、
(2)ゲルまたはゾルに透析膜を介して転写・翻訳反応または翻訳反応において消費される物質が供給されることを特徴とする上記(1)に記載の方法、
(3)ゲルまたはゾルが、高分子物質を構成要素とするものであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の方法、
(4)高分子物質が、ゲルろ過剤であり、転写・翻訳反応または翻訳反応と同一容器内で、合成された目的タンパク質を分離精製することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法、
(5)高分子物質が、目的タンパク質またはその一部のポリペプチドと親和性を有するものであることを特徴とする上記(3)または(4)に記載の方法、
(6)ゲルが、アガロースを構成要素とするものであることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法、
(7)目的タンパク質が、水難溶性タンパク質であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法、
(8)無細胞タンパク質合成系の転写・翻訳反応または翻訳反応において消費される物質を含むゲルまたはゾル、
(9)少なくともゲルまたはゾルの構成要素と翻訳反応において消費される物質を含む水溶液を含むことを特徴とする無細胞タンパク質合成系において目的タンパク質を製造するための試薬キット、
(10)少なくとも無細胞タンパク質合成系の転写・翻訳反応または翻訳反応において消費される物質を含むゲルまたはゾルに、転写・翻訳反応または翻訳反応液を接触させてタンパク質合成を行う手段を有することを特徴とする無細胞タンパク質合成系を用いる目的タンパク質製造装置、
が提供される。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)無細胞タンパク質合成系
本発明は、無細胞タンパク質合成系を用いて目的タンパク質を製造する方法であって、転写・翻訳反応または翻訳反応において消費される物質を含むゲルまたはゾルに、転写・翻訳反応または翻訳反応液を接触させてタンパク質合成を行うことを特徴とする方法である。
【0009】
本発明において、無細胞タンパク質合成系とは、生細胞を用いずに、遺伝子にコードされた目的タンパク質を合成する方法をいう。具体的には、リボソームやtRNA等のタンパク質合成に必要な物質を含む水溶性成分を細胞から抽出し、これにさらに翻訳鋳型、RNAポリメラーゼ、転写・翻訳基質、エネルギー源等を添加して転写・翻訳反応または翻訳反応液(以下、これを「反応溶液」と称することがある)を調製し、これを人工の容器内で培養してタンパク質合成を行うものである。
【0010】
無細胞タンパク質合成系に用いられる細胞抽出液としては、大腸菌、植物種子の胚芽、ウサギ網状赤血球等の細胞から抽出されたものが挙げられる。細胞抽出液の調製方法としては、それ自体既知の方法を用いてもよいし、市販のものを用いることもできる。具体的には、大腸菌抽出液は、Pratt, J., et al., Transcription and Translation, Hames, 179-209, B. D. & Higgins, S. J. eds., IRL Press, Oxford(1984)に記載の方法等に準じて調製することができる。市販の無細胞タンパク質合成系または細胞抽出液としては、大腸菌由来のものは、E.coli S30 extract system(Promega社製)とRTS 500 Rapid Translation System(Roche社製)等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来のものはRabbit Reticulocyte Lysate Sytem(Promega社製)等、更にコムギ胚芽由来のものはPRO TEIOSTM(TOYOBO社製)等が挙げられる。このうち、植物種子の胚芽抽出液の系を用いることが好ましく、植物種子としては、コムギ、オオムギ、イネ等のイネ科の植物のものが好ましい。本発明の無細胞合成系においては、ポリリボソーム形成活性の高いタンパク質合成系が好ましいため、コムギ胚芽抽出液を用いたものが好適である。
【0011】
コムギ胚芽抽出液の作製法としては、例えばJohnston, F. B. et al., Nature, 179, 160-161(1957)、あるいはErickson, A. H. et al., (1996) Meth. In Enzymol., 96, 38-50等に記載の方法を用いることができる。更に、該抽出液中に含まれる翻訳阻害因子、例えばトリチン、チオニン、核酸分解酵素等を含む胚乳を取り除く等の処理(特開2000−236896公報等)や、翻訳阻害因子の活性化を抑制する処理(特開平7−203984号公報)を行うことも好ましい。このようにして得られた細胞抽出液は、従来と同様の方法によりタンパク質合成系に用いることができる。
【0012】
反応溶液の組成としては、上記細胞抽出液、翻訳鋳型、基質となるアミノ酸、エネルギー源、各種イオン、緩衝液、ATP再生系、核酸分解酵素阻害剤、tRNA、還元剤、ポリエチレングリコール、3’,5’−cAMP、葉酸塩、抗菌剤等が含まれる。また翻訳鋳型としてDNAを用いる場合には、更に、転写反応に必要なRNA合成の基質、及びRNAポリメラーゼ等を含むことができる。これらは目的タンパク質や、用いるタンパク質合成系の種類によって適宜選択して調製される。基質となるアミノ酸は、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸で、0.05〜0.4 mMの範囲が適当である。またエネルギー源としては、ATP、またはGTPが挙げられ、ATPは1.0〜1.5 mM、GTPは0.2〜0.3 mM添加することが好ましい。各種イオン、及びその適当な反応溶液中の濃度としては、60〜120 mMの酢酸カリウム、1〜10mMの酢酸マグネシウム等が挙げられる。緩衝液としては、15〜35 mMのHepes−KOH、あるいは10〜50mMのTris−酢酸等が用いられる。またATP再生系としては、ホスホエノールピルベートとピルビン酸キナーゼの組み合わせ、または12〜20 mMのクレアチンリン酸(クレアチンホスフェート)と0.2〜1.6 μg/μlのクレアチンキナーゼの組み合わせが挙げられる。核酸分解酵素阻害剤としては、反応溶液1μlあたり0.3〜3.0 Uのリボヌクレアーゼインヒビターや、0.3〜3Uのヌクレアーゼインヒビター等が挙げられる。
【0013】
このうち、リボヌクレアーゼインヒビターの具体例としては、ヒト胎盤由来のRNase inhibitor(TOYOBO社製等)等が用いられる。tRNAは、Moniter, R., et al., Biochim. Biophys. Acta., 43, 1 (1960)等に記載の方法により取得することができるし、市販のものを用いることもできる。還元剤としては、0.1〜3.0 mMのジチオスレイトール等が挙げられる。抗菌剤としては、0.001〜0.01%のアジ化ナトリウム、又は0.1〜0.2 mg/mlのアンピシリン等が挙げられる。核酸安定化剤としては、0.3〜0.5 mMスペルミジン等が用いられる。更に、RNAポリメラーゼとしては翻訳鋳型に含まれるプロモーターに適したものが用いられる、具体的には、例えば、SP6 RNAポリメラーゼやT7 RNAポリメラーゼ等を用いることができる。これらの添加量は適宜選択されて合成反応液が調製される。
上記の反応溶液は、これを適当な容器内で適当な温度で適当時間培養することにより目的タンパク質合成反応が行われる。また、目的タンパク質とは、無細胞タンパク質合成系で合成され得るものであれば何れのものでもよいが、水難溶性タンパク質を用いると、これが水溶性となるため効果が高い。
【0014】
小麦胚芽抽出液を用いた場合、培養温度は10〜40℃、好ましくは15〜30℃、さらに好ましくは20〜26℃で行われる。反応時間はタンパク質合成が行われる限り特に制限はないが、本発明のように、転写・翻訳反応又は翻訳反応で消費される物質を供給する系を用いると24〜75時間反応が持続する。
【0015】
(2)供給物を含むゲルまたはゾルの調製
本発明においては、上記無細胞タンパク質合成を行う場合に、転写・翻訳反応または翻訳反応において消費される物質(以下、これを「供給物」と称することがある)を含むゲルまたはゾルに、転写・翻訳反応または翻訳反応液を接触させてタンパク質合成を行う。
【0016】
転写・翻訳反応または翻訳反応において消費される物質(供給物)とは、上記無細胞タンパク質合成反応において消費される全ての物質を意味するが、本発明のゲルまたはゾルはこの全てを含む必要はなく、それぞれの反応系に応じ適宜選択され得るもので、例えば、(1)に記載した反応溶液の組成として挙げたもの等である。ゲルまたはゾルに含まれる供給物の量としては、これを用いてタンパク質合成反応を行った際に、目的タンパク質合成反応を行うのに十分な量であればよい。例えば、ゲルまたはゾルを供給物を含む溶液(以下、これを「供給溶液」と称することがある)で平衡化して、供給物を含有させる場合、供給溶液としては、上記(1)の無細胞タンパク質合成系におけるタンパク質合成反応において消費される物質が、反応溶液とほぼ等濃度で含まれるものが用いられる。
【0017】
具体的には、無細胞タンパク質合成系におけるタンパク質合成反応が翻訳反応のみである場合、0.25〜0.35mMの20種類のL−アミノ酸、1.0〜1.5mMのATP、0.2〜0.3mMの GTP、60〜120 mMの酢酸カリウム、1〜10mMの酢酸マグネシウム、ホスホエノールピルベートとピルビン酸キナーゼ、または12.0〜20.0mMのクレアチンリン酸(クレアチンホスフェート)と0.2〜1.6μg/μlのクレアチンキナーゼ、0.3〜0.5mMのスペルミジン、0.1〜3.0mMのジチオスレイトール、供給溶液1μlあたり0.3〜3.0Uのリボヌクレアーゼインヒビターを含む15〜35mMのHepes−KOH、あるいは10〜50mMのTris−酢酸溶液等が挙げられる。
【0018】
本発明で用いられるゲルまたはゾルとは、上記供給物を含有でき、これと接触する反応溶液からタンパク質合成に必須の成分は流出しないが、供給物、合成された目的タンパク質、および分解物等が自由拡散し得て、かつ反応溶液と該ゲルまたはゾルに含まれる供給溶液が混合されて、反応溶液が薄まることがない界面を、反応溶液との間に形成し得る性質を有するものであれば如何なるものであってもよい。具体的には、高分子物質を構成要素とするものが挙げられる。ここで、ゲルとは、上記構成要素が独立した流動性を失って、集合して固化した状態のものをいい、ゾルとは、液体中に構成要素が分散して流動性を示す状態のものをいう。本発明で用いられるゲルの好ましい例としては、アガロース、またはアクリルアミド等を構成要素とするもの等が挙げられる。また、ゾルの好ましい例としては、ゲルろ過剤、磁性ビーズ等を構成要素とするもの等が挙げられる。
【0019】
供給物を含むゲルまたはゾルの調製方法としては、上記の性質を有し、かつその内部に上記(1)の無細胞タンパク質合成反応を行うに充分な量の供給物が含有される方法であれば特に制限はない。
以下に、ゲルの1例としてアガロースゲルを用いる場合を具体的に説明する。アガロースは、上記のタンパク質合成反応に影響を及ぼさない程度に精製されていて、下述する条件で無細胞タンパク質合成反応を行った際に溶解しない適度な強度を保ち得るものを選択して用いる。具体的には、Agarose S(ニッポンジーン社製)等が好ましく用いられる。アガロースゲルの調製方法としては、上記アガロースが重量%として0.1〜15%となるように水あるいは反応溶液に含まれる緩衝液に懸濁し、これを加熱してアガロースを溶解した後に冷却する方法等が用いられる。
【0020】
このように調製したアガロースゲルに、供給物を含有させる方法としては、該アガロースゲルを、下述する供給物を含有する溶液(以下、これを「供給溶液」と称することがある)に浸漬するか、または、上記のとおりアガロースを溶解した後に、適当な温度まで冷却し、これに濃縮供給溶液を添加してさらに冷却する方法等が挙げられる。ここで、適当な温度とは、用いるアガロースの凝固点以上で、かつ供給物が変性する温度未満である。具体的には、30〜50℃が好ましい。また、濃縮供給溶液とは、最終的に調製されたアガロースゲル中の供給溶液の濃度が下述のとおりになるように濃縮したものをいう。また、供給溶液にアガロースゲルを浸漬する場合には、浸漬する時間は供給物がアガロースゲルに十分に浸透する時間であれば特に制限はないが、1時間以上が好ましい。浸漬する際の温度は、供給物の活性を保つために低温、例えば4℃が好ましい。さらに、供給溶液に浸漬した後は、これを反応溶液と接触させる前に、接触表面に付着した供給液を除去することが好ましい。具体的な除去方法としては、アガロースゲルを共有溶液からピンセット等を用いて取り出し、該ゲルの反応溶液ろの接触表面を、紙などに接触させる方法等が挙げられる。
【0021】
供給物を含むアガロースゲルの調製は、タンパク質合成反応を行うための容器(以下、これを「反応容器」と称することがある)で行ってもよいし、適当な容器を用いてアガロースゲルを調製した後に、これを反応容器に合わせて適当に整形してもよい。調整するアガロースゲルの形状は、これを下述するように反応溶液と接触させた際に、反応溶液との間で反応溶液中のタンパク質合成に必須の物質は流出しないが、供給物質、合成された目的タンパク質、および分解物等の拡散が自由に行われるもので、かつ反応中にアガロースゲルが溶解しない程度の強度が保たれる形状であれば特に制限はない。好ましくは、反応溶液との接触面が広い形状が挙げられる。具体的には、反応容器中で固化させたものや、小粒状のもの、さらには反応溶液の底面の形状に合わせて整形したもの等が挙げられる。
【0022】
以下に、反応容器の具体例とともに、これに適した供給物を含有するアガロースゲルの調製方法の例を詳述する。反応容器としては、本発明の無細胞タンパク質合成反応が行われ得るものであれば如何なるものであってもよいが、具体的には、例えば、プラスチック製のチューブ、スピンカラム、マルチウェルプレート等が好ましく用いられる。
【0023】
プラスチック製のチューブとしては、何れの形状のものでもよいが、具体的には、1.5〜2ml容量のエッペンドルフチューブ、5〜50ml容量のプラスチックチューブ等が挙げられる。また、その底部に適当な孔径のフィルターを有するものも含む。適当な孔径とは、タンパク質合成反応に必要な物質が通過せず、かつ供給物、合成された目的タンパク質、および分解物等が自由に通過し得る範囲が好ましい。具体的には、0.1〜0.45μmの孔径を有するフィルターや限界分子量10kD〜300kDの透析膜等が用いられる。プラスチックチューブを用いる場合、供給物を含有するアガロースゲルとしては、上記した方法で該チューブ内で調製したものや、あるいは該チューブ内に投入した反応溶液に浸漬するように整形したもの等が好ましい。
【0024】
スピンカラムとは、底部に適当な孔径のフィルターを有しており、かつ遠心機により遠心操作が可能なものをいう。ここで、適当な孔径とは、合成された目的タンパク質が通過し得るが、ゲルおよびゾルの構成要素が通過しない孔径を意味する。具体的には、例えば0.1〜0.45μmのフィルターや、限界分子量10kD〜300kDの透析膜等を有するものが好ましい。容量としては、0.5〜10mlのものが好ましく用いられる。スピンカラムを用いる場合も、供給物を含有するアガロースゲルとしては、上記した方法で該チューブ内で調製したものや、あるいは該チューブ内に投入した反応溶液に浸漬するように整形したもの等が好ましい。供給物を含有させる方法も上記と同様である。また、スピンカラムの場合、アガロースゲルが入っている状態で遠心分離機にかけることがあるのでアガロースが0.1〜2%濃度のものを用いることが好ましい。
【0025】
本発明の方法に用いられるプラスチック製のマルチウェルプレートとしては、特に制限はないが、1ウェルが0.1〜50ml容量のもので、底部に0.22μm孔径のフィルターや限界分子量10kD〜300kDの透析膜等を有するものが好ましく用いられる。マルチウェルプレートを用いる場合も、供給物を含有するアガロースゲルとしては、上記した方法で該ウェル内で固化させたものや、あるいは該ウェル内に投入した反応溶液に浸漬するように整形したもの等が好ましい。供給物を含有させる方法も上記と同様にして行うことができる。
【0026】
さらに、ゾルの1例としてゲルろ過剤を用いる場合について具体的に説明する。ゲルろ過剤は、上記のタンパク質合成反応に影響を及ぼさない程度に精製されていて、非特異的な吸着性がなく、上記供給物を含有でき、供給物、合成された目的タンパク質、および分解物等が自由拡散し得るが、反応溶液と該ゾルに含まれる供給溶液が混合されて、反応溶液が薄まることがない界面を、反応溶液との間に形成し得る性質を有するものを選択して用いる。具体的なゲルろ過剤として、セファデックス(アマシャムバイオサイエンス社製)、セファクリル(アマシャムバイオサイエンス社製)、セファロース(アマシャムバイオサイエンス社製)等が挙げられる。このうちセファデックスG−25、G−50、セファクリルS300、セファロース4Bが好ましく用いられる。このうち、セファデックスG−50がさらに好ましく、セファデックスG−50Fineが特に好ましい。また、後述するとおり、目的タンパク質またはその一部のポリペプチドと親和性を有するゲルろ過剤を用いれば、合成された目的タンパク質を精製することもできる。
【0027】
ゲルろ過剤は、これを上記と同様の供給溶液で平衡化する。平衡化の方法は、選択したゲルろ過剤に応じて適宜調整する。ゲルろ過剤の平衡化は、反応容器中で行ってもよいし、適当な容器中で行った後にこれを反応容器へ移してもよい。ゾルを用いる場合には反応容器としては、カラムチューブ、スピンカラム、マルチウェルプレート等が好ましく用いられる。また、マルチウェルプレートについては、底部に上記と同様のフィルターや透析膜を有するものも用いることができる。
【0028】
(3)目的タンパク質合成反応
上記(2)に記載の供給物を含むゲルまたはゾルに転写・翻訳反応液または翻訳反応液を接触させて適当な温度で培養することにより目的タンパク質を合成することができる。転写・翻訳反応液または翻訳反応液とは、上記(1)に記載したものを用いることができる。該合成反応に用いられる反応溶液の量としては、特に制限はないが、通常10μl〜50ml、好ましくは100μl〜10mlである。このような反応溶液に接触させる上記ゲルまたはゾルの量は、反応溶液中のタンパク質合成が十分に行える程度に供給物を供給し得る量であればよい。具体的には、反応溶液が100μl〜1mlの時、容積として0.1〜10ml程度のゲルまたはゾルを用いることが好ましい。
【0029】
反応容器中での該ゲルおよびゾルと反応溶液との接触のさせ方は、該ゲルおよびゾル中の供給物が反応溶液中へ自由に拡散するに十分な接触面を有する方法であれば特に制限はない。ゲルとしてアガロースゲルを用いた場合で、アガロースゲルを反応溶液中で固化させて調製した場合、このアガロースゲルの上に反応溶液を載せる方法が好ましい。また、反応溶液に浸漬するように調製したアガロースゲルの場合には、反応容器に反応溶液とアガロースゲルを投入する方法が用いられる。このとき、投入する順番は特に制限はないが、アガロースゲルを投入した後に反応溶液を投入すると、アガロースゲルの投入の際に反応溶液の飛散等を考慮に入れずに操作することができる。タンパク質合成反応は、上記(1)のとおりである。また、タンパク質合成反応中に反応溶液が蒸発して濃縮されないように密閉手段を有するものが好ましい。
【0030】
さらに、ゾルの1例としてゲルろ過剤を用いた場合については、該反応容器に上記(2)に記載した供給液で平衡化したゲルろ過剤を投入した後に、この上部に反応溶液を重層する方法が好ましい。
上記のタンパク質合成反応において、反応容器として、上記した適当な孔径のフィルターや透析膜を底部に有するものを用いた場合には、このフィルターや透析膜を介して、さらに上記供給溶液を接触させるようにすることもできる。具体的には、例えば、マルチウェルプレートの底部に上記のフィルターがあるものを用いた場合、該ウェルの底部がつかる程度にさらに容器を設け、該容器中に供給溶液を入れたもの等が好ましい。
【0031】
(4)目的タンパク質の回収および精製
かくして合成された目的タンパク質は、これを反応溶液およびゲルまたゾル中から回収し、必要であれば適当な方法により精製することにより取得することができる。
【0032】
反応溶液およびゲルまたゾルからの目的タンパク質の回収は、それぞれの反応系により適宜選択して行うことができる。ゲルの1例としてアガロースゲルを用いたタンパク質合成反応を行った場合では、上記(3)に記載のとおりタンパク質合成反応を行った後、反応溶液を反応容器の底面あるいはアガロースゲルの上部からピペット等を用いて回収することができる。反応溶液を回収した後に、生化学的に用いられ得る緩衝液を該反応容器に適当量投入して、これをピペット等を用いて回収することによれば回収率を高めることができる。さらに、アガロースゲル中に含まれる目的タンパク質は、アガロースゲルを凍結融解し、これを遠心分離することにより回収することができる。遠心分離の方法としては、融解したアガロースゲルを適当な容器に入れ、これを3000〜10000rpmで遠心分離することが好ましい。ここで、容器として上記したスピンカラムを用いることによればさらに簡便に回収することができる。また、反応容器としてスピンカラムを用いた場合には、反応溶液とともにアガロースゲルを凍結融解し、これを上記と同様に遠心分離することによって目的タンパク質を回収することができる。
【0033】
ゾルの1例としてゲルろ過剤を用いたタンパク質合成を行った場合、反応終了後、該カラムに生化学的に用いられ得る緩衝液(以下、これを「溶出液」と称することがある)を投入して、該カラムから目的タンパク質を溶出することにより回収することができる。このような方法により目的タンパク質を回収すれば、タンパク質合成反応と同一容器内で、目的タンパク質を精製して取得することができる。
【0034】
具体的な溶出方法は、スピンカラムを用いた場合、アガロースゲルの場合と同様の遠心操作が好ましく用いられる。また、マルチウェルプレートを用いた場合には、ピペットなどにより上記溶出液を回収できる。さらには、反応容器として上記の底部にフィルターを有するマルチウェルプレートを用いた場合には、アガロースゲルの場合と同様の遠心操作や吸引操作によって上記溶出液を回収することができる。さらに、スピンカラムやマルチウェルプレートを用いた場合、溶出液を加えてゲルを懸濁した後に、上記のとおりそれぞれに適した方法で加えた該溶液を回収することにより回収率を上昇させることができる。
【0035】
用いられる溶出液としては、100mMのNaClを含む20mMリン酸緩衝液(PBS)、10〜500mMのNaClなどの塩類を含む10〜100mMのHepes−KOH、あるいは10〜100mMのTris−酢酸溶液等が挙げられる。また、リボソームが該溶出液により分解して目的タンパク質と分離できなくなることを防ぐ用途で、5〜20mMマグネシウムイオンを含む緩衝液等を用いることもできる。溶出時間および遠心操作等は、用いるゲルろ過剤や目的タンパク質により適宜選択して調整できる。
【0036】
回収された溶出液は、これを目的タンパク質に適した公知の方法により精製することができる。
ここで、ゾルとして目的タンパク質またはその部分ポリペプチドと親和性を有する高分子物質(以下、これを「アフィニティゲル担体」と称することがある)を用いることによれば、目的タンパク質をアフィニティクロマトグラフィにより精製することができる。用いられるアフィニティゲル担体および目的タンパク質との組み合わせとしては、目的タンパク質抗体を結合した抗体カラムと目的タンパク質、グルタチオンセファロースとグルタチオン−Sトランスフェラーゼと目的タンパク質との融合タンパク質、ニッケルカラムとHISタグを結合した目的タンパク質等が挙げられる。このようなアフィニティゲル担体を用いる場合、上記ゾルの全てが該担体で構成される必要はなく、上記(2)に記載のゲルろ過剤からなるゾルと混合して用いることもできる。混合の方法は、複数種のゾルを重層する方法や、複数の構成要素を混合して調整したゾルを用いる方法等が挙げられる。また、目的タンパク質と親和性を有する磁性ビーズを用いることによれば、目的タンパク質をそれぞれの磁性ビーズに適した公知の方法により精製することができる。
【0037】
かくして回収・精製された目的タンパク質は、それ自体既知の通常用いられる方法によって確認することができる。具体的には、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離し、これをクマシーブリリアントブルー(CBB)等により染色して、オートラジオグラフィ法等により確認することができる。
【0038】
(5)無細胞タンパク質合成用試薬キット
本発明においては、少なくとも、上記ゲルまたはゾルの構成要素と、翻訳反応において消費される物質を有する水溶液を含むことを特徴とする無細胞タンパク質合成系において目的タンパク質を製造するための試薬キットが提供される。該キットには、他に、無細胞タンパク質合成反応のための試薬、上記(1)に記載した反応溶液を作製するために必要な成分、RNAポリメラーゼ、陽性コントロール用翻訳鋳型核酸、翻訳鋳型を作製するためのベクター、バッファー類、反応容器等が含まれるが、これら全てを含む必要はなく、本発明の目的タンパク質の製造方法に用い得るキットであれば如何なる試薬および容器の組み合わせであってもよい。
【0039】
(6)無細胞タンパク質合成装置
本発明においては、少なくとも転写および/または翻訳反応において消費される物質を含むゲルまたはゾルに転写および翻訳反応液を接触させてタンパク質合成を行う手段を有することを特徴とする、無細胞タンパク質合成系において目的タンパク質を製造するための装置が提供される。該装置には、他に、翻訳鋳型の基となるDNAの調製手段、該DNAについて転写反応を行う手段、合成された目的タンパク質を回収および精製する手段、取得された目的タンパク質を確認するための手段等が含まれるが、これら全てを含む必要はなく、本発明の目的タンパク質の製造方法に用い得る装置であれば如何なる試薬の組み合わせであってもよい。
【0040】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1 ゲルろ過用担体を用いた目的タンパク質合成方法
(1)小麦胚芽抽出液および鋳型の調製
小麦胚芽抽出液は、Madin, K. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 97, 559-564(2000)に記載の方法に準じて調製した。鋳型は、pEUベクターに、SP6プロモーター、翻訳活性増強配列、GFPをコードするDNA配列を導入(WO2001/27260号公報)し、このプラスミドDNAを鋳型として、SP6 RNA Polymerase(Promega社製)を用いて転写を行い、得られたmRNAをエタノール沈殿によって精製して調製した。
【0041】
(2)ゾルの調製
セファデックス−G25、G50M、G50F、G50SF、セファクリル−S300、セファロース6Bゲル(アマシャムバイオサイエンス社製)は、純水3倍量に懸濁して静置し、上澄みを捨てて洗浄した後、さらに3倍量の供給液(30 mM HEPES-KOH、pH 7.6、100 mM酢酸カリウム、2.7 mM酢酸マグネシウム、0.4 mMスペルミジン、2.5 mMジチオスレイトール、20 種類のL-アミノ酸(各 0.3 mM)、1.2 mM ATP、0.25 mM GTP、16 mMクレアチンリン酸)に懸濁して、2回平衡化した。このゾル2 mlを内径7 mm、長さ10 cmのカラム(バイオラッド社製)に充填し、6 mlの上記供給液を加えて、液面がゲル表面に達するまで溶出した。
【0042】
(3)反応溶液の調製およびタンパク質合成反応
コムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成用の反応溶液は、容量の48%の上記(1)で調製したコムギ胚芽抽出液、30 mM HEPES-KOH、pH 7.6、100 mM酢酸カリウム、2.7 mM酢酸マグネシウム、0.4 mMスペルミジン、2.5 mMジチオスレイトール、20種類のL-アミノ酸(各 0.3 mM)、1.2 mM ATP、0.25 mM GTP、16 mMクレアチンリン酸、0.2 mg/mlクレアチンキナーゼ、800 units/ml ribonuclease inhibitor (RNasinTM、プロメガ社製)に、上述したmRNA (1 mg/ml反応容量) を調製して用いた。この反応溶液を上記(2)で調製したカラム内のゾル表面に静かにのせ、26℃で、48時間反応を行った。
【0043】
(4)タンパク質の回収
上記反応後、カラム先端を開け、反応溶液表面がゲル表面に達するまで溶出した。溶出用バッファ(PBS)4 mlをゲル表面が乱れないように添加して流し、50μlづつフラクションを取った。全てのフラクションの溶出液を、ネイティブ-ポリアクリルアミド電気泳動で分離し、CBB染色した後に、GFPにあたるバンドの濃さから反応溶液1ml当たりの合成量を定量した。
【0044】
(5)コントロール実験
上記(1)に記載の翻訳鋳型を含む反応溶液25μlと、供給液4mlを用い、WO2002/24939に記載のとおりの方法(重層法)でタンパク質合成を行った。また、Madin, K. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 97, 559-564(2000)に記載のとおりの方法(透析カップ法)で、同様の反応溶液25μlと、供給液125μlを用いてタンパク合成を行った。反応後、反応溶液をピペットで回収し、ネイティブ−ポリアクリルアミド電気泳動で分離し、CBB染色した後に、GFPにあたるバンドの濃さから反応溶液1ml当たりの合成量を定量し、上記(4)の実験結果と比較した。
【0045】
(6)目的タンパク質の合成量の比較結果
これらの結果から、G25、G50M、G50F、G50SF、S300、セファロース4Bを用いた系では、いずれも重層法より多くのGFPが合成されたことが分かった。3種のゲルの中ではG50Fでもっとも多量のGFPが合成された。このG50Fを用いたタンパク質合成量とコントロール実験の比較を図1に示す。図中、縦軸は目的タンパク質であるGFPの反応溶液1ml当たりの合成量を示す。図から明らかなように本発明の方法を用いることによれば、従来のカップ法、重層法に比べて多量のGFPが合成され、重層法の4倍量のタンパク質が得られ、透析カップ法の約1.2倍量のタンパク質が得られた。
【0046】
実施例2 アガロースゲルを用いたタンパク質合成法
(1)アガロースゲルの調製
(i)ミリQ水で懸濁した2%アガロースS(ニッポンジーン社製)を熱を加えて溶かし、5 mm 及び3 mmの厚さになるように滅菌シャーレに流して固めた。直径1cmおよび0.5cmの筒でこれらアガロースを抜き取って50ml容量のチューブ(ファルコン社製)に入れ、4倍濃縮の供給液(組成は実施例1(2)に記載の4倍)とミリQ水を加えて、総量で1×供給液になるようにメスアップした。このチューブを冷蔵庫内に一晩置き、アガロースゲルを供給液に平衡化した。
(ii)ミリQ水で懸濁した4%アガロースS(ニッポンジーン社製)を熱を加えて溶かし、30℃に冷ました。そこに、室温にした2倍濃縮した供給液(組成は実施例(2)に記載の2倍)を等量加えて混合し、素早く15 ml 容量のチューブ(ファルコン社製)に4 ml流し込んだ。
【0047】
(2)タンパク合成反応
24穴丸底ディープウェルプレート(ワットマン社製)の各ウェルに、上記実施例1(2)に記載のものと同様の反応溶液を100 μl、50 μl、30 μl入れ、上記(1)で作製した(i)のアガロースゲルを円形側面が丸底面に接するようにして(立てた状態で)それぞれの容量の反応溶液に浸した。ディープウェルプレートをシールで密閉して、26 ℃で24および48時間反応させた。アガロースゲルは、厚さ5 mm直径1 cm(アガロース大)、厚さ 5 mm直径0.5 mm(アガロース中)、厚さ 3 mm 直径5 mm(アガロース小) の3種を用いた。
また、上記(1)で作製した(ii)のチューブ中で固化させたアガロースゲルの上部に、反応液を100μl、および200 μlのせ、チューブにふたをして、26℃で24、48時間反応させた。反応終了後、反応溶液をピペットを用いて回収した。
【0048】
(3)目的タンパク質の合成量の比較結果
目的タンパク質(GFP)の合成量の測定は、実施例1(6)と同様に行った。上記(1)の(i)のアガロースゲルを用いたマルチプレートで行った合成反応では、反応液1μlあたりの合成GFP量は、反応液100 μlにアガロース大を浸漬させたもの、50 μlにアガロース中を浸漬させたもの、50 μlにアガロース大を浸漬させたものの順に多く、いずれも透析カップ法とほぼ同じ量が得られた。
また、上記(1)の(ii)で調製したアガロースゲルを用いたプラスチックチューブで行った合成反応では、反応液1μlあたりの合成GFP量は、反応液100 μlの方が200 μlの時より多く、また、いずれも従来の重層法での合成量よりより多かった。
【0049】
実施例3 水難溶性タンパク質の合成
(1)鋳型の調製
水難溶性タンパク質としては、上記した重層法等で合成した場合に不溶性となるPK7タンパク質(株式会社ヘリックス研究所 クローンNo.NT2RP2001529-1_1)を用いた。PK7のORF断片(配列番号1)を、5’側のプライマー(配列番号2)と、3’側のプライマー(配列番号3)を用いてPCR法によって取得した。
【0050】
これを、SP6プロモーターを含む翻訳制御領域−グルタチオン−S−トランスフェラーゼ遺伝子−PreSsion Protease(アマシャムファルマシアバイオテク社製)切断サイト−DNAクローニングサイト(SmaI,SfiI)−ポリAシグナル配列を有するベクター(pEU−SS4)のクローニングサイトに挿入した。
上記で調製されたプラスミドDNAを鋳型として、SP6 RNA Polymerase(Promega社製)を用いて転写を行い、得られたRNAをエタノール沈殿によって精製した。
【0051】
(2)ゾルの調製およびタンパク質合成反応
実施例1(2)と同様にしてセファデックス−G50F(アマシャムバイオサイエンス社製)を供給溶液により平衡化し、このゾル2mlを内径7mm、長さ10cmのカラム(バイオラッド社製)に充填し、66mlの上記供給溶液を加えて、液面がゲル表面に達するまで溶出した。コムギ胚芽抽出液を用いた無細胞タンパク質合成用の反応溶液は、48%の上記実施例1(1)で調製したコムギ胚芽抽出液、30 mM HEPES-KOH、pH 7.6、100 mM酢酸カリウム、2.7 mM酢酸マグネシウム、0.4 mMスペルミジン、2.5 mMジチオスレイトール、20種類のL-アミノ酸(各 0.3 mM)、1.2 mM ATP、0.25 mM GTP、16 mMクレアチンリン酸、0.2 mg/mlクレアチンキナーゼ、800 units/ml ribonuclease inhibitor (RNasinTM、プロメガ社製)に、上述したmRNA (1 mg/ml反応容量) を添加したものを用いた。上記反応溶液をカラム内のゾル表面に静かにのせ、26℃で、48時間反応を行った。上記反応後、カラム先端を開け、反応溶液表面がゲル表面に達するまで溶出した。溶出用バッファ(PBS)4 mlをゲル表面が乱れないように添加して流し、50μlずつフラクションを取った。このうちフラクション15〜25から30μl分を集め、これを15,000rpmで遠心し、上清を取得した。また沈殿には、上清と同量のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動用バッファーを加えてボイルした。これらのうち、それぞれ20μlをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、CBB染色した後に、PK7にあたるバンドの濃さから合成量を定量した。また、遠心分離しないものも同様にして定量した。さらに、同様のタンパク質の合成を実施例1に記載の方法と同様の透析カップ法および重層法を用いて行い、得られた反応溶液をピペットで回収し、このうち30μlを遠心してそれぞれ1/30分についてSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、CBB染色した後に、PK7にあたるバンドの濃さから合成量を定量した。この結果を図2に示す。
【0052】
図中、Tは遠心分離していないものに、Sは上清に、さらにPは沈殿中に含まれるタンパク質量を示す。図から明らかなように、透析カップ法で、沈殿中に存在したPK7が、本発明の方法では見られない。
【0053】
(3)合成タンパク質量の比較結果
上記(2)に記載のとおりに回収された各溶出液フラクションを1μlずつ集めたもの、透析カップ法および重層法から回収した反応溶液1μlについて、抗GST抗体(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いたELISA法により含有される目的タンパク質(PK7−GST)量を測定した。この結果を図3に示す。図中、縦軸は抗GST抗体に反応した目的タンパク質の量を示す。この測定法により測定されるタンパク質は、全て可溶化されているものである。図から明らかなように、透析カップ法により合成された場合、沈殿に多く含まれていた水難溶性のタンパク質は、本発明の方法により可溶化された状態で最も多く合成されることがわかった。
【0054】
【発明の効果】
本発明によれば、無細胞タンパク質合成系において翻訳反応が長時間持続し、かつ容量の大きい反応系にも適用可能な合成効率の高い無細胞タンパク質合成方法が提供される。さらに、本発明によれば、転写・翻訳反応または翻訳反応と同一容器内で合成されたタンパク質を分離精製する方法、該タンパク質合成反応を行うための試薬キット、並びに該タンパク質合成反応によるタンパク質の製造装置等も作製することが可能である。また、本発明のうち、ゾルとしてゲルろ過剤を用いて行う目的タンパク質合成方法によれば、ゾル側へ合成されるタンパク質が拡散するために、通常の無細胞タンパク質合成方法で合成すると不溶性となるような水難溶性タンパク質が、溶解された状態で取得することができた。
【0055】
【配列表】








【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法、透析カップ法、および重層法で合成されたGFPタンパク質の量をしめすグラフである。
【図2】本発明の方法、および透析カップ法で合成されたPK7−GSTタンパク質を示す電気泳動写真である。
【図3】本発明の方法、透析カップ法、および重層法で合成された可溶化PK7−GSTタンパク質の量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無細胞タンパク質合成系を用いて目的タンパク質を製造する方法であって、転写・翻訳反応または翻訳反応において消費される物質を含むゲルまたはゾルに、転写・翻訳反応または翻訳反応液を接触させてタンパク質合成を行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
ゲルまたはゾルに、透析膜を介して転写・翻訳反応または翻訳反応において消費される物質が供給されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ゲルまたはゾルが、高分子物質を構成要素とするものであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
高分子物質が、ゲルろ過剤であり、転写・翻訳反応または翻訳反応と同一容器内で、合成された目的タンパク質を分離精製することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
高分子物質が、目的タンパク質またはその一部のポリペプチドと親和性を有するものであることを特徴とする請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
ゲルが、アガロースを構成要素とするものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
目的タンパク質が、水難溶性タンパク質であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
無細胞タンパク質合成系の転写・翻訳反応または翻訳反応において消費される物質を含むゲルまたはゾル。
【請求項9】
少なくともゲルまたはゾルの構成要素と翻訳反応において消費される物質を含む水溶液を含むことを特徴とする無細胞タンパク質合成系において目的タンパク質を製造するための試薬キット。
【請求項10】
少なくとも無細胞タンパク質合成系の転写・翻訳反応または翻訳反応において消費される物質を含むゲルまたはゾルに、転写・翻訳反応または翻訳反応液を接触させてタンパク質合成を行う手段を有することを特徴とする無細胞タンパク質合成系を用いる目的タンパク質製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−129702(P2006−129702A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−354062(P2002−354062)
【出願日】平成14年12月5日(2002.12.5)
【出願人】(502262469)ゾイジーン株式会社 (8)
【Fターム(参考)】