説明

タービン動翼の連結構造およびタービン動翼の連結方法

【課題】手間やコストを掛けることなく、疲労強度を向上させるタービン動翼の連結構造を提供する。
【解決手段】根元部12の周方向一側面14は粗面であり、他側面15は滑面である。一の動翼10について、根元部12と植込み部21とを連結する。次の動翼の粗面14が設置済みの動翼の滑面15に対向するように、次の動翼10について、根元部12と植込み部21とを連結する。次の動翼10を周方向に移動させて、設置済みの動翼の滑面15と次の動翼10の粗面14を接触させる。この移動の際に用いる動力を用いて、更に周方向に荷重を付加する。これにより、粗面14は押し均らされて塑性変形し、加工硬化され、残留応力を付与される。更に、次の動翼10を連結し、移動し、周方向の荷重を付加する。一連の手順を繰り返し、複数の動翼10をタービンロータ20周方向に配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンなどのタービン動翼の連結構造に係わり、特に、鞍型形状をした動翼根元部と植込み部との連結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タービンの動翼とタービンロータ外周とを連結する構造として、鞍型連結構造がある(例えば、特許文献1)。鞍型形状をした動翼根元部の凹部とタービンロータのディスク外周に設けられた植込み部の凸部とが嵌合することにより、連結構造が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−303603号公報-
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タービン動翼は、火力や原子力発電所で使用する蒸気タービンなどに用いられる。タービンロータの回転及び蒸気負荷に伴い、動翼根元部には繰返し応力が作用する。例えば、回転時に遠心力が作用し、回転終了時には遠心力の作用は解除される。これにより動翼根元部(特に凹部)に亀裂が入るおそれがある。したがって疲労強度を向上させることが望ましい。
【0005】
ところで、疲労強度を向上させる従来技術として、ショットピーニング加工やバニシング加工がある。ショットピーニング加工は、金属性の被加工物表面に粒状投射材を投射して圧縮残留応力を高めて疲労強度を向上させる。また、バニシング加工は、金属性の被加工物の表面を転圧することで、塑性変形させて、表面を鏡状に仕上げると共に、加工硬化及び残留圧縮応力を付与し、疲労強度を向上させる。
【0006】
しかし、このような加工をおこなうと、手間やコストが掛かる。
【0007】
本発明の目的は、手間やコストを掛けることなく、疲労強度を向上させるタービン動翼の連結構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、タービンロータのディスク外周部に設けられた植込み部と、動翼の根元に設けられた鞍型根元部とからなり、鞍型根元部が植込み部に係合することにより動翼をタービンロータに連結し、この連結を繰り返して複数の動翼を周方向に配置するタービン動翼の連結構造において、前記鞍型根元部の周方向の一側面は粗面であり、他側面は滑面であり、前記鞍型根元部の粗面とこれに隣り合う鞍型根元部の滑面が接触するとともに、周方向の荷重付加により前記鞍型根元部の粗面は塑性変形状態にある。
【0009】
(2)上記目的を達成するために、本発明は、タービン動翼の連結方法であって、動翼の根元に設けられた鞍型根元部の周方向の一側面は粗面であり、他側面は滑面であって、タービンロータのディスク外周部に設けられた植込み部に、前記鞍型根元部を係合し、一の動翼をタービンロータに連結する第1連結ステップと、次の動翼の鞍型根元部粗面が、前記一の動翼の鞍型根元部滑面に対向するように、次の動翼をタービンロータに連結する第2連結ステップと、次の動翼を周方向に移動させて前記滑面と前記粗面を接触させ、さらに、周方向に荷重を付加することにより、前記鞍型根元部の粗面を塑性変形させる側面接触ステップと、前記各ステップを繰返すことにより、複数の動翼を周方向に配置する配置ステップとを備える。
【0010】
(3)上記目的を達成するために、本発明は、タービン動翼の連結方法であって、動翼の根元に設けられた鞍型根元部の周方向の一側面は粗面であり、他側面は滑面であって、タービンロータのディスク外周部に設けられた植込み部に、前記鞍型根元部を係合し、一の動翼をタービンロータに連結する第1連結ステップと、次の動翼の鞍型根元部滑面が、前記一の動翼の鞍型根元部粗面に対向するように、次の動翼をタービンロータに連結する第2連結ステップと、
次の動翼を周方向に移動させて前記粗面と前記滑面を接触させ、さらに、周方向に荷重を付加することにより、前記鞍型根元部の粗面を塑性変形させる側面接触ステップと、前記各ステップを繰返すことにより、複数の動翼を周方向に配置する配置ステップとを備える。
【0011】
このように粗面が塑性変形して、加工硬化され、残留応力を付与されることにより、疲労強度を向上させることができる。
【0012】
この塑性変形は、連結構造組み立ての一連の手順のなかで、動翼移動の際に用いる動力を用いて、周方向に荷重を付加することによるものであり、別途、ショットピーニング加工やバニシング加工をするなど、手間やコストがほとんど掛からない。
【0013】
なお、粗面を滑面に押し付けても、滑面を粗面に押し付けても、同様な効果が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、連結構造組み立ての一連の手順のなかで、粗面を塑性変形させることで、手間やコストを掛けることなく、疲労強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】タービン動翼の連結構造の概略を示す斜視図である。
【図2】主要部である鞍型根元部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
【0017】
〜構成〜
図1はタービン動翼の連結構造の概略を示す斜視図である。図2は主要部である鞍型根元部の斜視図である。
【0018】
連結構造は、動翼10とタービンロータ20外周とを連結するものである。タービンロータのディスク20外周には植込み部21が設けられ、植込み部21には複数の凸部22が設けられている。動翼10の頂部にはシェラウド11が設けられ、動翼の根元部には鞍型形状の根元部12が設けられている。根元部12の鞍型内側には複数の凹部13が設けられている。凸部22が凹部13に嵌合することにより、根元部12と植込み部21とが連結し、動翼10とタービンロータ20とが連結する。
【0019】
動翼10は、タービンロータ20の周方向に複数配置される。一の動翼の根元部12の周方向側面14と、これに隣り合う動翼の根元部12の周方向側面15とが接触している。なお、動翼頂部において、隣り合うシャラウド11同士が噛みあうことにより連続している。
【0020】
本実施形態の特徴的構成に付いて説明する。根元部12の周方向一側面14は粗面加工されており、周方向他側面15は滑面加工されている。粗面14と滑面15が接触するとともに、周方向の荷重付加により粗面15は塑性変形状態にある(連結方法にて詳述)。
【0021】
〜連結方法〜
連結構造の組み立て方法について説明する。
【0022】
予め、根元部12の周方向一側面14に簡単な粗面加工をしておき、周方向他側面15に滑面加工をしておく。
【0023】
一の動翼10について、凹部13を凸部22に嵌合させ、根元部12と植込み部21とを連結する。次の動翼の粗面14が設置済みの動翼の滑面15に対向するように、次の動翼10について、根元部12と植込み部21とを連結する。
【0024】
ここで、動翼10は径方向にタービンロータ20に拘束されるが周方向には移動可能である。次の動翼10を周方向に移動させて、設置済みの動翼の滑面15と次の動翼10の粗面14を接触させる。
【0025】
この移動の際に用いる動力を用いて、更に周方向に荷重を付加する。
【0026】
ところで、粗面14を詳細にみると、粗面14は粗面凸部16(詳細図示省略)と粗面凹部17(詳細図示省略)から形成されている。また、根元部12は金属であり弾性であり、粗面凸部16も弾性である。荷重付加の際、粗面凸部16は、滑面15からの反力により、始めは弾性変形するが、降伏した後、塑性変形する。これにより、粗面14は押し均らされ、加工硬化され、残留応力を付与される。
【0027】
更に、次の動翼10を連結し、移動し、周方向の荷重を付加する。一連の手順を繰り返し、複数の動翼10をタービンロータ20周方向に配置する。
【0028】
〜効果〜
上記のように、粗面14は押し均らされ、加工硬化され、残留応力を付与されることにより、疲労強度を向上させることができる。
【0029】
従来、根元部12(特に凹部13)には繰り返し応力が作用し、亀裂が入るおそれがあった。本実施形態では、疲労強度を向上させることにより、亀裂の発生を防止できる。
【0030】
また、従来からあるショットピーニング加工やバニシング加工によっても、疲労強度を向上させることができるが、手間やコストが掛かる課題があった。
【0031】
本実施形態では、上記のように、連結構造組み立ての一連の手順のなかで、動翼移動の際に用いる動力を用いて、更に周方向に荷重を付加し、疲労強度を向上させるため、別途、疲労強度を向上させる加工をおこなう必要がなく、手間やコストがほとんど掛からない。
【0032】
なお、本実施形態における粗面加工や滑面加工は、ショットピーニング加工やバニシング加工に比べて、簡単な表面加工であり、上記効果を損なうものではない。
【0033】
〜変形例〜
本実施形態では、次の動翼の粗面14を設置済みの動翼の滑面15に押し付けたが、次の動翼の滑面15を設置済みの動翼の粗面14に押し付けても、同様な効果が得られる。
【符号の説明】
【0034】
10 動翼
11 シェラウド
12 根元部(鞍型)
13 凹部
14 周方向側面(粗面)
15 周方向側面(滑面)
16 粗面凸部
17 粗面凹部
20 タービンロータ
21 植込み部
22 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンロータのディスク外周部に設けられた植込み部と、動翼の根元に設けられた鞍型根元部とからなり、鞍型根元部が植込み部に係合することにより動翼をタービンロータに連結し、この連結を繰り返して複数の動翼を周方向に配置するタービン動翼の連結構造において、
前記鞍型根元部の周方向の一側面は粗面であり、他側面は滑面であり、
前記鞍型根元部の粗面とこれに隣り合う鞍型根元部の滑面が接触するとともに、周方向の荷重付加により前記鞍型根元部の粗面は塑性変形状態にある
ことを特徴とするタービン動翼の連結構造。
【請求項2】
タービン動翼の連結方法であって、
動翼の根元に設けられた鞍型根元部の周方向の一側面は粗面であり、他側面は滑面であって、
タービンロータのディスク外周部に設けられた植込み部に、前記鞍型根元部を係合し、一の動翼をタービンロータに連結する第1連結ステップと、
次の動翼の鞍型根元部粗面が、前記一の動翼の鞍型根元部滑面に対向するように、次の動翼をタービンロータに連結する第2連結ステップと、
次の動翼を周方向に移動させて前記滑面と前記粗面を接触させ、さらに、周方向に荷重を付加することにより、前記鞍型根元部の粗面を塑性変形させる側面接触ステップと、
前記各ステップを繰返すことにより、複数の動翼を周方向に配置する配置ステップと
を備えることを特徴とするタービン動翼の連結方法。
【請求項3】
タービン動翼の連結方法であって、
動翼の根元に設けられた鞍型根元部の周方向の一側面は粗面であり、他側面は滑面であって、
タービンロータのディスク外周部に設けられた植込み部に、前記鞍型根元部を係合し、一の動翼をタービンロータに連結する第1連結ステップと、
次の動翼の鞍型根元部滑面が、前記一の動翼の鞍型根元部粗面に対向するように、次の動翼をタービンロータに連結する第2連結ステップと、
次の動翼を周方向に移動させて前記粗面と前記滑面を接触させ、さらに、周方向に荷重を付加することにより、前記鞍型根元部の粗面を塑性変形させる側面接触ステップと、
前記各ステップを繰返すことにより、複数の動翼を周方向に配置する配置ステップと
を備えることを特徴とするタービン動翼の連結方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−19395(P2013−19395A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155456(P2011−155456)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】