説明

タール分解システムの立ち下げ方法およびタール分解システム

【課題】タール分解システムの立ち下り時に触媒を酸化処理することで、触媒の酸化による燃焼反応を無くし、さらに簡易な設備構成で酸化処理を行なえるタール分解システムの立ち下げ方法を提供することにある。
【解決手段】ガス化ガス中に含まれるタール分を分解する触媒層を備えた反応器2aを有するタール分解システム2の立ち下げ方法であって、触媒層を不活性ガス雰囲気の状態で当該触媒層を冷却し、当該触媒を酸化処理して立ち下げることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス化ガス中に含まれるタール分を分解する触媒層を備えた反応器を有するタール分解システムの立ち下げ方法に関する。また、そのタール分解システムに関する。
【背景技術】
【0002】
木屑や下水汚泥のような有機物を含む廃棄物(有機系廃棄物)やバイオマス燃料から高効率にエネルギー転換する技術として、ガス化技術が注目されている。ガス化することによって発生したガスを、ガスエンジンやガスタービンなどの内燃機関にて燃焼させることにより発電することが可能であり、その発電効率は燃料を直接燃焼して蒸気を発生させ、蒸気タービンにより発電するボイラ発電システムによるより高効率という特長を有する(特許文献1)。
【0003】
しかし、ガス化設備から発生した生成ガスはダスト、タール、その他の有害な腐食性物質・汚染物質が含まれており、そのままガスエンジン等の発電設備に投入すると、燃焼設備、配管類、ノズル、その他に詰まりや腐食などの問題が生じる。
【0004】
そこで、ガス化設備から発生したガス化ガスは、無害化処理される必要がある。すなわち、特許文献1の図2に示すように、ガス化設備1から生成されたガス化ガスは高温集塵設備2にて集塵処理され、ガス化ガス中のダストが除去された後、タール分解触媒層3aを備えた反応器であるタール分解設備3に導入されて、ガス化ガス中のタール分が分解され、その後ガス化ガスはガス冷却設備4にて冷却され、低温集塵設備(図示略)などに送られて、更に無害化される(例えば、特許文献1)。
【0005】
また、ガス化設備によるガス化処理を終了した際、空気が流入するため、触媒成分である還元状態のニッケルや触媒表面に析出している炭素(一般に、使用に伴い触媒表面に炭素が析出する)が燃焼して温度上昇し、その結果、触媒の劣化が進行したり、タール分解設備の内部構造を損傷したりすることがある。そこで、ガス化処理の立ち下げ時に、タール分解設備の反応器中の触媒を反応器から排出し、この排出された触媒を無酸化雰囲気にする構成が知られている(特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平11−21566号公報
【特許文献2】特開2007−99927号公報(請求項5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献2のタール分解システムでは、その運転停止時に、触媒を反応器から排出し、無酸化状態に保存しておく構成であるため、触媒排出機構、触媒を再び反応器に充填する手段を必要とし、装置構成が複雑である。また、システム稼動時に触媒を充填する必要があるため、そのための作業が必要となっており、システム稼動するまでの準備時間を必要としていた。
【0008】
また、従来から触媒としてNiなどの金属系触媒が用いられている。このNiなどの金属系触媒は、その触媒作用中は還元域で使用される。ところが、ガス化処理を終了した際(あるいは、立ち下げとも称する)に、触媒が還元状態のままで冷却されると、再度システムを立ち上げる際に、不活性ガス中にて昇温する必要があり、そのため従来では外熱式反応器(例えば、バーナー等)や不活性ガス加熱用の熱交換器等で触媒を昇温させていた。
【0009】
また、従来のように触媒を還元状態で保管している場合に、何らかの原因で触媒が大気と触れて酸化が始まると自己発熱により、一気に燃焼反応が進み、触媒が熱的劣化し、さらに設備の火災などの原因となるため、不活性ガス中にて保管する必要があった。
【0010】
そこで、本発明は、上記従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、タール分解システムの立ち下り時に触媒を酸化処理することで、触媒の酸化による燃焼反応を無くし、さらに簡易な設備構成で酸化処理を行なえるタール分解システムの立ち下げ方法を提供することにある。また、そのタール分解システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、各請求項記載の発明により達成される。すなわち、本発明に係るタール分解システムの立ち下げ方法は、ガス化ガス中に含まれるタール分を分解する触媒層を備えた反応器を有するタール分解システムの立ち下げ方法であって、
前記触媒層を不活性ガス雰囲気の状態で当該触媒層を冷却し、当該触媒を酸化処理して立ち下げることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、触媒層を不活性ガス雰囲気の状態で当該触媒層を冷却し、当該触媒を酸化処理して立ち下げることができる。よって、従来のように触媒を反応器から排出・再充填する機構を必要とせず、装置構成を簡単にできる。また、不活性ガス雰囲気状態で触媒層を冷却してから、還元状態の金属系触媒を好適に酸化処理(燃焼反応処理)することができ、触媒の劣化を抑制して立ち下げを行なえる。また、酸化処理された金属系触媒を、不活性ガス雰囲気環境で保存する必要がなく、そのまま保管できるため、従来のように大気と接触することによる燃焼反応を防止でき、これによる設備火災も生じない。また、従来のように不活性ガス中にて昇温する必要がなくなり、再立ち上げ時に、燃焼ガスや、バーナーの顕熱による昇温が可能になる。
【0013】
また、上記本発明において、前記反応器の触媒層に供給される不活性ガスは、不活性ガスを冷却する冷却手段を介して前記反応器に循環されることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、反応器の触媒層に供給される不活性ガスは、不活性ガスを冷却する冷却手段を介して反応器に循環されるため、不活性ガスを効率よく利用でき、不活性ガスの使用コストを低減できる。冷却手段によって、不活性ガスは冷却され、除湿される。
【0015】
また、上記本発明において、前記不活性ガスの水分濃度を5%以下にすることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、不活性ガスの水分濃度を5%以下にできるので、水分による触媒の水和によるシンタリング劣化(凝集による劣化)を抑えることができるので好ましい。不活性ガスを上述のように冷却手段で冷却し、除湿することで、不活性ガスの水分濃度を5%以下にできる。
【0017】
不活性ガスとしては、例えば、燃焼排ガス、N2、CO2ガス等が挙げられる。燃焼排ガスとしては、例えば、ガス化設備で燃料を燃焼させた場合の燃焼排ガス、ガス利用設備から排出された燃焼排ガス等が挙げられる。また、触媒としては、金属系触媒が例示され、例えば、ニッケル系金属触媒または、ニッケル、マグネシアおよびカルシアを含む複合酸化物の改質触媒等が挙げられる。
【0018】
また、上記本発明において、前記触媒層を不活性ガス雰囲気の状態で当該触媒層を、700℃以下に冷却することを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、金属系触媒を700℃以下に冷却してから酸化処理(燃焼反応処理)することで、金属系触媒の熱的劣化を防止することができる。また、金属系触媒の温度を500℃以上〜700℃以下の範囲まで冷却することが好ましい。
【0020】
また、上記本発明において、前記触媒の酸化処理として、酸素濃度が1%以下の触媒酸化用ガスを用いて当該触媒の酸化処理を行うことを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、酸素濃度が1%以下の触媒酸化用ガスを用いて触媒の酸化処理を行えるので、燃焼反応を一気に行なわないように制御できる。酸素濃度が1%を越える場合、触媒の不活性ガスによる除熱よりも、大きな酸化熱が発生し、触媒が熱的劣化を起こすので好ましくない。触媒酸化用ガスとしては、例えば、大気、酸素、高濃度酸素ガス等が挙げられる。
【0022】
また、上記本発明において、前記触媒の酸化処理に際し、前記触媒層の温度が800℃を超えないように酸化処理することを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、触媒の酸化処理に際し、触媒層の温度が800℃を超えないように酸化処理を制御できる。触媒層の温度が800℃を超えると触媒の熱的劣化が激しくなるので好ましくない。また、触媒層の温度を800℃よりも低温の500℃以上〜700℃以下に抑えるように酸化処理を制御することが好ましい。触媒層の温度制御は、低温の不活性ガスの提供によって行なわれる。また、触媒層の温度が500℃未満の場合には、触媒が十分に酸化されないため好ましくない。
【0024】
また、他の本発明のタール分解システムは、
ガス化ガス中に含まれるタール分を分解する触媒層を備えた反応器を有するタール分解システムであって、
前記触媒層に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、
前記触媒層に当該触媒を酸化するための触媒酸化処理用ガスを供給する触媒酸化用ガス供給手段と、
前記触媒層の温度を測定する温度測定手段と、
前記触媒酸化用ガス供給手段によって供給される触媒酸化用ガスの酸素濃度を測定する酸素濃度測定手段と、
タール分解システムの立ち下げに際し、前記不活性ガス供給手段による不活性ガスの供給によって、前記触媒層を不活性ガス雰囲気とし、前記温度測定手段で測定された温度を700℃以下になるように温度制御し、次いで、前記触媒酸化用ガス供給手段によって触媒酸化用ガスを供給制御して、触媒を酸化処理する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記触媒の酸化処理に際し、当該触媒酸化用ガスの酸素濃度を前記酸素濃度測定手段で測定し1%以下になるように制御すると共に、前記温度測定手段で測定された温度を800℃を越えないように温度制御することを特徴とする。
【0025】
また、上記の本発明において、前記反応器の触媒層に供給される不活性ガスは、不活性ガスを冷却する冷却手段を介して前記反応器に循環されることを特徴とする。
【0026】
これらのタール分解システムの作用効果は上述した作用効果と同様である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明に係る一実施形態に係るタール分解システムの概略フローを示す。
【0028】
タール分解システム2は、流動層ガス化炉、循環流動層ガス化炉などのガス化設備1によって生成されたガス化ガス(約800〜900℃程度)中のタール成分を触媒によって処理する。タール分解システム2は、触媒層を有する反応器2aを備えている。この触媒としては、ニッケル系の金属触媒が好ましく、ニッケル、マグネシアおよびカルシアを含む複合酸化物の改質触媒がより好ましい。
【0029】
図1には図示していないが、ガス化設備1とタール分解システム2の間に、セラミックフィルターなどからなる高温集塵設備を介し、この高温集塵設備でガス化ガス中のダスト等を集塵・除去するように構成してもよい。
【0030】
タール分解システム2に導入されたガス化ガスは、触媒によってガス化ガス中のタールが分解される。その後、ガス化ガスは、ガス冷却設備40に送給され冷却されて、低温集塵設備(図示略)などに送られて、適宜、薬剤が投入され中和処理されて、無害化される。その後、ガス化ガスは、ガス利用設備3に送給され燃焼等に提供される。
【0031】
図1の実施形態において、ガス化設備1の稼動を停止し、タール分解システム2の立ち下り方法について説明する。図1のシステムは、不活性ガスとしてガス化設備1の燃焼排ガスを利用する構成である。
【0032】
(1)ガス化設備1のガス化運転を燃焼運転に切り換える。燃焼運転によりバイオマス燃料が完全燃焼された燃焼排ガスがガス化設備1から排出される。排出された燃焼排ガスは配管(不図示)を通り、タール分解システム2に流入し、次いで、ガス冷却設備40で冷却し、弁33を開け、弁32を閉じて、押込みファン50を稼動させ、冷却された燃焼排ガスを循環パスラインPに従ってタール分解システム2に循環させる。燃焼排ガスをガス冷却設備40で冷却しているため、反応器2aの触媒層の温度は低下される。燃焼排ガスが循環パスラインPに充填される量が確保されれば、ガス化設備1の燃焼運転を停止し、燃焼排ガスの排出を停止し、弁31を閉じることができる。また、他の実施形態として所定時間経過後にガス化設備1の燃焼運転を停止し、燃焼排ガスの排出を停止し、弁31を閉じることができる。また、他の実施形態として、温度測定器21で測定された触媒層の温度が低下し始めたらガス化設備1の燃焼運転を停止し、燃焼排ガスの排出を停止し、弁31を閉じることができる。また、他の実施形態として、燃焼排ガス中に酸素Oが発生したらガス化設備1の燃焼運転を停止し、燃焼排ガスの排出を停止し、弁31を閉じることができる。以上の一連の制御は、制御装置20によって実行されてもよい。
【0033】
(2)制御装置20は、温度測定器21から触媒層の温度を取得し、触媒層の温度が700℃以下あるいはよい好ましくは500℃以上〜700℃以下になった場合に、バルブ23を開けて大気(触媒酸化用ガスに相当する)を、循環パスラインPに流入する。大気の流入量は制御装置1によって制御される。例えば、酸素濃度測定器22を循環パスラインPに設置し、循環パスラインPを流れる大気および燃焼排ガス(以下で、循環ガスという)の酸素濃度を測定するように構成されている。酸素濃度測定器22によって測定された酸素濃度が循環ガスに対して1%以下になるように、制御装置1は大気の流入量を制御する。温度測定器21、酸素濃度測定器22は公知の測定器を用いることができる。
【0034】
(3)また、制御装置20は、酸素濃度が循環ガスに対して1%以下になるように大気の流入量を制御すると同時に、温度測定器21から触媒層の温度を取得し、当該温度が800℃を未満、より好ましくは700℃以下、さらに好ましくは500℃以上700℃以下の温度範囲になるように、ガス冷却設備40の冷却能力を制御する。また、ガス冷却設備40の冷却能力を制御する構成に加え、あるいは単独で、700℃以下の温度範囲を維持できるように、大気の流入量を制御することができる。
【0035】
(4)また、制御装置20は、ガス冷却設備40で冷却された燃焼排ガスあるいは循環ガスの水分を測定する水分測定器(不図示)によって測定された水分値を取得し、燃焼排ガスあるいは循環ガスの水分値が5%以下になるようにガス冷却設備40の冷却能力を制御する。
【0036】
(5)制御装置20は、触媒の酸化が完了したら、酸化処理を終了すべく、循環パスラインP中の循環ガスを不図示の排出経路から排出する。また、排出経路として、例えば、弁32を開け、ガス利用設備に排出するように構成してもよい。触媒の酸化の完了のタイミングとしては、測定された酸素濃度の低下量(酸素の消費)、触媒の温度上昇が無くなった時点を監視することで実現できる。
【0037】
上記実施形態において、温度測定器21(温度測定手段に相当する)は、触媒層中の温度を的確に把握するために、触媒層中または触媒層の下流側に設けられていてもよく、さらに複数個所の温度を測定できるように構成してもよい。また、温度測定器21は、接触式温度計でもよく非接触式温度計でもよい。
【0038】
また、不活性ガスと触媒酸化用ガスは同じ配管を用いて触媒層に供給されてもよく、それぞれ異なる配管で供給されてもよい。
【0039】
また、制御装置20(制御手段に相当する)は、情報処理装置、ファームウエアあるいは専用回路等で構成され、情報処理装置の場合、制御手順を記述したプログラムとそれを格納するメモリと演算部であるCPU、メインメモリ等のハードウエア資源との協働作用によって実現される。
【0040】
(別実施形態)
図2の実施形態のタール分解システム2の立ち下り方法は、不活性ガスとして窒素ガスを利用する構成である。
【0041】
(1)ガス化設備1のガス化運転を停止し、弁31を閉じる。制御装置20は窒素ガス用のバルブを開け、窒素ガスを循環パスラインPに流入させる。流入量は、循環パスラインPの配管、各種設備に流入して循環する程度の量が流入される。窒素ガスは、ガス冷却設備40の前段に流入されることが好ましいが、他の循環パスラインPの配管に流入されてもよい。窒素ガスの流入の前あるいは後に弁32が閉じられ、弁33が開けられる。押込みファンによって流入された窒素ガスが循環パスラインPを循環する。
【0042】
(2)制御装置20は、温度測定器21から触媒層の温度を取得し、触媒層の温度が700℃以下あるいはよい好ましくは500℃以上〜700℃以下になった場合に、バルブ23を開けて高濃度酸素ガス(触媒酸化用ガスに相当する)を、循環パスラインPに流入する。高濃度酸素ガスの流入量は制御装置1によって制御される。例えば、酸素濃度測定器22を循環パスラインPに設置し、循環パスラインPを流れる高濃度酸素ガスおよび窒素ガス(以下で、循環ガスという)の酸素濃度を測定するように構成されている。酸素濃度測定器22によって測定された酸素濃度が循環ガスに対して1%以下になるように、制御装置1は高濃度酸素ガスの流入量を制御する。温度測定器21、酸素濃度測定器22は公知の測定器を用いることができる。
【0043】
(3)また、制御装置20は、酸素濃度が循環ガスに対して1%以下になるように高濃度酸素ガスの流入量を制御すると同時に、温度測定器21から触媒層の温度を取得し、当該温度が800℃を未満、より好ましくは700℃未満、さらに好ましくは500℃以上700℃未満の温度範囲になるように、ガス冷却設備40の冷却能力を制御する。また、ガス冷却設備40の冷却能力を制御する構成に加え、あるいは単独で、700℃未満の温度範囲を維持できるように、高濃度酸素ガスの流入量を制御することができる。
【0044】
(4)また、制御装置20は、ガス冷却設備40で冷却された窒素ガスあるいは循環ガスの水分を測定する水分測定器(不図示)によって測定された水分値を取得し、窒素ガスあるいは循環ガスの水分値が5%以下になるようにガス冷却設備40の冷却能力を制御する。
【0045】
(5)制御装置20は、触媒の酸化が完了したら、酸化処理を終了すべく、循環パスラインP中の循環ガスを不図示の排出経路から排出する。
【0046】
(実験例1)
上記図2のシステムにおいて、酸素濃度の設定値を変動させた場合のニッケル系金属触媒の温度変化について評価した。冷却した窒素ガスを触媒層に流入して、その温度を600℃とした後、以下の条件で高濃度酸素ガスを流入した。循環ガスの酸素濃度を、循環ガスに対し0.8%(条件1)、1%(条件2)、1.2%(条件3)、2%(条件4)、3.5%(条件5)に変動させた場合の触媒の温度変化について評価したところ、条件1および2においては、触媒の温度変動を700℃以内に抑えつつ触媒の酸化処理を実行できた。一方、条件3、4、5の場合には、酸素濃度が高い条件ほど触媒の温度上昇が急激に起こり、触媒温度を800℃未満に制御することができなかった。
【0047】
また、上記条件において、触媒層の上層(循環ガス入口)と下層(出口)に温度測定器をそれぞれ設置した結果、触媒層上層に設置した温度測定器の測定結果のほうが、いずれの条件においても温度変動が激しい結果であった。
【0048】
(実験例2)
ガス化ガス中に晒して還元状態にあるニッケル触媒を窒素ガスでパージし、酸素濃度1%の条件で酸化処理した後の触媒活性K/K(酸化処理後の総括反応速度比(K)と使用前触媒の総括反応速度(K)の比)について評価した。窒素ガスの水分濃度と酸化処理温度を変えた場合について評価した。その結果、水分濃度0%の条件では、酸化処理中の触媒の温度が500℃以上700℃以下の温度範囲において、触媒活性K/Kは、0.9程度でありほとんど変化はなかった。水分濃度5%の条件では、酸化処理中の触媒の温度が500℃以上700℃以下の温度範囲において、触媒活性K/Kは、それぞれ0.85から0.75程度に減少した。また、水分濃度20%の条件では、酸化処理中の触媒の温度が500℃以上700℃以下の温度範囲において、触媒活性K/Kは、それぞれ0.75から0.6程度に減少した。以上の結果から、酸化処理温度が高く、パージする不活性ガス中の水分濃度が高いほど触媒活性が低下する傾向が見られた。これは高温域での熱的劣化と水蒸気によるシンタリング促進が原因であると考えられる。
【0049】
以上の実験例の結果から、触媒を1%以下の酸素濃度で酸化するとともに不活性ガスの水分濃度を5%以下にし、さらに高温域での酸化処理を避けることが重要であることが分かった。また、触媒を適切な条件で酸化処理することで触媒活性劣化を好適に抑制できることが分かった。
【0050】
(他の実施の形態)
(1)上記実施形態において、ガス化設備としては、ガス化溶融炉や炭化・乾留設備などであってもよく、特に限定されない。
(2)上記実施形態において、図1,2では温度測定器21を触媒層のガス流れ方向に対しほぼ中間位置に設けた例を示して説明したが、これに代えて温度測定器21を、触媒層の出口側に設けてもよい。もっとも、触媒層の中だけでなく触媒層の出口側にも温度測定器21を設けると、ガス化ガス中に含まれるエタンやエチレンなどの炭化水素ガスが触媒により吸熱反応で分解されて触媒温度の低下が生じた際に、触媒温度を高める処置をすることができて好ましい。
(3)本発明に適用できるガス化ガスとしては、各種有機系廃棄物の他、各種固形燃料、産業廃棄物などを燃焼して生成されたガス化ガスなどが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る一実施形態に係るタール分解システムを示す概略フロー図
【図2】本発明に係る一実施形態に係るタール分解システムを示す概略フロー図
【符号の説明】
【0052】
1 ガス化設備
2 タール分解システム
2a 反応器
3 ガス利用設備
20 制御装置
21 温度測定器
22 酸素濃度測定器
23 バルブ
31、32、33 弁
40 ガス冷却設備
50 押込みファン
P 循環パスライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス化ガス中に含まれるタール分を分解する触媒層を備えた反応器を有するタール分解システムの立ち下げ方法であって、
前記触媒層を不活性ガス雰囲気の状態で当該触媒層を冷却し、当該触媒を酸化処理して立ち下げることを特徴とするタール分解システムの立ち下げ方法。
【請求項2】
前記反応器の触媒層に供給される不活性ガスは、不活性ガスを冷却する冷却手段を介して前記反応器に循環されることを特徴とする請求項1に記載のタール分解システムの立ち下げ方法。
【請求項3】
前記触媒層を不活性ガス雰囲気の状態で当該触媒層を、700℃以下に冷却することを特徴とする請求項1または2に記載のタール分解システムの立ち下げ方法。
【請求項4】
前記触媒の酸化処理として、酸素濃度が1%以下の触媒酸化用ガスを用いて当該触媒の酸化処理を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のタール分解システムの立ち下げ方法。
【請求項5】
前記触媒の酸化処理に際し、前記触媒層の温度が800℃を超えないように酸化処理することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のタール分解システムの立ち下げ方法。
【請求項6】
前記不活性ガスの水分濃度を5%以下にすることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のタール分解システムの立ち下げ方法。
【請求項7】
ガス化ガス中に含まれるタール分を分解する触媒層を備えた反応器を有するタール分解システムであって、
前記触媒層に不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段と、
前記触媒層に当該触媒を酸化するための触媒酸化処理用ガスを供給する触媒酸化用ガス供給手段と、
前記触媒層の温度を測定する温度測定手段と、
前記触媒酸化用ガス供給手段によって供給される触媒酸化用ガスの酸素濃度を測定する酸素濃度測定手段と、
タール分解システムの立ち下げに際し、前記不活性ガス供給手段による不活性ガスの供給によって、前記触媒層を不活性ガス雰囲気とし、前記温度測定手段で測定された温度を700℃以下になるように温度制御し、次いで、前記触媒酸化用ガス供給手段によって触媒酸化用ガスを供給制御して、触媒を酸化処理する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記触媒の酸化処理に際し、当該触媒酸化用ガスの酸素濃度を前記酸素濃度測定手段で測定し1%以下になるように制御すると共に、前記温度測定手段で測定された温度を800℃を越えないように温度制御することを特徴とするタール分解システム。
【請求項8】
前記反応器の触媒層に供給される不活性ガスは、不活性ガスを冷却する冷却手段を介して前記反応器に循環されることを特徴とする請求項7に記載のタール分解システム。




【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−279473(P2009−279473A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131076(P2008−131076)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】